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Beach House

Beach House

Teen Dream

Bella Union / Coop / Hostess

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野田 努 Jan 22,2010 UP
E王

 河出書房新社から刊行される『ゼロ年代の音楽』における150枚のディスク・レヴューで、最初入れておいて、あとから「やっぱいいか」と削除してしまったのがボルチモアの男女デュオによるビーチ・ハウスのデビュー・アルバムだった(男はアメリカ人、女はフランス人)。そしてこの3枚目のアルバムを聴いて、「あー、入れておけば良かったな~」と後悔した。結論から言えば『ティーン・ドリーム』はここ数年のエレクトロニカ系ポップスにおいてはダントツに洗練されている。10年代に入って最初に心底気に入ったのがこのアルバムだ。この魅力にはとても逆らえない......そんな感じだ。

 正直言って、ビーチ・ハウスのような「無垢」で「潔癖性」の高いエレクトロニカ・サウンドに関しては(彼らは前作までは、日本ではお馴染みの時代遅れのエレクトロニカ・レーベル〈カーパーク〉から作品を出している)、二木信ではないが抵抗感のあるほうである。猥雑さを排除することで輝きを引き出そうとするそのやり方が、どうにも嘘くさく思ってしまう。早い話、お上品なだけじゃないかと思ってしまうのだ。だいたい若い頃はダッフルコートを着たガキがボサノバを聴いているだけで腹が立ったものだった......というのは嘘だが、とにかくこれは自分の育ちの悪さが関わっているのだろう。リアリズムの観点から言えば、僕にはなかなか遠くに感じられる音楽が多々あるのだ(さすがに年齢を重ねながら、そうした偏見はだいぶなくなったけれどね~)。

 そんな偏屈な人間が聴いても、ビーチ・ハウスには魅力があった。それは彼らの音楽が、物憂げさ、陰鬱さ、および失意......のような「負性」を心地よく響かせるという力を持っているからである。ダウナーだがラヴリーなのだ。彼らが表現するのは晴れ渡った青空ではなく霧のかかった曇り空であり、輝く太陽でも深夜でもなく黄昏の美しさなのだ。カラフルな田園ではなく、憂鬱な田園なのだ。

 ビーチ・ハウスは、90年代のテクノ~エレクトロニカの持つユーフォリアを我がモノにしたゼロ年代USインディのひとつであるという説明もできる。デビュー・アルバムも前作の『デヴォーション』も、そうしたモダン・ポップの文脈においては秀逸な作品に違いないが、しかし何か決定的なものが欠けている。僕のような門外漢が居ても立ってもいられなくなって、そこに強引に立ち入ってしまうのほどの魔力はまだない。そこへいくと『ティーン・ドリーム』は1年でここまで成長するものなのかと驚くほど、すべてにおいて研磨され、非の打ち所のないアルバムとなっている。極端に喩えるなら、グリズリー・ベアが"サンデー・モーニング"をカヴァーしたようなアルバムだ。僕はすっかり虜になっている。

 ギターの簡潔なアルペジオからキックの音に導かれて蜃気楼の世界に突入する1曲目の"ジブラ"、メロウなダウンテンポの傑作"シルヴァー・ソウル"、そしてまるでビートルズがハウスを取り入れたような"ウォーク・イン・ザ・パーク"(アルバムのベスト・トラックのひとつ)......簡素なピアノとヴェルヴェッツ流ポップスの"ユースト・トゥ・ビー"も良いし、キャッチーな"ラヴァー・オブ・マイン"や"ベター・タイムス"のような曲にさえも黄昏の感覚が横溢している。

 すでに何十回とこのアルバムを聴いているけれど、聴く度に夢の世界に飛ぶ。現実をすっかり忘れ、ひとりで夢に浸る。90年代で言えばエールのようなものか。とにかく、これはモダン・ドリーム・ポップの傑作である。

野田 努