ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. MIKE - Showbiz! | マイク
  2. FESTIVAL FRUEZINHO 2025 ——トータス、石橋英子、ジョン・メデスキ&ビリー・マーティンらが出演する今年のFRUEに注目
  3. The Weather Station - Humanhood | ザ・ウェザー・ステーション
  4. Whatever the Weather - Whatever the Weather II | ホワットエヴァー・ザ・ウェザー
  5. 「土」の本
  6. caroline ——キャロラインが帰ってきた(どこかに行っていたわけじゃないけれど)
  7. interview with Roomies Roomiesなる東京のネオ・ソウル・バンドを紹介する | ルーミーズ
  8. Columns ♯12:ロバータ・フラックの歌  | Roberta Flack
  9. Damo Suzuki +1-A Düsseldorf ——ダモ鈴木+1-Aデュッセルドルフがついに発売
  10. story of CAN ——『すべての門は開かれている——カンの物語』刊行のお知らせ
  11. Oklou - choke enough | オーケールー
  12. Aphex Twin ──エイフェックス・ツインがブランド「Supreme」のためのプレイリストを公開
  13. 別冊ele-king ゲーム音楽の最前線
  14. すべての門は開かれている――カンの物語
  15. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第二回 ボブ・ディランは苦悩しない
  16. R.I.P. Roy Ayers 追悼:ロイ・エアーズ
  17. Columns ♯11:パンダ・ベアの新作を聴きながら、彼の功績を振り返ってみよう
  18. Soundwalk Collective & Patti Smith ──「MODE 2025」はパティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴのコラボレーション
  19. はじめての老い
  20. Mike - War in My Pen

Home >  Reviews >  Album Reviews > Illuha- Interstices

Illuha

AbstractAmbientField RecordingModern Classical

Illuha

Interstices

12k

iTunes

野田 努   Jul 19,2013 UP

 来週26日に書店に並ぶ『AMBIENT definitive 1958-2013』では、その年々にリリースされた代表作に選定された1枚だけが大きく扱われているのだが、2011年度のそれは、伊達伯欣の『Otoha』だ。同じく2011年には、伊達伯欣+コーリー・フラーによるイルハのデビュー・アルバム『Shizuku』も〈12k〉から出ているので、そちらにするべきだったかもしれないが、こういう選択は監修者(=三田格)に委ねられる。
 『Shizuku』は、リリース当時は欧米ではいきなり評判となった作品で、いまではダウンロードでしか聴けないのが残念と言えるほど、いわゆる非日常的なサイケデリックではない側のアンビエントとしての質が高い。『ミュージック・フォー・エアポーツ』が好きな人が好む作品だろう。まる1ヶ月、アンビエントを聴いて書くために部屋に籠もっていた三田格も舌を巻いたように、イルハは何か持っている。何を持っているのだろう......。僕が彼らの音楽に触れたのは、2012年4月21日の養源寺だったが、たしかに印象に残っている。最初の音が鳴ったその瞬間から、何の説明もなく、音は聴き手の気持ちを押し広げる。すると、イルハの音響を特徴付ける多彩な音の断片(ピアノ、チェロ、ギター、あるいは自然音や具体音等々)が、まさに音の「しずく」となって、いろんな角度から聴こえるのだ。

 『Shizuku』は、米国北部ベリングハムの古教会での録音を東京で編集した作品で、チェロの生演奏を活かし、モダン・クラシカルな感性が東洋的な間の宇宙に注がれている、最高に美しいアルバムだったが、それは「音楽が聴こえる」「音が鳴っている」というよりも、具体音やフィールド・レコーディングを効果的に使った、「音のしずくが舞っている」感じなのだ。『Interstices』には、僕が本堂の畳の上で聴いたライヴの前日の演奏が1曲目に収録されている。『Shizuku』のクライマックスとなっている、和歌を詠む"聖夜"は2曲目に収録。それぞれ長尺の全3曲はライヴ演奏ならではの......というか、イルハのライヴならではの、細かい音々が、心地よい夜風に吹かれながら、散りゆく花びらのように舞っているのである。七尾旅人はかつて「ゆれている/ゆれている」と歌ったが、音は舞い、景色はゆれて、現実世界が官能的に見える、こんな気分にさせる音楽はなかなかない。彼らの新しいアルバムが楽しみだ。

野田 努