![]() 吉田ヨウヘイgroup Smart Citizen Pヴァイン |
喉に痛みをおぼえ医者にかかったところ逆流性食道炎のおそれがあるといわれたとき私は若さをうしなった。デュラスの『愛人(ラマン)』の「わたし」が十八歳で年老いたのに較べれば上出来といえるかいえないかわからないがともあれ、好青年が好中年になったと嘯いていたのが名実ともに中高年になったのである。さいきんライヴハウスにとんとご沙汰しているのはそのせいかもしれないと疑ったのであるが、ライヴハウスに行かなければ若手のバンドをまっさきに発見する機会もよろこびもない。
吉田ヨウヘイgroupをはじめて知ったときも、最初私はジャズのコンボだと思った。〈ピットイン〉の昼の部から叩きあげていこうというような。はたしてそれは彼らの多様な音楽的要素の一部をとればあたらずいえども遠からずであった。バンドをはじめるにあたりラウンジ・リザーズ――この名前を聴いたのはずいぶんひさしぶりだった。というのも、過去10年、いや20年か、主流派から前衛にいたるジャズの古典(原理)回帰によってもっともあおりを食ったのはロフト・ジャズの折衷主義だったと私は思うからである――を模範にしたというだけあって、複数の因子を同居させ異化効果をうみながらそれに違和感をおぼえさせない手腕は、インディ・シーンのなかでも頭ひとつ抜けている。ロックでありジャズであり、ラウンジと室内楽の質感をもち、リーダーであり作詞作曲を一手にひきうける吉田ヨウヘイの歌唱は飾らないものだが女声コーラスが過ぎることでそれは色彩感を増す。そして和製ダーティ・プロジェクターズの異名をとるにいたったファースト『From Now On』につづく『Smart Citizen』は軋みと滲みぶくみのピアノ曲 “窓からは光が差してきた”ではじまり、フルートの前奏が吹き抜ける“ブルーヴァード”の巧緻な組織性を経て、どことなく和的な“アワーミュージック”、エキゾチックなリフレインの“新世界”など9曲を一気に駆け抜けていく。西田修大のギターはいたるところで利いており榎庸介のサックスをはじめ管は曲に厚みをもたらし、盟友・森は生きているの面々を招いた編曲/プロデュースは凝っている。サティとかキンクリとかイースタン・ユース(!)とか、かつて親しんだ音楽を彼の背後に聴くのは加齢のせいばかりとはいえないが、吉田ヨウヘイgroupの音楽は私の胃酸のように逆流性でもなく、音楽の遺産のように過去に縛られていないが、たんに未来を指向しているというほどの自我も幸福感も感傷もない。ただいまがあり音楽があるだろう。

■吉田ヨウヘイgroup
2012年に結成、ヴォーカル&ギター、アルト・サックスを担当する吉田ヨウヘイをリーダーとするグループ。ギター、ベース、ドラムのほか、テナー・サックス、キーボード、フルート、ファゴットを兼任するメンバーを含む総勢8名の大所帯バンド。2013年に初の全国流通盤CD『From Now On』をリリース、最新作は『Smart Citizen』。吉田ヨウヘイ、西田修大、榎庸介、星力斗、池田若菜、内藤彩、高橋“TJ”恭平、reddamが参加。
とっくにやられていてもいいはずの音楽なのにフォーマットが固定化しているせいでやられていないというイメージ。それを掘りだそうという感じです。 (吉田ヨウヘイ)
■私ははじめてお会いするので、バンドのなりたちから教えてください。
吉田:僕は2年前まで会社員だったんです。そのときはギターの西田くんとだけいっしょだったんですけど、音楽を真剣にやりたいと思って会社を辞めたんです。
■それは思い切りましたね!
吉田:会社にも「音楽をやります」といって辞めたんです。
■どんなお仕事をされていたんですか?
吉田:出版社で記者をやっていました、IT系のビジネス誌でした。
■会社勤めしながらバンドをつづける選択肢はなかったんですか?
吉田:ホントに忙しいので、たとえば日曜日を空けてその日に何ヶ月前から予定を入れても、その日にトラブルの類があると仕事を優先しないとマズいので、両立するには向かない仕事でした。
■西田さんは昔からの知り合い?
西田修大:僕が大学1年のころに吉田さんは大学院の2年生だったんです。そのときからかわいがってもらっていたんですけど、いっしょにバンドをやろうという話になったのは僕が大学4年のときです。
■吉田ヨウヘイgroupがいまのかたちになってきたのはいつくらいですか?
吉田:メンバーは僕が会社を辞めてからひとりひとり誘っていったんです。サックスの榎も途中で入ったんですけど、僕と彼は同じ先生にサックスを習っていて、サックスがもうひとりほしいと思っていたところで仲良くなったので、声をかけたんです。
■吉田さんはサックスを習いにいったということはジャズから音楽に入ったんですか?
吉田:もとはロックです。ジャズは途中からで、ちょうどONJQが出はじめた時期に好きになって、サックスをはじめたいと思ったんです。
■ONJQというと10年以上前ですね。
吉田:リアルタイムではなかったので聴いたのは7~8年前で、それから2~3年してサックスをはじめたんですね。
■榎さんがサックスをはじめられたのはどういうきっかけだったんです?
榎庸介:音楽を意識的に聴きはじめたのはロックからで、そこから年代をたどってビートルズにいって、ザ・フーにいってブルースにいって、最終的にジャズにいきついて演奏したいと思ったんです。ジャズをやるならフロントでサックスを吹いて、ばりばりアドリブをとりたいと思って。サックスをはじめて、大学のジャズ研でやっているうちに「やっぱり誰かに習わないとダメだ」と思って、いまの先生に習いにいったんです。
■そこで吉田さんに出会った。
吉田:習いはじめたのは同じ時期で、入って3ヶ月くらいで発表会があって、榎とはそこで会ったんです。そこでしか生徒同士が会う機会はないんですね。
■吉田さんはギターは以前からされていたんですよね?
吉田:ギターは中学校からずっとやっていました。
■ギターとサックスはまったくちがう楽器ですよね。あまり兼任することはないと思うんですが、なぜサックスだったんですか?
吉田:ONJQを聴いたのと、ラウンジ・リザーズの3枚め(『ヴォイス・オブ・チャンク(Voice Of Chunk)』)にマーク・リボーが参加しているんですけど、それを聴いてびっくりしたんです。ジョン・ルーリーはサックス奏者ですけど、ギタリスト的な感性でサックスを操っている音楽だと思ったんです。
■そうかもしれない。
吉田:バンドをやるにあたり、新しいことをやるためにはギターの新しい方法というか道筋を見つけなければいけないと思ったんですけど――
■新しい方法というのは、ベイリー的な、あるいはフレッド・フリス的な、ギターという楽器をめぐる方法論の更新ということですか?
吉田:そうです。でもギタリストの感性でサックスを使ったら新しいものが見えてくるんじゃないかと思って、ラウンジ・リザーズの3枚めの音楽性を基本に考えたということと、ONJQが好きになったので、だったらサックスをがんばれるんじゃないかなということですね。
■では吉田さんはギターによる作曲とサックスによる作曲、器楽ごとに作曲の方法がちがうと考えていたということですか?
吉田:そうです。ロックにはギタリストが多いしギタリスト的な感性でつくられている音楽だと、ギターをやっているからこそ思うことが多かったんです。サックス奏者のひとがロックをやろうとするのとギター奏者がサックスを演奏してロックをやるのとでは、けっこうちがうだろうなという思いがありました。
■いろんな楽器を入れることで音楽の可能性の幅を広げていきたかった?
吉田:サックスとかフルートとか管でロックをやるだけでも、聴いたことがない音楽をつくるためのハードルは下がると思いました。可能性を広げるというより、とっくにやられていてもいいはずの音楽なのにフォーマットが固定化しているせいでやられていないというイメージ。それを掘りだそうという感じです。
■とはいえ大所帯になるとバンドの機動力は鈍りますよね。せっかく会社辞めて動きやすくなったのに、メンバー全員に電話して予定を立てるのは大変だったんじゃないですか?
吉田:最初はぜんぜんうまくいかなかったですけど。でもけっこうまじめなひとがそろったというか、時間をともにするうちに仲良くなったというか、そういった感じだったんですね。
■ほかのメンバーの方もたまたま知り会ったんですか?
吉田:ドラムの高橋(‘TJ’恭平)くんだけは以前に対バンして、憧れて声をかけたという経緯でして。事情はそれぞれちがうんですけど、ひとりひとり知り合って誘いました。
■いまのメンバーにおちついたのは――
吉田:全員がそろったのは今年の1月、レコーディングの2週間前ですね。
■吉田ヨウヘイgroupとリーダー名を冠したバンド名にしたのはジャズ的な習わしですか。
吉田:それもあったんですけど、仮でつけたのがそのまま残ったのが大きいです。仕事を辞めるタイミングでそれまでやっていたバンドもやめて、このバンドをたちあげたので、とりあえず名乗っておいて時期が来たら変えようと思っていたんですけど。
西田:もともとはソロでしたから。イメージ的には吉田さんがソロをやるっていうの(で)に俺がギターを弾きにいく、という感じに近かったです。
■おふたりともほかのバンドにも参加しているんですか?
榎:固定して活動してるバンドはないんですけど、話が来たらやるかという感じで片足つっこんでいるバンドはいくつかあります。
■西田さんは?
西田:俺はこのバンドだけですね。あとよしむらひらくのサポートをずっとやっています。
■ラウンジ・リザーズの話がありましたけど、彼らのような音楽をやろうと思っていたわけではないですよね?
吉田:でもそんな感じでしたよ。
西田:あったね。
■彼らは80年代のロフト・ジャズのバンドで、いまの20代にはうけなさそうな気がするんですが。
吉田:3枚めが好きなのはめずらしいかもしれませんが、ファースト(『ザ・ラウンジ・リザーズ』)なんかだと菊地(成孔)さんをはじめ、ディスクガイドでよく紹介されていることもあって、わりと知られてると思います。ファーストはけっこうジャズだと思うので、僕らはあそこまでのものは想定していなかったですが、3枚めのジャズかロックかどっちかわからない感は想定していました。
■ほかになにか参考にしたレコードなりミュージシャンなり、あげていただけますか。
吉田:僕はダーティ・プロジェクターズがすごく好きなんですよ。ザ・ナショナルとかベイルートとか、ブルックリンのバンドには好きなのが多いですね。
西田:僕はバトルズ、レッチリ、レッド・ツェッペリンですね。
■名前を聞くだけでオナカいっぱいというか食い合わせが悪そうですが。
西田:好きな音楽はいっぱいあるんですけど、とくにそれらが好きなのはアンサンブルがいけているところです。
■レッチリもそうなんですね。
西田:はい。あのアンサンブルはやはりノリのおもしろさだと思うんです。ジョン・フルシアンテはハネていないけどチャド(・スミス)はハネているとか。単純な熱量と、完成度以前に個々人のプレイヤーが熟達していることで、雑に聴こえるはずのアンサンブルが悪い方向にふれないところが好きですね。
■原稿を読み上げるような説明でしたね(笑)。
西田:(笑)そういうことをごちゃごちゃ考えるタイプなんですよ。
■榎さんは?
榎:僕は菊地さんから好きで、そこからマイルス・デイヴィスに入っていった感じです。マイルスのいろんなスタイルのバンドをちゃんと自分の色でできる、バンドごとにキャラクターはころころ変えるんだけど芯がとおっている、パーソナリティをちゃんと出せるところが好きです。
■どの時期のマイルスがお好きですか?
榎:全部好きなんですよね(笑)。
■『カインド・オブ・ブルー』でも『ドゥ・バップ』でも?
榎:『バース・オブ・クール』から『ドゥ・バップ』まで好きです。逆に時期ごとにちがう気がしないんですよね。
自分が思っているミクロな問題は生活環境が変わっても解決しないし、大きい話でも、PM2.5や異常気象は都市レベルで環境が改善されても避けられない。それでも都市が開発されて、そのなかには幸せなひとや不幸なひとがいっぱいいる。 (吉田ヨウヘイ)
![]() 吉田ヨウヘイgroup Smart Citizen Pヴァイン |
■『Smart Citizen』はヴォーカルとコーラス、アレンジ、ギターのリフレインのつくり方などもおもしろかったです。
西田:“ブールヴァード”ですか?
■“ブールヴァード”もそうですし“新世界”も。あとファゴットとフルートとサックスなどの管の使い方もおもしろかったです。アレンジの主導権は吉田さんですか?
吉田:“アワーミュージック”の管楽器のパートをフルートの子がつくったりだとか、いくつかメンバーに託したところもありますが、基本的に9割方、僕が考えています。
■ホーンも含め譜面を書くんですか?
吉田:打ち込んでそれを譜面にして渡します。
■弦楽器の編曲も吉田さん?
吉田:はい。
■ギター・リフのアイデアも西田さんではなく吉田さんですか?
西田:ファーストの『From Now On』のほうが自分のアレンジが多かったです。今回もアレンジしているところもありますが、ギターのリフレインを考えたのは全部吉田です。
吉田:たとえば“新世界”だと、60年代のジャズのレコードでヴィヴラフォンを早弾きしているのがあって、これをエレキでやるとおもしろいんじゃないかと、西田くんに聴かせました。こういうのつくるよって。
■ある曲を聴いて気に入ったフレーズを管なりギターなりに置き換えることはよくありますか?
吉田:ファーストの曲で、ダーティ・プロジェクターズの曲でベースの裏打ちが恰好いいなと思う曲を、ハイハットの裏打ちに応用したりしたことはありますね。全部ではないけどわりとあるかもしれません。
■1曲目の“窓からは光が差してきた”でピアノの背後にノイズがありますよね。それは楽音だけではなくノイズも自分たちの音楽には含むという意志のあらわれですか?
吉田:僕はジム・オルークがすごく好きなんですが、ポップスにそういったものがもっとあるべきだとはいい曲ができたのでノイズを入れてもおもしろいかなと思っただけで、絶対ノイズ的なものを入れていくぞという強い気持ちはないです。
■アルバムはコンセプトをもとに構築したのでしょうか? それとも曲がたまって自然とこういったかたちをとった?
吉田:曲ができて自然とこうなりました。
■なにがしかのコンセプトがあったわけではなかった?
吉田:そうですね。
■『Smart Citizen』というタイトルの由来を教えてください。
吉田:さいきん、「Smart City」という言葉がよく使われているなと思っていたんです。僕はIT系の記者だったので。
■“Smart City”というのはどういったものですか?
吉田:都市全体の電力使用量を機械で管理して環境配慮型の社会にしようという動きなんです。そういうことを考えているときに、ふと、教育施設などの整った、お金持ちしか住めないような都市に住んだらどうだろうと思ったことがあったんです──いま僕はお金がないので。それで“新世界”の歌詞を書いたんです。自分が思っているミクロな問題は生活環境が変わっても解決しないし、大きい話でも、PM2.5や異常気象は都市レベルで環境が改善されても避けられない。それでも都市が開発されて、そのなかには幸せなひとや不幸なひとがいっぱいいるだろうなと漠然と思ったときに、そういった都市のなかで暮らしているひとを描けば今回のアルバムは成り立つんじゃないかと思いました。一曲から発想して全部通底させた感じです。
■歌詞を書くにあたりそういった前提を置いていたということですか?
吉田:いや、それも後づけです。歌詞については全部主人公がちがっているし、一人称で書いているので自然と生活のいろんな場面をきりとった歌詞になっているかなとは思っています。
■恋愛の歌うんぬんではなくて日常の断片を描きたかった?
吉田:僕は歌詞をつくるのが苦手で、放っておくと誰にもなんにもつっこまれないような歌詞しか書けないんですよ(笑)。ヤバイっていわれないことだけが目的になっていることがあるんです。
■どうしてそうなるの?
吉田:思いを吐露するのが得意じゃないんだと思います。曲を書くひとにはめずらしい、普通のひとなんです(笑)。西田くんとは長いことバンドをやっているので、歌詞については相談していて、どんな事象でも恋愛に絡めて危ない感じを出していこうという話なんかはけっこう前からしていました(笑)。
西田:人間の体温がない歌詞になるんですよ(笑)。だから恋愛にするとなまなましくなって――
吉田:ディテールを膨らませればさらに恋愛っぽさが増すから、もう、そうしようって(笑)。そうしないとなんで書いているのっていわれがちなんですよ。
■でも、言葉でなにかを訴えかけるより情景を描くことでイメージが誘われるところに、私は好感をもちましたよ。
吉田:ありがとうございます。
■そして『Smart Citizen』には、全9曲の関係のなかで浮かびあがるものもあるとも思うんです。曲順も吉田さんが決められたんですか?
吉田:僕が決めたんですけど、ライヴでやってきた曲順とけっこうちかいです。
西田:最終的にこれしかないなという感じでしたよ。
■ライヴを重ねていくうちに吉田ヨウヘイgroupらしさがうまれていったということですか?
吉田:入って1年目のメンバーが多いので、それはまさにそうでした。
■唐突ですが、みなさん何歳ですか?
吉田:僕がみんなより上で32で、西田が今年27。それがふたりいて、あとは23~24歳ですね。
■吉田さんがお兄さん役ですね。
吉田:どちらかといえば西田がお兄さんで僕はお父さんですかね。
西田:さいきんそれがほんとうに定着してきましたね。
■吉田さんのリーダー・バンドは吉田ヨウヘイgroupがはじめてですか?
吉田:過去にもありますよ。
■このバンドでつづけていくという決意をもって会社を辞めたんですもんね。
吉田:でもそれはけっこうゆるいところもあって。彼とやっていたバンドがうまくいけばいいなくらいのつもりで会社に辞めるといったら、辞めるまでの期間でうまくいかなくなったんです。
■どうしてうまくいなかくなったんですか?
西田:いろんな理由があるけれども、いちばんは僕と吉田さんの問題ですね。
吉田:西田くんが曲を書きはじめて、作曲もいけるかもという感じになってきたんです。プレイヤーとしては僕より彼のほうがレベルが上で、自分がバンドを仕切れなくなってきたというか、やりたいことがうまくとおらなくなって、メンバーも僕より彼の意見を聞きたいという状況にもなってきて。それだったら僕ももう一度自分のやりたいことをやりきらないといけないと思ったんです。
■それがどうしてまたいっしょにやることになったんですか?
吉田:僕と彼はすごくちがうと思っていたんです。僕はフォーキーなうたものをやりたくて、西田くんは演奏力があったのでテクニカルな方向にいきたいのだとばかり思っていました。でも、僕がつくる曲で彼がギターを弾かなくなったら、それまでの自分たちの曲はお互いの影響でつくったものだという感覚が強く出てきたんです。
■では吉田ヨウヘイgroupになって、西田さんは離れていた期間があったんですね。
吉田:つくってから半年経って入りました。さっきのリフの話もそうなんですが、僕がつくっている曲にしても、西田の演奏力が計算に入っているから成り立つところもあるんです。自分の創作に切り離せないところで彼とつながっていたことに気づいたので、仲違いしたこともあったんですが、もう一回やろうかという話になったんです。
西田:いまは過去最高に関係がいいですよ。
[[SplitPage]]俺のギターのスタイルは吉田とつくってきたところが大きかったというものあるんです。吉田さんの曲があって、それに要請されてのプレイがあり、逆に俺がこういったギターを弾けるからこういった曲が存在するというところもあり、それが両輪で進んできたのでいっしょにやるのが楽しいんですね。 (西田修大)
![]() 吉田ヨウヘイgroup Smart Citizen Pヴァイン |
■吉田さんは西田さんを当て書きしていたところがあったということですね。
吉田:そうです。西田くんもバンドを辞めて自分で曲を書いたほうがいいと思っていたみたいですが、そういった欲がじつはあまりなかったと気づいたみたいで。ひとの曲で自分が活きるならそれもやりがいがあるんじゃないかというか。
西田:けっきょく前のバンドのころは吉田さんがリーダーで――もちろんいまもそうなんですが、僕はその次にイニシアチブをとるひと、という感じだったんです。そのころは自分がけっこうな役割を担っていると思っていたし、自覚もありました。でも吉田さんがいなくなって自分がリーダーになったときに負う責任とか、作曲にかかる負担とか、逆にそれで得られるものは、想像していたものとはちがっていました。そうした経験があった上でいまのあり方を選択をしたことで、すごく自分の自我が安定したところもあります。あとはやっぱり、俺のギターのスタイルは吉田とつくってきたところが大きかったというのもあるんです。吉田さんの曲があって、それに要請されてのプレイがあり、逆に俺がこういったギターを弾けるからこういった曲が存在するというところもあり、それが両輪で進んできたのでいっしょにやるのが楽しいんですね。
■要求に応えつつ提案することでバンドの音楽性ができてきた、と。
西田:そうですね。スタイル自体がそうなんじゃないかと。
■ギタリストで影響を受けたひとは?
西田:ジョン・フルシアンテ、彼は好きです。あとレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロ。でも最初に好きになったのはクラプトンとスティーヴィー・レイ・ヴォーンです。
■古き良きギター・キッズですね(笑)。
西田:(笑)ギターをはじめたころはクラプトンとレイ・ヴォーンばっかり聴いていて、“クロス・ロード”をずっとコピーしてたんですけど、あるときレッチリを聴いて、すべてを端折っていっきにミクスチャーにいったんです(笑)。でも一貫しているのは、僕はギター・ヒーローだといわれているひとのギターが好きだということ。俺は目立っているひとが好きだし、いちばんやりたいのはなんといってもギターが恰好いいと思える演奏だったりもするんですね。さっきの話のように、楽器をギターに置き換えるというようなこともやっていきたいんですが。
■しかし大所帯のバンドではバリバリ弾きまくるのはむずかしい気もしますね。スペースの問題がありますから。
吉田:それで参考にしようとしたのがマーク・リボーのように、ほかの楽器があっても入りこむのがうまいギタリストだったんですね。
西田:あとはネルス・クライン(ウィルコ)やジョニー・グリーンウッド(レイディオ・ヘッド)も参考にしました。
■具体的にどういう点が参考になりました?
西田:いらないことをやっているところです(笑)。
吉田:西田はバンドのなかでひとりだけ飛び道具なイメージなんです。しっかり弾いているんだけど、いなくてもいいような感じでいてほしくて。
■いなくなるとなにかが大きく削がれる感じ?
吉田:そうです。楽譜に表せる部分では必要ないことをしているんだけど、すごく印象を残すようなギターであってほしい。その参考になるアプローチはいつも探していますね。
■『Smart Citizen』は見事にそうなっていると思いますよ。音色や空間性にも気を配った玄人好みのプレイだと思いましたが、その洗練は新人らしからぬといわれたりしませんか?
吉田:意外にそうはいわれないんですよ(笑)。
西田:ライヴをやっているときの俺たちは「荒(粗)い」という意味を含めて「若い」んだと思うんですよ。でも「音楽たのしいよね、やったろうぜ」という溌剌さは表面的にはあまりないかもしれない。
■みなさんにとってライヴとスタジオは同じですか? ちがいますか?
吉田:僕はけっこう同じようなモチヴェーションで臨みます。
■アルバムの曲を再現するためのライヴということですか?
吉田:スタジオとライヴがぜんぜん別だというひとがいるじゃないですか。それから較べると7割くらいは同じでいいと思っています。録音ってむずかしいなと思うんです。
■吉田さんはご自分で録られたりもしていますね。
吉田:自分で録ったり、エンジニアを入れることもありますが、スタジオとライヴのちがいを考えると、ベストのライヴを録音したとしても、CDの音圧で聴いたらいいと思わないかもしれない。それを同じように感動させたり納得させるには、もっと音が必要だったりすると思うんです。ライヴ感があってそのまま録ったようだといわせるにしても、なにか足すものが要るとか。ですから、ライヴの感動をそのままスタジオで再現できればいいとは思うんだけど、そのまま録ってもうまくいかないとは思っています。
■西田さんは、ギター・ヒーローとおっしゃいましたけど、ギター・ヒーローにとってはライヴこそ本領を発揮できる場だと思いますが。
西田:正直にいいますけど、俺はギター・ヒーローに憧れて自信があるところもあるんだけど、基本的に弱気なんです。ギターはライヴだからライヴになればすべてを忘れていけ、といえるかといえば、まだいえない。さっき吉田がいったように、ライヴとスタジオのどちらかに比重を置くという考え方からすると、俺らはすごいフラットだと思うんですよ。でも俺はライヴが好きで、リハーサルが好きなんです。
■みんなと演奏するのが好きなんですね。
西田:そうみたいです。たとえば、ギターをジャッと弾いてドラムがパンッと入ったときに音圧が来たとか。ライヴでお客さんがもりあがってくれたら、それが意図したところでもそうでなくてもすごいしあわせだとか。このために生きているんだって思うこともあるけど、音楽的にライヴとスタジオを完全に区別するかといえばそうではないですね。
■榎さんはいかがですか?
榎:自分は、ひとりでブースでクリックをもらって演奏するよりも、みんなでいっしょに演奏するほうが単純に楽しいですね。
■ロック・バンドのなかでのサックスの位置は不安定なところもあると思うんですが、榎さんは吉田ヨウヘイgroupのなかでどのような役割を担っていると考えていますか?
榎:僕らがふつうのロック・バンドとちがうのは、曲をつくってアレンジしている吉田さんが、サックスも演奏するところだと思うんですね。そのなかで自分は西田さんの立ち位置に似たものを意識しているところはありますね。あってもなくてもいいんだけどすごく大事なもの。ほかの楽器のやるべきことをサックスに置き換える、そこにこのバンドの色があり、評価されているところでもあると思うので、もっとそういうサックスを吹けるようになっていけばバンド自体がもっとおもしろくなるんじゃないかとは思っています。
■多楽器主義のバンドがさいきん多いじゃないですか。
吉田:そうですね。
■そういうバンドと吉田ヨウヘイgroupを較べてどう思いますか?
吉田:これは僕が思うだけかもしれないですけど、管楽器入りのバンドの多くは管楽器を入れることで管楽器によるパーティ感とか多幸感とかをもたらそうとしていると思うんです。でも僕らは管楽器が入ってもあまりしあわせではない(笑)。狙いはけっこう真逆だと思います。
■歌詞でもしあわせな状態がやがて終わるだろうというトーンが支配的ですよね。
吉田:歌詞でいうと、ファースト・アルバムを出してセカンドを録る段階になってから、バンドの調子も上向きになって聴いてくれるひとも増えてきて、もしかしたら今後もっと安定して胸を張って音楽ができるかもと思っていたんです。ファーストのときは不安が強くて、その不安定な状態を吐露するとドロドロした歌詞になるだろうと思っていました。いまはメンバー全員足並みがそろっていて自信が生まれ、でもファーストのころの不安ものこっているからこそ恥ずかしくないと思ったんです。ぎりぎり聴けるような温度感というか。不安と自信が共存した心情を吐露できるのは、いい意味でいましかないだろうから、歌詞ではそれを出しちゃおう、と。その意味では楽観的なんですけどね。
■歌詞のなかにみえる街あるいは都市や家というものは吉田さんにとってどういうものですか?
吉田:舞台設定を考えるときにまず思いつくもの、ですかね。歌詞を作るためにディテールを詰めていくと話が転がっています。
■自分たちは都市生活者だという自覚がある?
吉田:いや、それしか思いつかないんです。松本隆さんや松山猛さんが好きなので、語彙が豊富だったら「一張羅の涙」とか、見たこともない組み合わせのセンテンスをつくってみたいんだけど、なにも思いつかない(笑)。日常的な言葉を設定しているからそうなるんです。
僕は元ネタがあったほうがハードルが高く感じられるんです。その曲を元にそれを越えるクオリティの曲をつくる。そういった感覚があるので、ゼロからつくらないようにしています。配分でいえば、全体の五分の一くらいを自分から出てくるものにしたい。 (吉田ヨウヘイ)
![]() 吉田ヨウヘイgroup Smart Citizen Pヴァイン |
■曲を書くときって、どういう順番ですか? 詞はたいへんだとおっしゃいますが、メロディや和声進行、リズムなどの要素でどこから先に生まれるという決まりのようなものはありますか?
吉田:曲ごとにちがいます。 “ブールヴァード”であれば、あるレコードからリズムの元ネタをもってきて、その上に乗せる管楽器のパートをまたちがうレコードからもってきて、それが3つか4つたまってあるとき頭の中でバッと混ざったので、それでつくりました。
■それらの音楽がつながるのはどういったときなんでしょう?
吉田:自分だったら、このマテリアルならこの時代性から切り離して自分の曲にできるって思うことがあるんです。レコードを聴いていると。このリズム・パターンとシンコペーションだったら自分のものとして吐き出せるな、とか。それが自分の頭のなかで混ざれば、ということですね。
■ゼロからつくるより、なにかに対応してつくっていく?
吉田:いろいろ試したんですけど、僕は元ネタがあったほうがハードルが高く感じられるんです。その曲をもとに、それを越えるクオリティの曲をつくる。そういった感覚があるので、ゼロからつくらないようにしています。配分でいえば、全体の五分の一くらいを自分から出てくるものにしたい。
■いわゆるオリジナリテイ、クリエティヴィティとは真逆の考え方ともいえますよね。
吉田:レコード屋で働いていることもあって、作曲の原動力にするための曲を聴ける時間が増えたんですよ。そうすると、パクるということを作曲の起点に置いたとしてもネタ切れの心配がない(笑)。
■使える/使えないというかつてのDJのような観点で音楽を聴いているということですか?
吉田:感動する音楽で自分と関係ある、感動するけど自分とは関係ない、自分とはまったく関係ない、音楽をこの3つくらいに分けていて、聴くとすぐそのレールに乗るんですよ。
■榎さんは吉田さんの考えに同意できますか?
榎:僕はそのような考え方ではないですね。でもなにかを聴いたとき、自分のいきたい方向性からの距離でそれをとりいれるかどうかは決まってくると思うんです。ここまでであれば自分の演奏にもスパイスとしてとりこめるんだけど、これ以上離れるとスパイスにすらならない。その線引きはたしかにあって、その遠さでグラデーションみたいになっているイメージはあります。
西田:たぶん俺は吉田さんとやっている期間が長くて、どこまでが自分本来の考えで、どこまで吉田さんとの作業のなかで出てきたものかわからなくなっている部分はありますね。俺も音楽を聴くときはそういうところがあるし。とくにさいきんはギターに集中しているぶん、「この曲のこのコード進行でこの洗練されぐあいでこのビートの精確さのときに、ギター・ソロがこんなふうに入ってくるとダサいけど、ファズの音色でこういったふうに入れた場合はアリだから、ジミヘンのような音色でサックスの運指を参考にして弾くんだけど、弾き方の粗さとしてはジミー・ペイジで、上に乗るものはスティーリー・ダン」――みたいなことはいつも考えますよ(笑)。
■こみいっていましたがわかりやすい譬えでしたね(笑)。
西田:そういったことを吉田といつも話しているんですよ(笑)。
■最初にいった、あるべきなのにいまだない音楽を掘り出す方法がそれなんでしょうか?
吉田:「素材としてロックで使われていないけどロック的な感性で聴いてもいいと思えること」をみつけることに僕は興味があって、それをレア・グルーヴやジャズからとれるとうれしいんですね。
西田:積み上げていくほうがむずかしいし、おもしろい。でもそれをさらに越えるものが真っ白な状態から出てきたら、夢のような話だとは思いますけどね。
■やっているうちにそういうようなところに来ることもあるんじゃないですか。
吉田:作曲のレベルはそういうことをやっているうちに上がっているとも思うので、何枚かアルバムを経たあとに機会があれば、手法としてまっさらな状態からつくりはじめることもあるかもしれません。
■メンバー同士のかねあい、バンド内の関係性の変化もあって、音楽もまた変わっていくかもしれないですもんね。
吉田:音楽のアイデアを言葉できちんと伝えることができるようになりたいと思っているんです。それが自分だから思いつくのではなくて、アイデアそのものがおもしろいからほかのひとが乗れるものであってほしい気がしています。西田とはそれが共有できる感じになってきているので、全員に浸透したらもっと楽しいですね。自分がつくるよりも各パートのひとたちが楽器の特性をふまえつつ曲にしていけたら……そこまでいきたいですね。
■東京のインディ・シーンのなかで吉田ヨウヘイgroupと距離感がちかいのはやはり森は生きているですか?
吉田:仲良しだからあまりわからないですね。
■ライバル関係ともいえると思いますが。
吉田:たしかに西田くんと森は生きているの岡田(拓郎)くんはすごいバチバチしているし(笑)。
西田:ほんとに(笑)。
■なんで?
西田:俺は彼を尊敬しているので、「うれしいよ」という前提で聞いてほしいんですけど、互いにギタリストとして意識できる対象だと思っています。世界が狭いかもしれませんが。たとえば、俺のライヴを彼が観にくると、「今日はプレイ内容としてはアレなんだけどあそこはもうちょっとああしたほうがよかったんじゃない」と意見を言う(笑)。逆に俺が彼らのライヴを観に行って、演奏の後に会うと、「マジおまえには会いたくなかったわ」とかいわれますもんね(笑)。








