「S」と一致するもの

Carlton and the Shoes - ele-king

 恋したときの気持ちというのは、悲しいかな、時間とともに薄まり、そして忘れていくものである。理屈でわかっていても、それが性の衝動と結びついている以上、動物としてやむを得ないのかもしれない。しかし、カールトン・アンド・ザ・シューズを知っている私たちは、恋したときの気持ちを何度でも思い出すことができる。私たちは生きている限り、“ラヴ・ミー・フォーエヴァー”や“ギヴ・ミー・リトル・モア”を何度でも繰り返し聴くだろう。
 ジャマイカが生んだ伝説的なロックステディ・グループ、カールトン・アンド・ザ・シューズが来日する。すでに涙ぐんでいる人もいるのではないだろうか……来日を記念して、7インチ・シングルもリリースされる。

 以下、OVERHEATから告知文です。

 1992年に開催された”Rock Steady Night”でGladstone” Gladdy” Andersonらと初来日し、SKA、Rock Steady、Reggaeファンを驚喜させたCarlton and the Shoes(カールトン・アンド・ザ・シューズ)が帰ってくる!!!

 1966年から1968年のジャマイカでは、それまでのSKAに変わりRock Steady(ロック・ステディ)が大流行。その中でもRock Steadyを代表する最高峰のコーラス・グループと言えばCarlton and the Shoesをおいて右に出るものはいない。しかし、当時(76年)わずかたった1枚のアルバム『LOVE ME FOREVER』をCoxsone Doddのレーベル、Studio One(ジャマイカのモータウンと言われる)からリリースしただけであったが、その高い評価は今でも同じである。こうしてジャマイカ音楽の発展に多きな影響を与えた1stアルバムはクラッシックと呼ばれ、その作曲センスと絶妙なハーモニー・ワークは唯一無二、その後にリリースされた2ndアルバム『THIS HEART OF MINE』(Quality)の発売は82年である。
 そのアルバムは日本でもフィッシュマンズの曲「ランニングマン」にも影響を与え、クレモンティーヌが「Give Me Little More」をカヴァーしたり、最近ではCHAN-MIKAも同曲をカバーしたりというように何度も再発やカバーが繰り返されている超名盤である。
 そして昨年(2014年)は精力的にLAやシエラネバダ・ワールドミュージック・フェスへの出演を果たしている。

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〈ツアー日程〉
4月23日(木) 名古屋 クラブクアトロ(Tel:052-264-8211) /
ADV ¥4,500 DOOR ¥5,500
4月24日(金) 代官山 UNIT(Tel:03-5459-8630) /
ADV ¥4,500 DOOR ¥5,500
他、追加予定あり
チケット:2月28日 各プレイガイドにて発売予定
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■来日記念盤として7インチ・シングルも発売!!

発売日:2月20日 1,200円(税別)OVE-7-0123
Side A : You(Part1) / Carlton and The Shoes
Side B : Wanna Be Free / Carlton and The Shoes

 『LOVE ME FOREVER』(Studio One)をリリースした後、『THIS HEART OF MINE』をQualityからリリース。どちらも再発され続けているのはご存知の通り。ジャマイカン・アーティストの中でもオリジナルな曲センスとコーラス・ワークには世界中のマニアが一目置くところ。 昨年のLA公演も話題となっている彼らの来日にも期待がかかるが、今回は90年代の音源から選曲されたRock SteadyとSKAがカップリングされた良質な7インチ発売です。

Side A : You(Part1) / Carlton and The Shoes
『THIS HEART OF MINE』に続き95年、OVERHEATからリリースされたアルバム『Sweet Feeling』収録の純甘Rock Steady曲。 エレキ・ドラムにうねるベース、ジャマイカのゲットーを思わせる重いスリリングなリズムに極上のハーモニー。Rock Steadyに似合うのはやはりLove Songだと確信させられる曲。

Side B : Wanna Be Free / Carlton and The Shoes
ディーン・フレイザーとヴィン・ゴードンのホーンで始まる軽快なスカ・チューン。
2002年にOVERHEATからリリースされたアルバム『Music For Lovers』に収録されていた曲。カールトンの脱力ヴォーカルにからむコーラスとホーン・セクションに加え、ピアノの裏打ちはメロウ・キーボーディストことロビー・リンである。


test - ele-king

test

Ryoko Akama - Bruno Duplant - Dominic Lash - ele-king

 〈アナザー・ティンブレ〉は英国の即興/実験音楽レーベルであり、現在、この種のシーンにおいて大きな存在感を示しているレーベルでもある。その横断領域は広く、即興から電子(電気)ノイズ、現代音楽までも射程に入れており、非常に個性的なレーベル・キュレーションが行われている。
 なにしろレーベル初期にはデレク・ベイリーらとミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニーで活動したヒュー・デイビスの作品集『パフォーマンス 1969 - 1977』や、音素材を極限まで切り詰め、聴覚/知覚への自覚的なプロセスを浮上させていく静寂の音響・音楽、ヴァンデルヴァイザー楽派の6枚組ボックス・セット『ヴァンデルヴァイザー・アンド・ソー・ヴァイタ―』までもリリースしているのである。また日本のICCで作品が展示された英国の実験音楽家スティーヴン・コーンフォードのアルバム(コラボレーション含む)も多数リリースされている。
 そう、いわば即興/実験/作曲の境界線を越えていくようなレーベルなのだ。ある意味ではマイケル・ナイマン著『実験音楽-ケージとその後』の思想を受け継ぐレーベルともいえよう。

 昨年2014年もジョン・ティルバリー、フィリップ・トーマスらの演奏によるモートン・フェルドマン『ツゥー・ピアノ・アンド・アザー・ピース 1953-1969』もリリースするなど、即興、ノイズ、電子音楽、現代音楽まで幅広く、かつ大量のリリースを続けていた(個人的にはベルリン・シリーズと銘打ったアーティスト・コラボレーション・シリーズにも注目)。また、英国のエクスペリメンタル・ミュージック・マガジンの老舗『ワイアー』誌の2014年トップ50内に選出されたマグナス・グランベルク率いるスクーゲン『ディスペアズ・ハッド・ガヴァンド・ミー・トゥー・ロング』と、ローレンス・クレイン『チェンバー・ワークス 1992 - 2009』も重要な作品だ。10人の演奏家によるスクーゲン(日本からは中村としまる、笙の石川高が参加)は、コンポジションとインプロヴゼーションを明確なコンセプトとともに両立させ、ローレンス・クレインは室内楽であった。両作とも即興と作曲への境界を越境している。インプロヴィゼーション/コンポジションが同時生成するようなレーベルの新しい志向=思考が明確になってきたのである。

 今回紹介するリョーコ・アカマ(VCS3シンセサイザー)、ブルーノ・デュプラント(パーカッション、トーン・ジェネレーター)、ドミニク・ラッシュ (ダブル・ベース、クラリネット、ラップトップ、パーカッション)らによる『ネクスト・トゥ・ナッシング』(2014)もまた純白のミニマリズムでインプロヴィゼーション/コンポジションを越境する素晴らしいアルバムである。まずは各メンバーのことについて簡単に書いておこう。
 リョーコ・アカマはAGFらとのユニット(The Lappetites)、カフェ・マシューズ、そしてエリアーヌ・ラディーグ(!)などとのコラボレーションでも知られる電子音楽家(https://www.ryokoakama.com/)。この『ネクスト・トゥ・ナッシング』でリョーコ・アカマが演奏するVCS3は、70年代にキング・クリムゾンやピンク・フロイドなどのプログレ・バンドに導入されたアナログ・シンセサイザーだが、本作では、それら伝説的なバンドの使い方とは異なり、静謐な音の層/霧のような音響が持続している(VCS3は、昨年発表のソロ・アルバム『コード・オブ・サイレンス』でも用いられていた)。

 そして、ブルーノ・デュプラントは精力的なリリースを続けるフランス人アーティストで、コントラバス、パーカッション、コンピューターなどを駆使したミニマルな作品/演奏を多数送り出している。自身もレーベル〈リゾーム〉を運営している(https://rhizome-s.blogspot.co.uk/)。ドミニク・ラッシュ はコントラバス奏者。彼は〈アナザー・ティンブレ〉からリリースされているヴァンデルヴァイザー楽派のアントワーヌ・ボイガーの作品『カントル・カルテット』などにも参加している(https://dominiclash.blogspot.jp/)。
 インタヴューなどを読むと、このアルバムを主宰したのはどうやらブルーノ・デュプラントのようだ。彼はこれまでもリョーコ・アカマなどとコラボレーションを行ってきたわけだが、その経験を踏まえつつ、さらに新しい音楽を生み出したかったようである。私見だが、このアルバムにおいてはトリオ編成における新しいミニマリズム/アンサンブルを追求しているように思える。

 1曲め“ア・フィールド、ネクスト・トゥ・ナッシング”はブルーノ・デュプラントによる曲で、淡い音色の電子音が持続する静謐な楽曲(このトラックが本アルバムのベーシックとなっているのではないか?)。持続とピッチの繊細なコントロール/コンポジションが素晴らしい。2曲め“グレード・ツー”はリョーコ・アカマの曲。透明な持続音に、ベースの点描的な音。鐘のような響き。電子音の層による静謐な音響アンサンブルだ。3曲め“スリー・プレイヤーズ、ノット・トゥギャザー”はドミニク・ラッシュの曲で、鐘のような響きから幕を開ける。日本の雅楽のような持続や、クリッキーなリズムも刻まれていく。そのうえフィールド・レコーディングされた風や空間のような音(多分、電子音主体のノイズではないかと思う)が鳴り響くのだ。この曲では、さらに音の層が増えており、即興/コンポジションのあいだに、音の揺らめきが生まれている。ラスト4曲めは、リョーコ・アカマによる“グレード・ツー・エクステンデッド”だ。電子音響的な高周波のチリチリしたサウンドが持続し、低音部分は震えるような持続をつづける。

 ブルーノ・デュプラントは「自分はヴァンデルヴァイザー楽派の音楽家ではない」と語っているが、たぶん、彼の目指すべき音は、サウンドのラディカリズムをミニマリズムとアンサンブルとコラボレーションによって生成していく点にあるのではないか。
 静寂と持続の音楽空間を誇る本作は、ほとんどファイル交換によって作り上げられたという。本作では演奏家は、同じ場所・時間で演奏・録音をしていない。しかし実際に会うことなく演奏・録音された本作は、その距離の効果によって独自のサウンドの磁場を形成しているように思えるのだ。反応のアンサンブルではなく、時空間を超えた「応答」のアンサンブル。リアルタイムの反応ではない以上、作曲と即興の境界線は無化していく。
 変わりゆく/移ろいゆく音響の饗宴。その古楽の一瞬の響きを引き延ばしたかのような響き。日本の能楽のような静寂と緊張。それは現代音楽的なコンセプチュアルなミニマリズムではなく、音自体の生成に拘る新しいミニマリズムといえよう。90年代と00年代の即興/音響シーンを経由した2010年代の音楽。ポスト・インプロヴィゼーションから新しいミニマリズムへ。そして、その音は、とても澄みきった響きを獲得しているのだ。

 最後に。ミニマルなイメージのジャケット写真もブルーノ・デュプラントによるものだという。このアルバムの音楽/音響を象徴する見事なアートワークである。

The Body & Thou - ele-king

 昨年、某エナジー飲料協賛、某ベース・ミュージック・イヴェントに招聘されたボディ(The Body)の二人を諸事情でホテルから会場へサウンド・チェックのため連れて行く道中、それまで気にかかっていた質問を投げかけた。

「ハクサン・クローク(Haxan Cloak)とのレコード、最高だったけど、あれライヴでできるの?」
「できないよ。」

……だよね。

 昨年、〈リヴェンジ・インターナショナル(RVNG Intil.)〉からリリースされた『我、ここに死すべし(I Shall Die Here)』はボディのレコーディング音源にハクサン・クロークがリミックス/リエディットを施した秀作である。この晩、彼らが披露したライヴはやはり過去音源で聴ける乾いたテクスチャーが特徴的なドゥーム/スラッジ全開のセットであった。

 ボディにとっては古巣ともいえる〈スリル・ジョッキー〉からリリースされた本作は米国南部のDIYエクストリーム・ミュージック・シーン出身のベテラン2組、ボディとザウ(Thou)によるコラボレーション・アルバムである。両者による異なるヘヴィネスへのアプローチが、疎外/孤立、憂鬱、絶望といった共有のテーマの下に聴者を圧殺、さらなる深淵へと落とし込む。彼らいわく、「黄昏時のダンジョンに迷い、狂王の城跡へ、盟友と肩を並べ、敵の屍を足下に、神秘は解き明かされ、秘宝は発掘される」のようなサウンドだとか……ってベタにメタル過ぎるよ! 中二病だよ!

 もう最近こんなんばっかり書いてる俺ほんと気持ち悪いわー勘弁してよーと思いつつ聴いているこの音源、たしかに圧倒的破壊力で圧殺されるドゥーム/スラッジではあるのだけれども、上記の説明的なメタル的な絶望や鬱屈といったドロドロ感は控えめにカラっと怒れるクラスティな要素が強い。バーニング・ウィッチからアイヘイト、ヌース・グラッシュなどを信奉するクラスティ・ドゥーム・ファンには堪らないだろう。どうやらこの音源、昨年リリースされたヴァイナル・オンリー音源である『愛からの解放(Released From Love)』に新譜『おれが常に憎んでいたのは、おまえだ(You, Whom I Have)』を追加した形でリリースされているようだ。こういう乾いた遅くて重いサウンドはアメリカのバンドならでは。ナイン・インチ・ネイルズ、ヴィック・チェスナットのカヴァーも収録。

ジャマイカの星、アフリカの夢、レゲエが生んだスーパースター「ボブ・マーリー」。伝説を、未発表曲を含む貴重フィルムと、評伝でたどるフォト・レポート&スーパー評伝。伝説の日本ツアーほか、レゲエ・スターの核心をとらえた傑作写真集&スーパー評伝の豪華カップリング。死してなお全世界人々の心に生き続ける「レゲエ神」を知る決定版です。未発表写真多数!

【構成】 (1、2、4章までが写真中心)
Chap.1 April 1979, Tokyo
~東京のザ・ウェイラーズ
ボブ・マーリー来日公演を撮る! 菅原光博

Chap.2 International Reggae
~レゲエ、世界に飛び出す
初めて観たボブ この人こそ撮らねばならない! 菅原光博

Chap.3 The Life of Bob Marley
~ボブ・マーリーの一生 藤田正
はじめに
1 サウンド・オブ・キングストン
2 スカ時代とザ・ウェイラーズ
3 レゲエ・レボリューション
4 ラスト・デイズ
5 スカからルーツ・レゲエの三十年
selected albums of Bob Marley and the Wailers
菅原光博からのメッセージ

Chap.4 Jamaica, One Love
~ジャマイカ、ワン・ラブ
ジャマイカへの旅 真っ白な鳩が飛んできた 菅原光博

 1月末、NYでは「史上最大の暴風雪に見舞われる」との警報があり、住民をあたふたさせた。地下鉄などの交通機関が止まり、食料調達も十分(スーパーマーケットに入るのに長い行列!)「危険なので、家にから出ないように」など住民に呼びかけ、万全で暴風雪に備えた。が、結局、史上最大ではなく、よくある雪の1日で終わった。
 みんなが悶々していた暴風雪警報が出た月曜日の夜、ほとんどのショーがキャンセルの中で、勇敢にもショーを行ったのがゾラ・ジーサス(https://www.zolajesus.com)だ。予定より早めに行われたショーの途中で、彼女は「ついてきて」、トロンボーン・プレイヤーを率い会場の外に出て、1曲「Nail」をアカペラで歌いだすなど、雪ならではのパフォーマンスを披露した。車も通らない、ガランとした雪のストリートにこだまする彼女の声と、それをあたたかく見守るオーディンス。大停電や台風の時といい、ニューヨーカーは災難時でも、エンターテインメントの心を忘れない。因みに、彼女はウィスコンシン出身、雪には慣れたものだったのかもしれない。
https://www.brooklynvegan.com/archives/2015/01/zola_jesus_perf.html



 暴風雪騒ぎから1週間経った今日2月2日も雪は降っていて、外はマイナス10度の世界。雪が降ろうが槍が降ろうがイベントは普通にある。昨日2月1日はスーパーボウル、フットボールの決勝戦。個人的に興味ないが、周りが盛り上がっているので、いやでも目に入ってくる。行き着けのバーに行くと、この日だけは大きいスクリーンを出し、みんなが大画面でスーパーボウルを鑑賞している。お客さんはもちろん、店員も仕事そっちのけで画面を熱く見守っている。点を入れなくても、何か好プレイ珍プレイをするたびに、「おーー!!!」や「ノーーー!!」や、「ぎゃーーー」などの奇声が飛び交うので、ドリンクもうかうかオーダー出来ない。一緒に行った友だちは、接戦の最後の5分は「もう心配で心配でしかたない!!!」と、私の手をぎゅっと握り、自分の事のようにハラハラドキドキしていた。
 結果、ニューイングランドのペイトリオッツが勝利(10年ぶり)。ルールがわからない著者にも、周りの気迫で好ゲームだったことが伝わってくる。
 スーパーボウルで注目されるのは、ハーフ・タイムショー。過去に、マドンナ(w/M.I.A.,ニッキー・ミナージュ)、ビヨンセ(w/ディスティニー・チャイルド)、ブルノ・マーズ(w/レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)などが出演しているが、今年はケイティ・ペリーとレニー・クラヴィッツ、ミッシー・エリオット。旬なのか、古いのかわからないラインナップだった。
 そういえば、テロリスト(?)に揺すられ、公開中止になりかけた、問題の映画『インタビュー』のなかで、主役のセス・ローガン(役名アラン)が、北朝鮮の最高指導者の金正恩の戦車に乗った時に、流れてきた曲を聴いて一言「あんた、ケイティ・ペリー聞いてるの?」。著者は、それで初めてケイティ・ペリーを知った。それだけ、彼女が「いま」の大衆音楽を表している。ハーフタイム・ショーの彼女も見事だった。レニー・クラヴィッツもミッシー・エリオットも貫禄抜群だったが、今年の顔はケイティ・ペリーで万場一致。

 ケイティ・ペリーは、メイクやポップなファッションが特徴で、一見今の時代どこにでもいるような女の子。歌がこの上なくうまいとか、ダンスが飛び抜けて上手とかではなく、格好を付けようとせず、素で勝負しているところが、同世代からの共感をかっているのだろう。下積みも長く、所詮ポップスなのだから流通しないと意味がないと、堂に入ったあきらめ感もあるし、彼女のキャラクターや世界観は、見る人を素直にハッピーにさせてくれる。プライヴェートもさらけ出し、ポップスターにも悩みはあるのよと、オーディエンスに近い感覚が現代のスーパースターのあり方なのだ。
 楽曲も親しみやすく耳に残り、カラオケに行ったらみんながシンガロングで歌いたくなるつぼを抑えている。ハーフタイムショーの1曲目に演奏した「ロアー」は聴いているとヴォリュームを上げたくなってしまう。映画で流れた「ファイア・ワークス」も、ヘリコプターを爆破するシーンに使われたが、周りの雰囲気を壊すことなく、シーンにぴったりとはまっていた。実際、彼女の曲は人の生活のなかに入って来ても邪魔しない。そこが現代的で彼女が支持されている理由なのだろう。

 ファイア・ワークスと言えば、スーパーボウルの1日前の1月31日に、ウィリアムスバーグの北の川沿いで大規模な火災があった。N11とケントアベニューの4F建ての貯蔵施設シティ・ストレッジから発炎し、200人以上の消防士が出動し、寒い中消火にあたった(制服に氷柱がしたたっていた)。一駅離れた著者の家の周りさえも灰が飛んできたり、こげた臭いが充満し、窓を開けることが出来ない。周辺の住人お店やレストランは、避難したり休店したり、暴風雪よりも大きい被害を被っている。完全鎮火には1週間ほどかかる見込みだそうだ。ドミノ・シュガー・ビルディングなど周辺ビル/コンドミニアムの契約書類が保管されていたのだが、無残にも焼かれてしまった。ここは、デス・バイ・オーディオやグラスランズなどの音楽会場を閉店に追いやった、ヴァイス・オフィスの真近くでもある。実はあまり報道されていないが同じ頃、グリーン・ポイントでも火災があったのだが、このふたつの火災の関係は? ウィリアムバーグの家賃高騰に対する嫌がらせだと言う噂も飛び交っているのだけれど……。

 スーパーボウルの日、誰もが家でピザやバッファローウィングを食べながらテレビを見ると思われたが、著者がスタジオをシェアしているバンドは「今日ショーがあるんだ」と雪のなか揚々と出て行った。雪+スーパーボウルという悪条件で「人は来るの~?」と思われたが、「友だちがたくさん来てくれた」とご機嫌に話してくれた。彼らは20代前半で、「スーパーボウルなんて、ピザしか食べない年寄りの見る物」と思っているらしい。
 彼らが演奏したのは、トラッシュ・バーという、ウィリアムスバーグの音楽会場。こちらも他の会場と同じく、リースが継続できず(家賃が4倍(!)になると言われたらしい)、3月の閉店が決まった。閉店後は、ブッシュウィックに移る予定らしいが、既にブッシュウィックはヒップスターの聖地、どうなることやら。
 また、元ウィリアムスバーグにあったガラパゴスという音楽会場は、ダンボで数年営業した後、来年ニューヨークを飛び出し、デトロイトに移ることを決めた。NYの小さなアパートメントと同じ値段で、デトロイトでは10,000スクエアフィートの湖つきの会場が手に入るらしい。ガラパゴスはウィリアムスバーグ時代は、ガラス張りの外から見える会場にある湖がトレードマークだった。ダンボに移った時点で、会場に湖なんて夢のまた夢と忘れられていたが、デトロイトで初心に戻るのだろう。ゴーストタウンと言われるデトロイトだが、そろそろ移住してもいいかもと思えるようになったのは新たな希望だ。アメリカの地方都市がこれからなるべき姿なのかもしれない。もちろんいまもNYは特別で、人が集まりたい場所であることは否定できない。が、ウィリアムスバーグの家賃問題は深刻極まりないし、火事も起こる(!)。地価問題と戦いながら、バンドは残されたところで演奏して行く。露出されなければ意味がないが、転がっているチャンスを、掴むことも可能な場所だから……。

スーパーボウル
https://www.nfl.com/superbowl/49
https://www.billboard.com/articles/events/super-bowl-2015/6458199/katy-perry-super-bowl-xlix-halftime-show-review

ウィリアムバーグの火事
https://bedfordandbowery.com/2015/01/photos-six-alarm-fire-on-williamsburg-waterfront/
https://bedfordandbowery.com/2015/02/photos-epic-warehouse-fire-enters-day-2-in-williamsburg/

トラッシュバー
https://www.thetrashbar.com

ガラパゴス
https://www.galapagosartspace.com

 さて、ブレイディみかこ氏による本作レヴューはご覧いただいているだろうか。いよいよこの週末から公開となる『ニック・ケイヴ/20,000デイズ・オン・アース』、ele-kingではご招待枠をいただいたので、観覧を決めかねていたかたへチケットをプレゼントいたします!

・2月8日(日)24:00を締切としてご応募下さった方から抽選で3組6名様に、2月10日(火)着で手配させていただきます
・チケットは新宿シネマカリテさんのみで有効です
・下記要綱にしたがってご応募ください

■ご応募方法
・件名を「ニック・ケイヴ チケットプレゼント応募」として、info@ele-king.netまでご応募ください(Eメールのみの受付となります)
・本文には「郵便番号/ご住所/お名前(代表者)/枚数」をお書きください
・当選された方には2月9日(月)中にチケットの発送と、「発送済み」のご連絡を差し上げます

※ご応募メールは抽選後破棄させていただき、個人情報につきましても本件以外の目的に使用させていただくことはございません。


映画情報:https://nickcave-movie.com/
新宿シネマカリテ:https://qualite.musashino-k.jp/
※本チケットプレゼントについてのお問い合わせは劇場では受付できません

Sam Lee & Friends - ele-king

 とくに21世紀に入ってからずいぶんたくさんの移民や難民を描いた映画を観ることになったが、紙版『ele-king vol.14』で三田さんと対談したときに気づいたのは自分のなかでエルマンノ・オルミの『楽園からの旅人』(2011)が尾を引いているということだった。映画ではイタリアのある街で取り壊されかかっている教会にアフリカ移民たちが逃げ込んで来る数日間が描かれていたが、すなわちその後日談はわからない。オルミは、未来も見えないまま流浪する運命にいる人びとがいまも現に存在するという当たり前の事実を提示した上で、その教会で繰り広げられる対話のなかでいくつかの宗教の対立と和解の可能性を示唆してみせていた。それは現在世界で起こっていることを考えると、より重くのしかかってくるようである……。

 「このナポレオンを巡るバラッドにおける、“イングランドとスコットランドの団結”と“ロシアでの戦争”というテーマは、今起きていることを予言していたかのようで、僕に強く訴えかけた。まるで歌ってくれと言わんばかりに。(中略)ここでは、英国のフォークソングと東欧の朗詠唱法が合流する接点を探索し、ロシアにある僕のルーツ、そして、時代と場所の感覚のタイムレスな対話を掘り下げている。」

 というのは、サム・リーのセカンド・アルバムとなる『ザ・フェイド・イン・タイム』収録曲“ボニー・バンチ・オブ・ローゼズ”に寄せられたリー本人の解説だが、それを読みながら、そして本作を聴きながら僕は『楽園からの旅人』の移民たちの顔を思い出していた。いや、サム・リーがあくまで英国トラヴェラーズの伝承歌のコレクターであることは承知しているし、イタリアの巨匠とは背景も立場もまったく異なるのだが、しかしさまよう人びとのなかに文学性や物語性を見出していることに共通のものを覚えたのである。
 そして、サム・リーの場合ここで本人が言うように「歌ってくれ」との啓示めいたものを感じている。彼は伝承歌がどうして「いま」歌わなければならないのか、ということに対して非常に雄弁だ。各曲の解説を惜しまず、また、その歌が「誰」から教えられたものか(すなわちルーツがどこにあるのか)を明示する姿勢は、リーの優れた研究者としての側面をよく示している。

 しかしながら、サム・リーは編集者として適材適所にひとを配置していくのではなく、あくまでも自分を歌の中心に置こうとする。いわば伝承歌にこめられた物語を自分に憑依させることでもう一度語り直そうとしているのだ。それは絶大な評価を受けたデビュー作『グラウンド・オブ・イッツ・オウン』から貫かれた態度だが、この2作めでは音響面において現代性を高めることに腐心しているように聞こえる。オープニング、“ブライン家のジョニー”がいきなりハイライトで、ミニマルに叩かれるパーカッションのリピートとそこで左右から飛んでくるシャープなブラスとエレクトロニクスの応酬は、実験的なエレクトロニカを聴く体験とそう遠くないものである。あるいは、“ボニー・バンチ・オブ・ローゼズ”における時空を歪ませるようなサンプリング使いと、妖艶に響く弦楽器と丸く響く打楽器のサイケデリア。かと思えば“グレゴリー卿”や“ウィリーO”では地鳴りのような弦の低音が鳴り響き、いっぽうで“愛しのモリー”ではホーリーなゴスペルが降り注ぐ。ルーツ音楽のモダナイズというとこの10年のトレンドとして繰り返されたフレーズだが、本作においてはその洗練の度合いがずば抜けている。ブライアン・イーノ界隈の人脈であるレオ・エイブラハムが関わっていることも大きいのだろう、たんに伝承を発掘するという「崇高さ」にあぐらをかかず、現在に通用する録音物に仕上げようという気迫が感じられるのである。
 そしてまた、若き日のマチュー・アマルリックのような青年の面影が抜けないサム・リーのジャケット写真からは想像もつかないほどの、彼の深い歌声が聴ける。曖昧な音階をしかし自在に行き来する“フェニックス島”での歌唱など、老ジプシー・シンガーによるものだと言われても信じてしまいそうだ。クロージングとなる“苔むした家”は陶酔的なほど美しくシンプルなピアノ・バラッドで、彼は確実にこの歌が生まれたというアイルランドの風景を見ている。研究だけでは飽き足らず、その歌が立ち上げる感情や肌触りを再現することへの情熱を惜しまないシンガーだ。

 そうだ、このアルバムに横溢するのは情熱である。サム・リーは現在、ブリテン諸島のものに限らずヨーロッパ大陸のジプシー音楽の収集にも取り組みはじめているという。だから場所を特定しない流浪者に想いを馳せるような音楽になっているのだろうし、現代における社会からの逸脱者、その感情を浮かび上がらせているのだろう。かつてのアーティスト志望のミドルクラスの青年は、前作でトラヴェラーズの伝承歌にたどりつき定住したのではなく、まさにライフワーク=流浪のスタートラインに立ったのだ。サム・リーの音楽は見落とされた現実に目を向けさせるような聡明さとともに、魔力的なまでにサイケデリックな引力を持ち合わせている。『ザ・フェイド・イン・タイム』とは逆説的なタイトルで、記憶が時間とともに薄れゆくとしても、感情は歌とともに蘇るのである。
 だからこの文章は、サム・リー本人による“フェニックス島”に寄せられた解説のなかの、力強い言葉で終えたいと思う。

 「この曲は物語性を失ってしまってはいるが、僕はずっと、文化の耐久力と、その人が受け継いだ文化的生得権として、支配的な社会の窮屈な生き方に束縛されずに独立した生活を送る権利を主張するというテーマゆえに、今まで生き延びたのだと信じてきた。それはジプシーとトラヴェラーたちが常時直面している試練であり、この問題について歌い、支持の意を表明することには価値がある。」

(引用は国内盤に寄せられたサム・リー本人の解説による)

Dub Syndicate - ele-king

 2014年はレゲエ・ファンにとって悲しみの1年だった。ホープトン・ルイス(歌手)、ジョン・ホルト(歌手)、フィリップ・スマート(ダブ・エンジニア/プロデューサー)、ウェイン・スミス(歌手)、バニー・ラグス(サード・ワールド)が死んで、スタイル・スコット(ドラマー)は10月に殺害された。58才だった。
 ジャマイカのスコットは、彼を巻き込んだ残忍な事件の前に、ダブ・シンジケートとして11年ぶりとなるオリジナル・アルバムの録音を終えていた。アルバムには、リー“スクラッチ”ペリー、U-ロイ、バニー・ウェラーといったレゲエの巨匠たちが参加した。ミキシングは、いままでのようにロンドンのエイドリアン・シャーウッドが担当した。こうして、2015年1月、ジャマイカの名ドラマーのひとり、スタイル・スコットの遺作はドイツのレーベルからリリースされた。

 スコットの死は、音楽のシーンにとって大きな喪失に違いないが、しかし彼の遺作は、そうした感傷をさっ引いたところにおいて、思いも寄らぬ悦びをもたらす傑作である。なんてことはない、相変わらぬレゲエ/ダブだ。が、「あれ、こんなに良かったっけ?」と、嬉しい驚きがあった。いちど聴いて、そしてもういちど聴いて、家にいるときに何度も繰り返し聴いている。ホント、気持ちが晴れ晴れとする。

 スタイル・スコットは、1970年代後半、クリエイション・レベルやルーツ・ラディックスといったバンドのドラマーとして頭角を表している。前者はルーツ・レゲエ・バンド、後者はダンスホール・スタイルへの橋渡し的なバンドだった。また、クリエイション・レベルがエイドリアン・シャーウッドと巡り会ったことで、スコットはザ・スリッツや〈ON-U〉レーベルと関わりを持つようになった。シャーウッドとスコットのふたりのパートナーシップは、1980年代の〈ON-U〉の音楽の骨格となった。ダブ・シンジケートもそのなかで生まれている。
 そんなわけで、スコットは、かたや〈Greensleeves〉で、かたや〈ON-U〉で、あるいはその他さまざまなレーベルの作品でドラムを叩いている。レゲエ・ファンであれ、パンクであれ、1970年代後半から1980年代前にかけてのスコットのドラミングを聴いてない者はいないだろう。

 ダブ・シンジケートの作品は、バンドがジャマイカで録音した素材を、ロンドンでシャーウッドがミックスしたものである。クリエイション・レベルの名作『スターシップ・アフリカ』(1980年)を聴けばわかるように、シャーウッドのダブ・ミキシングは、よりテクノロジカルなアプローチを具現化している。とくに初期は極端な電気処理を多用した。自家製のミキサーを使ったキング・タビーともポンコツを再利用したリー・ペリーとも違って、UKにはまともな機材があった。そうした環境面もこのプロジェクトの個性に結びついている。
 テクノ・ファンに〈ON-U〉好きが多いのは、エレクトロニックであることもさることながら、スコットが創出するリディムのミニマリズムが魅力的なグルーヴを有しているからだろう。オリジナル・アルバムとしては11年ぶりに録音された『ハード・フード』でも、彼のリディムは冴えに冴えている……いや、それどころではない。ひょっとしたら本作は、ダブ・シンジケートの数ある作品のなかでもベストなんじゃないかと思ってしまうほどの輝きがある。

 シャーウッドが情報量を削ぎ落としたストイックなミキシングに徹しているのが良い。ダブ・シンジケートのトレードマークである派手な電子効果音は、極力抑えられている。ときおり音響は揺らめくものの、基本的には心地良いリズムがたんたんと続いている。だだっ広い空間のなかを鼓動がこだまして、彼方で帚星が流れる。1曲目の、ほとんどドラム&ベースの展開を聴いたらファンは泣くかもしれないけれど、アルバムのなかに感傷的な要素はない。“Jah Wise”の透明な広がり、“Bless My Soul”の惚れ惚れとする美しさ、“Love Addis Ababa”の陶酔的な美しさ……などなど、「らしさ」は円熟の域に達している。好むと好まざるとに関わらず、人生は永遠にぶっ飛んではいられない。
 もっともスタイル・スコットその人の人生は、アルバムのタイトルが暗示するように「ハード(厳しい)」なものだったのだろう。しかし、僕がこの作品を推薦する理由は、この作品がハードだった彼の人生を反映しているからではない。むしろアルバムには、温かさ、優しさのようなものが滲み出ているからである。自分の内側から光が灯るように。

■5 classics of Dub Syndicate‎

The Dub Syndicate‎
The Pounding System (Ambience In Dub)

On-U Sound  1982

Dub Syndicate Featuring Bim Sherman & Akabu
Live At The T+C

On-U Sound  1993

Lee "Scratch" Perry & Dub Syndicate
Time Boom X De Devil Dead

On-U Sound  1987

Dub Syndicate
Stoned Immaculate

On-U Sound  1991

Dub Syndicate
Strike The Balance

On-U Sound  1989

interview with NRQ - ele-king

 インディ、ライヴハウス、なんでもいいけれども東京のシーンをみまわしたとき、ことベースにかぎれば、近年メキメキ頭角を現してきているのが服部将典であることに異論はあるまい。いや、べつにベースにかぎらなくともよいのであります。アコースティックと(NRQでは出番はないけれども)エレクトリックを弾きわけ、ピチカットにしろアルコ(弓)にせよ、ジャズを出自とするプレイヤーともちがう価値観を演奏に投影する服部の存在は、2010年代のロックなる分野を固定化したエンタメと歴史をひきうけたエクレクティシズムとに二分化するなら、まさに後者を体言するものではないか。『オールド・ゴースト・タウン』所収の“魚の午前”“余分な人”、『のーまんずらんど』の“合間のワルツ”に“春江”、このたびの『ワズ ヒア』の“ショーチャン”といった味わい深い楽曲の作曲者でもある服部将典と、牧野琢磨宅の2階でお話しした。

ギターにはソロがあるじゃないですか。その頃(ベースをはじめた高校生の頃)はそういうのがない、ひたすら同じ役割がつづく感じが居心地よかったんですね。


NRQ - ワズ ヒア
Pヴァイン

RockJazz

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服部さんは最初からベーシスト志望だったんですか?

服部:最初はエレクトーンで、それが小学生の頃。自発的に選んだ楽器はギターです。高校時代はイングヴェイ・マルムスティーンを聴いて早弾きの練習をしていました。

それは……意外ですね(笑)。

服部:そうですか?

ハードロックやへヴィメタルはだれしも通る道かもしれないですが。それってスキャロップ加工のストラトでハーモニックマイナー・スケールを弾きまくるみたいなのですよね?

服部:そうそう(苦笑)。あとはハロウィンとかクイーンとか。

総じていえるのは、メロディが強い音楽が好きだったということ?

服部:そうかもしれません。そのあとにパンテラの衝撃があって、メロディがないリズムだけの音楽を聴くようになったんです。

反動ですか? パンテラというと90年代なかばですね。

服部:高校生の頃だからそうです。そのときはまだベースを弾いていませんでした。弾きだしたのは高校3年ですから。バンド組むことになって、よくあるパターンですけど、ベーシストがいないから、やってといわれて、じゃあやろうかな、と。それでギターや鍵盤に戻ることなくいまにいたります。ギターにはソロがあるじゃないですか。その頃はそういうのがない、ひたすら同じ役割がつづく感じが居心地よかったんですね。

アコベをはじめたのは大学生になってから?

服部:大学4年ですね。

そんなに早いわけではないですよね。

服部:けっこう遅いと思います。

アコースティック・ベースはだれかに憧れてはじめたんですか?

服部:日本のハードコアにザ・ルーツというバンドがいて、最初はそのバンドに憧れてはじめたんですね。サイレント・アップライトでバチバチ、スラップするスタイルですね。

ジャズではないんですね。

服部:ぜんぜん。でも(アコースティック・ベースを)買うと、あいつ持ってんぞということで、そのころ軽音楽部に入っていたので、いろんなバンドで弾くようになったんですね。その軽音楽部にいた連中はいまも音楽活動をしていて、角田波健太はひとつ下でその代の人らがわりとしっかりオリジナルをつくってライヴハウスで活動していて、そのへんの人たちはいまでもいっしょにやったりしますね。

その頃は曲もつくってましたか?

服部:曲をつくるようになったのは東京に出てきてからです。たぶん最初につくったのは、僕は名古屋の芸大だったんですけど、その同窓生で映画をつくっている人に音楽をつけてほしいといわれたからなんです。その人とはそんなに親しくはなかったんですけど(笑)、仲介されてやることになった。曲なんかしっかりつくったことはなかったんですけど、まあやってみようかなって。曲といっても映画の音楽なので、断片的なフレーズというか雰囲気づくりみたいなものでしたけどね。

曲はベースでつくったんですか?

服部:ベースも使いつつ、家でタンバリンを重ねたり小物を寄せ集めたりしてつくりました。

最初が劇伴だったというのは考えようによっては象徴的ですね。

服部:そうかもしんないですね。

自我を解放するより、対象に寄り添う。

服部:それはずっとあるかもしれないですね。


(曲は)忘れた頃に、これはいいなくらいのものを引っ張ってくることが多いですね。そうやって自己対話をするというか時間のフィルターにかけないと怖いのかもしれない。僕は怖がりなんですよ。

NRQでは服部さんはアルバムごとに1~2曲提供されているじゃないですか? NRQに曲を書いているときも服部さんのなかにはNRQ像がしっかりあって、そのなかで曲をどうするかと考えるんですか?

服部:曲を僕は鼻歌でつくるんですよ。そこに適当にギターを重ねてみたり、でも元が鼻歌なので、それを歌っていたときは、だれとやるための音楽とは考えていないですよね。今回の“ショーチャン”はちょっと考えましたけどね。新曲が出そろったときに今回のアルバムはけっこうしっかりしているなと思って、バカみたいな曲をやりたいなと思って、その点は意識しました。

クレジットに「作曲」のほか「アレンジ=編曲」とあるのは、牧野くんによれば服部さんは総譜を書いてきた、ということでしたが。

服部:そうなんですかね(笑)?

自分のことじゃない(笑)。

服部:(笑)いままでは中尾さんや吉田くんに主メロ以外を譜面に書いてこう弾いて、とお願いするようなことはなかったので、試しにやってみたんです。それで「アレンジ」のクレジットがあると思うんですけど、「アレンジ」といっても全体像が頭のなかにあったというよりは後づけなんですよ。何回かライヴでやって、あくまでそれをふまえたものなんですね。それにギターについてはとくに指定もなかったんですよ。吉田くんも牧野くんもそういったやり方をすることがあるので、彼らの曲にも「アレンジ」とクレジットしてもいいと思うんですけどね。

曲はそれぞれ作曲者が主導権を持つということなんですね。

服部:いちおうそうなっています。それはミックスまでふくめてそうです。

私は服部さんの曲はアルバムのなかでいいアクセントになっていると思うんです。『のーまんずらんど』の三拍子の曲(“合間のワルツ”)や“春江”などはアルバムに多様性をもたせつつ、全体を〆ている。服部さんはそういう全体の流れというか、アルバムのなかでどういう曲がほしいかということを考えてつくるのかなと思っていました。

服部:後出しではあります。曲の断片はいろいろあるので、つくっている段階ではなにも考えていないんですが、どの断片を使おうか、NRQではこれがいいかなというのがだんだんわかってくるんですね。

断片のストックはいっぱいあるんですか?

服部:単に断片という意味ではいっぱいあります。それをパソコンにデータでとりこんだり、携帯に(鼻歌で)吹きこんだりしますね。ベースで弾いたのもあるんですけどね。それも楽器で弾いているだけで鼻歌みたいなものです。それらをたまに聴き返すんです。寝かせないと自分はダメなんですね。これできた、といってポンと出す自信はない。忘れた頃に、これはいいなくらいのものを引っ張ってくることが多いですね。そうやって自己対話をするというか時間のフィルターにかけないと怖いのかもしれない。僕は怖がりなんですよ。

人にどう捉えられるかということですか?

服部:それもありますし、自分の表現がどう評価されるかというのは不安ですよ。

服部さんはかなりいろんな方と共演されてきていますが、それでもそうなんですか?

服部:メチャメチャあります。ライヴ終わった後とか、毎回怖いですもん。

それだと音盤を出すには相当な決意が必要になる気がしますが。

服部:逆にそれがないのはバンドだからです。『オールド・ゴースト・タウン』はまだ個人が強い気がして、僕はいまだにあまり聴けないんです。自分の演奏に耳がいって、怖くて聴けない。『のーまんらずらんど』になるとそれが消えて、録音が終わってすぐにリスナーとして聴ける感じがあった。客観的に聴けるので、自分のなかでいいなという判断がついていて、どう評価されようが聴き手の問題でしかなくなるんです。

『ワズ ヒア』はどうでした?

服部:『のーまんずらんど』と同じでしたね。

今回は録音の関係で低音の出も強いですよね。各楽器が独立してベースも前に出てきた。あらためて、オーソドックスでありながらノートの選び方やフレーズのつくり方に服部さんならではのものがあると思いました。

服部:僕もそれなりに上手くなっているんじゃないかなと思うこともあるんですけど、ふとむかしの録音を聴くと想像より下手じゃないと思うこともあるんです(笑)。となるとあまり成長していないんじゃないかといううれしいのか悲しいのかわからなくなることもあるんですよ(笑)。

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僕は普通になるように勉強しているところもあるんです。普通になるというか、いちばん安定するところにベースの音を置きたいと思うんです。

服部さんはNRQはじめ、穂高亜希子さんエミ・マイヤーさん、多数のセッションに参加されていますが、そうやって勉強している意識は──

服部:もちろんあります。さっき松村さんにノートの選び方がおもしろいといっていただきましたけど、僕は普通になるように勉強しているところもあるんです。普通になるというか、いちばん安定するところにベースの音を置きたいと思うんです。それが足りない意識はずっとあるんです。音大を出ているわけじゃないし、理論的な下支えがあるわけではない。理屈じゃなくて反射的にいま鳴っている音にもっとも安定する場所に音を置けて、でもそのうえであえてこっちをやるんだというのをやりたい気持ちがあるんです。それもたぶん自分の演奏に感じる怖さとかぶる部分もあると思うんです。直感だけで自分はこうだとがんがん進んでいけるタフは僕にはちょっとない。

それはベースという楽器の役割と重なるものですか?

服部:そうですね(とやや留保するように)。

たとえば、エミ・マイヤーさんと永井聖一さんの『エミ・マイヤーと永井聖一』はJポップですよね。その場合、Jポップの枠内でもっとも安定するフレーズを探すということですか。

服部:あのアルバムのレコーディングはけっこう楽しかったんですよ。普段やらない、でもJポップってふだん何気なく耳にするじゃないですか。聴いていたけどやってこなかった音楽をできる楽しさ、というか、いわれてみれば、ちょっとしたコピー感覚みたいなものが、それがいいか悪いかはさておき、あったかもしれません。

アコベとエレベだと服部さんは自分はどちらの演奏者だと思いますか?

服部:いまはアコベですね。

このふたつはともにベースですが、じつはまったくちがう楽器だと思うんです。それを両立させるのはたいへんじゃないですか?

服部:たいへんです――けど考えないようにしています(笑)。たいへんだと思うとやりたくなくなっちゃう。流れでエレキ・ベースをまた弾くことになったので、再開した年はけっこう後悔していたんですよ。そう考え出すとどんどんネガティヴになっていっちゃって(笑)、どっちも放り出したくなったりもしたんですが、いまはどっちも楽しいし、あまり考えないようにしています。ウッド・ベースにはウッド・ベースならではの雰囲気があるじゃないですか?
 でもエレキ・ベースはものすごく剥き出しだと思うんです。エレキ・ベースには空気感がないぶんフレーズが問われる。そこがすごくおもしろくて、その経験がウッド・ベースにフィードバックされているところはあります。いまはそれが相乗効果になっていると思うんです。

服部さんのいまの当面の目標はありますか? NRQでの活動にかぎらず。

服部:自分の作品はつくりたいとは思いますね。純粋に自分の作品はまだ出したことがないので。

どういう形態でつくります?

服部:バンド形式ではないでしょうね。

ベース・ソロですか、バール・フィリップスみたいな?

服部:そういうのはたぶんできない(笑)。曲をいっぱいつくって、ひとりでできるのを選んでそれをちゃんとやりたいとは思います。

NRQのアルバムに採用している各人の曲数ってだいたい同じじゃないですか? 牧野くんがいちばん多くて、吉田さん服部さんの順ですよね。ルールでもあるんですか?

服部:そんなことはないですよ(笑)。がんばりしだいですけど(笑)。曲数を増やすとか、そういった作戦は僕のなかであまり練らないようにしているんですよ、あくまで流れのなかでやっていこうと思っています。


自分は芸大に行っていて最近はあまりないですけど、芸術やアートに対するアレルギーがあったんです。僕はアーティストより職人になりたい気持ちが強いんです。

いまは演劇の劇伴の仕事もやられているんですよね。

服部:さほど数があるわけじゃないですけどね。

新たに進出したい分野はありますか?

服部:仕事ということでいえば、もっとギャラがいい仕事をしたいとは思いますけど(笑)。

そんなナマナマしい話してんじゃないですよ(笑)。服部さんはどんな仕事でも断らない?

服部:基本的に断らないです。

職業意識ということですか?

服部:職人に対する憧れのようなものです。自分は芸大に行っていて、最近はあまりないですけど、芸術やアートに対するアレルギーがあったんです。僕はアーティストより職人になりたい気持ちが強いんです。

職人的なベーシストというだれを思い出しますか?

服部:僕のなかでは松永(孝義)さん、あとは渡辺等さん。

松永さんには影響は受けましたか?

服部:受けていると思います。どこがといわれるとわからないですけど。

松永さんも渡辺さんもタテヨコどちらも弾きますね。ああいうふうになりたいというより彼らの職人的な佇まいに憧れがある?

服部:そうです。

演奏者にはイノヴェーションへの憧れもあると思うんです。ベースだとジャコ・パストリアスのようになりたい人はいっぱいいると思うんです。服部さんにはそういった考えは?

服部:それはまったくないです。職人的にしっかり下支えして、そのうえで自分のやりたい小さい作品ができたらいいと思うんです。自分の作品は職人性とは関係のないものですね。まだつくっていないのでわからないですけど。

この3作、7年くらいNRQを続けて、中尾さんとのリズム隊はかなりこなれてきたと思いますが、そもそもNRQにはリズム隊という概念はあるのでしょうか?

服部:その考えはないかもしれないですね。全体のアンサンブルはありますけど、リズムと上物の関係性はないかもしれない。ほかのバンドでやるときは、けっこうドラムのバスドラを意識して合うように探っていくんですけど、NRQではそういった作業はしたことはないですね。いまいわれるまでまったく無意識だったんですが。

演奏するときはなにをいちばん聴いていますか? NRQの演奏の中心になっているものということですが。

服部:完全に牧野くんのギターだと思います。ギターはリズム、メロディ、ハーモニー全部の要素をもっていて全体の軸になっているということですね。牧野くんはギターでベースラインを弾くこともあるので、彼のギターとの兼ね合いは考えますね。

それでやりにくいとかやりやすいということも――

服部:いや、NRQはやりやすいです。でもあまり自由は感じない。ベースラインをきょうはちょっと変えてみようとか、そういう選択肢はNRQでは僕はあまり感じないです。思うに、牧野くんのギターには弾いていなくてもベースラインが決まってくる感じがするんです。吉田くんや中尾さんがどう考えているかはわかりませんし、曲にもよりますけど、僕にとってはわりと固定している気がします。

でもアルバムを追うごとに自由度は高まっている気もしますね。

服部:それは感じます。“日の戯れ”とかはとくにそうですよね。あと“門番のあらまし”は自分的には新しいというか3枚めならではだと思います。NRQのアンサンブル法があるわけじゃないですけど、それに則ってそこにラテンを加えてみたような、ちょっと余裕というか遊び心が出る余地ができた気がします。

その変化がNRQの成熟を物語っているのかもしれませんね。そのなかで私は服部さんの曲ももっと聴きたいので、次も楽しみにします。

服部:精進します(笑)。

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