「IR」と一致するもの

蓮沼執太 - ele-king

 蓮沼執太の音。蓮沼執太の音楽。蓮沼執太のアート。
 彼の楽曲/アルバムを聴いていると、音から音楽、そしてアートへと繋げていく意志を感じる。彼は音によるアートを作っている。すなわち「音楽」だ。「音楽」とはアンサンブルであり、他者との協働である。そう、ともに奏でること。
 そしてこれが重要なのだが、蓮沼執太はアート=音楽に向ける姿勢に気負いがない。意図的にニュートラルであろうとしているというべきかもしれない。
 
 15年ぶりのインスト・ソロ・アルバム『unpeople』でもそれはまったく変わらない。過剰なエゴを押し出すというより、他者とのアンサンブルを希求し重視するということ。ここで彼は「ソロ」であり「コラボレーション」であるという二重性を見事に実現していた。
 そう、蓮沼執太は自我を全面に押し出すよりは音の遊びを細やかにして大胆な手つきで楽しんでいる。そこにゲストが入れば、自分の「砂場」をちゃんと相手のために空けてくれる。つまりは「おもてなし」の精神がある。自我を押し付けるのではなく、他者と共に音楽を楽しんでいる。それでいて自分のアートをしっかりと作りあげていくのだ。
 そうしてでき上がった音楽を聴くと、まさに「蓮沼執太」としか聴こえない署名の刻印が押されている。このバランス感覚は絶妙だ。だからこそあの灰野敬二とも定期的なコラボレーションが可能になるのだろう。音とすきま、音と共振、音による他者との共存。その感覚・実践の素晴らしさを実感する。
 だが同時に、その根底には何かもっと深い、音楽への強い意志のようなものも感じられる。ポップな装いの向こうにある底知れなさとでもいうべきか。私が蓮沼執太の音楽の底知れなさに震えたのは2010年にリリースされた『CC OO』が最初だった。もちろん2006年にShuta Hasunuma名義でリリースした『HOORAY』(〈PROGRESSIVE FORM〉)や2008年の『POP OOGA』(〈WEATHER/HEADZ〉)を聴いてはいたのだが、その頃はまだ彼の「底知れなさ」に気づかなかった。
 しかしながら未発表曲を集めた長大な4枚組であった『CC OO』を一気に聴取したことで、この音楽家は見た目のポップさとは別に、「音の自律性」に自覚的な音楽家ではないかと感じ取れたのだ。

 私見だが『unpeople』は、『CC OO』にとても似ているアルバムだと思う。音自体が自らポップに跳ねている印象を持ったのだ。エレクトロニカ、アンビエント・ミュージック、ジャズ、モダン・クラシカル、そして現代音楽までも内包している楽曲群は、とてもポップで、とても広かれていて、とても柔軟で、音、音楽を信じている意志がある。
 ゲストも多彩だ。ジェフ・パーカーコーネリアスグレッグ・フォックス、灰野敬二などの多彩なゲストを迎え、彩り豊かな作品となっているが、蓮沼執太はどこかアンサンブルから一歩引いた場所に立っている。ゲストをたてているとでもいうべきか。彼の創作のスタンスはニュートラルなのだ。コーネリアスが参加した曲など、コーネリアスがつけてきたギターがあまりに完璧だったため、それでOKとして曲が完成してしまったという。
 では、蓮沼執太の「エゴ」はどこにあるのか。「個」といいかえてもよい。アートワークなどのヴィジュアルにも蓮沼執太はこだわりを見せているが、しかし、蓮沼執太は音楽家なのだから、その答えも音にあるはずだ。じっさい最終的には、「蓮沼執太」の音としか言いようがない音楽に見事に仕上げているのだから。
 私見を述べるならば、私は彼の音はつねに「踊っている」ように感じられる。ダンスのための音楽というわけではない。音それ自体が踊っているのだ。それを蓮沼執太はポップな音楽様式を崩すことなく実践・実験・実現しているのだ。彼は音に過剰なエゴを押し付けていない。蓮沼執太の音楽の「軽やかさ」はそこにある。
 このアルバムでも、音たちが舞い、踊り「音楽」をかたちづくっている。蓮沼執太はその音たちを愛し、しかしひとつの自立した存在として認めている。自らの「個」を過剰に投入するわけではない。『unpeople』というアルバム・タイトルは、おそらく反語的な意味だろうし、根底にはもしかするとコロナ禍における人の不在が込められているのかもしれないが、私には、人と音の自律的な共存が主題が根底にあるように感じられる。音楽は人間だけではだめなのだ。「音」を信じること。エレクトロニカ的なサウンドをベースにしたインスト主体のソロでは蓮沼執太フィルより、その傾向が強くなっているように感じられる。ゲストのサウンドもまた音それ自体の自律を促しているのだ。

 音の自律性と自らのコンポジションと人たちの共存。だからこそ彼はつねにニュートラルな位置に自らを置こうとするのではないか。それは音楽家であると同時に分析家であり科学者であるような立ち位置であるのだが、彼の音楽への想いが温かく柔らかく優しい。この両極の振れ幅に蓮沼執太の「個」があると私は考える。それはこの『unpeople』も同様である。
 個人的なおすすめ曲は、グリッチ+エレクトロなタイトル・トラックにして1曲め “unpeople”、ジェフ・パーカーの深い響きのギターを満喫できる4曲め “Irie”、蓮沼流ミニマル・エレクトロニカの傑作 “Postpone”、コーネリアスのサウンド・スペースとの見事な融合である5曲め “Selves”、グレッグ・フォックスと石塚周太と共作したヴェイパーウェイヴ+ポスト・ロック/ジャズな仕上がりの8曲め “Vanish, Memoria” などだが挙げられる。
 なかでも注目したいのが、どこか「翳り」のある灰野敬二の参加曲 “Wirkraum”(12曲め)と音無史哉参加曲の “Chroma”(14曲め)である。このどこか深い陰影を感じさせてくれるこの2曲は現代の不穏なムードを捉えつつ、しかし微かな光を感じさせてくれるような味わい深い楽曲/トラックだ。私がこれまで聴いた蓮沼執太の楽曲のなかでもとても好きな曲である。

 いずれにせよ新作『unpeople』はそんな蓮沼執太の音楽の「現在形」が見事に、そしてコンパクトに収められているアルバムである。柔らかさ、ポップさ、人懐こさ、微かな実験性、繊細なサウンド、大胆なコンポジションがわかってくる。伝わってくる。聴こえてくる。聴き込むというよりは、日々の「人生」のなかに鳴っていてほしい音楽とでもいうべきか。暮らし、生活、人生とともにあるアートとしての音楽。ほかのだれかと共にあるソロ・アルバム。『unpeople』は、まさにそんな作品に思えた。

Sleaford Mods - ele-king

 「死んだ方がマシなときもある/銃を自分のこめかみに当てて」という歌い出しからはじまるHi-NRGサウンド。ペット・ショップ・ボーイズの永遠の名曲“ウェスト・エンド・ガールズ”を、なんとスリーフォード・モッズがカヴァーし、Bandcampや配信で発表した。そもそも1980年代半ばのこの大ヒット曲は、サッチャー政権下のヤッピー文化(小金持ちの若者文化)を風刺した曲と言われている。「ぼくたちに未来はなく過去もない。ただ今日だけがある」、いかにも英国風のひねりの利いたこの曲をスリーフォード・モッズがカヴァーすることが面白い(先行発表のMVはオリジナルのパロディで、笑える)。しかも、この曲の収益は、ホームレスを支援している団体に寄付される。ペット・ショップ・ボーイズ本人たちもこのシングルを讃え、シングルでは自らリミキサーとしても参加。そしてこうコメントしている。「スリーフォード・モッズは、大義のためにイースト・エンド(労働者階級)の少年たちをウエスト・エンド(繁華街)のストリートに呼び戻してくれた」
 ちなみにジェイソン・ウィリアムソンは、「ペット・ショップ・ボーイズのアルバム『Please』と『Actually』をよく聴いている」そうだが、この2枚、ほんとうに名作です。PSBといえば、この2枚さえ聴いておけばいいくらいに。
 なお、フィジカルの発売は12月15日。


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 また、スリーフォード・モッズは最近は、ドイツのミニマリスト、Poleのリミックスも発表している。これが結構いいんです。
 

yeule - ele-king

 ある一定の世代──具体的には平成初期から中頃あたりに生まれ育った、ぎりぎり “Z” の枠組みから漏れた層──の音楽的な原体験は、どちらかといえばオンライン上よりも「オフライン上の雑踏」にあったように思える。

 それは、たとえばレンタルビデオ屋の片隅であったり、大型古本チェーンのワゴン棚や中古CDショップ、あるいはファストフード店の有線放送などの、日本のごく一般的な日常を彩る風景の一部に溶け込んでいた音楽体験である。もしくは、平日夕方にティーンエイジャーが自らの激情を未熟なりに、自由気ままにぶつける貸スタジオやライヴ・ハウスの風景だとか、電車に独り佇む少し大人びた少年のイヤホンから鳴る音漏れだとか。

 封切りから約5年が経過した「mid90s」ではなく、いわば「late90s」あるいは「early00s」あたりの時期、そんな「かつてあった日々」へのノスタルジアを強く想起させられるような作品が、どういうわけか2023年の秋口に、シンガポール(現在はロサンゼルス拠点とのこと)の “グリッチ・プリンセス”、yeule(ユール)の新譜としてリリースされた。

 『softscars』、直訳すると柔らかな傷跡。ノンバイナリーである yeule には、自身のみが抱えるさまざまな苦しみが数えきれないほどあっただろう。制作中に親しい友人がオーバードーズで亡くなった、などの痛ましいエピソードも明かされており、アルバムを紡いでいく過程で自身の人生観や深層心理に至るまでの深い自己対話が繰り広げられたことは容易に想像できる。

 そんな、いまは癒えきった過去の体験が、どうしてか心のささくれを再び刺激するような作品が、yeule のサード・アルバムである。シューゲイズ・サウンドを通過した90年代後期~ゼロ年代的なオルタナティヴ・ロックが、近年高度に発達したDAW上におけるポスト・プロダクション技術と結びついた上で、名門レーベル〈Ninja Tune〉からリリースされる。

 それはつまり、四半世紀にわたり爆発的な発展を遂げ、好事家の趣味からインフラへと駆け上がったインターネットを窓口に、シンガポールと日本はついに文化的に地続きとなった、ということの証左でもある。「なんとも不思議な時代を生きているんだな」というごく個人的な感傷が、シーンやジャンル、音像や作品構成といったレヴューされるべき諸要素よりも先に脳裏をよぎった。そこまでが一聴したときの所感であった。

 さて、作品を大まかに見通していくと、本作は概ねふたつのパートに区分されているような感覚を受けた。全12曲のうち、M1. “x w x”~M6. “dazies” までの楽曲群には在りし日のインディ・ロックへのオマージュが随所に感じられるものの、その音像は2020年代以降のハイブリッドな空気感に包まれている。そして岩井俊二監督『花とアリス』(2004)のサウンドトラックのカヴァー、M7. “fish in the pool” から作品を取り巻くムードは流動的に変容していき、M8. “software update” やM9. “inferno” からはシューゲイズ・サウンドに加えシンセ・ポップにグリッチのスパイスを効かせたかのようなエレクトロニカへと徐々に移行していく。

 このような聴かせ方を踏まえても、楽曲ごとのクオリティ・コントロールにとどまらぬ高度なトータル・プロデュース力を感じさせる秀作である、と言えるだろう。なかば共同作業者として yeule の作品に携わるシンガポールのプロデューサー、キン・レオンや20年代以降のポップ・スター筆頭、ムラ・マサといった存在が背後を賑わせる構図は、それこそポップスという営みにしばしば現れる強固なパートナーシップを感じさせる。
(世代的にはごくわずかにズレた90年代末の作品が強く筆者のノスタルジーを喚起するのは、インターネットを通じた追体験によるものである。25歳の yeule も同じはずだろう)

 いや、やはりどうしても、自分の90年代後期~ゼロ年代への憧憬は、とてもじゃないけど “柔らかな傷” では片付けられなさそうで……。作品を俯瞰しきることが難しくなるほど、幼心に感じたあの空気感がオーヴァー・ラップする。といっても、あくまでも『softscars』で描かれているのは現代と未来のことでもあり、きたる2024年(=「mid20s」へ!)のムードを垣間見るようなハイブリッド感が、やはり本作の魅力であろう。DAW上に冷凍保存されたようなギター・サウンドと、復活の兆しを見せるエレクトロニカとの融和を前に、(できれば使用を拒否したい)「ハイパー」という語句でカテゴライズされてきた現代ポップスの次なる流れも、このアルバムを出発点としていずれ整理できそうな予感がある。

 ちなみに、本作の視聴環境はけっしてクラブのサウンド・システムやスタジオ並みのスピーカーである必要はなく、下手したら Air Pods Pro や高価なDAC、ハイレゾ音源なんかも必要としないかもしれない。手元のスマートフォンやラップトップのスピーカーから、適当にそのまま流すラフな向き合い方こそジャスト・フィットする。開け放った窓から吹きすさぶ木枯らしで頭を冷やしつつ、温かい飲み物を片手に浸るような、ベタで恥ずかしいような浸り方が似合う、不思議なサウンドスケープが拡がる作品だろう。そんな日常的な接し方こそアウトサイダーとして現実をサヴァイヴしようとする yeule の本懐だろうと信じて、あえてローファイな環境で本作に触れてみてはいかがだろうか?
(もちろん、本作をクラブのサウンド・システムで鳴らしても抜群の視聴体験足り得ることは、筆者自身ふだんのDJのなかでよくよく理解しているつもり!)

* 編集部注:先週WWWで設立15周年を記念するショウケース公演をおこなった〈KITCHEN. LABEL〉もシンガポールのレーベルであり、Haruka Nakamuraや冥丁など日本と当地をつなぐリリースをつづけてきた。

水谷:まずこの写真を見てください。これ91年の『The Source』っていう雑誌なんですけど、この年のヒップホップのチャートなのですが。

山崎:1位はNWA。大々的に取り上げられていますね。

水谷:歴史的にはこの4位のパブリック・エナミーはどうかなと思いますが、PEやNWAはすでに大スターで別世界なので置いといて。2位がブランド・ヌビアン。3位がATCQの『Low End Theory』。5位がデ・ラ・ソウル。で、6位にメイン・ソースの『Breaking Atoms』なんですけど。

山崎:6位に『Breaking Atoms』って当時の日本の状況からしたらこれはものすごく評価が高いですね。7位のゲトー・ボーイズ、これも日本ではあまり聞かなかった気がします。

水谷:ゲトー・ボーイズは本国アメリカでは当時から評価が高いです。リリックがいいんですよ。日本人ではわからない部分ですが、それでこの評価がついていると思います。このアルバムに入ってる「Mind Plays Trick On Me」はクラシックですね。

山崎:僕はこの頃はレアグルーヴ一色でヒップホップを全然聴いてなかったので、当時の状況はあまりわからないですが、ナイス・アンド・スムースはオザケンがらみで人気があったとか、そんな事しか記憶ないです。『Low End Theory』とかはもちろん後から聴きましたけど。

水谷:今回は『Breaking Atoms』のサンプリングの芸術性について語らせていただきたいのですが、この写真の中で比べてみると、デ・ラ・ソウルはアルバム通してかなりの楽曲数をサンプリングで贅沢につかっているので、カラフルな仕上がりになっている。Mighty Ryedersの「Evil Vibrations」使いで有名な、「A Roller Skating Jam Named "Saturdays"」もここに収録されています。ATCQの『Low End Theory』はセンスの良いサンプリングとそもそものレコーディング状況がめちゃくちゃ良くて音質が良いという印象。1曲目のロン・カーターのベース演奏がとても評価されてましたね。ギャングスターはジャズ・サンプリングで、DJプレミアはまだネクスト・レベルに行っていない頃。サイプレス・ヒルのこれは名盤ですね。この後ロックな方向にいくのですが、このアルバムはネタの使い方がよくていいですよ。

山崎:当時この並びに『Breaking Atoms』が入ってくるってちょっと驚きですね。今ではその良さは広まっていますが。アメリカでは最初から高評価だったんですね。

水谷:そうですね。当時は『Breaking Atoms』は渋いというか、派手さはあまり感じなかったので僕もそうでもなかったのですが、でも今あらためて振り返ってみると、このアルバム、サンプリングですごいことをやっているんですね。

山崎:確かに聴いてみると複雑な作りをしているというか、同時代の主流だったネタ一発ではないですよね。

水谷:今回は細かなところまで分析しつつ、『Breaking Atoms』におけるメイン・ソースの偉業を伝えられればと思います。またVGAのYouTubeチャンネル、MOMOYAMA RADIOでは『MAIN SOURCE SAMPLING 90% ORIGINAL PEACH MOUNTAIN MIX』と題して、メイン・ソースのサンプリング素材のみで作ったMIXも公開中です。ぜひ聴きながらご一読ください。

□Snake Eyes

水谷:冒頭を飾るこの曲の始まりのネタはIke Turner and The Kings of Rhythm の「Getting Nasty」。

山崎:この始まり方は(良い意味で)渋いですね。

水谷:デ・ラ・ソウルはどちらかというと「Evil Vibrations」がわかりやすい例ですけれど、洗練されたサウンドを上手く使いますが、メイン・ソースは60年代後半のソウル/ファンク系をよく使いますね。泥臭い楽曲というか。当時は僕も高校生なので、どうしてもお洒落で派手なデ・ラ・ソウルを優先して聴いていましたね。

山崎:でもラージ・プロフェッサー(メイン・ソースの主要メンバー)もまだ十代後半か、二十歳そこそこ。このセンスは日本人からするとそうとう大人っぽい。

水谷:このイントロを経てJohnnie Taylorの「Watermelon Man」からJesse Andersonの「Mighty Mighty」へと展開する。どちらも60年代の楽曲です。

山崎:渋いサンプリング・センスですが1曲目にふさわしいテンション高めの楽曲に仕上げているところが素晴らしいですね。

□Just Hangin' Out

水谷:メインのネタになっているのはSister Nancyの「Bam Bam」なのですが、これもまたメイン・ソースの特徴ですね。レゲエ・ネタをよく使います。ラージ・プロフェッサー以外の2人のメンバー、K-CutとSir Scratchは兄弟なんですが、ジャマイカ系のカナダ出身なんです。

山崎:エディー・グラントを親族に持つらしいですよね。

水谷:メイン・ソースというとラージ・プロフェッサーばかりが目立っていますが、K-CutとSir Scratch(の兄弟)もいい仕事してたんだと思います。メイン・ソースの音には彼らのエッセンスも大きく反映されている。
そしてそこに重ねてくるもう一つのネタが、Vanessa Kendrickの「"90%" of Me Is You」です。

この曲はグウェン・マクレエのヴァージョンがヒットして有名ですが、このVanessa Kendrickの方がオリジナルなんです。このレコード、ノーザン・ソウル人気曲でもあるんで800USD以上で落札されたりもする激レア盤なのですが、91年でグウェン・マクレエじゃなくてこっちを使っているって相当すごいですよ。

山崎:グウェン・マクレエよりもこっちのバージョンの方が内容もいいですね。でも普通なら市場に数の多いグウェン・マクレエを使いそうですが。

水谷:この曲が入っているグウェン・マクレエのアルバムにはもう一つネタものとして有名な曲もあるので、グウェンの「"90%" of Me Is You」はネタとしては定番なのですが、他とは違うことをやってやろうというラージ・プロフェッサーの気概が感じられるチョイスです。

□Looking At The Front Door

水谷:これもまたメイン・ソースの重要な楽曲です。

山崎:これはドナルド・バードの人気曲「Think Twice」ネタですね。

水谷:ATCQ も『People's Instinctive Travels And The Paths Of Rhythm』(1990年)収録の「Footprints」で同じ曲の同フレーズをサンプリングしていますが、厳密に言うと使っている場所は全然違う箇所です。ATCQではフレーズそのままなのに対してこちらはThe Pazant Brothers and The Beaufort Expressの「Chick A Boom」を重ねて使っているあたり、メイン・ソースの方が一歩先に行っている感じがします。「Looking At The Front Door」のシングル・カットは1990年と、この二つはほぼ同時期のリリースなのでどっちが真似したとかはないかと思いますが。

山崎:「Footprints」はStevie Wonderの「Sir Duke」のイントロで始まって「Think Twice」に繋がっているので今聴くと大味に感じてしまいますね。

水谷:メイン・ソースはコーラスというか歌ネタの重ね方がうまいんですよ。普通なら別曲のメロディを重ねるって音と音がバッティングしてうまくいかないと思うんですけどね。相当な技量と努力を感じますね。

山崎:イントロもDetroit Emeralds の「You're Getting a Little Too Smart」を使っていてかっこいい。ビートのセレクトのセンスも抜群です。

水谷:イントロから曲に入る箇所でKen Lazarusの「So Good Together」の声を使用していてそこもハマっている。これもレゲエですね。で、このネタは次に繋がるんです。

□Large Professor

山崎:次の曲はその名も「Large Professor」です。

水谷:この曲のトラックのメインで使われているネタ、以前はわからなかったんですよ。でも好きな曲だったので、この軽快なカッティング・ギターの原曲はなんなんだろうってずっと思っていました。で、その後、判明したんですけど、これも先ほどのKen Lazarusの「So Good Together」なんです。

山崎:調べてみたらこの曲はカナダのモントリオール出身のシンガー・ソングライター、アンディ・キムのヒット曲のカバーなんですね。レゲエ・シーンでもほぼ知られていない、こんな超マイナーな楽曲を91年にチョイスしているなんて驚きです。

水谷:カナダといえばK-CutとSir Scratchもカナダ出身なので、そこでつながってきますね。

山崎:この流れからCharles Wright & The Watts 103rd St Rhythm Bandの曲を経て、The Mohawksの「The Champ」に繋がる流れもスムースですね。The Mohawksはジャマイカ系イギリス人バンドなので、ここでもレゲエ要素が入っている。しかもお決まりのブレイクではない、オルガン部分を使っています。

水谷:ジャマイカ系カナダ人ならではの知識とラージ・プロフェッサーのセンスがあわさったからこそこの曲はできたんだと思います。奇跡の楽曲ですね。

□Just A Friendly Game Of Baseball

水谷:これはLou Donaldsonの「Pot Belly」使いですね。この曲はUltimate Breaks & Beats25th(1991)にも入っています。

山崎:この曲はDivine StylerのIt's a Black Thing(1989)やATCQの「Can I Kick It?」(1990)のB面に入っているシングル曲、「If the Papes Come」(1990)でも使われている定番曲ですね。メイン・ソースもこれはほぼそのまま使用していますが、途中でJBや9th Creation に加えてElephant's Memoryというサイケロックバンドの楽曲「Mongoose」を差し込んでくるあたりのセンスは素晴らしいです。

□Scratch & Kut

山崎:この曲はちょっと珍しい感じですね。ドラムマシン的なビートにその名の通りスクラッチとカットインがメインのインスト曲です。K-CutとSir Scratch、二人のスクラッチもかっこいいですね。

水谷:この曲はタイトルも二人の名前ですし、兄弟がメインなのではないでしょうか。
ザ・サイエンスが幻のセカンドとして、兄弟だけになってしまったサードの『Fuck What You Think』はラージ・プロフェッサー脱退という事実が先行しての低評価ですが、意外と良いネタをサンプリングしているんですよ。そのチョイスは本『Breaking Atoms』でもうかがい知れますし、やはり3人揃っていいバランスなんですね。

山崎:ここまででざっとではありますが、A面の楽曲を解析しました。B面の話は次回ということで。

水谷:B面には「Live At The Barbeque」もありますから。

山崎:これもネタ定番のBob James「Nautilus」を革新的な使い方しているので詳しく分析しつつ、ザ・サイエンスについても触れながらアナライズしていきましょう。


Main Source / Breaking Atoms
https://anywherestore.p-vine.jp/en/search?q=main+source


MAIN SOURCE / THE SCIENCE Limited Test Pressing
https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-5012/

J.A.K.A.M. - ele-king

 グローバル・ビーツの開拓者として確かな支持を得るJUZU a.k.a. MOOCHY こと J.A.K.A.M. が、11月27日に新たなアルバム『FRAGMENTS』をリリースする。

 本作はJ.A.K.A.M. が2020年にインド・ケララ州でのフィールド・レコーディングを通じて得た体験とサウンドに加え、 2023年にパキスタンのカラチ~ラホール~ペシャワールにおいても敢行された録音による伝統楽器にフィーチャーしたサウンドが特徴だ。スケート・カルチャーに端を発し、世界を股にかけてマイペースに活躍する彼の新境地が体感できるだろう。まさしく収録のトラックタイトル通り「NEW ASIA」な雰囲気漂う本作には、東洋と西洋の間に横たわる断絶が和らぐ未来を目指しつつ、まず「新しいアジア」としての連帯を呼びかけるメッセージも込められている。

 また、「2038年」という時代設定で作られた小説もアルバムと同時進行で制作されており、アジア圏とアラブ圏の文化が混ざり合い、混沌のなかに土の匂いを見出すような世界との触れ方が描写されている。16ページフルカラーブックレット入り。サウンドとあわせてチェックを。

Various - Spiritual Jazz 14: Private - ele-king

JMANLP 137

Various - Spiritual Jazz 15: A Tribute to 'Trane - ele-king

JMANLP 138

Mixed Bag - Mixed Bag's First Album - ele-king

TWM103

仙人掌 & S-kaine - ele-king

 ソロMONJU、〈DOGEAR RECORDS〉の一員として東京を中心に活動を続けているラッパー、仙人掌。その新作は、大阪の若きラッパー/ビートメイカー、S-kaine との共作アルバムだ。『82_01』というタイトルにあらわれているように、82年生まれと01年生まれによるこのタッグは、地域のみならず世代も超えたコラボとなっている。
 配信ではすでに聴くことができるが、1曲追加収録曲のあるCD盤は11月20日にリリースとのこと。チェックしておきましょう。

11/20 (MON) より全国CDショップにて販売開始予定

82年生まれ、東京のHIPHOPをリードするMC・仙人掌の久々のまとまったリリースは、01年生まれ、大阪は西成で育った次世代のHIPHOPを担うMC/ビートメイカー・S-kaineとガッツリ組んだジョイント作、その名も『82_01』だ。場所も世代も越えて絡み合う二頭の龍が耳元で火を噴けば、彼らが見つめた街の景色、フロアで踊る友達や仲間の姿......痛みや救いの混じり合った、たくさんの夜の記憶がすぐさま鮮明に立ち上がる。とりわけ目を見張るのは、仙人掌とS-kaineの両者が刺激し合い、それぞれのラップに新たなフィーリングを宿らせていることだ。成熟した仙人掌のラップはより深く街の声に呼応して軽快に躍動し、若きS-kaineは自身の存在をHIPHOP史へとさらに色濃く書き記すようにドープな夜を鋭くライムしている。そう、『82_01』は彼らが夜の街へ繰り出し、繋がり、お互いのこれまでに触れて、それぞれが自らを更新したことの証明なのだ。そうして生まれた、このみずみずしく強靭なグルーヴは、再生するたびに強度を増して、あなたの身体に染み付いた夜の痕跡を、何度でも明日の希望へと書き換えていくだろう。ここにある可能性を、その耳でたしかめて欲しい。

Title : 82_01
Artist : 仙人掌 & S-kaine
Release Date : 2023/11/20 (MON)
Format : CD
Price:¥2.500- (税別)

■Track List

01. STEEL ATTITUDE Prod By ENDRUN
02. SWITCH ON Prod By ENDRUN
03. BIRDS (feat. CHAKRA) Prod By GWOP SULLIVAN
04. STRANGE LENS Prod By LAF
05. 残党2023 (feat. MC Spirytus) Prod By Juda
06. UNDER THE MOON Prod By DJ GQ
07. RETURN TRIP (feat. SEDY NEZZ) Prod By Juda
08. WISH Prod By Juda
09. OUR MUSIC Prod By Juda
10. 82_01 TO CONTINUE Prod By Juda

All Produced By 82_01
Track 3,4 Cuts By DJ K-FLASH
Mix&Mastered By TAKANOME
Design&Layout By SPECDEE
Photo By CAYO IMAEDA
Recorded By J.Studio Tokyo,BMJ Studio Fukuoka,WMI Studio Osaka,103LAB.

[仙人掌 & S-kaine プロフィール]

東京を中心に活動するMONJU / DOGEAR RECORDSの一員であるラッパーの仙人掌と、大阪の次世代を担う気鋭のラッパー/ビートメイカーのS-kaine。
82年生まれと01年生まれという場所も世代をも超えて、HIPHOPという共通言語のみで繋がり生まれたスペシャルジョイント。

Coucou Chloe & Meth Math - ele-king

 音楽を中心としたプラットフォーム〈AVYSS〉が立ち上げから5周年を迎え、11月18日(金)の深夜に渋谷WWW Xにて「AVYSS X」を開催。今回はロンドンよりクク・クロエ(Coucou Chloe)、メキシコよりメス・マス(Meth Math)が来日する。国内からはAVYSSに所縁のあるアーティストを中心に30名以上が集結。5年間をそれほど総括せずに、現在と少しの未来を噛み締めたり見据えたりしつつ、出来る範囲で未知のもの(X)に向き合いたい気持ちを込めたアニヴァーサリー・パーティ。

 クク・クロエは、フランス出身でロンドン拠点に活動するシンガー/プロデューサー/ダーク・ロマンティック・アイコン。以前はセガ・ボデガとのユニットY1640としても活動し、セガ・ボデガやシャイガールとともにレーベル〈NUXXE〉を立ち上げたひとり。近年ではレディ・ガガのリミックスを手掛け、コブラ(COBRAH)やアースイーターと共作もおこなっている。

COUCOU CHLOE – DRIFT (Official Video)

 メス・マスはメキシコ・ソノラ州の州都エルモシージョ出身、パンクとレイヴのシーンで育った音楽家。その音楽性は「ラテン・ミュージックのインディ悪魔解体」「デモニック・ネオペレオ」などと呼ばれ、ウィッチ・ハウス以降のモードとラテン・ミュージックがユニークなバランスで溶け合う。これまでにセガ・ボデガ、Dinamarca、マシーン・ガールなどとコラボレーションを果たした。現在デビュー・アルバムの制作が進行中とのこと。

Meth Math - Mantis (Official Video)

 また、AVYSS Xのフライヤーヴィジュアルを反映したゲーム「X散歩」が公開。Windowsのみ対応。〈みんなのきもち〉のKazuma Watanabeが手掛けたヴィジュアルをもとに、JACKSON kakiがゲームプログラムと映像を制作。BGMとして流れる音楽を〈AVYSS〉ファウンダーの音楽家・CVN(ex. Jesse Ruins)が手掛けた。

 当日は会場内でAVYSS X記念Tシャツを販売。ホワイトとブラックの2色展開(サイズ:L/XL)。イベントのメイン・ヴィジュアルを発展させたデザインは、引き続き〈みんなのきもち〉のKazuma Watanabeが手掛けている。さらに入場者には先着でAVYSS X蓄光ステッカーをエントランスで配布(なくなり次第終了)。

 なお、XフロアでのDJとVJの組み合わせを含めたフロア分けやタイムテーブルはAVYSSのSNSにて後日発表される。

イベント詳細

公演タイトル AVYSS X -5th Anniversary-
日時 11月18日(土)
会場 WWW X + 4F https://www-shibuya.jp/
OPEN 23:30

TICKET https://t.livepocket.jp/e/20231118wwwx
ADV: ¥4,000+1d

Live
COUCOU CHLOE
Meth Math
+
BBBBBBB feat. aeoxve, 徳利(video)
CVN feat. DAFTY RORN, Milky, π
cyber milkちゃん
Emma Aibara
skeleton538
UNIT KAI
Yoyou

Shot Live

lllllilbesh ramkooo!!!!
safmusic
Saren

DJ
cityofbrokendolls
divine oracle (Yurushite Nyan×in the pool)
Lily Fury
みんなのきもち
music fm
noripi and seaketa
okadada
Shine of Ugly Jewel
SxC Loser (NordOst×YONEDA)
tomodachi100
Uztama

VJ
fantaneruran
不吉霊二
JACKSON kaki
naka renya

Video
Kenji

POP-UP
MOTHER

FOOD
駒澤零
投擲 food team(anymo, atri, kappa, munéo, Ranz Jigoku, 鬼車, 水母娘娘, 星山星子)

(A-Z)

Staging : yoh
Photo shoot : マ
Staff : yoen
Flyer : Kazuma Watanabe
Direction : CVN

Over 20 only・Photo ID required
20歳未満入場不可・要顔写真付ID
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