「R」と一致するもの

嫁入りランド - ele-king

 半袖の季節が終わりきる前に、ある7月のイヴェントの強烈な印象について書いておきたい。スーパーボールの原色や蛍光が目の前を乱れ飛び、逆光のなかでカメラのシャッターがこちらに向かって切られたあの瞬間を、わたしはスローモーションで思い出すことができる。たくさん女子が笑っていた。いや、人数にすれば大したことがないかもしれないけれど、この日の記憶に焼きついているのはとにかく女子が笑っていたということで、どんな規模であれどんなトライブであれ女子が笑うところには天の岩屋戸を動かすエネルギーがある。黄色い声が飛び交うイヴェントはたくさんあるけれども、あのとき目にしていたのはちょっと予想外の感触。その感触を解きほぐせないうちから「“何かの瞬間”に立ち会っているかもしれない」感に心が躍った。ステージの上にいたのは嫁入りランドである。

 見ようによってはちょっと文化系の女芸人とも解釈できそうなたたずまいの女性3人組。彼女たちはすでにシーンでは熱い注目を浴びる“噂の”ラップ・グループだ。彼女たちの存在をヒップホップの文化史に照らしたり、そのなかに位置づけたりする能力は筆者にはないが、「新世代のスチャダラパー」のように言われたり、日本の「歌謡ラップ」をスネークマンショーから説き起こす磯部涼の論考(「ニッポンのラップ」第四回、『エリス』収録)の末尾にもその名が登場するなど、語るべきエネルギーと検証すべき魅力が詰まったグループであることは間違いない。

 だが、ひとまずそういうことは後回しだ。ぼんやりしているうちに彼女たちはリングにはやくも学祭のように賑やかなノリを引っ張ってきてしまった(〈月刊ウォンブ!〉なのでステージはリング。翌8月には実際にレスリングが行われた)。爪を見せ合って「見て、WOMB仕様。」「カワイイ。」なんてやっている。DJがついているわけではなく、ポチッと機材のボタンを押すだけのカラオケ・スタイルでトラックがはじまり、ラップがはじまる。

 たとえばMARIAのようなスキルを持っているわけではないけれど、彼女たちには彼女たち一流の言葉のセンスがあり、その斡旋に長けている。そしてたたずまいそのものにもとてもスマートな批評性がある。なんとなく学校を出たわたしたち、というような学生とも社会人ともいえない時間感覚、かつそうした枠の外のワイルド・サイドとは縁遠い「平均的な」風貌に親しみを覚える人も少なくないだろう。実際のところ彼女たちがどういう境遇にあるのかは知らないが、そのパフォーマンスからは「平均」や「普通」ということが持つクリティカルな側面がなめらかに切り出されていて、とてもいまらしさを感じる。

 「普通」問題は繊細だ。実際、「普通の女の子」というときの普通の水準はけっこう高い。「非モテ」から「貧困」まで、社会的文化的な関心が、より高いものではなくより低いものに向けられるようになってから、普通という言葉が示すところは揺らぎ、多様化したように思う。嫁入りランドのステージは、そんなバランスの上で成立する「普通」のひとつがおおらかに楽しげに歌われ謳歌されているようで、ぐっときた。そもそも“郊外の憂鬱”とか “嫁入りランドのLOCAL DISTANCE”“暮らしのジャングル”など、曲名だけをとってみてもかなり意識的に2000年代の風俗や社会感覚が切りとられていて、彼女たちがけっして若さや女子ユニットという華やぎに寄りかかる芸風でないことは明らかだ。そして批評的に機能する力を持ったそれらキーワードに寄りかかることもない。彼女たちは彼女たちの言葉を持っている。「ヤーマン越え 谷越え 川越~」という軽やかな言葉遊びのひとつから、ばーっと視界が開けていって、2013年の風景がみえる……そしてなぜだか女子がみんな楽しそう……そんなステージなのだ。

 さて、「えんたけー」「えんもたけなわってヤツですね!?」とまた奇妙な角度からのMCがはじまり、どうやら宴もたけなわになった。「ここはヤグラなんですよ」「これは盆踊り大会なんですよ」「びっくりでしょー!?」とさらに急角度で設定が加えられて、〈WOMB〉は盆踊り会場になった。たしかに、オーディエンスには何か見たことのないものに触れる興奮のようなものが伝播していたけれども、そこに唐突に盆踊りというコンセプトが与えられたことで、一気にエネルギーが放出口を見出して流れ出した。
 「ちょっと、目つむって!」「スゴーイ!!」「ヤグラじゃん!!」「ヤッター!」「ヤッター!」夏祭りのお囃子の音とともにリングはヤグラに変わり、この急展開のなかで〈月刊ウォンブ!〉も新しいステージを踏んだ……のだろうか。なんだか楽しくてヤグラにむかってへらへらしていると、今度は「ペンシルカルパス」と印刷された古ダンボールが引っ張り出されてくる。そしてこのレポートの冒頭へ場面は移る。ダンボールのなかから小さめのスーパーボールがバラバラとオーディエンスに向かって投げられはじめ、女子も男子もきゃあきゃあ笑ってそれを拾うというさらなる謎展開、そして舞台の上からカメラのシャッターが切られ、これまた唐突にわれわれの姿は無作為にフィルムのなかに収められることになる。彼女たちは自撮りにも余念がない。これは宴もたけなわというか、宴の底が抜けた瞬間で、その後また急に幕引きを迎えるまで不思議な恍惚状態がつづいた。アルコールでも薬物でもなく、また黄色い声援が生む熱狂でもなく、何かもっと透明なものを火元に燃えているこのヤグラの炎を、筆者は憧れとリスペクトの眼差しで見つめた。

 言葉の達者だけれども言葉だけではない、音やビートの彫琢によってでもない、しかし芸というよりは生きた音楽として、嫁入りランドのライヴは際立った印象を残した。宴会芸や学芸会の出し物のようでいて、それは素人の起こした奇跡とは違う。青文字も赤文字もオタクもすり抜けて、職業意識からもアマチュア意識からも表現活動や芸術活動の使命感等々からも自由に、強いて言えばおもてなし感覚くらいを添えて……。

 明確な計算のもとに行われたものではないだろうけれども、彼女たちは何かを描き、取り出しているということがはっきりと伝わった。そしてその根元を支える普通さの感覚にしびれた。それがダイレクトに女子を笑わせているところに感激した。ちょっと女子女子と言い過ぎだと自分でも思うけれど、だって、たとえば同じ年頃でも、140文字で必死に虚勢とカッコをつけあい、フォロワー増やしゲームに絡め取られるツイート男子たちが、彼女たちの言葉より女子を楽しくさせることができるだろうか、と考えると感じ入ってしまう。
 ここで見たものが何だったのか、誰かもっとうまい言葉にしてくれたらうれしい。さわるとゴムがねちゃねちゃするこのスーパーボールが、未来の礎になることを期待して。

LIQUIDROOM - ele-king

 すっかり秋だなーと思いに耽っていたらいきなり台風、甚大な被害をもたらした26号が通り過ぎてくれたかと思ってひと息つけば27号。まるで『スローターハウス5』のように、あっち行ったりこっち行ったりと、不条理極まりないこの世界でいちばん大事なモノ、それは俺の自由。10月最終週のリキッドルームが熱すぎるぜ。
 エレキングでは先日、WOODMANとKES(ペイズリー・パークス)との対談をやったばかり。シミラボのマリアちゃんのロング・インタヴューももうすぐUPされるであろう。大変な時代だが、面白い時代である。


▼10月23日(水曜日)
BLACK OUT SPECIAL@LIQUIDROOM + LIQUID LOFT + Time OUt Cafe & Diner
概要→https://www.liquidroom.net/schedule/20131023/16833/

▼10月26日(土曜日)
THE HEAVYMANNERS@LIQUIDROOM
概要→https://www.liquidroom.net/schedule/20131026/16006/

▼10月27日(日曜日)
Battle Train Tokyo -footwork battle tournament-@KATA + Time Out Cafe & Diner
概要→https://www.kata-gallery.net/events/btt/
*こちらは23日(水曜日)にDOMMUNEにて開催記念番組があります。

Oneohtrix Point Never - ele-king

 僕はいま、ロープウェイを乗り継いでやって来た箱根の山奥のホテルの一室で、世にも美しく、しかし名状しがたい音楽を聴いている。ブルックリン・ベースのワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、OPNとして知られるダニエル・ロパーティンは、〈ワープ〉からの新作において、我々に新たな音響体験を提示している。80年代の、賞味期限切れのCMをカット&ペースト&ルーピングして作られた前作『複製(Replica)』から露骨な変化は感じないが、予想外の変化はある。
 20世紀のデジタルの墓場、彼いわく「ポスト黙示録的世界における社会の残滓」から音源を拾い、カット&ペースト&ルーピングして作られるOPNの音楽は、ライナーノーツで三田格がいみじくも書いているように「ここ数年、とんでもない勢いで変貌し続けるUSアンダーグラウンドの中心」だと言えよう。『リターナル』以降、我々は可能な限りダニエル・ロパーティンを追いかけている。あのアルバムの1曲目のノイズに度肝を抜かれ、そしてそれ以降の彼の静寂にやや緊張しながら耳を傾けている。
 前作『レプリカ』になくて『Rプラス・セヴン』にあるもの、それは官能である。『レプリカ』には、アートワークが暗示するようにある種の悪意が混じっている。アイロニカルな響きがあり、音もローファイだった。それに比べると新作はずいぶんとクリーンな音だ。とっちらかっているのに関わらず、信じられないほどの調和があり、美がある。

 1曲目の"退屈な天使"は、驚異的な曲のひとつだ。薄ぼんやりとしたデジタルのルーピングは、輪のように重なり、神聖な響きと冗長さを合成させる。ロパーティンの音楽はおおよそリスナーの解釈に関わっている。少年だとか夢だとか、あるいは何かの具象性もなく、ダンス・ミュージックを当てにすることもない。タルコフスキーやヘルツォークといったヨーロッパの映画を好んでいるようだが、とくに映像的だとも思えない。とはいえ、『サクリファイス』ではないが、ユートピアとディトピアの断片が混線しているようにも感じる。ひどく分裂的で、スピード感があるというのに平穏でもある。落ち着きがないのに陶酔的で、醒めていながら瞑想的でもある。"アメリカ人たち"や"彼・彼女"、"内側の世界"といった曲のカット&ペースト&ルーピング&エディティング(スタッターリング)には、分裂的なイメージが散文的に展開されている。そして、アンビエントでもなくダンスでもないこの音楽は、耳を飽きさせないどころか、僕に不思議な心地よさをもたらす。
 5曲目の"ゼブラ"には彼らしいユーモアがはっきり見える。〈ワープ〉へのオマージュかと思わずにはいられないほどベタな循環コードのシンセリフではじまるものの、曲は支離滅裂に崩れていく。また、"問題の領域"のベタなシーケンスも、クラウトロック・リヴァイヴァルがノスタルジックに思えるほど、パロディと言うよりは新鮮な世界に誘導する。
 たとえばリチャード・D・ジェイムスのアンビエントのような、ロパーティンにはごく当たり前の、誰もが馴染みやすいメロディを作ろうという意識はないのかもしれない。だが、交錯するルーピングは恍惚を帯びた美しいメロディを描いている。その描写は、アナログ機材への郷愁によるものではない。インターネット世代のデジタル・アーティストがなしうるそれである......などと言いたくほど、90年代テクノとは根本が違っているように思う。エモーショナルだとも言えるのだが、だとしたらこの感情表現はあまりにも新しい。さもなければ、いま新しく引き起こされるファンタジーだ。
 最後の2曲"静かな生活"と"クロームの国"には、この傑作を締めるのに相応しい、感動的な分裂と静寂がある。アートワークが物語るように、このアルバムは音のシュールレアリズムだ。それは、TMTが言うように「非宗教的かつユートピア的理想主義」を思わせる。『Rプラス・セヴン』は、間違いなく2013年のベスト・アルバムである。いわゆる実験音楽と括ってしまうのがもったいないほど煌めいている。いや、本当に素晴らしい作品だと思います。朝方、窓の外に見える芦ノ湖を囲む木々は、ひと晩を経て黄色に近づいてきた。

- ele-king

Silent Poets - ele-king

 サイレント・ポエツ(下田法晴)は、ワイルド・バンチやネイティヴ・タンへのリアクションのひとつで、今日ダウンテンと呼ばれているスタイル(ヒップホップ、ダブ、ジャズ、ソウルなどの混合)の、90年代の日本の代表格(オリジナル・メンバーにはリトル・テンポの土生剛もいた)。ロービートの叙情主義。2005年にアルバム『Sun』を発表して以来、8年もの長い沈黙を守っていたサイレント・ポエツだが、この度自身のレーベル〈ANOTHER TRIP〉を立ち上げ、新たにミックスしなおされた『Sun』、そのダブ・ヴァージョンのアルバム『ANOTHER TRIP from Sun』の2枚を発表する。この日を待っていたファンも多いことでしょう。11月20日、Jazzy Sport経由にて2枚同時発売。


Silent Poets
SUN

ANOTHER TRIP

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Silent Poets
ANOTHER TRIP from SUN

ANOTHER TRIP

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Earl Sweatshirt - ele-king

 不穏なシンセサイザーの響きと陰鬱でダウンテンポなビートに導かれてアール・スウェットシャツのデビュー・アルバムの幕をゆっくりと引き上げるのは、アールその人ではない、SK・ラフレア(フランク・オーシャンの従兄弟)のねちっこいライムだ。セカンド・ヴァースになってアールはやっとその重い口を開く。「I'm a problem to niggas......」

 開口一番に彼がそうラップしている通り、アール・スウェットシャツは問題児だ。そうであるがゆえに、アールの物語は平坦なものではなくなった。『ロード・トゥ・ドリス』というアンオフィシャルなミックステープもあったが、『ドリス』へと至る道程は長く曲がりくねったものだった。
 アールの複雑な物語については、ピッチフォークの記事日本語訳がLomophyにある)などが詳しい。ここでは簡単に紹介するに留めよう。
 2010年、当時16歳のアールは、ミックステープ『EARL』の高評価やオッド・フューチャーの成功にも関わらず、表舞台から姿を消した。1年後、素行不良を心配した母親(市民権法の専門家で、UCLAの法学教授)によって、アールはLAから遠く海を隔てたサモアにある非行少年のための更生学校に入れらていたことをコンプレックスがスクープ。ドモ・ジェネシスやホッジー・ビーツらオッド・フューチャーのメンバー自らが煽り立てる「フリー・アール(アールを開放せよ)」というキャンペーンもあったものの、アールは沈黙。2012年、新曲"ホーム"とともに、アールは突如音楽活動を再開させた。

 何はともあれ、リハビリのようないくつかの客演によってアールは復活する。そして、満を持してリリースされた彼のファースト・シングル"チャム"は、それまでの猟奇的で暴力的な表現を捨て去り、パーソナルな告白を淡々とラップした傑作となった。
 2010年よりも幾分か低くなった声でもって、アールは壁を築きあげるかのように隙間なく言葉を積み上げていく。「父が去り、俺をファザーレスにしてたぶん12年になる/俺は父を憎んでいると、本心じゃなく冗談でよく言っていた/本心では父が恋しかった、俺が6歳のときみたいに/それを言うチャンスにはいつもそれをぐっと飲み込んでいた」。
 アールの父である南アフリカ出身の著名な詩人、ケラペトセ・クゴシトシルは、60、70年代にはアフリカ民族会議の主要メンバーで、後にアメリカに渡り、ラスト・ポエッツのメンバーに影響を与えたとも言われている(ちなみに、アールの本名はシーベ・ネルーダ・クゴシトシルというが、彼は本名で呼ばれることを好まない。ミドル・ネームはパブロ・ネルーダに因む)。彼は、6歳のアールと妻を残して南アフリカへと戻っている。
 父への愛憎、父の不在による喪失感と渇望感というのは『ドリス』において重要なファクターである。祖母の死について語った"バーガンディ"(プロデュースはネプチューンズ)では、父が詩人であることによって周囲の期待値が高いことへの不安を吐露している。父の不在、父に対する複雑な感情はドモ・ジェネシスとも共通しており、"ナイト(Knight)"において彼は「この成功を見ろよ、俺は父親なんて必要ないって事実がわかったんだ」とラップしている。そして、小林雅明が指摘している通り、それは親友にして兄貴分であるタイラー・ザ・クリエイターとも同じくするものである(『ウルフ』の"アンサー"という曲を聴いてほしい)。

 とはいえ、アールはサモアで去勢されて帰ってきたわけでも、『ドリス』が『EARL』を葬り去ったというわけでもない。"ホア(Whoa)"は2010年の薄汚れたシットでファックなファンタジーを蘇らせているし、"ハイヴ"では「約束するよ(ギル・スコット・)ヘロン、俺は拳を突き上げる(ブラックパワー・サリュートのことを指している)、俺のを咥えてもらってからな」とラップしている。

 『ドリス』はダーティで揺れるビートとベース、浮遊するシンセサイザーによって禁欲的に仄暗く彩られている。アルバムを通してメロディアスなフックもほとんどなく、ポップな部分は皆無だ。緻密に隙間なく組み上げられたリリックと、ポエトリー・リーディングにも似たモノトーンで平坦だがスキルフルなアールのラップは、時折息苦しくも感じられる。アルバム・ジャケットで、磔にされたキリストと同じように目を閉じて俯くアールの物憂い相貌が『ドリス』の雰囲気を確かに伝えている。
 それでも『ドリス』は2013年のラップ・アルバムの中でも最も輝かしい1枚だと、少なくとも僕にとっては感じられる。それはこのアルバムにアール・スウェットシャツの成熟や煩悶、苦悩、自己卑下や自尊心が、あるいはファースト・フードやエナジー・ドリンク、スターバックス、インスタント・ラーメン、タコス(そしてコークにウィード)にまみれた生活が、深く深く刻み込まれているからだ(私的なことを付け加えれば、僕もファザーレスだからこそ彼に感じ入り、肩入れしている部分もある)。
 陳腐な言葉で言えば、それはリアルである、ということになる。"チャム"のフックでアールはラップしている。「何かが不吉だ/振り子がゆっくりと揺れる、頽廃的な動きで/罪人の街を抜けて、こっそりと、敵の芝地へようこそ/移民の働きよりもハードに、俺のシャツには『GOLF』の刺繍/舗道を外れ、俺の魂のゴミを払いのけるんだ」。アールは自分のことを「awkward」だなんて語っている。ライミングは淡々と起伏なく滑らかだが、アールの感情のゆらめきがどこかぎこちなく無様だからこそリアリティを持って伝わってくるのだろう。どこまでもリアルで憂鬱な、だからこそエヴァー・グリーンなアルバムである。

ジャンルではない何かを見に - ele-king

どこをとっても凹みなし! Vol.1、vol.2は品切れ状態という注目の自主制作漫画雑誌、『ジオラマ』『ユースカ』を発行する〈ジオラマブックス〉が、初めて音楽イヴェントを企画する。その名も〈ジオラマミュージックフェア'13〉。現在の音楽シーンの旬を詰めた充実のラインナップであると同時に、同誌が提示するものをくっきりと示す、まさに「フェア」だと言えるだろう。ジャンルではない何かによって結ばれる......ネットがつなぐリアリティと土地がつなぐリアリティとがハイブリッドなポップ・ミュージックを生み出す、楽しいパーティーになるにちがいない。

自主制作漫画誌『ジオラマ』『ユースカ』を発行する、いまもっとも注目されているインディペンデント・マンガ出版レーベル、ジオラマブックスが送る、音楽企画第一弾。
舞台は誌面からWWWのステージへ。 ジオラマ/ユースカゆかりのミュージシャン達が集結。豪華ゲストも登場する見逃せない一日です。
さらにラウンジスペースでは、ジオラマ/ユースカ執筆陣、特殊書店Lilmagによる一日限定の漫画家フリーマーケットを同時開催。
メインビジュアルを手がけるのは西村ツチカ、特別限定イラストチケットはゴトウユキコ。
この日のために用意される限定グッズやZINEをお楽しみに!

ジオラマブックス:https://twitter.com/dioramabooks

■ジオラマミュージックフェア'13
日程:2013年10月19日(土)
会場:渋谷WWW
時間:OPEN 15:30 / START 16:00
出演:トーベヤンソン・ニューヨーク / (((さらうんど))) / tofubeats / cero / 嫁入りランド /スカート / PR0P0SE / error403 & U-zhaan / okadada / STAG(DJ)/ サヌキナオヤ(VJ)
料金:前売¥3,500 / 当日¥4,000(ドリンク代別)

※前売購入者限定来場者特典(ポストカード6種セット+別バージョンイラストチケット)あり。
※当日会場にてお渡しいたします。
※出入り自由(再入場時要ワンドリンクオーダー)。
前売:ローソンチケット[Lコード:73701]・e+
シネマライズチケットボックスにて9月21日(土)より発売開始。
※シネマライズチケットボックスでは特別限定イラストチケット(100枚限定)を発売。
お問合せ:WWW 03-5458-7685

イベント詳細URL→ https://www-shibuya.jp/schedule/1310/004446.html


David Kanaga - ele-king

 レトロフューチャリスティックという奇妙な時制を持つ言葉によって、ある種の「未来」は永遠にクラシカルなものとして留めおかれることになった。そもそもはとても素朴というか、空飛ぶ車とか空中都市のような、高い水準の工業技術を持った世界がその主なイメージだったのだろうけれども、『トロン』のような作品を指してそう呼んだりもするから、いつしかそれはサイバーパンク的な世界観もひっくるめた、かなり大雑把な概念になったのだろう。詳しい人からすれば単なる誤用なのかもしれないけれども。

 レーベル最初の1枚であるフォード・アンド・ロパーティンの『チャンネル・プレッシャー』のジャケット・デザインが思いきりそうであるように、〈ソフトウェア〉にはそもそもこの意味でのレトロフューチャリスティックなコンセプトがある。シンセまたはエレクトロニックというゆるい共通項によって、ノイズやアンビエントからR&Bまで幅広い音楽性をカヴァーし、それでいて強いレーベル・カラーを誇るのは、このややディストピックでアイロニカルなロマンティシズムのためだ。物語ではなくタグでつながる現在の音楽シーンに、良質なフィクションやファンタジーをもたらしている稀有なレーベルのひとつである。一作一作がエッジイでありながら、OPNなどオーヴァーグラウンドでの成功例を生もうとしているところも得がたい。


 さて、そんな〈ソフトウェア〉がインディーズ・ゲームと結びつくのも必然といえば必然である。オークランドを拠点に活動するコンポーザー、デヴィッド・カナガによる『ダイアード(Dyad)』のサウンド・スコアが素晴らしい。いや、彼がこのゲームのために準備したトラックももちろんだが、このゲーム自体がそもそもかなりの傑作らしく、カナガを目利きしたプロデューサーへの賛辞も惜しむべきではないだろう。ゲームの世界はひょっとしたら音楽以上にレヴュー・サイトが充実しているのかもしれない。音楽にかぎらず文芸・芸術一般は必ずしも聴き手読み手のために制作されていないという神秘化された側面があるが、ユーザビリティが制作者のエゴに優先されるジャンルでは、もちろんのことレヴューが果たす役割は大きくなる。ちょっと調べただけでおびただしいサイトが見つかり、インディーズ・ゲームの国際的フェスティヴァル〈Indiecade 2012〉でオーディオ・デザイン・アワードを受賞したという同作は、軒並み超高得点を獲得していることがわかった。そしてそのなかにはほぼ必ずカナガの音楽への言及と賛辞が見られる。筆者はゲームに疎いものでトレイラーを眺めるだけだが、なるほど、このゲームやヴィジュアルと切り離しては考えられない作品であろうことはうかがわれた。


 ぐるぐると渦を巻きながら前方へ伸びるトンネルのなかを高速で進んでいくシューティング・ゲーム・・・・・・ということでおおよその理解ができているだろうか? どうやらかなりシンプルなものであるらしい。一見に如かずということでトレイラーを見てみていただきたいが、前から後ろへと果てしなく広がっていく光と幾何学模様、そのミニマルでサイケデリックなヴィジュアル要素と、前へ前へと止まらないし止まれないスリル、それが高揚へと変わっていくアディクショナルな効果が持つ魅力は想像に難くない。カナガのトラックは、このまさに飴のようにのびる無時間的な時間のなかをさまざまに変色しながら突き進み、主体の視点と感覚をリードしてくれる道しるべのようだ。トレイラーにも使用されている"スタート・マッシュ"は密林を思わせる鳥の鳴き声のサンプリングに縁取られた、ニューエイジ風のアンビエント・トラック。ビートレスのゆったりとした曲だが、サイバー空間、でなければこのトンネルの向こうにあるはずの遥かなる「どこか」へと深くもぐっていくための導線として、はかり知れないスピード感も内包している。

 他方で、エイフェックス・ツインやブラック・ドッグ、ケトルに比較できる叙情性も憎いほど効いている。"トレイラー2"などは、アナログシンセのあたたかみある響きも手伝って、ノスタルジックな光を帯びている。デイデラスやバスなどのファンにもおすすめしたい。ここに挙げたようなプロデューサーたちの作品を新幹線で聴いたことのある方なら、あの高揚やときめきをやすやすと思い返してもらえるだろう。高速で流れる風景と彼らのドリーミーなダンス・ミュージックとはおそろしいほどの調和をみせる。"オロル"なども同様だ。アブストラクトなビート感覚がエモーショナルに消化されている。ルーツにはブレイクビーツも感じられる。時折アッパーなエロクトロ・ディスコも挿入されるが、それらが全体として統一感を失わない。
 劇伴やゲーム音楽に必要なものは何か、という問いに答える準備は筆者にはないが、少なくともこの作品においてカナガが重要なパフォーマンスを担いそれを全うしていることは明らかだ。音楽の評価とゲームの評価とが分かちがたく結びつく、本作のようなハイブリッドが、現在形のエンタメ・コンテンツのリアリティを映しだしている。〈ソフトウェア〉はおもしろい。

トリックスター•キャバレエ
パトスの交歓、夢時空連続体

ご来場心よりお待ちしています。
Serph

 という招待状がある日あなたの郵便受けの底を鳴らすと、途端に空気は奇妙に色をおび、時間は伸び縮みをはじめ、あなたは夢のなかで目覚め、Serphの館への門が開かれる――

 これまで姿を現すこともライヴを行うこともなかったミステリアスなベッドルーム・プロデューサー、あのSerph(サーフ)が初のライヴ公演を行う。これはSerph新章の幕開けを告げる、非常に貴重な瞬間となることだろう。

 『ele-king vol.9』のインタヴューに詳しいが、Serphは知れば知るほどおもしろい。彼のドリーミー・ヴァイブは度外れの規格外だ。一見美しく叙情的なIDMが、その姿のまま静かに牙を剥いて聴く者を食らいにくる。狂気と呼ぶのが安直すぎてためらわれるようなSerphの魅力をより深く感じるためにも、彼のたたずまいや彼自身の身体から発信される信号をキャッチできる機会は見逃せない。

 ライヴ・ステージは本当に初めてとのことで、Serphにとってもおそらくは大変な緊張を伴うステージとなるわけだが、編集部も楽しみに、心待ちに、1月を待っている......この奇妙な招待状とフィリップ・K・ディックを手に、いざ!

■noble presents Serph 1st concert
"Candyman Imaginarium"

開催日:2014年1月11日(土)
会場:LIQUIDROOM
出演:Serph
OPEN / START:18:00 / 19:00
ADV / DOOR:¥3,500(税込・ドリンク別) / ¥4,000(税込・ドリンク別)

前売りチケット取り扱い:
イープラス (https://eplus.jp/)
ローソンチケット (Lコード:77245)
チケットぴあ (Pコード:213-358)

前売りチケット発売スケジュール:
イープラス先行発売予約受付期間:2013年10月26日 正午~11月4日 18時
一般発売日:2013年11月16日

お問い合わせ:
LIQUIDROOM (03-5464-0800 / https://www.liquidroom.net)
noble (https://www.noble-label.net/)

イヴェント詳細リンク先:
https://www.noble-label.net/cmi
https://www.liquidroom.net/schedule/20140111/16632/

謎に包まれた異色音楽家Serphの初ライヴが決定。
一切のライヴ活動を行わず、アーティスト写真も詳細なプロフィールも謎なまま、リリースされた作品が軒並み驚異的なセールスを記録している異色の音楽家、Serph。2009年のデビュー以来初となる記念すべき1stコンサートを、リキッドルームにてワンマンで開催することが決定しました。「Candyman Imaginarium」と題されたSerphの初コンサート。ファンタジックでドリーミーなSerph独自の音世界が、どのようにリアルな空間で繰り広げられるのか、どうぞご期待ください。今後のライヴ活動は一切未定ですので、くれぐれもお見逃しなく 。

■Serphプロフィール
東京在住の男性によるソロ・プロジェクト。2009年7月、ピアノと作曲をはじめてわずか3年で完成させたアルバム『accidental tourist』を〈elegant disc〉よりリリース。2010年7月に2ndアルバム『vent』、2011年4月には3rdアルバム『Heartstrings』、11月にはクリスマス・ミニアルバム『Winter Alchemy』を、それぞれ〈noble〉よりリリース。最新作は2013年3月に〈noble〉より発表した4thアルバム『el esperanka』。
より先鋭的でダンスミュージックに特化した別プロジェクトReliqや、ヴォーカリストNozomiとのユニットN-qiaのトラックメーカーとしても活動している。


Arca - ele-king

 なんだ、これは。と思ってから、すでに2ヶ月以上が経過している......が、むしろ聴けば聴くほどその思いは深まっていく。聴くたびに発見があり、それと同じくらい、謎も増えていく。わずか25分程度のミックス音源でありながら、体感時間はその数倍に及ぶ。
 アンビエント、ヒップホップ、トリップホップ、ゴーストリー、インダストリアル、エレクトロニカ、ジューク、ダブ、ニューエイジ、チョップド・アンド・スクリュー、あるいは金属やガラスが擦れる音......どこまでも断片化された、超未来音楽のスケッチ。それでいて、断片化されたビート・ミュージックの無数のスクラップが、いまこの時代のためにかりそめのビート・ミュージックとして統合されたかのような――。
 表題には「&」が5つも並べられているが、そのあいだにはどのような音楽上のジャンル/概念を代入していただいても結構、とでも言うかのよう。まったくもって規格外だ。2014年、〈Hippos in Tanks〉からのフル・アルバムが噂されるアルカ(a.k.a Alejandro Ghersi)のミックステープ、『&&&&&』がとにかくスゴイ!!

 ベネズエラ出身、ニューヨークはブルックリン在住、弱冠22歳のこのトラックメイカーは、一般には、カニエ・ウェストの怪作『イーザス』に数曲("ニュー・スレイヴス"や"ブラッド・オン・ザ・リーヴス")で参加する謎の新人、ないしは三田格までもが惚れ込んだFKAツウィグスのネオ・トリップホップ/未来型R&Bのレポート『EP2』を共同プロデュースし、"ハウズ・ザット"などの傑作を生みだした新進気鋭として知られる(欧米での評判は「ポスト・インターネット時代におけるトリッキー」等々)。
 もともとの所属は〈UNO NYC〉で、アルカ名義でのEPを2枚リリースしてるほか、デス・グリップスとエイサップ・ロッキーのあいだを埋める核弾頭的存在、ミッキー・ブランコとも"ジョイン・マイ・ミリシャ"で共演している。〈フェイド・トゥ・マインド〉とは互いに意識し合う関係にあるはずで、現場感を含めれば工藤キキさんが本誌でレポートしている〈GHE20G0TH1K〉周辺の動きとも関連がありそう。

 だが、昨年来、僕のようにヴェイパーウェイヴにハマってきたインターネット的な人間であれば、まったく別の側面からこの音楽を見るだろう。つまり、過去のものとなった近未来像をノスタルジックにローファイ処理し続けてきたヴェイパーウェイヴとはまったく逆向きにベクトルを伸ばし、その超未来都市的な映像のイメージとハイファイな音響処理を振りまきつつ生まれていたアンダーグラウンドの新潮流、「ディストロイド(Distroid)」なるタームの最新ヴァージョンとして。
 この聞きなれない言葉は、ヴェイパーウェイヴと同じくイギリスの批評家、アダム・ハーパーがウェブ・マガジン『ダミー』で提唱したもので、「disturbing(不穏な)」や「dystopian(暗黒郷めいた)」のディストに、「android(人造人間)」や「steroid(ステロイド剤)」のロイドを掛けたもので、具体的には〈GHE20G0TH1K〉にも参加しているファティマ・アル・カディリ、あるいはゲートキーパーといった、〈フェイド・トゥ・マインド〉やボディーガード(というかジェイムス・フェラーロ)以降の〈ヒッポス・イン・タンクス〉周辺アーティストがカウントされていた。
 ザックリ言うと、紙版『ele-king vol.11』号の「ディストピア世界で笑顔になれる40作」特集で斎藤辰也がファティマ・アル・カディリを挙げて書いているように、これらの音楽には「人の気配がまるでない」。あるいは、シーパンクにまとわりついていた海やイルカのイメージもない。先端医療工学/人体解剖学を彷彿させる抽象的なイメージ、あるいはバイクやヘリコプターといった機械の無人運転と、それを見つめる神の視線がひたすらハイファイに供給されるのみだ(ジャム・シティの『クラシカル・カーヴス』を思い出してもいい)。

 こうした感覚が何を表象しているのか、ずっと考えているのだが、いまのところピンとこず、『ele-king vol.9』のインダストリアル特集を読んでも、あるいは『vol.11』号での飯田一史氏と海猫沢めろん氏のディストピア対談を読んでも、腑に落ちるアイデアがどうにも閃かなかった(ので、情報の羅列に終始していることをお許しいただきたい......)。
 アルカに関して言えば、最新の電子機器と動物/臓器の遺伝子を組み合わせた合成生物(?)のイメージを初期から好んでおり、このミックステープにおいてもジャケのモンスターをヴィジュアル・アーティスト、ジェシー・カンダが手掛け、MoMAのPS1 現代美術センターにおいてフル尺でのフィルム上映を行い、本人たちは「これまでで最高に美しいミステイクだ!」などと言って笑っている(いまのところ、その全貌はYouTubeで観ようと思えば観られる)。
 そう、少なくとも彼らはディストピアの旧態的なイメージに囚われない。ディストピアで笑い、遊び、はしゃいでいる。その無邪気にして強靭な実験精神は、エメラルズ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーでさえも軽く呑み込んでいる。ベースがヘヴィに唸り、ビートの置き方が騒がしい前半もいいが、ハードなシンセの発色に酔う17分以降の騒々しいサイケデリアも、どこまでも高く飛ばせてくれる。この恐るべきレフトフィールド、未来はノックもせずにやってくるのか。挨拶代わりのミックステープ、まさかのフリー・ダウンロード!

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