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David Kanaga

AmbientElectronicSynth-pop

David Kanaga

Dyad Ogst

Software

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橋元優歩   Oct 16,2013 UP

 レトロフューチャリスティックという奇妙な時制を持つ言葉によって、ある種の「未来」は永遠にクラシカルなものとして留めおかれることになった。そもそもはとても素朴というか、空飛ぶ車とか空中都市のような、高い水準の工業技術を持った世界がその主なイメージだったのだろうけれども、『トロン』のような作品を指してそう呼んだりもするから、いつしかそれはサイバーパンク的な世界観もひっくるめた、かなり大雑把な概念になったのだろう。詳しい人からすれば単なる誤用なのかもしれないけれども。

 レーベル最初の1枚であるフォード・アンド・ロパーティンの『チャンネル・プレッシャー』のジャケット・デザインが思いきりそうであるように、〈ソフトウェア〉にはそもそもこの意味でのレトロフューチャリスティックなコンセプトがある。シンセまたはエレクトロニックというゆるい共通項によって、ノイズやアンビエントからR&Bまで幅広い音楽性をカヴァーし、それでいて強いレーベル・カラーを誇るのは、このややディストピックでアイロニカルなロマンティシズムのためだ。物語ではなくタグでつながる現在の音楽シーンに、良質なフィクションやファンタジーをもたらしている稀有なレーベルのひとつである。一作一作がエッジイでありながら、OPNなどオーヴァーグラウンドでの成功例を生もうとしているところも得がたい。


 さて、そんな〈ソフトウェア〉がインディーズ・ゲームと結びつくのも必然といえば必然である。オークランドを拠点に活動するコンポーザー、デヴィッド・カナガによる『ダイアード(Dyad)』のサウンド・スコアが素晴らしい。いや、彼がこのゲームのために準備したトラックももちろんだが、このゲーム自体がそもそもかなりの傑作らしく、カナガを目利きしたプロデューサーへの賛辞も惜しむべきではないだろう。ゲームの世界はひょっとしたら音楽以上にレヴュー・サイトが充実しているのかもしれない。音楽にかぎらず文芸・芸術一般は必ずしも聴き手読み手のために制作されていないという神秘化された側面があるが、ユーザビリティが制作者のエゴに優先されるジャンルでは、もちろんのことレヴューが果たす役割は大きくなる。ちょっと調べただけでおびただしいサイトが見つかり、インディーズ・ゲームの国際的フェスティヴァル〈Indiecade 2012〉でオーディオ・デザイン・アワードを受賞したという同作は、軒並み超高得点を獲得していることがわかった。そしてそのなかにはほぼ必ずカナガの音楽への言及と賛辞が見られる。筆者はゲームに疎いものでトレイラーを眺めるだけだが、なるほど、このゲームやヴィジュアルと切り離しては考えられない作品であろうことはうかがわれた。


 ぐるぐると渦を巻きながら前方へ伸びるトンネルのなかを高速で進んでいくシューティング・ゲーム・・・・・・ということでおおよその理解ができているだろうか? どうやらかなりシンプルなものであるらしい。一見に如かずということでトレイラーを見てみていただきたいが、前から後ろへと果てしなく広がっていく光と幾何学模様、そのミニマルでサイケデリックなヴィジュアル要素と、前へ前へと止まらないし止まれないスリル、それが高揚へと変わっていくアディクショナルな効果が持つ魅力は想像に難くない。カナガのトラックは、このまさに飴のようにのびる無時間的な時間のなかをさまざまに変色しながら突き進み、主体の視点と感覚をリードしてくれる道しるべのようだ。トレイラーにも使用されている"スタート・マッシュ"は密林を思わせる鳥の鳴き声のサンプリングに縁取られた、ニューエイジ風のアンビエント・トラック。ビートレスのゆったりとした曲だが、サイバー空間、でなければこのトンネルの向こうにあるはずの遥かなる「どこか」へと深くもぐっていくための導線として、はかり知れないスピード感も内包している。

 他方で、エイフェックス・ツインやブラック・ドッグ、ケトルに比較できる叙情性も憎いほど効いている。"トレイラー2"などは、アナログシンセのあたたかみある響きも手伝って、ノスタルジックな光を帯びている。デイデラスやバスなどのファンにもおすすめしたい。ここに挙げたようなプロデューサーたちの作品を新幹線で聴いたことのある方なら、あの高揚やときめきをやすやすと思い返してもらえるだろう。高速で流れる風景と彼らのドリーミーなダンス・ミュージックとはおそろしいほどの調和をみせる。"オロル"なども同様だ。アブストラクトなビート感覚がエモーショナルに消化されている。ルーツにはブレイクビーツも感じられる。時折アッパーなエロクトロ・ディスコも挿入されるが、それらが全体として統一感を失わない。
 劇伴やゲーム音楽に必要なものは何か、という問いに答える準備は筆者にはないが、少なくともこの作品においてカナガが重要なパフォーマンスを担いそれを全うしていることは明らかだ。音楽の評価とゲームの評価とが分かちがたく結びつく、本作のようなハイブリッドが、現在形のエンタメ・コンテンツのリアリティを映しだしている。〈ソフトウェア〉はおもしろい。

橋元優歩