「K Á R Y Y N」と一致するもの

David Kanaga - ele-king

 レトロフューチャリスティックという奇妙な時制を持つ言葉によって、ある種の「未来」は永遠にクラシカルなものとして留めおかれることになった。そもそもはとても素朴というか、空飛ぶ車とか空中都市のような、高い水準の工業技術を持った世界がその主なイメージだったのだろうけれども、『トロン』のような作品を指してそう呼んだりもするから、いつしかそれはサイバーパンク的な世界観もひっくるめた、かなり大雑把な概念になったのだろう。詳しい人からすれば単なる誤用なのかもしれないけれども。

 レーベル最初の1枚であるフォード・アンド・ロパーティンの『チャンネル・プレッシャー』のジャケット・デザインが思いきりそうであるように、〈ソフトウェア〉にはそもそもこの意味でのレトロフューチャリスティックなコンセプトがある。シンセまたはエレクトロニックというゆるい共通項によって、ノイズやアンビエントからR&Bまで幅広い音楽性をカヴァーし、それでいて強いレーベル・カラーを誇るのは、このややディストピックでアイロニカルなロマンティシズムのためだ。物語ではなくタグでつながる現在の音楽シーンに、良質なフィクションやファンタジーをもたらしている稀有なレーベルのひとつである。一作一作がエッジイでありながら、OPNなどオーヴァーグラウンドでの成功例を生もうとしているところも得がたい。


 さて、そんな〈ソフトウェア〉がインディーズ・ゲームと結びつくのも必然といえば必然である。オークランドを拠点に活動するコンポーザー、デヴィッド・カナガによる『ダイアード(Dyad)』のサウンド・スコアが素晴らしい。いや、彼がこのゲームのために準備したトラックももちろんだが、このゲーム自体がそもそもかなりの傑作らしく、カナガを目利きしたプロデューサーへの賛辞も惜しむべきではないだろう。ゲームの世界はひょっとしたら音楽以上にレヴュー・サイトが充実しているのかもしれない。音楽にかぎらず文芸・芸術一般は必ずしも聴き手読み手のために制作されていないという神秘化された側面があるが、ユーザビリティが制作者のエゴに優先されるジャンルでは、もちろんのことレヴューが果たす役割は大きくなる。ちょっと調べただけでおびただしいサイトが見つかり、インディーズ・ゲームの国際的フェスティヴァル〈Indiecade 2012〉でオーディオ・デザイン・アワードを受賞したという同作は、軒並み超高得点を獲得していることがわかった。そしてそのなかにはほぼ必ずカナガの音楽への言及と賛辞が見られる。筆者はゲームに疎いものでトレイラーを眺めるだけだが、なるほど、このゲームやヴィジュアルと切り離しては考えられない作品であろうことはうかがわれた。


 ぐるぐると渦を巻きながら前方へ伸びるトンネルのなかを高速で進んでいくシューティング・ゲーム・・・・・・ということでおおよその理解ができているだろうか? どうやらかなりシンプルなものであるらしい。一見に如かずということでトレイラーを見てみていただきたいが、前から後ろへと果てしなく広がっていく光と幾何学模様、そのミニマルでサイケデリックなヴィジュアル要素と、前へ前へと止まらないし止まれないスリル、それが高揚へと変わっていくアディクショナルな効果が持つ魅力は想像に難くない。カナガのトラックは、このまさに飴のようにのびる無時間的な時間のなかをさまざまに変色しながら突き進み、主体の視点と感覚をリードしてくれる道しるべのようだ。トレイラーにも使用されている"スタート・マッシュ"は密林を思わせる鳥の鳴き声のサンプリングに縁取られた、ニューエイジ風のアンビエント・トラック。ビートレスのゆったりとした曲だが、サイバー空間、でなければこのトンネルの向こうにあるはずの遥かなる「どこか」へと深くもぐっていくための導線として、はかり知れないスピード感も内包している。

 他方で、エイフェックス・ツインやブラック・ドッグ、ケトルに比較できる叙情性も憎いほど効いている。"トレイラー2"などは、アナログシンセのあたたかみある響きも手伝って、ノスタルジックな光を帯びている。デイデラスやバスなどのファンにもおすすめしたい。ここに挙げたようなプロデューサーたちの作品を新幹線で聴いたことのある方なら、あの高揚やときめきをやすやすと思い返してもらえるだろう。高速で流れる風景と彼らのドリーミーなダンス・ミュージックとはおそろしいほどの調和をみせる。"オロル"なども同様だ。アブストラクトなビート感覚がエモーショナルに消化されている。ルーツにはブレイクビーツも感じられる。時折アッパーなエロクトロ・ディスコも挿入されるが、それらが全体として統一感を失わない。
 劇伴やゲーム音楽に必要なものは何か、という問いに答える準備は筆者にはないが、少なくともこの作品においてカナガが重要なパフォーマンスを担いそれを全うしていることは明らかだ。音楽の評価とゲームの評価とが分かちがたく結びつく、本作のようなハイブリッドが、現在形のエンタメ・コンテンツのリアリティを映しだしている。〈ソフトウェア〉はおもしろい。

トリックスター•キャバレエ
パトスの交歓、夢時空連続体

ご来場心よりお待ちしています。
Serph

 という招待状がある日あなたの郵便受けの底を鳴らすと、途端に空気は奇妙に色をおび、時間は伸び縮みをはじめ、あなたは夢のなかで目覚め、Serphの館への門が開かれる――

 これまで姿を現すこともライヴを行うこともなかったミステリアスなベッドルーム・プロデューサー、あのSerph(サーフ)が初のライヴ公演を行う。これはSerph新章の幕開けを告げる、非常に貴重な瞬間となることだろう。

 『ele-king vol.9』のインタヴューに詳しいが、Serphは知れば知るほどおもしろい。彼のドリーミー・ヴァイブは度外れの規格外だ。一見美しく叙情的なIDMが、その姿のまま静かに牙を剥いて聴く者を食らいにくる。狂気と呼ぶのが安直すぎてためらわれるようなSerphの魅力をより深く感じるためにも、彼のたたずまいや彼自身の身体から発信される信号をキャッチできる機会は見逃せない。

 ライヴ・ステージは本当に初めてとのことで、Serphにとってもおそらくは大変な緊張を伴うステージとなるわけだが、編集部も楽しみに、心待ちに、1月を待っている......この奇妙な招待状とフィリップ・K・ディックを手に、いざ!

■noble presents Serph 1st concert
"Candyman Imaginarium"

開催日:2014年1月11日(土)
会場:LIQUIDROOM
出演:Serph
OPEN / START:18:00 / 19:00
ADV / DOOR:¥3,500(税込・ドリンク別) / ¥4,000(税込・ドリンク別)

前売りチケット取り扱い:
イープラス (https://eplus.jp/)
ローソンチケット (Lコード:77245)
チケットぴあ (Pコード:213-358)

前売りチケット発売スケジュール:
イープラス先行発売予約受付期間:2013年10月26日 正午~11月4日 18時
一般発売日:2013年11月16日

お問い合わせ:
LIQUIDROOM (03-5464-0800 / https://www.liquidroom.net)
noble (https://www.noble-label.net/)

イヴェント詳細リンク先:
https://www.noble-label.net/cmi
https://www.liquidroom.net/schedule/20140111/16632/

謎に包まれた異色音楽家Serphの初ライヴが決定。
一切のライヴ活動を行わず、アーティスト写真も詳細なプロフィールも謎なまま、リリースされた作品が軒並み驚異的なセールスを記録している異色の音楽家、Serph。2009年のデビュー以来初となる記念すべき1stコンサートを、リキッドルームにてワンマンで開催することが決定しました。「Candyman Imaginarium」と題されたSerphの初コンサート。ファンタジックでドリーミーなSerph独自の音世界が、どのようにリアルな空間で繰り広げられるのか、どうぞご期待ください。今後のライヴ活動は一切未定ですので、くれぐれもお見逃しなく 。

■Serphプロフィール
東京在住の男性によるソロ・プロジェクト。2009年7月、ピアノと作曲をはじめてわずか3年で完成させたアルバム『accidental tourist』を〈elegant disc〉よりリリース。2010年7月に2ndアルバム『vent』、2011年4月には3rdアルバム『Heartstrings』、11月にはクリスマス・ミニアルバム『Winter Alchemy』を、それぞれ〈noble〉よりリリース。最新作は2013年3月に〈noble〉より発表した4thアルバム『el esperanka』。
より先鋭的でダンスミュージックに特化した別プロジェクトReliqや、ヴォーカリストNozomiとのユニットN-qiaのトラックメーカーとしても活動している。


Arca - ele-king

 なんだ、これは。と思ってから、すでに2ヶ月以上が経過している......が、むしろ聴けば聴くほどその思いは深まっていく。聴くたびに発見があり、それと同じくらい、謎も増えていく。わずか25分程度のミックス音源でありながら、体感時間はその数倍に及ぶ。
 アンビエント、ヒップホップ、トリップホップ、ゴーストリー、インダストリアル、エレクトロニカ、ジューク、ダブ、ニューエイジ、チョップド・アンド・スクリュー、あるいは金属やガラスが擦れる音......どこまでも断片化された、超未来音楽のスケッチ。それでいて、断片化されたビート・ミュージックの無数のスクラップが、いまこの時代のためにかりそめのビート・ミュージックとして統合されたかのような――。
 表題には「&」が5つも並べられているが、そのあいだにはどのような音楽上のジャンル/概念を代入していただいても結構、とでも言うかのよう。まったくもって規格外だ。2014年、〈Hippos in Tanks〉からのフル・アルバムが噂されるアルカ(a.k.a Alejandro Ghersi)のミックステープ、『&&&&&』がとにかくスゴイ!!

 ベネズエラ出身、ニューヨークはブルックリン在住、弱冠22歳のこのトラックメイカーは、一般には、カニエ・ウェストの怪作『イーザス』に数曲("ニュー・スレイヴス"や"ブラッド・オン・ザ・リーヴス")で参加する謎の新人、ないしは三田格までもが惚れ込んだFKAツウィグスのネオ・トリップホップ/未来型R&Bのレポート『EP2』を共同プロデュースし、"ハウズ・ザット"などの傑作を生みだした新進気鋭として知られる(欧米での評判は「ポスト・インターネット時代におけるトリッキー」等々)。
 もともとの所属は〈UNO NYC〉で、アルカ名義でのEPを2枚リリースしてるほか、デス・グリップスとエイサップ・ロッキーのあいだを埋める核弾頭的存在、ミッキー・ブランコとも"ジョイン・マイ・ミリシャ"で共演している。〈フェイド・トゥ・マインド〉とは互いに意識し合う関係にあるはずで、現場感を含めれば工藤キキさんが本誌でレポートしている〈GHE20G0TH1K〉周辺の動きとも関連がありそう。

 だが、昨年来、僕のようにヴェイパーウェイヴにハマってきたインターネット的な人間であれば、まったく別の側面からこの音楽を見るだろう。つまり、過去のものとなった近未来像をノスタルジックにローファイ処理し続けてきたヴェイパーウェイヴとはまったく逆向きにベクトルを伸ばし、その超未来都市的な映像のイメージとハイファイな音響処理を振りまきつつ生まれていたアンダーグラウンドの新潮流、「ディストロイド(Distroid)」なるタームの最新ヴァージョンとして。
 この聞きなれない言葉は、ヴェイパーウェイヴと同じくイギリスの批評家、アダム・ハーパーがウェブ・マガジン『ダミー』で提唱したもので、「disturbing(不穏な)」や「dystopian(暗黒郷めいた)」のディストに、「android(人造人間)」や「steroid(ステロイド剤)」のロイドを掛けたもので、具体的には〈GHE20G0TH1K〉にも参加しているファティマ・アル・カディリ、あるいはゲートキーパーといった、〈フェイド・トゥ・マインド〉やボディーガード(というかジェイムス・フェラーロ)以降の〈ヒッポス・イン・タンクス〉周辺アーティストがカウントされていた。
 ザックリ言うと、紙版『ele-king vol.11』号の「ディストピア世界で笑顔になれる40作」特集で斎藤辰也がファティマ・アル・カディリを挙げて書いているように、これらの音楽には「人の気配がまるでない」。あるいは、シーパンクにまとわりついていた海やイルカのイメージもない。先端医療工学/人体解剖学を彷彿させる抽象的なイメージ、あるいはバイクやヘリコプターといった機械の無人運転と、それを見つめる神の視線がひたすらハイファイに供給されるのみだ(ジャム・シティの『クラシカル・カーヴス』を思い出してもいい)。

 こうした感覚が何を表象しているのか、ずっと考えているのだが、いまのところピンとこず、『ele-king vol.9』のインダストリアル特集を読んでも、あるいは『vol.11』号での飯田一史氏と海猫沢めろん氏のディストピア対談を読んでも、腑に落ちるアイデアがどうにも閃かなかった(ので、情報の羅列に終始していることをお許しいただきたい......)。
 アルカに関して言えば、最新の電子機器と動物/臓器の遺伝子を組み合わせた合成生物(?)のイメージを初期から好んでおり、このミックステープにおいてもジャケのモンスターをヴィジュアル・アーティスト、ジェシー・カンダが手掛け、MoMAのPS1 現代美術センターにおいてフル尺でのフィルム上映を行い、本人たちは「これまでで最高に美しいミステイクだ!」などと言って笑っている(いまのところ、その全貌はYouTubeで観ようと思えば観られる)。
 そう、少なくとも彼らはディストピアの旧態的なイメージに囚われない。ディストピアで笑い、遊び、はしゃいでいる。その無邪気にして強靭な実験精神は、エメラルズ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーでさえも軽く呑み込んでいる。ベースがヘヴィに唸り、ビートの置き方が騒がしい前半もいいが、ハードなシンセの発色に酔う17分以降の騒々しいサイケデリアも、どこまでも高く飛ばせてくれる。この恐るべきレフトフィールド、未来はノックもせずにやってくるのか。挨拶代わりのミックステープ、まさかのフリー・ダウンロード!

オトコンポを知っているか? - ele-king

 メガネとボーダーがトレードマーク! スカとエレクトロの融合を謳った高度な音楽ネタと演奏力、そしてひとクセもふたクセもある芝居がかったステージングでオーディエンスを魅了する知的エンターテインメント・パフォーマンス集団、(M)otocompo(オトコンポ)に新メンバー加入との報が舞い込んだ。

 初期POLYSICSらと活動を共にした伝説のテクノポップ・バンドMOTOCOMPOからのスピンオフということで2011年に始動した同バンドは、各地に熱心なファンを作りながら今年はすでに2度も東阪ワンマンツアーを敢行するなど好調に活動を展開。男でも漢でもなくotocoを標榜し、揃いのメガネとボーダー・シャツで個別性というボーダーをも溶解させ、統制されたフリとヴォコーダーで踊る姿はまさにクラフトワークかマシンのそれ(※個人の感想です)。性別を持ってしまった演奏マシンたちは、スカの軽快な躍動感とポストパンク~ノーウェイヴな硬直ビートのダブルバインドで得体のしれない興奮とグルーヴを生み出す(※個人の感想です)。ホモソーシャルな空気も醸しつつ、スタイリッシュかつナードな雰囲気は女性にも人気。ボーダーを着た熱心なファンの姿も多いが、otocoたちの劇場型ライヴは初めて行ってもすんなりのれて、笑えて、楽しめた。ぼっちにも友達連れにもカップルにもやさしいぞ。

 バンド解散やメンバー脱退はニュースになっても、新メンバー加入などとりたてて注意を向けられることもない......しかし加入は脱退よりもときに破壊的であるかもしれない。新メンバーの竹下ショパン(Piano,Key)、石田Ⅲ成(Sax)という名のインパクトはすでにそれを証明するものかもしれない。さあ、これは直接ライヴで目の当たりにするほかないかもしれない! 新アー写もここに公開、大阪の人は連休ラストに目撃しよう。

(M)otocompo 新メンバー加入、及び新アー写公開!

新メンバー
竹下ショパン(Piano,Key)
石田Ⅲ成(Sax)

左から2番めが竹下ショパン、3番めが石田Ⅲ成

■(M)otocompo プロフィール

初期POLYSICSらと活動を共にした伝説のテクノポップ・バンドMOTOCOMPOからスピンオフしたエレクトロ・スカ・バンド。

2011年始動。2012年以降、サカエスプリング、ミナミホイール、見放題等のライブサーキットで入場規制がかかるなど話題を集めている。2013年はすでに二度の東阪ワンマンツアーを敢行、特に大阪は連続してソールドアウトの超満員に。圧倒的なオリジナリティのあるサウンドとステージパフォーマンスを軸に、今年を「OTOCOの熱狂元年」と位置づけ活動を加速させている。

作編曲家としても活動するオトコンポの中心人物Dr.Usuiは、アニメ『ドキドキ! プリキュア』にED曲"この空の向こう"、でんぱ組.incに"少女アンドロイドA"を提供。SEBASTIAN Xの最新アルバムのリード曲"DNA"のストリングス・アレンジを担当するなど、2013年、オトコンポの周囲が騒がしくなっている。

■(M)otocompo 東阪ライヴ情報

大阪
「MINAMI WHEEL2013
https://funky802.com/minami/
日程:10/14(月・祝)
会場:Music Club Janus
時間:17:15より出演

東京
(M)orocompoワンマンライブ「OTOCOたちに何が起こったか?!」
日程:11/29(金)
会場:下北沢CLUB Que
開場:未定
料金:2,500円(前売) / 3,000円(当日) ドリンク代別
予約・詳細 www.motocompo.com/otocompo/

■(M)otocompo official web
www.motocompo.com/otocompo/

第1回:ピンクに塗れ! - ele-king

 ele-kingをご覧のみなさんこんばんは、二児の母です(COUNT DOWN TV調に)。あたかもクラブに買い物帰りのオカンが長ネギを振り回しながら乱入したかのような不作法、なにとぞお許しください。じつは子どもたちのことで話が......え、小町にでも書いてろ? まあそう言わず、おつきあいくださいませ。

「女の子ならピンクが好きなんて押しつけ。女の子が生まれたら、自由にいろいろなものを選べるようにしてあげたい」。そう思って育ててきたはずのうちの娘、なぜか押しつけた覚えのないピンクばかりを身につけたがる。「これからは女の子だって社会に出ていく時代なのだから、自主性を尊重してあげなくては」と好きなように服を選ばせたら最後、林家ぺーのような格好で意気揚々と街中を闊歩する娘を追いかけるはめに......。私のような経験をした女児母は、決して少なくないのではないでしょうか。そう、女の子の多くは生まれて3~4年もすると、ピンクに取り憑かれたピンク星人になってしまうのです。たとえお母さんがバッキバキのテクノ子族上がりでも、アース・カラーしか身につけないほっこりミセスであっても。

 その証拠に、『ぷっちぐみ』(2006年創刊)、『たの幼ひめぐみ』(2007年創刊)、『おともだちピンク』と、未就学女児を対象としたピンク尽くしの幼児雑誌が2000年代後半に続々と創刊。うち2冊は『たのしい幼稚園』『おともだち』という古くからある幼児雑誌のスピンアウトですが、我が娘はそうした昔ながらの幼児雑誌には目もくれず、ピンク色の女児雑誌コーナーにかぶりついてはなれません。おもちゃ屋の女児玩具コーナーに一歩足を踏み入れれば、メーカー問わずピンク、水色、ラベンダーというパステル・カラーの大洪水。「かわいい......」とうっとりする我が娘を前に、大人たちはなすすべもないのです。


我が家の6歳児にせがまれて買った女児雑誌の数々。目がつぶれそうなほどにピンク!

 この現象は日本国内だけではありません。『プリンセス願望には危険がいっぱい』(ペギー・オレンスタイン著、日向やよい訳)によれば、アメリカでも最近の女児玩具のカラーリングは、もっぱらピンク、水色、ラベンダーばかりなのだとか。この傾向が強まるきっかけとなったのは、ディズニーが2000年にお姫様キャラクターを集めた女児向けブランド「ディズニープリンセス」を打ち立て、商品展開を開始したこと。これが大ヒットしたことから、女の子向けの商品はピンク、プリンセス、妖精といったモチーフで埋め尽くされてしまったのだといいます。またミッフィーを生んだオランダでも、ミッフィーを差し置いてピンク調のハローキティが大人気だと聞きました。21世紀以降、どうやら世界規模でピンク侵攻が進んでいるようです。

「女の子向けの商品がピンクばかりなんて、昔からの話じゃないの?」。そう思われる方も多いかもしれません。しかし私が子どもの頃、女児の世界はこれほどピンクまみれではありませんでした。


昭和30~50年代の女児向けバッグ(中村圭子編『日本の「かわいい」図鑑』より)


昭和50年前後のものと思われるファンシーグッズ類(宇山あゆみ著『少女スタイル手帖』より)

 ピンクも使われていましたが、女児グッズの基本カラーは赤と白。オレンジや黄色などの暖色もよく使われていました。いまとなってはピンクの印象が強いハローキティも、1974年の誕生当時は赤いリボンに青いお洋服という原色カラー。ほとんど動物的なまでにピンクに飛びつく我が子を見ていると、むしろピンクの少なさが意外に思われます。おそらくピンクに執着する3~7歳女児の嗜好がいまのようにマーケティングの対象となっていなかったこと、そして当時ピンクと言えば性風俗を想起する大人が多かったことが、その理由に挙げられるのではないかと推察します。ピンク映画、ピンクキャバレー、ピンクサロン、ピンクチラシ。70年代の女児に大人気だったピンク・レディーも、デビュー時点では大人の男性をターゲットとしたお色気ユニットでした。少女を縛る貞操意識がいまよりもはるかに強かった当時、自分の娘にはそうしたいかがわしい色彩のおもちゃを与えたくないと考える大人が多かっただろうことは、想像に難くありません。

 なぜ男性にとってピンクが性=女性を意味する色となるのか。チンパンジー界では妊娠可能な排卵期を迎えるとメスのお尻がピンク色に膨らみ、それを見てオスがハッスルするといいますから、もしかしたらサルだった時代の名残なのかもしれません。それは理解できるのですが、国を越えてこれほど多くの女児がピンク(やプリンセス、キラキラしたもの、妖精など)を好む理由は、いくら考えてもわからないのです。どうやら生得の好みであるように見えるのですが、はたしてそれが生物学的な理由であるとして、どのような合理性があるのか。女児の親は何も考えずにこの商業主義に巻かれていいものなのか。ピンクを追い求めるうちにいつの間にかつらい性差別的状況に追い込まれて小町に投稿......なんて将来が待ち受けていたりしないか。親にできることはなにか。次回以降は世界各国のエクストリームにピンク化し続ける女児文化を眺めながら、それらについて親のぼやきを交えつつ考察してみたいと思います。

ギークマム 21世紀のママと家族のための実験、工作、冒険アイデア
(オライリー・ジャパン)
著者:Natania Barron、Kathy Ceceri、Corrina Lawson、Jenny Wiliams
翻訳:星野 靖子、堀越 英美
定価:2310円(本体2200円+税)
A5 240頁
ISBN 978-4-87311-636-5
発売日:2013/10

CHICANO BATMAN JAPAN TOUR - ele-king

 "ラ・サモアーナ"という曲がたまらない。「この間、アパートで彼女を見かけた。この間、見かけた彼女にボーッとなっちまった。熱いハートでアイロンかけて、熱いハートでスープを作っていた。褐色の肌が愛しくてたまらない......(省略)......きれいなサモアの彼女にハートが熱くなってるから、きれいなサモアの彼女がソンを歌っていたから」(アルバム『チカーノ・バットマン』から。歌詞対訳:霜村由美子)
 チカーノ・バットマンは4人の移民の2世らが中心になってロサンゼルスで結成されたロック・バンドだ。バリオと呼ばれるラティーノたちのコミュニティのなかで活動を開始。コンボ・オルガンを多用した昔のガレージ・ロック風サウンドと、スペイン語で歌われる耽美的な歌詞の組み合わせは、民族・文化に対して高い意識をもつイースト・ロサンゼルスの住人たちのハートにじわじわと浸透していった。ここ数カ月は、そんな噂がバリオの外にも溢れだして、有名なカルチャー系メディアにもしばしば登場するようになってきた。あの『WAX POETICS』電子版でのロング・インタヴュー掲載、またロサンゼルス最大の独立TV局、KCETでも映像が流れた。ロサンゼルス中のヴェニューやイベントからも引っ張りだこで、去る10月5日には、あのパンク・ロック界の伝説、マイク・ワッツのバンドとの共演イベントまで実現させてしまった。いまやロサンゼルスでバットマンと言えば、彼らのことなのだ。
 しかし、そんなことに驚いていては、ロサンゼルスで現実に起きていることへの無知を曝け出すようなことになる。なぜなら、彼の地の人口の半分は、いまやメキシコ系を多数とするラティーノたち。中南米系というエスニシティは、もはやマジョリティを意味しているのである。英語世代のラティーノ系バンドのプレゼンスは、いまや爆発寸前なのだ。しかし、その出自は余りに複雑で、エスニシティのなかに、さらに多様なエスニシティが創成されている。メキシコ系なのか、他の中米出身なのか。アメリカ生まれなのか、移住してきたのか。バイリンガルなのか、英語だけなのか......などなど。80年代までは、ロサンゼルスの郊外に小さく散らばっていたバリオは一気に増殖、いつの間にか街全体がラティーノたちの住宅地になったような地域も沢山出現している。21年前にLA暴動で破壊されたサウス・セントラルも、いまやスペイン語が溢れるラテン・ゲットーだ。

 そんなカオスのような状況のなかで、敢えてチカーノという言葉を持ち出してきた彼らは相当の確信犯でもある。チカーノとは、メキシコ系アメリカ人を自己肯定的に捉えた言葉であるが、もとともと60~70年代の公民権運動の体験のなかで、民族の誇りとともに使われはじめた政治的な意味合いを強くもつ。しかし、時代の経過のなかで、チカーノという言葉に対するコミュニティ全体の感覚も随分と薄弱になってしまった。そんな言葉を持ち出さなくても、いまのロサンゼルスでは普通に暮らしていけるようになったのだ。
 彼らのアイコンも見て欲しい。逆三角形のマークは、チカーノ公民権運動の旗手でもあるセッサル・チャベス率いた農業労働者組合であるUFWのマークを模倣したもの。バリオで長年暮らしてきた年配者には熱き時代を喚起させる政治的なアイコンでもある。バットマンのイメージとシリアスな政治アイコンを融合させた毒とユーモアは、彼らのレイドバックしたレトロ風のサウンドにも当然通底している。
 長尺のスロー・テンポで展開される前述の"ラ・サモアーナ"は、メンバーの父親が経験した実話を題材にしているという。メキシコから移民して来た男が、同じアパートで暮らすサモア人の女の子に惚れるというストーリーだ。舞台は、ロサンゼルス郊外にある安アパート。遂にデートへと出掛けたふたりはバーでダンスに興じようとする。歌詞がそこまでを綴ると、歌は引っ込んで、古いワルツのようなリズムとファジーなエレキ・ギターの哀愁を帯びたメロディが流れ出す。ふたりが踊るシーンをファンタジーに描く美しい間奏。聴く度にグッとくる。
 彼らの音に夢中になる新世代の若者たちは、そんな世界をどこかおぼろげに憶えているに違いない。移民が急増し始めた70~80年代のロサンゼルスの郊外に広がるバリオの日常風景。ガレージ・ロック風と書いたコンボ・オルガンが鳴るサウンドも、実は当時の移民者たちを夢中にさせていたグルペーラと呼ばれるメキシコ~南米のグループ・サウンズを忠実に現代に甦らせたものだ。ロス・ブッキス、ロス・アンヘロス・ネグロス、ロス・ヨニックス......こうしたバンドは、決してメインストリームには出てこなかったが、バリオで必死にアメリカン・ドリームを追う移民者たちのバックグラウンド・ミュージックだった。しかし、英語世代の若いチカーノたちからは殊更に評判が悪かった。それは国境の南側から移民者たちが持ち込んできたメキシコそのものだったのだ。
 あれから30年近くの時が過ぎ、ロサンゼルスに現れたチカーノ・バットマンは、オールド・スクールのタキシード・シャツと古のサウンドを持ち出して、もう一度チカーノたちの体験を音楽で語りはじめた。メンバーは全員80年代生まれ。インターネットと南米への旅の経験のなかで、ブラジルのカエターノ・ベローゾなどトロピカリーア運動の音や、自らのルーツのひとつであるコロンビアの土臭いクンビアなどと衝撃的な出会いを続けながら、バリオの中と外でのロサンゼルスの経験をエディットした上で、グルペーラという音楽の世界観に、ひとつの魅力を見出したのだ。実は、そんな体験そのものが、今のチカーノということなのだ。
 パンク、ファンク、ブラジル、グルペーラ、クンビア......複雑怪奇な音楽体験とバリオの日常を重ねるギミック溢れる音像の向こうに、未来のロサンゼルスが見えてくる。チカーノ・バットマンの来日(https://www.m-camp.net/chicanobatman.html )は間もなくだ。(宮田 信)

「ラ・サモアーナ」


「ホベン・ナビガンテ」


CHICANO BATMAN JAPAN TOUR 2013 SCHEDULE

Nov.8 (Fri) モーション・ブルー・ヨコハマ(横浜)
open 6:00pm / showtime 8:00pm
CHICANO BATMAN
DJ PaCo[TEARDROP ENT.]、DJ 七福[サケフェスプロジェクト、NEKIRIKI PRODUCTION]
TALK BOX:MK THE CiGAR[TEARDROP ENT.]DJ Shin Miyata[Barrio Gold Records]
自由席:4,000 BOX席:16,000+シートチャージ ¥6,000(4名様までご利用可能)
予約受付中
TEL: 045-226-1919
https://www.motionblue.co.jp/artists/chicano_batman/

Nov.9 (Sat) LIVE SALOON WANNABE'S(千葉)
start 7:30pm
LIVE : CHICANO BATMAN, YAWATA TRECE, SOLDIER
DJ : DADDY, HAMMER, SHIN MIYATA[Barrio Gold Records]
前売:3,500 当日:4,000 (1drink付)
予約受付中
TEL:043-248-7770 e-mail:info@wbsswapmeet.com
https://livesaloon.com/

Nov.11 (Mon) 月見ル君想フ(青山)
open 6:00pm / showtime 8:00pm
CHICANO BATMAN
Dance: Nourah, HAYATI / DJ: ヤマベケイジ[LOS APSON?]、ケペル木村
前売:3500 当日:4000 (1drink付)
予約受付中
TEL: 03-5474-8115
https://www.moonromantic.com/?p=16557
※こちらの公演のチケットは下記でも販売しております。
LOS APSON? TEL:03-6276-2508 https://www.losapson.net/
nifunifa TEL:03-6407-9920 https://nifunifa.jp/
大麻堂 TEL:03-5454-5880 https://www.taimado.com/
TRASMUNDO TEL:03-3324-1216

Nov.12 (Tue) LIVE SPACE CONPASS(大阪)
open 7:00pm / start 8:00pm
LIVE : CHICANO BATMAN、デグルチーニ
DJ: N.O.B.[Q-VO! RECORDS]、NAMBAMAN[TOMBOLA]
FOOD : CANTINA RIMA
前売:3000 当日:3500  (drink別) 
予約受付中
TEL: 06-6243-1666
https://conpass.jp/4658.html

Nov.13 (Wed) Boogie Man's Cafe POLEPOLE(福山)
open 6:30pm / start 7:30pm
前売:4500 当日:5000 (drink別)
予約受付中
チケット予約: TEL: 084-925-5004  e-mail: cafe_polepole@ybb.ne.jp
https://www.cafe-polepole.com/

チケット予約は各会場へお問い合わせください。
TOUR INFORMATION: https://www.m-camp.net/chicanobatman.html
ツアーに関するお問い合わせ:MUSIC CAMP, Inc.
TEL: 042-498-7531  e-mail: info@m-camp.net (担当:宮田)


CHICANO BATMAN DISCOGRAPHY

1st Album
"CHICANO BATMAN"(2009)
BG-5115
詳細→https://www.m-camp.net/

EP
"JOVEN NAVEGANTE" (2012)
BG-5129
詳細→https://www.m-camp.net/

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Mazzy Star - ele-king

 駄作だろうと秀作だろうと作品さえ出れば聴く、そういうアーティストは稀にいるが、マジー・スターはそのひとつ。ホープ・サンドヴァルの声があり、デイヴィッド・ロバックのギターがある。まあ、筆者にとってはホープ・サンドヴァルの声さえあればいいのだが、ロバックのチョーキングとビブラート、そしてアコースティック・ギターの音色は、なんかもうマンネリというより、ひとつのトレードマークにもなっている。
 マジー・スターのデビューは1990年、UKではセカンド・サマー・オブ・ラヴの余韻が充分にあって、同年ストーン・ローゼズがスパイクアイランドでライヴをやったときは「サード・サマー・オブ・ラヴ」などとメディアが囃し立てたり、とにかくそんな太陽と愛とダンスの季節である。
 そして、ファースト・サマー・オブ・ラヴでは賑わったであろうアメリカ西海岸の彼らの孤独と影は、ダンスから離れ、実にかったるそうな曲調とともに時代のなかで異質な光沢を帯びていた。バンドは3枚の美しいアルバムを残して活動休止しているが、その後ジーザス&メリー・チェインやケミカル・ブラザースの作品にヴォーカリストとして招かれたサンドヴァルは、2001年に素晴らしいソロ・アルバムを発表している。
 ペンタングルのオリジナル・メンバーだったバート・ヤンシュ(ジミー・ペイジも影響されたスコットランドのギタリスト)が参加したそのアルバム『バーバリアン・フルート・ブレッド』を筆者はいちばん好んでいる。当時のフォーク・リヴァイヴァルというよりも、ライ・クーダーをさらにもう一段ストーンさせたような、青白い美しさはいまでもまったく色あせていない。何にもやる気のでない日に聴いたら最高の1枚だし、何にもやる気のでないことを肯定する音楽としてはずいぶんエレガントだ。バックの演奏も良いが、サンドヴァルの歌声が他に類を見ないほど魅力的だからである。
 サンドヴァルは、それからデス・イン・ヴェガスやマッシヴ・アタックの作品にも参加している。人気は衰えるどころかじわじわゆっくり上昇し、寡作であるのにかかわらず年々ファンを増やしているように思う。2009年には2枚目のソロ・アルバムを地味~に出しているが、商売っ気のなさは彼女のヴォーカリゼーションの気怠さの品性を補完している。勝ち気でガツガツしているサンドヴァルなど想像できないし、かつてはその美貌っぷりでも知られた彼女だが、すでに隠者の風格すら感じる。
 『シーズンズ・オブ・ユア・デイ』は、マジー・スターとしては17年ぶりの通算4枚目のアルバムで、またもやバート・ヤンシュをはじめとする数人のギタリストが参加している。何も変わっていない。サッカーには「勝っているときには変えるな」という格言があるが、彼らも変わらなくていいのだ。マジー・スターは最初から最高だったし、最初から怠惰な日々の輝ける栄光だった。甘美さも変わっちゃいないが、ロバックのギターが研磨されている気がする。アコースティックの度合いは増して、"低く飛ぶ"という、いかにマジー・スターらしい曲名の最後のブルース・ナンバーにおけるスライドギターは聴き所のひとつとなっている。まあ、筆者にとってはサンドヴァルの声さえあればいいのだが。
 何にもやる気が出ないのは、夢を見れないからではない。マジー・スターはどう考えても、静かに夢見る音楽なのである。日々こんなにもドリーミーでいいんでしょうか。かつてトム・ヴァーレインはこう歌った。「夢は夢見る者を夢見る」と。ビーチハウスの3枚目のアルバムが好きな人は聴いて損はない。

Kelela - ele-king

 いわく「チルウェイヴとソウルとの出会い」......チル&ビー、フューチャーR&B、エーテルR&B、インディR&B(ライはメジャーだが)、エクスペリメンタルR&B......等々、呼び名はいろいろあれど、猫も杓子もR&Bなご時世であることに間違いはない。アリーヤとティバランドの遺産は、今日、ドレイクを経由して、ウィークエンド、フランク・オーシャン、ハウ・トゥ・ドレス・ウェル、オウト・ヌ・ヴ~へと受け継がれ、更新され、拡張されている。クラムス・カジノはザ・ウィークエンドに曲を提供し、〈ハイパーダブ〉もR&Bに着手する。
 で、ポスト・アリーヤの座にいまもっとも近いのが、先日〈フェイド・トゥ・マインド〉のパーティで来日したケレラである。本サイトのインクのインタヴューでも彼女の名前は出ているが、キングダム"Bank Head"でフックアップされている彼女のデビュー・ミックステープには、Nguzunguzuからジャム・シティ、ボクボクにガール・ユニットなど、〈ナイト・スラッグス〉一派の錚々たる顔ぶれが揃っている。ダウンロード・イット!

 アリーヤとティバランドは実験的な態度で作品に臨みながら、しかしバカ売れしている。先日〈ハイパーダブ〉からデビュー・アルバムを出したジェシー・ランザも、カリブーのレーベルから作品を出しているジェレミー・グリースパンのトラックで歌っているポスト・アリーヤのひとりだ。彼女がインディR&Bという言葉を好まないのは、それがR&Bの可能性を限定しているからに他ならない。アリーヤは大メジャーだった。ケレラもジェシー・ランザも精鋭的なトラックメイカーを起用しながら、ポップスとしてのR&Bに挑戦している。〈フェイド・トゥ・マインド〉のパーティに橋元を強引に連れて行った甲斐があったというものだ。
 ケレラやジェレミー・グリースパンだではない。オッド・フューチャーのシド・ザ・キッドにも注目だし、他にもLAのキッドA、オークランドのフロ・フィニスター、RZAをもじったSZAといった新人にも注目が集まっている。

Swindle - ele-king

 何もポスト・ダブステップというのはスタイルを指すわけではない。元々は、後にブローステップと呼ばれるものに対する批評性として生まれた言葉だ。ダブステップのブレイク後の喧噪にはたしかに空しさがあった。ある意味、それがレイヴってもんでもある。
 が、どん底から這い上がってくる音楽を聴きたいという夢を捨てられないように、グライム/ダブステップが終わっているわけではないし、アーバン・ミュージックがスタイリッシュなR&Bに収束しているわけでもない。むしろ生のアーバン・ミュージックにはラフでタフないびつさがある。時代は重く、そして汚れている。
 スウィンドルの『ロング・リヴ・ザ・ジャズ』は、グライム/ダブステップの野性味といまにも爆発しそうなエネルギーを継承しながら、斬新なアイデアに富んだ魅力的なダンス・ミュージックを披露する。本国では「ジャズ・グライム」などと呼ばれているものの、多くの曲にはファンクのフィーリングがある。"Forest Funk"などベンガ風のリズムを感じるが、その力強いリズムとねちっこいギターの絡みはPファンクがダブステップをやっていると喩えることもできる。ウォブリングするベース音など2000年代半ばのダブステップのクリシェも使いつつ、レイヴ風のシンセ・リフのど派手なR&B"Ignition"等々、遊び心も忘れない。
 しっかし、"Kick It"、"Phone Me"、"Start Me Up"、"Last Minute Boogie"......26歳なので当たり前だが、わっけなー。今年の前半はライやインクみたいな口当たりの良いのばかり聴いていたから、なおさらなのか、やかましい、ごりごりのファンクが新鮮に聴こえる。
 とはいえ、『ロング・リヴ・ザ・ジャズ』は若さと勢いだけのアルバムではない。詐欺(スウィンドル)は、詐欺ではなく、わりと本気でジャズに向き合っているようにも思える。でっかいベースとドラムを保持しながら、洒脱で、大人びたところも見せているのが『ロング・リヴ・ザ・ジャズ』の特徴である。とくにダウンテンポの"It Was Nothing"のような、ビッグ・バンド・ジャズの華麗さとグライムとの融合には目を見張るものがある。"When I Fly Away"なんて曲は、イージーリスニングをダブステップで再現したような奇抜な展開を見せる。しかも、おそらくスウィンドルは、アドリブで鍵盤を弾いているのだろう。ボイラールームでは巨匠ロニー・リストン・スミスと共演したという話を神波さんから教えてもらったが、このグライム・フュージョニストにはジャズを演奏できるスキルがあるのだ。
 あの素晴らしく情熱的な「Do The Jazz」で開花した才能は本物だった。故きを温ね、空しさを陶酔に変える。昔ジャングルで4ヒーローが果たした役割をダブステップでは誰がやるのだろうかとずっと思っているのだけれど、"It's A Jazz Thing"ということで、スウィンドルは強いて言えばロニ・サイズ的なのかな? グライムを土台としたジャズという点ではシルキーとも似ているし、大化けするポテンシャル十分あるでしょう。何にせよ、マーラ・イン・キューバのライヴでは彼のキーボード演奏も聴ける。今週末は代官山ユニットだね

Sound Patrol - ele-king

FKA twigs - Water Me


 顔が似ているからだろう、明らかにツィギーを縮めたネーミングで、セカンド・シングルからは「旧」を表すFKA(=Formelly known as)という3文字が加わった。基本的にはマッシヴ・アタックやポーティスヘッドを受け継ぐ存在と言われ、大半の曲は確かにそうなんだけど、Bサイドに収録されていた"ウォーター・ミー"が別な意味でとにかく素晴らしい。ユーチューブの再生回数も他の曲を遥かに上回っている。これは、穿って言えば、メデリン・マーキーの試みをコマーシャルなモードへと移し変えたもので、実際に『セント』を聴いてインスパイアされたものではないだろうか(共同プロデューサーのアーカは過去にアンビエント・タイプのヒップ・ホップ・アルバムをリリースしているので、独自にたどり着いた可能性も高い→https://www.youtube.com/watch?v=1FLFnmv1wWI)。東京オリンピックのこともあるし、亡くなられた木村恒久氏が奥さんのことを「ツィギー」と呼んでいたことを思い出す(マリー・クァントをモチーフにしたらしきヴィデオは視聴制限がかかっている)。DLコードを印刷したインナーのデザインがまたオシャレ。

R&B

Jameszoo - The Clumtwins - Water Me


 アムステルダムから脱力系グリッチ・ホップの4作目。ダブステップ以降のTTCというか、ギャグが決まらないエイフェックス・ツインというか、いつも真剣にフザけていて、テンションが上がれば上がるほど悲しみが滲み出るタイプ。あるいは笑いと悲しみが極端に分離したかと思うと、一気に融合したりして、外れも多いけど、面白いときはホントに面白いので、ついつい、追っかけてしまい......。とはいえ、ジャズを扱うセンスも充分にあったりして、なにもかもが複雑すぎるので、こういう人は絶対に売れないと思っていたら、昨年末にフライング・ロータスと意気投合したようで......(どうなるんでしょう?)。

AbstractDubstep

Curt Crackrach - Alice Dee feat. Nikhil Singh and Carmen Incarnadine


 ナッティマリの変名によるデビュー・アルバムから12分を越すダブ・ヴァージョンを。春ぐらいにジェシー・ルインズがチャートでアルバム・ヴァージョンを紹介していましたけど(https://www.youtube.com/watch?v=pVz1HSBUU6w)、いや、しかし、ここまでやるかというほどトリップさせてくれる。それに関してはまったく妥協がない。といっても、最初に目を引くのは映像で、ふらふらと街をうろつくアリスが心配で、結果がわかってからも何度も観てしまいました(基本的には音が気持ちいいからだけど)。いつもクラブで友だちの介抱役になってしまう人ほど楽しめるのか、それとも、その逆なのか。ドラッグ・カルチャーって友だちとの距離感を再認識させてくれますよねw。これは、しかし、12インチでリリースされないのかなー。

Dub

E + E - Elysian Dream


 工藤キキがNYから「この人は最高!」とリポートしていた〈フェイド・トゥ・マインド〉のDJ、トータル・フリーダムが昨年末に(新曲だけで)コンパイルした『ブラスティング・ヴォイス』(ティーンエイジ・ティアドロップ)で、最もユニークだと感じられた曲(トータル・フリーダム自身はドラム・ソロ!)。ドローンとR&Bが過不足なく接点を探ったような曲で、E + E ことイーライジャ・クランプトンはサウンドクラウドも抹消してしまったようで、現代音楽かと思えばクンビアと、まったく正体がつかめません。この1曲を聴くだけです。......それにしても、これはなんなんだろう? リクレイム・ザ・ストリートの仲間?→https://www.youtube.com/watch?v=9IUA3FbHBlY

ExperimentalDroneRnB

Jar Moff - Tziaitzomanasou


 経済が逼迫したからか、それとも、その危機感を脱したからか、大挙して様々なジャンルのミュージシャンが飛び出してきたギリシャからアンディ・ストットへのアンサー。エッジがキレいに処理され、鉄鎚感にもストレートには訴えないインダストリアルの変り種はケイヒンにも倉本くんにも支持されないだろうが、マシュウデイヴィッドの〈リーヴィング〉を経て〈パン〉からリリースされたミニ・アルバム『コマーシャル・マウス』では松村くん好みのレコメン系スキルが種々雑多に取り入れられ、聴き応えがあるなんてものじゃない完成度。日本でも黒沢清が浮上してきたのは不況がどん底と言われた時期だったし、経済危機にもなってみるものかも。

industrial

Wrekmeister Harmonies - You've Always Meant So Much To Me


 〈スリル・ジョッキー〉がドゥーム・メタル! それだけで聴きたくなりましたよね。探してみたらユーチューブにフル・アルバムで上がってるし。もうちょっと短いやつは意味がさっぱりわからなかった......→https://www.youtube.com/watch?v=5OcTy05Gn18

Doom Metal

Andy Kolwes - Walk To The moon


まー、最後はまったりとディープ・ハウスで。

Deep House

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