ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Loraine James 路上と夢想を往復する、「穏やかな対決」という名のアルバム | ロレイン・ジェイムス、インタヴュー (interviews)
  2. 国葬の日 - (review)
  3. PACIFIC MODE 2023 ──川崎の野外で遊ぶパーティ、NYのクッシュ・ジョーンズ、初来日となるマリブーやウラらが出演 (news)
  4. Lost New Wave 100% Vol.1 ——高木完が主催する日本のポスト・パンクのショーケース (news)
  5. CONNAN MOCKASIN & TEX CRICK 一夜限りのスペシャルなショー! コナン・モカシン & テックス・クリックのライヴが急遽決定! (news)
  6. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ (review)
  7. Caterina Barbieri - Myuthafoo | カテリーナ・バルビエリ (review)
  8. Christopher Willits & Chihei Hatakeyama ──クリストファー・ウィリッツ&畠山地平による、この秋注目のアンビエント公演 (news)
  9. Laurel Halo ──ローレル・ヘイロー、5年ぶりのアルバムがリリース (news)
  10. Theo Parrish Japan Tour 2023 ──セオ・パリッシュが来日 (news)
  11. FOREIGN AFFAIRS ——渋谷の〈JULY TREE〉にて、菊地昇による写真展『FOREIGN AFFAIRS』を開催 | 菊地昇(きくちしょう) (news)
  12. 絵夢 〜 KITCHEN. LABEL 15 in Tokyo ──冥丁らが出演、シンガポールのレーベルによる15周年記念イヴェント (news)
  13. Columns 創造の生命体 〜 KPTMとBZDとアートのはなし ② KLEPTOMANIACに起こったこと (columns)
  14. SUGIURUMN ──ベテランDJ、気合いMAX。スギウラムが新曲を発表 (news)
  15. Cleo Sol - Mother | クレオ・ソル (review)
  16. talking about Aphex Twin エイフェックス・ツイン対談 vol.2 (interviews)
  17. Brainstory ──クルアンビンのファンは注目。世界を救えるのはブレインストーリーしかいない!? (news)
  18. Tirzah ──2023年の絶対に聴き逃せない1枚、ティルザのサード・アルバムが登場 (news)
  19. Creation Rebel ──クリエイション・レベルが新作をリリース、エイドリアン・シャーウッドのサイン会も (news)
  20. Columns 創造の生命体 〜 KPTMとBZDとアートのはなし ①アーティストと薬 (columns)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Terrace Martin- Velvet Portraits

Terrace Martin

Hip HopJazz

Terrace Martin

Velvet Portraits

Ropeadope / Agate

Tower HMV Amazon

小川充   Apr 06,2016 UP

 第58回グラミー賞受賞式のハイライトとなったケンドリック・ラマーのステージ。最初にケンドリックやバンド・メンバーたちは監獄の囚人に扮したが、ケンドリックとともにテナー・サックスを吹くテラス・マーティンの存在感も光っていた。5冠に輝いた『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』でもテラスはキー・パーソンのひとりで、ケンドリックにとってデビュー・アルバムの『グッド・キッド、マッド・シティ』からテラスは音楽的参謀の位置にある。

 ミュージシャン、ラッパー、プロデューサーという複数の顔を持つテラスだが、そもそも2000年代半ばからパフ・ダディ、スヌープ・ドッグらの作品や活動に関わり、とくにスヌープのプロデューサーとして知る人ぞ知る存在だった。ヒップホップ界での成功により注目を集めるが、もともとはジャズ・サックスが出発点で(父親はジャズ・ドラマーで、母親はゴスペル・シンガー)、コルトレーン、チャーリー・パーカー、ジャッキー・マクリーン、グローヴァー・ワシントン・ジュニアなどの影響を受けてきた。奨学金をもらってカリフォルニア芸術大学へ進学後、プロのジャズ・ミュージシャンとなるが、子どもの頃からドクター・ドレやスヌープをはじめとした西海岸のヒップホップやR&Bは身近にある存在で、自然とそうした分野での演奏も増えていく。こうした経歴は東海岸を代表するジャズ・ピアニストのロバート・グラスパーと同じ流れで、いまのUSのジャズ・ミュージシャンらしい。西海岸でジャズとヒップホップ/R&Bを繋ぐ存在がテラスなのだ。実際彼らは高校時代にサマー・キャンプで出会い、ロバート・グラスパー・エクスペリメントの『ブラック・レディオ2』にもテラスはスヌープといっしょに参加している。

 2013年に発表したソロ・アルバム『3コードフォールド』は、そんなテラスの集大成的な作品で、グラスパー、ケンドリック、スヌープ、レイラ・ハサウェイ、ウィズ・カリファ、ミュージック・ソウルチャイルドらが参加した。グラスパーの『ブラック・レディオ』に対するヒップホップ/R&Bサイドからのアンサー・アルバムにあたるような内容で、『ブラック・レディオ』から『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』への流れを結ぶ作品でもある。なお、この中ではマイケル・ジャクソンの“アイ・キャント・ヘルプ・イット”をカヴァーしているが、原曲のプロデューサーだったクインシー・ジョーンズまでが共同制作を買ってでるなど、新旧のアーティストから高い評価と信頼を集めている。クインシーやスティーヴィー・ワンダーなどからの影響を、しっかりといまに受け継ぐミュージシャン/プロデューサーでもあるのだ。

 『3コードフォールド』から3年ぶりとなるテラスのニュー・アルバム『ヴェルヴェット・ポートレイツ』は、グラスパーやレイラ・ハサウェイなど前作から続く面々に加え、カマシ・ワシントン、サンダーキャットというLAジャズ・シーンのキー・パーソンも参加する。ほかにジャズ系のミュージシャンでは、ディアンジェロのツアー・メンバーで、グレゴリー・ポーターのニュー・アルバムにも参加したキーヨン・ハロルドも演奏している。全体的には前作に比べてヒップホップ/R&B度は薄れ、そのぶんジャズ方向へ傾き、同時にディアンジェロ的な70年代ソウル~ファンク・リバイバルの流れを汲んだアルバムとなっている。“ヴァルデス・オフ・クレンショー”はダニー・ハサウェイの“ヴァルデス・イン・ザ・カントリー”からの引用で(ダニーの娘のレイラが本アルバムに参加するのも感慨深い)、「プッシュ」はカーティス・メイフィールドの『スーパーフライ』の“プッシャーマン”を意識したように聴こえる。“トライブ・コールド・ウェスト”はATCQからインスパイアされた曲だそうだが(皮肉にも、先に急逝したファイフ・ドーグへの鎮魂歌となってしまった)、曲自体はキーヨンのトランペットをフィーチャーし、ファンクやアフリカンの要素を取り入れた現代版エレクトリック・マイルスとでもいうようなもの。“シンク・オブ・ユー”ではカマシのサックスとともに女性シンガーのローズ・ゴールドをフィーチャーし、ジャズとソウルの最良の接点を見せてくれる。

 なお、現在テラスはフライング・ロータスやサンダーキャットとともにハービー・ハンコックの新作を制作中とのことで、そちらへの期待も否が応でも高まる。

小川充