ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. syrup16g - HELL-SEE [発売20周年記念盤] (review)
  2. shame - Food for Worms | シェイム (review)
  3. interview with Shuhei Kato (SADFRANK) これで伝わらなかったら嘘 | NOT WONKの加藤修平、日本語で歌うソロ・プロジェクトSADFRANKを始動 (interviews)
  4. interview with Lex Blondel (Total Refreshment Centre) すべて新録、UKジャズのトップ・プレイヤーたちが集結したコンピレーション | トータル・リフレッシュメント・センター、レックス・ブロンデル (interviews)
  5. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈 (interviews)
  6. Red Hot + Ra ──サン・ラーのトリビュート・アルバム・シリーズが始動 (news)
  7. Laurent Garnier ──ロラン・ガルニエが8年ぶりのアルバムをリリース、アラン・ヴェガのヴォーカルをフィーチャー (news)
  8. Masahiro Takahashi ──トロント在住のアンビエント作家による新作、H.TakahashiやTakaoなどが参加 (news)
  9. interview with Black Country, New Road 脱退劇から一年、新生BCNRのドキュメント | ブラック・カントリー・ニュー・ロード (interviews)
  10. Cantaro Ihara ──メロウかつグルーヴィー、70年代サウンドをアップデイトするSSWイハラカンタロウ、最新アルバムをリリース (news)
  11. RYKEY - Amon Katona (review)
  12. interview with Lankum トラッド・イン・プログレス | ──アイリッシュ・フォークの最前線に立つランクムの驚異の新作 (interviews)
  13. Kassel Jaeger - Shifted In Dreams (review)
  14. Columns talking about Yves Tumor イヴ・トゥモアの魅力とは何か | Z世代のyukinoiseとarowが語り尽くす (columns)
  15. Jungle ──UKの人気エレクトロニック・ダンス・デュオ、ジャングルによる4枚目のアルバム (news)
  16. Shame - Songs Of Praise (review)
  17. Pardans - Peak Happiness | パーダンス (review)
  18. Columns Yves Tumor いま話題のアーティスト、イヴ・トゥモアとは何者か? (columns)
  19. interview with Genevieve Artadi 〈ブレインフィーダー〉イチ押しのシンガー・ソングライター | ジェネヴィーヴ・アルターディ (interviews)
  20. shame - Drunk Tank Pink | シェイム (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Twin Sister- In Heaven

Twin Sister

Twin Sister

In Heaven

Domino

Amazon iTunes

野田 努   Oct 25,2011 UP
E王

 今日のドリーム・ポップがラウンジ・ミュージックへと着地したものの、いまのところ最良の成果。敢えて"ソウル"を欠いたような、たとえばサトミ・マツザキを彷彿させるヴォーカルに「ディアフーフのポップの脱構築主義を思い出す」という人もいたが、僕はビーチ・ハウスをずいぶんと小洒落に展開したような印象を受ける。ロング・アイランド出身の4人組は、昨年の「Color Your Life」を聴いたときはステレオラブ的な、つまりクラウトロックとラウンジの融合を感じたのだけれど、彼らの最初のアルバムとなる『イン・ヘヴン』は、そうしたある種のアーティな素人臭さからは脱皮している。バンドは明らかにポップス(洗練)を指標し、そしてポップ・ミュージックに疲れ切ったリスナーでさえ振り向かせるであろう、魅惑的な甘いにおいをはなっている。こじんまりとしているが芸人根性を感じるし、音楽性は多彩で、きめ細かく、キュートだ。参照性の高さと洗練さにおいて、渋谷系なるタームを思い出す年配のリスナーもいるんじゃないだろうか。

 16ビートのファンクを展開する"Bad Street"はこのアルバムの魅力を象徴する1曲だ。ディスコ・ビート、そしてファンクのギターとベースは脈打つグルーヴを持ちながら、ブラック・ファンクやブラック・ディスコの下半身臭さがなく、アンドレア・エステラのヴォーカルもまたスウィングしているけれど黒さはない。が、しかし逆にそうした情念を欠いた薄味の良さがここにはあるのだ。R&Bナンバーの"Stop"にもそれが言える。かつてアリーヤが歌っていたような曲を、ツイン・シスターはさわやかなラウンド・ミュージックへと変換してしまう。
 ドリーム・ポップのお手本のような"Kimmi In a Rice Field"、ベッドルーム時代におけるバラード"Luna's Theme"、ラテン・ポップに挑戦した"Spain"、あるいはレトロなラジオ・ポップスを意識した"Saturday Sunday"や"Gene Ciampi"などなど、アルバムは佳作揃いで、手の込んだ曲作りからはバンドの勤勉さをうかがい知ることができる。『イン・ヘヴン』とはポップの桃源郷を意味しているのだろう。柔らかい布団のうえでうたた寝しているような音楽で、深刻さを忌避しながら音楽の軽さを主張しているようなこのアルバムを歓迎したいリスナーは決して少なくないと思われる。

野田 努