ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  2. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  3. Bonna Pot ──アンダーグラウンドでもっとも信頼の厚いレイヴ、今年は西伊豆で
  4. Neek ──ブリストルから、ヤング・エコーのニークが9年ぶりに来日
  5. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  6. アフタートーク 『Groove-Diggers presents - "Rare Groove" Goes Around : Lesson 1』
  7. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  8. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  9. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  10. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  11. MODE AT LIQUIDROOM - Still House Plantsgoat
  12. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  13. interview with Tycho 健康のためのインディ・ダンス | ──ティコ、4年ぶりの新作を語る
  14. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  15. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  16. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(後編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  17. interview with Jon Hopkins 昔の人間は長い音楽を聴いていた。それを取り戻そうとしている。 | ジョン・ホプキンス、インタヴュー
  18. KMRU - Natur
  19. Columns 「ハウスは、ディスコの復讐なんだよ」 ──フランキー・ナックルズの功績、そしてハウス・ミュージックは文化をいかに変えたか  | R.I.P. Frankie Knuckles
  20. Fabiano do Nascimento and Shin Sasakubo ──ファビアーノ・ド・ナシメントと笹久保伸によるギター・デュオ・アルバム

Home >  Reviews >  Live Reviews > Stephan Mathieu + Taylor Deupree + Federico Durand Japan tour 2014

Stephan Mathieu + Taylor Deupree + Federico Durand Japan tour 2014

Stephan Mathieu + Taylor Deupree + Federico Durand Japan tour 2014

Stephen Mathieu + Taylor Deupree + ILLUHA
Toshimaru Nakamura + Tetuzi Akiyama
Ken Ikeda + sawako
Melodia + Tetsuro Yasunaga
Tsutomu Satachi + Yusuke Date

@鎌倉 光明寺 ~Live at 光明寺 Fes~
Apr 12, 2014

野田努  
写真:小原泰広   Apr 16,2014 UP

 本堂の障子から西日がこぼれ、畳の上に大きな影ができる。すっかり肌寒くなった頃、ステファン・マシュー、テイラー・デュプリー、フェデリコ・デュランド、そしてイルハのふたり、計5人は機材を囲むように座ってドローンをはじめた。音量は小さく、本堂の外の音も耳に入る。僕の隣では、外国人の女性がひたすらメモを取っている。が、しばらくするとメモを置いて、畳の上に身体を仰向けに倒して、目を閉じて聴き入ってしまった。僕と一緒に行った連れ合いも、同じように目を閉じている。いや、寝ている。
 光明寺は、浄土宗の大本山だけあって、広く、その日、200枚以上のチケットが売れたというが、来た人たちは、みんな、窮屈な思いをすることなく、ノビノビと聴けた。本堂の前にはいくつかの出店もあって、そこでは飲み物や食べ物が売られていたので、ちょっとしたフェス……とまではいかないまでも、居やすさ、居心地の良さ、フリーな雰囲気があった。オーディエンスは思うがままに、地ベタに座って飲食も楽しみ、気が向けば本堂に入ってアンビエント・ミュージックに浸った。寺を出ればすぐ目の前は海だし、飽きたら誰かと話せば良い。

 鎌倉駅から徒歩で30分以上、バスで10分ほどの、決してアクセスが良いとは言えないところに、よくもまあ、みんな来るものである。イルハの伊達トモヨシは時代の変化を肌で感じていただろう。ひと昔前ならこうしたイベントは、マニアの集会のようになっていたが、現代では、主に若い世代が集まる身近なものになっているようだ。
 僕は、青山CAYのライヴ──そのときは、イルハ→オピトープ→ステファン・マシュー+テイラー・デュプリーという順番だった──も見ているのだが、音楽体験においてロケーションは重要で、正直、電車を何本も乗り継いで鎌倉まで来た甲斐があった。
 アンビエント・ミュージックは、必ずしも、ゆるくて、のんびりしているものではない。中村としまと秋山徹次のふたりによる緊張感ある即興は、その場にすっかり溶け込んでいた。住職による琵琶による「耳なし芳一」が演奏されたが、それとて違和感なく、その前後に演奏された電子の残響と混じった。
 「音を聴いていると寝てしまったが、鈴の音が近づき、遠のくのもわかるように、寝ていても頭は醒めて、音は耳に入って来た。どこかに連れて行かれたようだったが、すーっとまた戻ってきて、目が覚めたときには新鮮な気持ちだった」と、僕の知り合いのひとりは感想を言ったが、同じような経験を覚えた人は少なくないだろう。初めてアンビエント・ミュージックのライヴに触れた何人かも、それぞれの新鮮な驚きを説明してくれた。
 お昼過ぎにはじまった演奏は、6時過ぎに終わった。バスに乗る頃には、あたりは暗くなって、気温はぐっと下がっていた。次回があるのなら、また来る人は多いだろう。時代のなかで芽生えた、音楽のあらたなる現場。そうだ、今度こそマサやんを誘おう。

野田努