![]() Courtney Barnett Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit Marathon Artists/トラフィック |
いや、すいません、申し訳ないっす、web ele-kingのレヴュー原稿もたまにしか書けないほど、昨年ぼくは本作りに時間を費やしていまして、このコートニー・バーネットの取材なんか10月31日ですよ。前日にリキッドルームでライヴがあって、その翌日土曜日の朝11時、と手帳に書いてある。
周知のように、彼女のデビュー・アルバム『サムタイムス・アイ・シット・アンド・シンク、サムタイムス・アイ・ジャスト・シット(ときに座って考えて、そしてまさに座る』は、時代のトレンドとはまるっきり離れているのに関わらず、たくさんのメディアが2015年の年間ベスト・アルバムの1枚に選んでいる(もちろん紙エレキングでも選んだ)。最近ではグラミー賞の新最優秀新人賞にもノミネートされて、アルバムの評価の高さをあらためて印象づけている。
ロックはスーパースターとともに終わるのではない。簡潔にまとめてみよう。彼女の音楽にはふたつの点において素晴らしい。ギター・ロック音楽としてのソングライティングのうまさ、もうひとつは言葉の素晴らしさだ。
彼女の歌には、昔ならボブ・ディランやヴェルヴェッツの曲で歌われるような魅惑的な人物が登場し、わずか1行の言葉でしょーもない人生の切ないものを言い表す。だいたい、どの曲のどの歌詞のどの部分でもそうなのだ。アルバムのなかに、なにか特別なトピックがあるわけではない。だが、彼女の曲で描かれる日常のすべての瞬間は,とても大事なものになる。物語があり、わずか言葉の密度は濃く、具象的でありながら、多数の人間の思いを集めてしまう。
ロック/ショー・ビジネスの世界の最悪なところは、成功すると一般社会ではありえないほど過保護な扱いをうけることにある。まあ、売れもしないのに過保護にされているロック・ミュージシャンも少なくはないよな。で、さて、彼女への取材だが、初来日で大盛り上がりだったライヴの翌日、しかも午前中だし、場所は観光客で賑わう渋谷だし、ああ、眠たいだろうなぁ、機嫌が悪かったら嫌だなぁ……などと案じていたのだけれど、これがまた、ステージで見た彼女と同じように虚勢をはることもなく、コートニー・バーネットは実にさっぱりとした顔で、渋谷の喫茶店にぼくらよりも先に着いていたのです。
ライヴも良かったし、取材に駆けつけたぼくと小原がますます彼女のファンになったことは言うまでもない。
昔から男女関係とか車について歌ってるようなポップ・ミュージックには全然興味なかった。自分が好きなミュージシャンはもっと深いところに響くものを歌っているように思えたし、私はそういう歌に考えさせられてきた。それが正しい理解であるかどうかは抜きにしてね。
■さっぱりとした表情で安心しました。あなたはツアー中で、ライヴの翌日で、しかもこんな早くの取材だから疲れているかなと思ってちょっと心配していたんです。
コートニー・バネット(Courtney Barnett、以下CB):ははは(笑)。ちょっと早かったけど全然大丈夫。
■ライヴをやって、3時くらいまで飲んで、そして朝早くに取材を受ける方もいるので(笑)。
CB:前だったら飲んできてたかもね(笑)。
■体は強い方なんですか?
CB:この2年間はずっとツアーをしてたから、体力と精神的な面の自分の限界がわかったというか。必要なときはゆっくり休むようにしてるかな。

■昨日のライヴもすごくよかったんですけど、このアルバム(『Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I just Sit』)は2015年聴いたなかでも大好きなアルバムなんです。まず、このタイトルとジャケットがすごくいいですよね。あなたの音楽はグルーヴィーで踊れる音楽でもあると思うんですが、それとは対照的に「座って考えて」というタイトルで、ジャケットには椅子の絵が描かれています。
CB:このアルバムの多く毎日つけている日記にインスピレーションも受けてるんだけど、そういうのを書いてるときって日常についてじっくり考えることができる。だから私の日常を反映した内容になっていると思うな。それから、なんていうかなぁ。自分と向き合って作ったから、瞑想的な感じ(笑)? そういうフィーリングが強いかも。曲を書くときは集中するために都会を出て、田舎へ行ったりすることもあるな。私のライヴはエネルギッシュだけど、それとは反対に歌ってること内省的だったりする。こんな感じで、私はそういう対象的なものが混在しているのが好き。
■あなたが音楽に夢中になった理由を教えてもらえますか?
CB:音楽にハマったのは10歳のときで、そのときから私はギターをはじめた。そういうピュアなときって、取り憑かれたように練習するでしょ? だから弾き方もどんどん上手くなっていって、曲を覚えるのが単純に楽しかった。それから曲を書くようになるんだけど、それが自分のコミュニケーション手段になると気づけたのは大きかったと思う。普段は言葉で言えない気持ちとか考えを音楽なら伝えられるわけだもん。時間が経つにつれて、自分の歌から何かを感じ取ってくれるひとも増えてきて、これって超ポジティヴなことだなって気づいた。えと、ちゃんと説明できてるかわからないけど(笑)。
■10歳のとき、最初はアコースティック・ギター?
CB:うん。はじめは家族の知り合いがアコギを貸してくれたんだけど、ボロくてチューニングがすぐズレちゃうやつだった(笑)。でも私は本気で練習したかったから、親に頼んで新しいのを誕生日に買ってもらったのよ。
■いまのポップ・ミュージックって、シンセであったりとか、エレクトロニクスが入っているのがほとんどです。しかし、昨日のライヴやアルバムも、あなたは昔ながらのギター・サウンドに拘っています。それはなぜですか?
CB:昔、実家で親がクラシックとかジャズを聴いていて、私はニール・ヤングとかを聴いてた。だから、あんまりエレクトロ系とかメジャーなポップ・ソングにハマったことがないのよね。だからそれは関係あるんじゃないかな。あと楽器が少ない生な音とライヴ感があるものが大好き。そういう音楽には曲を作ったひとのエネルギーが込められているような感じがしない? そこにはスタジオを歩く足音が聞こえてきそうな臨場感があるからすっごくワクワクする。

ポップ・ミュージックが人気である時間ってほんの一瞬だし、そこにはお金と広告がすごく絡んでる。それとは反対に、自分にいまでも響く音楽は年代を問わずにつねに新しく聴こえる。だから、ロックや本物の音楽はいまでも時間を超越することができるんじゃないのかな。
![]() Courtney Barnett Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit Marathon Artists/トラフィック |
■目標にしていたミュージシャンは誰ですか?
CB:うーん、自分が小さかったときにお兄ちゃんがジミ・ヘンドリクス(注:本来ならロックの最初のスーパースターになるべく男だったが、人種的偏見がそれを阻んだとも言われる)とかニルヴァーナとか聴かせてくれたな。私、左利きでギターも左なんだけど、彼らもそうだからインスパイアされたのかも(笑)。PJハーヴェイやパティ・スミス、トーキング・ヘッズ、テレヴィジョン……、絞りきれないけどそういう人たちがお気に入りよ。
■小原(カメラマン)はニルヴァーナだと言って、僕はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『ローデッド』みたいなアルバムだと思ったんですけど、どっちの感想が言われて嬉しいですか?
CB:へー、そうなんだ(笑)。うーん、両方かな。私はいろんなタイプの音楽に影響を受けてきたから、ヴェルヴェッツもグランジも好き。自分の音楽にはそのふたつの要素が入っているんじゃないかな。そうやって聴いてくれるひとによって、違う要素を見つけてくれるのは楽しいし、すごく嬉しい。
■言葉を喋るような歌い方はどこから来ているんですか?
CB:自分で曲を作りはじめたとき、ギターを弾きながら自分の日記を読み上げてメロディをつけてたんだけど、そのときに自分のスタイルができたと思う。それに私は自分のことをいいシンガーだと思ってなかったから、歌と喋りの中間っていう歌い方はすごく心地よかった(笑)。そうすれば緊張もしないし、自分の言いいたいこともはっきりと言えたのは大きかったな。
■おしゃべり好きだったから、ああいう歌い方になったのか、あるいは喋れないんだけどギターを持つと喋れるようになるのか、どっちなんでしょうか?
CB:うーん……。私はそんなに喋る方じゃないかなぁ。すくなくとも普段はね(笑)。子どものときに私があまりにも喋らないものだから、親がすごく心配してたのを覚えてる(笑)。でも自分の内側に思いはあったから、それをアウトプットする方法として音楽が私にはあるって感じかな。

■ちなみに理想とする歌詞は誰のものですか?
CB:うーん、答えられないかも。それぞれにいいものがあるからな……。
■じゃあもしカヴァーをやるとしたら誰を選びますか?
CB:レモンヘッズとかはカヴァーしたことある。うーん、その質問の答えもすぐには思い浮かばないな(笑)。
■ギタリストとしてインスパイアーされたアーティストはいるんですか?
CB:さっきも出てきたけど、ジミ・ヘンドリクスだと思う。サウンド的にはニール・ヤング&クレイジー・ホースが好き。最近だとスティーヴン・マルクマスとか。
■ピックを使わずに指でずっと弾いてきたんですか?
CB:うん、ずっとそうやって弾いてきた。弾き語りをはじめたときから、あんまりピックの音が好きじゃなくってね。あとピックよりも指で弾いた方がリズムにもノりやすかった。
■子どもの頃になりたかったものって、ほかに何かありましたか?
CB:いろいろあったな(笑)。当時から音楽に興味があったけど、漫画家になりたかったし、動物が好きだから動物園でも働いてみたかった。あとプロのテニス選手(笑)。
■えー。では、あなたの生まれ育った場所を比喩的な言葉を使って説明してもらえますか?

CB:生まれたのはタスマニアで、育ったのはシドニー。具体的でもいい? ビーチやサーフィンが有名で、私が子どもだったときは、水辺や茂みをみんなで走り回ってた。
■なんか、すごくのびのびとした少女時代を過ごしてるじゃないですか! さっきあなたが挙げたロック・ミュージシャンたちは、心のどこかに屈折感があるでしょ?
CB:そういえばそうかもね。でも私の家はすごくハッピーだった(笑)。
■ではあなたは、あなたの好きな音楽のどういうところに共感を覚えるんですか? あるいは彼らの何があなたに突き刺さったんでしょうか?
CB:小さいときに歌詞の内容を完ぺきに理解していたわけじゃなくて、音楽から伝わってくるエネルギーに惹かれたというかな……。自分が歌詞を書くようになってから聴き方も変わってきたから、どう影響を受けてきたのかは断定できない。でもたしかなのは、昔から男女関係とか車について歌ってるようなポップ・ミュージックには全然興味なかった。自分が好きなミュージシャンはもっと深いところに響くものを歌っているように思えたし、私はそういう歌に考えさせられてきた。それが正しい理解であるかどうかは抜きにしてね。
■その影響がこのジャケットに描かれている椅子に象徴されるようなことなんでしょうかね。
CB:タイトルとジャケットにそれが反映されているのは間違いないよね。それから、時間をかけて物事を別の角度から観察してみることのメタファーに、そのふたつはなっているつもり。
■では最後の質問です。ロックにはそれなりの歴史があって、いろいろな偉大なミュージシャンや多くの傑作が生まれてきました。いまこの時代でもしロックという音楽が機能するとしたら、どのような機能があると思いますか? いまでも往年のクラシック・ロックは人気がありますが、あなたのような新しい世代のロックは過去の名盤よりも軽視されがちなところがあるように思ういますので。
CB:そうだなぁ……。機能というか、音楽のよさっていうものは、それがどう良いのかによって判断されるべきでしょう? クラシック・アルバムには人気のものもあるし、忘れ去られるものがあるし、出てから10年後に人気になるものもある。そういう音楽、つまり本物の音楽って、いまのポップ・ミュージックと比べることはできないものだと思う。だっていまのポップ・ミュージックが人気である時間ってほんの一瞬だし、そこにはお金と広告がすごく絡んでる。それとは反対に、自分にいまでも響く音楽は年代を問わずにつねに新しく聴こえる。だから、軽くてつまんないポップと違って、ロックや本物の音楽はいまでも時間を超越することができるんじゃないのかな。
























Jesse Ruins