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Eartheater

Avant Pop

Eartheater

Phoenix: Flames Are Dew Upon My Skin

PAN / Pヴァイン

小林拓音   Nov 10,2020 UP

 例年のようなお祭り騒ぎは見られなかった。仮装しているひとも少なめで、でも人出じたいは前週までの土曜よりも確実に増えていたように思う。つまり、やじうまが多かったということだろうか? 10月31日の夜、ハチ公前の風景。
 コロナ時代におけるハロウィーンはいったいどうなってしまうのだろう──なんて考えなくてもいいことを考えてしまったのは、彼女の背に生えた羽根に見とれてしまったから。他方で尻には火がついている。〆切でも迫っているのだろうか? これくらいはもうインスタ時代のスタンダードなのかもしれないけれど、ジャケがアルカばりにたいへんなことになっている(じっさい、フォトグラファーはアルカを撮ったこともあるダニエル・サンヴァルト)。わたしはじぶんのスタイルをカスタマイズする──かつてそう宣言した彼女らしいヴィジュアル表現だ。
 農場で育ち、馬を友とするアレクサンドラ・ドリューチンによるプロジェクト、アースイーター4枚目のアルバムは『不死鳥』と題されている。ずばり、再生の象徴だ。生物の屍体は土へと還り、またべつの生命の肥やしになる──と彼女は紙エレ23号のインタヴューでも語っている。そういう輪廻転生のような話に彼女は、どうしようもなく自己を重ねてしまうのだろう。
 過剰に視覚に訴えかけるアートワークや「わたしの肌にしたたる炎」なる副題からもわかるとおり、今回のアルバムはコンセプト的にかなり熱い1枚に仕上がっている。前作『IRISIRI』の「水」とは対照的だ。とはいえ溶岩や火山など、地質学的な対象から着想を得ているところは、相変わらず彼女が人新世的な音楽家でありつづけていることを物語っている。
 そんな本作のパッションをもっともよくあらわしているのは、キャッチーなメロディの映える “Volcano” だろう。「欲しいのはいい感じの激突」「山頂をさらに突き上げるために/黙れ/地震を引き起こせ、2枚のプレートのように/岩盤をずらせ/わが火山よ」なんて歌詞は──地震大国に暮らすわれわれには笑えない話だが──まるで蜂起を呼びかける革命家のようでさえある。山岳派、ドリューチン。

 ひるがえってサウンドのほうは、しかし、まったくといっていいほど熱気を感じさせない。むしろ「涼やか」と形容したほうがふさわしいムードに覆われている。ポイントは室内楽の導入だろう。じつはくだんの “Volcano” も、「プラグを引っこ抜けば究極の反ドラッグになるかも/むしろわたしはこっちの(アンプラグドな)生活の中毒」というフレーズではじまっている。これは、本作がエレクトロニクスよりもアクースティック・サウンドを主体としていることのメタ的な確認だ。
 前作やそれと同時期に制作されたミックステープ『Trinity』とは異なり、ここにはテクノのビートもなければトラップのビートもない。“Burning Feather” や “Kiss of The Phoenix” のようにエクスペリメンタルな電子音を聞かせてくれるトラックもあるにはあるが、ひたすら弦の反復で押し通す “Metallic Taste of Patience” なんかはストレートに「モダン・クラシカル」と呼ぶべき曲だろう。ヴァイオリン、チェロ、フルートを担当する楽団、ジ・アンサンブル・デ・カマラの貢献は大きい。“Below The Clavicle” などで挿入されるハープも本作に落ち着いた雰囲気をもたらしている。スペインのサラゴサで録音した影響なのか、いくつかの曲でギターがスパニッシュな響きを携えているのも聴きどころだ。
 もっとも注目すべきはやはり、ドリューチンの声ということになるのだろう。ときにやさしく囁くように、ときに叫ぶように、曲ごとに不安定な表情を見せる彼女のヴォーカルは、「涼しげな」室内楽サウンドとは裏腹に、どこまでも激しく燃え上がり死の淵から蘇る、不死鳥の葛藤を表現している。このアンバランスこそが本作のキモだ。
 前作で高い評価を獲得したがゆえに、尻に火がついてしまったドリューチン。きっとこんなふうに彼女はこれからも都度、おのれのスタイルをカスタマイズしていくにちがいない。

小林拓音

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