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Synth-pop

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light decline

Relaxin Records

Casanova.S May 09,2024 UP

 類は友を呼び、謎が謎を引き寄せる。いくつかのヒントが表にあって、それが時に重なり時に離れて間にあるものを浮かび上がらせる。アウトプットに絡まる気配、そんな謎のフレーバーが音楽を面白くするのだ。我々はそれを求め、追いかけ常に未知なる何かに心を奪われている。そんなことをずっと繰り返している。
 かつてそんな存在の象徴であって今なおミステリアスな香りをふりまいている女性、ディーン・ブラント・アンド・インガ・コープランドのインガ・コープランド、現在ロリーナという名義で活動している彼女のレーベル〈Relaxin Records〉に所属するグレート・エリアもまさしくそんな存在だ。ディーン・ブラント周辺の音楽がリリースされる度に、もしやこれはディーン・ブラントの別名義なのではと疑ってかかってしまうように、最初にグレート・エリアの音楽を聞いた時にロリーナが始めた新しいプロジェクトなのではという考えが頭によぎった。打ち込まれた小さく広がる空間にメランコリックなシンセサイザーの音が鳴り、それを背にして生のベースが弾かれる。所在なくつぶやかれるヴォーカルはロリーナの鼻にかかったクセのある声とは少し違っていたが、そこに漂う空気は同じように素晴らしく、ひんやりとした生々しさが心をつかんで離さなかった。2022年の年末にリリースされたEP「Follow Your Nature」にどの程度ロリーナが関わっているのかはわからないが、彼女のレーベルからリリースされたそれは新たな謎と始まりを感じさせるものだった。

 その後グレート・エリアは23年にコンピレーションに収められた“Find Out Who Is Winning And Why” をリリースする。虚無感とやるせなさを表現したようなこの曲もまた素晴らしく次の展開が今か今かと待たれた。
 そうしてついに今年24年にデビューアルバム RR7『Light Decline』がリリースされたのだ(最初のアナウンスから1ヶ月も経たないうちのリリース、このスピード感もいかにもな感じだ)。アートワークはグレート・エリア、ミックスはローリナ・リラキシンというEPと同じ体制で作られたこのアルバムを聞いて感じるのはやはりその余白の素晴らしさだ。サンプリングで作られた土台と、弾かれるベースの間に広がる時間と空間、その重なりの中に生まれた隙間に打ちひしがれたちいさな虚無とかすかな希望が宿る。それは情報過多の現代から距離をとるようなものにも感じられるが、しかし同時に俗っぽさも併せ持っている。手の届かない高みにあるものではなく、手のひらからこぼれ落ちるような日常の、心の中の空白地帯、その小さな隙間をグレート・エリアは浮かび上がらせるのだ。
 タイトル・トラック “light decline"で始まるこのアルバムはサンプルに彩られミニマムにまとめられている。全ての曲は3分に満たず、2分台の曲が6つとそこに加わるには10秒ほど足らない曲が一つ、計7曲16分のアルバムはだが決して物足りなさを感じさせことはない。ここにはせき立てられるよなビートもなければ頭を殴りつけられるような刺激もない。存在するのは空気の色を映すようなサンプリングにシンセ、ゆるやかに進むベース、ドラムマシン、そして虚無と希望の間で揺れるロウソクのような彼女の声だ。淡々とそれでいてメロディアスで、その組み合わせが心を静かに揺らしていく。気にかけて手を伸ばした瞬間に消えていくような、暗い色をまとった鮮やかな魔法、儚さや美しさ、同じトーンで進んでいく曲たちはまるでどこか遠い場所で撮られた短編映画のシーンのように機能する。虚無感に包まれたブロードキャストのような “fun”、インガ・コープランドの気配を色濃く感じる ”the laws of physics” が重なり合うように繋がって一つのイメージが描き出されていく。シンセとベースで不安に揺れる”hazards”が頭の中に引きずり続けるような気配を残し、発掘された90年代のバンドのラフなデモ・テープのような”if you stop moving you don't exist, if you fall behind you're dead” がそこにまた違ったタッチを加えていく。そんな風にして狭い部屋に響くこの小さな音楽はしんみりと深い余韻を残すのだ。

 余談になるがこのアルバムのリリースがアナウンスされた時期にグレート・エリアはバー・イタリアのサポートで北米ツアーを一緒に回っていた。ディーン・ブラントの気配をまとったミステリアスなバー・イタリアとインガ・コープランドの雰囲気を感じさせる謎の存在グレート・エリアの組み合わせはいま、考えうる最高の組み合わせではないだろうか。それが実現されたツアーにおいてグレート・エリアはロンドンのヴィジュアル・アーティスト、ジョージー・ネッテルのプロジェクトではないかとまことしやかにささやかれ、僕らはそうして2010年の〈Upset The Rhythm〉、プラグというユニットに辿り着くのだ。そうやって謎が謎を呼び、少しずつ解き明かされ過去と未来が繋がっていく(もしかしたら文脈というのはこのようにでき上がっていくものなのかもしれない)。

 虚無と希望が同時に存在するグレート・エリアの音楽は結局、その余白に何を見出すかなのだろう。受け取り、考えることを委ねられた感覚こそがポップ・ミュージックとその周辺の文化の素晴らしさだと自分は思う(そうやって受け継がれ、数年経って答えが出る)。とにもかくにももの悲しく心を揺らす、グレート・エリアは最高だ。

Casanova.S