ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Brian Eno - FOREVERANDEVERNOMORE (review)
  2. Mansur Brown - NAQI Mixtape (review)
  3. Loraine James - Building Something Beautiful For Me (review)
  4. Natalie Beridze - Of Which One Knows (review)
  5. 幾何学模様 - クモヨ島 (review)
  6. interview with Gusokumuzu 勝ち組でも負け組でもない若者のリアル (interviews)
  7. Cholie Jo ──沖縄のラッパーCHOUJIとOlive Oilによるデュオがアルバムをリリース (news)
  8. 김도언 Kim Doeon(キム・ドオン) - Damage (review)
  9. interview with Dry Cleaning 壊れたるもののテクスチャー (interviews)
  10. 追悼:キース・レヴィン R.I.P. Keith Levene (news)
  11. グソクムズ ──秋に吹く爽やかな一陣の風、吉祥寺から注目のバンドが登場 (news)
  12. TAAHLIAH and Loraine James ──ロレイン・ジェイムズの新曲はグラスゴーの新人プロデューサーとのコラボ (news)
  13. Björk - Fossora (review)
  14. Soundwalk Collective with Patti Smith ──ブライアン・イーノ、ルクレシア・ダルト、ケイトリン・オーレリア・スミス、ロティックなどユニークな面子が参加したリミックス盤が登場 (news)
  15. interview with Louis Cole 〈ブレインフィーダー〉が贈る超絶技巧ファンキー・ドラマー (interviews)
  16. Kukangendai ——エクスペリメンタル・ロック・バンドの空間現代による新たな試みに注目 (news)
  17. Crack Cloud Japan Tour 2022 ——インディ・ロック好きがいま大注目しているバンド、Crack Cloudが初来日 (news)
  18. interview with Mount Kimbie マウント・キンビー、3.5枚目にして特殊な新作について語る (interviews)
  19. ファイブ・デビルズ - (review)
  20. 今年気に入っているミニ・アルバム - (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Eartheater- IRISIRI

Eartheater

IDM

Eartheater

IRISIRI

Pan / Pヴァイン

Tower HMV Amazon

野田努   Jun 18,2018 UP
E王
ロボットに人種はない ──マッド・マイク
コンピュータは無垢である ──アレクサンドラ・ドリューチン


 これはまた奇妙で、並外れたエレクトロニック・ミュージックのアルバムだ。作者の名前はアースイーター。NY在住のアーティスト、アレクサンドラ・ドリューチンのソロ・プロジェクトで、本作『IRISIR』が3枚目のアルバムになる。彼女はまたグレッグ・フォックスとガーディアン・エイリアンなるプロジェクトで〈スリル・ジョッキー〉などのレーベルから4枚のアルバムを出している。

 ダンスするのと、ダンスさせられるのではまったく意味が違う行為だが、彼女の音楽はダンスするよう感覚を引き起こす。初期ダンス・カルチャーの本当の素晴らしさのひとつは、広告看板が目に飛び込んでくる現代と違って、資本主義的洗脳から完璧に解放されることだった。もっとも、かつてはマトモスのフロントアクトを務めたことがあるアースイーターの音楽は、いわゆるクラブ・ミュージック的なダンスではない。それは聴いたことがあるようでない、まったく新鮮な響きによって病んだ心をみずみずしく再起動させる。2曲目“Inclined”はぼくが今年聴いた音楽のなかで最高の1曲だ。

 ファッキンな水が私の生命
 私はグローブを脱うとする
 分離したレイヤーたちを引き剥がそう
 私は私の身体をカスタマイズする
 営利目的ではない身体に

 美しさと激しさがせめぎ合う。哀愁を帯びたヴァイオリンのループとフットワークを崩したかのようなリズム、そしてアレクサンドラ・ドリューチンの透明な歌声。ケイト・ブッシュは彼女の英雄だが、この音楽をIDM版ケイト・ブッシュと言いたくなるのを抑えなければならない。ムーア・マザーがフィーチャーされた“MMXXX”では、彼女は破壊的なノイズと帰属的なわめき声そしてラップで空間をねじ曲げてみせている。また、“Curtains”ではハーブの音にジェフ・ミルズ流のミニマルがコラージュされ、“C.L.I.T.”では破片となったベース・ミュージックが再構成されているかのようだ。多彩なレイヤーを複合させることの妙は、評価された過去の2枚のアルバムですでに証明済みだが、『IRISIRI』には明確な主題が浮かび上がってくる。テクノロジー、身体、そしてジェンダー。生命と科学。その複雑性。最後の曲、“OS In Vitro(生体外のOS)”では、彼女は自分の詩をコンピュータのtext to speechになんども読ませている。最初は低い声で、そして甲高い声で、そして女性の声でなんどもなんども。

 この身体はケミストリー……ミステリー
 これらの乳房は副作用
 あなたは彼女を算出(コンピュート)できない
 あなたは彼女を算出(コンピュート)できない

 アレクサンドラ・ドリューチンは、歴史的に意味づけされた女性性というアイデンティティの神話を語り直そうとしているように見える。女性なら誰もが見てきた悪夢を振り払うかのように、彼女は自分の身体をあり得ない角度にねじ曲げながら、新しい抵抗の音楽を作り上げている。きっとそうに違いない。

[2019年1月9日編集部追記]
私たち ele-king はアースイーターのこの『アイリシリ』を「2018年ベスト・アルバム30」の第1位に選出しました。それを機に、急遽歌詞・対訳付きの日本盤CDもリリースされることに。紙版『ele-king vol.23』(http://www.ele-king.net/books/006651/)には彼女のインタヴューが掲載されています。非常に興味深い内容ですので、ぜひご一読を!

野田努