「Nothing」と一致するもの

Dream Wife - ele-king

 先日おこなわれた第60回グラミー賞は、後味が悪いものになってしまった。今回のグラミー賞は性差別撲滅運動 Time's Up に賛同する白いバラで彩られ、さらにケシャが自身のセクハラ体験に基づいた曲“Praying”を披露するなど、性差別に批判的な姿勢を打ちだしていた。しかし蓋を開けてみれば、受賞したアーティストの多くが男性だった。
 このような矛盾を晒したグラミー賞は多くの批判を受けた。BBCは『Bruno Mars grabs (nearly) all the Grammys - but where were the women?』という記事でその矛盾を取りあげ、NPRは人種差別的な現在のアメリカ政府に例える辛辣な言葉を残している。

 これらの指摘に対し、グラミー賞の会長であるニール・ポートナウは、「女性たちはもっと努力しなきゃいけない」と言ってのけた。当然この発言も批判され、チャーリーXCXといった多くのアーティストが反応している。
 筆者もポートナウの発言にはあきれるしかなかった。例えばエレクトロニック・ミュージックに限っても、エリゼ・マリー・ペイド、エリアーヌ・ラディーグ、スザンヌ・チアーニなど、多くの女性たちが素晴らしい作品を残し、音楽史を前進させてきた。こうした史実を無視して、「努力しなきゃいけない」と言ってしまう男がグラミー賞の会長という現実は、笑い話にすらならないほど虚しい。

 この虚しさに一筋の光を差してくれたのが、『Dream Wife』と名づけられた爽快なアルバムだ。本作を作りあげたのは、イギリスのドリーム・ワイフというバンド。メンバーは、ラケル・ミョル(ヴォーカル)、アリス・ゴー(ギター)、ベラ・ポドパデック(ベース)の3人。2015年、ブライトンのアート・カレッジで3人が出逢ったのをきっかけに結成されたそうだ。サウス・ロンドンを盛りあげているシェイムやHMLTDといった新世代バンドとも交流があり、こうした繋がりを経由して3人にたどり着いた者もいるだろう。
 筆者がドリーム・ワイフを知ったのは、2016年に観た“Kids”のMVだった。このMVで3人はピンクを基調としたファッションを身にまとい、おまけに映画『ヴァージン・スーサイズ』を連想させるシーンも飛びだすなど、ガーリーとされるイメージを打ちだしていた。面白いのは、そのイメージの中でダンベル運動をするといった、男性的なマッチョさを散りばめていたことだ。こうしたMVを作るのが、ドリーム・ワイフ(理想の妻)というアイロニーたっぷりなバンドなのだから、惹かれるまでに時間はかからなかった。あきらかに3人は“女性”という言葉にまとわりつく固定観念を壊そうとしている。だからこそ、『Radical』『Skinny』のインダヴューでは性差別について積極的に発言したりもするのだ。

 そんな3人にとって本作はデビュー・アルバムとなる。一聴して驚かされたのは、必要最小限のプロダクションしか施されておらず、ゆえにひとつひとつの音がとても生々しいこと。音程が外れるほどシャウトするヴォーカル、ラウドでドライな質感が印象的なギター、タイトなリズムを刻むベースとドラムという構成は、虚飾なんてごめんだとばかりの躍動感あふれるサウンドを響かせる。
 そのサウンドはパンクを基調としているが、甘美なコーラス・ワークを披露する“Love Without Reason”があれば、“Spend The Night”ではブロンディーに通じるスウィートな風を吹かせたりと、引きだしはかなり多い。パンク・スピリットと80年代ニューウェイヴのセンスが共存しており、X-レイ・スペックスやエラスティカ、2000年代以降ではストロークスといったバンドを連想させる音楽性だ。この感性はおそらく、3人が公開しているスポティファイのプレイリストでもうかがえる幅広い嗜好が滲み出た結果だろう。プレイリストを見てみると、ロックを中心にピーチズやノガ・エレズといったエレクトロニック・ミュージック寄りのアーティストも選ばれており、3人の豊穣な音楽的背景がわかる。

 女性として生きることについて歌われたものが多い歌詞は、パンク・スピリット旺盛なバンドだけに怒りを隠さないが、それ以外の感情も多く込められている。“Love Without Reason”では文字通り愛について歌い、“Spend The Night”は孤独さを醸す言葉であふれているといったように。
 なかでも筆者が惹かれた歌詞は“Somebody”だ。2016年にレイキャヴィクでおこなわれたスラットウォークをモチーフに作られたこの曲は、まっとうな権利のために戦う女性たちに連帯の意を示すなかで、怒りに混じる切実さや哀しみといったさまざまな感情の機微を描いている。

 非常に質の高い本作を聴いても、まだ「女性たちはもっと努力しなきゃいけない」と言う者もいるだろう。しかし、もっと努力すべきなのは女性たちじゃない。女性たちに正当な評価があたえられない仕組みを作ってしまった者たちのほうだ。

vol.96:ラフトレードとDIYシーン - ele-king

 ブルックリンのレコード屋はグリーンポイントやブッシュウィックに多いのだが、家賃の高いウィリアムスバーグにお店を構えるのがUKのレコード店兼音楽会場のラフ・トレード。2013年にオープンしてから騒音問題でクローズしたこともあったが、その後は順調に運営し、最近では中古レコードも置いている。

 場所柄、UKからの観光客が多く、昼はカフェとしても機能していて、2Fはアート本やグッズがあり、Sonos
の音響システムが楽しめる部屋もある。私が行ったのは夜9時頃だったが、中古レコードを10枚くらい購入している人がいた。以前インタヴューしたマネージャーのジョージもレジスターにいた。
 相変わらず、圧倒的にレコードが多かったが、ラフトレのオススメ・コーナーは見る価値ありで、カセット・テープやカセット・デッキも沢山増えていた。ショーはスーパーチャンク、ジョアン・アズ・ポリスウーマン、クリスティン・ハーシュ、モービーなどの中堅バンドから、アンバー・マーク、ガス・ダッパートンなどのニューアーティストまで、全体的にシュッとしている感じのラインナップが揃う。バワリープレゼンツがオーガナイズしているので、どうしてもそうなる。ちなみに今回見たバンドは、リグレット・ジ・アワー。
https://www.roughtrade.com/events/teen-girl-scientist-monthly

 まだ20代前半の、アップステート出身の若いバンドだが、久しぶりに、U2やナショナルなどのバンド・サウンドを地でいっている。目を瞑って聞くと2018年の音とは思えないが、新世代の冷めた感覚で、熱いギターをかき鳴らしているのを見ると応援したくもなる。だってアルバムタイトルが『Better Days』なのだ。20代前半で! 
 オーディエンスは、彼らの両親や従兄弟、友たちでいっぱいだった。同窓会みたいだったが、こういうライヴ・バンドが健在なのを確認したのは今夜の収穫だった。ラフトレードで隣にいた男の子と話していると、彼はロンドンから観光で来ていて、することもないからここに来たと言っていた。バンドでなく、ラフトレードが目的だったらしい。見たバンドも、結構好きだと言っていた。
 ラフトレードは安全なバンドのショーケースで、DIYスペースのように様々なハプニングや感情を剥き出しにする生々しさはほとんどない。至ってクールなのだ。それでも$20を知らないバンドに難なく払うお客さんがいるし、暇な時間には、レコードも買ってくれもする。ちなみにDIYショーはほとんどフリー、もしくは$5ー$10。


Regret the hour @rough trade

 ラフトレの後、違法なブッシュウィックDIYスペースに行ってたくさんのDIYバンドを見て、勝手にブーズを持ち込んで大騒ぎしている人たちを見て、ホッとしている自分もいる。最近のDIYスペースは減っているばかりかすぐに摘発されるので、オンラインで住所を公開していない。外の見張りもかなり徹底しているので、一見が入るのは難しい。それゆえこのシーンを閉鎖的にしているのだが、DIYコミュニティは健在。
 NYは、DIYバンド/会場に優しくなるように、2017年末から少しずつ動き出している。Dr.マーティンやハウス・オブ・ヴァンズのような企業もDIYバンドを使って自分たちの商品をプロモートしているし、DIYバンドがもっと日の目を見るときがくるのではと、いろんなショーを見ながら考える。近い将来ラフトレで、彼らを見ることもあるのかもしれない。


Grace kelly all day @DIY space

yahyel - ele-king

 続報が届きました。ヤイエルが3月7日リリースのセカンド・アルバム『Human』から新曲“Pale”を解禁、MVも公開されています。一見静かで落ち着いた曲に聞こえますが、後ろのほうで色々とおもしろいことが起こっています。ビデオも独特の雰囲気を醸し出していて、ますますアルバムへの期待が高まります。あわせて全国ツアーの詳細も発表されていますので、下記よりチェック。

ヤイエル、待望のセカンド・アルバム『Human』から
新曲“Pale”をミュージック・ビデオとともに解禁!
初となるレコ発ツアーのチケット一般発売は明日から!
新たに仙台公演も決定!

yahyel
- Human Tour -

2016年12月に渋谷WWWにて行われたワンマンは、デビュー・アルバム『Flesh and Blood』の発売日を前に完売。その後も、FUJI ROCK、VIVA LA ROCK、TAICOCLUBなどの音楽フェスへの出演も果たし、ウォーペイント(Warpaint)、マウント・キンビー(MountKimbie)、アルト・ジェイ(alt-J)ら海外アーティストの来日ツアーでサポート・アクトにも抜擢されるなど、活況を迎えるシーンの中で、独特の輝きを放ち続けたyahyel(ヤイエル)が、1年3カ月の時を経て、2度目のワンマン・ライヴ、そしてレコ発ツアーが決定!

anemone - ele-king

 ユニットとは「虚構的存在」である。二人以上、三人未満で何らかの名を名乗ること(4人以上はグループ、もしくはバンドだ)。その類まれな「虚構性」。名乗った時点でそれぞれの人格は、ユニットという虚構的存在へと吸収される。いや包括されるとでもいうべきか。人格とも違う「存在」がそこに生成する。ユニットという「存在」の「現実化」。
 日本のエレクトロニカ・レーベルの老舗〈PROGRESSIVE FOrM〉からリリースされた anemone のファーストアルバム『anemone』を聴いたとき、私はそんな「ユニットという存在」がもたらす虚構性の魅惑を強く感じた。存在と非存在のあいだに鳴り響く、ロマンティックな光のようなエレクトロニカ・ポップ・ユニットの誕生とでもいうべきか。
 まるで繊細な和菓子のようなエレクトロニック・サウンドの折り重なりと、華のように、もしくは夢のように、やがて消え入りそうな儚いヴォーカルが交錯し、全曲12曲アルバム1枚にわたって、ひとつの(そして12の)小さな物語が語られ、意識の欠片のような詩情を鳴らす。それはときに光のように強く、ときに空気のように儚く、ときに消失する心のように切ないものだった。まさにニュー・ロマンティック。それが私を強く魅了した。世界のむこうへ。音の彼方へ。意識の儚さへ。電子音楽の美しさへ。声の官能性へ。電子音、シンセサイザー、ピアノ、声、ギター、グリッチ・ノイズ、エレクトロニクスが光の雨のように降り続ける感覚……。

 anemone は日本在住、1992年生まれのトラックメイカー ninomiya tatsuki と中国在住のヴォーカリスト Yikii による「日中デュオ」とアナウンスされている。2015年、ninomiya tatsuki と Yikii はSoundCloud上に公開していたお互いのトラックに惹かれ、競作を始めたという。そうして名曲“夢うつつ”が2016年に生まれたらしい。「初めて人と音楽を作る楽しさを見出した」。そう思った ninomiya は、Yikii にユニットの結成を提案する。anemone の誕生である(記念すべき“夢うつつ”は本作10曲めに収録されている)。アルバムは1年ほどの時間をかけて丁寧に制作されたのだろう。夢の光のようなアトモスフィアを放ち、誕生の祝福と消失の儚さの両方を持っている作品に仕上がっていた。

 本アルバムの曲は、どれも儚い光のようだ。Yikii のヴォイスも、ninomiya tatsuki のトラックも、ロマンティックな虚構性をまとっているのである。
 例えば2曲め“killing me softly”を聴いてほしい。ゆっくりと時間に浸透するかのごとき可憐なピアノのアルペジオと、シルキーな声が交錯する中、さまざまなサウンド・エレメントが優しくトラックをコーティングする。そのサウンドの虚構のような脆さ、儚さ。そして何より曲が良い。細やかな和声・コード進行で展開し、単なるミニマリズムでは終わらない慎ましやかなドラマ性が生まれている。

 記憶を慈しみ、しかし、その純粋性ゆえ、自らの手で記憶を消失させてしまうようなイノセントな残酷さを象徴するようなソングライティングとアレンジメント。そのムードは“insomnnia”という曲にも強く感じた。

 さらには光の粒子のごとき電子音と淡いアンビエンスに Yikii のヴォーカルがレイヤーされ、液晶のロマンティシズムとでも形容したい“tablet”(曲中盤のラップパート? も素晴らしい)、光と影がガラスの欠片の中に結晶するかのような短いインスト・トラック“vain”、Yikii のリーディング的なヴォイス/ヴォーカルと深海の交信を思わせるエレクトロニクス、ファットなビートの交錯が耳に心地よい“pain”、グリッチ・ノイズと旋律が交錯する“requiem”など、どの曲も、どのトラックも声と電子音が記憶の深層心理に響くような見事な出来栄えである。フランス印象派の響きに、オリエンタリズムの香水を落としたエレクトロニカ・ポップ・アルバム。

 ここでアートワークに改めて目を向けてみると、やや逆光気味のアートワークにも「光」の儚さが満ちていた。まさに「夢うつつ」である。それは虚構への希求でもあるのかもしれない。このユニットは自らを虚構の中に封じこめることによって世界の醜さを一掃し、類まれな美的感覚を差し出そうとしているのではないか。いわば「虚構内存在」としての「印象派オリエンタル・エレクトロニカ・ポップ・ユニット」として……。
 ともあれ、エレクトロニカ・ポップという領域において、近年稀にみるアルバムである。ぜひともアルバムを聴いてほしいと思う。リスニング後、あなたの感覚が浄化されるだろうから。

 頑張って生きることをやめ、自分の内面をコントロールし、身体を解放し、自然とつながる生き方を追求してきた鶴見済は、前著『脱資本主義宣言~グローバル経済が蝕む暮らし』(新潮社 2012年)で、そうした楽に生きる生き方にとって最大の障害となる無法な資本主義の正体を、おそらくこの上なく、分かりやすく書き表した。そして服の原料の綿、携帯電話、コーヒー、ジーンズ、マクドナルドにペットボトルなど身近な消費財の生産と消費が生む問題を指摘しながら、他人と自分と自然に優しいフェアな態度というものを考え、その先にヒト本来の姿を取り戻すことを提言した。この新刊はそこから踏み込んで、その生産/消費の経済活動をどれだけ回避できるのかをテーマにした、前著の実践編に位置づけられるものだ。

 具体的には、貰う、あげる、交換する、借りる、貸す、共有する、助け合う、公共サーヴィスを使うといった、人と人との繋がりの中で成立するさまざまな生きる術にフォーカスしている。“拾う”という技術の指南にも紙数を割いているし、自然界に神の力を思い、そこからの恵みを尊んできた人間が、無償の贈与というものにどれだけの価値を見出してきたかにも立ち返らせる。そして、古来の自然(現物)経済を経済活動の土台として再評価し、その上で、できるだけ金銭を介在させずにできることや、誰かとやりとりできる善意とサーヴィスのさまざまな形と価値を知り、見直すことだけで十分豊かな暮らしが送れると説く。

 この本のタイトルに、貧乏臭いと言って拒否反応を示す人もいるだろうし、良さそうなことが書いてありそうだけどピンとこない、あるいは、そもそも資本主義の何が問題なの? という人もまだいるはずだ。鶴見は、前著を要約しながら本書の精神をこう簡潔に記している。

〈本書はお金を稼ぐことを悪いと見なしてはいないが、お金儲けを至上の目的としたものには反対する。〉(P.4)

 これは鶴見流の柔和なオブラートでくるんだプルードンの翻訳であろう。その〈所有、それは盗みだ!〉はつとに知られるが、プルードンはそこに〈所有、それは自由だ!〉とも付け加えていて、所有における悪と善を、複式簿記における借方と貸方、その表裏一体の不可分性にたとえた。つまり、格差社会を産む国家管理主義の要件たる所有(=体制側に増えた分)はもう片側から出ていったもの(盗品)であり、一方で、その逆側には、自分たちの自由を形成するための所有が存在すると。そしてそこには、“自由”と“盗み”とを厳然と、別ものと見なす理性が求められる。〈本書はお金を稼ぐことを悪いと見なしてはいないが、〉という言い回しが、言外にそこを指し示している。

 しかしながら、無人島や密林ででも暮らさない限り完全に避けることなどできない〈稼ぐ/持つ/使う〉の円環は、事実上この身から決して外れない首かせ、足かせであり、その死ぬまで経済の奴隷であり続けることに対する、えも言われぬ恐怖が個人的にいえばそもそも苦しい。だから、せめてもの身の処し方として、なるべく綺麗にカネを稼ぎ、それをできるだけ慎ましく、少なくとも地球のどこかの見知らぬ誰かを苦しめるようなことにだけはならないように使おうと日々留意している……のだが、自分の支払ったあるものへの代金が何処かの国で人殺しの原資になっている可能性を知ったりすれば、余暇を削っても抗議しなくてはこっちの正気が保てなくなる。魅力的な商品を見つけ心踊っても、それが工場労働者を不当に搾取して製造されたものだと知って暗澹たる気持ちになることも多々ある。加えて、この自分自身が搾取されることに対しても同じだけの注意を払い、それも阻止しなくてはならない。稼ぐのも、使うのも、ほとほと疲れる。「そんな余計なことは考えず、もっと稼いでもっと使え」という政治は、人の心を見ず、人をキャピタリスト・ゲイムの駒としかみていない。

 苦労して稼いだ虎の子を預けようと立派なメガバンクに口座を作れば、知らないうちに自分の預金が東電を支えることに使われ、断りなく原子力産業への積極投資に回され、なんとクラスター爆弾製造企業への投融資にまで流用されていることが明るみに出るから心臓がバクバクしてくる。それなのに、入口を入ると両手で下っ腹をあっためながら薄気味悪い笑顔で何事もなかったかのようにお辞儀なんぞしてくるあの行員の足下に、バケツで汚物をぶちまけてやりたいと考えてまた血圧が上がる(結局そんなところからはカネを引き上げたが)。パナマ文書のニュースを見れば、あれが閻魔帳だったらいいなと思うが、地獄の沙汰もカネ次第というし……。どこまで行ってもゲイムのプレイヤーはあの連中であって、我々は、感情を持たないゲイムの駒(もちろん使い捨て)であり続けなくてはいけないのだろうか?

 だから鶴見はまず、はっきり確認するのである――自然経済から進化した貨幣経済と、現状の資本主義経済を同一視してはいけないことを。つまり、〈生きていくのにある程度のお金は必要である〉という考えと、〈お金儲けを至上の目的としたもの〉との間には相当な開きがあるということを。
 〈カネのために何かやる〉という発想がヒトの本来性に馴染むものかどうかまではここでは踏み込まないが、それにしたって、その先に何の歯止めも持たないシステムを作り出し、それを自ら免罪符として〈カネのために何でもやる〉に突き進むのは行き過ぎと言わざるを得ないし、そうして作った利潤は、人間社会および自然界に与える実害とモラルの問題を勘案するに、どんどん“盗品らしく”なってくる。おまけに99%が泣き叫ぼうと、1%にはその涙を拭くティッシュ1枚贈る義務はない。どころか、隠し、飛ばし、すり抜け、まぬがれ……さらに許し難いことに、カネにまかせて大好物の権力を掌中にたぐり寄せ、政治屋という名のマリオネットをコレクションしては操るのである。

 だからこの本は、そうしたシステムに対する最もラディカル、かつ断固たる抵抗策を提示する。あくまでヒューマニズムの見地から、である。本のオビには、〈お金のかからない生活を実践する著者が、新しい「幸福の形」を教えます。〉などと記されていて、そんなエコ&ロハスな雑誌に載ってる写真のボケ味のように優しげな文言でカモフラージュされてはいるが、読み進めば、これが〈資本主義経済が破壊した、人間の営みと人間関係カタログ〉であることがわかる。言い換えれば、この本の提案は、新自由主義が最も嫌うタイプの暖かさ、人間らしさに満ちている。
 それでも、『0(ゼロ)円で生きる』というタイトルに、現実離れしたロマンティシズムを思うかもしれない。が、本書が最終的な目的に据えているのは、〈自分たちなりのもうひとつの経済〉を作ることであって、それに貢献するいくつかの稼ぎ方もちゃんと提案している。それは、〈カネのために何でもやる〉連中が唯一やらない、そのシステムにとって脅威となる“実戦”的オルタナティヴだ。
 ペイジをめくると立ち昇ってくるこの抵抗ののろしは、心を落ち着かせる匂いがする。ビッグ・ブラザーに見つかって華氏451度で燃やされないように、こっそり読んだ方がいい。

 1年でのうちもっともピザとチキン・ウィングが出る日、スーパーボウルの日曜日だ。今年2018年は2月4日、ミネアポリスのUSバンク・スタジアムでタイトなユニフォームを着た男たちの戦いがおこなわれた。フィラデルフィアのイーグルスとニュー・イングランドのぺイトリオットの対戦。ハーフタイムにはこの2日後にニュー・アルバム『Man of the Woods』をリリースするジャスティン・ティンバーレイクが出演。2004年のジャネット・ジャクソンとのおっぱいポロリ騒動のパフォーマンス以来だ。そして、それに関する記事がいまさら出てくる出てくる。

 スペシャル・ゲストは誰か? 噂はいろいろあったが、結局ジャネット・ジャクソンもイン・シンクも出演せず。代わりにミネアポリスに敬意を払い、プリンスの映像がプロジェクターに映し出された。ピアノを弾くJTが”I would die 4 U”を歌い、そしてミネアポリスの街がプリンス色に染まるという壮大な演出がはじまった。エンターテイメント! JTのダンサーたちの衣装は、いまどきのカラフルなラフスタイルで、ビッグバンドはお揃いの赤のスーツと見た目も華やか。ハーフ・タイムショーは最近の個人的な楽しみになっている。
https://www.brooklynvegan.com/justin-timberlake-played-the-super-bowl-lii-halftime-show-prince-tribute-included-watch/

 とはいっても私がスーパー・ボウルに興味を持ったのは数年前、ビヨンセがハーフ・タイムに出場した2016年のスーパーボウル50からである。たまたまバーでスーパーボウルが放映されていた(50回目ということで)。ビヨンセのパワフルなパフォーマンスに圧倒され、スーパーボウルを見るようになった。国を挙げた究極のエンターテイメントがここにあり、アメリカのパワーを感じることができる。
 過去のラインナップを遡ってみると……

2012:マドンナ with LMFAO、MIA、ニッキー・ミナージュ
2013:ビヨンセ、ディスティニー・チャイルド
2014:ブルーノ・マーズ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
2015:ケイティ・ペリー、ミッシー・エリオット、レニー・クラヴィッツ
2016(スーパーボウル50):コールド・プレイ、ビヨンセ、ブルーノ・マーズ、マーク・ロンソン
2017:レディ・ガガ
2018:ジャスティン・ティンバーレイク

 こう見ると、それぞれの年を象徴するエンターテイナーが出場しているのがわかる。MIAが中指を立てたことや、ケイティ・ペリーのダンサー、左のイルカがやる気なかったことなど、毎年、さまざまなゴシップが飛び舞っている。
 そしてスーパーボウルが近づくとピザ屋もファストフードも広告に力を入れる。バーも何かとスーパーボウルに託けてスペシャルを用意する。
https://bushwickdaily.com/bushwick/categories/sponsored/5201-big-game-bushwick

 コマーシャルにも注目。アマゾン・エコーにはカーディB、レベル・ウィルソン、ゴーダン・ラムゼイ、アンソニー・ホプキンス他、ドリトス・ブレイズとマウンテン・デュー・アイスではバスタ・ライムスとクリス・ブラウン、モーガン・フリーマン、ミッシー・エリオットが、スクエア・スペースにはキアヌ・リーブスが出演……まさにセレブ満載。
 オーディエンスは試合以外にも、コマーシャルなんかにも注視する。こんかい反応大だったのが、ニルバーナのララバイ・カヴァーの“All Apologies”がバックに流れるT-Mobileの宣伝。可愛い赤ちゃんが登場する。「小さい人、この世界にようこそ。貴方が征服するこの大きな世界では、貴方は繋がることができ、一人ではありません。変化は始まっています」
https://youtu.be/C-rumHvmqCA

 試合の結果は、41-33でフィラデルフィアのイーグルスがニューイングランドのペイトリオッツを負かした。イーグルスは1960年以来の優勝。私の友だちはみんなイーグルス派だったので大騒ぎ。理由を聞くとペイトリオッツは強いし(今年は6連覇を狙っていた)、ただたんにトム・ブレイディが嫌いで勝って欲しくなかったと。
 ペイトリオッツのトム・ブレイディはNFLを代表する選手の一人で、リーグMVPとスーパーボウルMVP双方の複数回受賞していて(歴代で2人のみ)、2017年まで負け越したシーズンはなかった。モデルの妻と3人の子供がいて、ボストンのブルックラインに豪邸を構える。
 「彼の人生はパーフェクトだし、トランプ支持者だし、とにかくいけ好かない」と。

 こういう話をはじめると止まらないのがアメリカ人。トランプ・サポーターの話から今回かけたビットコインの話で盛り上がる。スーパーボウルではいろいろな角度からアメリカという国が見える。

R.I.P.妹尾隆一郎 - ele-king

 ありがとう妹尾隆一郎

 鷲巣功です。また訃報がらみの記事で恐縮。自ら「ウィーピング・ハープ」と名乗り、ブルーズを基本にしたハーモニカ演奏で知られた妹尾隆一郎が、昨年12月に亡くなっていた。昨年は体調を崩し幾つか公演を中止している。11月に復活の実演を高円寺次郎吉で行い、その時は絶好調。来年は行けるな、と誰にも思わせたばかりの出来事だ。あまりにも急で突然で、状況が分からなかった人たちも多い事だろう。

 妹尾「ウィーピング・ハープ」隆一郎は、2017年12月17日22時10分に大阪の淀川キリスト教病院で亡くなった。直接の原因は胃癌と腸閉塞。68歳だった。全国紙にも死亡記事が掲載され、わたし自身もその存在の大きさを改めて認識した。
 ハーモニカは、小型で真鍮のリードを息で震わせて音を出す、おそらく音程モノとしては最も単純な構造を持つ楽器だ。昔は小学校音楽の実技必須項目として、誰もが半強制的に持たされた筈で、この国ではマンドリンと並んで哀愁だとか侘しさの表現だけを任され、職員室公認の健全な側面ばかりが強調されていた。
 妹尾隆一郎の使いこなしたのはその中でも更に小型で、掌に入ってしまう大きさの十穴(テン・ホールズ)、二十音しか持たない。横から見ると立琴の形をしているので、「ハープ」とも呼ばれている。ドイツ、ホーナー社の、商品名ブルーズ・ハープが定番だ。
 素の音色にとても表情があるから、高度な技術がなくても雰囲気は演出できる。実際のところボブ・ディランもジョン・レノンもミック・ジャガーも、ただ吹いたり吸ったりしていただけに等しい。余談ながら、ジョンはカントリー歌手のデルバート・マクリントンから、この楽器を教わったという。だから……。
 ほんの少しだけ文字通り囓った事のある私は、初歩段階の「口を窄めて息の量を加減して、ブルーノートを搾り出す」ところで挫折した。ポルタメント的に音を移動させる「ベンド」など、とてもとても。それからするとポール・バタフィールドは宇宙人だった。その後リル・ヲルターや2代目サニー・ボーイ・ウイリアムスン他を知って、北米大陸には宇宙人が大勢いる事が分かった。
 そのハーモニカで、日本人も銀河体系を創り出す事が出来る証明をしたのが、妹尾隆一郎だ。後に世界的な競技会の優勝者をこの国から何人も輩出した事は、この楽器がわたし達の民俗性に合っていたという事になる。名手リー・オスカーの後釜としてヲーに参加したのも日本人だったし、シカーゴには今も何人もの邦人ブルーズ・ハーピストが住み着いていると言う。彼らが世界に飛び出す切っ掛けを築いたのも、「ウィーピング・ハープ」隆一郎なのだ。彼の前には誰もこんな風にブルーズを吹き鳴らした男はいない。

 わたしが初めて妹尾隆一郎を観たのはローラー・コースターという自分のグループを率いていた時だ。六本木にある洒落て高級で高価な衣料品店がズラリと入っているロアビルの集客催事の余興に、なんとブルーズ・バンドが呼ばれたのだ。1975年の秋、土曜日の夕方だっただろうか。誰かに穴を空けられてのトラ出演だったのかも知れない。わたしはそこの脇の東洋英和女学院の坂を降りたスウェーデン・センターの前にあったキョーフの零細音楽事務所に出入りしていたので毎日六本木をうろついていて、貼り紙かなんかで彼らの名前を見つけたのだろう。正面入口右側に設えられた舞台の最前列で、開演前から待った。隆一郎は、その頃この国のブルーズ演奏家が誰でもそうだったように、腰のあたりまで髪を伸ばしていて、他の楽団構成員共々うす汚い印象だった。
 ただ音楽は別格。それまで観たこの国のブルーズ系演奏集団の中でピカ一だった。当時メムバとして参加していた吾妻光良のリズムがとても秀逸で、付点ビートに気持ち良く乗せられた。隆一郎は、もちろん文句なし。ハーモニカは言うまでもないが、唄が良かった。気負いのない自然体で、外苑東通りを歩くブルーズに全く興味のない通行人を前に、とても嬉しそうに唄っていた。
 「この人は歌を分ってるなあ」。わたしはその説得力にシビレた。礼儀作法を弁えた洒脱な司会進行、唄いながら何気なくキメる仕草も、本当にカッコ良かった。妹尾隆一郎に対するわたしの印象は、最後までこの時と変わっていない。
 16歳の時に京都で偶然耳にしたエルモ・ジェイムズで、すっかり人生が変わってしまった者として、当時この国でブルーズに真剣に取り組んでいる人間たちは本来同胞だった筈だが、正直言って彼らの集団には、なかなか馴染めなかった。愚かな自負があったのかも知れない。田舎者の引け目も災いしていたのだろう。 
 そんな中で妹尾隆一郎は、いつ会っても気持ちよく話してもらえる、有り難い存在だった。酒を一滴も呑まない男だったので、一緒になった時は常に半分以上酩酊状態だったわたしを、どう見ていたかは分らない。それでもいつも普通に接してくれた。とても嬉しかった。思い出すと暖かな感触が蘇る。
 ここに彼の談話記事がある。「音楽全書 創刊号 特集ブルースの世界」(海潮社刊)に収録された4頁に亘るもので、1976年の取材だろう。ここには隆一郎最愛の音楽、ブルーズに対する、ある種の距離を置いた所感が示されていて、とても興味深い。わたしは発売当時に読んでいなかったものだ。以下引用する。

 ほんとあらゆる楽器のパワーというのは、やっぱり歌に反応するわけで、例えばヴォーカルが「アイ・ラヴ・ユー」と歌ったら、ギターがこうテケテケテケってやるわけやろ。これはね、「おい、言え(鷲巣注:それが何やねん、教えろや)」って言うとるのと同じや。そういう感覚が日本人はまだわからへんと思うんやけど。(中略)やっぱり趣味の音楽やかて、お互いに研究する中で高めて行くという方向でやって行きたいな思うんやけど、そうはなかなか行かへんね。
 (中略)あと日本語でブルースが出来るか出来へんかという問題は、まだ解答がないんや。ま、俺個人は出来へんと思う。(中略)日本語で歌うと言うのはやね、作り事の、贋もんの歌詞やないと歌えへんと思うんや。自分の体験から出て来た日本語の歌詞やったら、自分にとってヘヴィすぎると思うんや。(中略)そこで考えてみると、向こうでブルースを演奏している人も、きっと、そういう自分らのあまりに身近過ぎること、例えば迫害されたこととか、共有出来そうもない苦しみだとかを、歌にしにくいと思う。(中略)それで俺は日本語で原体験は歌わん訳や。借り物の英語やから、自分にとっても借り物だから、それで歌えると思うんや。

 見事な見識だ。隆一郎は、何より実演者である。故に切羽詰まった現場での感覚作用を分析して、「本物」黒人たちの心理を想像している。1976年の時点で、ここまでの知性を以てブルーズに接していた人間は、日本に居なかったのではないか。
 この取材から40年以上、ずっと唄い吹き続けた隆一郎のブルーズ音楽に対する姿勢は、変わる事がなかったようにも思える。同じ記事に出て来る次の言葉で要約されるだろう。

 まあ、俺はブルースは趣味に徹底せなあかんと思っているわけやけどね。(中略)俺は、趣味のブルースを徹底的にやって行く。

 妹尾隆一郎は、戦後生まれの日本人がこの国でブルーズに取り組む現実と限界を冷静に認識し、達観と共にその世界を泳ぎ続けたのだ。
 この談話取材は「最後に一つ」と断りを入れた上で、次のように締められた。

 俺が思うには、ブルースちゅうのはウンコとかね、屁とかゲップみたいなものなんね。こうボッと出てくるちゅうかね。それはやっぱり皆にわかって欲しいと思う。

 分りますか、これ。わたし自身も、まだ深淵までは掴めていないけれど、「そうかも知れない」と、共感できる思いは歳と共に厚く重なりつつある。
 今もブルース・ザ・ブッチャーで唄い続ける永井「ホトケ」隆が、京都のディスコに毎晩出ていた時に妹尾隆一郎が突然現れ、「ボーン・イン・シカーゴ」を一発キメて周囲を圧倒したという。その夜からホトケはハーモニカ演奏を封印したそうだ。
 わたしは初めて聞いた時に、「あ、この人はヲルターだ」、と確信した。ところが、一番好きなのは、ポール・バタフィールドで、それもLP『ファザーズ・アンド・サンズ』が、何より気に入っていたという。これは名作で、昨今巷に溢れ返る「トリビュート盤」の中で、唯一の成功例だ。
 元々はベイス奏者だったという。ポール・マカートニのリパトゥワを全部唄って弾ける卓越した技で知られていたそうだ。大いに意外だが、世間ではベイス奏者というのは本当に音楽が好きな人間だと言われている。例えばヴォーカルはモテたい軽薄男、ギターはイキがりたいお調子者、という俗説の延長でしかないが、妹尾隆一郎のベイス演奏、一度聞きたかった。

 慕い続ける人間達が集まって、感謝の会を催すことになった。詳細は以下の通り。大勢の方々にぜひご参加願いたい。

   こちらががウェブサイト表紙。

https://bluesisalright.wixsite.com/thanks-senoh
ツイッターはここ。
https://twitter.com/thanks_senoh
そしてフェイスブック。
https://www.facebook.com/thanks.senoh/
直接のメイルはこちらにどうぞ
thanks.senoh@gmail.com

 まだ内容は未定の部分も多く、五月雨式の発表となります。これらの頁で、詳細をご確認下さい。

追記:聞くならデビュー作の『メッシン・アラウンド』。数え切れないほどの録音を残したが、殆どがセッション・プレイヤーとしての部分的な参加で、1枚全編妹尾隆一郎という盤は少ない。これは1976年にLP、その後2回CD化されている。現在は廃盤状態。中古市場ではかなり高価。当時東京に居た日本人のブルーズ愛好家が全員集合。制作担当者も含めて、未だ踏み込んだ事のない世界での暗中模索が伝わって来る。隆一郎のブルーズへの理解が作品としての完成度を高めていて、今回のわたしの拙文もこれを聞いてもらえればお分かり頂ける筈だ。
 以上。

Chris Dave And The Drumhedz - ele-king

 ロバート・グラスパー・エクスペリメント(RGE)の成功は、もちろんグラスパーあってこそだが、そこに参加したメンバーたちの個性や才能による部分も大きい。特に初代ドラマーのクリス・デイヴの存在が重要で、実際に彼らのライヴにはクリスのプレイ目当てで来ている人も多かった。現在のジャズを語るとき、グラスパー以前・以後と設定ができると共に、ジャズ・ドラムについてもクリス・デイヴ以前・以後で大きく変わってきている。彼のドラムはJディラのビートを人力で表現しているようだと形容されることがある。クリスのドラミングは非常に手数の多いテクニカルなもので、また独自のシンバルを用いたり、個々のドラムのチューニングも非常に凝っており、それらの組合わせでJディラのようなズレ感や独特の間合いを持つビートを作りだしている。マーク・ジュリアナ、マーク・コレンバーグなど、現在のジャズ界では新しい世代のドラマーが注目を集めるが、そうしたきっかけを作り出したのもクリス・デイヴあってこそと言える。

 もともとケニー・ギャレットのバンドでジャズをやってきたクリスだが、同時にR&B方面でも活躍し、ミント・コンディションの準メンバーでもあった。ザ・ファウンデーションというヒップホップ・バンドも組んでいたこともあり、ザ・ルーツのクエストラヴあたりに近い存在だ。こうした活動の延長線上でディアンジェロのバンドに招聘されたほか、近年ではアデルからエド・シーラン、ジャスティン・ビーバー、宇多田ヒカルなどの作品でも演奏し、世界中のさまざまなアーティストからラヴ・コールを寄せられる存在となっている。そして、彼はいちドラマーだけでなく、プロデューサーやトラックメイカーとしての顔も持ち、今までもいくつかミックステープを出している。ラッパーのスティミュラスと組んだ『サード・ファースト・インプレッション』(2011年)に始まり、『ザ・ドラムヘッズ・ミックステープ』(2013年)、『ザ・ドラムヘッズ・レディオ・ショウ』(2017年)がそれである。『ザ・ドラムヘッズ・ミックステープ』にはグラスパーやRGEのメンバーのほか、ピノ・パラディーノ、ジェイムズ・ポイザー、サンダーキャットなどが、『ザ・ドラムヘッズ・レディオ・ショウ』にはクエストラヴ、カマシ・ワシントンテラス・マーティン、ハイエイタス・カイヨーテなどが参加し、クリスの人脈の広さを窺わせるものだった。こうした多彩で個性豊かな面々を束ねられるのは、クリスに総合プロデューサー的な資質があるからこそで、時代や楽器は異なるが、ジャズ・トランペッターから出発し、ビッグ・バンドのアレンジャーとなり、その後プロデューサーとしてマイケル・ジャクソンらをヒットさせたクインシー・ジョーンズの足跡をダブらせることも可能だ。

 今回、正式なソロ・デビュー・アルバムとして〈ブルーノート〉からリリースされた『クリス・デイヴ・アンド・ザ・ドラムヘッズ』は、こうしたミックステープの延長線上にあるもので、そのスタイルを踏襲している。RGEの出世作『ブラック・レディオ』(2013年)に通じるスタイルでもあり、参加ゲストは大量だ。ざっと挙げると、グラスパーやケイシー・ベンジャミンのRGE陣、ピノ・パラディーノやアイザイア・シェイキーなどディアンジェロ周辺、キーヨン・ハロルドやマーカス・ストリックランドなど気鋭のジャズ・ミュージシャン、ヒップホップ/R&B方面ではビラル、アンダーソン・パーク、DJジャジー・ジェフ、エルザイ、フォンテ、シャフィーク・フセイン(サー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズ)、エリック・ロバーソン、ストークリー・ウィリアムズ、そしてジェイムズ・ポイザーからミゲル・アトウッド=ファーガソン、ゴアペレ、アンナ・ワイズ(ソニームーン)といった具合。これらゲストが入れ替わり登場し、音楽的なスタイルもクリスの出発点であるゴスペルからソウル、ファンク、アフロ、ジャズ、ヒップホップ、R&Bなどをフリー・セッション的に繋いでいくものとなっている。それはアメリカの黒人音楽の誕生から、現在に至るまでの流れを俯瞰するような行為であり、『ブラック・レディオ』やディアンジェロの『ブラック・メサイア』(2014年)など、クリスが参加してきた作品と繋がっているところもある。

 そして、ケンドラ・フォスターをフィーチャーした幻想的な“センシティヴ・グラナイト”、仰々しいスペース・オペラ風の“ロックス・クライング”、アンダーソン・パークとSiRをフィーチャーし、まるでレディオヘッドを聴くようなロック調の“クリア・ヴュー”などに顕著なサイケデリックでコズミックな音響。クエストラヴとジェイムズ・ポイザーによるザ・ランディ・ワトソン・エクスペリエンスから、サー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズ、フライング・ロータスなどが、ブラック・ミュージックの実験的な側面を追求したそれに通じる世界でもある。エンターテイメント性と実験性を巧みに両立させる点も、クリスのプロデューサーとしての一流たるところだろう。


Flying Lotus, Thundercat, George Clinton & P-Funk - ele-king

 こ、これはすごい。一昨年、ジョージ・クリントンとの契約が大きなニュースとなった〈ブレインフィーダー〉だけれど、その後しばらく音沙汰がなかったので、いったいどうなったのかとやきもきしていたファンも多いだろう。それがここへ来てとんでもないアナウンスである。今夏8月17日、SONICMANIAに〈ブレインフィーダー〉ステージが出現、フライング・ロータス、サンダーキャット、ジョージ・クリントン&Pファンクのビッグ3が一堂に会する――そう、ここ日本で。まるで夢のような話じゃないか。これはもう行く/行かないを迷うような次元の話ではない。これから半年間、首を長く長~くして待っていよう。

SONICMANIAに〈BRAINFEEDER〉ステージが登場!

フライング・ロータス、サンダーキャット、そして
ジョージ・クリントン&パーラメント・ファンカデリックが出演決定!

‘Brainfeeder Night In SONICMANIA’
featuring
FLYING LOTUS
THUNDERCAT
GEORGE CLINTON
...and more!!

ナイン・インチ・ネイルズ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、マシュメロという、SUMMER SONICに引けを取らない強力な出演陣が発表され、大きな話題となっているSONICMANIA。今回第2弾アーティストが発表され、フライング・ロータス主宰レーベル〈Brainfeeder〉ステージが登場することが明らかに!

昨年は自ら手がけた映画『KUSO』の公開や、短編アニメーション『ブレードランナー ブラックアウト2022』の音楽を手がけたことも記憶に新しいフライング・ロータス、最新作『Drunk』をリリースし、2017年の音楽シーンを象徴する存在と言っても過言ではない活躍を見せたサンダーキャット、そして言わずと知れたファンクの神様、かねてより〈Brainfeeder〉への参加が噂されていたジョージ・クリントンがジョージ・クリントン&パーラメント・ファンカデリックとして出演決定!

SONICMANIA 2018
2018.8.17
www.sonicmania.jp

2017年11月にMVと共に公開されたフライング・ロータスの最新曲“Post Requisite”
Flying Lotus - Post Requisite
>>> https://youtu.be/2XY0EHSXyk0

フライング・ロータスの長編デビュー映画『KUSO』の公式トレーラー
Flying Lotus - Kuso (Official Trailer)
>>> https://youtu.be/PDRYASntddo

映画『ブレードランナー2049』と、前作『ブレードランナー』の間を繋ぐストーリーとして渡辺信一郎が監督した短編アニメーション
「ブレードランナー ブラックアウト 2022」
>>> https://youtu.be/MKFREpMeao0

80年代を代表する黄金コンビ、マイケル・マクドナルドとケニー・ロギンス参加のリードシングル
Thundercat - Show You The Way (feat. Michael McDonald & Kenny Loggins)
>>> https://youtu.be/Z-zdIGxOJ4M

東京で撮影されたMVも話題となったアルバム収録曲
Thundercat - Tokyo
>>> https://youtu.be/QNcUPK87MnM

フライング・ロータス、サンダーキャット、シャバズ・パラセズによるプロジェクト、WOKEの1stシングル。ジョージ・クリントンが参加!
WOKE (Flying Lotus, Shabazz Palaces, Thundercat) feat. George Clinton - The Lavishments of Light Looking
>>> https://soundcloud.com/adultswimsingles/woke


label: BEAT RECORDS / BRAINFEEDER
artist: FLYING LOTUS - フライング・ロータス
title: YOU'RE DEAD - ユーアー・デッド
release date: NOW ON SALE
cat no.: BRC-438
国内盤特典: ボーナス・トラック追加収録

本日リリース!
label: BEAT RECORDS / BRAINFEEDER
artist: Thundercat
title: Drank
release date: 2018/02/02 FRI ON SALE
国内初回生産盤:スリーヴケース付
歌詞対訳/説書封入
BRC-568 ¥1,800+税

label: BEAT RECORDS / BRAINFEEDER
artist: Thundercat
title: Drunk
release date: NOW ON SALE
国内盤特典:
ボーナス・トラック追加収録/歌詞対訳/解説書封入
BRC-542 ¥2,200+税

interview with Rhye - ele-king


Rhye - Blood
Loma Vista / ホステス

R&BSoul

Amazon Tower HMV iTunes

 シャーデーを好きな男は当然、昔からたくさんいた。だが、シャーデーのような男、はどうだろう。姿を明かしていなかった登場時、その声の主は女性であると多くの人間が思いこんだ。が、そうして愛の憂鬱を呟いていたのはマイケル・ミロシュという男だった。

 ジェンダーとセクシュアリティの自由が拡張され続ける現在、ライはそんな時代にふさわしい性の新しい価値観をもっとも先鋭的かつポップに繰り広げようとするアーティストだ。ジャジーでスムースなソウルに乗せて囁かれる愛の歌……はけっして新しいものではないが、女性性の内側にまで男が入りこもうとする事態は、旧来の性のあり方を湯煎でチョコレートを溶かすようにゆっくりと無効にしてしまう。そう、ライの音楽は成り立ちのメカニズム自体がエロティックだ。性の境界を生理において越えること。ファースト・シングル“Open”のヴィデオが女性監督によるセックスする男女を映すものであったことは、完璧にライの音楽をリプリゼントした。
高い評価を受けたデビュー作『ウーマン』から5年を経たセカンド・アルバム『ブラッド』は、『ウーマン』の色香に悩殺されたリスナーの期待に応える仕上がりになっている。バンドの演奏はよりオーガニックになり、アルバム全体のトーンも前作よりまとめられているとはいえ、基本的な路線は変わらない。ジャズ、ソウル、R&B、香りづけとしてのディスコとハウス、それにファンク。ブラック・ミュージックの官能はあくまできめ細かく調理され、どこまでもエレガントに立ち上がる。スロウなテンポでストリングスがミロシュのアンニュイな声と絡み合う“Waste”。ファンキーなベースラインが品よく躍動する“Taste”。本作からのファースト・シングル“Please”におけるスウィートな愛の憂いに聴き手が辿りつくころには、前作同様の、あるいは前作よりも深くまで染みこむ恍惚が静かに押し寄せている。

 個人の性愛がインターネットを介してあっという間に晒されてしまう現在では忘れられがちなのかもしれないが、性の快楽は閉ざされた場所でこそその真価を発揮する。誰にも奪われない私だけの悦び。そしてそれは、秘めごとであるがゆえに限りなく自由であっていいはずだ。だからライの音楽にダンス・フィールはあってもダンスフロアの公共性には向かわないし、ライヴ会場にあっても一対一の関係を結ぶようなインティマシーを生み出そうとする。どこか不穏な緊張感が途切れずに漂う“Blood Knows”は『ブラッド』におけるハイライトのひとつだが、そこで音に集中していると、普段は押し隠したありったけのエロスを開放しろと迫られているような心地になる。
だが、ひとりだけの快楽だけでは『ブラッド』は終わらない。それをもっとも大切な誰かに明け渡すことで、このラヴ・ソング集は完成するのだとミロシュは言う。それほどエロティックな体験はないということなのだろう。

愛は愛だし、ジェンダーは関係ない。

ライの登場は衝撃的でした。というのも、シンガーの姿が明かされないまま洗練されたソウルが展開されていて、聴き手の興味と想像力を掻き立てたからだと思います。なぜ当初は姿を隠し、匿名的に登場したのでしょうか? また、なぜ現在は姿をオープンにすることにしたのでしょうか?

マイケル・ミロシュ(Michael Milosh、以下MM):最初も、とくに姿を隠したいとかそういう目的はなかったんだ。ただ、音楽をイメージで判断して欲しくなかったから、写真に自分が写らないようにしていただけなんだよ。でも、前のアルバムをリリースしてからパフォーマンスをするようになって、オーディエンスはもちろん僕が誰なのかをもう知っているわけだよね。だから、いまはもっと普通に姿を見せるようになった。それだけさ。ダフト・パンクみたいに、覆面になってまで自分を隠そうとしていたわけではないんだ(笑)。自分が写真に写らない、ということを考えていただけさ。

ファースト・アルバム『ウーマン』は日本も含めて、非常に大きな反響がありました。高い評価を受けた作品でしたが、どのようにリアクションを受け止めましたか?

MM:ただ自分が作りたいものをベッドルームで作っただけだったから、正直リアクションには驚いたよ。だんだん慣れていったけど、受け取るまでには時間がかかった。子どもから手紙をもらったり、僕の音楽を聴いてハグしあったり、泣いたりするひとを見たり、みんながすごくエモーショナルになっている姿を見たりすると、自分の音楽が彼らの感情にまで届いてるんだなというのを実感することができる。それって本当に素晴らしいことだし、本当に嬉しいよ。

また、『ウーマン』においてはバンドの姿が隠されていたぶん、ミュージック・ヴィデオが非常に重要な役割を果たしていました。音楽を映像で見せるとき、あなたからどのようにコンセプトやテーマなどが提示されたのでしょうか?

MM:自分に実際に起こっていることがヴィデオのコンセプトになった。でも、それをダイレクトにヴィデオで表現はしたくなかったから、チームには具体的なことは言わないでいたけどね。それを映像で表現しようとすると、あまりにも何を表現しようとしているかが明らかになってしまうときもある。だから、それが赤裸々になりすぎないよう、少し気をつけなければいけないと学んだよ(笑)。ヴィデオには、そういった自分の中の何かがアイディアになることもあるし、物語性を持ったものもあれば、動きを楽しむものもある。その多様性をみんなに楽しんでほしいんだ。

その意味で、あなた自身が監督した“Please”のヴィデオは昨年の7月には発表されましたが、ライのセカンド・アルバムを想像するための重要なものだったと思います。ダンサーの身体の躍動が観ているこちらにも伝わってくるものでしたが、このヴィデオのコンセプトやテーマについて教えてください。

MM:あのヴィデオのテーマは謝罪。ガールフレンドと実際に口論をしたんだけど、それに関して彼女に謝っている姿をダンスで表現しているんだ。

血というのは、命が生まれるときも出てくるものだし、女性も連想されるし、家族の繋がりにも関係がある。すべての曲に繋がりがあるし、「ブラッド」という言葉がそれをうまく表していると思ったんだよ。

あなたのヴィジュアル表現には身体、とくに裸体がその多くでモチーフとなっていますが、それはなぜですか?

MM:僕たちは人類なわけで、その表現の基本は、身体を動かすことなわけだよね。自分が少しフェミニンであることもわかっているし、裸体というよりは、女性の身体を身近に感じるんだ。でも、それだけが理由なのではなくて、たとえばアルバムのジャケットは、裸体の写真なのではなく、僕のガールフレンドの写真。ただ身体や裸体の写真を使いたかっただけではなくて、彼女の写真を使いたかったんだ。裸体がモチーフのメインではない。モデルや、誰か知らない人を使ってまで裸体で何かを表現したいというわけではないんだよ。

ライの音楽においては、その身体というモチーフもそうですし、性やセクシュアリティが重要なテーマになっているように感じます。あなたにとって、音楽と性、セクシュアリティはどのように結びついているのでしょうか?

MM:僕の曲は、愛についてのものが多い。そうなると、性やセクシュアリティというのは欠かせないテーマだと思う。それらは愛と自然に、そして必然的に結びついているものだからね。

また、ライの音楽は両性具有的としばしば評されたように、非常にジェンダーが曖昧なものになっています。実際のところ、ライにおいてジェンダーのアイデンティティはどのように捉えられているのでしょうか?

MM:僕自身、ジェンダーがはっきり分かれているような環境で育っていないんだ。子供の頃は長い間ダンスをやっていたんだけど、バレエの中でなんかはとくに、男性らしさが求められることもないし、男性の役割、女性の役割というものがはっきりとしていない。だから、僕にとっては男性も女性らしさを持っているし、女性も男性らしさを持っているし、あまり境界線を感じないんだ。だから、僕が何かを表現するとそれが自然と現れてくるんじゃないかな。

わたしがザ・エックス・エックスに取材したとき、彼らはジェンダーレスなラヴ・ソングを歌うことをとても意識していると話していました。あなたの歌も多くはラヴ・ソングですが、ジェンダーレスであることに意識的なのでしょうか? そうであるならば、それはなぜでしょうか? 

MM:意識もしているとは思うよ。それが愛というものだから。愛は愛だし、ジェンダーは関係ない。この前『Call Me By Your Name』という映画を見たんだけど(木津註:ルカ・グァダニーノ監督による映画。1980年代の北イタリアを舞台に、年上の男性に惹かれる少年の夏を描く作品。日本では『君の名前で僕を呼んで』のタイトルで4月公開予定)、あの作品は素晴らしかった。ふたりの男性の愛の物語なんだけど、自分がこれまでに見たなかでも、もっとも美しい愛を描いた映画のひとつだったね。映画を見ていると、彼らがホモセクシュアルということさえ考えない。性別関係なく、ふたりの人間の間に起こるラヴ・ストーリーとして自然に自分のなかに入ってくるんだ。線を引かず、あるがままに愛を表現するというのは、すごく大切なことだと思う。

男性であるあなたがフェミニンな表現をしていることは、聴き手の多くの男性に、ジェンダーやセクシュアリティにおいて自由であることに関して勇気を与えているようにわたしは感じます。ただあなたからすると、世の男性というのは「男らしさ」に囚われすぎだと感じますか?

MM:そう思うこともある。筋肉をつけて強くならなければというストレスや考えは、男性が持ちやすいものだと思うね。それは文化的なものだと思うけど、僕は、それは必要なことだとは思わない。筋肉がついていてもいなくても、強くても弱くても、そんなのどうでもいいこと。世のなかにはもっと大切なことがあって、男性として自分が愛するひとにとって良い存在であることのほうがよほど重要なことだと思う。お互いに戦わないことのほうが大切なのに、あえて線を引いて違いを深めることによって戦いを起きやすくしている。性別に限らず、国籍、宗教、そういったものすべての境界線を越えて、僕たちはみんな一緒に動くべきなんだ。それがいま起こっている深刻な問題の解決策なんじゃないかな。それができれば、そういった問題が生まれさえしないのかもしれないしね。

以上のような話を踏まえてお訊きします。今回のタイトル『ブラッド』が象徴するものは何でしょう?

MM:このアルバムの曲のほとんどすべての曲の歌詞が、それぞれの個性を持ちながら類似性を持っているからこのタイトルにしたんだ。血というのは、命が生まれるときも出てくるものだし、女性も連想されるし、家族の繋がりにも関係がある。すべての曲に繋がりがあるし、「ブラッド」という言葉がそれをうまく表していると思ったんだよ。

セカンド・アルバムの音楽的な側面についてもお訊きします。ツアーのライヴが今回の制作に影響を与えたそうですが、レコーディングもバンドでの演奏をベースに行われたのでしょうか? そのときとくに心がけたことはありますか?

MM:今回もこれまでのライのサウンドに近いものを作りたかった。だから、今回もすべてをライヴでレコーディングしたし、ドラムも全部自分で叩いたし、コンピュータのテクニックは使わず、すべて生演奏をレコーディングしたんだ。意識したのは、純粋な作品を作ること。サウンド的には、すごくアナログなものを求めていたね。70年代や80年代から感じられた、自分が好きなあのサウンドを思い起こすような。エレクトロニック・レコードを作らないことは、自分にとって大切だった。そうではなく、アーシーなレコードを作りたかったんだ。あと、前回はただ作りたいものを作ったけれど、今回はアルバムをリリースした後にパフォーマンスする機会が多く待っていることがわかっていた。だから、ステージでズルをすることなく曲をそのままライヴでパフォーマンスできることを考えながら曲を作ったんだ。

ライの音楽はメロウかつスムースで、ベッドルーム・リスニングに適したものでもあるのですが、“Taste”や“Phoenix”のベースラインはディスコ的なダンス・フィールを感じます。ダンス・ミュージックはライの音楽にどのような影響を与えていますか?

MM:ダンスは確かに少し意識したんだ。ライヴをしていて、人々が踊る瞬間が大切だということを学んだから、今回は、ライヴで身体を動かせるような曲も作りたかったんだ。みんながダンスしている瞬間って、美しいからね。僕も子供のころにダンスをやっていたからわかるんだけど、踊っている間、みんながひとつになっているような感覚になるんだ。でも、クラブ・ミュージックを作りたかったわけでもないから、ベッドルームでももっと大きな場所でもどちらでも楽しめる音楽になっていると思うよ。

僕は個人的には政治的な人間だけど、バンドとしては政治的になりたくない。政治的なメッセージを発信して、人びとをさらに分けるようなことはしたくないから。

あなたはこのアルバムにおいて重要なものは「親密さ(Intimacy)」だと説明していますね。これはファースト・アルバムから重要な要素だったと思いますが、その「親密さ」を作り上げるために、音楽的には、具体的にどういったことが重要でしたか?

MM:ヴォーカルをレコーディングする時は、自分が一緒に音楽を作った近いひとだけがそこにいるようにした。親密さは、自分自身に正直に、素直であることから生まれると思うんだけど、大勢でなく、近い少人数のひとだけが周りにいることでリアルになれるし、それをヴォーカルで表現することができるんだ。

『ブラッド』はメランコリックでもあり、同時にスウィートで官能的なためどこか幸福感も感じられます。実際のところ、あなたが『ブラッド』というアルバムにおいて、掴もうとしたフィーリングはどんなものなのでしょうか?

MM:ひとつではなく、様々なフィーリングがこのアルバムには込められている。それを全部ひっくるめて、このアルバムは喜びに満ちたアルバムに仕上がっていると思うよ。人生や変化、新しいものを祝福している作品。悲しみももちろん表現されているし、様々なフィーリングが複雑に絡み合ってはいるけど、全体的にはハッピー・レコードなんだ。

ボノボの作品(『マイグレーション』)でゲスト・シンガーとして登場していましたが、シンガーとしてもっとも意識していることは何でしょう? お手本にしているシンガーはいますか?

MM:ズルをしないことだね。僕は音程を修正するソフトウェアは使わないし、トーンを変えたりもしない。自分の声のトーンを感じるというのは、すごく大切なことなんだ。あと、自分の声、喉の震えから生まれるその瞬間の緊張感も大切だと思う。手本にしているというわけではないし、彼女のように歌いたいと思っているわけではないけど、ビョークは素晴らしいと思うね。尊敬してる。彼女のヴォーカルはすごくクレイジーだから。

社会が荒れるなか、政治的あるいは社会的なメッセージを含めたポップ・ミュージックが現在多く見られます。いっぽうでライの音楽は徹底して逃避的だと感じますが、あなたにとって、音楽が逃避的であることが重要なのでしょうか?

MM:僕も政治に関しては色々なものを読むし、目にするけど、政治について誰かが書いた本、新聞、批評はすでにいくらでも存在しているんだ。僕にできること、僕がやりたいのは、それをさらに増やすことではない。僕が自分の音楽でできるのは、人びとをひとつにすることだと思うんだ。政治に深く関わることだけが生活や人生じゃない。テレビが政治の重要さを押しつけてくるけど、人生において大切なのは、政治よりも分け合うことなんだ。僕は個人的には政治的な人間だけど、バンドとしては政治的になりたくない。政治的なメッセージを発信して、人びとをさらに分けるようなことはしたくないから。ラヴ・ソングで、皆に同じものを感じて欲しい。それが僕が音楽でやりたいことなんだ。あと、政治的になってしまっては、その曲が持つ世界観も限定されてしまうしね。

『ブラッド』はリスナーにどのようなシチュエーションで聴かれてほしいですか?

MM:レコードを理解するまで、ひとりでヘッドフォンで聴いて欲しい。ひとりでなくても、少人数でそれぞれヘッドフォンをつけながらでもいい。で、レコードを聴きこんだら、その経験を誰かとシェアして欲しいな。自分が愛するひとと作品を共有できるようになってくれたら嬉しいね。

最後に、カジュアルな質問です。あなたがもっともセクシーだと思う音楽をいくつか挙げてください。

MM:プリンスの“エロティック・シティ”。すごく官能的だし、美しい曲だから。あとは、オウテカのアルバムの『ガービッジ』(註:4曲入りEP作品)。あのアルバム全体がエロティックだと思う。ひとつの作品で、様々な雰囲気が表現されているんだ。同じ部屋のなかの雰囲気がどんどん変化していく感じ。思いつくのはそれかな。

ありがとうございました!

MM:こちらこそ、ありがとう。日本でまたパフォーマンスできるのを楽しみにしているよ!

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