「KING」と一致するもの

interview with SHOBALERDER ONE - ele-king

 緊急事態発生。君は、スクエアプッシャー率いる4ピース・バンド、ショバリーダー・ワンを覚えているだろうか。2010年にアルバム『d'Demonstrator』をリリースした、身元不明の連中によるあの奇怪な音楽(エレクトロ・ファンク・フュージョン・ロック・ポップ)を……。
 たったいましがた、つまり12月1日の深夜のことだが、バンドからele-king編集部に謎めいた公式インタヴューが届けられた。じつに興味深い内容であり、またじつに貴重な取材だという。以下にその全訳を掲載しよう。もちろんスクエアプッシャーもメンバーのひとりとして参加している。
 と、その前に、同時に届けられた最新トレイラーをご覧いただこう。まさに別惑星のジャズ・フュージョン・ロック・エレクトロニカ。なかなかの演奏だ! そして身体が温まったところで、彼らのインタヴューを楽しんでくれたまえ。



思考を目に見える言語で表現し、それを他の人びとにも判読可能にするというのが、俺たちの手法だ。自分たちの顔を覆い隠すことによって、より遥かに重要なことを明らかにするのが目的なんだよ。

今日はオフィスまでお越しいただき、また私共のインタヴューにお時間を割いていただいてありがとうございます。来年リリースされる新作、とても楽しみにしています。まずはその件から伺いましょうか。新作はどのようなものになりますか?

Strobe Nazard:戦略の変更!

Squarepusher:スクエアプッシャーの曲から選りすぐったものなんだけど、このバンドで演奏するために手を加えて作り直したんだ。

そうでしたね。ということは、規準を設けて作品を選んだと? 今回のセットでどれを取り上げるかは、もう決めているんでしょうか?

Squarepusher:『Hard Normal Daddy』や他の初期作には、4〜5人組のバンドがすごくタイトにやってるときの状況からインスピレーションを得たものがある。だからそれを試してみるのも楽しいんじゃないかと思ったんだよ。

あなたは以前インタヴューで、モダン・カルチャーにおけるノスタルジアやレトロ現象が嫌いだと発言していましたが、これはある意味ノスタルジックなのではないでしょうか?

Squarepusher:昔のアイディアを未来に向けてプレイしているいくつかの断片。いまのフューチャリズム・ボーブには、それくらいが精一杯だね。

えーと、すみません、“ボーブ”(borb)って仰いました? それは何ですか?

Arg Nution:俺たちが別の惑星でプレイするときは、より新しい、しかるべき機材でプレイするんだよ。こんな金属製とか木製のガラクタじゃなくてな。

Squarepusher:おい、木製は別にいいだろ。樹木から作った楽器で間に合わせることのどこがいけないんだ? まあ、歌は自分たちで歌わなきゃならないけど、大体において、現状を成り立たせてきたのはそいつなんだからさ。

ステージ衣装も凄いですよね、皆さんの外見の進化、すごく気に入っています。

Arg Nution:「外見の進化、すごく気に入っています」だってさ。

Company Laser:これは俺たちが家で着ている普段着だよ。ブランド戦略を実践してるわけじゃない。

家でそれを着たまま、料理したりとかテレビを見たりとか、大変じゃありません?

Strobe Nazard:ウチは、こんなクソみたいなイギリス生活とは違うんだよ。

Company Laser:おいおいStrobe、イギリスってのは国であって、生活じゃないぜ。

Strobe Nazard:ほらな、“生”が好きな人間が大勢いるわけだ(笑)

Arg Nution:だが、ここにはあらゆる死が入り込んでいる。俺はかつて生きていた。だがいまは、死んだ樹木で作った楽器を弾かなくてはならないのさ。

なるほど、では、LEDライトを点灯させて画像を表示するマスクで顔を覆ったりというアイディアは?

Squarepusher:思考を目に見える言語で表現し、それを他の人びとにも判読可能にするというのが、俺たちの手法だ。自分たちの顔を覆い隠すことによって、より遥かに重要なことを明らかにするのが目的なんだよ。

Strobe Nazard:目は闘っているぜ。

Squarepusher:ステージ上にいる者と観客がアイコンタクトを取るのは危険だったんだ。ステージ/シーリング・システムの迫真性によって、そこに両者が通じ合える階段が設けられるとしたら、それは危険な前提に繋がる可能性がある。つまり、紛い物や錯覚としての連帯感だ。実際のところボーブ観客席は、残酷なヒエラルキーの悲しい法則が示されている区域なわけだから。

なるほど、分かりました……だとしますと、あなたたちはどうして集まったんですか? 2010年には『D'Demonstrator』というアルバムを発表していますが、これは何だったんでしょうか?

Company Laser:スクエアプッシャーが俺たちを誘ってくれたんだ。俺たちは何千年も前からの知り合いなんだよ。あのときはどんどん悪い方向に進んでいった憶えがある。彼はまるで自分が本当はボーブじゃないとでも言わんばかりで、それを見せつけようとしていた。俺たちは興奮から醒めたんだけど、実に危険だったね。結局、すごく怖くなってしまってさ。レコーディング・セッションが終わった直後、俺たちは辞めたんだ。でも、彼をひとり残していくのは心苦しかったよ。それでエレクトラックが彼を送り返してきた時、俺たちも彼に同伴したんだ。

あなたが送ったんですか? エレクトラックとは何ですか?

Company Laser:“エレクトリック・トラック”のことだよ。どうかそいつを良心と呼んでくれ。

どこから戻ってきたんです?

Strobe Nazard:英国内のとある惑星からだよ(笑)

それは私たちがいまいる場所ですよね。分かりました。それはさておき、『D'Demonstrator』の収録曲を演奏することについてはいかがですか? 彼の曲の中でも“Plug Me In”はいまいちばん人気があると思いますが。

Squarepusher:人気というのは根拠の類語、しかもおかしな類語なだね。この曲はいまのヘッドセットにふさわしくない。俺たちは、というか俺は、ボーブに及ぼす危険性のせいで元の場所に戻されたんだよ。

エレクトラックによって送り返されたんですよね?

Squarepusher:その通り。

[[SplitPage]]

君が混乱していたのは分かるよ。ショバリーダー・ワンは友好的で寛大な団体なんだ。俺たちは俺たちなりの謙虚なやり方で役に立ちたいんだよ。

危険性というのは、どういう意味でしょうか? またそういった危険と闘う場合、あなたは手を貸すことになっているんですか?

Squarepusher:自分の作品の目的については語らないよう促されているんだ。例のボーブという前提の下で、20年以上ずっとやってきたわけでさ。見せかけを整えるため、俺は絶えず嘘をついてきた、成功のチャンスをもらえるならね。だが、状況は変わった。そして試してみる必要性に直面した諸問題の深刻さもね。

Company Laser:思考能力の制限を企んでいるものが、地球上にはたくさんあるのさ。

それを見下した態度だと感じる人も大勢いるはずです。例外的に良い協議会もあるわけですし……

Arg Nution:実際に聞いたことはないだろ。専門知識を嫌う傾向は顕著にあるんだ。人はエキスパートが好きじゃないのさ。

Strobe Nazard:俺たちはエキスパートなんだよ! プロフェッショナルなんだ!

Squarepusher:ボックスは一般的に、自分たちが直面している悲惨な問題解決に取り組もうとして衰退している。現在のものを過去のレプリカに置き換えるという幻想に逃げ込みながらね。

Strobe Nazard:ボーブが眠たいってさ!

Company Laser:Strobe、お前は黙っとけよ。人をイラつかせるだけならさ。

たしかに私は心配していました。この件についてすごく混乱していたもので。

Company Laser:君が混乱していたのは分かるよ。ショバリーダー・ワンは友好的で寛大な団体なんだ。俺たちは俺たちなりの謙虚なやり方で役に立ちたいんだよ。

Arg Nution:謙虚かつデタラメにね。この連中はもっと謙虚な人びとの役に立たないと駄目だ。

えーと……12月にアメリカを、3月にはヨーロッパの各都市をツアーして回る予定だそうですね。この公演では何か特に計画はありますか? このツアーのギグに関して、ファンの皆さんにお知らせしておきたいことは?

Company Laser:俺たちはスクエアプッシャーの曲を演る。そして自分を貶めることになるにしてもひたすら謙虚でいる。俺たちはヒーローとはみなされていない。俺たちはアンチ・ヒーローだが、反アンチ・ヒーローでもあるんだ。

Squarepusher:今回のライヴはきっと、この上なくエキサイティングなものになるよ。俺たちがその意識に働き掛ける人たちにとってはね。

でもどうすれば音楽は人の意識に異なる作用を及ぼすことができるんでしょうか? たしかに、聴き手は音楽の価値を理解したり、それを気に入ったり、それに触発されたりなどする。でも、人の心の働き方に変化を及ぼしたりしませんよね?

Arg Nution:だからこそ、途方もない混乱状態にいる間抜け野郎は破滅するんだよ。

Strobe Nazard:心をバラバラに働かせられるようにしないと駄目だね。でなきゃ、人生を愛せないだろ。人は死ぬものなんだから。

なるほど。こういう問題は精神科医に任せた方がよさそうですね。

Arg Nution:おバカなアホは笑わせてやらないとな。

Company Laser:分かったから、落ち着けって。対抗心とか怒りとかあるんだろうが、でも取り敢えずいまは、サインするまでわずかな時間しかないんだ。建設的に話そうぜ。

分かりました。それでは名前について伺いましょう。本当に面白い名前ですよね。例えばStrobe Nazard。あなたが考えたんですか?

Company Laser:俺たちは名前の持つ力を妨害したいんだよ。ボーブだとかパワー・バリアだとか、世の中が名前を分析しようとする力をね。普通、機械を作れば、名前について検討し、定期的にそれを見直したりするものだが、この名前を見て、そこから連想されるものが刷り込まれてしまったら、そこであらゆる思考が停止し、ボーブの悲哀に呑み込まれてしまう。

でもあなたたちには、ショバリーダー・ワンというバンド名がありますよね。そこにはたしかに、人間関係や名前やポジティブな組織を構築するための意味がある。そうすれば人びとは、映画を観る時のように、何を期待すべきか想像がつくわけです。

Arg Nution:その期待は破滅に終わるわけさ。

Company Laser:彼のリスナーたちには、期待を捨てるようにって働き掛けようとしてきたんだ。期待は、心理的な解放状態を促進するからね。改名についての国際的原則の教えだ。俺たちは修正を提案して、その後で変えるつもりだよ。

Strobe Nazard:俺たちの宇宙船の側面には、でかい文字で『ショバリーダー・ワン』って書いてあるんだ!

宇宙船を所有していると、あなたたちは本気で主張しているんですか?

Arg Nution:「宇宙船を所有していると、あなたたちは本気で主張しているんですか?」だってさ(笑)。

Squarepusher:この議論にスペース・シャトルは関係ない。

いえ、そうではなく。それで宇宙を旅することができると?

Squarepusher:なあ、追究する価値のある問題は別にあるんだよ。それはテクノロジーへのこだわりに突き動かされてていて、道徳的な理由が完全に欠落していることもよくあるんだ、どんな手法が使われてきたかってことに関して言えばね。

Company Laser:テクノロジーの放棄を論じたかったのかい?

Squarepusher:ああ、俺は火器を全て置くよ。あれは象徴的な提案だった。人びとと音楽テクノロジー、そして人びとと信仰心の特徴との相互作用の不思議さを訴えていたんだ。

それについて詳しく教えてもらえますか?

Squarepusher:このミッションがスクエアプッシャーを危機に晒したと考える理由のひとつは、俺の意に反し、俺が神秘主義的な芸術音楽家として扱われているからだ。こういう展開は不愉快だが、別のやり方を推し進める機会を俺に与えてくれた。だが、そうだな、上位者に教えを授けた神秘主義者もいれば、司祭もいるし、現代のテクノロジーは伝統の継承者にふさわしいという正統信仰もある。だが守護者はその時間と金のすべてを、宗教的権威の眼鏡に適う機材の購入に当てなくてはならないんだよ。

とはいえ、テクノロジー・レヴューのユーザーも言っていましたが、テクノロジー音楽は礼拝所に成り得ると?

Squarepusher:いろいろあるが、そのひとつだと言っていいね。

Strobe Nazard:それもまた、人の脳を死に至らしめる方法のひとつだよ! 音楽テクノロジーは、死ぬべき脳を作り出すのさ(笑) !

Company Laser:だからBluetoothの定期的な切断について非難を浴びせようぜ。俺たちはこのサービスに異説を唱える異教徒だからね。

ですが、テクノロジーを用いて作られた音楽についてはいかがでしょうか? 人びとが無意味な信者達の特性を部分的に操作しているとしても、それはやはり素晴らしい音楽を生み出すのでしょうか?

Arg Nution:それでもやっぱり、時には素晴らしい音楽を生み出すこともあるね(笑) 。

Squarepusher:醜悪な建造物を地震が破壊するからといって、地震を良しとするようなものだ。

Strobe Nazard:音楽を破壊するんだよ! 音楽を破壊(笑)!


※来春にはショバリーダー・ワンのアルバムのリリースが予定されており、ワールドツアーの日程も発表されている。

ツアー日程

09/12/16 SI Ljubljana @ KINO ŠIŠKA (TICKETS)
10/12/16 AT Vienna @ Porgy & Bess (TICKETS)
14/12/16 US New York @ Le Poisson Rouge (TICKETS)
16/12/16 US Los Angeles @ Echoplex (TICKETS)
17/12/16 US San Francisco @ The Independent (TICKETS)
22/03/17 UK Ramsgate @ Ramsgate Music Hall (TICKETS)
23/03/17 UK London @ Village Underground (TICKETS)
24/03/17 UK Brighton @ Concorde 2 (TICKETS)
25/03/17 FR Paris @ New Morning (TICKETS TBC)
26/03/17 DE Cologne @ Club Bahnhof Ehrenfeld (TICKETS)
27/03/17 DE Munich @ Strom (TICKETS)
29/03/17 CZ Prague @ MeetFactory (TICKETS)
30/03/17 DE Berlin @ Berghain (TICKETS)
01/04/17 UK Gateshead International Jazz Festival (TICKETS TBC)
09/04/17 BE Brussels, BRDCST @ Ancienne Belgique (TICKETS TBC)

vol. 89:アメリカ大統領選挙後 - ele-king

 その日、11月8日はアップステイトの田舎にいて、インターネットからもニュースからも離れていた。数々のスキャンダルなニュース、過去3回の討論会、数々のメディアはヒラリー氏を支持を表明し(メディアが支持者を明らかにするのは珍しい)、問題はないように思えたし、物申す雰囲気のあるこの選挙の経過を目の当たりにするのは無駄なように思えた。次の日NYに戻ると、雨が降り、ビルには国旗が掲げられ、厳粛な雰囲気が漂っていた。そこで今回の大統領選挙の結果を知った。バンドメイトに電話すると、「昨日の夜は悪夢だった」と。夜の11時ぐらいからまさかのトランプ氏が優勢し、ハラハラ、ムカムカし、なかには気分が悪くなって、倒れる人も出て来た。結果は、夜中の3時ぐらいまで決まらず、みんなゾンビのようになり、泣き出す人もいれば、叫び出す人もいた。最悪の状態だったと。
 NYではほとんどがヒラリー氏支持者なので、この結果にはびっくりした。が、アメリカは広い。大多数は、アメリカを元の素晴らしいアメリカにしたい保守派、そして複雑な選挙制度が今回の結果を招いたのだろう。

 次の日から、NYでは、トランプ氏を抗議するマーチが毎日のように行われた。「love trumps hate(愛は憎しみに勝る)」、「not our president(私たちの大統領ではない)」、「pussy grabs back(プッシー鷲掴みを返せ)」などの様々なプラカードを掲げ、ユニオン・スクエアからトランプ・タワーまで行進する。トランプ・タワーは厳重なセキュリティが施され、私も前を通っただけで、持ち物検査をくまなく受けた。今週の月曜11月28日には、dear_Ivankaというトランプ氏の娘イヴァンカに対してのデモ行進があった。ダウンタウンのアーティスト・グループHalt Action Groupが仕切り「あなたのお父さんに物申す」と様々なプラカードを持った500人がろうそくのライトを掲げ、イヴァンカ嬢が住むパック・ビルディングから、トランプ・ソーホー・ホテルまで行進した。アーティストは、ジョー・ブラッドリー、シンシア・ローリー、スペンサー・スウィーニーなどを含み、ジョナサン・ホロウィッツとアリソン・ジンジャラスが中心になって行われた。

 毎日のようにトランプ氏に関するニュースが流れ、自分の考えをSNS掲げ、話題が絶えない。実際、ヒラリー氏は一般投票ではトランプ氏を上回っているし、12月19日には大統領選挙人による投票が待っている。これは各州の代表の選挙人による投票で、ヒラリー氏が選ばれる可能性もある。
 ここまでくると何が起こってもおかしくない。実際、トランプ氏が当選した翌日から、憎しみから起きる犯罪(ヘイト・クライム)が急増したとか。例えばクイーンズで、10代の白人の男の子がバスに乗るときに黒人の女性に向かって「後ろに座って」と言ったり、ブルックリンのビースティ・ボーイズのアダム・ヤウク公園に鉤十字と「行けトランプ!」という落書きがされたり。NYですよ、皆さん。近代化した社会が、50年前に逆戻りですか? アメリカの本当の姿を見た気がしてゾッとした。

 だけど動向を見守りながら、私たちは、仕事をし、感謝祭のディナーをし、ワイワイ言いながら、その後を過ごしている。ショーにも行くし、映画にも行くし、曲も作るし、絵も描く。最近では、宇宙をテーマにしたバーJupiter discoがオープンし、ミュージック・テープスのジュニターのショーを見て、沖縄音楽を演奏し、現実逃避ではないが、これを楽しめるのなら悪くない、と感謝さえした。新しい物、事が次々生まれるブルックリンでは、間違った方向には行かないと信じている。苦しい逆境から、良い曲や物が生まれる予感もするし、頭の良いニューヨーカー達は、いろいろ試しながら、進んで行くのだろう。

11/30/2016
Yoko Sawai

with Derrick May & Francesco Tristano - ele-king

 この取材は、10月7日におこなわれている。つまり、大統領選のおよそ1カ月前。なんで、そのときにこの記事をアップしなかったんだよ〜と言うのはもっともな意見である。
 いや、アップしたかった。本当に! しかし訳あってアップできなかったのであるが、なにはともあれ、ぼくはトランプが勝利したとき、というか投票結果で最後にミシガン州が残っていたとき、デリック・メイの憂いを思い出していた。彼は、アメリカに広がるエクストリームな感情について知っていたのである。以下のインタヴューは、名目上は、〈トランスマット〉からリリースされたフランチェスコ・トリスターノの新作『サーフェイス・テンション』の取材で、本作によってデリック・メイは20年ぶりにスタジオに入ったらしい。20年前と言えば1996年だが、それってなんの作品だったんだろう、あ、訊くのを忘れた。
 忘れたというより、このときはそれ以上にデリックに訊かねばならないことが多く、そして、読んでいただければわかるように、ひじょうにショッキングが事実を彼は述べている。トランプのことじゃない。ダンス・カルチャーも、いまとなっては娯楽産業であるから、リバタリアンが身近にいても驚くほどのことではないのかもしれない。しかしよりによって……。(僕がここで何を言いたいか、各自探索すれば面白い事実を知るだろう)


Francesco Tristano
Surface Tension

Transmat/U/M/A/A Inc.

HouseTechno

Amazon

 気を取り直そう。ファランチェスコ・トリスターノの『サーフェス・テンション』がリリースされた。坂本龍一の“戦場のメリー・クリスマス”のフレーズからはじまるこのアルバムは、デリック・メイが参加しているのでぼくは聴いたわけだが、聴いて良かったと思った。オリジナル収録曲の8曲あるうちの4曲に参加し、ボーナストラックの1曲ではライヴ演奏に参加したときの模様が披露されている。栄えある〈トランスマット〉レーベルの30周年イヤーの最後を飾るのは、このコラボレーションなのだ。

うん、プリンスも死んだし……悪い年だな……悪い年だ。

デリック、いったいアメリカで何が起きているんだよ!?

デリック:うん、プリンスも死んだし……悪い年だな……悪い年だ。

日本でニュースを見ていても、ブラック・ピープルのコミュニティにただならぬことが起きているのがわかるよ。

デリック:それは、おまえが繫がっているからね。俺が311のとき日本に来たときみたいなものだ。(放射能が漏れているから)みんな「来るな」と言ったけど、俺は、来た。ヒロも20年の仲間だし、おまえも、ヨウコも……日本にいる俺の女たち全員も(笑)。来るしかなかった。

それほど酷いと。しかし、いまのアメリカを覆っている暗さは、さらにまた、より政治的なことだけど。

デリック:うん、とくにドナルド・トランプが大統領選挙に参加してるから。アメリカで国内戦争になってもおかしくないと思うよ、マジで。本当にヤバい時代だ。デトロイトもだいぶ変わった。デトロイト市が倒産したとかみんな貧乏だとか、そういうニュースとかドキュメンタリーのせいで、デトロイトに"悪い要素"の人たちを引きよせたと思う。金持ちで悪い人たち。わかるだろ。(いわゆるニュー・リッチと呼ばれる)あいつらが全部買い上げた。みんなを家から追い出して。だからいまデトロイトに来たら、全然違うよ。

デトロイトが再開発の対象になるなんて、よほどの……、たとえばメジャーなポップ・ミュージックを聴いても、ビヨンセやケンドリック・ラマーとかね……政治色が強まっている。かたや“Black Lives Matter" というムーヴメントもあるし……

デリック:(遮るように)ちょっと、待った待った。おまえが何を訊きたいのかもうわかるよ。ムーヴメント・フェスティヴァルをやってる奴らとか、そういう考え方から完全にかけ離れてるしね。全然わかってないよ。ウルトラ共和党、コンサヴァーティヴ、右翼のやつら。

え、Movementって……あのフェスティヴァルの?

デリック:そう、オーガナイザーたち。俺は(ネーミング・ライツを)売ったからね。俺が売ったやつ、トランプのサポーターだよ。

ホント?

デリック:Yes....

Unbelievable.

デリック:Unbelievable…

しかし、デトロイトみたいな、白人ではない人たちが多い街でなぜトランプみたいな人が支持されるのか……まったくよくわからないんだけど。

デリック:なぜだかわかるか? 俺は思う……トランプを理解しないと……自分から何か大事なものが取られたと思って怒ってる人たちに、彼はアピールしてるから……

Black Lives Matterに関してはどういうふうに思っているのよ?

デリック:俺は、それほど多くは知らないんだ。俺が知っていることは、そうだな、いまより必要なのは、よりもっと、さらにもっと、all peopleに大事なものじゃないのかな、black peopleだけじゃなく。

そうか。

デリック:いまは話さなきゃならないことがたくさんあるな。

重要なことだね。

デリック:俺にとって“Black Lives"とは、俺の娘、俺の母、俺の家族だ。

まさか、ブラック・パンサーやあの時代のようなことが起きるなんて、信じられなかった。ちょっと本当に……

デリック:ああ、なんて恐ろしい時代だろう。たとえば中東の人たちは、これが彼らにも影響する問題だと理解してないんじゃないかと思うよ。(実際はそうじゃないけど)何か大切なものを取られていると思い込んでるたくさんのアメリカの白人の怒りを理解してないんだよね。

この話、別の機会にしよう。あまり時間がないし、今日は、フランチェスコ・トリスターノの新作の話をしなくちゃね。良いアルバムだし、そう、1曲目と2曲目が本当にすごい……すばらしい。しかも2曲目のリズムを聴いたときに、デリック・メイの腕がまださびてないとわかって嬉しかったです。

デリック:どの曲のこと?

2曲目の"The Mentor"ね。

デリック:まぁ……ちょっと待ってくれよ。美味しいワインに、チル、いい場所で、夜遅くに、ストレスもなく、焦ることもなく、オーディエンスもいない……そして最高のプロデューサーが居るわけだ!

といってますが、フランチェスコさん、どうでしょう?

フランチェスコ:ほぼバルセロナの自分のスタジオで……それと一部デトロイトで。“サカモト”のピアノはパリで。一部のリズム・シーケンスはローマで。“Esotheric Thing”の鳥はモーリシャス島で。

いろんなところでじゃあ……

フランチェスコ:フィールド・レコーディングだ。

デリック:坂本(龍一)さんに“サカモト”を聴いて欲しいな。

“サカモト”、いい曲だよね、インプロヴィゼーションなっていくところが格好いいんだよね。デリックは参加してるの?

デリック:いやいや、他の曲だね。サカモトの曲は完全にフランチェスコだ。

フランチェスコ:じつはアルバムに入れる予定じゃなかったんだけど、デリックに曲を聞かせながら喋ってたら、「これ聴こうとしてるんだからちょっと静かにっ!」って怒られて。で、「これ〈トランスマット〉にもらえない?」と言われて。そもそもDeccaのコンピレーション用だったので、サブライセンスもする必要があったけど、最終的にはアルバムに入れたし、みんな知ってる曲だからポールポジション(トラック1)にするしかなかったね。

デリックからたくさん学んだし、デトロイトという町からも。マジで……みんな俺を受け入れてくれた気がした。──フランチェスコ

大好きだよ、おまえ! ──デリック

「養子」にしてくれたような……俺はただの白人ユーロ・トラッシュ野郎なのに(笑)。 ──フランチェスコ

でもおまえは白人じゃないよ(笑)。 ──デリック

デリックはフランチェスコのどんなところを評価しているんですか?

デリック:そりゃおまえ、何度も言うけど彼のプロ意識だ。クラシックの人生とエレクトロニック・ミュージックの人生のちょうど間をたどれること。クラシックのミュージシャンでは珍しいよ。

フランチェスコはよくぞ、デリックをスタジオに閉じ込めて録音させましたね。いったいどんな手を使ったんですか?

フランチェスコ:なんていうかその……『不思議の国のアリス』だよ、デリックを巻き込む方法は。キャンディーとかをシンセサイザーに入れ替えて、デリックが現れる前に全部機材を接続しておいて、しかも彼が気づかないようすでに録音も初めておいて……そうやってやるんだよ(笑)。

デリック:ハッハッハ……俺をハメやがったな、このクソ野郎め!

フランチェスコ:「まだ録音するなよ!」と言われても「大丈夫、気にしないで!」と言いながら、でも既に録音してるという(笑)。

デリック:おまえ、あのとき俺を騙したのか! 騙したんだな!?

え、デリックはこれがリリースされるということを知らないで一緒にセッションしていたってわけ?

デリック:イヤイヤイヤイヤ、彼が言ってるのは……俺が最初に少し練習しようとしてたことを知ってて……俺はまだ録音しはじめてないと思ってたのに……でも録音してたんだ。俺もそれは結局わかったし、彼も教えてくれたからその時点ではサプライズじゃなかったけど。

フランチェスコ:でも、君は……

デリック:うん、ちょっと(録音のために)遊んでた……常に。

さっき言った2曲目("The Mentor")なんかは、クレジットを見なくてもデリック・メイだってわかるんだけど、初期のビートを思い出したな。あれどうやって作ったの? 機材は?

デリック:これはフランチェスコを評価しないと。だって……スタジオの写真はあるか? 

フランチェスコ:"The Mentor"のリズム・シーケンスには、生ドラムのサンプルを使った。もちろん少しプロデュースされてるけど、キックと一部のハイハット以外は生のドラムサウンドだ。で……やっぱり、デリックがいつも言うように、全部ミックス次第なんだよね。レベルの割合と音楽がどう噛み合うか。音楽といえば……メロディとかベースとか。その音楽の大切な部分をどうするかわからなくなってしまうから、やはりリズムはあまり出すぎないようにしないと。

デリック:非常に良いコラボレーションだったよ。彼は俺の考えをよく理解してくれ、それを評価してくれながらも、自分の視点、自分の考え方もうまく表現した。これはみんなに理解してほしい……これは「おまえ(フランチェスコ)のプロジェクト」だということ。それに俺はインバイトされたんだということを。

フランチェスコ:でも、僕もあなたのレーベルにインバイトされたんですよ。それをお返しできるのは光栄ですよ

デリック:いや、これはおまえのプロジェクトだよ!

フランチェスコ:いや……

デリック:おまえのプロジェクト!

フランチェスコは〈トランスマット〉のことをどう思っているの? またデリック・メイというDJについてもコメントして欲しいですね。

デリック:いい質問だな。

フランチェスコ:(笑)

デリック:ほら、おまえの質問が彼にプレッシャー与えてるぜ(笑)。

フランチェスコ:〈トランスマット〉といえば、僕にとって伝説のレーベルだし、デトロイトのサウンドを生み出した唯一のレーベルだと思う。もちろんメトロプレックスとかそのあとプラネットEとかもあるけど……でもやっぱり〈トランスマット〉なんだよ。しかも僕がアナログを買いはじめた当時、デトロイト・テクノにしか興味がなかった。たくさん持ってるよ……〈トランスマット〉のバックカタログをぜんぶ試聴した……たくさん持ってるんだ。
 それから、デリックはナンバーワンのDJだけど、この作品ではDJしていない。僕は彼を快適な場所から引っ張り出したかったんだ。とくにライヴに関しては。彼にDJしてもらいながら僕がその上からプレイすることもできたけど、それはやりたくなかった。デリックに何か違うことをして欲しかった。彼はもうずっとDJしてるし、誰よりもそれは上手……これからはライヴに挑戦するタイミングだ(笑)!

デリック:進化していくのもね。

もう、飽きてきたろうから最後の質問にするね。この作品にはメッセージがありますか?

フランチェスコ:まず、このアルバムは別々として考えるのではなく、全部連動した、流れ的な作品として考えて欲しいんだ。それからタイトルのSurface Tension(表面張力)とは、生化学、地質学における現象だ。液体の表面にある分子を引き寄せる力のこと。だから水の上を歩ける虫もいるよね。海とか、水じゃなくても、音も……その表面は非常にタイトで綺麗に磨かれたものだ。もちろん好きに解釈してもらっても構わないけど。だがその下には巨大な海がある。それがデリックが別の場所でも話していた、デトロイトの歴史、音楽の歴史、シンセの歴史であり、それが全部「海」でその上に存在する表面張力が僕たちを引き寄せてコラボさせてくれた。僕はこの考えがとても気に入っているんだ。それで僕が〈トランスマット〉からアルバムをリリースすることになるとは……ていうか、トランズマットからフルアルバムをリリースしたことはあるのかな?

デリック:うん、アリル・ブリカとか、『The Art of Vengeance』、Microworld……でもこれは全部日本独自規格で、シスコとやったものだけど。

フランチェスコ:だから、〈トランスマット〉で出すアルバムは特別だよ

デリック:数少ないよ。そこは気をつけてる。

フランチェスコ:本当に少数だよね。僕にはすごく大事。

デリック:俺たちにも大事だよ

フランチェスコ:本当に光栄だよ。しかも イノヴェーターに参加してもらうなんて……ある意味オマージュでもあるね。で、僕がそれのお返しをしたというか。

デリック:Wow、ありがとう。

フランチェスコ:デリックからたくさん学んだし、デトロイトという町からも。マジで……みんな俺を受け入れてくれた気がした。

デリック:大好きだよ、おまえ!

フランチェスコ:「養子」にしてくれたような……俺はただの白人ユーロ・トラッシュ野郎なのに(笑)。

デリック:でもおまえは白人じゃないよ(笑)。

フランチェスコ:でも、僕はデトロイトを感じる。だから〈トランスマット〉は……でかい存在だ。

デリック:ひとつだけ言いたいんだけど、今回のことはまた自分でも音楽作りにチャレンジしたいという気持ちのインスピレーション、モチベーションにもなったよ。それはフランチェスコのおかげだ。俺のオーケストラのコンセプト、それからフランチェスコとオーケストラの仕事をしたから、今回彼の作品にスタジオ参加することにもつながった。そしてそれを僕は受けた。
 俺は音楽をリリースするけど、1989年のデリック・メイにはなりたくない……前の自分になろうとしてるんじゃない。音楽的にどこか別のところに行きたいし、自分にチャレンジするのが大事だ。だから彼とこのプロジェクトに参加することにしたんだ。

フランチェスコ:光栄です。喜んで。

デリック:そう! (俺の)スイッチをオンにした!

フランチェスコ:残念ながら、みんな最近集中力がないからね。でもそう考えちゃダメだし、フェードアウトはしてはならない。

OK、ありがとう。


FRANCESCO TRISTANO P:ANORIG Feat. DERRICK MAY Live in Berlin

戸川純全歌詞解説集 - ele-king

 30年前。朝日ジャーナルの別冊で初めて戸川純に取材することができた。2時間遅れでやってきた彼女は質問の答えがすぐに浮かばないとテープ・レコーダーのスウィッチを勝手に切った。「考えている間はテープがもったいないからね」と彼女は言った。そして、質問の答えが頭に浮かぶと、自分でスウィッチを入れるのだ。こんな人は後にも先にもいなかった。僕の第一印象は、だから、「合理的な人」にならざるを得なかった。驚いたのはテープから起こした文章が……そのまま理路整然とした文章になっていたことだ。書き言葉のように話す人なのだ。どこかとんでもない方向に逸れたと思っていた話がきちんと元の脈絡に戻ってくる時の驚き。感覚的な人なんだろうという思い込みはあっさりと打ち砕かれてしまった。
 それからときどき仕事をする機会があった。戸川純はいつも戸川純で、インパクトが衰えることはなかった。ライヴはもちろん、蜷川幸雄の稽古場に侵入したり、『釣りバカ日誌』の撮影にも紛れ込んだ。そして、いつしか戸川純の本をつくりたいと僕は思い始めていた。ところが何も企画が思い浮かばない。5年前には「自伝を書きませんか?」と、誰でも思いつくような提案をしてしまった。戸川純の答えはノー。理由が最高である。「私のピークはこれからだと思ってるから」。いや、参った。テープ・レコーダーのスウィッチを止められたように僕は黙ってしまった。
 デビュー35周年を記念してヴァンピリア(Vampillia)とセルフ・カヴァー・アルバムのレコーディングに入ったと聞いたのは今年の春だった。すぐに閃いた。セルフ・カヴァーということは、自分のキャリアを振り返るということだ。だったら、そのプロセスを本にすればいい。戸川純が日頃から自分のことを「説明ちゃん」と呼んでいることも、これと結びついた。これまでつくった曲を順に説明してもらえませんか? 返事は三日後。今度はイエスだった。やたッ! 80年代の流行語で僕は喜んでしまった。
 そう、軽い気持ちで始めたことだった。どうして歌詞にこの言葉を選んだのか。そういったことが訊ければいいと最初は思っていた。しかし、結果は読んでいただければわかることだけれど、話は少しずつ深みを増していった。「このことをわかってもらうためには、これについても話さなければいけない」と、戸川純の話は思わぬ展開を見せ始めた。初期の曲と後につくられた曲が何度も結びつき、ひとつのテーマがゆっくりと円を描くように関係を深め合っていくのである。創作というものの凄さがそこにはあった。話を聞いているだけで体が凍りついてしまった瞬間もある。戸川純がすべてを話し終えた時、その場には3人しかいなかったにもかかわらず、僕にはそこかしこから拍手が聞こえてくるような気さえした。その直後、戸川純がなんと言ったかは秘密にしておこう。順番に読めば、ゆっくりと読んでくれれば、話し終えた時の彼女の気持ちが少しは理解できるはずだから。いや、理解して下さい。彼女はいつも説明していたのだから。「説明ちゃん」はいつも声を大にして叫んでいたのだから。(三田格)

戸川純 著
戸川純全歌詞解説集──疾風怒濤ときどき晴れ
ele-king books
Amazon

Solange - ele-king

 ソランジュとキングとビヨンセと

 ソランジュの8年ぶりのサード作『A Seat At The Table』を聴きながら、真っ先に思い出したのはキングの『We Are King』だった。ソランジュのバックはシンプルな演奏ながら基本的にバンド形態で、曲の合間合間には両親やマスターPなどの語りが挟まり、リル・ウェインなどラッパーのゲストも招くなど、キングとの違いはいろいろあるが、可愛らしく優しい歌声、従来のパターンにとらわれず自由に流れていく中にポップなフレーズが浮かんでは消えるメロディー・ライン、コーラスの絡ませ方など、共通点もたくさんある。そして何よりも、美しいドリーム系の最高峰がもたらす絶大な癒し効果が共通している。

 ソランジュはこのアルバムの曲を13年から作りはじめたという。自分のピアノと歌で仮録音したそれらの曲を、仲間のミュージシャンたちとジャム・セッション風に演奏して自由に広げ(時には1時間を超える演奏にもなったという)、それを今回ソランジュとともにプロデュースを担当したラファエル・サディークが仕上げた、という手順だったようだ。推測するに、ラファエルはソランジュの意向を上手に丁寧に汲み取り、とてもいい仕事をしたのではないだろうか。

 ソランジュの歌声とその表情は、折に触れて姉ビヨンセにそっくりで、『Lemonade』のドリーム系の曲にも思いを馳せた。アメリカに黒人女性として生まれたからには、人種と性の二重の差別構造の中で、日々経験することの多くが私的な経験であると同時に社会的な経験でもある。そしてビヨンセもソランジュもそれをアルバムで表現し、「女性の社会的地位の向上と自立」を訴えることに繋げた。ビヨンセは圧倒的なパワーでリーダーシップを発揮してリスナーを鼓舞するが、ソランジュはナチュラルな佇まいでそっと静かに伝えて共感を呼ぶ。対照的なアプローチだが、いずれも芯の強さを備えているからこそできることであり、どちらも社会運動の活性化には必要な要素だ。またソランジュは「悲しみと癒し」も本作のテーマに含めており、ビヨンセの『レモネード』も「与えられた困難(=レモン)から美味しいレモネードを作る」という意味だった。つまるところ、ふたりは同じテーマのアルバムを作ったのだと思う。ビヨンセの『Lemonade』は、いつものように全米アルバム・チャートの1位になり、本作も9月30日に配信が始まってから約2週間で同チャートの1位になった。これまでソランジュは、姉ビヨンセの七光りで得をすることよりも、逆にその陰となって損をすることの方が多かったんじゃないかと思うが、我が道を行き続けて花開かせたのは立派だ。

 ところで最初に本作に興味を持ったのは、オハイオ・プレイヤーズ→ソロ→Pファンクと渡り歩いた独創的な天才ジューニー・モリスンの曲にインスパイアされた、その名も「Junie」という曲があると知ったからだった。悪い癖で、Pファンクが絡んでいると知ると聴かないと気がすまないため、その場でフィジカル盤を予約した。だが待ちに待った本作が届いてひとたび聴きはじめたら、そのことはすっかり忘れて引き込まれ、終盤16曲目の当該曲にさしかかってようやく、「あ、そういえば…」と思い出したくらいだった。シンセの音色やリフの挟み方、スライを起点とする急転直下型の展開など、ジューニーの特徴的な要素が多々取り込まれていて、とても愛らしく思える曲だった。


interview with TOYOMU - ele-king


TOYOMU
ZEKKEI

トラフィック

DowntempoElectronic

Amazon

 ヴェイパーウェイヴは、レトロなコンピュータや日本語をデザイン要素としながら80年代のCM音楽やエレヴェーター音楽の遅いループそしてカセット・リリースによって資本主義ディストピアのムードを描いている。しかしその前にスクリューがあった。これは既存の曲をただ遅めに再生すると気持ち良く聴こえるという、じつに単純な、そして再生装置もひとつの楽器と認識するようになってからの、究極的なサンプリング・ミュージックと言える。だが、しかし、音楽は常にリサイクルされてきた。100年前のストラヴィンスキーがそうであったように、メロディやリズム、音の断片は、過去から借用され、使い回しされ続けているものだが、現代ではそれがより簡単に、初期のヒップホップの時代よりも、ずっとずっと簡単にできるようになった。
 サンプリングは、それが商用で使われた場合、著作権侵害となり、クリアランスが必要になるが、しかし商業リリースではない場合は、いや、インターネット空間そのものがどこからどこまでが商用で、どこまでが個人の趣味かという境界線を曖昧なものにしてしまったため、そのグレーゾーンではフィジカルでは聴けない(買えない)ユニークなサンプリング・ミュージックが突如アップされる。
 京都で暮らすTOYOMUも、基本的には“リスペクトありき”のサンプリングで作品をアップロードしてきた。ネット空間においてサンプリングがどこまで自由なのかを試すかのように。それで今年、カニエ・ウエストの『ザ・ライフ・オブ・パブロ』をまだ聴く前に告知されていた曲名と情報公開されていたその作品のサンプリング・ネタをたよりに、TOYOMUはそれを想像して作り上げ、そしてヴェイパーウェイヴよろしくすべての曲名を日本語で表記し、『印象 III : なんとなく、パブロ(imaging”The Life of Pablo”)』として自身のサイトにアップしたのだった。
 すると、一夜にして海外リスナーからのリアクションが彼の元に届き、その痛快さ──そのアイデアおよび曲のクオリティ、そしておそらくは日本人自らやったヴェイパーウェイヴ的ミステリー効果──を『Billboard』、『BBC Radio』、『Pitchfork』、『The Fader』、『FACT』といったメディがセンセーショナルに報じた。言うなれば彼は、カニエ・ウエストの知名度に便乗しながら、自分の作品を売り込むことに成功したわけだが、計らずともこのパブロ騒ぎは、今日の音楽を取り巻く環境を反映している。つまり、引用(カットアップ)とスピードである。
 
 そこへいくと今回リリースされる彼の初の公式フィジカル・リリースのEP「ZEKKEI」は、サンプリングやコンセプトで楽しませるものではない。むしろ、俺は戦略家ではないとでも言わんばかりの、聴き応え充分のエレクトロニック・ミュージックなのだ。素っ頓狂さを装いながら、リズミックな妙味を展開したかと思えば、かつて京都を拠点に活動したレイ・ハラカミを彷彿させるかのような、ロマンティックな叙情性もある。言うなれば真っ向からの作品で、『なんとなくパブロ』で使ったアイデアはいっさいない。きわどいサンプリングはナシ、曲名はすべて英語、捻りの効いたファンク、OPNとミュータント・ジャズとの出会い、美しいアンビエント、このように言葉で説明する以上に凝った展開。
 彼の“絶景”はシュールであり、いったいどこに着くのか、ときとして音の迷路のようでもある。いや、実際、彼がこれからどこに行き着くのかまったく読めない。ただ、何にせよ、ここにトーフビーツらと同じ世代(20代半ば)のユニークな才能が躍り出たのである。彼は間違いなく僕たちの耳を楽しませてくれるだろう。もしこの『ZEKKEI』に先祖がいるとしたら、クラフトワークの『ラルフ&フローリアン』とクラスターの『ツッカーツァイト』である。わかったよね、そう、ぜひ、楽しんで欲しい。

ツイッターとかフェイスブックとかどこを見てもカニエの話題ばっかりで、いまこれをやったら絶対みんな聴いてくれるやろうなと思ったのでカニエを選びました。

なぜカニエ・ウエストだったんでしょうか?

TOYOMU:あれは『印象』という名前のシリーズでやっているんですけど、去年の10月くらいに自分でビート・テープを出して、ポンポンと出していきたいと思っていて、なおかつ過激で、エキセントリックで、実験的な内容をどんどん出していきたかったんですよ。ただそれをやるだけだったら誰も聴いてくれないので、(ビート・テープを)周知させるためになにか大きくてわかりやすいテーマがいるなと思って、まず1月に星野源を選んだんです。その次の2月はわりと地味なやつで、ソウル・ミュージックをソフト・プラグインのシンセでサンプリングしました。そして3回目をやろうとした1ヶ月前にカニエのアルバムが出て、ツイッターとかフェイスブックとかどこを見てもカニエの話題ばっかりで、いまこれをやったら絶対みんな聴いてくれるやろうなと思ったので(カニエを選びました)。あとはあのアルバムの弄りがいがあったというのが大きいですね。僕は不完全さがあるほうがアレンジしやすいんですよね。

確信犯としてやったんですね。

TOYOMU:いや、でもここまで大きな反響になるとは全然わからなかったんで。ぼんやりと海外向きやなとは思っていましたけど、こんなに海外向けになっているとは思ってなかったですね。

カニエが好きなんですか?

TOYOMU:好きですけど、それはみんなが普通に好きというくらいのレベルですね。

カニエのどこが好きなのか、すごく興味があるんですけど、ぜひ教えてください。

TOYOMU:サンプリングの良さじゃないですか? 言っていることとかそういうことじゃなくて、音楽的な面としてこういう変遷を辿ってきた人がいないから面白いという。最初はファレルやティンバランドがやっていたときにサンプリングの早回しで出てきて、それで一時代を作ったあとにだんだん変になっていって、『イーザス』という突然あんなのを作ったと思ったら、今度は『ライフ・オブ・パブロ』で「またなんのアルバムなん?」という感じで、ラップというよりかは音楽面ですね。
 変遷が大きいじゃないですか。ガラッと変わっていきますよね。あんなに変えてやっている人は、メインストリームではなかなかいないですよね。ファレルは最初から器用だから、なにをやったって驚かないじゃないですか。でもカニエは毎回驚くことをやってくるんですよね。そもそもヒップホップ自体がそういうありえへんことをできる音楽だと思うし、渋くやるというのが凝り固まった時点でもう違うと思うんですよね。最初はレコードが回っているのを(手で)止めてはじまったわけですから、それを考えたら最初からありえへんことをやるというのが基本としてあるかなと思っていますね。

カニエの前には、星野源(『イエロー・ダンサー』リリースから1ヶ月に『印象I:黄色の踊り』をアップ)もやったんですよね?

TOYOMU:あれはサンプリングをしたビート・テープを作るというのが半分と、あとはちょうどあのときに自分でドロドロのアンビエントを作ってみたかったんですよね。

星野源を選んだのは人気者だから?

TOYOMU:人気者だからというのがひとつと、あとはあのアルバム(『イエロー・ダンサー』)自体がディスコというかブラック・ミュージックだし、やっぱりバンド・サウンドというのがいちばんサンプリングしがいがあるなと思いますね。アレンジしがいがあるというのはやっぱり音楽的に補完できる余地が残っているからだと思いますね。最近でいったらフランク・オーシャンはもう弄りようがなくて、じつに完璧で、僕のつけ入る隙がいっさいないというか。でもカニエや星野源はそれぞれに不完全さがあると思うんですよね。

当然クレームは来たでしょう?

TOYOMU:僕に(クレームがきたん)じゃないんです。サウンド・クラウドやバンドキャンプ側にクレームが行ったらそちら側が判断して削除したりできるんですけど、それでバンドキャンプにクレームが行って。サウンド・クラウドにもティーザーとして1曲あげていたんですけど、それもビクターによって消されましたね。次はもうやらないでくださいねという警告もきたので、あと2回やったらアカウントを消しますということになりました(笑)。サウンド・クラウドにBANという機能があるんですよ。バンドキャンプももうこんなのやめてくださいね、と消されたときにメッセージが来ましたね。

リスナーからはどのようなリアクションがありましたか?

TOYOMU:「Sampling-Love」というブログがあるじゃないですか。元々はネタ集なんですけど、いまはかなり人気で、記事を書いたらリツイートが50~100くらいされるようなサイトなんです。国内やったらサンプリングの音源を取り上げてくれるかなと思って、そのブログの人に毎回メールをしていたんですね。『黄色の踊り』もメールしたらブログに載っけてくださって、それがきっかけで国内のみんなが聴いてくれたんですよね。ツイッターでは、「こんなアレンジもあるんだ。おもしろーい」みたいなことを言っている星野源のピュアなファンはわりといました。

サンプリングは、商業リリースでは著作権侵害で、クリアランスが必要なわけですが、欧米では、アンダーグラウンドに関しては文化として大目に見ているところもあるんですよね。例えばシカゴのフットワークはかなり大ネタ使ってます。あるいは、ジェイムス・ブレイクの最初のヒット作の「CMYK」は、ケリスとアリーヤという大物の曲をサンプリングして、誰かわからなように変調させて使っていました。その盗用の仕方も含めて、メディアは賞賛したわけです。そういうアート性の高いもの以外でも、インターネットが普及した現代のネット世界では、音源はいくらでもあるし、これを使わない手はないくらいの勢いで、サンプリング・ミュージックは拡大していますよね。

TOYOMU:使わない手はないですね。正直言って個人レベルでやっている以上は文句を言われたって(音源を)消されて終いだし、むしろ発見されること自体が珍しいんですよね。だから個人レベルだったら好き勝手やったっていいんじゃないかと思いますよ。それを大目に見てくれればいいのに、なんでわざわざ消したのかは謎ですね。

いや、それはしょうがないでしょう(笑)?

TOYOMU:僕はむしろそれをプロモーションに使ってほしいくらいなんですけどね。そういう度量はなかったみたいですね。

とにかく、サンプリング・ミュージックという手法に関心があるんですね。

TOYOMU:まさしくそうですね。

もっとiPhoneでワーッと録って、なんならインストもiPhoneで録って「どや!」といって出すくらい……、それはさすがにクオリティが低すぎるんですけど、ラップだけiPhoneで録ってPCに入れて、インストは「これ使ったらええやん」といってやるというノリがなくて、「なんでみんなこんなに便利な世のなかなのにそうせえへんのかな」とすごく不思議ですね。

サンプリング・ミュージックはたしかにいますごく議論のしがいのあるテーマなんですよね。じつはいまサンプリングの時代だから。TOYOMU君はサンプリング・ミュージックのどこを面白く思っているんですか?

TOYOMU:突き詰めていったら編集している良さかなあ。最初は音の質感でしたね。古い質感が好きになったきっかけじゃないかな。

知っている曲が違う文脈で使われることの驚きみたいなものはあります?

TOYOMU:それはだんだん詳しくなっていく過程でそう思った。でも、初期衝動としては、それ(音の質感)でしたね。中学生、高校生だった自分にとっては、テープ録音されたものを切って並べていくというのは、ポルノグラフティやバンプ・オブ・チキンが演奏しているのとは明らかに違っていた。

ずっと家で作っていたんですよね?

TOYOMU:そうですね。レコードを買ってきて(それをサンプリングして作る)、というのをやっていました。レコードじゃないとダメという風潮がありますけど、ストーンズ・スロウのナレッジというビート・メイカーはサンプリングの音がめちゃくちゃ悪くて、どう考えてもYouTubeから音を録っているようなのを毎月何本もバンドキャンプにビート・テープとして出したりしていたので、「もう作るんだったら手段関係ないやん」と思いました。レコードを買いにいく時間で(音を)作れますよね。だからある意味で合理化ではありますよね。

いつから作っているのですか?

TOYOMU:MPCを買ったのは2009年なので6年くらい前ですね。

憧れのような人はいました?

TOYOMU:KREVAですね。あとはマミーDですね。最初に日本語ラップから入ったので。あの人らって「MPCをまず買え」という人じゃないですか。それで「MPCを買ってやったらああいう感じができるんや」と思ってMPCを買って、KREVAのソロとかを聴きながら「なるほどな、こういう構造か」って分析したり、あの人がスタジオでMPCを使って解説している動画を見たりしていました。

だとしたら、普通に、真っ当なJラップの道にいってもよさそうなのに。

TOYOMU:そうなんですよ。僕は最初はラップもやっていて、KREVAやマミーDはトラックメイカー兼ラッパーで、自分で曲を作って自分でラップもできるみたいなことに憧れていたので、最初はそれでいこうと思っていたんですよ。でもリスナー目線で考えてみると周りにラップでむちゃくちゃカッコいい人が多すぎて、「これは自分で全然無理やわ」と思って、そこでラップは断念したんですよ。「こんなにカッコいいのできへんし、全然歌詞も思いつかへんし、音楽作るのは好きなんやけどなあ」という思いがずっとあって、「じゃあもうラッパーのためにビートを作る」ということでビート・メイカーという役職があることがわかったからはじめたんですよね。

誰か他のラッパーとユニットを組んでみたりしたことはありますか?

TOYOMU:それはありましたよ。地元の同い年くらいの何人かで集まってクルーを作ったりしたことはありました。1回ミックスCDを出しましたけど、どうしてもラップがパッと返ってこなくて「インストはどれがいい?」とか言っていたら時間が経ってしまって、それがだんだん「はよ返せよ!」とイライラしはじめて。
 京都に限った話じゃないんですけど、もっとみんなラフにラップをやればいいのにな、と実感するんですね。さっき来てはった人(この前の取材者=JAPAN TIMESの記者)も「日本のアンダーグラウンドのラップを探しているけど、なにを見ていいかわからん」みたいなことを言ってはって、それは日本でミックス・テープ文化が全然根づかなかったということじゃないですか。まとまっているところが全然なくて、結局僕は「タワレコの『bounce』とか『ele-king』のチャートを見るしかないんじゃないですか?」と言うしかなかったんですね。日本のヒップホップのなかでみんなが「作品を作る=CDを出す」ということになってしまっていて、CDを出すということはスタジオでちゃんとレコーディングをしてというように真面目なんですよね。「なんでヒップホップをやっているのにそんなに真面目なんだ」と思ってしまって。
 もっとiPhoneでワーッと録って、なんならインストもiPhoneで録って「どや!」といって出すくらい……、それはさすがにクオリティが低すぎるんですけど、ラップだけiPhoneで録ってPCに入れて、インストは「これ使ったらええやん」といってやるというノリがなくて、「なんでみんなこんなに便利な世のなかなのにそうせえへんのかな」とすごく不思議ですね。僕がラッパーやったらガンガン人の曲を使いまくって、アップロードしまくってハイプをやるほうが早いと思うんですけどね。ライヴでかますというよりかは、それをやったほうが絶対にヒップホップ的に成りあがれるというか。KOHHとかリル・ウェインとかああいう人がいるのに、なんでそういうやりかたをやらんのかなあと思いますね。というのもあって僕の『印象』シリーズは毎月出そうとしていて、そういうミックス・テープのノリでみんなもどんどん作ればいいやんと思うんですけど、腰が重いというのが謎ですね。

現代の、次から次へと作品がアップロードされるその速度感はすごいものですが、それでは音楽がビジネスとして成り立たなくなるということ、そして作るという行為そのものがまったく意味が違ってきてしまうということに対する恐怖心も日本にはあるのかなと思うんですけど。

TOYOMU:なるほど。でも僕はそれがなぜ作る側にあるのかがわからなくて、作る側は自由にやって、それをどう思うかは企業や会社の問題じゃないですか。

カニエ・ウエストのリアクションというのは予想以上だったと思うのですが、海外でおもしろかったリアクションはありますか?

TOYOMU:おもしろかったのは向こうの「レディット」というちょっと明るい2ちゃんねるのようなサイトでカニエ・フォーラムみたいなのがあって、そこの「カニエのアルバムを妄想で作ってみたらしい」というスレッドに「小説としてはおもしろいと思うけど、妄想で作ってない。全部聴いてから作っている」と書いてあったのがおもしろかったですね(笑)。「こんなに似ているわけないし、絶対コイツ聴いている」からみたいな(笑)。

しかし「レディット」って、すごいところまで見ていますね。

TOYOMU:それはなんでかと言えば、どこでバズが起きているかがバンドキャンプのアクセス解析でわかるんですよね。「バズ」という項目があって、もちろんエレキングだって出ますよ。それで変遷を見ていたら「レディット」というのがやたらと書いてあって、見にいったら「2ちゃんか……」と思いましたけど(笑)。

[[SplitPage]]

もっと欲をかいたというか、自分ですべて作ったものを出したいと思ってきたんです。だからサンプリングで一音だけ録ってきて音階にわけて弾いていても、やっぱりどこかで借り物感に満足しきれなくて、今回はそういうことに頼らずにできたと思っているんです。

なるほど(笑)。TOYOMU君って、物静かな外見とは裏腹に、けっこう大胆な行為をやっているんですけど(笑)。ニコニコしながら言っていますが、普通こんなことはビビってできないと思います(笑)。

TOYOMU:それは「日本に住んでいるとただでさえアンテナが低いのに、出さなかったら知られていない、やっていないのと一緒だ」と思ったからなんですよね。せっかく作っているのに聴いてもらえないのがほんまに悲しいと思ってきて、だからそれだったら方法なんて選んでられへんよねという話で。しかもヒップホップ自体が手段を選ばずに新しいことをやるという音楽であるはずだと思うので、その考えからいったら怖いものはなにもないですよね。あとは個人レベルでやって怒られることなんてまずないから、なんでもやったらええやんと思うんです。

でも、今回の『ZEKKEI』がそうですが、商業流通を前提で作っているから、人騒がせなサンプリングもないわけで、自分の音をサンプリングしたんですよね。そういうときにどうやって自分のやり方を調整していくのですか?

TOYOMU:それはYMOとかを聴いてきた僕自身にミュージシャン気質みたいなものが入ったから、自分で作曲してメロディを作り出すということ自体がもしかしたら自分がもっとも目指していたところなんじゃないかと思います。最初はサンプリングとシンセの融合でうまいことやって、サンプリングに聴こえないものを作り出すというのが当初の目標でしたけど、もっと欲をかいたというか、自分ですべて作ったものを出したいと思ってきたんです。だからサンプリングで一音だけ録ってきて音階にわけて弾いていても、やっぱりどこかで借り物感に満足しきれなくて、今回はそういうことに頼らずにできたと思っているんです。今回はそういう欲求でしたね。そもそも欲求としてあったというのはあります。

サンプリング・ミュージックというのはある意味でコンセプチュアル・アートのようなもので、発想を楽しむというのがあるじゃないですか。それに対していま言ったような作り方というのは、自分で実際に絵を描くというような行為ですよね。

TOYOMU:だからコンセプチュアル・アートだけやっていた人が、自分で絵を描くのをやりはじめたという段階がいまですね。

それはやっていて面白かったですか?

TOYOMU:そうですね。いままで自分が挑戦していなかったことをやるんで、やっぱり無類に楽しいですね。僕はメロディやコードの勉強はいっさいしていないですけど、理論って……理論化して可視化しているだけなんで別に(感覚で)理解できればいらないと思うんですよね。サンプリングでコードを合わせたりするのをやっていて感覚として身についてきたので、サンプリングを外してメロディだけを作ってみたりするのがだんだんできるようになってきたということが大きいですね。
 今回はとりあえずの足がかりを作って、それをアルバムの基軸に繋げていきたいと思っていましたし、アルバムを作ることになってからあまりにも時間がないということもあったので、先にジャブ的な感じでひとつ出そうかという感じでしたね。カニエに一区切りするために、というのも一つありました。あれをいつまでも引きずるのは嫌だし、KOHHも「昔のことを忘れたらいい」「過去にしがみつくなんてダサい」と言っているじゃないですか。その感覚ですね。

なるほど。もう次に行こうということですね。

TOYOMU:新しいことのほうがしたいんで、いつまでも一緒のことをやっているのも単純に面白くないし、飽きてきますよね。

『なんとなく、パブロ』のようなギャグをもないですよね。

TOYOMU:そうですね。ギャグはタダでいっぱいやればいいし、それをやる一方でアルバムは超真剣に作ればいいんじゃないかなと思っていますね。別に(ギャグの)入れがいがあるんだったらアルバムに入れてもいいと思うんですけど、100まで振りきってやるというのはやらなくてもいいかなと。

ダンス・ミュージックなどといった縛りはなかったのですか?

TOYOMU:ジャンルということだけは定義づけてやりたくない、という考えは通してありました。「これはトラップですよ、これはハウスですよ、ヒップホップですよ」と最初から冠づけずに、「音楽ですよ」と言って出したかったので定義づけしないでやりましたね。ジャンルがあるからジャンルに従って作ったというのがそもそも嫌だし、「これがビートの作り方ですよ。これがカッコいいですよ」となっている状況が嫌だったから、その(ジャンルの)メソッドが確立したら絶対それをやらずに新しいものを作るということを前からずっとやっていますね。

それでなぜ『ZEKKEI』なのでしょうか?


TOYOMU
ZEKKEI

トラフィック

DowntempoElectronic

Amazon

TOYOMU:フィールド・レコーディングの曲も京都の音ですし、『印象』の5番目で『そうだ、京都。(Kyoto Music)』というのを作って人から感想を言われたりして、自分が好きな京都が祇園祭とかクール・ジャパン的な京都じゃなくて、落ち着いたアンビエントの方向の京都なのかなと思ったんですね。京都自体がそういうイメージであることを再認識して、曲を作るときにもそういうのを意識して作ったりしていたので、その延長で今回のEPの制作に取りかかったんですよね。だから『ZEKKEI』というタイトルにしたのは普通絶景と言ったら歌舞伎の石川五右衛門ですよね。あれは南禅寺じゃないですか。

なるほど。そっちから来たのですね。

TOYOMU:日本語のタイトルをつけたいというのがまずあったんですよ。カニエのときは全部邦題的なノリの日本語で書いて今回もやろうと思ったんですけど、それをちゃんとしたCD作品としてやっちゃうと勘違いされるんですよね。

ヴェイパーウェイヴなんかは、相変わらずグーグル翻訳したような日本語をそのままタイトルにしていたり。

TOYOMU:でもそれを僕がやったらヴェイパーウェイヴの人になっちゃう。それが嫌だったんですよ。そこは僕もものすごく悩みましたよ。全曲のタイトルが日本語でもよかったんですけど、やっぱりそれをオフィシャルでやって理解してもらえるまでの周知度はないと思って、嫌だったんですけど日本語の言葉で英語タイトルをつける、ということをなるべく心がけてやったんですよ。だから2曲目に“Incline”という曲があるんですけど、これも英語ではあるんですが、琵琶湖から京都まで引っ張ってきている水路があって、その水路に滑車をつけて荷物を運んでいた「インクライン」という輸送用の台があったんですよ。その線路とかを含めて「インクライン」と呼んでいたんですけど、京都の人はそういうのを小学生の頃から習ったりして知っているから、僕にとって「インクライン」という言葉は英語というより蹴上にあるものが先に思い浮かぶんですよね。もし日本語タイトルでやっていたなら、カタカナで“インクライン”にしていましたし。あと1曲目の“Atrium Jobo”というのも、「条坊制」から取っていて日本語的な意味がありますね。

それは曲のイメージと関係があるのでしょうか?

TOYOMU:曲のイメージからです。EPを作ってからも自分のなかで京都の印象が強かったので、全部曲ができてからタイトルを考えるときも、京都のどこかしらの場所がそれぞれ点在していると考えるとうまく解釈できたんですよ。例えば1曲目は京都駅で、2曲目はさっき言ったインクラインで、5曲目のフィールド・レコーディングは嵐山のほうで、そう考えていくと(京都の)俯瞰になっているんです。そういうふうに俯瞰で眺め見ている+日本語タイトルをなんとかしてつけたいということを考えて、それを理解するのに正しい言葉は『ZEKKEI』だと思ったんです。

当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、TOYOMU君のなかで京都というのは大きいのですね。

TOYOMU:そうですね。ただ音楽に国境は関係ないという話がよくあると思うんですけど、どこに住んでいたとしても住んでいる場所から生まれ出たものが絶対大きく影響しているはずなんですよ。それは京都に住んでいるから京都をレペゼンしたいということじゃなくて、もう少し俯瞰してみると自分が京都に生まれてからずっと住んでいて(その状況で)音楽を作ったらどうなるのか、ということを考えたうえでの京都なんですよ。もちろん京都愛はありますけど、そうじゃなくてもう少し冷静な見かたの京都であるということを言いたいですね。

アルバムは来年になるのでしょうか?

TOYOMU:来年の2月くらいかな。タイト・スケジュールですね。

ハイペースだね。『印象』シリーズもそうですが、作るのが好きですよね。

TOYOMU:パッと出したいので、時間かけて煮詰まってああだこうだ言うんじゃなくて、『印象』シリーズに関しては最初のインパクトだけで短期間で終わるものをどんどん出していったほうがいいかなと思って。それがあるのであんまりもったいぶっても忘れ去られるだけだなと思いますね。

やはり消費の速度は早いと思いますか?

TOYOMU:思います。それは星野源のリミックスがそうだったし、カニエのやつも3月に出して「Sampling-Love」に載ったあとワーッと盛り上がってスッと消えたので。突然もう聴かれなくなって「はあ、じゃあ次作るか」と思っていたところやったんですね。タダのものしか聴かないという状況は大きいと思いますね。みんな本当にそれしか聴かないですしね。

そういう状況のなかで音楽家はどうやっていくか、というのもテーマとしては大きいですよね。

TOYOMU:タダのものはお金を出して買って頂けるもののオマケというか、プロモーションとしてやるつもりではいるので、今回のカニエくらい実験的だったりギャグ的なことだったりしてやれることはこれからもやっていくとは思うんですよね。

それはそれで楽しみにしつつという考えなのですね。

TOYOMU:そうですね。けっこう早いペースですけど、おそらくEPが出るまでにやると思います(笑)。(※『印象』シリーズの最新作は宇多田ヒカルだった)そうやって動いていきたい感じはありますね。とにかく「あの人は音楽を作り続けているな」というふうに(言われるように)はなりたいですね。実際にやっていて「もうアイデアがない」みたいな状態もないので。

Goldie × Lee Bannon - ele-king

 10月にコンゴ・ナッティとマーラを迎えて開催された「Drum & Bass Sessions」こと「DBS」の20周年記念パーティ。なんと、その続報が届けられました。2016年を締めくくる「DBS20TH」第2弾は、ドラムンベース/ジャングルの帝王ゴールディと、〈ニンジャ・チューン〉などからのリリースで知られるリー・バノンの夢の共演です(リー・バノンは今月Dedekind Cut名義で新作『$uccessor』をリリースしたばかり)。相変わらず豪華な面子でございます。12月17日(土)は代官山UNITにて、一夜限りの「THE DARK KNIGHT BEFORE CHRISTMAS!!!」を体験しましょう。

★GOLDIE (aka RUFIGE KRU, Metalheadz, UK)

"KING OF DRUM & BASS"、ゴールディー。80年代にUK屈指のグラフィティ・アーティストとして名を馳せ、92年に4ヒーローの〈Reinforced〉からRUFIGE KRU名義でリリースを開始、ダークコアと呼ばれたハードコア・ブレイクビーツの新潮流を築く。94年にはレーベル〈Metalheadz〉を始動。95年に1stアルバム『TIMELESS』〈FFRR〉を発表、ドラムンベースの金字塔となる。98年の『SATURNZ RETURN』はKRSワン、ノエル・ギャラガーらをゲストに迎え、ヒップホップ、ロックとのクロスオーヴァーを示す。その後はレーベル運営、DJ活動、俳優業に多忙を極めるが07年、RUFIGE KRU名義で『MALICE IN WONDERLAND』を発表、08年に自伝的映画のサウンドトラックとなるアルバム『SINE TEMPUS』をデジタル・リリース。09年にはRUFIGE KRU名義の『MEMOIRS OF AN AFTERLIFE』を発表、またアートの分野でも個展を開催するなど、英国が生んだ現代希有のアーティストとして精力的な活動を続ける。12年、〈Metalheadz〉の通算100リリースにシングル「Freedom」を発表。13年には新曲を含む初のコンピレーション『THE ALCHEMIST: THE BEST OF 1992-2012』をCD3枚組でリリース。14年、〈Ministry of Sound〉からのヴィンテージMIXシリーズ『MASTERPIECE』を発表、ヘリテージ・オーケストラとのTIMELESS LIVEが好評を博す。16年、音楽とアートの功績を称えられ大英帝国勲章MBEを授与される。15年の「Broken Man」以降リリースはないが、フライング・ロータス、ブリアル、フォーテックらが参加した新作のリリースが待たれる!

★LEE BANNON aka DEDEKIND CUT (Ninja Tune, NON WORLDWIDE, USA)

カリフォルニア州サクラメント出身、現在はNY在住のビートメイカー/プロデューサー。映画からインスピレーションを得ることも多く、フィールド・レコーディングを多用した自由なプロダクションが賞賛を浴びた1stアルバム『FANTASTIC PLASTIC』を2012年にFLYING LOTUSの作品で名高い〈Plug Research〉からリリース。またブルックリンの若手ヒップホップ・クルー、PRO ERAとの交流を経て、代表格のJOEY BADA$$のプロダクションや彼らのツアーDJとして注目を集める。13年にはダーク&エクスペリメンタルな『CALIGULA THEME MUSIC 2.7.5』、『NEVER/MIND/THE/DARKNESS/OF/IT...』の2作のデジタル・アルバムのリリースを経て〈Ninja Tune〉と契約、ダウンテンポの「Place/Crusher」を発表。14年、〈Ninja Tune〉からアルバム『ALTERNATE/ENDINGS』を発表、90'sジャングル/ドラム&ベースのヴァイブを独自のサイファイ音響&漆黒ビーツで表現し、『Rolling Stone』誌のBest Electronic and Dance Albumの15位となる。15年には前作とは趣を異にするドープなドローン/アンビエント色の濃厚な怪作『PATTERN OF EXCEL』をリリース。その後、突然改名を宣言し、新たにDEDEKIND CUTの名前でEP「Thot eNhançer」をセルフ・リリース。LEE BANNONと決別したDEDEKIND CUTはエクスペリメンタルなノイズ、ニューエイジ、アンビエントの現代的なアプローチを標榜し、16年に「LAST」、「American Zen」を発表、11月には注目のアルバム『$UCCESSOR』がリリースされる。

R.I.P David Mancuso - ele-king

 目と目を合わせるだけでチカラが湧いてきて元気をくれる人というのが稀にいます。最初に会ったときからDavid Mancusoは自分にとってそういう人でした。深く誠実な眼差し。そして握手を交わしたときの優しい笑顔と伝わってくるポジティヴなエネルギーは一生忘れられません。
 2016年11月14日。そのDavid Mancusoが亡くなったと聞いて、とても残念で、悲しく、寂しい気持ちです。

 私は仲間とはじめたパーティ、Sunday Afternoon Session “gallery”をやっていくなかで、札幌の“Precious Hall / Filmore North”の力を借りて、1999年~2011年まで年に1回くらいのペースでDavidを東京に招き“Music is Love”というパーティを開催してきました。David Mancusoが長年かけて積み上げて来たものをなるべくアウトプットできるように心がけて。

 Davidは常にパーティに来てくれる人のために生きていたように思います。音楽が好きなすべての私たちのために。そしてそれはおなじように音楽そのもののために私たちにパーティを開いていたとも言えるでしょう。
 音楽のために。私たちのために。常に音響を追求し、皆がベストな状況で音楽を感じられるようにと優しく細やかな配慮がパーティーには溢れてました。彼はアナログ・レコードにこだわり、ターンテーブル、カートリッジ、アンプ、スピーカーを選び抜き、サウンドシステムのセッテングに注力していました。
 ドライヴ感のある締まった低音。抜けの良い中高音域。そして特筆すべきはフロアの天井の辺りで、その音楽と皆の発するヴァイブレーションとがミックスされて、常に反復され響いているマジカルでものすごく心地よい倍音。それはまさにミュージック・マジックでした。

 彼の音楽に対する深いリスペクト。そして音楽を愛する人たちへのホスピタリティー。これが何よりあの素晴らしいミュージック・マジックを創り出していたのでしょう。音楽の持つメッセージとその気持ち良い音で最高の瞬間を何度もシェアしてくれました! そして私たちにポジティヴなエネルギーを与えてくれました。
 45年以上に渡りパーティ本来の在り方を実践し続け、音楽をプレイし続けてくれた彼の愛とスピリットに感謝します。
 そして、彼が伝えてくれたこれらの大切なものを未来に繋げていきたいと思います。

 Thank you David.
 Rest in Peace.
 Music is Love.

2016.11.19
Kenji Hasegawa (gallery)

 これはドイツのテクノの情熱と狂騒の物語である。90年代のはじまりとおわりの物語。本書で、ベルリンの壁崩壊後、ヨーロッパ、ことドイツにおいてテクノがいかに重要な意味を持っていたのかをぼくたちは知ることになる。過去を振り返らず、前途洋々たる未来を見つめ、自らを祝福することで生まれた革命──テクノを要求した人たち(西側)とテクノを必要とした人たち(東側)との邂逅。ドイツのテクノが、のちにラヴ・パレードに代表される巨大なレイヴとなったのには理由があった。
 ウエストバムは、ドイツにおいて、お茶の間でも知られるDJである(そこは盟友、石野卓球と同じ)。彼は、ドイツでもっとも早くシカゴ・ハウスをスピンしたDJであり、ドイツで最初のアシッド・ハウスと言われる「モンキー・セイ、モンキー・ドゥ」(曲名はイギー・ポップの歌詞からの引用)を作ったプロデューサーだ。メガ・レイヴのメイデイを主宰し、ドイツにおけるレイヴ・カルチャーの土台を築いた最重要人物でもある。『夜の力』は、そんな彼の半生が描かれている。同時に、80年代のノイエ・ドイチェ・ヴェレからハウスの時代へと、そしてテクノとレイヴの時代へと展開する模様がユーモラスなタッチで描かれている(冗談が好きなのも卓球と同じ)。

 それにしても……みなさんはウエストバムという名前にどんなイメージをもってらっしゃるだろうか。ドイツ・テクノ界の巨匠、じつは技術のあるターンテーブリスト、卓球が尊敬するDJ……他には? まあ、いろいろあるかもしれないけれど、彼の口からアドルノやショーペンハウアーという思想家の名前が出てくるとは、思わないのではないでしょうか? また、〈ミル・プラトー〉のアヒムと仲良しだってこととか。つーか、ヒッピー左翼系の大学教授の息子だったんですね。などなど、意外な事実やさりげない知性も垣間見れる。たとえば、90年代初頭のジャーマン・テクノを聴き漁っていた世代が読んだら、スヴェン・フェートをけっこうおちょっくているところは笑えます。ウエストバムはジャーマン・トランスが本当に嫌いだった……。大丈夫ですよ、愛とギャグのある批判なんで。
 DAFのガビ・デルガドと一緒に手作りのシカゴ・ハウスをかけるパーティを主宰するといういい話もあるし、UKセカンド・サマー・オブ・ラヴ体験はもちろん、デリック・メイをベルリンに初めて招聘したときのエピソード、URとの思い出も出てくるし、ウエストバムがデトロイトでまわした話もある。さらにまたもうひとつ言うと、ドイツ語で書かれ、ドイツの出版社から昨年刊行された本書には、しっかり石野卓球とWIREのエピソードも描かれている。
 これは90年代の終わりの物語ではあるが、あらたな祝祭を要求する物語でもある。
 テクノ・ファンは必読。発売は11月21日です!


ウエストバム (著),
楯岡三和+トーマス・シュレーダー (翻訳)
『夜の力──ウエストバム自伝』
Amazon

interview with Romare - ele-king


Romare
Love Songs: Part Two

Ninja Tune/ビート

HouseDisco

Amazon

 ロメアーが昨年リリースしたアルバム『Projections』は、この日本でもじわじわと、時間をかけながら受け入れられている。その音楽はデトロイトのアンドレスのディープ・ハウスのムードに近く、ムーディーマンやマッドリブの“古きブラック・ミュージック愛”とも連なる。コラージュ的で、しかもそのセンスはアフリカン・アメリカンへの愛情と強く共振する。
 そんなわけで、ハウスやヒップホップのリスナーは、この1年のあいだそれぞれゆっくりとロメアーと出会い、いまではたくさんの人が聴いている……のだが、ロメアーはブリストルの〈ブラック・エイカー〉からデビューしたイギリス人で、アメリカの貧民街に暮らしているわけではない。
 話は変わるが、PC前の妄想もぼくは好きだが、こうして取材をすることは、その人の作品を理解するうえではものすごく大切な行為である。ロメアーに関して、ぼくは大きな誤謬を犯していたので、今回の取材はひじょうにためになった。
 2012年のデビュー・シングルに「Afrocentrism(アフリカ中心主義)」という言葉を冠したロメアーは、続く2013年の「Love Songs」においても、シカゴのフットワークの影響を取り入れていた。こうなるとこの人は、UKの音楽シーンに昔からいる、いわゆる“ブラック・ミュージック・フリーク”かと思ってしまっても無理もないだろう……と自己弁護めいて嫌な気分になるが、じつは彼の本質はそこではなかった……とういことが明らかになった取材だった。
 新作の『ラヴ・ソングス:パート2』は、前作同様クオリティの高い作品であり、ロマンティックなダンス音楽でもある。カリブーのような最良のUKダンス・ミュージックともリンクする。照れることなく「ラヴ・ソング」と言ってしまう純な心意気、ぜひ聴いて欲しい。

今回のアルバムはもっとヨーロピアンやブリティッシュ・フォークからの影響が強いね。他にもディスコやアイリッシュ音楽とかの影響もあったんだけど、僕はいろいろな違う場所の文化の音楽を取り入れたいんだ。

ロメアー・ベアーデンといえば、ハーレムにおけるさまざまな場面のアフリカ系アメリカ人を描いた芸術家です。彼の何があなたをそこまで強く捉えたのですか?

ロメアー:もともとあるものに自分が作ったものをはめ込んでいくという手法にとても惹かれたんだ。新聞や雑誌という従来からあるもののコラージュに自分のペインティングを加えて新しい作品として出すという形にとても興味を惹かれた。僕がやりたいのはこれの音楽ヴァージョンだったし、まさしくこの手法だと思ったね。

音楽とは別のところで、あなたはアフリカ史、アフリカン・アメリカン史を学んでいたのでしょうか?

ロメアー:学校では勉強したけど、いつも音楽をやりたいと思ってたし、そのときは興味があって勉強してたけど、いまはいろいろなことに興味を持っているよ。

アフリカン・アメリカンの文化全般に興味があるのでしょうか?

ロメアー:アフリカン・アメリカン音楽シーンに興味があるんだ。彼らが生んできたジャズ、ブルースやゴスペル、ディスコ、ヒップホップなどの音楽は、今日のメジャー音楽へとても影響を与えているからね。だから僕は、彼らの生んできたものにとてもリスペクトを払っているんだ。
 ただ『Projections』に比べたら今回の作品への影響は少ないかな。今回のアルバムはもっとヨーロピアンやブリティッシュ・フォークからの影響が強いね。他にもディスコやアイリッシュ音楽とかの影響もあったんだけど、僕はいろいろな違う場所の文化の音楽を取り入れたいんだ。

こんな現在だからこそ、新作は、『Love Songs』シリーズの『Part Two』になったのではないかと邪推してみたのですが。

ロメアー:『Part Two』は、世界に向けたラヴ・ソングだよ。結構サンプリングの素材が多かったしね。基本的に僕は、自分のリリースするものに毎回テーマを設けるようにしているんだけど、今回のテーマはサンプリングの楽曲のなかの歌詞によるところが大きい。テーマを設けるとサンプリングするときの選曲がわりとスムーズなのとまとめやすいという利点があるんだ。というのも、僕はあらゆる感情をアルバムに詰め込みたいから、そうなるとわりと膨大の量のサンプルが必要になってくる。でもテーマがあればその膨大な量のサンプルもまとめることができるからとてもいいんだよ。

「Part One」はまだジュークやアフリカのエレクトロの影響下にあり、しかし『Part Two』の音楽性はより寛容で、洗練されています。ということは、音楽的には『Projections』を発展させたもので、コンセプト的に「Part One」を継承するものだと考えられます。あなたが托した「Love Songs」の意味について話してください。

ロメアー:うん、それはとても的確にとらえていると思う。たしかに僕が使ってるリズムやサンプルの使い方とかその通りだと思う。“Part Two”はトラックの数も10あるから、そういう意味では言ってる通り寛容だと思うし、洗練もされていると思う。最初の曲はジミ・ヘンドリックスと彼のガールフレンドについての関係性を描いたものなんだけど、テーマはひとつだけど形が違うっていうものを表したかったんだ。

曲名からも今回が“LOVE”で統一されていることが伺えるのですが、ここには啓発的な意図もあるのでしょうか?

ロメアー:いま言ったことと同じなんだけど、「LOVE」ってとても大きなテーマだし、どの音楽ジャンルでも取り上げているもっとも大きなテーマだと思うんだよね。人間として永遠に考えて、乗り越えなくちゃいけない問題だと思うんだ。それに興味深い歌詞が一番多いテーマでもあるしね。

“L.U.V”のような曲には、ある種のニューエイジ的なセンス(たとえば最近のマシューデイヴィッドが試みているような)も感じるのですが、そう言われるのは心外ですか?

ロメアー:えーっと、まずマシューデイヴィッドが誰なのかちょっとわからないんだけど……まずこのタイトルは、歌ってる歌詞のなかから選んだんだ。僕はサンプルを使う時にサンプルのなかで歌ってる歌詞のなかから歌詞をつけることが多いんだ。

その“L.U.V”でサンプリングしている声について教えてもらえますか? 

ロメアー:サンプルだから誰が歌ってるかは明かせないんだ、ごめん。

“New Love”なんかはいわゆるスピリチュアルで、瞑想的なんですが、ここにも啓発的なものを感じるんですよね。この曲に込めたあなたの思いとは?

ロメアー:テクノのパーティに行って影響されて作った曲なんだけど、あんまり7分の曲って作らないんだけど、トランスな感じにしたかったんだよね。それがたぶんスピリチュアルな感じを生んでいるんだと思う。

世界に向けたラヴ・ソングだよ。結構サンプリングの素材が多かったしね。基本的に僕は、自分のリリースするものに毎回テーマを設けるようにしているんだけど、今回のテーマはサンプリングの楽曲のなかの歌詞によるところが大きい。

「Love Songs: Part One」は2013年にEPとしてリリースされましたが、『Part Two』は当初からアルバムになる予定だったのでしょうか?

ロメアー:いや、最初はアルバムを作ろうとは思ってなかったんだ。最初に「Love Songs」を“Part One”としたのは、テーマが大きすぎておさまりきれなかったから、シリーズ化するためにわざと“Part One”とつけたんだ。そうすれば色んな形でまたLove Songsを捉えることも出来るし次につなげられると思ったんだ。正直“Part Two”はアルバムにしようと考えてたわけじゃないんだけど、いまはアルバムとしてリリースしたいと思ってたからこの形にできて良かったと思ってる。

デビュー・シングルに“Afrocentrism(アフリカ中心主義)”とまで謳っていますが、それはいまのあなたにも継承されているコンセプトなのでしょうか? 

ロメアー:僕はいろいろな国のいろいろな文化に興味があってひとつのことに捉われていたくないというのもある。だからいまはもっとイギリスやヨーロッパの歴史やカルチャーに興味があるね。

〈ブラック・エーカー〉時代はいろいろなリズムを試していたと思うんですけど、『Projections』で、ハウス・ミュージックというフォーマットのなかにそれらを組み込みましたね。その経緯について話してください。

ロメアー:ハウス・ミュージックについてはよく知らないんだ。ディスコの方がずっと興味はあるけど。もしかして僕の音楽をどこかにあてはめるには、ハウスのところにはめるしかないのかもしれないけど、僕はディスコ音楽を取り入れているし、みんなが踊れるダンス・ミュージックがいいなって。DJしてて楽しい音楽の方がいいしね。

逆に、〈ブラック・エーカー〉時代はレーベルのカラーに合わせて、ジュークやエレクトロをやったフシもあったんですか?

ロメアー:いや、そういうわけじゃないよ。かなり昔にジュークやフットワークに熱心だった時もあったんだけど、そこで感じたのは、ダンスっていうジャンルは必ずその音楽に合わせないといけないってことだった。だから僕は、音楽をやっている者としてもっと違うこともやってみたいなって思ったから興味の先が移ったっていうのがあるね。

ムーディーマンやセオ・パリッシュについて訊きますが、彼らのどこを評価してますか?

ロメアー:好きなのは断然ムーディーマンなんだけど、彼の音楽にはソウルを感じるんだよね。それに限界を押し上げる力があるというか。

「Meditations On Afrocentrism」から今作まで、あなたのアートワークがあなた自身の手によるコラージュ作品であるように、あなたはサンプリングを扱い、音楽を作っています。あなたのサンプリングは、なんでもいいわけではなく、サンプリング・ソースそのものにも意味がありますよね? 今回は、サンプリングにおいて前作までとどのような変化がありましたか?

ロメアー:前作との違いはサンプリングの数が減ってることだね。今回はサンプリングを減らして楽器をもっと使ってるのがいちばんの違いだね。前よりもっとキーボードやシンセイサイザーを使いたくて取り入れているんだ。

“Je T'aime”とか、“All Night”とか。こういう曲はクラブ・フレンドリーの典型的な曲だと思うんですけど、あなたはクラブ・カルチャーのどんなところを良きものと思うんですか?

ロメアー:音楽って自分が音から受ける影響だと思うんだよね。クラブ・カルチャーって新しい音楽に出会える場でもあると思う。そこでまたレコードにも興味を持ったりね。いろんな垣根を越えられる空間じゃないかな。

USのヒップホップやUKのグライムからインスパイアされることはありますか?

ロメアー:グライムからはまったくインスパイアされたことはないね。ヒップホップは多分にあると思う。結局はサンプルだけど、ウータン・クランとかは、なんていうかダスティーだけど温かみがあって、ナチュラルでオーガニックな音楽だと思う。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498