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3人組黒人女性コーラス・グループのキングを最初に耳にしたのは2011年のこと。「ザ・ストーリー」という3曲入りの自主EPで、その中の“ヘイ”という曲はジャイルス・ピーターソンのコンピ『ブラウンズウッド・バブラーズ』にも収録されたので、その頃からチェックしていた人も多いだろう。音楽マガジンやブログなどでも評判を呼び、ケンドリック・ラマーはミックス・テープ『セクション80』で“ヘイ”のサンプリングを正式に依頼したそうだ。そうして彼女たちの魅力の虜になったひとりにプリンスがおり、自身のライヴの前座に迎えている。ツアーではエリカ・バドゥ、ミシェル・ンデゲオチェロ、ローラ・マヴーラ、リアン・ラ・ハヴァスなどもサポートしている。そして忘れてならないのが、ロバート・グラスパー・エクスペリメントの『ブラック・レディオ』での“ムーヴ・ラヴ”への抜擢だ。このアルバムはグラミーにも輝いたので、それに伴って彼女たちも一気に脚光を集めたことだろう。
自身の作品はまだ「ザ・ストーリー」のみにもかかわらず、彼女たちの元にはさまざまなコラボ・オファーが届き、アヴィーチー、ザ・フォーリン・エクスチェンジ、ジル・スコットの作品へ参加し、ビラル、エリック・ロバーソンとは共同で作曲を行うといった具合だ。ほかにもフェラ・クティ・トリビュートの『レッド・ホット+フェラ』へ“ゴー・スロウ”という曲を提供し、これから公開予定のマイルス・デイヴィスの伝記映画のサントラやリミックス企画への参加も伝えられる。アルバム・デビュー前に既にこれだけ話題となっているアーティストもあまり記憶にないが、「ザ・ストーリー」から5年も待たされてようやく完成したのが『ウィー・アー・キング』である(なお、「ザ・ストーリー」の3曲もエクステンディッド・ヴァージョンで収められている)。
キングはミネアポリス生まれの双子の姉妹パリス・ストローザーとアンバー・ストローザーが、ロサンゼルス生まれのアニタ・バイアスとボストンで出会って結成された。現在はロサンゼルスをベースに活動し、パリスを中心に自らサウンド・プロダクションも行う。3人ともけっして声量があるわけではなく、正直なところ線の細い歌声だが、そのかわりジャネット・ジャクソンやアリーヤのような可憐な声質なので、繊細な表現はもってこいだろう。3人がバラバラにソロをとることはほぼなく、息のあったハーモニーを常に聴かせる。コーラス・ワークはアトモスフェリックな質感を大切にしたスウィートなもので、サウンドもスローやミディアムが中心。エレクトリックなサウンド・プロダクションを持ち込んではいるが、あくまで歌声の持つナチュラルさやアコースティックなテイストを損なわないように配慮している。伝統的なソウル・コーラス/R&Bグループ・スタイルに基づきながらも、アレンジは現代的。そんなレトロ・フューチャーなところがキングの魅力ではないだろうか。“スーパーナチュラル”がそうした1曲で、ロバート・グラスパー・エクスペリメントに彼女たちが迎えられた理由がわかるだろう。“ヘイ”にしても、1960年代的なスウィートなソウル・コーラスにソフト・サイケに通じるコズミックなサウンド・プロデュースを施し、まるでザ・シュープリームスがフリー・デザインといっしょにやったかのようなドリーミーな世界がおもしろい。
“ザ・ライト・ワン”や“ザ・グレーテスト”はライやジ・インターネットあたりと、“ザ・ストーリー”はハウ・トゥ・ドレス・ウェルあたりと同列で聴くことができるオルタナ系R&B。ただし、アレンジをいくら現代的にしていても、核となるソウル・ミュージックからは外れておらず、彼女たちがベーシックな作曲技法を持っていることがわかる。“ラヴ・ソング”や“キャリー・オン”などを聴くと、クインシー・ジョーンズ、スティーヴィー・ワンダー、パトリース・ラッシェンなど往年のアーティストたちのエッセンスをきちんと受け継いでいることがわかるだろう。同時にスティーリー・ダンにも影響を受けたと述べているように、少しひねくれたポップ・センスやAORテイストもあり、そんなところがありきたりのR&Bではないキングの魅力のひとつとなっているのではないか。いまの時流だけで音楽をやっているアーティストではなく、継承すべき伝統はしっかりと身につけているのがキングだ。
小川充