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Julianna Barwick

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橋元優歩   Jun 19,2014 UP
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 本作『ロサビ』は、デラウェアはミルトンのブルワリー、〈ドッグフィッシュ・ヘッド・ブルワリー〉と、ジュリアナ・バーウィックとのコラボレーション作品である。正確に言えばこのEPだけでは本作は不完全だ。なぜなら、『ロサビ』とはこの企画よって生まれたペール・エールの名であって、ボトルと10インチとが同梱されたものが出荷を待っている。やっぱり、それを味わいながら聴いてみたい。

 ロサビを飲みながら聴きたいというのは、気分の問題からというだけではない。この企画自体が、両者のあいだにおいて、時間的にも内容的にもわりとじっくりと進められたという背景を知ればこそである。スタートは2013年、バーウィックがドッグフィッシュ・ヘッドの新しい醸造所に招かれて従業員たちの前で演奏を披露するところからはじまる。そこはカテドラルのような環境だということだから、バーウィックの音楽と演奏スタイルにぴったりとはまっただろう。そののちに本作収録曲が編まれるわけだが、ドッグフィッシュ・ヘッド側からはビールの製造過程において生まれるさまざまな音──醸造、発酵、濾過、そしてボトリングにおいて発生するノイズが提供された。バーウィックはループ・ペダルによって自身の声をレイヤーしていくあの特徴的なスタイルに、ロサビのための一層を加える。

 ぶつぶつ、こぷこぷ、ガシャンガシャン。あらためてビールを製造している音だということに思いを馳せるとなんだか可笑しいが、そんなふうにどことなくコミカルな、弾むような炭酸っ気と、このエクスペリメンタルなブルワリーを支える従業員たちの心意気や精神、ビール好きだというバーウィックのキャラクターが、彼女のヴォーカル・ループにじつに気持ちよく、のびやかに織り合わされている。つけ加えると、ロサビにはわさびが入っているそうだ。筆者はわさびが苦手で、サビ抜きじゃない寿司を出されると親にキレたりしていたが、「苦みとホップのようなハーバル・ノーツが加わった日本の根菜類」なんて表現されるとちょっとトライしてみようかという気持ちになる。さわやかで、しかしちょっと実験的な性格をもったビールなのだ。

 波が寄せるように、一息ぶんのフレーズが穏やかに高低し、層を重ねていく。バーウィックについては何度も書いてきたので多くを割かないが、彼女をヴォーカリストや歌姫の類に括るのは正確ではないと思う。声楽も学んでいるけれど、彼女が明確な旋律と構成をそなえた「ソング」を歌った作品は『オンブレ』(2012、アスマティック・キティ)というヘラド・ネグロとのコラボ作のみである。むしろ即興性を軸としてサウンド・デザインを施していくスタイルが特徴で、どちらかというと音響派に連なるアーティストだ。そしてまた、リニアな時間性をもつ「ソング」が終曲とともにその単一の時間を完結させ、閉じるものであるのに対し、バーウィックのコンポジションは複数の時間を綴じるように成立している。その意味で、本来こうしたコラボレーションと相性のよいものなのかもしれない。
 ちなみに、“トゥー・ムーンズ”においてアナログ・シンセがフィーチャーされているところが小さな新機軸ではあるが、大部分はいつものジュリアナ・バーウィックである。工場のフィールド・レコ―ディングからのサンプリングが、低域をけずられてきらきらと輝いている。リヴァービーにひきのばされて、ホップが踊る愉快な時間と響き合っている。ブルワリーの創設者にして社長であるサム・カラジオーネは、バーウィックの習慣にとらわれない音楽スタイルが好きで、それは自身のビール製造への思いと変わらないのだと述べる。この企画の銘柄にかぎらず、どこか独創的で若々しい社風を想像させるメッセージだ。そんなブルワリーの気質と、ロサビの楽しくて気持ちのよい性格が、残響のなかから立ち上がってくる。


橋元優歩