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嫁入りランド

嫁入りランド

@月刊ウォンブ! 渋谷WOMB

July. 30, 2013

文:橋元優歩   Oct 18,2013 UP

 半袖の季節が終わりきる前に、ある7月のイヴェントの強烈な印象について書いておきたい。スーパーボールの原色や蛍光が目の前を乱れ飛び、逆光のなかでカメラのシャッターがこちらに向かって切られたあの瞬間を、わたしはスローモーションで思い出すことができる。たくさん女子が笑っていた。いや、人数にすれば大したことがないかもしれないけれど、この日の記憶に焼きついているのはとにかく女子が笑っていたということで、どんな規模であれどんなトライブであれ女子が笑うところには天の岩屋戸を動かすエネルギーがある。黄色い声が飛び交うイヴェントはたくさんあるけれども、あのとき目にしていたのはちょっと予想外の感触。その感触を解きほぐせないうちから「“何かの瞬間”に立ち会っているかもしれない」感に心が躍った。ステージの上にいたのは嫁入りランドである。

 見ようによってはちょっと文化系の女芸人とも解釈できそうなたたずまいの女性3人組。彼女たちはすでにシーンでは熱い注目を浴びる“噂の”ラップ・グループだ。彼女たちの存在をヒップホップの文化史に照らしたり、そのなかに位置づけたりする能力は筆者にはないが、「新世代のスチャダラパー」のように言われたり、日本の「歌謡ラップ」をスネークマンショーから説き起こす磯部涼の論考(「ニッポンのラップ」第四回、『エリス』収録)の末尾にもその名が登場するなど、語るべきエネルギーと検証すべき魅力が詰まったグループであることは間違いない。

 だが、ひとまずそういうことは後回しだ。ぼんやりしているうちに彼女たちはリングにはやくも学祭のように賑やかなノリを引っ張ってきてしまった(〈月刊ウォンブ!〉なのでステージはリング。翌8月には実際にレスリングが行われた)。爪を見せ合って「見て、WOMB仕様。」「カワイイ。」なんてやっている。DJがついているわけではなく、ポチッと機材のボタンを押すだけのカラオケ・スタイルでトラックがはじまり、ラップがはじまる。

 たとえばMARIAのようなスキルを持っているわけではないけれど、彼女たちには彼女たち一流の言葉のセンスがあり、その斡旋に長けている。そしてたたずまいそのものにもとてもスマートな批評性がある。なんとなく学校を出たわたしたち、というような学生とも社会人ともいえない時間感覚、かつそうした枠の外のワイルド・サイドとは縁遠い「平均的な」風貌に親しみを覚える人も少なくないだろう。実際のところ彼女たちがどういう境遇にあるのかは知らないが、そのパフォーマンスからは「平均」や「普通」ということが持つクリティカルな側面がなめらかに切り出されていて、とてもいまらしさを感じる。

 「普通」問題は繊細だ。実際、「普通の女の子」というときの普通の水準はけっこう高い。「非モテ」から「貧困」まで、社会的文化的な関心が、より高いものではなくより低いものに向けられるようになってから、普通という言葉が示すところは揺らぎ、多様化したように思う。嫁入りランドのステージは、そんなバランスの上で成立する「普通」のひとつがおおらかに楽しげに歌われ謳歌されているようで、ぐっときた。そもそも“郊外の憂鬱”とか “嫁入りランドのLOCAL DISTANCE”“暮らしのジャングル”など、曲名だけをとってみてもかなり意識的に2000年代の風俗や社会感覚が切りとられていて、彼女たちがけっして若さや女子ユニットという華やぎに寄りかかる芸風でないことは明らかだ。そして批評的に機能する力を持ったそれらキーワードに寄りかかることもない。彼女たちは彼女たちの言葉を持っている。「ヤーマン越え 谷越え 川越~」という軽やかな言葉遊びのひとつから、ばーっと視界が開けていって、2013年の風景がみえる……そしてなぜだか女子がみんな楽しそう……そんなステージなのだ。

 さて、「えんたけー」「えんもたけなわってヤツですね!?」とまた奇妙な角度からのMCがはじまり、どうやら宴もたけなわになった。「ここはヤグラなんですよ」「これは盆踊り大会なんですよ」「びっくりでしょー!?」とさらに急角度で設定が加えられて、〈WOMB〉は盆踊り会場になった。たしかに、オーディエンスには何か見たことのないものに触れる興奮のようなものが伝播していたけれども、そこに唐突に盆踊りというコンセプトが与えられたことで、一気にエネルギーが放出口を見出して流れ出した。
 「ちょっと、目つむって!」「スゴーイ!!」「ヤグラじゃん!!」「ヤッター!」「ヤッター!」夏祭りのお囃子の音とともにリングはヤグラに変わり、この急展開のなかで〈月刊ウォンブ!〉も新しいステージを踏んだ……のだろうか。なんだか楽しくてヤグラにむかってへらへらしていると、今度は「ペンシルカルパス」と印刷された古ダンボールが引っ張り出されてくる。そしてこのレポートの冒頭へ場面は移る。ダンボールのなかから小さめのスーパーボールがバラバラとオーディエンスに向かって投げられはじめ、女子も男子もきゃあきゃあ笑ってそれを拾うというさらなる謎展開、そして舞台の上からカメラのシャッターが切られ、これまた唐突にわれわれの姿は無作為にフィルムのなかに収められることになる。彼女たちは自撮りにも余念がない。これは宴もたけなわというか、宴の底が抜けた瞬間で、その後また急に幕引きを迎えるまで不思議な恍惚状態がつづいた。アルコールでも薬物でもなく、また黄色い声援が生む熱狂でもなく、何かもっと透明なものを火元に燃えているこのヤグラの炎を、筆者は憧れとリスペクトの眼差しで見つめた。

 言葉の達者だけれども言葉だけではない、音やビートの彫琢によってでもない、しかし芸というよりは生きた音楽として、嫁入りランドのライヴは際立った印象を残した。宴会芸や学芸会の出し物のようでいて、それは素人の起こした奇跡とは違う。青文字も赤文字もオタクもすり抜けて、職業意識からもアマチュア意識からも表現活動や芸術活動の使命感等々からも自由に、強いて言えばおもてなし感覚くらいを添えて……。

 明確な計算のもとに行われたものではないだろうけれども、彼女たちは何かを描き、取り出しているということがはっきりと伝わった。そしてその根元を支える普通さの感覚にしびれた。それがダイレクトに女子を笑わせているところに感激した。ちょっと女子女子と言い過ぎだと自分でも思うけれど、だって、たとえば同じ年頃でも、140文字で必死に虚勢とカッコをつけあい、フォロワー増やしゲームに絡め取られるツイート男子たちが、彼女たちの言葉より女子を楽しくさせることができるだろうか、と考えると感じ入ってしまう。
 ここで見たものが何だったのか、誰かもっとうまい言葉にしてくれたらうれしい。さわるとゴムがねちゃねちゃするこのスーパーボールが、未来の礎になることを期待して。

文:橋元優歩