ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  2. Damon & Naomi with Kurihara ──デーモン&ナオミが7年ぶりに来日
  3. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  4. interview with Charles Cohen 幻のシンセと孤高の電子音楽家  | チャールズ・コーエン、インタヴュー
  5. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  6. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  7. interview with Tycho 健康のためのインディ・ダンス | ──ティコ、4年ぶりの新作を語る
  8. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  9. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  10. ele-king cine series 誰かと日本映画の話をしてみたい
  11. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  12. グソクムズ - グソクムズ
  13. Columns 9月のジャズ Jazz in September 2024
  14. Jan Urila Sas ——広島の〈Stereo Records〉がまたしても野心作「Utauhone」をリリース
  15. interview with Jon Hopkins 昔の人間は長い音楽を聴いていた。それを取り戻そうとしている。 | ジョン・ホプキンス、インタヴュー
  16. K-PUNK アシッド・コミュニズム──思索・未来への路線図
  17. Seefeel - Rupt + Flex 94 ― 96  | シーフィール
  18. MODE AT LIQUIDROOM - Still House Plantsgoat
  19. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  20. Godspeed You! Black Emperor ——ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーがついに新作発表

Home >  Reviews >  Album Reviews > Swindle- Long Live The Jazz

Swindle

DubstepFunkGrimeJazz

Swindle

Long Live The Jazz

Deep Medi Musik

Amazon iTunes

野田 努   Oct 09,2013 UP
E王

 何もポスト・ダブステップというのはスタイルを指すわけではない。元々は、後にブローステップと呼ばれるものに対する批評性として生まれた言葉だ。ダブステップのブレイク後の喧噪にはたしかに空しさがあった。ある意味、それがレイヴってもんでもある。
 が、どん底から這い上がってくる音楽を聴きたいという夢を捨てられないように、グライム/ダブステップが終わっているわけではないし、アーバン・ミュージックがスタイリッシュなR&Bに収束しているわけでもない。むしろ生のアーバン・ミュージックにはラフでタフないびつさがある。時代は重く、そして汚れている。
 スウィンドルの『ロング・リヴ・ザ・ジャズ』は、グライム/ダブステップの野性味といまにも爆発しそうなエネルギーを継承しながら、斬新なアイデアに富んだ魅力的なダンス・ミュージックを披露する。本国では「ジャズ・グライム」などと呼ばれているものの、多くの曲にはファンクのフィーリングがある。"Forest Funk"などベンガ風のリズムを感じるが、その力強いリズムとねちっこいギターの絡みはPファンクがダブステップをやっていると喩えることもできる。ウォブリングするベース音など2000年代半ばのダブステップのクリシェも使いつつ、レイヴ風のシンセ・リフのど派手なR&B"Ignition"等々、遊び心も忘れない。
 しっかし、"Kick It"、"Phone Me"、"Start Me Up"、"Last Minute Boogie"......26歳なので当たり前だが、わっけなー。今年の前半はライやインクみたいな口当たりの良いのばかり聴いていたから、なおさらなのか、やかましい、ごりごりのファンクが新鮮に聴こえる。
 とはいえ、『ロング・リヴ・ザ・ジャズ』は若さと勢いだけのアルバムではない。詐欺(スウィンドル)は、詐欺ではなく、わりと本気でジャズに向き合っているようにも思える。でっかいベースとドラムを保持しながら、洒脱で、大人びたところも見せているのが『ロング・リヴ・ザ・ジャズ』の特徴である。とくにダウンテンポの"It Was Nothing"のような、ビッグ・バンド・ジャズの華麗さとグライムとの融合には目を見張るものがある。"When I Fly Away"なんて曲は、イージーリスニングをダブステップで再現したような奇抜な展開を見せる。しかも、おそらくスウィンドルは、アドリブで鍵盤を弾いているのだろう。ボイラールームでは巨匠ロニー・リストン・スミスと共演したという話を神波さんから教えてもらったが、このグライム・フュージョニストにはジャズを演奏できるスキルがあるのだ。
 あの素晴らしく情熱的な「Do The Jazz」で開花した才能は本物だった。故きを温ね、空しさを陶酔に変える。昔ジャングルで4ヒーローが果たした役割をダブステップでは誰がやるのだろうかとずっと思っているのだけれど、"It's A Jazz Thing"ということで、スウィンドルは強いて言えばロニ・サイズ的なのかな? グライムを土台としたジャズという点ではシルキーとも似ているし、大化けするポテンシャル十分あるでしょう。何にせよ、マーラ・イン・キューバのライヴでは彼のキーボード演奏も聴ける。今週末は代官山ユニットだね

野田 努