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Oneohtrix Point Never

AbstractAmbientExperimental

Oneohtrix Point Never

R Plus Seven

Warp/ビート

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野田 努   Oct 18,2013 UP
E王

 僕はいま、ロープウェイを乗り継いでやって来た箱根の山奥のホテルの一室で、世にも美しく、しかし名状しがたい音楽を聴いている。ブルックリン・ベースのワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、OPNとして知られるダニエル・ロパーティンは、〈ワープ〉からの新作において、我々に新たな音響体験を提示している。80年代の、賞味期限切れのCMをカット&ペースト&ルーピングして作られた前作『複製(Replica)』から露骨な変化は感じないが、予想外の変化はある。
 20世紀のデジタルの墓場、彼いわく「ポスト黙示録的世界における社会の残滓」から音源を拾い、カット&ペースト&ルーピングして作られるOPNの音楽は、ライナーノーツで三田格がいみじくも書いているように「ここ数年、とんでもない勢いで変貌し続けるUSアンダーグラウンドの中心」だと言えよう。『リターナル』以降、我々は可能な限りダニエル・ロパーティンを追いかけている。あのアルバムの1曲目のノイズに度肝を抜かれ、そしてそれ以降の彼の静寂にやや緊張しながら耳を傾けている。
 前作『レプリカ』になくて『Rプラス・セヴン』にあるもの、それは官能である。『レプリカ』には、アートワークが暗示するようにある種の悪意が混じっている。アイロニカルな響きがあり、音もローファイだった。それに比べると新作はずいぶんとクリーンな音だ。とっちらかっているのに関わらず、信じられないほどの調和があり、美がある。

 1曲目の"退屈な天使"は、驚異的な曲のひとつだ。薄ぼんやりとしたデジタルのルーピングは、輪のように重なり、神聖な響きと冗長さを合成させる。ロパーティンの音楽はおおよそリスナーの解釈に関わっている。少年だとか夢だとか、あるいは何かの具象性もなく、ダンス・ミュージックを当てにすることもない。タルコフスキーやヘルツォークといったヨーロッパの映画を好んでいるようだが、とくに映像的だとも思えない。とはいえ、『サクリファイス』ではないが、ユートピアとディトピアの断片が混線しているようにも感じる。ひどく分裂的で、スピード感があるというのに平穏でもある。落ち着きがないのに陶酔的で、醒めていながら瞑想的でもある。"アメリカ人たち"や"彼・彼女"、"内側の世界"といった曲のカット&ペースト&ルーピング&エディティング(スタッターリング)には、分裂的なイメージが散文的に展開されている。そして、アンビエントでもなくダンスでもないこの音楽は、耳を飽きさせないどころか、僕に不思議な心地よさをもたらす。
 5曲目の"ゼブラ"には彼らしいユーモアがはっきり見える。〈ワープ〉へのオマージュかと思わずにはいられないほどベタな循環コードのシンセリフではじまるものの、曲は支離滅裂に崩れていく。また、"問題の領域"のベタなシーケンスも、クラウトロック・リヴァイヴァルがノスタルジックに思えるほど、パロディと言うよりは新鮮な世界に誘導する。
 たとえばリチャード・D・ジェイムスのアンビエントのような、ロパーティンにはごく当たり前の、誰もが馴染みやすいメロディを作ろうという意識はないのかもしれない。だが、交錯するルーピングは恍惚を帯びた美しいメロディを描いている。その描写は、アナログ機材への郷愁によるものではない。インターネット世代のデジタル・アーティストがなしうるそれである......などと言いたくほど、90年代テクノとは根本が違っているように思う。エモーショナルだとも言えるのだが、だとしたらこの感情表現はあまりにも新しい。さもなければ、いま新しく引き起こされるファンタジーだ。
 最後の2曲"静かな生活"と"クロームの国"には、この傑作を締めるのに相応しい、感動的な分裂と静寂がある。アートワークが物語るように、このアルバムは音のシュールレアリズムだ。それは、TMTが言うように「非宗教的かつユートピア的理想主義」を思わせる。『Rプラス・セヴン』は、間違いなく2013年のベスト・アルバムである。いわゆる実験音楽と括ってしまうのがもったいないほど煌めいている。いや、本当に素晴らしい作品だと思います。朝方、窓の外に見える芦ノ湖を囲む木々は、ひと晩を経て黄色に近づいてきた。

野田 努