Home > Interviews > interview with Romare - 世界に向けたラヴ・ソング
Romare Love Songs: Part Two Ninja Tune/ビート |
ロメアーが昨年リリースしたアルバム『Projections』は、この日本でもじわじわと、時間をかけながら受け入れられている。その音楽はデトロイトのアンドレスのディープ・ハウスのムードに近く、ムーディーマンやマッドリブの“古きブラック・ミュージック愛”とも連なる。コラージュ的で、しかもそのセンスはアフリカン・アメリカンへの愛情と強く共振する。
そんなわけで、ハウスやヒップホップのリスナーは、この1年のあいだそれぞれゆっくりとロメアーと出会い、いまではたくさんの人が聴いている……のだが、ロメアーはブリストルの〈ブラック・エイカー〉からデビューしたイギリス人で、アメリカの貧民街に暮らしているわけではない。
話は変わるが、PC前の妄想もぼくは好きだが、こうして取材をすることは、その人の作品を理解するうえではものすごく大切な行為である。ロメアーに関して、ぼくは大きな誤謬を犯していたので、今回の取材はひじょうにためになった。
2012年のデビュー・シングルに「Afrocentrism(アフリカ中心主義)」という言葉を冠したロメアーは、続く2013年の「Love Songs」においても、シカゴのフットワークの影響を取り入れていた。こうなるとこの人は、UKの音楽シーンに昔からいる、いわゆる“ブラック・ミュージック・フリーク”かと思ってしまっても無理もないだろう……と自己弁護めいて嫌な気分になるが、じつは彼の本質はそこではなかった……とういことが明らかになった取材だった。
新作の『ラヴ・ソングス:パート2』は、前作同様クオリティの高い作品であり、ロマンティックなダンス音楽でもある。カリブーのような最良のUKダンス・ミュージックともリンクする。照れることなく「ラヴ・ソング」と言ってしまう純な心意気、ぜひ聴いて欲しい。
今回のアルバムはもっとヨーロピアンやブリティッシュ・フォークからの影響が強いね。他にもディスコやアイリッシュ音楽とかの影響もあったんだけど、僕はいろいろな違う場所の文化の音楽を取り入れたいんだ。
■ロメアー・ベアーデンといえば、ハーレムにおけるさまざまな場面のアフリカ系アメリカ人を描いた芸術家です。彼の何があなたをそこまで強く捉えたのですか?
ロメアー:もともとあるものに自分が作ったものをはめ込んでいくという手法にとても惹かれたんだ。新聞や雑誌という従来からあるもののコラージュに自分のペインティングを加えて新しい作品として出すという形にとても興味を惹かれた。僕がやりたいのはこれの音楽ヴァージョンだったし、まさしくこの手法だと思ったね。
■音楽とは別のところで、あなたはアフリカ史、アフリカン・アメリカン史を学んでいたのでしょうか?
ロメアー:学校では勉強したけど、いつも音楽をやりたいと思ってたし、そのときは興味があって勉強してたけど、いまはいろいろなことに興味を持っているよ。
■アフリカン・アメリカンの文化全般に興味があるのでしょうか?
ロメアー:アフリカン・アメリカン音楽シーンに興味があるんだ。彼らが生んできたジャズ、ブルースやゴスペル、ディスコ、ヒップホップなどの音楽は、今日のメジャー音楽へとても影響を与えているからね。だから僕は、彼らの生んできたものにとてもリスペクトを払っているんだ。
ただ『Projections』に比べたら今回の作品への影響は少ないかな。今回のアルバムはもっとヨーロピアンやブリティッシュ・フォークからの影響が強いね。他にもディスコやアイリッシュ音楽とかの影響もあったんだけど、僕はいろいろな違う場所の文化の音楽を取り入れたいんだ。
■こんな現在だからこそ、新作は、『Love Songs』シリーズの『Part Two』になったのではないかと邪推してみたのですが。
ロメアー:『Part Two』は、世界に向けたラヴ・ソングだよ。結構サンプリングの素材が多かったしね。基本的に僕は、自分のリリースするものに毎回テーマを設けるようにしているんだけど、今回のテーマはサンプリングの楽曲のなかの歌詞によるところが大きい。テーマを設けるとサンプリングするときの選曲がわりとスムーズなのとまとめやすいという利点があるんだ。というのも、僕はあらゆる感情をアルバムに詰め込みたいから、そうなるとわりと膨大の量のサンプルが必要になってくる。でもテーマがあればその膨大な量のサンプルもまとめることができるからとてもいいんだよ。
■「Part One」はまだジュークやアフリカのエレクトロの影響下にあり、しかし『Part Two』の音楽性はより寛容で、洗練されています。ということは、音楽的には『Projections』を発展させたもので、コンセプト的に「Part One」を継承するものだと考えられます。あなたが托した「Love Songs」の意味について話してください。
ロメアー:うん、それはとても的確にとらえていると思う。たしかに僕が使ってるリズムやサンプルの使い方とかその通りだと思う。“Part Two”はトラックの数も10あるから、そういう意味では言ってる通り寛容だと思うし、洗練もされていると思う。最初の曲はジミ・ヘンドリックスと彼のガールフレンドについての関係性を描いたものなんだけど、テーマはひとつだけど形が違うっていうものを表したかったんだ。
■曲名からも今回が“LOVE”で統一されていることが伺えるのですが、ここには啓発的な意図もあるのでしょうか?
ロメアー:いま言ったことと同じなんだけど、「LOVE」ってとても大きなテーマだし、どの音楽ジャンルでも取り上げているもっとも大きなテーマだと思うんだよね。人間として永遠に考えて、乗り越えなくちゃいけない問題だと思うんだ。それに興味深い歌詞が一番多いテーマでもあるしね。
■“L.U.V”のような曲には、ある種のニューエイジ的なセンス(たとえば最近のマシューデイヴィッドが試みているような)も感じるのですが、そう言われるのは心外ですか?
ロメアー:えーっと、まずマシューデイヴィッドが誰なのかちょっとわからないんだけど……まずこのタイトルは、歌ってる歌詞のなかから選んだんだ。僕はサンプルを使う時にサンプルのなかで歌ってる歌詞のなかから歌詞をつけることが多いんだ。
■その“L.U.V”でサンプリングしている声について教えてもらえますか?
ロメアー:サンプルだから誰が歌ってるかは明かせないんだ、ごめん。
■“New Love”なんかはいわゆるスピリチュアルで、瞑想的なんですが、ここにも啓発的なものを感じるんですよね。この曲に込めたあなたの思いとは?
ロメアー:テクノのパーティに行って影響されて作った曲なんだけど、あんまり7分の曲って作らないんだけど、トランスな感じにしたかったんだよね。それがたぶんスピリチュアルな感じを生んでいるんだと思う。
世界に向けたラヴ・ソングだよ。結構サンプリングの素材が多かったしね。基本的に僕は、自分のリリースするものに毎回テーマを設けるようにしているんだけど、今回のテーマはサンプリングの楽曲のなかの歌詞によるところが大きい。
■「Love Songs: Part One」は2013年にEPとしてリリースされましたが、『Part Two』は当初からアルバムになる予定だったのでしょうか?
ロメアー:いや、最初はアルバムを作ろうとは思ってなかったんだ。最初に「Love Songs」を“Part One”としたのは、テーマが大きすぎておさまりきれなかったから、シリーズ化するためにわざと“Part One”とつけたんだ。そうすれば色んな形でまたLove Songsを捉えることも出来るし次につなげられると思ったんだ。正直“Part Two”はアルバムにしようと考えてたわけじゃないんだけど、いまはアルバムとしてリリースしたいと思ってたからこの形にできて良かったと思ってる。
■デビュー・シングルに“Afrocentrism(アフリカ中心主義)”とまで謳っていますが、それはいまのあなたにも継承されているコンセプトなのでしょうか?
ロメアー:僕はいろいろな国のいろいろな文化に興味があってひとつのことに捉われていたくないというのもある。だからいまはもっとイギリスやヨーロッパの歴史やカルチャーに興味があるね。
■〈ブラック・エーカー〉時代はいろいろなリズムを試していたと思うんですけど、『Projections』で、ハウス・ミュージックというフォーマットのなかにそれらを組み込みましたね。その経緯について話してください。
ロメアー:ハウス・ミュージックについてはよく知らないんだ。ディスコの方がずっと興味はあるけど。もしかして僕の音楽をどこかにあてはめるには、ハウスのところにはめるしかないのかもしれないけど、僕はディスコ音楽を取り入れているし、みんなが踊れるダンス・ミュージックがいいなって。DJしてて楽しい音楽の方がいいしね。
■逆に、〈ブラック・エーカー〉時代はレーベルのカラーに合わせて、ジュークやエレクトロをやったフシもあったんですか?
ロメアー:いや、そういうわけじゃないよ。かなり昔にジュークやフットワークに熱心だった時もあったんだけど、そこで感じたのは、ダンスっていうジャンルは必ずその音楽に合わせないといけないってことだった。だから僕は、音楽をやっている者としてもっと違うこともやってみたいなって思ったから興味の先が移ったっていうのがあるね。
■ムーディーマンやセオ・パリッシュについて訊きますが、彼らのどこを評価してますか?
ロメアー:好きなのは断然ムーディーマンなんだけど、彼の音楽にはソウルを感じるんだよね。それに限界を押し上げる力があるというか。
■「Meditations On Afrocentrism」から今作まで、あなたのアートワークがあなた自身の手によるコラージュ作品であるように、あなたはサンプリングを扱い、音楽を作っています。あなたのサンプリングは、なんでもいいわけではなく、サンプリング・ソースそのものにも意味がありますよね? 今回は、サンプリングにおいて前作までとどのような変化がありましたか?
ロメアー:前作との違いはサンプリングの数が減ってることだね。今回はサンプリングを減らして楽器をもっと使ってるのがいちばんの違いだね。前よりもっとキーボードやシンセイサイザーを使いたくて取り入れているんだ。
■“Je T'aime”とか、“All Night”とか。こういう曲はクラブ・フレンドリーの典型的な曲だと思うんですけど、あなたはクラブ・カルチャーのどんなところを良きものと思うんですか?
ロメアー:音楽って自分が音から受ける影響だと思うんだよね。クラブ・カルチャーって新しい音楽に出会える場でもあると思う。そこでまたレコードにも興味を持ったりね。いろんな垣根を越えられる空間じゃないかな。
■USのヒップホップやUKのグライムからインスパイアされることはありますか?
ロメアー:グライムからはまったくインスパイアされたことはないね。ヒップホップは多分にあると思う。結局はサンプルだけど、ウータン・クランとかは、なんていうかダスティーだけど温かみがあって、ナチュラルでオーガニックな音楽だと思う。
質問:野田努(2016年11月17日)