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interview with S. Carey

interview with S. Carey

ボン・イヴェール・コミュニティののんびり屋たち

──S.キャリー、インタヴュー

木津 毅    Jun 20,2014 UP

S.Carey
Range of Light

Jagjaguwar / ホステス

FolkIndie Rock

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 アルバムのクレジット、そのサンキュー・リストにボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンの両親の名前を見つけてにっこりしてしまう自分もどうかと思う。だが、『レンジ・オブ・ライト』はそういうところで産み落とされた作品だ。
 のちに人数が増えていったボン・イヴェールのライヴ・バンドのごく初期からのメンバーであり、パーカッションを中心としたマルチ・プレイヤーであり、学生時代はクラシックを学んでいたというS.キャリーことショーン・キャリー。ウィスコンシンはオークレアのおらが村のスター……もとい、地元のヒーローであるジャスティンを中心とする音楽コミュニティから才能を発揮するミュージシャンのひとりだが、そこは驚くほど親密で、家族的な絆によって成立している。かつてのヒッピー・コミューンではない……が、しかしどこまでもピースフルな繋がりがそこにあるように感じられる。そもそもアメリカの片田舎からボン・イヴェールの痛切な美しさを誇る音楽が発見されたとき、そこにひとびとはヒューマニティを嗅ぎ取ったのだから。

 『レンジ・オブ・ライト』はS.キャリーとしてのソロ2作目であり、まだまだ習作という印象を残した小さなフォーク・アルバムだった前作『オール・ウィ・グロウ』に比べれば、クラシックの素養を生かした緻密なアレンジメントが耳を引く。とくにジャスティンが参加した“クラウン・ザ・パインズ”のねじれたストリングスの上昇と下降、ラスト・トラック“ネヴァー・エンディング・ファウンテン”における控えめに見えてそのじつ華麗でゴージャスなオーケストラはアルバムのハイライトだろう。オーウェン・パレットやスフィアン・スティーヴンス、あるいはザ・ナショナルのブライス・デスナーのように、現代インディ・シーンにおけるオーケストラ・アレンジャーとして頭角を現していく予感はある。
 そして一貫して繊細なムードで紡がれるアルバムのテーマは、圧倒的なものとして目の前にある自然、その母なるもの、そのものであるという。21世紀における自然主義者による音楽の実践、それがS.キャリーだ。

 それにしても、ジャスティンもあんな繊細な音楽を作りながら、穴の開いたスニーカーを履いて寝巻きみたいな格好でライヴ・ステージに立つような男だが、ショーンからも思っていた以上に素朴な回答が返ってきて笑ってしまった。のんびりしている連中……いや、地に足が着いていると言っておこう。

■S.Carey / S.キャリー
ボン・イヴェールのドラマーとして活躍するマルチ・インストゥルメンタリスト。クラシックの英才教育を受け、大学でパーカッションを学んだ。2010年に〈ジャグジャグウォー〉からファースト・フル・アルバム『オール・ウィー・グロウ』をリリース。本年発表の『レンジ・オブ・ライト』にはボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンもゲスト・ヴォーカルとして参加している。

彼と演奏したかったし、彼の美しい音楽の一部になりたかった。ボン・イヴェールとしての最初のライヴで5曲叩いたんだけど、あまりにも僕が曲をしっかり覚えていたからジャスティンも驚いたんじゃないかな。

このアルバムが日本デビュー盤となるので、基本的なことからいくつか訊かせてください。もともとあなたはボン・イヴェールのファンで、志願してバンドに加入することになったんですよね?

S.キャリー(以下ショーン):『フォー・エマ・フォーエヴァー・アゴー』は僕がジャスティンとはじめて演奏しはじめたときにはまだリリースされていなかったんだけど、彼はインターネットに音源を全部上げていたんだ。当時ボン・イヴェールが誰なのか誰も把握していなかった。だけどどんどん僕らの小さな街でそれがジャスティンの新しいプロジェクトだって話が浸透していったんだ。そのときドラムのパートをすべて覚えて、加えてヴォーカル・ハーモニーもしっかり覚えた。彼と演奏したかったし、彼の美しい音楽の一部になりたかった。ボン・イヴェールとしての最初のライヴで5曲叩いたんだけど、あまりにも僕が曲をしっかり覚えていたからジャスティンも驚いたんじゃないかな。それに僕は歌えたからね。ジャスティンの声とうまく溶け込んだんだ。それで最初のライヴから抜擢されたんだ。

それまではどんな音楽に夢中だったんですか? 学校ではクラシックを学んでいたそうですが。

ショーン:幼い頃はフォーク音楽とビーチ・ボーイズを聴いていたな。それからU2にレディオヘッドを聴くようになって、そこからはジョン・コルトレーン、マイルス・デイヴィス、アート・ブレイキーなどのジャズ。その後は20世紀のクラシカル・パーカッションを学習しはじめたね。

いま、どれくらいの数の楽器を演奏されるんですか?

ショーン:いちばん自信を持ってるのはドラムとピアノだよ。だけどギターとベースも弾けるんだ。

僕がボン・イヴェールを聴いていて思うのは、そこにとても理想的なコミュニティがあるということなんです。いろいろなひとが集まって、なにか豊かな感情を奏でている、というような。あなたにとって、あなたがいるウィスコンシンの音楽コミュニティはどのようなものなのでしょうか?

ショーン:とても良いコミュニティだよ。地元でプレイしているバンドのなかにもたくさん良いバンドがいるし、ここの音楽性のレベルは、こんなに小さな街にしてはとても高いんじゃないかな? 昨夜公園にバンドを3組聴きに行ったんだけど、彼らのミュージシャンシップには驚かされたよ!

ではアルバムについて訊かせてください。前作『オール・ウィ・グロウ』に比べて、アレンジメントの面で非常に凝った作品だと思ったのですが、まず、このアルバムに取りかかるモチヴェーション、入り口はどのようなものだったのでしょうか?

ショーン:たくさんあるよ。音楽を書くのが好きなんだよね。目標を立てることができるし、方向性を定めてくれる。それと同時に自分の音楽を作ること、曲を書くことに関してはまだ初心者な気もするんだ。だから今作ではもっと自分が得たいものに焦点を当てたよ。いまはもっと成長した自分がいると思うね。プロデューサーとしても、作曲家としても、人間としてもね。それが音楽を通して聴こえるといいな、と思うよ。

クラシックや現代音楽の要素が前作よりも強くなったように思うのですが、そこも意識されていましたか?

ショーン:とくに意識はしていなかったよ。だけど大学で学んだパーカッションの技術とフォーク・ソングを書く美学はどうしても融合させていきたくてね。それが少しわかりやすく表れているようでうれしいよ。

クレジットにはたくさんのゲスト奏者の名前がありますが、あなたとしては、大勢で作り上げた作品だと捉えていますか? あるいは、かなりの部分であなた自身がコントロールされたのでしょうか。

ショーン:自分はプロデューサーであり、船のキャプテンでもある感じだね。だけど参加してくれたミュージシャン全員の意見のほうがこのアルバムに反映されているよ。だからこそ素晴らしい作品ができたんだと思ってる。

自然はつねに僕のインスピレーションの源でもあるし、再生させてくれる力も持っている。そしてそれについて書こうと思ったんだ。

『レンジ・オブ・ライト』というタイトルは自然主義者のジョン・ミューア(註:カリフォルニア州の長距離自然歩道であるジョン・ミューア・トレイルの名前の由来にもなっている、ナチュラリストの草分け的人物)が山脈につけた名前から取ったということですが、彼がどんな人物か簡単に教えていただけますか。また、彼のどんなところに惹かれるのでしょうか。

ショーン:ミューアは国を渡りまわった自然主義者なんだ。その間発見した点を彼は細かく書き留めて、植物学、生物学、そして地理学のさらに深いところを掘った。彼は冒険者で、最終的にカリフォルニアのシエラ・ネヴァダの山脈に心惹かれたんだ。彼は自然、そしてアメリカに残る原風景に人生を捧げて、環境保護主義者のうちでは欠かせない人物となった。彼の自然に対しての見解は美しくて、スピリチュアルなんだ。そういったところですごく心通ずるものがある気がするんだ。

アルバムのジャケットのイメージや歌詞において、あるいは音楽的にも、自然というモチーフが非常に重要になっています。どうしてあなたは音楽で自然を描こうとするのか理由は思い当たりますか?

ショーン:自然は僕の人生に置いて大きな部分を占めている。いままでもそうだったし、これからもそう。自然はつねに僕のインスピレーションの源でもあるし、再生させてくれる力も持っている。そしてそれについて書こうと思ったんだ。

数多くの楽器を演奏するあなたですが、では、歌うことについてはどんな風に考えていますか? 歌うことと楽器を演奏することでもっともちがう点はどういったところですか?

ショーン:僕は自分の声もひとつの楽器として捉えているから、その点では大したちがいいはないね。

『オール・ウィ・グロウ』でも本作でも、あなたの作品では過去の記憶というものがモチーフのひとつになっていると思います。幼いころの経験や記憶がテーマのひとつになっている理由はなんでしょう?

ショーン:なんでだろうね。曲を書きはじめて、出てきたのがこういったアイディアだったんだ。アルバムの方向性っていうのは実際何曲か作り込んで、それから一度客観視してみないとわかんなかったりするものなんだよ。

ザ・ナショナルのブライス・デスナーは昨年クロノス・カルテットにスコアを提供していましたし、あるいはオーウェン・パレットのようにストリングスのアレンジをこなすインディ・ミュージシャンの活躍が目立っています。クラシックの知識を生かした活動をする彼らにシンパシーは感じますか?

ショーン:そうだね、僕はアレンジには向いてる気がするよ。ただもっとアレンジできる機会が必要なだけでね。

ミュージシャンとして、やってみたいことを教えてください。

ショーン:いまはこのアルバムのツアーに集中しているけど、日本でライヴをすることは僕の夢だよ!

質問、文:木津毅(2014年6月20日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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