Home > Reviews > Album Reviews > Julianna Barwick & Ikue Mori- FRKWYS Vol. 6
これは思いもよらない喜びのアルバムだ。イクエ・モリ(ノーウェイヴ時代のニューヨークにおける最高のバンド、DNAのメンバー)、そして、今年、本当に素晴らしいアルバム『ザ・マジック・プレイス』を〈アスマティック・キティ〉(スフィアン・スティーヴンのリリースで知られる)から発表したジュリアンナ・バーウィックとのコラボレーション・アルバムである。
アルバムのなかにホチキスで止められたハンドメイドの写真集が封入されている(それはそれでひとつの作品と言える)。ページをめくるとふたりの録音風景がある。小さな机の向かって左にバーウィックがいる。彼女の前にはミキサーとマイク、小さなエフェクターが置かれている。反対側にはイクエ・モリがいる。彼女の前にはラップトップとミキサーがある。バーウィックは歌い、その声はコンピュータに注がれ、加工され、消えてしまいそうなギリギリのところでループする。静謐さのなかでモリは控えめながら点滅する光のような電子音、そよ風のような、川のせせらぎのような、あぶくのような電子音を重ねていく。優しい電子の口笛が聴こえる。70年代半ばにおけるイーノのアンビエント・ミュージックでさえも力みが入っていると思えるほどの、綿のように柔らかく軽やかな音がスピーカーから広がっている。時折、抜き差しならぬ緊張感――ふたりは対決しているような感覚――がしないでもないが、即興で録音されたこの演奏を、その場で聴いていた人たちは雲の上を歩いているような、さぞかし極上の気分を味わったことだろう。
曲名を収録順に言えば、"夢のシーケンス(Dream Sequence)""鍾乳石の城(Stalactite Castle)""蓮の池の雨と陽光(Rain and Shine at the Lotus Pond)""応答(Rejoinder)"。録音は2010年の10月29日と11月16日の2回にわたっておこなわれている。『ザ・マジック・プレイス』にイクエ・モリが参加したような......と言えるかもしれない。つまり、この音楽の下地を作っているのはバーウィックだと思われる。それは複数の声のループにそれぞれ変化を与えながら重ねていくスタイルで、イクエ・モリが発信するまるでコンラッド・シュニッツラーのような、あるいは中原昌也のような、まったくの機械の(ときにノイジーな)音は、しかしそれが鼓膜を震わせ脳に信号が送られるときには機械音ではない何か別の音に変化させる。そう、生活感はまるでなく、コンラッド・シュニッツラーが美しい森のなかで舞い上がっていくような、感動的なまでの夢の音楽だ。というか、このジャケが格好良過ぎるでしょう。
追記:6月18日、埼玉スタジアムの浦和戦での清水エスパルスの高原直泰のダイビング・ヘッド、久しぶりにスポーツを見ていて涙が出た。魂のこもった本当に素晴らしいゴールだった。
野田 努