「坂本慎太郎」と一致するもの

カフカ鼾 - ele-king

 本日、初となるスタジオ・アルバム『nemutte』をリリースしたカフカ鼾。ジム・オルーク、石橋英子、山本達久からなるこのトリオが、アルバムの発売を記念して12月1日にワンマン・ライヴを開催します!
 3人による圧倒的な演奏と、それを元に編集・構築された緻密なプロダクションが、ライヴでは一体どのような形へと昇華されるのか? ぜひ、あなた自身の耳でたしかめてみてください!

ジム・オルーク、石橋英子、山本達久。世界でも注目される3人によるスペシャル・バンド、カフカ鼾(いびき)。
いよいよ発売となる初のスタジオ・アルバム『nemutte』のリリースを記念したレコ発ライブが六本木スーパーデラックスで開催決定。
ワンマン・ライブでたっぷりと、この3人しか描けない世界を見に来てください。

[イベント詳細]
カフカ鼾(ジム・オルーク、石橋英子、山本達久) "nemutte" release live

2016.12.1(木) OPEN / START 19:00 / 19:30
VENUE 六本木SuperDeluxe

ADV/DOOR ¥3,000/¥3,500(+1D)

TICKET WEB予約 https://www.super-deluxe.com/
※スケジュールの12/1イベント詳細ページからご予約いただけます。

INFO https://www.super-deluxe.com/

名作を作り続ける彼ら諸作の中でも革新的な作品。より良いスピーカー、音楽環境で聴いた時に、驚きの世界を体感するでしょう。CDと高音質配信、2つのフォーマットでの発売となります。

カフカ鼾(Jim O'Rourke、石橋英子、山本達久)
『nemutte』
カフカイビキ / ネムッテ

2016.10.05 release
PECF-1141 felicity cap-258

定価:2,400円+税 (CD)
※高音質配信もございます。

1. nemutte

ジム・オルーク、石橋英子、山本達久。世界でも注目される3人によるスペシャル・バンド、カフカ鼾(いびき)、初のスタジオ・アルバムが完成。三位一体のトリオによる最高の演奏を、ジム・オルークが愛情と時間をかけて再構築した、極上の一品!

世界を股にかけて活躍する3人がメイン・プロジェクトとしているのがこの、「カフカ鼾(いびき)」。ジム・オルーク(JimO'Rourke)は、昨年、じつに13年半ぶりとなるヴォーカル・アルバム『Simple Songs』をリリースし、海外のメディアでも年間ベストに選ばれるなど、日本を拠点として世界中に衝撃を与えました。石橋英子は、Merzbowとのユニット「公園兄弟」で世界有数の電子音楽レーベル〈Editions Mego〉デビューを果たし、さらには星野源、坂本慎太郎の作品・ライブ参加や、映画音楽を手掛けるなど活動の幅を広げています。そして山本達久は、各国のアーティストたちとの即興演奏を始め、劇団マームとジプシーの音楽担当やUAの作品・ライブ参加など、多岐に渡って活躍する日本を代表するドラマーとして、重要な役割を担っています。

1曲39分。まるで映画のように紡ぎだされる音のストーリー。3人は、彫刻を掘りつづけるようにゆっくりと、1つの作品を極めて美しいフォルムに仕上げました。多彩な音が、ときには〈ECM〉諸作の凛としたミニマリズムと強く共鳴し、ときにはダンス・ミュージックのように素早いリズムを刻み、テンポやジャンルにとらわれず自由に形を変えていきます。ひとたび耳にすれば、決して難解ではない、気持ちの良い音楽の渦に取り込まれるのです。変幻自在のトリオだからこそできる生演奏ならではの魅力が、ダンス・ミュージック・ファンをはじめ、様々な音楽ファンを虜にすることでしょう。

初のスタジオ・アルバムとなる本作は、3人の即興演奏の空気をエンジニアのジム・オルークが新鮮なまま封じ込め、その最高の素材を料理家のように切り刻み、テクニックを駆使して再構築。最初の録音からは約3年、トリオ演奏と、ジム・オルークによるレコーディング~ポスト・プロダクション~ミックスが究極の音楽作品へと昇華したのです。ステレオ・ミックスながらまるで映画館で体験するドルビー・サラウンドのような音の奥行と広がり。より良いスピーカー、音楽環境で聴いた時に、驚きの世界を体感するでしょう。CDと高音質配信、2つのフォーマットでの発売となります。これまで彼らの音楽を未体験のリスナーにこそ聴かせたい、名作を作り続けるジム・オルーク諸作の中でも革新的な作品が誕生しました。

坂本慎太郎 - ele-king

 世界は転機を迎えている、それは間違いない。日本は自分が望まなかった未来へと進んでいる。ただでさえ中年になるとマイナス志向になってしまうというのに、せめて清水エスパルスが毎回快勝してくれればいいのだがそういうわけにもいかず、現実は厳しいのう。

 『ナマで踊ろう』よりも反復するリズムをいっそう活かし、さらに空間的で艶めかしい音響をモノにした本作『できれば愛を』(の1曲目)を最初に聴いてぼくが真っ先に思ったのは、カンの『フロウ・モーション』だった。それはクラウトロックの王様が、ハワイアン/レゲエ/ディスコに接近した作品で、老練なゆるさがある。が、『できれば愛を』から見たら、『フロウ・モーション』でさえも、やかましい/うるさい/説明的で押しつけがましいな音楽かもしれない。
 これはまず音響的冒険であり、最高のダブ・ミキシングだ。テンポの遅いミニマルなドラムは魅力たっぷりで、そのリズムに絡まるベースがまた独特な間合いで、しかも絶妙にディレイがかけられている。この、あたかも無重力の別世界で生成しているかのようなドラム&ベース=グルーヴは、唯一無二の素晴らしさだ。舌を巻いてしまう。が、アルバムの脱力感は、いま現在のぼくの無気力さと紙一重でもある。その空しさは、後任も決まらないうちに編集部から姿をくらました橋元優歩さん(長い間お疲れ様でした~)が原因ではない、政治的な理由からだ。
 もっとも坂本慎太郎は、表面上は、『ナマで踊ろう』以上に社会問題に深入りすることはしなかった。「できれば愛を」という言葉は、例によって坂本節というか、ある意味ソツがなくカドが立つ言葉ではない。それは彼の一貫した美学でもある。『ナマで踊ろう』はある意味自ら掟を破った作品だったわけだが、今回は、音楽的には前作をアップデートさせながら、じつは言葉的にも引き続き絶望的な気持ちを代弁している。東京都知事選後のいま聴けば特別な意味を帯びてくるだろう。

自分のしたことが招いている
悲しいくらい俺は
恥ずかしいくらい俺は
さみしいくらい俺は
無力だ “超人大会”

 坂本慎太郎がニヒリスティックなのは、いまにはじまったことではない。彼にユーモアがあるのもわかる、それでも、すべてが馬鹿に見えてしまっている“マヌケだね”のような曲に、いまのぼくはどうしても乗れない、愛想笑いすらできない、本当に落ち込んでくるのだ。自分に余裕がないからだろうか。中年だからだろうか。自分が本当に無力でマヌケだかろうだか。いまはそんなふうに抽象的に、自分たちはダメだダメだダメだと繰り返することに意味があるのだろうか……いや、坂本慎太郎には意味があるのだろう。なにかそれなりに強い気持ちがなければこの作品は生まれない。だが、あまりにも現実がひどいせいだ、いまはその抽象性にぼくは違和感を覚える。

 ディスコというのは70年代の音楽であり、ソウルの発展型だ。2016年、ダンス・ミュージックはいまも動いている。カンはさまざまな世界の音楽にコネクトしようとしたし、『フロウ・モーション』にもその痕跡がある。今年のグランストンベリー・フェスティヴァルにおけるデイモン・アルバーンはシリアのオーケストラを招いて演奏した。それは、世界の転機にいる現在の、彼なりのひとつの回答だろう。もちろんそんなことだれもができるわけではないけれど、音楽にはまだできることがある。わかった! 年末号の紙エレキングの特集はこれでいこう。だったら、いまぼくたちに何ができるのか? ただ本当に無力でマヌケなだけなのか?

 坂本慎太郎のzelone recordsからの新作案内によれば、『ナマで踊ろう』からおよそ2年ぶりの、坂本慎太郎の3枚目のソロ・アルバム『できれば愛を(Love If Possible)』のリリースが決定しました。7月27日(水)発売です。
 内容に関しては、「顕微鏡でのぞいたLOVE」という分かりにくいテーマのもとに制作された全10曲と、それを分かりやすく表現したアートワークが完成いたしました」とのことです。カセットも出るようですね。
 期待しましょう。

■2016年7月27日(水) zelone recordsより発売!

できれば愛を / 坂本慎太郎 

1.できれば愛を(Love If Possible)
2.超人大会(Tournament of Macho Men)
3.べつの星(Another Planet)
4.鬼退治(Purging The Demons)
5.動物らしく(Like an Animal)
6.死にませんが?(Feeling Immortal)
7.他人(Others)
8.マヌケだね(Foolish Situation)
9.ディスコって(Disco Is)
10.いる(Presence)

All Songs Written & Produced by 坂本慎太郎


●CD:
初回生産盤: zel-015s / JAN: 4582237835205
通常盤 : zel-015 / JAN: 4582237835212
価格: ¥2,600+税 (初回生産分のみ紙ジャケ仕様/各2枚組/インスト


●LP (Vinyl): zel-016 (1枚組/mp3DLカード付)
価格: ¥2,600+税


●CT (Cassette Tape): zel-017
価格: 2,130円+税

●Digital: iTunes Music Store / OTOTOY / レコチョク
●Hi-Res: OTOTOY / e-onkyo / mora   

interview with Shonen Yoshida - ele-king


吉田省念
黄金の館

Pヴァイン

RockPops

Tower HMV Amazon

 彼の知遇をえたのは2013年夏から初秋。不幸な事件で逝去された山口冨士夫さんの本をつくるにあたり、調べていくうちに、村八分と親交のあった京都の美術家ヨシダミノルさんのご子息が音楽をやられていると知った。吉田省念は当時、前年の10作目『坩堝の電圧』を最後、というか最初で最後にくるりを脱退した直後で、ソロ・アルバムの制作にとりかかったばかりのころだったと以下のインタヴューをもとに時系列を整理するとそうなる。私の原稿の依頼を省念さんは快諾され、あがってきた原稿はヨシダミノルさんと村八分(ことにチャー坊)との交流を、子どものころの曇りのない視線から綴った滋味あるもので、私は編集者として感心した、というのもおこがましいが、味わいぶかかったのである。

 3年後、吉田省念がソロ名義では初のアルバムを完成させたと連絡を受けた。『黄金の館』と名づけたアルバムは冒頭のインストゥルメンタルによる起伏に富んだタイトル曲にはじまり、「伸びたり縮んだり 人によって違うかもしれない」(「一千一夜」)時間のなかの暮らしの匂いと無数の音楽との出会いを映し出すやはり旨味のあるものだった。情景はゆるやかに流れ、季節はめぐり、見あげると音楽のなかで空は高い。これはなにに似ているとか、なにが好きでしょ、というのは仕事柄やむをえないにしても、それが音楽好きが集まって話に花を咲かせるように思えるほど、『黄金の館』の細部には血がかよっている。尾之内和之との音づくりは残響まで親しい。末永く愛聴いだきたい13曲の「ミュージック・フロム・黄金の館」。そういえばあのときお寄せいただいた原稿の表題は12曲めと同じ「残響のシンフォニー」でしたね。

■吉田省念/よしだ・しょうねん
京都出身。13歳でエレキ・ギターに出会ってから現在に至るまで、宅録を基本スタイルにさまざまな形態で活動を続ける。2008年『soungs』をリリース。吉田省念と三日月スープを結成、2009年『Relax』をリリース。2011年から2013年までくるりに在籍し、ギターとチェロを担当、『坩堝の電圧』をリリース。2014年から地元京都の〈拾得〉にてマンスリー・ライヴ「黄金の館」を主催し、さまざまなゲスト・ミュージシャンと共演。四家卯大(cello)、植田良太(contrabass)とのセッションを収録したライヴ盤『キヌキセヌ』リリース、〈RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014 in EZO〉に出演。2015年、ソロ・アルバムのレコーディングとともに、舞台『死刑執行中脱獄進行中』(主演:森山未來、原作:荒木飛呂彦、演出:長谷川寧)の音楽を担当する。2016年、ソロ・アルバム『黄金の館』をリリース。

(中学時代は)90年代です。でも自分の生きている時代の音楽は意識して聴いたことがなかったんです。とりあえずまわりの連中が聴いていないものを聴いていたい──。

吉田:2013年に記事を書かせていただいたのをきっかけに、「残響のシンフォニー」という言葉が最初にあって、曲にしようと思ってつくったんです。そういった心構えはつねにありますし、冨士夫さんのギターはほんとうに子どものときから聴いていました。生演奏で聴いたというよりライヴ盤ですよね。2枚組の『村八分ライヴ』をよく聴いていて、完コピしようと切磋琢磨していた時期がありました。

原稿には十代のころ、ビートルズやビーチ・ボーイズをコピーしていて、チャー坊からギターをもらったくだりがありましたよね。

吉田:父親がチャー坊と仲がよくてつながりがあったので、自分が音楽に興味をもちはじめたのを聞いてギターをもってきたんだと思うんですね。最初に触るギターがいいほうが巧くなるからこれ使えって。

それは真理ですね。一方で村八分と関わりがありながら、ビートルズやビーチ・ボーイズにも興味をもっていた。省念少年が最初に感化された音楽といえばなんでしょうか。

吉田:まずはビートルズが大きくて、はじめてLPを買ったのは中学のころのビーチ・ボーイズです。『サーフィンU.S.A.』でした。

中学時代というと――

吉田:90年代です。でも自分の生きている時代の音楽は意識して聴いたことがなかったんです。とりあえずまわりの連中が聴いていないものを聴いていたい、でもコレクターになるほどのお金は当然ない。『サーフィンU.S.A.』はとくにあの時代のグループがツールにしていたというか、カヴァー曲が多いじゃないですか。カヴァー曲もありつつ、エレキ・ギターのテイストとコーラスがよくてそれを聴くのが好きでした。

もうギターは弾いていたんですね。

吉田:はい。

ビートルズやビーチ・ボーイズをコピーして、しだいにオリジナルをつくるようになった?

吉田:順序としてはそうなります。

最初につくったオリジナル曲も中学時代だったんですね。

吉田:憶えていませんが(笑)、たぶんギターのリフとかでつくったのだと思います。でもそれをバンドで演奏しようとはそのころ思っていませんでした。バンドはやっていたんですが、オリジナルをやるよりはカヴァー曲でした。そのうち、チャー坊のギターを預かっていたので彼の追悼コンサートに出るようになって、それが毎年やってくるなかで、村八分の曲を披露することになるわけです。それで、ああ日本語で歌うのって難しいんだなと思ったんですね。自分で曲を書くようになって、英語がそう得意なわけでもないですから日本語でやりたいと思うようになりました。
 それこそ、僕の学生時代はゆらゆら帝国が出てきたころで、坂本慎太郎さんの日本語の使い方がほんとうに衝撃的でした。ゆらゆら帝国の『3×3×3』にははっぴいえんどの『風街ろまん』と並ぶ衝撃を受けたんです。くるりはじつはほとんど知らなくて。当時京都では(京大の)吉田寮が話題でしたが、チェルシーを掘り返して聴いていたりとかは、あまりなかったんですね。

坂本慎太郎さんの日本語の使い方がほんとうに衝撃的でした。ゆらゆら帝国の『3×3×3』にははっぴいえんどの『風街ろまん』と並ぶ衝撃を受けたんです。

ゆらゆら帝国の音楽も日本語のロックという文脈で聴いていたんですね。

吉田:言葉のチョイスとリズムを崩さないのがすごいと思いました。はっぴいえんどが「ですます」調にいたるのもリズムを考えてのことだと思うんです。音楽としての歌詞のあり方があったと思うんですが、(はっぴいえんどは)時代がちがったし、リアルタイムでそれを感じていたわけでもないので、それこそ細野さんの音楽を聴いているといっても後追いですから。日本語の音楽、しかも新譜として衝撃的だったということを考えるとゆらゆら帝国は大きいですね。

『3×3×3』は98年くらいでしたね。

吉田:サイケ耳で音楽を聴くのがそこで一気に流行ったというか、再認識があったと思うんです。「スタジオ・ボイス」でもやっていましたね。

そういわれると、なまなかな気持ちで仕事しちゃいけない気になります。

吉田:(笑)ゆらゆら帝国のポップさは独特だったと思うんです。それこそニプリッツのヒロシさんもかわいいじゃないですか、ロック・スターとしてのアイドル的なものがあると思うんです。

そのご意見はよくわかりますが、「いいね」がどれくらい押されるかといえばやや不安ですね(笑)。

吉田:(笑)でも細野さんにもかわいらしさがあるし、それは必要な要素かなと最近思うんですが、自分にはどうも――

いや、かわいいと思いますよ。

吉田:やめてくださいよ(笑)。

売り方が変わるかもしれませんが(笑)。そういった先達のやってきたことは、ご自分で音楽をやる段になると意識されますか。

吉田:あると思いますよ。

デモをつくりこみすぎると、だったらそれでいいじゃんとなってしまう。その時期にたまたまエンジニアの尾之内和之さんに再会したんです。

それでイミテーション的になったり反動的になることもあると思うんですが、吉田さんの音楽はとても素直だと思うんです。おそらく批評的な視座は強くもたれていると思うんですが、そこに拘泥しないおおらかさを感じます。細やかですが閉塞的ではない。

吉田:素直にやった結果だとは思いますよ。自分は自分が好きなミュージシャンや尊敬するミュージシャンにたいして、こういうものをつくったんだよという、ミュージシャンにはそういうところは絶対あるじゃないですか。でもそれだけになってもよくないと思うんです。たとえば、ライヴに来ているひとのなかで、音楽をやっていないひとのほうがよく聴いてくれたりする。ミュージシャンが音楽をちゃんと聴いていないと、いちがいにはいえないですが、ライヴに来てくれる方には音楽をすごく細かいところまで聴いていて、こういったひとたちに聴いてもらいたいというのはどういうことか、このアルバムが開けているのだとしたら、そういったことを考えていたからかもしれない。

『黄金の館』の制作をスタートしたのはいつですか。

吉田:昨年の2月です。2014年にくるりを脱退してからとりかかってはいたんです。ソロ・アルバムをつくるために辞めたわけではないんですが、つくらないとはじまらないし、自分のエンジンをかけていきたいという気持ちもありました。とりあえず録音やなと思って、本格的にレコーディングに入る前にも1~2曲、録音も自分でやったんですが、自分で録音ボタンを押して演奏するのだとなかなかうまくいかないところもあった。デモをつくってどこかのスタジオであらためて録ろうとも思ったんですが、今度はデモづくりに自分のエネルギーがドンといっちゃった。デモをつくりこみすぎると、だったらそれでいいじゃんとなってしまう。その時期にたまたまエンジニアの尾之内和之さんに再会したんです。彼はドイツのクラウス・ディンガーのところにいたんですが、ディンガーが亡くなって、ドイツにいる理由がなくなって、日本に帰ってきたら震災が起こった。京都に戻り、これからどう音楽にかかわろうかというところでの再会だったんです。

再会したということはそれ以前からお知り合いだったということですね。

吉田:三日月スープの前にすみれ患者というバンドをやっていたことあったんです。すみれ患者ではそれこそ即興で灰野敬二さんや高橋ヨーカイさんといっしょにライヴしていたこともあったんですが、そのバンドのルカちゃんという女の子の旦那さんになったんですね、尾之内さんが。彼はもともと日本画をやっていたころに椹木野衣さんと知り合ったようで、これからはドイツだよと助言を受けたそうなんですね。

ノイさんですからね。

吉田:そうですね(笑)。尾之内さんがどういう経緯でクラウス・ディンガーにつながったのかはわかりませんが、サブトレというユニットでドイツで活動していたこともあったようです。彼は音楽をつくるというより録音を通して活動していきたかった。その時期にたまたま再会して、いっしょにやることになったのが2013年の暮れです。

省念さんとしては、ご自分の音楽を外から見る視点がほしかった?

吉田:それはあります。『黄金の館』は宅録のアルバムなんですね。僕も、スタジオを構えたといっても、録音する空間と使う楽器はありますが、さらに録音機材まで用意すると破産しますからね(笑)。

くるりに参加して感じたのは、彼らはことレコーディングではほんとうにいろんなことを試すんですね。そこで感じたのは、あっ、試していいんだということの再認識だったんです。

そのわりにはというとなんですが、すごくよい音録りですね。曲ごとにその曲に合った録り方をしていると思いました。

吉田:そこにはかなりこだわりました。そういっていただけるととてもうれしいです。

スピーカーで聴いているときとヘッドフォンで聴くとき、イメージもだいぶちがいます。

吉田:音については、CDにする前、マスターの段階でかなり迷いもあったんです。ここを聴かせたいという部分を再現するには、聴いていただく方の再生機器の壁があるのも事実なので。そこではだいぶ悩みました。尾之内さんとミックスをしながら、いまやっていることは無意味なんじゃないかといったこともありました。絵でいえばずっと下地を塗っているような感覚ですよね。

『黄金の館』はおのおのの曲の情景がはじまりと終わりでちがうような感覚をおぼえました。いろんな要素がはいっていますね。

吉田:くるりに参加して感じたのは、彼らはことレコーディングではほんとうにいろんなことを試すんですね。そこで感じたのは、あっ、試していいんだということの再認識だったんです。ホーム・レコーディングでそれを試すのとちゃんとしたスタジオではもちろん次元がちがいますが。僕は昨今、スカスカな音楽が流行っていると思うんですね。音数が多い曲でいろんなことを試すのは、それは難しいわな、と思う反面、尾之内さんとの挑戦でもありましたし、今後もいっしょにやっていくための雛形にしたい気持ちもありました。

くるりでの活動が糧になったということですね。

吉田:くるりはメジャーで活躍しているバンドですし歴史もあって、くるりにいたときはそれをどうにか身体にいれようと思っていたところはありました。そこにいたのもたしかに自分なんですが、いざひとりではじめようとするとそこにいた自分が身体中にのこっていて、いま考えるとそれもいいことなんですが、一発めにそれが出てもいいのかということは考えました。それで時間がかかったのもあったのだと思います。

名刺代わりというと軽く聞こえるかもしれませんが、『黄金の館』は吉田省念というミュージシャンのいろんな側面を出したよいアルバムだと思いました。

吉田:ありがとうございます、欲ばりました。この前、ようやく岸田さんにこんなのつくったんですと電話して、お会いして音源を渡せたんです。スッとしました、ホントに。どう思ったかはさておいて、音を渡せたのはよかったです。

省念さんにとって、くるりに参加された経験は大きくて、無意識にせよ、それをふまえていたのかもしれないですね。

吉田:それもあって丁寧につくりたかったんだと思います。そうじゃないとちゃらんぽらんになるというか、いままでの自分を否定することになるから。

80年代にニューウェイヴをガッツリ追いかけていたオッチャンがいまは会社をやっていて、時間みてライヴに来てくれる、そういう方がなにか感じて、いいやんといってくれるのは素直にうれしいですよ。

アルバムをつくるにあたり先行した構想はありましたか。

吉田:全体の構想は曲を仕上げていくなかでできていきました。曲の順番は不思議なもので、曲を用意したときに、これは1曲め、2曲め……といった具合に13曲めまですんなり決まりました。9、10、11曲めはちょっと入れ替えましたが、最終的にほとんど変わっていません。

7曲めの“夏がくる”からB面といった構成ですね。

吉田:そうです。

前半と後半に厳密に分けられるとは思いませんが、A面のほうがブリティッシュ的な翳りの要素が強くて、B面はアメリカっぽい印象を受けました。

吉田:そうですね(笑)。オタク的なものが出たんでしょうか。

私のようなオッサンがニヤリとするのはどうなんでしょうか。

吉田:開けている、というのはそのような意味でもあるのかもしれませんね(笑)。

うまいこといいましたね(笑)。

吉田:でも思うんですけど、80年代にニューウェイヴをガッツリ追いかけていたオッチャンがいまは会社をやっていて、時間みてライヴに来てくれる、そういう方がなにか感じて、いいやんといってくれるのは素直にうれしいですよ。あの感じ、それに近いと思われるのは、僕はイヤなことではないです。そもそも引用を隠す技倆もない(笑)。ストレートにやるしかないんです(笑)。

ギター、ベース、チェロ、鍵盤、マリンバ――『黄金の館』で省念さんは数多くの楽器を演奏されていますね。

吉田:楽しんでやっているだけなんですけどね。ひととかかわって音楽をつくることは、他者に自分のイメージを言葉で説明するとことからはじまるじゃないですか。それってすごくたいへんで、そこで生まれる食いちがい、化学反応こみでバンドをやるのは楽しいですが、今回のレコーディングでは基本的に自分でいろいろやりたいなとは思っていました。

フォークウェイズから出ていたエリザベス・コットンやバート・ヤンシュを聴いて、アコースティックでもこんなグッと来る、攻めてくる音楽があるんだと思ったんですね。

細野晴臣さんや柳原陽一郎さんにはどのような意図で参加をお願いされたんですか。

吉田:細野さんには直接お会いしました。ライヴに行ったときに「僕は晴れ男なんだよ」とおっしゃっていたのを聞いて、「晴れ男」という曲でシュパッパというスキャットを入れてもらいました。できればもう1曲参加していただきたかったので「デカダンいつでっか」でもコーラスをお願いしました。僕はレス・ポールが大好きで、「晴れ男」はレス・ポール風のアレンジにしたかったんです。彼も宅録でしょ。細野さんにお会いしたときも、メリー・フォードのこととかも話して、細野さんに「ビーチ・ボーイズではじめて買ったのは『サーフィンU.S.A.』なんです」と話したら、僕もなんだよ、とおっしゃられて、それでもりあがったこともあります。

時代はちがいますが。

吉田:そうなんですけどね(笑)。それで、まず音を聴いていただき、コメントもいただけたので、スキャットを入れていただけませんか、と。

細野さんのアルバムで好きなのは『Hosono House』?

吉田:いちばん聴いたんじゃないですかね。三日月スープのころ、ドラムがない古いスイングにのめりこんでいたときちょうど細野さんが東京シャイネスをやられていて、うわーっと思ったこともあります。なので『Flying Saucer 1947』もよく聴きました。いまの細野さんの音楽を聴いて、はっぴいえんどを聴き直したとき思うことはまたちがうんですね。


コーラスに細野晴臣を迎えた“晴れ男”


当時なぜアコースティック・スウィングに惹かれたんですか。

吉田:フォークウェイズから出ていたエリザベス・コットンやバート・ヤンシュを聴いて、アコースティックでもこんなグッと来る、攻めてくる音楽があるんだと思ったんですね。ロバート・ジョンソンを聴いたときとの衝撃よりもそれは大きくて、自分もマーチンのギターが要るな、と。ギターを買ったのもあって、その方面にいったのはあります。

ギター・サウンドの側面だけとってもノイジーなロックからアコースティックなスウィングまで、省念さんのなかには積み重ねがあるんですね。

吉田:自分の好きなものとやることがつねに混じり合うというのはなかなか難しいと思うんですよ。好きなことって、音楽だけじゃなく多岐に渡るじゃないですか。それを交えるのは時間がかかるし、難しいことだと思うんです。

ムリにやっても接ぎ木になるだけですからね。

吉田:自分のタイミングでそれをうまくやりたいというのはテーマとしてあるので、『黄金の館』はそこにすこしは近づけたのかなとは思います。

曲をつくり、13曲溜まり、必然的にこのようなアルバムになっていった。それが昨年の2月ということは、丸1年かかったということですね。

吉田:ホーム・レコーディングとはいえ、尾之内さんにも僕にも生活もあるから、そのあいだを縫ってつくっていたところもあり、時間がかかったのは仕方ない面もありました。最初というのもあって、時間をかけてやり方を模索するほうがいいと考えたのも大きいです。

制作でもっとも留意された点を教えてください。

吉田:ギターの音を聴いて反応していただけるとうれしい、というのはそこにこだわりがあったんでしょうね。ピアノにこだわるといっても、僕の拙いピアノだと限界がありますがギターは慣れ親しんでいるのでその分重視したかもしれません。

山本精一さんも、声を楽器として意識されているといったようなことをおっしゃっていて、その考えには共感できます。それがないとメッセージと伝えることが先行してしまうので。

歌もいいですけどね。歌手でだれか、省念さんが模範にされた方はどなたですか。

吉田:うーん(といってしばし考える)。

歌い手としてご自分を意識されないですか。

吉田:三日月スープをやっていたころ、僕は自分のことをギタリストだと思っていたんですね。歌ってはいるけど、僕にとっての歌は歌じゃない、ギターが弾けたらうれしいと思ってやっていたんですね。ところがあるとき、お客さんに怒られたんです。歌がよかったといわれたときに、「そうですか」と返したら、なんでそんなこというんや、と。舞台に立って声も出していて、声はなんといっても強いんやから、もっとそこに意識もてやといわれて、ビッとなったんです。山本精一さんも、声を楽器として意識されているといったようなことをおっしゃっていて、その考えには共感できます。それがないとメッセージと伝えることが先行してしまうので。

曲は部分からつくりますか、全体を考えますか?

吉田:全体像がバッと出てきます。全体が出てきて、今回はそれを自宅でそのまま(記録媒体に)写した感じでした。曲はライヴで変化することもあるんですね。歌詞の細かいところなんかはとくにそうです。自分にはマイブームのようなものがあって、言葉にすごく意識があるときとメロディや曲に意識があるときがわかれていて、それによって歌詞が先行したり曲が溜ったりします。冨士夫さんの文章を書いたときは言葉の時期だったので原稿を書くのも自然だったんですよ。最近は曲が溜まって歌詞を乗せる作業が後追い気味なんですが。

言葉の意味性、なにを伝えるかということについてはどう考えます?

吉田:なにかをうまく伝えられるほどの言葉の技倆は僕にはないです。でも自分も好きな音楽って、もちろん言葉は聞くんですが、音楽って曲が流れている時間をいっしょにすごすわけで、そのとき自分のなかに入れられる情報には限界があると思うんです。限界値までの言葉の選び方があって、自分にはそれしかできない。それを超えられれば、より詩的なものを伝えることもできるかもしれませんけど。村八分なんてものすごくシンプルじゃないですか。

「あっ!」とかね。

吉田:あれは日本語のロックの究極のかたちだと思うんです。あれを十代でやるのはすごい。

狂気さえ感じます。

吉田:でもいいんですよ、かたちを残したんですから。ひとから見たら普通じゃなくても、じっさいはバランスがとれていたんだと思うんですよ。音楽以外の表現に意識を向けたこともあったでしょうしね。

音楽以外への興味ということを考えると、たとえば親父さんと省念さんは畑がちがうわけですよね。ヨシダミノルさんについて、いまにして思うことはありますか。

吉田:絵の描き方を教わったことはないですが、美意識のようなものをもって、それを生活をつづけながら守るということをずっとやっていたんだと思うんです。そういうところは教えてもらったところです。美術だと物質的なことも大きくて――

とくに「具体」の方でしたからね。

吉田:そうです。音楽はかたちのないものを元につくるものですからその点ではちがいますが、意識の面では教えてもらった気もします。

音楽は年齢とともにあるものだし、自分のつくる音楽で意識的に若がえるより、自分の(美)意識がかたちになったときのよろこびみたいものをつねに高めることを望んで生活するのは、テーマでもあります。

生活によって音楽は変わると思いますか。

吉田:そう思います。

それはよいことですか、できれば生活と音楽は独立したものであったほうがよいと思いますか。

吉田:自然なことなんじゃないですか。音楽は年齢とともにあるものだし、自分のつくる音楽で意識的に若がえるより、自分の(美)意識がかたちになったときのよろこびみたいものをつねに高めることを望んで生活するのは、テーマでもあります。生活形態というのは流動的に肉としてついてくるものかもしないです。

10年後には10年の生活を積んだ味のある音楽をやっていると思いますか。

吉田:ねえ!

逆に若がえったりしてね。

吉田:よく老成しているといわれますからね(笑)。

いまでは固定したバンドはあるんですか。

吉田:京都で演奏するときは今年は吉田省念バンド、まだ名前はないですが、バンド形態でも演奏できるようにはしています。次の作品はそのメンバーもいいかたちで巻き込めたらいいなとは思っています。


ライヴでもお馴染みの曲“水中のレコードショップ”

『黄金の館』というタイトルはもともとはイヴェント名ですよね。

吉田:そうです。

それをアルバムのタイトルにもってきたのはどのような意図だったのでしょう。

吉田:イヴェントは次が27回めですから、2年とすこし、やっていることになります。それとともに学んだこともあったのでタイトルにしました。

そもそもその名前にした理由はなんですか。

吉田:自分だったら銀色が好きなんです(笑)。

なにをいいたいかよくわかりませんが、つづけてください。

吉田:(笑)金色って狂った感じというか、『メトロポリス』という映画があるじゃないですか。

フリッツ・ラングの?

吉田:そうそう。あの映画の金色のロボット、マリアの感じが金の魅力とともに深いなにかを物語っていて、それを出せたらいいんじゃないかと(笑)。

なるほど、といいたいですが(笑)。

吉田:館というのは空間ですよね。画家におけるアトリエ、ミュージシャンにとってのスタジオといった、空間=館からはじまったもいいんじゃないかと思ったのもあります。建築と音楽にも近いところがあるじゃないですか。

19世紀には建築は凍った音楽といったらしいですからね。

吉田:そうでしょう。音響は場所にもよりますし、それもあって館という言葉にも音楽との共通性があると思い名づけました。

つまりはビッグ・ピンクですね。

吉田:(笑)

そこからまたすばらしい音楽がうまれることを期待しています。

吉田:がんがんつくりますよ!



〈吉田省念ツアー情報〉
■5/24(火) 下北沢・レテ「銀色の館 #3」*弾語りソロワンマン
■5/26(木) 三軒茶屋・Moon Factory Coffee *弾語りoono yuukiとツーマン
■6/5(日) 名古屋・KDハポーン「レコハツワンマン」*京都メンバーでのバンドセット guest:柳原陽一郎
■6/14(火) 京都・拾得 「黄金の館」
■6/30(日) 下北沢・440 「レコハツワンマン」 *バンドセット Dr.伊藤大地、Ba.千葉広樹、guest:柳原陽一郎
■7/14(木)京都・拾得 「黄金の館」
■7/18(月) 京都・磔磔 *詳細未定
■7/24(日) 大阪・ムジカジャポニカ
■8/7(日) 京都・西院ミュージックフェスティバル

Ninsennenmondai - ele-king

 カミソリのようにソリッドだが、マシュマロのような柔らかさもある。ミニマルなアンサンブルなのに、音の奔流に没入すると驚くほど豊穣な音響世界が蠢いている。陶酔的な音だが、同時に冷めてもいる。記号的で匿名的であっても、彼女たちにしかだせない音が鳴り響いている。さまざまな二極を自在に往復する交通的な魅力。そう、にせんねんもんだいのことである。
 ギターの高田正子、ベースの在川百合、ドラムの姫野さやかによる3ピースのバンド、にせんねんもんだいは結成から16年、アルバム・リリースにおいても10年以上のキャリアを持つがつねにフレッシュな活動を続けている。近年では2013年の『N』の衝撃を覚えている方も多いはず。この作品で彼女たちは演奏と音響と録音の可能性を拡張した。

 『N』の衝撃から2年。新作『#N/A』においても彼女たちは新たな交通性を導入している。エイドリアン・シャーウッドをプロデューサーに(当然ミックスも担当)、〈ダブプレート&マスタリング〉のラシャド・ベッカーをマスタリング・エンジニアに迎えたのだ。経緯を簡単にまとめる。本年4月のエイドリアン・シャーウッド来日時(彼のプロデュースワーク・アルバムのリリース・イヴェント)、彼は、同イヴェントの、にせんねんもんだいのライヴにおいてダブ・ミックスを行った(4月18日/代官山ユニット)。
 本作は、その公演直前(4月14日、4月15日/レッドブル・スタジオ・トーキョー)にレコーディングされた音源である。このときのレコーディング・エンジニアは内田直之。音源はUKに持ち帰られ、シャーウッドの〈On-Uサウンド〉でミックスされた後に、ベルリンのベッカーによってマスタリングが行われ、坂本慎太郎のアートワークをまとうことでアルバムとして完成する。日本とイギリスとドイツ。にせんねんもんだいとエイドリアン・シャーウッドとラシャド・ベッカーというトライアングル=交通によって、本作の最高のサウンドが生まれたというわけだ。

 カラカラと乾いた音がミニマルなリズムを刻む“#1”から耳が持っていかれる。ビートは分解され、キックとハイハットを中心にミニマルなグルーヴを生む。そこにノイジーなギターが介入し、ベースは一定の音をクールに刻む。まさに彼女たちの鉄壁のアンサンブルだが、そこにエイドリアン・シャーウッドならではのダブな音響処理が施されサウンドを快楽的に飛ばすのだ。聴いているわれわれの意識もトぶ。2曲め“#2”は、ミカ・ヴァイニオの音響をバンドで演奏したかのような静寂と緊張に満ちたサウンドで、そこに極めてシンプルに打たれるキックの音は心臓の鼓動のように響く。つづく“#3”、“#4”、“#5”も、にせんねんもんだい特有のアンサンブルのポテンシャルを最大限に生かしながら、エイドリアン・シャーウッドは特有の秘境的なミックスを聴かせる(しかも演奏の魅力を崩すことはないように細心の注意をはらっている)。その余白の美は北園克衛(1902-1978)のマテリアリズムな詩作を思わせる。
 そう、にせんねんもんだい=エイドリアン・シャーウッド=ラシャド・ベッカー、日本とイギリスとドイツのトライアングルによって生まれた本作には、マテリアルな音の魅惑が横溢しているのだ。モノ的なものに感じる官能性を刺激してくれる。

 あの坂本龍一の『B-2ユニット』は、1980年におけるポスト・パンク/ダブの潮流を咀嚼し、東京とロンドンの交錯と交通性の中で生まれた歴史的な作品であるが、『#N/A』もまた2015年現在の日本とイギリスの交通性の中で生まれたインターテクスチュアリーな作品といえないか。まさにテン年代の『B-2ユニット』?

にせんねんもんだい(N)とエイドリアン・シャーウッド(A)による国境と世代を越境する強烈にして柔軟なミニマルかつダブのハードコア。あなたの耳を虜にするサウンドとリズム、その快楽と刺激がここにある。

Cornelius - ele-king

 コーネリアス(=小山田圭吾)の音楽は、いつ聴いても、何を聴いても、まるでアイコンを認識するように一瞬にしてわかる。あの星の輝きのような音……!
 その傾向は97年の“スターフルーツ・サーフライダー”から随所になり、01年の『ポイント』から06年の『センシュアス』の間にかけて確立されていったように思える。彼は楽曲をまるでサウンド・ロゴのようにデザインしていくのだ。

 本作は、2010年代前半におけるコーネリアスが手がけたリミックスや参加曲などを集めたアルバムである。坂本慎太郎やサリュ×サリュ、ゴティエやペンギン・カフェ、さらにはサカナクションのリミックスからザ・バード・アンド・ザ・ビーやコーラルレイヴンとのコラボレーション曲まで多彩な楽曲をアルバム一枚に収録している。
 声だけの参加曲やコーネリアス自身が手がけていない曲(大野由美子氏による1曲め!)も収められているのだが、にも関わらず「いまのコーネリアスのモード」をアルバム一枚通して聴いたという満足感がある。〈トラットリア〉がリリースしたレーベル・コンピレーション盤を思い出しもした。

 よくオリジナル・アルバムのリリースについて質問されているコーネリアスだが、これだけの楽曲を2010年代前半に残しており、そのうえYMO関連への参加、CM音楽、サリュ×サリュのアルバム・プロデュース、『デザインあ』や『攻殻機動隊ARISE』『攻殻機動隊 新劇場版』の音楽など多岐にわたる仕事を展開していたのだから、むしろ「オリジナル・アルバム」という概念こそが、2010年代も後半に突入する現在においては、「幻想」ではないかとも思えてしまうほどだ(当然ファンとしては期待大ですが!)。
 00年代から10年代にかけて、いわば音楽を取り巻く状況が大きく変化していく時代のなかでコーネリアスは、さまざまな仕事の領域で自身のサウンド・アイコンを刻印するように音楽を作り続け、オリジナル・アルバム・リリース「だけ」にこだわらない新しい音楽家像を実現してきたのだ。むろんサウンドロゴのような明確な強さが楽曲にあったから可能だったこと。

当然、本作の収録曲にも「視認性の高い音」が横溢している。時間が逆行するような坂本慎太郎のリミックス、声の力を存分に生かしたサリュ×サリュ、ゴティエのミニマムなリミックス、両者の無駄なく個性が融合しているザ・バード・アンド・ザ・ビーとの共作、小山田圭吾の声の魅力を再確認できるコーラルレイヴンとのコラボレーション、ニューウェイヴとコーネリアス・サウンドの合体といえるプラスティック・セックス、原曲のフォーキーな魅力を引き出したサカナクションのリミックスなど、どの曲も、どの音も、曲順も、綺麗に整理され、配置され、再デザインされており、同時に、水のような自然さで耳に浸透していくのである。

 とくに注目したい曲は、アンビエント・ポップなペンギン・カフェのリミックス“ソラリス”と、小山田圭吾のヴォーカルを堪能できるリトル・クリチャーズの“ナイト・ピープル”のカヴァー、アレンジの妙を聴かせるサカナクションの“ミュージック”のリミックス、夜の月を思わせるアンビエントな新曲“トーキョー・トワイライト”だ。これらのトラックは、アンビエントとファンタジーとギター・ポップ/ネオアコへのコーネリアスなりの回答のようにも聴こえてしまう。私などは、そこに「コーネリアスの新しいモード」の萌芽を感じてしまうのだが……。

 それにしても、本作を何度も繰り返し聴くにつけ、コーネリアスの音楽は環境=社会の中で鳴るときサウンド・アイコンとしての効果を強く発揮するようにも思えてならない。たとえば電車やバス、エレベーターの音などをコーネリアスが作ったら? と考えると楽しい。ポップであることは機能的であり、それゆえ環境的に作用する。その意味でコーネリアスはブライアン・イーノにもっとも近いポップ・アーティストかもしれない。

interview with Cornelius - ele-king


Cornelius
Constellations Of Music

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 ことオリジナル・アルバムに関しては寡作で知られるコーネリアスだが、オリジナルに匹敵する彼ならではの創意と工夫と閃きの賜物であるリミックス作品を集めたコンピレーション・シリーズ『CM』は、これまで4作リリースされてリスナーの渇きを癒す一方、こうした他流試合は来るべき新作への実験の場としても有効に機能してきた。

 そして、リミックスはもとよりプロデュースやコラボレーション作品、未発表の新曲、カヴァー曲など近年のワークス13曲をカラフルに散りばめた最新コンピレーションが、本作『Constellations Of Music』である。タイトルを直訳すれば「音楽の星座」。

 英和辞典を引くと、“constellation”には、①《天文》星座;(天空における)星座の位置 ②そうそうたる人々の一団、きらびやかな群れ;(…の)一群((of …)) ③《占星》星位、星運 ④《心理学》布置、という意味がある。

 「布置」とは聴き慣れない言葉だが、ユング心理学の概念のひとつで「共時性」(synchoronicity)を指す。複数の物、人、事柄などの配置が織り成す相関関係という意味にも使われる。個人の心の中の状況と、外側で偶然に起こる出来事──まったく無関係に思える物事が、あるとき不意に、まるで星座のようにひとつのまとまりを持って結びつき、トータルな意味合いとして理解できるようになる。そうした連鎖や気づきを「コンステレーション」と呼ぶのだ。

 古来より世界中の人々は、地域性や民族性を反映しつつ、どこか共通する要素を持った神話や伝説を育んできた。近現代の天文学で定められている88星座の中に、なぜか「さる座」は見当たらないが、その欠落をもはや見過ごすわけにはいかないと思ったのだろう、小山田圭吾は、偶然のように集った10個のきら星――グラミー受賞者と候補二組(鳥と蜂、猿本人)、野牛娘ひとり、ペンギン、魚、幽霊などを含む――に必然的な繋がりを見出し、限りなくイマジネイティヴに「音楽の星座」を描いてみせてくれた。

 個々の星ぼしの歴史に想いを馳せれば、彼らを産んだ親たちや祖父母の代まで遡ることが可能だ。20世紀という複製文化の黄金時代に花開いた、信じられないほどに豊かなポピュラー・ミュージック(大衆音楽)の甘やかな調べ。それらを創り、歌い、奏でたソングライターや歌手や演奏家たちは、次々に星となって天に召されてゆく。時を超え、世紀を跨いで遺された録音物から、彼らの魂が「偶然」再生される。それに霊感を受けた次の世代へと、文化の円環は引き継がれていく。星の彼方へ、遙かな未来に向けて――。

 Ah Dareka Tooi Basyode / Ah Onaji Youna omoi / Tooku Umiwo Koete Haruka (Cornelius“Omstart”)

 星座から遠く離れていって景色が変わらなくなるなら、ねぇ本当は何か本当があるはず……と歌った吟遊詩人(犬)もいたっけ、ね。

■Cornelius / コーネリアス
フリッパーズ・ギター解散後、1993年から開始された小山田圭吾によるソロ・プロジェクト。ソロ・デビュー22年を迎え、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなどますます幅広く活動する。2008年にリリースされた「Sensurround & B-Side」がグラミー賞のベスト・サラウンド・サウンド・アルバムにノミネート。「UNIQLO」「CHANEL」などのCMや「デザインあ」(NHKEテレ)といったTV番組ほか、映像とのコラボレーションも多い。https://www.cornelius-sound.com/

僕ぐらいの世代だと『ピロウズ&プレイヤーズ』とかさ、ああいうのが根底にあって。

北沢夏音(以下、北沢):この前インタヴューしたときは、このコンピが出ることをぜんぜん知らなかったから、びっくりした。取材のオファーをもらって、こんなにすぐ…!? みたいな。

小山田圭吾(以下、小山田):ねっ、僕も。20年会ってなかったのに、1ヶ月に1回くらい会ってる(笑)。

北沢:こういう感じでこれからやれたらうれしいね(笑)。今回のアルバムは、『CM4』から3年ぶりのリミックス&ワークス集と捉えていいの?

小山田:いちおう『CM』はリミックスって限定してたんだけど、今回はリミックスも、そうじゃないものも入っていて。まぁでも、「Constellation of Music」って「CM」って略せるし、ちょっと近いところではある。

北沢:コラボレーション的なトラックもわりと目立つというか。

小山田:そうですね。あとは僕が何もやってなくて、ただお願いしただけって曲も入っていたりして。ちょっとコンピレーション・アルバム的な感じにしたいなと思って。

北沢:〈トラットリア〉の頃は他にあんまりないような年鑑っぽいコンピをよく作っていたような記憶がある。

小山田:まぁレーベルだったからね。レーベル・ガイド的なコンピレーションみたいなのは、ことあるごとに作っていたんだけど。僕ぐらいの世代だと『ピロウズ&プレイヤーズ』(「99ペンス以上は支払うな」というメッセージと共に1982年のクリスマスに〈チェリー・レッド〉からリリースされ、翌83年にかけて19週連続で全英インディ・チャート第1位を独走したコンピレーション・アルバムの名作。当時〈チェリー・レッド〉のA&Rであり、後年〈トラットリア〉の命名者となるマイク・オールウェイが企画し、ザ・モノクローム・セット、フェルト、アイレス・イン・ギャザ、エヴリシング・バット・ザ・ガールらが参加。84年には日本盤のみで続篇『ピロウズ&プレイヤーズ2』がリリースされた)とかさ、ああいうのが根底にあって。なんかそれ的なね。あの頃はそういうポストパンクのインディ・レーベルなんかが出てきてさ、ガイド的なコンピレーションってたくさんあったじゃん? ああいうものを自分のレーベルでも作ってみたかったんだよね。

北沢:今回のはレーベル・ガイドじゃないんだけど、やっぱり「小山田くんと仲間たち」というような雰囲気があって、そういうものとしても聴けるって感じがするね。国際色豊かなメンツで。

小山田:仲間たちといっても、会ったことのないひとたちもいたりするんだけどね(笑)。

北沢:本当に(笑)? ゴティエとか会ってない?

小山田:ゴティエは会ったよ。

北沢:このなかで会ってないひとってだれ? コーラルレイヴンとか?

小山田:コーラルレイヴンは一度会った。ザ・バード・アンド・ザ・ビーは会ったことない。あ、でも会ったことないのはそれだけだ。

北沢:じゃあけっこう会ってるね。

小山田:うん。でも、一回会ったとかそんな感じ(笑)。そんなに親しいわけじゃ……親しいひとももちろんいるけどね。

(ミッドタウンのBGMは)季節がテーマになっていて、年間で6つくらいに分かれていて。冬、春、初夏、夏、秋、クリスマス、そして冬っていう(笑)。

北沢:資料を見たら、これは小山田くんが担当した東京ミッドタウン・ガレリアのBGMセレクションの企画からはじまって書いてあるけど?

小山田:そうだね。ミッドタウンのBGMを2年くらいずっとやっていたんだけど、それで最後に企画のアルバムを出すって話がきて、そこからこのアルバムに繋がっていったんだけど。このなかに入っている曲もいくつかは選曲したりしていて。

北沢:たとえば?

小山田:1曲めの大野由美子さんのやつとかもそうだし、salyu × salyuの “ハモンド・ソング”とか、ザ・バード・アンド・ザ・ビーもそう。あと、“ナイト・ピープル”とかペンギン・カフェとか。基本的に自分の曲はあんまり選んでいなかったんだけど、こういうコラボレーションものだったりすると、わりと掛けやすいかなと思って。

北沢:じゃあ、実際にミッドタウンでは掛かってたってこと?

小山田:そうそう。それは季節がテーマになっていて、年間で6つくらいに分かれていて。冬、春、初夏、夏、秋、クリスマス、そして冬っていう(笑)。

北沢:なるほどね。クリスマスは特別なの?

小山田:やっぱりクリスマスがいちばん大変だね(笑)。だいたい90分とか選曲するんだけど、90分、2年分、全部クリスマス・ソングってけっこう大変だった(笑)。

北沢:合計3時間(笑)。

小山田:でも、クリスマス・ソングって意外にあるなって思った(笑)。

北沢:小山田くんはクリスマス・ソングって作ってたっけ?

小山田:いや、そこまで具体的なのはないね。

北沢:いつか作ろう、みたいな気持ちはある?

小山田:うーん。自分からはそんなにかな。キリスト教徒なわけでもないし。でも、クリスマスの街の雰囲気は嫌いじゃないけどね。クリスマス・ソングは好き。

北沢:いちばん好きなクリスマス・ソングって何? アズテック・カメラのカヴァー(”Hot Club of Christ”)やってたよね。

小山田:あったね。あれ好きだよ。あのコンピレーションがすごく好き。〈クレプスキュール〉の(所縁のアーティストのクリスマス・ソングを集めた)コンピレーションで、何種類も出てるんだよね。

北沢:『GHOSTS OF CHRISTMAS PAST』、新装盤が出るたび内容も曲順も少しずつ入れ替わってて。あれはジャケもいいよね。
小山田:毎年クリスマスくらいになると思い出して聴いてるよ。

北沢:そういうの、なんかいいなって思うから、小山田くんもいつかさりげなく作ってほしいな。

(*本作におけるコーネリアスの新曲“Tokyo Twilight”のタイトルは、『GHOSTS OF CHRISTMAS PAST 』にアズテック・カメラと並んで収録されているブリュッセルのポストパンク・バンド、ザ・ネームズの曲名の引用ではないか、と後日レコードを引っ張り出して気づいた。エキゾチック・サウンドの名曲“スリープ・ウォーク”で知られるサント&ジョニーにも同名異曲があるが、そちらは小津安二郎監督の映画『東京暮色』の英題から採ったのかもしれない)


■大野由美子 / Escalator Step

北沢:さて、僕は『CM』のシリーズが好きで、毎回楽しみにしてるんだけど、今作用に小山田くんがリクエストして録り下ろされたという1曲めの大野由美子さんの“エスカレーター・ステップ”を聴いて、これぞまさしくラウンジなエスカレーター・ミュージックで、しかもペリー&キングスレーみたいな感じがした。

小山田:うん。まさにそんな感じで。BGMセレクションで、ああいうエレベーター・ミュージックっていうか、60年代とか50年代のショッピング・センターとかでなんとなく流れていそうな曲っていうのをたくさん選曲してた。それで何曲かに1曲はそういうものが欲しいなと思ってたんだけど、自分のレパートリーになくて。それにライセンスするのもけっこう大変。けど大野さんだったらこういうものが作れるだろうとわかっていて(笑)。大野さんはソロでけっこうそういうものを作っていたりしているんだよね。あっ、ソロっていうか……

ああいうエレベーター・ミュージックっていうか、60年代とか50年代のショッピング・センターとかでなんとなく流れていそうな曲っていうのをたくさん選曲してた。

北沢:バッファロー・ドーター?

小山田:バッファロー・ドーターじゃなくて、珍しいキノコ舞踏団のサントラを大野さんが作っていて。

北沢:モーグを使ってるの?

小山田:そうそう。で、モーグっていったらもう大野さんだなと思って。「こんな感じの曲を作って」って言ったらパーフェクトに作ってくれました(笑)。

北沢:エスカレーターとか、そういう具体的な場所の名前を伝えたの? 

小山田:具体的なキーワードは言ってないけど、そういうショッピング・センターとかで掛かってるような軽い感じのもの、とかってディレクションはしたかな。

北沢:エレクトリカル・パレードみたいな、アトラクション的な感じもある。ああいう音がかかると、すぐにそういう世界に入り込めちゃうから。

小山田:あと、コンピレーション的な内容にしたかったので、なんか冒頭にそういう曲があるといいなと。

北沢:大野さんは“まだうごく”のミュージック・ヴィデオにも参加してるよね。

小山田:うん。最近、僕がやってるプロジェクトにはほとんど参加してもらってる。『攻殻機動隊』プロジェクトでも、“まだうごく”もやってくれているし、“外は戦場だよ”も“じぶんがいない”も全部演奏してくれていて。salyu × salyuでもバンドのメンバーとしてずっとお世話になっていて。しかもお姉さん役として、女子の面倒を見てくれるから(笑)。

北沢:それを小山田くんがやらなくてすむんだ(笑)。

小山田:そうそう(笑)。本当に頼りになる。

北沢:この1曲めからスーッと心地よくアルバムの世界観に入れるっていうかね。

小山田:そんなに多く言わなくても意図を汲んでくれて。「いい感じによろしく」くらいしか言っていないし(笑)。


■坂本慎太郎 feat. Fuko Nakamura / 幽霊の気分で(Cornelius Mix)

北沢:次は坂本慎太郎くんの“幽霊の気分で”のコーネリアス・リミックス。これは7インチ・ヴァイナル・オンリーだったのかな?

小山田:最初は「サウンド&レコーディング・マガジン」の企画だったんだよね。リミックスが付録のCDに入ってた。で、そのあとに坂本くんのレーベルから7インチが出て。CD盤になったことはなかったんだけどね。

北沢:坂本くんのファースト・ソロアルバムに入ってるオリジナルは、いちおう基本的には坂本くんが歌って、(ナカムラ)フーコさんはコーラスだったんだけど、こっちは完全にデュエットになってるね。

小山田:どちらかというとフーコさんのほうを前に出した感じかな。

北沢:これ、バック・トラックにモーグが入ってる?

小山田:モーグは入ってないんじゃないかな。

北沢:なんか1曲めから自然に繋がるような、そういう感じがしたんだよね。

小山田:モーグじゃないけどシンセ・ベースは入っていたかもしれないね。

北沢:坂本くんの原曲ってけっこうエキゾなムードがあるじゃない? それも生かされているような気がして。

小山田:ギロが入ってるのが印象的だよね。

ギロが入ってるのが印象的だよね。

北沢:そのせいだ(笑)。

小山田:だからギロは残したんだけど。普通のポップ・ミュージックにギロが入るのって、あんまりないと思うけど、そこはやっぱりセンスがいいなって思った。

北沢:アンオフィシャルなヴィデオ──舞台は外国で、メキシコ人みたいな感じの男女が出ていたりするんだけど──がネットに上がってて、それが妙に曲に合ってて、いいんだよね。観てない?

小山田:なんか坂本くんがiPadで作ったやつは観たけどね。

北沢:どんなやつ?

小山田:あれって“幽霊の気分で”じゃなかったっけ? 最初に作ったやつ。なんか犬とか出てきて。アニメのやつ。

北沢:アニメのやつは“幽霊”じゃなくて“君はそう決めた”じゃないかな。“幽霊”の謎のヴィデオは、完全にロケで、たぶんメキシコだろう、じゃなきゃ南米だろうって感じの場所で。なかなかよかったよ。

小山田:ギロに引っ張られてそうだね。

北沢:テンポ的にもね(笑)。そういうムード音楽みたいな気配も増幅されてて、すごくいいね。このリミックスは、狙いとしては、ギロからインスパイアされたの?

小山田:ギロって言うよりも、印象をちょっと変えたいなと思って。ナカムラ・フーコさんの声がすごく素朴な感じでいいなと思って、彼女をもうちょっとフィーチャリングしたかったというのと、あとは「幽霊」ってことばにけっこう引っ張られたかな。僕のなかでの幽霊のイメージは、フレクサトーンって楽器なんだよね。おろし金みたいなものに玉がふたつ付いていてベンドができるんだけど、音がだんだん上がっていくみたいな……お化け屋敷とか昔のおばけの効果音に使われているラテンの楽器。それをけっこう使ったんだよね。

北沢:ラテンなんだ。なるほど、だからエキゾな感じがあるんだね。

小山田:なんかユーモアがあるというか、そういうイメージで作った。あとは、坂本くんに『攻殻』とかsalyu × salyuとかお願いすることが多かったんで、逆に恩返しができてよかったなぁと。


■The Bird And The Bee and Cornelius / Heart Throbs And Apple Seeds

北沢:冒頭の2曲でもうかなり引き込まれちゃう。で、3曲めがザ・バード・アンド・ザ・ビー。これはセカンド・アルバムの『レイ・ガンズ・アー・ノット・ジャスト・ザ・フューチャー』にそのまま入ってるよね。

小山田:これはボーナス・トラック的なやつじゃないかな。

北沢:そうだ、日本盤のボーナス・トラックだったね。これは彼らから依頼が来たの? それとも日本のレコード会社から?

小山田:これはもともと車のCMというのが最初にあって、女性向けの軽自動車みたいな車のCMだったんだけどザ・バード・アンド・ザ・ビーを使って何かやるって企画で、日本のアーティストとコラボしたいというので、彼らが僕の名前を出してくれて、やってみようかという感じで。

北沢:それまでに彼らのことは知ってた?

小山田:うん。知ってた。ファーストのFMでヒットした“アゲイン&アゲイン”とか。ローウェル・ジョージの娘のヴォーカルのイナラ・ジョージは、僕の『Sensuous』をアメリカで出してるレーベル(Everloving)からソロのレコードを出していて。それでそのレーベルのひとからレコードをもらっていたんだけど、けっこう気に入って聴いちゃった。ソロはもうちょっと暗いフォークみたいな感じなんだよね。あんなにポップではない。

北沢:そうなんだね。聴いたことないな(※あとでイナラのアルバム『All Rise』を聴いたが素晴らしかった)。ザ・バード・アンド・ザ・ビーは僕も好きで、これは小山田くんも絶対好きだろうなって思ってた。

小山田:カーディガンズとかみたいなFM乗りのいい曲だね。

北沢:あと、テイ・トウワさんがジョアン・ジルベルトの娘(べべウ・ジルベルト)をフィーチャーしていたのを思い出した。

小山田:あれすごく好き。

salyu × salyuをやっていた頃と近いプロダクションだね。

北沢:“プライヴェート・アイズ”(ダリル・ホール&ジョン・オーツ)のカヴァーつながりで連想して。ちょっと甘いんだけど、絶妙なさじ加減だよね。これもハーモニー・ポップって感じかな。

小山田:そうだね。salyu × salyuをやっていた頃と近いプロダクションだね

北沢:でも隠し味的に電子音が入っていて、そういうものがやっぱり繋ぎとしても生かされている気がする。

小山田:これはわりと共作みたいなかたちで、こっちでほとんどまとめたんだけどね。グレッグ(・カースティン)っていうもうひとりのひともちょっと楽器を弾いてくれたりとか、アレンジをちょっとやってくれたりして。完全に僕が作ったって感じではなくて、彼女も歌詞を書いて。ただ、データのやり取りだけでやっていたので、一度も会ってはいなくて。

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■salyu × salyu / Hammond Song


Cornelius
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北沢:それで、次に当然のようにsalyu × salyuが入ってくるわけだね。“ハモンド・ソング”はツアーでだけ販売していたんだよね?

小山田:会場でだけ売っているCDに入っていたんだけど、salyu × salyuのライヴでずっとやっていたんだよね。で、一枚しかアルバムが出てないんで、ライヴ1本をやるには曲が少ないからカヴァーも何か考えようと思って、それでこの曲を選んだんだけど。もともとはロバート・フリップがプロデュースしていた、ローチェスっていう三姉妹がやってた曲で。原曲はその3人のコーラスで、大好きなんだよね。それがピッタリだと思ったし、難しいコーラスでも彼女たちならできると思ってね。

北沢:すごくメロディがきれいだよね。これは本当に最近のコーネリアス印っていうか、アコギとシンセ・ベースをけっこう多用しているよね?

もともとはロバート・フリップがプロデュースしていた、ローチェスっていう三姉妹がやってた曲で。原曲はその3人のコーラスで、大好きなんだよね。

小山田:うーん、どうだろうね。アコギもシンベもよく使うけどね。このトラックに関しては僕はほとんど何もやっていなくて、ギターはsalyu × salyuでコーラスをやってる(ヤマグチ・)ヒロコちゃんで、シンベは大野さんで、コーラス・アレンジは全部Salyuがやってくれた。僕は最後に「ちーん」って鐘の音を鳴らしたんだけど、それだけやってる(笑)。

北沢:全体を見ていただけみたいな?

小山田:そうですね。

北沢:ときどき声はいじってる?

小山田:いや、いじってないです。ほぼ一発録りに近いです。ライヴでやってたし、Salyuたちは本当に上手なので。

北沢:これは前半のハイライト・ソングになってるなあって思った。

小山田:本当にいい曲だから。


■Cornelius / Holiday Hymn

北沢:で、次がコーネリアスの新曲“ホリデイ・ヒム”。

小山田:これは新曲というか、もともとは無印良品のCMというか──店内とかウェブで掛けたりする用に作った曲で、それをアルバムのために展開を加えたりして1曲にして。もともとはループが延々と繋がっているみたいな。

北沢:口笛は最初から?

小山田:うん。

本当に昼間のイメージ。

北沢:アコギのカッティングと口笛の多重録音とスティール・パンが入ってて、小山田くんらしいユーモアのセンスが感じられるすごくナイスなトラックだなと思った。聴いていてリラックスするよね。

小山田:ネガティヴな要素が何にもないんだよね(笑)。本当に昼間のイメージ。あと、無印良品的なナチュラルな印象というか、そんな感じで作った曲で。

北沢:曲名はヴィック・ゴダードから。大好きな曲なんでニヤっとしちゃう。


■Korallreven / Try Anything Once(with Cornelius)

北沢:次がコーラルレイヴンの“トライ・エニシング・ワンス”。これはJET SETに新譜を物色しに行ったときに、「あれ、小山田くんが参加してる」って発見して驚いた。彼らのアルバムにも入ってるよね。

小山田:うん。入ってるね。

北沢:12インチも出ているみたいで、それは持っていないんだけど。これはどういうところからきた話なの?

小山田:突然連絡があって、「日本にいるんだけど会いたい」って言われたんだよね。僕はコーラルレイヴンってぜんぜん知らなくて、「なんだろうな」って思ってた。たまたま空いていたのでここ(事務所)に来たよ。

北沢:あっ、ライヴじゃなくてここに来たんだ(笑)。

あんまり、っていうかほとんどないんだけど、(自分が)歌だけで参加するっていう(笑)。

小山田:なんかぜんぜん仕事とか関係なくて、日本に普通の旅行で来たんだって(笑)。友だちが日本に行くからついてきて、そのついでに僕のとこに来たんだって。まだ若い子で20代だった。ふたり組で片っぽの子(マーカス・ジョーンズ)が来たんだけど、「いま新譜を作っていて、なんかコラボレーションをしたい」って言ってて、Youtubeで音を送ってもらったらわりとよかったから、会ってみようかなと。そしたらコーネリアスに“ドロップ”って曲があるんだけど、あの曲がすごく好きみたいで。プロダクションでコーラスがだんだんと重なって和音になっていくみたいな、変わったことをやっているんだけど、ああいう感じの声とアレンジが欲しいって、すごく具体的に言われて。それで彼がトラックを送ってきて、それで僕が歌を入れて返してっていうコラボレーションで。あんまり、っていうかほとんどないんだけど、歌だけで参加するっていう(笑)。だから僕はオケはほとんど何もしてない。

北沢:イントロのハモりがモロにコーネリアス調っていうかね。だからこれをやりたかったのかな、みたいな。あとブリッジのコーラスか。これは声をちょっといじってるよね。

小山田:そうだね。オートチューンとかでいじったりしてるし。

北沢:でもなんか懐かしい感じ。80sのエレポップみたい。チャイナ・クライシスとか、ギャングウェイとかさ。

小山田:フラ・リッポ・リッピとか。

北沢:そう! その感じだよね。ネオアコ感のあるエレポップ。

小山田:そういう感じで僕はすごく好きなんだよね。いまあんまりないような感じだから。

北沢:そうだねえ。これはイギリスの子たち?

小山田:スウェーデンの子たちなんだって。エレポップっぽかったからそういう話をしたんだけど、けっこう若い子だったからぜんぜん知らねぇって感じで(笑)。

北沢:フラ・リッポ・リッピもギャングウェイも知らないの?

小山田:知らない。ディペッシュ・モードすら知らなかった(笑)。ティアーズ・フォー・フィアーズとかも知らない。

北沢:えー! そんな若いの?

小山田:若い。24、5なんじゃないかな。

北沢:えー。ティアーズ・フォー・フィアーズも知らないんだ、信じられないな。

新人だろうがベテランだろうがあんまり関係ないけどね。おもしろそうだったらやるって感じで。

小山田:最近のナウいやつのほうが好きみたいだよ(笑)。なんかヨーロッパのああいう感じはあるよね。イギリスでもない、北欧系みたいな。

北沢:そうか。ほんとにフラ・リッポ・リッピとかチャイナ・クライシスを思い出した。やっぱりふたり組か、っていうね。

小山田:男のふたり組でね。

北沢:この曲は今回のアルバムの中ですごくいい息抜きになってる。

小山田:84、5、6年の感じかな。

北沢:こういうのが好きでいっぱい聴いてたな。

小山田:こういう感じもう忘れ去られてるよね。

北沢:ここら辺は、いま、もうちょっと顧みられてもいいのにね。でも向こうからぜひという要望だったんだね。声だけのコラボっていうのはあまりないにせよ、そうやって向こうからやりたいってオファーがあって実現する例って、けっこう多いの?

小山田:うん。まぁ、ちょいちょい。逆にこっちからいくことはあんまりないかも。

北沢:海外のアーティストと国内のアーティストを比較するとさ、もちろん顔を合わせられるっていうのは国内のいい点だと思うけど、最近の音楽の作り方としては、データのやり取りだけっていうのも多いじゃない? そういう意味では、日本人だろうが海外のひとだろうがあんまり変わらない感じ?

小山田:そうだね。そういう意味ではあんまり変わらないかも。

北沢:逆にいっしょにやってみたいひとっていない? 

小山田:うーん……。あんまりいないかな(笑)。

北沢:こういうのって具体的に話がないと出てこないよね。こういう未知の新人とやるのも、きっとおもしろいよね。

小山田:新人だろうがベテランだろうがあんまり関係ないけどね。おもしろそうだったらやるって感じで。


■Cornelius / Night People

北沢:次は全編通して小山田くんが歌っている“ナイト・ピープル”。これはリトル・クリーチャーズの20周年記念トリビュートなの?

小山田:そうだね。トリビュート的なやつで。さっきのコーラルレイヴンは歌っているというよりもコーラスだったけど、この曲はこのアルバムで唯一ちゃんと歌ってる。

北沢:そうだよね。これはそれこそ“まだうごく”と全体のムードがちょっと似てるというか、スローでメランコリックで。リトル・クリーチャーズの原曲も英語詞なんだけど、『Sensuous』にフランク・シナトラのカヴァー(“スリープ・ウォーム”)があるじゃない? あの感じとも共通してるムードが……。

小山田:小山田:うん。あるかもね。

北沢:“ナイト・ピープル”っていうことばだけでも何か感じるものはあるよね。ちょっと原詞の内容を把握してないんだけど、原曲のヴィデオを観たら、メンバーが夜勤の工員さんとか残業中の会社員に扮していて、頑張って仕事しながらも心は闇夜に漂ってる、みたいな感じ。小山田くんのカヴァーも、ヴォーカルの少し潤んだ感触や曲全体のムードからメランコリーが伝わってくる。これは小山田くんが選んだの?

小山田:そう。リトル・クリーチャーズのなかですごく好きな曲で、これがやりたいなって思ってた。

北沢:彼らは和光の後輩なんだね。

小山田:そうなんだけど、僕が高校3年生のときに中3だから、学校では会った記憶がないの。でも、僕が高校のときにやってたバンドを中学のときに観たって言ってた。

北沢:学内でやってたバンド?

小山田:そうそう。中学と高校とがつながっているから。音楽室とかでジーザス&メリーチェインのコピー・バンドとかやってた(笑)。

音楽室とかでジーザス&メリーチェインのコピー・バンドとかやってた(笑)。

北沢:何年くらいのことだろう?

小山田:84年にジーザスがデビューしてるから、85年かな。

北沢:“ネヴァー・アンダースタンド”とかやってた?

小山田:やってた(笑)。

北沢:やっぱり(笑)。“ユー・トリップ・ミー・アップ”は?

小山田:やってたやってた(笑)。

北沢:そこら辺だ(笑)。すごい初期。

小山田:ファースト・アルバムだもんね。

北沢:ドラムがボビー・ギレスピーの頃。すごいな。和光ってやっぱり変わってるな。そんなの高校でやってるひと、当時はそんなになかったんじゃない?

小山田:うーん、わかんないな。でも世の中はボウイとかレベッカだよね。

北沢:そうだよね。クリーチャーズが『イカ天』でグランプリを取ったときって、もうフリッパーズだっけ?

小山田:フリッパーズ・ギターがデビューする直前に、僕は交通事故にあって、病院に入院していたんですよ。3ヶ月くらい入院してて、病院のベッドでこっそりタバコ吸ってたら、病院のひとに怒られて、ベッドごと喫煙所に連れて行かれて、一日中タバコを吸いながらベッドで寝てる時期があってね(笑)。そこにちょうどブライアン・バートンルイスが入院してて。あいつ高校生だったんだけど、そこで初めて出会って、ブライアンとその喫煙所でずっとテレビを観てて、そこに映る優勝したリトル・クリーチャーズをはっきり覚えてるよ(笑)。

北沢:そのときは面識はなかった?

小山田:うん。面識はぜんぜんなかった。

北沢:和光っていうのも知らなかった?

小山田:それは噂で聞いて知ってて、すごくかっこいいなと思ってた。

北沢:だってまだ18とかでしょう?

小山田:だって僕が19だから、高校生で16歳とか17歳ですよ。

最初から大人っぽくて、完成されてたよね。

北沢:俺もテレビで観たよ。天才少年バンド現る、みたいな。しかも英語詞だった。

小山田:ね。最初から大人っぽくて、完成されてたよね。

北沢:“シングス・トゥ・ハイド”とか“ニード・ユー・ラヴ”って曲を覚えているな。モータウンっぽいR&Bにジャズのスパイスを効かせる、その捻り方がめちゃめちゃ渋くて、とてつもなくセンスいいなって思ってた。でも意外にフリッパーズ・ギターとリトル・クリーチャーズって競演とかないよね。

小山田:フリッパーズのときはなかったね。鈴木(正人)くんとか青柳(拓次)くんとか留学していたでしょう。だからあんまり活動してなかったもんね。

北沢:初めて接触があったのっていつぐらいなの?

小山田:コーネリアスになってから。

北沢:それはいつ頃なの?

小山田:90年代後半くらいかな。でも、べつにいっしょにやる機会とかはそんなになくて、ただコーネリアスで『Sensuous』のツアーのときに、一回いっしょに〈リキッドルーム〉でやったかな。クリーチャーズもそんなに活動していなかったり、僕も海外でライヴをやっていたりとかで、そんなに(機会が)なかった。

北沢:じゃあこのトリビュートが初とは言わないけど、ちゃんとコラボしたのは初みたいな?

小山田:ライヴをやったりとかはあったんだけどね。

北沢:そのライヴ観たような気もするな……。でも当然のように、不思議なくらい近い空気を感じるんだけどね。今作の中に小山田くん自身の歌ものを入れるってことになると、収まるべきところに収まったなって感じがするね。


■Penguin Cafe / Solaris(Cornelius Mix)

北沢:次のペンギン・カフェはどういう経緯で?

小山田:4年くらい前に、六本木であったペンギン・カフェのライヴのオープニングでsalyu × salyuといっしょにやって、そのときに仲良くなって、去年日本に来たときコラボレーションでアルバムを1枚作りたいって話になって。それが最初にあった。アルバムは難しいけど、コラボするのはいいよってことで、そのときにコーネリアスの『Point』に入っている“バード・ウォッチング・アット・インナー・フォレスト”をやってくれて。それでいっしょにコラボをすることになって、このリミックスと合わせてシングルみたいなものにして……去年出たのかな。

北沢:ペンギン・カフェ・オーケストラ名義の頃の初代リーダー(サイモン・ジェフズ)の息子さんがやってるんだっけ?

小山田:そうそう。

北沢:引き継いでやってるって感じなの? おもしろいね。

小山田:うん。メンバーも当時とはぜんぜんちがうひとで、おもしろいよね(笑)。そういうパターンってあんまりないから。でもまったく違和感がなくて完全に同じなんだよね。それがすごいと思う。こういうペンギン・カフェの顔のない音楽っていうか、アイコンがはっきりしないのは、ペンギンだから成立するんだろうなって。でも息子のアーサーもかなり音楽的には才能があるひとだよ。

北沢:同世代?

小山田:たぶんほぼ同世代だと思うんだ。メンバーも僕とだいたい同世代くらいのミュージシャンがやってるの。アーサーは音楽をやっていたんだけど、もともとミュージシャンじゃなくて、探検家みたいなことをやってたみたい。潜水艦に乗ったりね(笑)。それでお父さんが亡くなって、ペンギン・カフェをやることになったらしいんだけど。

もともとミュージシャンじゃなくて、探検家みたいなことをやってたみたい。潜水艦に乗ったりね(笑)。それでお父さんが亡くなって、ペンギン・カフェをやることになったらしいんだけど。

北沢:家業を引き継ぐみたいな。

小山田:そうそう(笑)。バックのひとたちもペンギン・カフェ以外にもいろいろやってるひとで、ゴリラズをやっているひととか。センスレス・シングスっていたの知ってる? ドラムがそこのひとだった。

北沢:90年代のイギリスのパンク・バンドだよね? あんまり聴いてなかったけど名前ははっきり覚えてる。

小山田:何人かそういうミュージシャンがいて。

北沢:ぜんぜんペンギン・カフェっぽくないじゃん(笑)。

小山田:イメージがちがうんだけど(笑)。でもイメージがちがうと言えば、オリジナルのペンギン・カフェのサイモン・ジェフズってシド・ヴィシャスの“マイ・ウェイ”のアレンジをやってたって知ってる(笑)?

北沢:知らなかった(笑)。初耳。

小山田:らしいんだよね。マルコム・マクラーレンと親しかったらしくて、アダム&ジ・アンツとかバウ・ワウ・ワウとかのアレンジをサイモン・ジェフズがやっていたらしい。僕も知らなかったんだけど、ペンギン・カフェをスケシンと観に行って、シンちゃんがそれを知ってて、教えてくれた。

北沢:このトラックはアンビエントなんだけど、けっこう高揚感があって、エモーショナルな構成で、最後に波の音が入ってくる。タイトルの“ソラリス”って、『惑星ソラリス』(理性を持つ“海”におおわれた謎の惑星との交信を描いた、ポーランドのSF作家スタニスラフ・レムの小説をソビエト連邦の名匠アンドレイ・タルコフスキー監督が72年に映画化)から?

小山田:うん。これはそうなんじゃないかな。もともと波は入っていなかったんだけど、『惑星ソラリス』のイメージで、最後に波にしてみたんだけど。

北沢:すごくいいと思う。タイトルのイメージにぴったりの世界になっていて。

原曲との距離の取り方っていうか、それがけっこう難しくて。

小山田:リミックスなんだけど、こういうインストゥルメンタルの曲って、リミックスするのがけっこう難しくて。歌みたいにはっきりとした歌の中心みたいなものってないじゃん? 楽器の組み合わせでできてるっていうか。だから原曲との距離の取り方っていうか、それがけっこう難しくて。

北沢:これは原曲のどこをつかんだの?

小山田:楽曲の持っている音色を外しちゃうとペンギン・カフェにならないから。僕がリミックスするときって歌ものの場合、歌以外のトラックを使わないんだけど、これに関してはけっこう残してあって。弦の感じとか、楽曲のコード進行とかもそんなにいじってなくて。歌ものだと、わりとコードとかもいじっちゃったりするんだけど、そうすると原曲とだいぶ変わってきちゃう。なんかリミックスというよりは別ヴァージョンみたいな感じで作った。

北沢:でもそれが絶妙な感じというか。小山田くんとペンギン・カフェの合体版になってる。

小山田:あと電子音とかをあんまり入れないようにしようとかっては考えたけどね。多少は入っているんだけど。

北沢:ペンギン・カフェっぽくないから?

小山田:そうそう。

北沢:ところで、今回のアルバムのジャケットいいね、ってさっき話してたんだよ。

小山田:本当? よかった。銀が透けるようにするのが大変だったんですよ。

北沢:そこがポイントだもんね。

小山田:そうなんです(笑)。ちゃんとキラキラしてくれないと。

北沢:そうじゃなきゃ星座感が出ないもんね。

小山田:背の厚さが厚すぎると浮いちゃって、中の銀が見えないからやり直して(笑)。

北沢:紙ジャケの風合いもすごくいいし、黒と銀っていう配色も絶妙にハマってるんじゃないですかね。


■Gotye / Eyes Wide Open(Cornelius Remix)

北沢:で、次の曲がゴティエ。ゴティエといえばグラミー賞のレコード・オブ・ザ・イヤーと最優秀ポップ・グループを受賞した、2012年度全世界でもっとも売れたという大ヒットシングル“サムバディ・ザット・アイ・ユース・トゥ・ノウ”。この“アイズ・ワイド・オープン”もシングル曲みたいだね。

小山田:そうみたいだね。たぶん、そのあとのシングル曲なんじゃないかな。

北沢:このリミックスのオファーは向こうからきたの? それとも日本のレコード会社から?

小山田:これは彼からだね。もともといまみたいに売れる前に、オーストラリアをいっしょにツアーしないかって話があった。そのとき僕はぜんぜん彼を知らなかったんだけど、すごくオーストラリアで人気があるって言ってて、オーストラリアをカップリングでけっこう細かくたくさん回りたいって感じのオファーだったんだよね。どうしようかって話しているうちに、曲がドカンと売れて、そのツアー自体が中止になっちゃったことがあったんだよ。世界ツアーで超忙しくなって。それからしばらくして、日本に来て、話してたら、コーネリアスが大好きでオーストラリアにいるとき、いつもツアーで来るたび観に行ってた、って言ってて。

北沢:オーストラリアでも何回かツアーしてるんだ?

小山田:2、3回やっているんだけど、全部観てるって言ってた。
北沢:これはけっこう今回のアルバムのなかでも目立ってるよ。原曲の歌詞を調べてみたら、かなりストレートなメッセージ・ソングなんだね。人類がこのままだと地球は滅びるぞ!っていう警告を発している。これは歌詞を読んでリミックスをしたとかではない?

小山田:作業するときは見たような気がするな。でも、そこまでちゃんと対訳とかを見ながら作ってはいなかったね。

北沢:「人間は地球の歴史という海原に、ほんの短い間、やっと浮かんでるだけなのに、一枚の細い板の上を怖がりもせず大きく目を開けているんだ、終末に向かって……」、つまり人間は自ら滅亡へと突き進んでいるのに、みんなそのことに気がつかないふりをしている、みたいな警告ソング。

イケメンなのに真ん中にいることに居心地が悪そうなところもいいよ。

小山田:ふーん(笑)。けっこう熱い男だね。でもなんかこのひと、山のなかに自分で小屋を建てて、そこをスタジオにして、ひとりで山ごもりみたいな感じでレコーディングしたりしてるとかって言ってて。そうやってストイックにDIYを実践してるひとみたいだよ。

北沢:ヒッピー思想が入っているかもしれないね。

小山田:もともとこのひとはドラマーなんだよね。ライヴを観に行ったらドラムを叩きながら歌ったりしてて、なんか自分が真ん中にいるのが居心地が悪そうな感じだった(笑)。

北沢:もとはフロントマンじゃないんだ。

小山田:イケメンなのに真ん中にいることに居心地が悪そうなところもいいよ。

北沢:いいやつだね(笑)。これ原曲も聴いたんだけど、裏打ちじゃなかった?

小山田:もともとって裏打ちだっけ?

北沢:なんかスカっぽかったような気もするんだけど……。

小山田:原曲が裏打ちだったかどうかははっきり覚えてないんだけど、元とだいぶ変わったような気がする。

北沢:原曲とは出だしからしてちがうものね。(→原曲は4つ打ち。コーネリアス・リミックスは裏打ちのスカのビートに差し替えている)

小山田:声がね、素で聴くとすごくスティングに似てるんだよね。

北沢:似てるよね。これポリスだわって思った。

小山田:スカっぽいところもポリスっぽいっていうか。彼の声を聴いているとポリスを思い出すんだよね。

声がね、素で聴くとすごくスティングに似てるんだよね。

北沢:あとオーストラリアっていうところに引っ張られてね、メン・アット・ワークを思い出す(笑)。あのヒット曲もスカっぽかったじゃん?

小山田:“フー・キャン・イット・ビー・ナウ”か。

北沢:“ダウン・アンダー”かな。あれはむしろレゲエっぽいか。ゴティエもそういう意味では典型的なオージー・ニュー・ウェイヴ感がある。

小山田:それはあるね(笑)。なんか田舎臭いっていうか(笑)。

北沢:素朴な感じがね。でも今回のコンピにこの曲が入っているのとないとでは大ちがいっていうか、ゴティエが入っているから、不思議なメジャー感も注入されていて。

小山田:とはいえゴティエって日本のひとたちはあんまり知らないよね。アップル・ストアに電話をかけると、いつも保留音があの曲なんだよね(笑)。

北沢:邦題が“失恋サムバディ”(笑)。女の子とのデュエット・ソングで。

小山田:キンブラって子とデュエットしてるんだけど、その子とちょっとコラボレーションする企画があったんだよ。

北沢:それはまだ実現してない?

小山田:形にはないってないんだけど。

北沢:この子も歌がうまいし、きれいだし、存在感があって印象的だったね。

小山田:ソロもすごくいいんだよ。

北沢:ニュー・ウェイヴなの?

小山田:ニュー・ウェイヴな感じもある。

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■Plastic Sex / The End


Cornelius
Constellations Of Music

ワーナーミュージック・ジャパン

PopsSoundtrack

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北沢:でもこういうニュー・ウェイヴっぽい曲をやると、小山田くんはすごくハマるね。次はプラスティックセックス。これって中西俊夫さんのユニットなんだね?

小山田:まぁ、中西さんのソロ的な感じなのかな。

北沢:小山田くんはメンバーなの?

小山田:ぜんぜんメンバーじゃないですけど、これだけやったのがけっこう古いんですよ。

北沢:2005年に結成だもんね。

小山田:それ以外はここ4、5年くらいのものなんだけど、これはけっこう前で。たぶん中西さんがロンドンから帰ってきてわりとすぐくらいの頃だったんじゃないかな。

北沢:まだ佐久間正英さんが健在だった頃だもんね。

小山田:そうだね。ただ、そのあとにプラスチックスを再結成したりするんだけど、それよりは前で。その頃、ちょっとプラスチックス的なことをやりたくて中西さんがやってたプロジェクトなんじゃないかな。まだニュー・ウェイヴがリヴァイヴァルする前くらいだと思う。

北沢:ファンキーなニュー・ウェイヴっていう感じだね。小山田くんは何をやったの?

小山田:僕はアレンジ、プロデュース的な感じです。

北沢:これはゴティエのあとに置くしかないっていうか、置き場が他にないっていうか(笑)。

小山田:まぁ、ニュー・ウェイヴという意味では元祖ニュー・ウェイヴだよね。

北沢:トーキング・ヘッズと同列に並んで遜色ないものね。こうしてあらためて聴くと、中西さんのヴォーカルってすごいよね。日本人離れしてるっていうか。

小山田:すごいですよね。男性でああいうヴォーカルって、ホントにいない。

すごいですよね。男性でああいうヴォーカルって、ホントにいない。

北沢:引きつった感じでハイテンション。立花ハジメさんのヴォーカルもちょっと他にないニュアンスがあるなって思うけど、中西さんは完全に外国人っぽいね。

小山田:ノリも外国人っぽいしね。

北沢:けっこう気は合うの?(→『プラスチックスの上昇と下降、そしてメロンの理力・中西俊夫自伝』によれば、プラスチックセックスはもともとは中西氏が小山田くんとなにか一緒にやりたいと思ってはじめた、〈メジャー・フォース〉の相方・工藤昌之氏のように自分と正反対のタイプだからすぐにうまくいった、と)

小山田:合うっていうか、似てるってことじゃないですけど、僕はすごく好きです。

北沢:プラスチックスは日本のバンドのなかでは当時から好きだったの?

小山田:当時はね、そんなに聴いてなかったです。でも、すごい好きです。本当に日本人離れしてますね。本当にカッコいいセンスのいいバンドだなと。〈ラフ・トレード〉からシングルを出してるし。本当に日本のシーンとかを飛び越えてあの時代にインディで向こうで活動してた感じは、YMOよりも自分たちに近かったというか、オルタナ寄りっていうか。

北沢:プラスチックスの海外展開は仕込みなしの自然な流れだからね。


■サカナクション / Music(Cornelius Remix)

で、次がサカナクション。普通のJポップのリスナーにとってはこれがメインって感じに聞こえるんだろうけど、しかもこの“ミュージック”ってサカナクションの代表曲だよね。これはどういう企画だったの?

小山田:これはシングルのカップリング的なことだったのかな。

北沢:「さよならエモーション/蓮の花」のカップリングだね。

小山田:うん。普通に頼まれて。

北沢:サカナクションは聴いてたの?

小山田:僕はそんなに熱心に聴いてたってことはないんだけど、子どもが小学校6年生くらいのときにけっこう好きで、なんか家で聴いたりしているのは知ってて。もちろん存在も知っていたけど、ちゃんとCDを聴いたことはなくて、Youtubeとかで聴いたことがあった。

北沢:4つ打ちのダンス・ロック。それを小山田くんがどう料理するのかなっていう興味だったんだけど、イントロからしてアコギを使った完璧なコーネリアス調に差し替えられていて、踊らせるよりも、歌詞をじっくり聴かせるアレンジかなと。

なんかわりとダンスっぽくなってるんだけど、根幹にあるものはフォーク的なものなのかなと思って、それをまったくの逆にしてみたいなって。

小山田:この曲はうちの子どもが好きで、よく部屋から流れてて。聴いたら僕もけっこう好きで。ただ、なんかわりとダンスっぽくなってるんだけど、根幹にあるものはフォーク的なものなのかなと思って、それをまったくの逆にしてみたいなって。たぶん家で弾き語りで作ったものをダンス調にアレンジしたのかなって感じに思えたので、そのまんまの形に戻してみようかなってイメージで。

北沢:こっちが原型じゃないの? っていう一種の批評だね。

小山田:批評というか、まぁアプローチの仕方として、逆の考え方というか。もともとのトラックは打ち込みとかシンセとか、わりとテクノ寄りのものなんだけど、楽曲自体のメロディとかコードの展開とかすごく多くて、あんまりダンスに向いてないよいうな気がしたっていうか。もうちょっとミニマルじゃないと、やっぱりダンスとかテクノみたいなものにあんまりならないかなって。
それで、僕がイメージした元の形に戻す、みたいなことがコンセプトになったかな。アレンジ的にも、上モノで鳴ってるようなシンセとかを全部アコースティックに変えて、ベースだけ生で入ってたんだけど、逆にそこをシンベにして。

北沢:それもあって、見事にコーネリアス印のリミックスになっているのかな。ラストに入っている鳥のさえずりは原曲には入っていないよね。

小山田:入ってないね。

北沢:歌詞に鳥が出てくるのを踏まえてるし、これが入ることによって、さっきのペンギン・カフェの海の音みたいなアンビエントの要素がそこかしこに散りばめられているのと相まって、アルバムとしてトータルに聴くときに、すごく自然に聞こえて、そこもすごくいいなって思った。これも後半のハイライトかなって感じだね。


■Cornelius / Tokyo Twilight

北沢:次がコーネリアスのもうひとつの新曲“トーキョー・トワイライト”。

小山田:ずっとアルバムを作ろうと思って、曲はずいぶんと作りつづけていて。だからストックがけっこうあるんだけど、このコンピレーション・アルバムを作るときに、足りない要素として、そこから持ってきました。

北沢:エレピと生ピの単音ではじまる、ちょっと水滴を思わせるアンビエント・トラックで、そこに壮麗な響きのシンセが被さってきて、音の要素は少ないんだけど……。ムード的にはザ・ドゥルッティ・コラムを思い出させるというか。ドゥルッティのインストの感じっていうのかな。すごくこの曲好きだけどね。

小山田:ドゥルッティ・コラムは僕も大好きです(笑)。

ずっとアルバムを作ろうと思って、曲はずいぶんと作りつづけていて。-

北沢:最後の一歩手前に置くのにピッタリ。こういう小曲がたくさんストックされている感じ?

小山田:いや。そんなにたくさんってわけでもないけどね。こういうリミックス集でもなんでもいいんだけど、一枚の作品にするときに、歌もの的な濃密なトラックがたくさん並ぶとけっこうお腹いっぱいになるんだよね(笑)。

北沢:とくに後半はけっこう濃いのが(笑)。

小山田:そう。だからやっぱりこういうものがたまに入るほうが、僕的にはしっくりくるんで。

北沢:中西さんとサカナクションのあとだもんね。

小山田:ちょっと濃いよね。


■salyu × salyu / May You Always

北沢:そして最後がsalyu × sakyuの“メイ・ユー・オールウェイズ”。これはザ・マグワイア・シスターズの59年の曲。

小山田:これもやっぱりライヴでカヴァーしてた曲なんですよ。これオリジナルはマグワイア・シスターズなんだけど、いろんなガールズ・コーラス・グループがやっていて、レノン・シスターズっていうひとたちのヴァージョンに比較的近い感じがする。まぁ、ああいう50年代の後半から60年代前半ってこういうガールズ・コーラス・グループってたくさんあって。
それでsalyu × salyuはもともとはひとりで多重録音をして作っていたんだけど、ライヴではそれを再現するためにSalyuの昔の合唱団の友だちとかをスカウトしてきて、salyu × salyuシスターズみたいなのは感じでやってたのね。そういうガール・グループの曲を1曲やりたいなと思っていて、それで僕が選曲したんですけど。

北沢:そうなんだ。すごくハマってる選曲だね。俺はマグワイア・シスターズのヴァージョンしか聴いてないけど、あの頃特有のゴージャスな楽団サウンドにのって、三姉妹がゆったりとハモるっていうノスタルジックなスタイルじゃない? 50sのこの時点ですでにノスタルジックっていう。
salyu × salyuのヴァージョンを聴いたら、テンポは原曲に近いんだけど、歌唱とかハーモニーの付け方も、なるべく似せようとしているような……普段の歌い方ともちがうような気がして、ずいぶん器用なことができるんだなと思った。

小山田:これは3人でコーラスをやっているんだけど。

まったくいじってない。これもほぼ一発録りなんです。オケも。

北沢:ぜんぜんいじってないの?

小山田:まったくいじってない。これもほぼ一発録りなんです。オケも。自分の作品とかリミックスにしても、スタジオ一発録りってことは僕はほぼやらないんだけど、salyu × salyuの2曲に関してはスタジオ一発録りみたいな。

北沢:それは、そうした方が向いてるんじゃないかっていう?

小山田:それもあるし、やっぱりライヴでずっとやってきた曲だったりするから、もう練れてるっていうのもあるかも。

北沢:『Sensuous』のエンディングにシナトラのカヴァーを置いたのと、役割的には……
小山田:うん、かなり近いですよね。

北沢:こんなふうに終わりたいっていうイメージが小山田くんのなかにあるのかな?

小山田:うーん。出口はね。こういう、いかにもというか、ハッピー・エンディングなのはわりと好きです。

最初の曲に入っているモーグとかもそうだけど、そういうものが作られた50年代や60年代って、世の中がこれからどんどんよくなるっていう、未来に対する明るい希望が本当にあったんだろうなって。で、そういう気持ちが人々の間にまだあって、そういう希望がリアルに音楽の形になっていると思うんだけど、なんかそういうものがすごく好きっていうか。

北沢:『Sensuous』のときのインタヴューで、とくに“スリープ・ウォーム”のエピソードが印象に残っていて。……お父さんのレコード棚を整理してたらシナトラのレコードが出てきて、しばらくハマって聴いていたんでしょう? そこでシナトラの人生について書かれた本を読んで、いろいろ複雑な生い立ちから彼の音楽は生まれてきたんだなと。そういうことがわかるような年齢に自分は達したんだな、っていう。
50年代のこうした音楽に惹かれるというのは、ここ数年の傾向なの?

小山田:そうですね。ここ数年というか。若い頃はぜんぜん聴いてなかったですね。

北沢:これはロックンロールじゃない音楽だものね。

小山田:たとえば最初の(大野さんの)曲に入っているモーグとかもそうだけど、そういうものが作られた50年代や60年代って、世の中がこれからどんどんよくなるっていう、未来に対する明るい希望が本当にあったんだろうなって。で、そういう気持ちが人々の間にまだあって、そういう希望がリアルに音楽の形になっていると思うんだけど、なんかそういうものがすごく好きっていうか。いまは絶対に生まれないというか、そういうものだと思うんですよ。

北沢:失われた未来感というかね。

小山田:まだ世の中に明るい希望があった時代の音楽っていうか。

北沢:同じような時代を背景にしても、ドナルド・フェイゲンが『ナイト・フライ』っていうファースト・ソロアルバムを80年代の初頭に出したときは、米ソの冷戦間のムードみたいなものも作品の背景にはあって、実際には50年代から60年代にかけて、世界中が緊迫している時代でもあったと思うけど、こういうシスターズものにしてもシナトラにしてもさ、そういう翳りがないよね。まだまだ楽天的だったんだろうね。

小山田:その時代に生きていないからわからないんだけど、僕はそういうものを感じるんですよ。

北沢:それに憧れる感じ? それとも、それを哀惜というか惜しむ感じ?

小山田:うーん。両方ですね。

北沢:最近の細野(晴臣)さんにもそれを感じるんだよね。

何が主流かもよくわからないですから。

小山田:細野さんとかが最近やっている音楽はそういう感じですよね。

北沢:その名も『Heavenly Music』っていうカヴァー・アルバムは本当に素敵だった。だから小山田くんも、細野さんと共通する心境なのかなと思ってさ。最近の細野さんは、ライヴでもカントリー&ウェスタンとかブギウギみたいなアメリカのポピュラー・ミュージックのオールディーズを熱心にカヴァーしているし、いまは遠く失われてしまった世界に強く惹かれているのかなって。

小山田:それはありますね。でも細野さんはその時代を生きていたひとだし。子どもの頃に身近に感じていたものを、知っているひとが後世に残さなきゃとか、そういうことがあると思うんだよね。
でも僕はもうちょっと距離がある感じがしますね。

北沢:小山田くんのベースになっているのはニュー・ウェイヴ以降の音楽だもんね。でも、距離があるにもかかわらず、いま、50年代のスタンダードなポップスに惹かれていく心境はどういうところからきたの? 現実があまりにも未来がない感じがする? ゴティエ的なメッセージが……(笑)。

小山田:そういうゴティエ的なメッセージはあんまり聞きたくないですね(笑)。

北沢:それはあまりにも現実がシビアだから? それとも小山田くんの性格的に?

小山田:うーん。まぁ、両方ですよね。それよりこういうものをたくさん聴いていたいですよね(笑)。

北沢:こういう音楽が似合う世の中だったらどんなにいいか……とは思うよね。

小山田:そう思いますね。ただ、世の中に足りてないな、というものだとは思うので。

北沢:たしかに小山田くんの音楽活動って、世の中にこれが足りないぞっていう空白を埋める歴史のような。

小山田:そうですかね……。

北沢:そういう気がするけど。だって世の中の主流みたいなことを一回もやったことがないじゃん。

小山田:わかんないっすね。どうなんですかね。何が主流かもよくわからないですから。

(まりん氏は)自分でクラフトワークの音が悪いやつとかをマスタリングし直したりね。

北沢:EDMが流行れば、すかさずそれっぽいトラックを作るような人たちが主流なんじゃない? そうだ、マスタリングをまりん氏(砂原良徳)が手がけていることについて訊いていなかった。前からマスタリングが得意なひとなんだよね?

小山田:もともとは趣味でマスタリングをやってたっていうようなひとなんだよね(笑)。自分でクラフトワークの音が悪いやつとかをマスタリングし直したりね。

北沢:こうやって正式に頼んだのは初めて?

小山田:『ファンタズマ』の再発のときに僕が頼んで。仕事としてやったマスタリングはそれが初めてだったらしくて、それ以降すごいマスタリングしてるよね(笑)。

北沢:それが彼のワークスのひとつになったんだ(笑)。

小山田:サカナクションとかも仕事として普通にやってるからね。

北沢:じゃあ、最初っからマスタリングは彼に頼もうっていうのがあったの?

小山田:うん。

北沢:やっぱり他のひととちがう?

小山田:うーん……、どうなんだろうね(笑)。

北沢:気軽に頼める感じ?

小山田:うん。信頼できる。

北沢:来年はニュー・アルバムの取材ができるかな。次のアルバムのテーマとか、けっこう見えてきた感じなの?

小山田:ぼんやりって感じですけどね。

北沢:その前哨戦としてこれを聴いている自分がいるんだけど。本当に楽しみにしてるので。

小山田:はい。ありがとうございます。

北沢:傑作を(笑)。

小山田:か、どうかはわからないですけど(笑)。

interview with Cornelius - ele-king


Cornelius
攻殻機動隊 新劇場版 O.S.T.music by Cornelius

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坂本真綾、Cornelius
あなたを保つもの/まだうごく

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V.A.
攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE/新劇場版 Music Clips:music by Cornelius

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 小山田圭吾a.k.a.コーネリアス。
 彼と初めて会ったのは1990年だから、いまから25年前ということになる。25年の歳月は世界の様相を激変させたけれど、どんなときも自然体を守り、自分の生き方と時間軸を保ちながら、音楽的にもめざましい進化を遂げたコーネリアスの軌跡は、アーティスト・ネームの由来となったSF映画に因んで「この惑星の霊長類史上稀にみる」と形容したくなるほど稀有なものがある。

 2006年の『Sensuous』以来、オリジナル・アルバムこそリリースされていないが、インターナショナルなオファーが絶えないリミックスやCMワークス、Eテレの教育番組『デザインあ』の音楽制作、salyu ×salyuなどのプロデュース、そしてYoko Ono Plastic Ono Band、YMO、高橋幸宏&METAFIVEなどのメンバーないし準メンバーとしての活動を通じて積み重ねてきたコラボレーションの数々は、不在を感じさせるどころか、他に例を見ないほど充実している。

 彼が約3年間に渡って音楽を手がけた、89年の原作発表以来25周年を迎える日本におけるサイバー・パンクの金字塔的作品『攻殻機動隊』の前日譚『攻殻機動隊 ARISE』も、現在オンエア中のTVアニメ『攻殻機動隊 ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』ならびに映画『攻殻機動隊 新劇場版』をもって、一連のシリーズを完結する。
 作品の舞台は近未来――といってもいまからわずか12年後の――2027年の日本だが、坂本慎太郎との共作によるそれぞれの主題歌、“あなたを保つもの”と“まだうごく”は、映像作品のテーマ・ソングという役割を超えて、なぜか2015年現在の日本を覆う不穏な空気に対するアンサー・ソングのように響いてくる。

ほら 見て 今までの 約束 破棄された
新たな この世界 あなたを 保つものが
あな たの あな たが
あな たを あな たに
あな たの あな たが
あな たを あな たに
してる
“あなたを保つもの”

 しばらく会えずにいる間も、彼が創造する音楽はいつも近くに在った。
 心が波立つとき、彼の音楽に耳を傾けると、平穏な気持ちを取り戻す。感覚を研ぎ澄ませたいとき、彼の音楽に全身を浸せば、マインドのセットアップが完了する。
 ぼくにとって彼の音楽は、「自分を保つもの」として欠かすことができない。

 いま、ぼくらが生きるこの国で、奇妙な事態が進行している。
「今から おきる ありとあらゆる現実を 全部 見て 目に 焼き付けよう」
 4年前、坂本慎太郎と小山田圭吾が、salyu × salyuというプロジェクトで発したメッセージが、いま再び、別の意味合いを帯びはじめている。

どこまでも どこまでも 続く道を
すこしずつ すこしずつ 歩くために 理由がいる

まだ うごく
まだ みえる
“まだうごく”

 どこからか声が聞こえる。
 自分のゴーストに従え、と。


■コーネリアスが手掛ける「攻殻機動隊ARISE」シリーズの劇中曲
世界中のクリエイターに影響を与え、映像作品としても革命的なインパクトを残し、歴史にその名を燦然と刻む傑作SFアニメ映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)。その“生誕”──士郎正宗による原作『攻殻機動隊』25周年を記念して、今週末より長編アニメーション映画『攻殻機動隊 新劇場版』が公開される。同作は、現在放送中のテレビアニメ『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』とともに「攻殻機動隊ARISE」シリーズの完結編となり、そのラストを締めくくるテーマソングを、同シリーズのサントラを手掛けてきたコーネリアスと主人公・草薙素子を演じる坂本真綾とが彩る。
Salyuや青葉市子から、ショーン・レノン、高橋幸宏までを迎え、坂本慎太郎が詞を提供することでも話題となった、このスペシャル・コラボレーションによる一連の音楽作品は、2枚のサントラ盤をはじめとしたいくつかのリリースによって楽しむことができる。川井憲次、菅野よう子からの連続性の上に、新たな“攻殻”の音世界が築かれていることがはっきりと感じられるだろう。このたび発表されるのは『攻殻機動隊 新劇場版O.S.T by Cornelius』ならびにシングル『あなたを保つもの / まだうごく』、そして貴重なライヴ映像等を収めたミュージック・クリップ集『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE/新劇場版 Music Clips:music by Cornelius』。どこから観て、どこから聴いても特別な作品群だ。

■Cornelius / コーネリアス
フリッパーズ・ギター解散後、1993年から開始された小山田圭吾によるソロ・プロジェクト。ソロ・デビュー22年を迎え、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなどますます幅広く活動する。2008年にリリースされた「Sensurround & B-Side」がグラミー賞のベスト・サラウンド・サウンド・アルバムにノミネート。「UNIQLO」「CHANEL」などのCMや「デザインあ」(NHKEテレ)といったTV番組ほか、映像とのコラボレーションも多い。https://www.cornelius-sound.com/

これまで僕がコラボレーションしてきた人たちが、ここに集まった、っていう感じはあるかな。

小山田圭吾(以下、小山田):すごい久しぶりだよね。ライヴでチラッと会うくらいだもんね。

北沢夏音(以下、北沢):そうだね。何回かそういうこともあったけど……。

小山田:いや、もう20年くらいは取材とかしていないんじゃない(笑)?

北沢:……かもしれない。つねに取材はしたかったんだけどね。音も聴いていたし、小山田くんの活動はつねにフォローしてる。

小山田:取材してたといっても、いちばんやったのはフリッパーズの頃だよね。

北沢:うん。だけど、『バァフアウト!』を創刊してしばらくのあいだ、コーネリアスのデビューから少なくとも『69/96』までは必ず取材してた。

小山田:そうだそうだ。それも20年近く前だからね(笑)。

北沢:『Fantasma』のときは『クイック・ジャパン』でクロス・レヴューする企画があって、ぼくは映画『渚にて』の終末観と重ね合わせて原稿を書いたことまでハッキリ覚えてるんだけど、取材が実現したかどうか……してないかもね。

小山田:そうか。不思議だね。

北沢:あんまり久しぶりだから、どこから切り出していいかわからないけれども。そうだな、まず、今回の『攻殻機動隊 新劇場版O.S.T by Cornelius』の音源を頂いてから、もうずーっと聴いてる。たんなる劇伴ではない、アルバムとしてのトータリティをすごく感じる。このサントラ盤自体、小山田くんがこのところ行ってきた、いろんな人たちとのコラボレーションの集大成といえるものになっていて、その精華がギュッと集約されてる。それだけでも十分すぎるくらい価値がある素晴らしいアルバムになっていると思った。
この『攻殻機動隊ARISE』のシリーズのサントラについては、前に出ているもの(※『攻殻機動隊ARISE O.S.T.』)も買って聴かせてもらってたんだけど、今作は前作とのつながりもありつつ、もっと広がりがあるというか。坂本真綾さんがヴォーカルをとるTVアニメ『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』のオープニング・テーマ“あなたを保つもの”と『攻殻機動隊 新劇場版』主題歌“まだうごく”という核になる2曲がまずあって、だけどそれだけじゃなくて、高橋幸宏さんがヴォーカルの“Split Spirit”とか、ショーン・レノンがヴォーカルの“Heart Grenade”とか、既発の曲もピタッとハマっているし、アルバム全体がものすごく起伏に富んでいる。環境音楽的なアプローチだったり、ミニマルやノイズ、はたまたアグレッシヴでエッジィなギター・ロック・サウンドが聴けたり、曲想もヴァラエティに富んでいて、最後まで飽きずに聴けるし、繰り返し楽しめる。

小山田:よかった。

北沢:ぼくは、ショーンと合作した“Heart Grenade”がすごく好きで。メロディとか展開は完璧にコーネリアスなんだけど、ショーンが詞を書いて彼の世界観が投影されることによって、普遍的なモダン・ポップに仕上がっていて、最高だなと思った。今回『攻殻機動隊OST 2』をまとめるにあたって、どういう構想があったの?

小山田:うーん。まぁ、とくに構想というのはなくて、基本はサントラなんで、映画の劇伴と主題歌を集めたものなんだけど。『OST 1』はボーダー1(※攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Pain)と2(※攻殻機動隊ARISE border:2 Ghost Whispers)で、今回の『OST 2』はボーダー3(※攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears)、4(※攻殻機動隊ARISE border:4 Ghost Stands Alone)と劇場版ということで。「ボーダー1」は全部で50分ある最初のやつで、比較的多くの曲が必要だったから、(それを作った時点で)もうある程度のヴァリエーションが出揃ってて──だから1、2で“『攻殻』の劇伴”というのはすでにあったんだけど、3、4と劇場版で少しずつ曲が増えていったという感じ。それぞれの映画にテーマがあって、それに沿う形で曲ができていった感じかな。

北沢:その核にあったのは、やっぱりオープニングとエンディングのテーマ?

小山田:まぁ、そうですね。毎回エンディング・テーマがあって、それは主題歌ということで、映画によって多少内容が変わってくる、っていう感じなんだけど。


サイバー・パンク的なSFにYMOが与えた影響ってあるんだろうね。日本の未来感みたいな。そういう意味でも、僕がやってきたコラボレーションと、『攻殻機動隊』の世界観がハマったなっていう感じ。

北沢:おそらくSalyuのプロデュースをやったことから、現在にいたる流れがはじまったんじゃない? salyu × salyuの『s(o)un(d)beams』(2011年)の中の曲は前作のOSTに起用されてなかったっけ。あれはちがうか。

小山田:『s(o)un(d)beams』の中の曲じゃなくて、『攻殻機動隊』用の書き下ろし(※salyu × salyu“じぶんがいない”)だったんだけど。ちょうど「ボーダー1」をやる前にsalyu × salyuのプロジェクトをやって。それでSalyuに「最近何やってるの?」って訊かれて「『攻殻機動隊』のサントラやるんだよ」って話をしたら、彼女がこの映画をすごく好きだったみたいで、じゃあ、って頼んだという流れで。今回のも含めて、これまで僕がコラボレーションしてきた人たちが、ここに集まった、っていう感じはあるかな。
偶然かどうかはわからないんだけど、Salyuが『攻殻機動隊』を好きだったり、ショーンにも(ヨーコ・オノ・プラスティック・)オノ・バンドのライヴでロンドンに行ったときに『攻殻機動隊』の話をしたら、彼も観ていて好きだったみたいで、そういう縁があった。幸宏さんはさすがに観てなかったんだけど、以前のシリーズで“ソリッド・ステイト・ソサイエティ”っていう話があって(※『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』)。

北沢:そのタイトル、モロにYMOだ。

小山田:そう。ああいうサイバー・パンク的なSFにYMOが与えた影響ってあるんだろうね。日本の未来感みたいな。そういう意味でも、僕がやってきたコラボレーションと、『攻殻機動隊』の世界観がハマったなっていう感じ。

北沢:ミレニアム以降、『Point』(2001年)を分岐点に小山田くんの楽曲の作り方が変わって、『Sensuous』(2006年)にいたるまで、その方法論を発展させてきた過程というのは、すなわちひとつの音をどう響かせるか、それを研ぎ澄ませてきた過程だという気がするんだけど。そういうなかで自分の声や言葉の響き、作詞についても新しいアプローチをして、その流れでSalyuとのコラボもあって。やっぱりすごく大きかったと思うのが、坂本(慎太郎)くんとの共作をそこでスタートさせたことかなと。共作のきっかけは?

小山田:それは僕から提案したんじゃなくて、Salyuが「(作詞は)坂本くんがいい」って言ったんだけどね。僕も坂本くんがいいなと思っていたんけど、バンドがちょうど解散したばっかりで。

北沢:ゆらゆら帝国はもうなかったんだね。(※2010年3月31日付けで解散を発表)

小山田:あんまり活動をやっていないし、(そんなときに)頼むのもどうかなって思っていたんだけど、Salyuが「坂本さんがいい」って言ってるからお願いしたら、やってくれるって。


視点が、僕としてはすごく共感できる。客観性を絶対に失わないで、ユーモアみたいなものも含んでて。いままで坂本くんが作ってきたものを含めて、そう思うんだけど。

北沢:小山田くんと坂本くんの共作のやり方って、先に坂本くんの詞があるわけじゃないよね? 彼自身のいつものスタイルも詞先じゃないっていうし。彼とどういうふうに共作したのか、あらためて教えてほしいな。

小山田:salyu × salyuのときは、僕がデモ・テープみたいなものを持って行って、アレンジも全部できていて、メロディ・ラインもシンセで入っている音源をSalyuにまず渡して。Salyuがそこにデタラメな──自分が発語したい言葉で仮メロを入れるんだけど、それは何語でもなくて、メロディに対して彼女が発語したい言葉を歌っているっていうすごい変なもので。それを坂本くんが聴くと、何か空耳的にいろいろ聴こえてくるらしいんですよ(笑)。それを歌詞の言葉に置き換えるみたいな作業だったのね。
salyu × salyuの頃はそういう作業だったんだけど、今回の『攻殻』に関してはデモ・テープを坂本くんに渡して、あとはとくにディレクションもなく、わりと好きに書いてもらった。でもその前に『攻殻機動隊』のDVDボックスを渡して観てもらって、なんとなくその世界観を掴んでもらってから、後はおまかせっていう感じだった。「じぶんがいない」(※「border.1」エンディング・テーマ)っていう曲に関しては、言葉がパズルみたいになってて、声が入り組んでいって、言葉が増えていくことによって、メロディができていくみたいな……。

北沢:「き、き、き、きく、きく、きおく」みたいな感じ?

小山田:うん。一文字で意味があって、二文字でも意味があって、三文字でも意味がある、みたいな言葉があったら当てはめてほしい、とかは(坂本くんに)言ったけど。

北沢:小山田くんからお題を出した?

小山田:うん。で、それ以外の曲に関しては、何もディレクションはなかったかな。

北沢:それにしてはものすごくジャストな詞だよね。しかも“あなたを保つもの”を聴いたとき、これは作詞が小山田くんだと言われたら信じちゃうような、わりと小山田くんっぽい感じも入ってるなって。最初にもらったとき、小山田くんはそう思わなかった?

小山田:うーん。そうかな?

北沢:自分ではあんまり?

小山田:「うで ゆび あし つめ」とか?

北沢:うん、そういうところも。

小山田:まぁわかるけど。メロディを作ってる人が僕だし、あんまり“日本語のポップス”(の常道)じゃないところに言葉を当てはめようとすると、そういう言葉が入るのかなっていうのは。でも、僕にはできないようなものにはなっていると思うんだけど。そこはやっぱり坂本くんの力。

北沢:“あなたを保つもの”だと、どの言葉がとくに坂本くんっぽいと思った?

小山田:うーん。具体的にはわからないけど、ホントに上手いなと思うんだよね。言葉のはめ方もそうだし、歌ってて……というか、発語して気持ちいい、みたいなところをまったく損なわないで、なおかつ文章としてもおもしろくて、深い意味も感じられるような歌詞の言葉を作れる人だと。しかも視点が、僕としてはすごく共感できる。客観性を絶対に失わないで、ユーモアみたいなものも含んでて。今回だけじゃなくて、いままで坂本くんが作ってきたものを含めて、そう思うんだけど。


「あなたを保つもの」、つまり「ゴースト」っていうものを、いろんな角度から言っている、ってことだと思うのね。そのなかで坂本くんのいままでやってきたことと重なる部分もあって、それがまたいろんなかたちで出てきているっていう。

北沢:“あなたを保つもの”と“まだうごく”を聴いて感じたのは、もともと彼自身のなかでも、「幻」(ゴースト)がかなり大きなテーマとして存在していたんじゃないかということ。坂本君の最初のソロ・アルバムのタイトルが『幻とのつきあい方』だし、一方『攻殻機動隊 ARISE』のシリーズを通してのオープニング・テーマが“GHOST IN THE SHELL ARISE”でしょう?
それで、「幻ってなんだろう?」と考えたときに、英語の「ghost」には「幻影」や「幽霊」のほかに、キリスト教的な「聖霊」という意味もある。これを日本的に解釈すると、草木に宿る「精霊」とか「死者の魂」、さらには人間の内奥にある魂(ソウル)や精神(スピリット)をも「ゴースト」と呼んでいいだろう、とぼくは思う。もしそうであるなら、「あなたを/保つもの」、あるいは「あな/たを/あな/たに/してる」ものとは、人間の五体に備わっているさまざまな器官のみならず、目に見えない、フィジカルではない霊的なもの――つまり、「体を/捨てても/あなたを/保つもの」――の力によって、人は自分自身を保ち、命と心を支えられているんじゃないか、と。そういう想いをこの2曲の詞から感じた。
それが当たっているかどうかは坂本くんに訊かないとわからないけど(笑)、ぼく自身はその考えにまったくうなずけるというか、自分はきっとそうだな、って思ったりもした。小山田くんは、自分が何によって保たれていると思う?

小山田:なんだろうね(笑)。うーん。

北沢:こういう質問は面倒臭いかもしれないけど、ちょっと訊いてみたかった。

小山田:うーん、よくわからないな。


坂本真綾とコーネリアスによるシングル『あなたを保つもの / まだうごく』のジャケット。カバー・イラストは詞を提供した坂本慎太郎が自ら手掛けている。


北沢:体を捨ててもあなたを保つもの。

小山田:この映画のテーマ自体がそういうものっていうか。(草薙)素子っていう主人公がいて、(生まれる以前に)“義体”っていう体にされてて。

北沢:サイボーグ?

小山田:サイボーグ……、まぁサイボーグなんだよね。生まれながらにサイボーグで、ゼロ歳児の義体っていうところ(出生)から、「自分を保つものはいったい何なんだろう?」ってつねに悩んでいるというか。その魂みたいなものを映画のなかでは「ゴースト」と呼んでいるんだけど、基本的なテーマがその「あなたを保つもの」っていうこと。で、坂本くんの詞に関しても「あなたを保つもの」、つまり「ゴースト」っていうものを、いろんな角度から言っている、ってことだと思うのね。世界観やテーマもはっきりしているから、そのなかで坂本くんのいままでやってきたことと重なる部分もあって、それがまたいろんなかたちで出てきているっていう。

北沢:“まだうごく”には、「昔は幻に/名前がついていた/ひどく大切な/もののように」という一節があったり、「素敵な人たちは/先に行ってしまった」っていうフレーズがあったりするけど。なんか、それこそ石橋英子さんがジム・オルークさんたちとやっているバンドの名前「もう死んだ人たち」(石橋英子 with もう死んだ人たち)じゃないけど、もう死んでいる人たちの音楽を聴いていることが、やっぱり坂本くんは多いみたいで、それも小山田くんとの対談で言っていた気がするんだけど……。

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©士郎正宗・Production I.G / 講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会
『攻殻機動隊 新劇場版』6月20日(土)全国ロードショー
https://kokaku-a.jp/


ゴーストは見たことある? (北沢夏音)

ないです(笑)。UFOはあります。 (小山田圭吾)

北沢:実際に、偉大な人たちが、いまこうしている間にもどんどん死んでいって、でもぼくらはそういう人たちからインスピレーションをもらったり、励まされることがよくあるし。そういえば「自分のゴーストに従え」というメッセージが今回の『攻殻機動隊 新劇場版』にもあるね。

小山田:うん。出てくるよね。

北沢:(唐突に)ゴーストは見たことある?

小山田:ないです(笑)。UFOはあります。

北沢:どこで見たの?

小山田:タイで見ました。出そうでしょう?(笑)

北沢:都心部で?

小山田:ちょっと田舎の方ですよ。

北沢:チェンマイとかあっちの方?

小山田:いや、チェンマイまではいかないですけど、けっこう20人くらいで見たのでたぶん本物だと思うんですけど。自分ひとりだと自信がなくなるけど(笑)。

北沢:変な話だけど、守護霊が自分にいるとしたら何だと思う?

小山田:守護霊? なんだろうね。ぜんぜんわかんない(笑)。

北沢:(笑)そういうオカルティックな方面にはぜんぜん興味なかったっけ?

小山田:自分の守護霊に関してとか?

北沢:うん。

小山田:うーん、あんまわかんないですね。聞いたこともないです。UFOには興味があります。


流行っているものがあんまりよくわからないんで(笑)。いまは流行りも多様化しているじゃないですか。

小山田さんは、普通に新譜とか聴かれるんですか?

小山田:うーん、ちょいちょいですね。

最近は何かチェックされた新譜はありますか?

小山田:最近……何かチェックしたかな。名前が最近覚えられないです(笑)。

(笑)。それは再発とかじゃなくて新しい人の名前ですか?

小山田:新しい人の。新譜でもけっこうダウンロードで買ったりすると、コピペしてポンってやって名前を覚えないパターンが多くて。

北沢:気にしなくなっちゃうんだ。

小山田:うん。ぜんぜん気にしなくなっちゃうね。でも昔に比べたらあんまり買わないですね。まぁ、ちょいちょい聴いてるけど。

買われるものに関しては、どういうタイミングで「これがほしい」って思うんですか?

小山田:ネットを見ていて、とかユーチューブを見ていて「あっ、いいな」って思ったものとか。

じゃあ、巷でクラウト・ロックがリヴァイヴァルしているとか、インダストリアルがリヴァイヴァルしているとか、あるいはエイフェックス・ツインが昨年大復活したり、フライング・ロータスの存在感もジャンル横断的に大きかったとか、そういうようなことは感じていますか?

小山田:フライング・ロータスは、最初のやつは聴いた。去年出したやつは聴いてない。

そうなんですか。去年のは、ちょっとキング・クリムゾンというか、プログレっぽくなっていたりもするんですけど、いま挙げたようなものの全部の要素が今回の『攻殻機動隊 新劇場版』のサントラから感じとれるんですよね。小山田さんはたぶん絶対に意識されていないでしょうし、わざわざ追ってもいらっしゃらないとは思うんですが、全トラック中にごく自然にトレンドが溶け込んでいる感じがして、すごいなぁと。

小山田:あっ、たしかにクリムゾンっぽいのはちょっとあるかもね(笑)。

北沢:あるある。あとインダストリアルっぽいのもある。

小山田:うん、インダストリアルっぽいのもあるね。

エイフェックス・ツインっぽいのもありますよね。

小山田:あっ、エイフェックスっぽいのもあるかもね。

そういう時流みたいなことって今作を作るうえで意識されてたんですか?

小山田:流行っているものがあんまりよくわからないんで(笑)。いまは流行りも多様化しているじゃないですか。

それはありますね。今月何を聴けばいいかなんて、昔とちがって共有できない事柄ですよね。

小山田:うん。わかんないじゃん。自分のなかの流行りはなんとなくあるけど。いま、何が流行ってんだろう? わかんないや。インダストリアルも流行ってんの?

北沢:まぁ、密かにそういう潮流はあるよね。


インダストリアルと『攻殻機動隊』の親和性はけっこうある気がする。マシーンと(融合する)未来感みたいな。

小山田:どういうの? TG(スロッピング・グリッスル)みたいなの?

なかにはありますよ。話し出すと長いですが……。

北沢:シューゲイザーとチルウェイヴとドリーム・ポップの行末に、インダストリアルがどーっと流れ込んできた感じがする。

あとテクノも最近は聴こえてくるんですけど、そういうものが結びついている気がしますね。

北沢:ベース・ミュージック隆盛の反面、ここのところずっとふわふわしてる音が来てたけど、さすがに甘口に飽きたのか少し尖った音の方に流れが変わってる気がする。

小山田:インダストリアルとかは昔は聴いていたし、クリムゾンとかはそんなには聴いていないけど、エイドリアン・ブリューが入ってからのクリムゾンは好きで。

北沢:エイドリアン・ブリューって、小山田くんっぽいよね。音の遊び方、トリッキーなギターのフレージングとかユーモアのセンスが。

小山田:その前はあんまり聴かないんだけど、『ディシプリン』三部作くらいが好き。インダストリアルと『攻殻機動隊』の親和性はけっこうある気がする。マシーンと(融合する)未来感みたいな。

北沢:あるね。このサントラにも破裂音とかけっこう入ってるし。

クリムゾンみたいな要素がいまをときめくアーティストからふと聴こえてくる、その理由については意識されてないとしても、それが時代の差し色だったのは間違いないと思うんですね。そんな感性が自然に入っているところが、いま現在の新譜としてもすごいな、って思ったんですけど。そのあたりの手応えはどうですか?

小山田:もちろんこれは『攻殻機動隊』のサウンドトラックなんだけど、それと切り離してもアルバムとして聴けるものに構成したいと思っていて。単に劇伴の曲を並べているだけじゃなくて、アルバム用にリサイズしたり、ミックスしたりしてる曲もあったり、これに入っていない曲もたくさんあったりして、そのなかからアルバムとして聴けるようなエディットや選曲をしてるんだよね。
世界観が統一されているのは、もちろん作品の映像があってこそなんだけど、自分が自由に作りたいものを作るとなると、もうちょっと多面的で、興味も移りがちになって……、ここまでひとつのトーンで作品を作ることって、ひとりでは難しいのね。だけど、依頼があって限定された条件のなかでやるからこそ、こういうわりと世界観が統一されたアルバムができたんだなって思う。それが自分のなかではよかった。自分の作品だとやりたいことがいろいろ出てきちゃったりするんだけど、必ずしもそれがいいことじゃないなっていうか(笑)。


もちろんこれは『攻殻機動隊』のサウンドトラックなんだけど、それと切り離してもアルバムとして聴けるものに構成したいと思っていて。

北沢:それは、プロデューサーとしての小山田くんがそう思うってこと?

小山田:うん。まぁそうだね。今回やってみて思ったんだけど、そういう限定された条件で作ることによってしか生まれない作品っていうものもあるな、って。

北沢:『攻殻機動隊』のシリーズで、小山田くんが自分をヴォーカリストとして起用しないのは、自身のソロ作品と区別するため?

小山田:区別するためっていうわけじゃないんだけど。(しばし黙考して)まぁ、それもちょっとはあるかもね。なんか、自分とコーネリアスとその他の作品の境界線が、自分でもよくわからなくなってきていて(笑)。

北沢:溶けてきているよね(笑)。だんだん交じり合ってきたような。

小山田:何がどうなっているのか自分でもわからなくなってきていて、果たしてこれをコーネリアスと言っていいのか、小山田圭吾の作品なのか、それもよくわからない。でもそれを区別するとしたら自分の歌だってことは、あるといえばある。あと、あんまり自分の歌に責任が持てないっていうか(笑)。自分が歌うことはいつでもできるし、こういう機会がせっかくあるなら、いままでコラボレーションしてきた人とまたやるのもいいかなっていう。

北沢:たしかに、そういう人たちがサントラの一部として自然にハマっているからね。前に青葉市子さんとやった“外は戦場だよ”(※「border.2」エンディング・テーマ)は、本当にぞっとするような怖い歌詞だと思うけど、それが彼女のえもいわれぬクワイエット・ヴォイスで歌われると、よりリアリティが増すとも言えるし、聴いている自分も当事者になったような感覚が伝わってくる。青葉さんならではの不思議な憑依感というか。これはたしかに他の人には歌えない、演奏できないような曲だと、一度聴くとそう思ってしまうね。

青葉さんはじめ、いろんな女性ヴォーカリストが歌っておられますけれども、今回の坂本真綾さんは、歌い手として、あるいは素材として、どういう存在でしたか? 声優さんということは意識されましたか?

小山田:別に、いつも通りに作っていたんですけど。すごく歌が上手で、クセのない良い声だよね。すごくやりやすかったですよ。女優さんだからといっても、むちゃくちゃ強い個性があるっていう感じでもなくて、わりと水みたいにいろんなものに変われる部分もあって。歌録りは非常に速かったですね。

では、アプローチとしては他の女性ヴォーカルと変わることなく?

小山田:うん。ぜんぜん。

声を純粋に音として捉えている部分もあると思うんですね。それぞれの歌い手さんにもそういう意味でのちがいがあると思うんですけど、曲をつくる上で意識せざるを得ない差はなかったですか?

小山田:えーっと、歌い手さんに合わせて作るっていうこともあんまりなくて。それよりも楽曲に合わせるというか。ただ、salyu × salyuに関してはわりと歌をたくさん使ったり、コーラスだとか声を組み替えたりすることはこれまでもやってきたことだったんだけど、今回も(坂本真綾さんに)そういうことをやってみたりだとか。(青葉)市子ちゃんのときは、逆にそういうことはやらないとか。

北沢:青葉さんに関しては、彼女が自分で詞や曲を書いて歌うシンガー・ソングライターであるというところを尊重しようという気持ちがあるのかな?

小山田:市子ちゃんだったら、基本はギターと歌だけで成立するような世界をやってて、コーラスを重ねたりすることもあんまりなく、さらっとひと筆書きみたいなメロディが合うかなとか。Salyuの場合はコーラスとかもやるし、普通の一本の線みたいな歌も歌えるし、歌に特化した人だから、いろんなアプローチができると思う。真綾さんの、とくに“まだうごく”とかはシリーズ最期の劇場版だったので、スケール感のある歌ものをやって、彼女の声の質感みたいなものがちゃんと聴けるといいかな、と思って作った。
歌い手さんの条件によって変わることは、それくらいの意味ではあるけど、まぁそんなにはないと言えばない、というか。その時々の映画の内容によってだったり、いろんな条件が重なってこういう結果になっていると思う。

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劇場版の最終作なので。基本は悲しい話なんだけど、そのなかの微かな希望が印象に残るようにイメージしてたな。

北沢:小山田くんは、タイアップありきで楽曲を作っても、絶対にタイアップっぽくならないよね。小山田圭吾オリジナルのコーネリアス・サウンドの強度が前提にあるからこそ、そういうことができるんだろうね。歌い手のキャラクターとか、声の存在感に引っ張られると、たぶんそうならないんだけど、ホント不思議だよね。リミックスを集めた『CM』のシリーズも毎回楽しみにしてるんだけど、誰のどんな曲を手がけても、完璧にコーネリアス・サウンドになってしまうものね。そのオリジナルなサウンドの進化の過程がコーネリアスの歴史そのものになっている。誰とやっても負けないよね。それは字義通りの勝ち負けではなくて、相手に引っ張られることがほとんどない気がする。これは引っ張られたという例はある?

小山田:そうだなぁ(笑)。誰かに引っ張られるってことがどういうことなのかわからないんだけど(笑)。あくが強い……。

北沢:そういうことじゃないんだけどね(笑)。さらっとしてるのに、小山田くんの色は強烈だよね。

小山田:音の入れ方が独特、っていうのはあるのかもしれないけどね。

北沢:タイム感も独特だし。“まだうごく”はシンセ・ベースの使い方がすごくかっこいい。ゆっくり歩いている感じのウォーキング・テンポでこれは絶妙だなって思った。こういう技をパッと出してくる人はなかなかいないからね。

小山田:地味な感じでしょう(笑)?

北沢:いや、地味だとは思わないなあ。かっこいいよ。

小山田:けっして派手じゃないじゃない? テンポものろいし。

北沢:まぁ、布袋(寅泰)さんみたいな感じの派手さはないよね。

小山田:まぁ布袋さんではないと思うけど(笑)。いちおう劇場版の最終作なので。基本は悲しい話なんだけど、そのなかの微かな希望が印象に残るようにイメージしてたな。

北沢:いろんな仕事を小山田くんはやってるけど、そのすべてが真のコラボレーションになっているのが素晴らしいと思う。「これはおもしろそうだからやってみようかな」っていう判断の基準はあるの?

小山田:うーん……、勘ですね(笑)。野生の勘。なんとなくヤバそうなのはわかるんですよ、話をきくだけでも。これはちゃんとできそうだなとか、これは無理とか。

先ほどは、それは「縁」だともおっしゃっていましたね。

北沢:どこかで似たもの同士が集まったような雰囲気があるね。ある種の同族というのかな。

小山田:同族……なのかな(笑)。まぁでも、一部分では波長が合っているわけだから、そういう意味ではいっしょなのかもしれない。


これまではすごいストイックだったし。「音をなるべく鳴らすんじゃない」みたいな。でもいまはそういう気分じゃない。もうちょっと遊びがある感じというのかな。

北沢:ところで、最近の小山田くんはどういうモードなの? 『Point』のときはかなりミニマリズムを極めた感じがあったのが、『Sensuous』ではまた少し色づいてきた。僕はファーストからそれぞれの作品ごとに愛着があるけど、やっぱり『Sensuous』が小山田くんの作品のなかでいちばん好きだし、コーネリアスとしての決定版みたいな感じがしたのね。さらにその先を行くものを作るのは大変なことなのかな、と思ったりもするんだけど。でも、こうやっていろんなコラボレーションを重ねることで、自然に歩みを先に進めてきたようなところもあるから、この先どんな世界を見せてくれるのかすごく楽しみなんだ。

小山田:最近のモードとしては、どうなんだろうな(笑)。でも、『Point』や『Sensuous』よりも余裕がある感じというのは、なんとなく。

北沢:張り詰めてない感じ?

小山田:そうそう。緊張感みたいな部分ももちろんあるけど、もう少しゆとりがある感じがいいなって。これまではすごいストイックだったし。「音をなるべく鳴らすんじゃない」みたいな。でもいまはそういう気分じゃない。もうちょっと遊びがある感じというのかな。

北沢:いまのこの時代の空気を小山田くんはどういうふうに感じているのか、小山田くん自身の声と音で聴いてみたいよ。

小山田:いまの空気……。なんとも言えないね。なんとも言えない感じが続いてる、っていう感じだね(笑)。


いまの空気……。なんとも言えないね。なんとも言えない感じが続いてる、っていう感じだね(笑)。

北沢:何かものすごく大きな転換期、ターニング・ポイントに差し掛かってるような、コーナーを曲がっちゃう寸前みたいな切迫感があるし、その先はどうなるんだろうな、って。

小山田:漠然とした不安がつねにあるみたいな。それはずっとそうだけど。

北沢:それこそ、3.11の後、3月29日にsalyu × salyuの“続きを”をセッションした映像をネットにアップしたよね。あれなんかすごく不思議な、おそろしくジャストな曲として響いた。

小山田:そうだね……。あれは本当にそう思ったね。

北沢:あれは本当に、「呼ばれちゃって」できた曲なんじゃないかって。

小山田:震災直後のタイミングであのアルバム(『s(o)un(d)beams』)が出たんだけど、地震の頃にちょうどミックスとかマスタリングをしてたんだよね。震災の後、しばらくあんまり音楽を聴けなかったんだけど、仕事でしょうがないから聴いたりしてて。で、なんか坂本くんのつくった歌詞が頭の中に入ってくると、完全にいまの状況を歌ってるとしか思えないような内容だったんで、すごくびっくりしたことを覚えてる。坂本くんもきっと自分でびっくりしたんじゃないかな。そういう時代のムードを敏感に感じることのできる人だから、そういう偶然って、起きちゃうときは起きちゃうんだと思った。


震災の後、しばらくあんまり音楽を聴けなかったんだけど、仕事でしょうがないから聴いたりしてて。で、なんか坂本くんのつくった歌詞が頭の中に入ってくると、完全にいまの状況を歌ってるとしか思えないような内容だったんで、すごくびっくりしたことを覚えてる。

北沢:歌の歌詞が時代を予見してしまうことって、歴史的にこれまでにもあったことだと思うんだけど──

小山田:歌は世につれ世は歌につれ、って。そういうことはあるからね。

北沢:もう4年前か。でも毎年毎年、あの曲がだんだん近くに聞こえてくるような感覚ってないかな? 遠ざかっていけばいいものでもあるのに、逆にちょっと大きく聴こえてくるところが、ぼくにはあるのね。それは不気味なんだけど、この曲のすごさがどんどん巨大化する生き物のように……まるで竜みたいに感じられることがあるというか、繰り返し覚悟を問われているような感じがして。小山田くんにとっても、“続きを”はいまだに特別な曲だったりする?

小山田:うん。あの曲はすごく特別な曲だな、って思ってる。坂本くんといくつかsalyu ×salyuのプロジェクトで作ったんだけど、どれもすごく気に入ってて……。

北沢:去年の11月に、日本科学未来館で開催した『攻殻機動隊』25周年記念のライヴ・イヴェントでは、坂本くんに「出演しない?」って声をかけてみたりしなかったの?

小山田:しない(笑)。つねに「ライヴはもうやらない」って言ってるし。

北沢:たしかにね。彼はいつもそう言ってるんだけど、やっぱり観てみたい気持ちもある。

小山田:そりゃそうだよ。


『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE/新劇場版 Music Clips:music by Cornelius』
2014年11月24日に開催された日本科学未来館にて行われたイヴェントの模様やスタジオ・ライヴなども収録。
高橋幸宏&METAFIVE(小山田圭吾×砂原良徳×TOWA TEI×ゴンドウトモヒコ×LEO今井)による“split Spirit”では胸の熱くなるライヴ・パフォーマンスを目の当たりにすることができる。

北沢:あのライヴ・イヴェントのキュレーションは小山田くんだから、坂本くんに声をかけて断られたのか、彼の気持ちを慮って声をかけなかったのか、どっちかなと思って。

小山田:しょっちゅう彼もそう言われてるだろうし、その度に「もうライヴはやらない」という話も聞いてるから、ぼくが誘うまでもなく、やりたくなったらやるんだろうな、って思ってる。

北沢:(高橋)幸宏さんと(鈴木)慶一さんのザ・ビートニクスみたいに、ふたりでユニットを組んでみるという発想はないの?

小山田:うん。ぜんぜんない。

(一同笑)

北沢:たしかに想像つかないもんな。


(劇中に出てくる)感情の幅がわりと限定されているぶん、ひとつの感情でいくつかのヴァリエーションをつくらなきゃいけないってことがあって。

北沢:ところで、いまの気分で小山田くんが好きなサントラというと?

小山田:なんだろうね(笑)。

北沢:去年日本公開された、スカーレット・ヨハンソン主演の『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(ジョナサン・グレイザー監督、2013年)という映画を観たんだけど、その音楽をミカチュー(Micachu)っていう女の子がやってたんだよね。

小山田:あ、ミカチューっているね。

北沢:うん、坂本龍一さんとかも評価してる。そのミカチューが、ミカ・レヴィ(Mica Levi)名義でサントラを手がけているんだけど、弦のチームをびしっと揃えて、ある意味、小山田くん的な──エクスペリメンタル、かつ“環境”的なアプローチで、弦を使って緊張感あふれる音色をひりひりとつくり上げてるの。それは聴いてみたらいいかもしれない。

新しい作品も映画館に観にいったりされますか?

小山田:たまには行きますよ。

サントラとして音楽を意識したりしますか?

小山田:まあ、全体で観ちゃうかな。でもサントラだけ持ってるのに映画は観たことない、みたいなものもあるからね(笑)。そういう聴き方もできるほうがいいなあ、と思うけど。

北沢:『インヒアレント・ヴァイス』(ポール・トーマス・アンダーソン監督、2014年)もおもしろかったよ。サントラはレディオヘッドのギタリスト(ジョニー・グリーンウッド)が劇伴を担当していて、1970年のロサンゼルスが舞台だから、その頃の古い曲とかもいろいろ入ってるんだよね。

『攻殻機動隊ARISE』というひとつの作品が展開するのに沿って、サントラもこうしてアルバム2枚を重ねているわけですが、その上で今回の『攻殻機動隊 新劇場版 O.S.T.』と『攻殻機動隊ARISE O.S.T.』を分けているものがあるとすると何でしょう?

小山田:どうなんだろうな……。必要になってくる曲にはヴァリエーションがあって、基本はこういう映画だから、そこに表れる感情の種類がある程度は限定されてくるんだよね。“緊張感”とか“悲しみ”とか“バトル”とか。いきなりギャグが入ってくるようなことはなくて、笑いの要素は少ない。そういうのが「1」「2」の中でだいたい出揃って。だから今回のサントラの方に入っているのは、それにいくつかプラスして、という感じ。「3」「4」「5」に関しては、どっちかというとメロウな話が多くて……(草薙)素子のラヴ・ストーリーとか。だからわりとピアノの曲とかアンビエントとかが多いかもしれない。それは自分で振り分けたというよりは、映画の内容によって、という感じかな。

北沢:たしかに“感情”って大きいよね。音って感情によって決まるようなところがある。劇伴ってそういうものなのかもね。

小山田:うん。感情とか雰囲気とかね。その中でも、(劇中に出てくる)感情の幅がわりと限定されているぶん、ひとつの感情でいくつかのヴァリエーションをつくらなきゃいけないってことがあって。

北沢:なるほどね。同じ曲でもメイン楽器を変えることで、いろんなヴァリエーションをつけたりとか。

小山田:そうそう、いろいろと。このサントラに入っているもの以外にもいろんな曲があって。入っているものでも、たとえば“Moments In Love”っていう曲にはピアノのヴァージョンとハープのヴァージョンのふたつがあって、それ以外にもいくつも──いろんなサイズだったり、リズムトラックが入っているものだったり、メイン楽器がちがっていたり――いろんなヴァージョンがたくさんあるのね。その中からこのアルバム用にエディットしたものが入ってる。


れをやっているとき「ちょっとアート・オブ・ノイズっぽいな」っていう要素があると思ってた。そういう元ネタはけっこうあるんだよね、曲のタイトルに。

北沢:“Moments In Love”ね。このタイトルも小山田くんがつけたの?

小山田:そうです。まあ、もとはタイトルってものが存在してないから。

北沢:坂本くんが詞を書いたものは坂本くんがタイトルを?

小山田:うん。

北沢:“Moments In Love”って聞くと、ふと頭の中をアート・オブ・ノイズがよぎるな(笑)。

小山田:うん、もちろん。そうです。

北沢:〈ZTT〉にもサントラもどきみたいな盤があったような気がする。

小山田:ちょっと〈ZTT〉っぽさもあるかもしれない(笑)。

北沢:トレヴァー・ホーン的な。

小山田:うん、あるかもね。これをやっているとき「ちょっとアート・オブ・ノイズっぽいな」っていう要素があると思ってた。そういう元ネタはけっこうあるんだよね、曲のタイトルに。

北沢:うんうん(笑)。「No.9」って付いてる曲が2曲あるけど、これはやっぱりビートルズの……。

小山田:それは、「9課(公安9課)」っていう設定があるからだね。

北沢:ああ、そうか! こんなふうに一曲一曲、全曲のタイトルの元ネタを訊けたらすごく楽しいんだけど、残念ながら時間が来てしまった……!!


Cornelius
攻殻機動隊 新劇場版 O.S.T.music by Corneliu
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坂本真綾、Cornelius
あなたを保つもの/まだうごく

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V.A.
攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE/新劇場版 Music Clips:music by Cornelius
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interview with The Wedding Mistakes - ele-king


Wedding Mistakes
Virgin Road

ElectronicaDream PopBreakcore

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 音楽をやることがけっしてイケてることにはならない時代に、それはむしろ本来的な自由さを取り戻しているともいえるかもしれない。格好よかろうが悪かろうが、カネになろうがなるまいが、やりたいからやるというあり方がデフォルトになった世界のほうが、音楽に多様性を生むという意味ではすぐれている。音楽不況というが、それは旧来的な産業システムにおける話であって、いまインディの層はかつてなく豊かだと言うこともできる。
 音楽の自由さを広げている要素はそればかりではない。情報環境の変化もある。ここに登場するような彼らにとって、そもそもアルバムをつくるということは盤をプレスすることではなくなっている。いまとなっては目新しいことではないが、彼らが「ファーストが出て……」などと語るときの「出る」というのは、ネット上にまとまった音源がアップされるというだけのことだ。それが「ジャケ」を持ったアルバム作品として当然のように認識されるようになったのが2000年代なかば、いわゆる「ネットレーベル」の流行以降。なんら資本の影響を受けることなく、かつレーベルというかたちを通してキュレーションされることで、シーンをもつくり得る力を持った作品たちが山のように登場し、主役になる時代の幕開けである。そして、それこそがThe Wedding Mistakesたちが生まれてきた場所でもある。MiiiとLASTorder、それぞれ独立してキャリアを持つふたりのプロデューサーによって結成されたこのユニットの背景には、ネットレーベルの風雲児たる〈Maltine Records(マルチネ・レコーズ)〉などの存在がある。同レーベルの古参であるMiiiはもちろんだが、今作のアートワークを手掛けたおじぎちゃん(セーラーかんな子とのDJユニット、ぇゎモゐとしても活動)を彼らに結びつけたのも〈マルチネ〉のtomadだという。そして、すこし離れたシーンで活動しながらも、それらに寄せるシンパシーはLASTorderも変わらない。社会全体としていい時代かどうか知らないけれど、世知辛くはあっても音楽的には二重に自由な環境を彼らはのびのびと泳いでまわっている。

 配信のみで昨年発表されたThe Wedding Mistakesのアルバム『Virgin Road』がフィジカル・リリースされた。そう、商業性のあるステージやフィジカルが流通する場所との行き来も自由である。インタヴュー中、ふたりの口から洩れた「逆にっていうのが嫌い」という考え方が印象的だった。過剰な情報空間において、メタなふるまいによってではなくまっすぐに喜びを得たいという気持ちには、切実に共感を抱く。ポスト・インターネットの感性だからこそつかめる純真さが、そこには顔をのぞかせている。Miiiのギークなブレイクコア、LASTorderの正統派にして抒情系の「ニカ」、音楽的にはさまざまな対照を持っているが、彼らはそうした地平に生まれたドリーミーなミュータントとして、ミューテイトするウエディングとして、明るい音響を築き上げている。

インタヴューのラストでティーザー音源をお聴きいただけます

■The Wedding Mistakes / ウエディング・ミステイクス
MiiiとLASTorderにより2013年に結成されたユニット。2014年11月にリリースされたデビュー作「Midnight Searchlight EP」はiTuensエレクトロニックチャート1位を記録。2015年2月にファースト・アルバム『Virgin Road』をリリース。
https://theweddingmistakes.com/virginroad/

LASTorder
2013年に発表したファースト・アルバム『Bliss in the loss』はタワーレコードでも大きく展開されロングセラーを記録。今年の7月には〈PROGRESSIVE FOrM〉よりセカンド・アルバム『Allure』をリリース。数々のリミックス制作も行う。

Miii
10代から楽曲制作を行い、〈Maltine Records〉の古参としてイベントには毎回出演、2枚のソロ作品を残す。日本屈指のハードコア/ベースミュージック・レーベル〈Murder Channel〉からファースト・アルバムを6月にリリース。東京女子流、夢見ねむ(でんぱ組inc.)等の公式リミックスも手がける。

中学生くらいのときは、ちょうどミクシィとかが出はじめたときだったんですよ。ミクシィはミクシィ・レヴューっていうのがあって。(Miii)

(『ele-king vol.15』を差し出しながら)お若いおふたりですが、紙の音楽雑誌を読んでいた記憶とかってあったりするんですか?

Miii(以下、M):『DTMマガジン』を買って読むくらいですね。

おお、本当に実用的な読み方というか。

M:そうですね。音楽専門誌みたいなものを読んでいなくて。

LASTorderさんはどうですか?

LASTorder(以下、L):『サンレコ(サウンド&レコーディング・マガジン)』。

やっぱりおふたりとも機材よりなんですね(笑)。

M:機材を眺めて、「コレめっちゃほしい!」みたいなことを、ずっとやっていましたね。

ははは、いまは「今月このアルバムを聴かなきゃ」ってことを紙で確認するような感じはないですかねー。

M:でも、ディスク・レヴューのコーナーがいちばん好きなんですよね。

なるほど、それはわかりますね。興味はどっちかというと邦楽よりでした? 洋楽よりでした? ……まあ、そういうふうに括ることの是非はおいといて。

L:俺は邦楽よりだったかな。

M:中学生くらいのときは、ちょうどミクシィとかが出はじめたときだったんですよ。ミクシィはミクシィ・レヴューっていうのがあって、そういうのを見るのが好きでした。

それはアマゾン・レヴューみたいなものの黎明にあたるようなものですかね?

M:そうですね。新譜情報もインターネットで探していました。

あー。やっぱりそこは隔世の感が(笑)。だから、隣は何を聴く人ぞってね、「今月聴くべきアルバム」というような認識を、みんなで共有してるわけじゃないですよね。「今月はレディオヘッドの新譜がある」とか(笑)。

M:じゃないですね。

なるほど。それでは雑談はこのあたりにしまして。おふたりはそれぞれソロ活動がスタートなわけですけれども、そもそも畑違いなアーティストであるという印象があるんですよね。The Wedding Mistakesって名義は、「ふたりのウェディングがミステイクだ」というような意図があるとか?

M:名前は雰囲気というか語感でつけたものなんですが、最終的にそういうものだったのかと思わなくもないですね。ふたりでやろうとなったのも、そもそもは僕がLASTorderに声をかけたんですけど、かたやネット・レーベル、かたやCDをリリースしているという、ぜんぜんちがうところにいたので。

L:あとジャンル的にも。

M:そうそう。だからそこをくっつけたらおもしろいなというのはありましたね。

かたやネット・レーベル、かたやCDをリリースしているという、ぜんぜん違うところにいたので。(Miii)

「異なったものの出会い」という認識はあったわけですね。LASTorderさんはどうでしょう?

L:エレクトロニカで同い年くらいのトラックメイカーって俺のまわりにすくないので、ネット・レーベル周辺には若いひとが多いから、友だちになってみようという感じで。ツイッターで近づいたりとかイヴェントに行っていたりしていたら、「いっしょに作ろう」って急に言われた感じですかね。

なるほど。それぞれのジャンルに固有の文法があると思うんですけど、おふたりは互いにそれほど共有してはいないと思うんですよね。それで、自然と制作上の役割もちがってくるような気がするんですが、ふたりの役割分担というと、LASTorderさんがウワモノ、Miiiさんがリズムみたいにすごくザックリで考えていいんですかね?

M:まさにその通りですかね。

お互いの役割について、何か話し合いみたいなものはあったんですか?

M:デモが送られてきて、それに展開をつけたり、ドラムをこっちで足したり変えたりして返して、それにまたレスポンスがくるみたいな形もある。初めから上とビート、つまり僕がビートを送って、それにメロディを付けて戻してくるみたいなパターンもありますね。最初はデモがあって、ふたりでそれを伸ばしていくことがメインでした。

それぞれに対して期待した役があると思うんですが。

M:僕は綺麗だけれど割れている……エレクトロニカというか、ノイズよりの音楽がすごく好きでした。それを自分でやるには限界があったので、LASTorderに打ち込みとかウワモノとかで耽美な雰囲気を出してもらって、そこに僕が壊れたビートをのっけたいという願望がありました。それから、LASTorderはちゃんとメロディが書けるひとなので、そういうところも求めていますね。

メロディね! 特徴ですよね。あと、“ハー・ミステイクス(Her Mistakes)”とかではヴォイス・サンプルがフィーチャーされているじゃないですか? ああいうのってLASTorderさんなんですか?

L:そうですね。

とにかくメロディを作るのが好きなので、メロディをのせることは、毎回、無意識的にしちゃっていますね。(LASTorder)

へえー。HMVさんの無人島に持っていく俺の10枚、みたいな企画(無人島 ~俺の10枚~)を覚えていらっしゃいます? おふたりがそれぞれアルバムを挙げていらっしゃいますよね。あれをちらっと拝見しまして。LASTorderさんご自身の曲は、全体としてはエレクトロ・アコースティック志向というか。

L:はい、そうですね。

で、この無人島リストを見ますと、ジュディ・シル(Judee Sill)からはじまって、ベン・フォールズ(Ben Folds)からモリコーネ(Ennio Morricone)、Shing02さんにテリー・ライリー(Terry Riley)まで入っていますね。まずポップ職人的なものに惹かれてるんだなって思ったんですよ。そしてそういうものを志向しつつもミニマルなものに引き裂かれるという。

L:その通りです。全部言われちゃいました(笑)。

ハハハハ。そのポップ職人というところをもうちょっと訊きたいんですけれども。さっきの、メロディが強いという話とも重なってくると思います。目指しているようなアーティスト像もそのへんに?

L:目指しているアーティスト像はぼんやりしていますが、とにかくメロディを作るのが好きなので、メロディをのせることは、毎回、無意識的にしちゃっていますね。

無意識的な感覚なんですか?

M:それ、わかる。彼からは、どんな曲にも何かしら主旋律っぽいのがついて返ってくるんですよね。

なるほど。ポップ・ソングってフォームを、コンポーザーとして作っていきたいという意識なんですか?

L:たぶんそうだと思います。

そうすると、エレクトロニカという流れのなかだと、また少し変わっているというか。

L:エレクトロニカと言わせていただいているんですけど、そこまでエレクトロニカをやっていることでもないっていうか。

そういう感じもしますけどね。コキユ(cokiyu)さんとも親和性があるのがわかりますし、活動されている領域もそういうところなんだなっていう。ところで、ジュディ・シルなんて本当に深くて知性的な声だったりしますけど、ここでの“ハー・ミステイクス”のヴォーカル・トラックって、ある意味その真逆みたいな、薄さを持った音だと思うんですね。そういう声や音に対する憧れはあるんですか? ジュディ・シルが好きなら本来逆なような気もしますけど。

L:憧れはたしかにあるんですよね……そういう薄い感じには。でもそういうやり方や、ピッチを上げて散らす感じの音は、やり飽きているというか。ちゃんとした声を入れたいと思っていたりはするんですよ。

へぇー!

L:けっこう手持ちのものがないというか、機材とかが少なかったりとかしてなかなかできないんですけど……。自分で声をかけて誰かの歌を録るということもあまりないですし。

肉声ヴォーカルへの、一種のアンチというわけではなく? 

L:そうなんです。アンチとかではないですね。

なるほど、正直でいらっしゃいますね。では、ボカロとかはどうですか?

L:ボカロとかは通らなかったんですけど、もし出会っていたらいまごろはバリバリPな感じになってたかもしれない(笑)。最近はそんな気もしてきた。でも偶然、ぜんぜん聴かなかっただけっていう。

ははは、素通りしちゃったわけですね。

ボカロとかは通らなかったんですけど、もし出会っていたらいまごろはバリバリPな感じになってたかもしれない(笑)。(LASTorder)

L:どこかで避けていたのかもしれないですけど。

M:僕もボカロはぜんぜん通ってないんですよ。やっぱり、意外と流行っているといえば流行っているけれど、触れないでいいといえば触れないでいいというか。聴かなくても意外となんとかなるという感じですね。

すごくフラットに考えてみれば、ボーカロイドっていうのはただの音声ソフトというか、シンセサイザーなわけじゃないですか? しかもけっこう魅力的で使いやすい。でも、それを通らないっていうときには、暗にその奥にある何かを否定しているんじゃないですか?

M:ニコニコ動画のボカロPのカルチャーとして、ということですよね、たとえば。

そうそう(笑)、ちょっと意地悪な質問ですみません。一概には括れませんけれども、彼ら「P」のようなプロデューサーの音やあり方に対するおふたりの感想や評価がどんなものなのか、すごく興味があります。どうでしょう?

僕はもともと音ゲーとかから入って、なんだかんだでネット・レーベルにたどり着いたんですよ。(Miii)

M:いろいろありますけど、僕のイメージ的には、RPGとかで別の大陸に行くともっと強いモンスターがいるという感じですかね。物語を進めて行くと強いモンスターが出てくるという感じ……同人とかボカロの界隈ってそういうイメージがあります。僕はもともと音ゲーとかから入って、なんだかんだでネット・レーベルにたどり着いたんですよ。それぞれが別の島だけど、それぞれに大ボスというか、めちゃくちゃ強い、上手いひとがいて。で、その奥にも上手いひとがたくさんいる。 だけど、自分がそこまでたどり着くために経験値が足りないし、パワーもないという自覚もあって。避けているというとあれなんですけど、あまり交わらないようにしています。だからアーティストとして尊敬しているひとはいます。同年代にかめりあって子がいるんですけど、彼は同人とかボカロとかの流れのひとで、メロディも作れるし、過激でとんがっているもの作れるみたいな。そういう人材が、あっちにはいっぱいいるんですよ。そういうのは向こうのカルチャーにいないと得られないのかな、というのはあります。

なるほどなあ、“あっち”は分母がでかいし、エネルギーもあると。あと、音っていうよりも歌詞だったりイラストだったりも重要だし、それがいわゆる集合知ってやつでできあがるという、時代性としての鋭さもありますよね。LASTorderさんは、あちらの界隈を音楽というよりもカルチャーとして見ている感じですか? L:僕はそっちの界隈とも繋がりがなくはなくて、初音ミクのリミックスをやってみたりもするんですけど、みんなやっぱり……、言っていいのかわからないけれど……

言うだけいっときましょう。

L:お手軽に曲がひとつできるじゃないですか? 歌があって歌詞があってって。だからもっと手間をかければよくなるものがいっぱいあると思います。サウンド面ですぐれたひともいれば、ソング・ライティング面で優れているひともいたり、歌詞はそんなに詳しくないですけど上手いひともいるんでしょうね。ソング・ライティングが上手いひとが、サウンドも歌も全部お手軽に自分でできちゃうからそれですぐに作品を出せちゃう。いろんな可能性がいっぱいあります。ニコニコ動画を見たりしていると、ぜんぜん再生数が少ないやつでも歌がよかったりすることもあったりするし。

聴いているところは「生のヴォイスか」とか、そういう音質みたいなものじゃなくて、メロディとかですか? 

L:そうですね。

だったら必ずしも人格があり、美しい深みを持った人間の声である必要もない、と……ジュディ・シルとか書かれていると、声とか人間の歌礼賛なひとなのかなってちょっと思ってしまうので。

L:聴くぶんにはって感じですね。作っているときに、そうやって意識することはまったくないです。

なるほど。LASTorderさんとかが、ひとの声をどういうふうに考えているかに興味があったんです。

L:じつはそんなに……。何か考えるようにします。

M:ハハハハ!

子どもがパンク・ミュージックにハマるみたいなものですかね。ちょうどブレイクコアがあって、いまだに生きながらえているのがすごくおもしろくて。(Miii)

いやいや。逆に興味深かったです! いろんな思いがあって、生の声を避けているのかなと思ってたものですから。しかるに、Miiiさんのほうもおうかがいしたいと思うんですけれども、Miiiさんはもうなんというか、ブレイクビーツですよね(笑)。

M:そうなんですよ。

おふたりともルーツがはっきりとわかる。そういう意味でもおもしろいです。たとえば、同じようにMiiiさんの「無人島~」のリストを参照させていただくと、ヴェネチアン・スネアズ(Venetian Snares)はもちろんとしてナース(Nurse with Wound)とかworld's end girlfriend(ワールズエンド・ガールフレンド)も入ってましたよね。だからノイズ志向もあるんですけど、かといって、中村一義とか七尾旅人なんかはすぐれたポップ・ソングの作り手でもある。だから、ドリーミーなものやメロディ的なものにも憧れがありそう。

M:そうですね。楽器ができないので、そういうアーティストさんには純粋に憧れがあるし、中村一義とか七尾人は中学高校時代にめっちゃ聴いていたので、普通に大好きなんですよ。やっぱりメロディもすごいし、歌詞もめちゃくちゃいいし。

そしたら、いかにもバンドとかはじめそうですけれども?

M:あー、なんか……

L:ひと付き合いができないんでしょう?

M:ハハハハ。

そんな(笑)。ドライなツッコミが入りましたね。

M:その通りです。

なるほど。ひとりベッドルームでプロデューサーをやることを選んだと。

M:あと、バンドとかをやる以前にパソコンがあって、それで調べてなんとなく曲も作っていたから、「それでよくない?」みたいな感じでしたね。

なるほど。あと、やっぱり音ゲー的なものってブレイクビーツだったり、ブレイクコアだったりっていうものとの親和性が高いですよね?

M:そうだと思いますよ。曲が1分とか2分とか短いじゃないですか? そのなかで、ひとをどれだけ惹きつけるかという要素を考えなくちゃいけないし、だからこそ展開が突拍子もなくなるというか、変な感じになっていくんだろうなと思います。

音楽メディアがカバーしている範囲の外に独特のシーンがあって、独特の進化をしていますよね。ところでブレイクビーツってなんであんなに死なないんですかね? ずーっとありますよね。

M:ブレイクコアが全盛期だった2006年くらいってちょうど中学生だったんですけど、日本人でもいいアーティストがたくさん出ていて、そのへんがいちばんおもしろかったです。それこそヴェネチアン・スネアズみたいなちゃんとした音楽というか、レヴューの対象となるようなヤバいアーティストから、著作権完全無視のマッシュアップとか、本当にヒドいアーティストもたくさんいたけど、その全体がかっこいなという感じがあって。とくに〈マルチネ〉の初期も、いまでは「スカム」期みたいに言われるけれど、当時は「すげぇかっこいいことをやってる」と思って聴いていたので。自分にとってはそういうルーツというか、子どもがパンク・ミュージックにハマるみたいなものですかね。ちょうどブレイクコアがあって、いまだに生きながらえているのがすごくおもしろくて。

そういうカオスみたいなものに若い心が共鳴してシーンが盛り上がっていた感じはよくわかりますけどね。

M:いま聴いてみても、変なドラムンベースを入れていたりとか、BPMが200のものとかを普通にやっているんですよね。なんだかんだカッコいいなと思っていまも見てます。

メロディを信じるしかないという感じだったので。音楽に話せる知り合いができたのも最近なんです。(LASTorder)

なるほど。LASTorderさんはどうでした?

L:僕はシーンに憧れたりとかっていうことが逆になかったんですよ。

淡々とひとりで?

L:だからメロディを信じるしかないという感じだったので。音楽に話せる知り合いができたのも最近なんです。小中高なんて、友だちとは音楽の話なんてまったくしていませんでしたからね。自分が不勉強で周りの状況に疎いということもあるので、最近はひとから教えてもらって勉強させてもらってます。

最近はツイッターのタイムラインで音楽を聴くという感じで、スピードや情報の広がり方・受け取り方が以前とは大きくちがっていると思うんですが、2005年とかってまだそういうものが出てきているわけでもないですよね。当時、情報へはどうやってアクセスしていったんですか?

M:何をやってたかな……。IRCチャットっていう……

やっぱり、みんなちょっとしたオタクなんですね。

M:そうそう。僕は完全にそっちでした(笑)。

L:そういうのあったよね(笑)。

M:だから、いまでいうラインみたいな感じですかね? チャンネルっていう部屋みたいなものが用意されていて。

L:疎いけど、さすがにチャットはわかるよ!

M:そういうチャットがギークっぽくなったものがあって、周りでチームを組んだりして、たわむれたりって感じでしたね。

年齢層は若いひとばっかりなんですか?

M:多いのは20代とかでしたよ。

じゃあ、Miiiさんはちょっと早熟な感じ?

M:そうですね。僕が12、13歳のときでそのなかではいちばん若かったと思います。

ちなみに部活は(笑)?

M:部活は……、中学のときは吹奏楽部でした(笑)。

おっと! 楽器ができるじゃないですか!

M:それが、チューバだったんですよ(笑)。

L:ハハハハ!

それは潰しがきかねぇ(笑)。

M:「チューバをやっていました」って言っても、周りは「チューバ……?」みたいな感じなので(笑)。

LASTorderさんは何部だったんですか?

L:バスケ部でした。

そうなんですか? じゃあリアルが充実していらっしゃる?

L:バスケってそんなにイケてないですよ。普通に運動しているくらい。高校は帰宅部でした。

音楽を作りはじめたのはいつぐらいなんですか?

L:ピアノを4歳くらいのときにはじめて、なんか鍵盤で曲を作っていた記憶はボヤッとあるんですけど、ちゃんとDTMをはじめたのは高2くらいです。

おお、クラシックの素養もあると。ピアノで弾いて好きなった作曲家というとどんなあたりですか?

L:ピアノを弾いているときはぜんぜんおもしろくなかったんですよ。なんでこんな難しいのを弾かなきゃいけないんだって感じで。“ラ・カンパネラ”(フランツ・リスト)とか練習してたんですよね。そこからあまり好きになれずに、10歳から12歳のときはロック系が好きでした。でも、自分で曲を作るようになってから、あのときに練習していた曲がどんなだけすごかったってわかったんですよ。雰囲気的にはドビュッシーとかサティとかに魅かれますね。

じゃあ何というか、ギークと……

M:ギークとメインストリームでしょう? だってコピバンとかやってたんでしょう?

L:コピバンやってたね。

M:僕はやってないからさ。

へぇー! それって素敵なウェディングじゃないですか。ストーリーとしても、いいですね。

M:最初はバックグラウンドとか何も知らなくて、ただ「いい曲だね」って思っているだけだったんですよ。ふたを開けてみて、普段は絶対に出会うことのない遭遇だったんだとわかりました(笑)。 [[SplitPage]]

極端にポップになるか、わかりづらくなっちゃうかばかりで。そうじゃない「ごっちゃ感」を2013年のなかでやりたかった。(Miii)



ハハハハ。なるほど。いろいろと見えてきたようですごくうれしいんですが、ではこのアルバムについて。今回はフィジカルで出るということですが、バンドキャンプでのリリースが2014年ということでいいですかね?

M:そうですね。

実際の制作年でいうといつぐらいの曲から入っているんですか?

M:2013年の6月くらいからの音源ですね。

じゃあ出会ったタイミングくらいにできた曲もあるんですね。以前から温めていたそれぞれのネタみたいなものもあるんですか?

M:それもあるんですけど、最終的にお互いでちょっとずつ手を加えてウェディング~の曲にしました。

その頃というと、ダンス・ミュージック界隈で盛り上がっていたのは……ジュークとか?

M:そうですね、旬のてっぺんみたいな感じですかね。僕はずっとダブステップとかブローステップとかが好きで、自分でもつくったりしてましたけど、ジュークは進んでやることはなかったです。でも、たとえばウエディングで曲をつくるときに、「試しにジュークっぽいことやってみようか」っていうようなやりとりはありましたし、そのくらいの距離では時流についていっていましたね。

なんか、自分たちの趣味をひたすらかたちにしましたっていうよりも、ある程度2013年っていう時代性のようなものも意識しているように感じるんですが。このころどんなものを聴いてました? あるいは、このアルバムでこんなことをやりたかったという目的なんかがありましたら教えてください。

M:僕がやりたかったのは、world's end girlfriendがいま僕らの年代だったとしたらどんなことをやるだろう……ってことですかね。あんなバランスのアーティストっていまあまりいないような気がするんですよ。もっと極端にポップになるか、もっとわかりづらくなっちゃうかで。それこそ〈ロムズ(ROMZ)〉系の存在もいないですし。そういう「ごっちゃ感」を2013年のなかでやりたかったということは、なんとなくあるかもしれません。

へえ、なるほど。

M:なので、当時聴いていたダブステップだったりの要素はちょこちょこ入れていたりしますし、ポストロックっぽいものも入れてみたり──

おお?

M:当時は下火だったとは思いますけど。

そう思いますよ。へえー! なんでだろ、ウエディングを紹介する文章で、ときどき「ポストロック」って言葉を見かけるんですけど、わたしそこだけはよくわからないんですよね。

L:それは、君の責任だよね。最初にポストロックみたいなこともやりたいとかって言ってたから、それがプロフィールとかに残っちゃって。

いや、突っ込んでるんじゃなくて、そんなルーツがあるんならおもしろいなと。だって、この10年もっともダサい音楽だったわけじゃないですか……その、個々のバンドの話じゃなくて、一時代前のものがいつだっていちばんダサいみたいなとこがあるから。

M:ははは! いや、でもたしかにこの10年間下火だったから出してきたかったっていうような気持ちはあったんですよ。

L:でも結局、やってみたらとくにポストロックにならなかった。

ははは! いや、そうですよ。どこまでをポストロックと呼ぶかですけど、去年は10年選手たちがけっこういい新譜を出してきたり、シガー・ロスも幻のファーストが国内盤で出たりね。また見直されて、カッコよくなるんじゃないかと思いますから。

M:僕はゴッドスピード(Godspeed You! Black Emperor)とか好きだったんです。

おお、なるほど。復活してますね。

M:2012年の新譜(『'Allelujah! Don't Bend! Ascend!』)はあんまりピンとこなかったですけど……。

L:まあそうやってポストロックだなんだ、って言ってて最初につくったのが、このアルバムの1曲め(“Preface”)なんですけどね。次につくったのが5曲め(“So Hot”)。それで俺は、ポストロック……やんなきゃいけないの? って思って、“Her Mistakes(ハーミステイクス)”のもとを渡したんです。「ぽい」やつを渡そうと思って。で、これで好きにやって、って。

M:そうだねー。

L:それで、無理やりギター入れたりして。

ああ! ギター入ってますよね。そういうことだったんだ。

M:そういうことじゃないっては思いつつ(笑)、でもポストロックって言葉は入れたくて、でもしばらくして消えていきましたね。僕たちのなかで関係なくなった(笑)。生音でやるという意味でなら、いまでも興味なくはないんですが。

なるほど(笑)。謎が解けました。ではもとの質問に戻ると、LASTorderさんは2013年に何を聴いていました?

L:僕は坂本慎太郎さんとか──、あれ? 2013年じゃないですかね? ずーっと聴いていました。 (※ソロ1作めは『幻とのつきあい方』2011年、2013年リリース作はシングル「まともがわからない」)

へえー、そうなんですか。

L:僕自身はまだあまりクラブ・ミュージックに接近してはいない時期でした。

たとえばTofubeatsさんだったりSeihoさんだったりは「対日本のポップ・シーン」っていうようなわりとデカいスタンスがありますよね。〈マルチネ〉という共通項もあるので、とくにトーフさんなんかはそれほど縁遠いアーティストではないと思うんですが、そういうスタンスはあまりThe Wedding Mistakesにはなさそうですね。この作品はどんなところに向かって放たれたものだと思います?

M:うーん、それこそ、僕が中学生当時エレクトロニカとかを聴いて衝撃を受けた、あのインパクトを持ったものになればいいなと思いました。10年経ったいまでもその頃の影響がみんなにウケたらすごくおもしろい……というか、いまその頃の音とか記憶ってウケるのか? みたいな。

ははは、リヴァイヴァルっていうより、自分的にはルネッサンスみたいな?

M:はは、そうかもしれないですね(笑)。

彼は彼の世界がすごくあるので、彼から出てきたものは僕はあまり突っつかないんです。(Miii)

LASTorderさんは? そのへんの感覚はふたりのあいだで共有されているものなんですか?

L:そう……かもしれない。

M:彼は彼の世界がすごくあるので、彼から出てきたものは僕はあまり突っつかないんです。そのほうがおもしろくなるんだろうなって思っていました。

L:できちゃったものを、ずらっと並べていくという感じもやっぱりあったので、どんな相手に向かって投げかけたものかというと、あまり顔は浮かばなくて。

わりとカジュアルなものなんですね。いつかふたりでつくったものがアルバムになるんだろうなっていう思いはありました?

L:あまり思っていなかったかもしれない。

M:曲がたまったからそろそろ出そうかという部分もあったと思います。そこもアルバムのおもしろさではありますよね。貯まってきたからそろそろ出そうか、といってパッケージしただけでもそれなりのものに見えてしまったりする。だからこそ、CD盤と同じように、ジャケットをおじぎちゃんにお願いしたりとか、リミックスを入れたりとか、しっかりと外枠を固めるようなことはやりました。

ああ、フィジカルはないけどフィジカルの盤みたいに、っていうのは意識されたわけですね。ところで、曲名は後づけかもしれないですけど、全体をとおして眺めると、なんとなく「ウエディング」ってコンセプトを立てているようにも感じられるんですね。そういうテーマ性はどうです? 意識してました?

L:文字、タイトル部分は僕が担当しました。僕としては、(この作品における)音についての方向性がまだもうひとつ見えてきていない気がしていたので、目に見える部分だけでも統一感を出したいなと思って。

M:アルバム・タイトルはすごく悩んだんです。そのとき「ヴァージン・ロード」ってすごくおもしろくない? って話になって。ウエディング・ミステイクスでヴァージン・ロードって、なかばギャグですよね。

ははは、ミステイクなのにねーって(笑)。

M:そうそう、そんなノリですよ。

なるほど、では曲名も、曲ひとつひとつにあらかじめ付与されていたものじゃないんですね。できたあとに加えられた物語というか。

M:そう……ですね。

「結婚」って、近代以降は自由恋愛とセットで考えられてきたものだったりもするじゃないですか。でも、いま必ずしも憧れるような響きは持っていないというか、そうロマンチックなものではないと思うんですね。「婚活」とか少子化問題とかいろいろ出てきて。だから「The Wedding Mistakes」ってその意味でもちょっと批評的にきこえるというか。なんなんですか、「ウェディング」って?

M:うーん、そうですね。「永遠の愛」とかって、めっちゃ誓いづらいと思うんですよ。結婚式とか神父さんまでいたりして、いちおう儀式的にやったりしますけど、しんどいものでもあると思うんですよね。恋愛は3年しかつづかないとかも言うし。結婚って、僕個人としてはロマンチックなものだと思うし、好きな制度ではあるんですけど、正直、矛盾したものもいっぱい抱えているよなとも感じます。「結婚は人生の墓場」なんていう人もいるわけで。だから、僕的には理想だったりするけど、そううまくはいかないよなっていう皮肉が含まれているかもしれません。

L:……。

ははは! Miiiさん、質問に対して噛み砕いて考えてくださったんですよね? ありがとうございます。LASTorderさんの沈黙は、Miiiさんの見解への違和感?

L:いえ、そんなに重く考えていたのねという……驚きです。 (一同笑)

L:僕にとっては結婚ってまだまだ遠いことで。

M:それは、そうだけど。

L:「永遠の愛」って口から出てくるとは思わなかった。ノリかなって……。

M:ああ、そう、ほんとには誓えないから、儀式として誓っておいて、じつのところはノリみたいな。でも、まだ当事者じゃないからあんまり言えないけど。だからユニット名に「ウエディング」って単語を入れるのはおもしろいというか意外というか、言葉選びとして気にした部分ではあります。

「逆に」っていうのが嫌い。(LASTorder)

はい、はい。その、結婚なにかヘンだなってところが一般的に共有されているから気になる名前なんでしょうね。でも最初に名前きいたときは、それこそウエディング・プレゼント(Wedding Present)とかから来てたりするのかなって思って。ギター・ポップ寄りなユニットなのかと思いました。ぜんぜんちがいましたね。

L:そうですね。ギター・ポップ……。あと、それこそ渋谷系みたいなものはあまり知らないというか、聴かないよね?

M:そうだねえ。

L:それから、シティ・ポップとか。

おお、トレンドじゃないですか。でも、いま渋谷系を標榜する人たちはむしろ90年代のJポップを掘ったりしてるんじゃないですか? まあ、標榜してるわけじゃないかもしれないですけど、それに当たるような人は。

L:僕は90年代のJポップなら大好きですよ。

あ、そうなんですか?

M:僕も、最近のちょっとアーバンな感じのノリのものとかはあんまり聴かないかもしれません。シティ・ラップとか。

えっと、「シティ・ポップ」って言葉でどういうものを指してます? そもそもが曖昧な言葉のようですけど、でも荒井由実とか、あるいははっぴいえんどとかを指しているのか、いまのバンドを指しているのか、よくわからなくて。

M:そうですね、最近のバンドとかのことですかね。もともとのシティ・ポップとか、アーバンな感じのものに憧れて、それが音になっているんだろうなって思うんですが、僕自身は東京生まれだけど「アーバン」な生活圏ではなかったので、そのへんの憧れにはそもそも疑いがあるというか。最終的には田舎に住みたい思いもあるし……。僕らくらいの年齢だと、そもそもその時代のこと知らないじゃないですか?

なるほど。いまの人は、その見たこともないなかば架空の都会性を、逆におもしろがるようなところがあるんだと思いますけどね。昔はもっとベタに憧れたかもしれないですけど。

L:その「逆に」っていうのが嫌い。

おおっ。

L:ヴェイパーウェイヴとかもそういうところありますよね。「逆におもしろがる」って……それって……なんなの。

M:それは、僕もわかるなあ。「逆に」っていうのは、いっこ上に立とうとしてるわけでしょ? そんなふうに考えなくても、90年代なら90年代で、いいものがあればそれは聴けると思うんですよ。それこそ中村一義とか僕は大好きですし。僕も、そういう感覚を無視した掘り返し方はしたくないですね。

中村一義は、「逆に」の思考をすべて吹き飛ばしてきた人だと言えるでしょうね。

M:ああ、そうかもしれません。

「逆に」っていうのは修羅の道で、いちどそれを言いだすとさらに上の「逆に」が際限なく出てくるから、超頭がいいか、それをはね飛ばす強さがないと死んじゃいますね。それでも行ってやろうというのもまたひとつの極道かなって思いますけど。ただ、「逆に」が嫌いだって言えるのは……ちょっと感動しました。

L:僕が普段から90年代の後半のJポップが好きって言っているのは、それは、実際に体験しているからなんです。幼稚園とか小学校の低学年の頃とかに、月に2回レンタル屋さんに連れていってもらって、ランキングの上位10位を借りてきて、それをダビングしてずっと聴くっていう毎日だったんです。本当に心から鈴木亜美とか好きなのに、いま同い年の人とかに「(鈴木亜美)いいよね」って言って、「いいよね」って返してもらったりしても、何かちがう感じがいつもするんです。そう言っている目線が。

同い年の人とかに「(鈴木亜美)いいよね」って言って、「いいよね」って返してもらったりしても、何かちがう感じがいつもするんです。(LASTorder)

M:あー! わかった。言ってることしっくりきた。

なるほどー。

L:「あー、亜美ね!」って言われるときの……。たぶんそのときに「逆に」の感じが働いているんだと思うんです。

M:あー! うんうん。

L:こっちは逆もなにも……

ははは! マジだっていう。

L:そう。バカなの、俺? って思っちゃう……。

(一同笑)

L:ちょっと、共有できてるのにできてないみたいなところがすごくあるし。単純に、トラックがよくできてるとかっていうような見方をしてたりもするんだろうけど。それに、……まあ、いいや。

(笑)いやいや、話しましょうよ。

L:僕、あゆ(浜崎あゆみ)と宇多田(ヒカル)の同時発売の日とか、ちゃんと並んでますから。 (※浜崎あゆみ『A BEST』、宇多田ヒカル『Distance』の同時発売。2001年)

ああ、えっと……、ふたり同学年ですよね。Miiiさん何歳ですか?

M:13、4年くらい前ですかね? 8歳とかですね。

おお。そのころ何がいちばん熱かったです?

M:うーん、Jポップとかは聴いてなかったですね。ゲームやってました。

なるほどね。音ゲーとかも。

M:そうですね、いろいろやりましたけど、『beatmania(ビートマニア)』を買って。それが原体験といえば原体験ですね。

うーん、Miiさんはじつにルーツがはっきりしてますね。

L:俺は原体験はポケビ(ポケットビスケッツ)だよ。

M:それはさすがに、僕もテレビは観てた。

ああ、音楽というか芸能というか、テレビから出てきたものですね。そういう記憶は少なからず影響しているんでしょうね。

そのころからコラージュ──いまで言うネットの雑コラ感っていうか──はちょっと流行っていて、でもおじぎちゃんのはちょっとそういうまわりのものとはちがう感じがして。(Miii)

さて、先ほどもちょっと話題に上がりましたが、ジャケットのデザインがおじぎちゃんさんなんですよね。とても素敵なんですが、おふたりともアニマル・コレクティヴ(Animal Collective)とか好きだったりします?

M:いや、好きっていえるほどはわからないですね。

なるほど。初期の作品のアートワークをアグネス・モンゴメリ(agnes montgomery)という人がやっているんですが、その人の作品のポスト・ヴェイパーウェイヴ・ヴァージョンって感じがするんですよね、おじぎちゃんさんのジャケは。

M:へえー。

コラージュなんですが。感性にも似たものがあるなと思うんですよ。

M:当時おじぎちゃんが自分のタンブラー(Tumblr)にどんどん画像を上げていたんですよ。コラージュでした。そのころからコラージュ──いまで言うネットの雑コラ感っていうか──はちょっと流行っていて、でもおじぎちゃんのはちょっとそういうまわりのものとはちがう感じがして。統一感というか、テーマみたいなものがあって、そのなかで色調とかも合わせてくる感じ。そこに自分たちの音に合ったイメージを持っていたんです。〈ROMZ〉のジョゼフ・ナッシング(Joseph Nothing)の、目の切り抜きがたくさん散りばめられているジャケット、あの気持ち悪いけど美しいという感じに衝撃を受けたんですけど、あれを見たときのことを思い出したんですよ。そういう、僕の源流にあったイメージとかインパクトが刺激されたというか……。それでお願いしました。

へえー。それこそコラージュはメタな編集作業でもあると思うんですけど、おじぎちゃんさんのとかアグネスのとかは、もっと肉そのものというか、そういうものを信じている感性なのかなと思いました。

M:やっぱり、ちゃんと考えられていたり、まとまっているものが好きなので、「できるだけ意味をなくそう」みたいなものとか、そういう感じのコラージュにはピンとこないというのが正直なところですかね。

なるほど、イルカとか、ヘンな塑像とかね(笑)。

M:あー。シーパンク(Seapunk)は……、嫌いじゃないですけども。

L:俺、髪を青くしてたことある。

え?

L:なんか、Seihoさんのイヴェントで、髪を青くしていったら安くなるやつがあったから。

(一同笑)

M:あー! あったかも。ウルトラデーモン(ULTRADEMON)のリリパとかかな。

ははは! 懐かしい。動機が安いなあ。LASTorderさんはジャケットとかアートワークについてディレクションした部分はあるんですか?

L:俺は……、ないかなあ。でも俺は俺でおじぎちゃんを見つけていたんですよ。それで、よくよくきいたらけっこう近いところで活動していて。それで、何かいっしょにできないかなと思っていたら、なんとなくあちらも似たことを思っていたみたいで。

へえ。

L:だから、だいたいさっきの説明と同じなんですけど、ちゃんと意味のあるものを感じるなと思って、共感するというか。

ふたりはけっこうバラバラなんだなと思いましたけど、同じようなところもあって、おじぎちゃんというのはそれを理解する補助線のような気もしてきました(笑)。

L:「こうしてください」ってふうにとくに注文していないんです。

M:そう、音源を送ったくらいで。

L:ウエディング・ドレスじゃないけど、そういう雰囲気の花のイメージがきて、あらためて、「ああ、自分たちはThe Wedding Mistakesなんだな」って思いました。

わたしもこの感じ、とても好きですね。

ソロの音はあまりゆがませたくないので……。だから、どちらかというと自分の音を押しつけている感じです。(LASTorder)

さて、このユニットは一時的なものなんでしょうか? 期間限定のコラボみたいな。

M:えっと、正直な話、僕らが出会ったのが大学2年か3年のときで、もう卒業になるんですね。だからこの先忙しくなるだろうし、とりあえず1年半くらいやって、1枚2枚作品をつくって、楽しかったねって感じで終わろうと思ってたんです。だけど、こんなふうにリリースしてくれるところも見つかって、いまはちょっと長期的にやろうかというふうに思ってます。

L:俺も……、続けたいし、次はもっと作り込んだものをつくりたい。もっと、さらにいいものをって思える感触がいまのところあるので、まだやっていくつもりですね。

自分ひとりだとやれない部分が相手の中に見えているということですかね。

L:それがはっきりしたし、それを言いやすくなりました。

お互い評をもっと訊きたいですね。相手から盗んだ能力とかないんですか?

L:盗んだ能力は……ないですね。

M:(笑)

でも、データをもらってるわけだから、ある意味では盗み放題ですけども。

L:いや、データはこちらから渡すだけで、それを全部あっちが加工するんで……。

M:でも、たまにあげてんじゃん。こっちのも。

ははは!

L:でも、わざわざそれを解体したいという感じではないです。ソロの音はあまりゆがませたくないので……。だから、取り入れるということはなくて、どちらかというと自分の音を押しつけている感じです。

Miiさんは?

M:僕も押しつけられているということに関してはとくに何も、というかもっとやってくれって思ってるし、彼には自分の世界観がしっかりとありますから。僕は知識を体系的に取り入れて、それをどう生かしてブレイクコアとかの方程式で壊すかっていうようなことをやっていたので、LASTorderからもらった素材をどういじるかっていうところに熱量があるんですよね。だから彼から送られてきたものについては全面的に信頼しているし、もし何かやろうとするなら、彼に言うんじゃなくて、自分で解体してどうかしたいって思います。  このアルバムでいえば、2曲め“ドラマティック・ビヘイビア(Dramatic Behavior)”とかは展開が突拍子もないんですけど。これははじめの1分半くらいの音をもらって、それをどう壊したらおもしろいかなって考えて、ジュークぽい低音を入れたりとか、最終的にゆがんだブレイクビーツを突っ込んでみたりとかしました。それはこっちで全部やったことなんですけど、そしたらすごく喜んでくれたし、ライヴでやってもすごくハマる曲になって。

LASTorderからもらった素材をどういじるかっていうところに熱量があるんですよね。(Miii)

ああー!

M:そのときくらいから、こっちでどうやるかというスタンスができあがっていった気がします。

たしかに2曲めは、ふたりともの個性がケンカするわけじゃないけどはっきり出てきてぶつかり合ってますよね。ほか、手ごたえのあった曲はどのへんです?

M:“スルー・オール・エタニティ?(Through All Eternity?)”とかもそうですかね。好き勝手やっている感じです。

ああ! Miiiさんの面目躍如! って感じの曲ですね。

M:そうそう、そうです!

で、LASTorderさんのメロディ性がより効いてくる。

M:当時はまだサウンドクラウド(SoundCloud)に曲を上げつつ、ライヴもやりつつっていう感じだったので、1曲めがまずサンクラに上がっていて、次に“ハー・ミステイクス(Her Mistakes)”が上がって、次、急にベースが入ったらおもしろいと思って。それで“スルー・オール・エタニティ?(Through All Eternity?)”を作ったんです。だから、特異点でもあります。

なるほど。では、この中にヴォーカルが入ったりなんて展開は今後考えられますか? すでにふたりともそれぞれのやり方で“歌っている”人たちではありますが。

M:歌は……考えてます(笑)。でも、そっちはまた別の方法論になりますから。デジタルでアルバムを出した後に『ミッドナイト・サーチライト・EP(Midnight Searchlight EP)』っていうEPをつくったんですけど、そっちは1曲だけがっつり歌ものが入ってるんですよ。でもそれはわりと僕らのいつものスタイルじゃなくて、僕が歌詞とかもつくって、編曲をふたりでやったっていう曲なんです。それで、ちょっと色合いとしては今回のアルバムとちがうものになってるんですね。だから歌をやったらまたちがったおもしろさが出てくるかもしれないと思っていて、次はそうなるかもしれないですね。

歌ものって……R&B寄りなものとか?

L:というよりは、Jポップというか。

M:Jポップだけど、ちょっと毒というか、エグみのあるものを混ぜるので、おもしろい感じになるかとは思います。

L:そうですね……。でも、そういうものもやりつつ、また今度アルバムをやるとなったら、それはそれでちゃんとやりたい。歌ものかどうかというより、もっとちゃんとつくったものをやる。

ああ、ポジティヴな展開が期待できそうで、素晴らしいです。

歌をやったらまたちがったおもしろさが出てくるかもしれないと思っていて、次はそうなるかもしれないですね。(Miii)

ライヴはどんなふうにやってます? バースとウワモノで分かれて、けっこう即興的なかたちでふたりがセッションするんですか?

M:そこは僕の力不足もあって……、即興的に合わせるっていうのはまだできていないんですよ。鍛えたいところなんですけど。

おお、じゃそんなふうにやってきたいなって思いはあるんですね。……チューバ、やったらいいじゃないですか(笑)。

M:チューバかあ……!

(一同笑)

そこからすでにベースだったんですね。

M:いま思えば(笑)。

どうですか? ライヴについては。

L:いまライヴで悩んでいるような部分が大きいのはたしかですね。僕ひとりではそれほどライヴをしないので……。

M:月1回くらいがちょうどいいペースかと思いますけどね。

L:月1より、もうちょっとやったほうがいいんじゃない? CDを出したことで、CDを手に取ってくれた人がライヴに来たらいいなと思うし。

ちなみに、CDはタワレコさん渋谷だったら何階に置かれたいです?

M:いまは4階(クラブ系など)に置いていただいているんですよね。希望するとしたら……そうだなぁ、たとえばJポップのフロアとかにも置かれたいですね。

L:Jポップって、邦楽のロックのバンドとかも同じフロアにある? 

M:うん、いっしょなフロア。

L:じゃあ、ちょっと置かれたいです。でも4階に置いてくれるのはうれしい。

6階(エレクトロニカなど)とかは?

M:ああ、それもうれしいです。多義的なというか、ハードコアっぽい要素すら入っている作品なので、いろんな聴かれ方をしてほしいし、いろんなひとに聴いていただきたいですけどね。

もちろんそうだと思うんですけども、たとえばインターナショナルな展開は考えていないのかなと思いまして。べつにウエディングは特殊なキャラクターで売っているというわけではなくて、普通に国内外関係ない音楽のつくり方、発信をしてるように感じるので、海外レーベルから出したいみたいな気持ちがないのかなと。

M:海外でも認められればうれしいなというくらいで。あんまり詳しくはないんです。

L:海外でウケるのかどうかっていうのは知りたい。でも、海外の人たちにウケそうなもの、って思って作ってないから……。

なるほど。今日は意外にドメスティックな一面というか実像を見れてよかったです。なんか、とても自然なスタンスでいまという時代に音楽をつくっているなって思って。

M:そうですね、でも自分で聴いていて、日本人ぽい音楽なんじゃないかって思ってます。うまく言えないけど、日本人っぽい感情の出し方、つくり方。

自分で聴いていて、日本人ぽい音楽なんじゃないかって思ってます。うまく言えないけど、日本人っぽい感情の出し方、つくり方。(Miii)

ああー。抒情性みたいな部分とか?

M:海外の音楽って、もっと音とかリズムとか一個一個の要素が太くて、それ全体でグルーヴをつくったりするところがあるという感じがします。こっちは、いろんな情報を配置するだけで、あとは聴くほうがその中から何を聴くのかを選んでいるというか……。だから、叙情みたいなものもそこから選んで聴き取るのかもしれないし。そういう意味ではメッセージといえるようなメッセージはないかもしれないというか。そこには多義的な、いろんな情報の層があるだけで。

ああー、たくさん神様がいる国、みたいな。八百万の。仏様もいっしょくたみたいな。

M:歌詞とかの情報量も多いし、情報の海があるだけって感じ……。つくる側の目線で言えば、自分は「この音だ」っていうのをドーンと出すのは正直なところ得意じゃないし、どんな音を足していったのかということもわりと感覚的で、理屈にもとづいたものではないし。

なるほど。

M:感覚的な話になってしまいましたが……。

いえいえ、音楽ですからね。言葉で言えれば音楽である必要もないし。ではリミキサーのHercelot(ハースロット)さんついておうかがいして終わりましょうか。

M:そうですね、もう、すごく好きなアーティストで、高校のころから崇拝していて。この曲(“Marriage for Dance”)については、トイポップみたいな可愛い要素をたくさん入れていただきましたけど、ご自身は「ロムズ・チルドレンだ」って言ってるくらい〈ROMZ〉が好きな方で、このリミックスはそういう人にお願いしなきゃ収まらないっていう思いはありました。

LASTorderさんは?

L:俺は……、というか、Hercelotさんにお願いしようと言い出したのは俺で。

M:そうですね。それを聴いて、たしかにそうだって思ったんです。

不思議ですね(笑)、ほんとにふたりは、バラバラで凸凹で、でも妙にシンクロしてる。ヘンなウエディングですよ。


interview with Shotahirama - ele-king

ワナダイズのマネなんですけどね

 Shotahiramaの名前を覚えたのは、東北大震災の後だった。しばらくして『アンビエント・ディフィニティヴ』を編集していたときに『サッド・ヴァケイション』(2011)を聴いたほうがいいのかどうか迷ったものの、結局、聴くことはなかった。ヴィンテージ盤に金を使い過ぎたせいもあるし、ジャケット・デザインがあまりにもそれらしくなかったことも大きい。魚がパクっと口を開けているようなヴィジュアルはあまりにグロい感じが強かった。

「あれはハンバーガーですよ(笑)。ジャケットと内容は関係ない方がいいと思ってるんです」

 その後の『ナイス・ドール・トゥ・トーク』(2012)や『ポスト・パンク』(2014)に女性の写真を使っているのも内容を想像させないためらしい。

「ワナダイズのマネなんですけどね」

 女性が地面にスッ転がっている姿を写した『バグジー・ミー(Bagsy Me)』(1996)のジャケット・デザインが彼の心を深いところで刺激したのだろう。さすがにスウェデッシュはこれだけだったけれど、この日のインタヴューで彼が口にしたミュージシャンは7割ぐらいがロック・バンドだった。彼の音楽はロック的な衝動をグリッチやミュージック・コンクレートに移し変えたもので、方法論的に行き詰ったエレクトロニカが試行錯誤の末に突破口を見出したというような修養の産物とは言わない方がいいのかもしれない。むしろ取材が終わった後で、彼は「シュトックハウゼンとかの名前をもっと出せばよかった」と悔しがっていたぐらいで、そういえば「Shota Hirama」と2語に分けず、ドットを省略してShotahiramaと綴られると、目が悪い僕などは一瞬、Stockhausenと勘違いしてしまうのも彼の巧みな計算から来ているにちがいない。橋元“めっちゃ”優歩がめっちゃ間違えてShitahiramaとメールで書いてきたときはシタビラメの仲間かとも思いましたけれど。めっちゃ。

 Shotahiramaはセールスマンのような男だった。いや、あまりにきちっとし過ぎていて、取材というよりは何かのセット販売に立ち会っていたような気分に近かったのである。まー、たしかに、彼がこれまでにリリースしてきた『クラスター』や『ポスト・パンク』が合わせて4枚組のボックス・セットとしてパッケージし直されるので、彼が何をどのような口調で語ろうともその軸にある行為はセット販売であることは間違いないのだけれども……。


Surf

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Stiff Kittens

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myspaceに曲を上げたら、スペインのレーベルから連絡が来たんです

 Shotahiramaはニュー・ヨークで生まれた。それから大体、6年おきぐらいに日本で暮らしたり、アメリカに戻ったりと、ピンポン玉のような人生を展開してきたらしい。アメリカではブロンクスヴィルというところに住んでいたので「黒人は見たことがなかった」そうである。デヴィッド・リンチの映画を観ていても『ブルーベルベット』の冒頭で雑貨屋の主人が黒人だった以外、まったく黒人は出てこないので、それだけを見ているとアメリカに黒人はいないと思いがちだけれど、スパイク・リーの初期作を観ると、今度は黒人ばっかり出てくるので、アメリカは黒人だらけだと勘違いするのに似ている(*反知性主義の人にはちょっと難しかったかな?)。

「だからヒップホップを知らないんですよ」

 音楽を聴いただけではそれには気がつかなかった(ウソ)。

「小さい頃はバック・ストリート・ボーイズとか、そういうのがよく流れていました」

 しかし、彼自身が音楽に興味を持ったきっかけはロックだった。

「意識的に聴きはじめたのはストロークスが最初ですね」

 そう言いながら、彼の表情はまるでギターを搔き鳴らしているキッズのそれになっていた。ペイヴメント、ソニック・ユース、ジョン・ゾーンと、彼の興味はどんどん先鋭化し、いつしか「ライヴがしたい、録音したい、人に聴かせたい」の三拍子が揃ってしまい、彼を中心とする流動的なメンバーで構成されたエレクトロノイズ・グループ(ENG)としてデビューする。

「マイスペース(myspace)に曲を上げたら、スペインのレーベルから連絡が来たんです」

 2007年に4曲入りの「バルセロナ」、2008年にはフル・アルバムで『コラープス』がリリースされる。アブストラクトかイルビエントといった形容がこれらを指して並んでいるけれど、僕は聴いたことがないのでなんともいえない。イギリスや香港など世界各地でライヴも行ってきたらしい。

「まだやっているんですよ。現在は休業中ですけど、やめたわけじゃないんです」


日本かアメリカかというアイデンティティの問題で悩んだことはないんです。自分は自分でしたから。

 そうした活動の前、彼はディスクユニオンの本社などで働き、最終的にはクビになっている。同じくディスクユニオンで働いていた橋元“めっちゃ”優歩と時期が重なるために、それからしばらくふたりのあいだで固有名詞がめっちゃ飛び交い、なにがなんだかわからないので、うどんでも食べに行こうかなと思っていると、彼がクビになった理由に話が及びはじめた。簡単にいうと、相手の佇まいから、その人の気持ちを察するという日本文化に馴れていないために、彼は接客でトラブルを起こしまくり、袖から見えるタトゥーがそれに拍車をかけたというのである。

「日本かアメリカかというアイデンティティの問題で悩んだことはないんです。自分は自分でしたから。でも、日本の習慣を理解するにはとにかく時間がかかったんです。なんで直さなければならないのかがわからなかったんです」

 ここまで彼と話をしていて、話しにくいと感じたことはなかった。どちらかというとコミュニケイションはスムーズで、接客でトラブルを起こすようなタイプには思えなかった。日本で働くうちに、彼がすっかり変わってしまったということなんだろうか。あるいは、そうした片鱗さえ窺える部分はなかった。強いて言えば彼は素直すぎると感じたことが精一杯の違和感である。印象に残った彼のひと言がある。

「オトナがコワい」

 そのようにして日本で働いているときに、彼はそう感じたというのである。上手くは言えないけれど、この感覚は彼の音楽にある破壊的なニュアンスや「シグナル・ダダ」と名付けられたレーベル名にどこか通低するものがあるような気がしないでもない。ダダは単に彼がダダイズムが好きだから付けたそうだけど。


オトナがコワい

 2007年に彼はギターをラップ・トップに置き換える。

「PC一台ですべてのことができるというのは、それなりに革命的な気分でした」

 香港の〈リ-レコーズ(Re-Records)〉からリリースされたソロ・デビュー・アルバムのタイトルが興味深い。『アンハッピー・アメリカン・ロスト・イン・トウキョウ』(2010)である。反知性主義者の方に訳して差し上げると「不幸せなアメリカ人は東京で自分を見失う」となる。「アイデンティティの問題で悩んだことはない」という彼の発言にウソがあるとは思えなかったけれど、でも、やっぱりそれはウソだと思いたくなるようなタイトルではある。そして、続くセカンド・アルバムが『サッド・ヴァケイション』。

「東北大震災があった日に出荷の作業をやってたんです」

 タイトルは地震の前からあったもので、同作のテーマは「エレメントの衝突」。プレス資料を写すのが面倒なほどコンセプチュアルなことがあれこれと書いてある。冒頭にも書いたように、この作品はアンビエント・テイスト。続く『ナイス・ドール・トゥ・トーク』は14分ちょっとのミニ・アルバムで、カットアップが以前よりも暴力的な響きを帯びてきた。

 現在の作風に直結してきたといえる『クラスター』(2014)はちょっと考えさせる。

「そのままです。クラスターへのオマージュです」

 一定のテンションを保ちながらも、低音部がカットされているため、ダイナミクスはまったく生じない。いわば平坦でありながら、飽きさせないという意味では初期のケン・イシイを思わせる。ヒップ・ホップを知らなかったことと同じ意味合いなのか、「ダンスものはやりたくなかった」ということが面白い方向に出た例といえるだろう。即興にエフェクトをかけたりしているのかと思ったら、流れるような展開は細かい断片を繋ぎ合わせたものだという。

「エディット狂なんですよ(笑)。これは2週間でつくれと言われて。このときの集中力は二度と再現できません」

 ここから一足飛びに『ポスト・パンク』へ話を進めたいところだけど、次にリリースされたのは〈ダエン〉からのカセット、『モダン・ラヴァーズ』。

「ジョナサン・リッチマンが好きなんです。最初のノイズは実際にジョナサン・リッチマンのアナログ盤をかけたときのもの」

 そうかなとは思ったけど、本当にジョナサン・リッチマンから来ているとは驚いた。2014年は坂本慎太郎にマック・デマルコと、話題作を生み出したミュージシャンが共通してジョナサン・リッチマンに惹かれていたとはどういうことか。ちなみにShotahiramaがジョナサン・リッチマンのことを知ったのは田中宗一郎が「ストロークスだったか、リバティーンズだったかのことを書いていて、それと関係づけていた」からだったという。『モダン・ラヴァーズ』はひと言でいえばノイズで、「ハーシュ・ノイズは嫌いなんです」という彼が練り上げた繊細なノイズ・ドローンと聴いたほうがいいだろうか。


最初のノイズは実際にジョナサン・リッチマンのアナログ盤をかけたときのもの。

「ノイズといっても、ナース・ウインズ・ウーンドみたいにドロドロしたものが好きなんですよ。ビザーレというか。コリン・ポッターも好きです。アンドリュー・ライルズやダレン・テイト、アンドリュー・チョークも……」

――予感はあった?

「まったくなかったです」

 本人も予想しないところで、いきなり『ポスト・パンク』で火が点いた。

――どんな反響が?

「ないですけど、売れたんですよ」

 そんなことが急に……起きたのである。初期のケン・イシイがマウス・オン・マーズと出会ったようなファニーさが『ポスト・パンク』には付け加わった。これも実際に会った彼からは感じられなかった性格ではある。もしかすると、興醒めになってしまうかもしれないけれど、タイトルも含め、この変化がどこから来たのかは彼自身が語ってくれた。

「パレ・シャンブルグです」

 あー、なるほど。アンビエント・ミュージックに聴こえるサウンドにハンバーガーのジャケットを持ってくるセンス。おそらくは彼に元から備わっていた性格なのである。それがようやく音の表面に出てきたのが『ポスト・パンク』だった。そう考えた方がよさそうではないだろうか(どうでしょう、反知性主義の皆さん?)。どう見てもセールスマンにしか見えないShotahiramaが真面目な顔で彼の音楽について語れば語るほど、何かが決定的にズレていく。あるいは、まずは笑わせてくれるのがダダイズムだとも。



*『クラスター』『モダン・ラヴァーズ』『ポスト・パンク』を含むボックス・セット『サーフ』はポスター、缶バッチ2個、ブックレット付きでshrine.jpより発売中。橋元“めっちゃ”優歩もめっちゃ好きみたいです。めっちゃ。


■shotahirama / 平間翔太
ニューヨーク出身の音楽家。国内外のさまざまなメディアから注目を浴び、Oval、Kangding Ray、Mark Fell 等のジャパン・ツアーにも出演。代表作に『post punk』や4枚組CD ボックス『Surf』などがある。
オフィシャルサイト:https://www.signaldada.org

■新譜『Stiff Kittens』

発売日: 2015 年2 月22 日
定価: 2,000 円+消費税
レーベル: SIGNAL DADA
詳細: https://signaldada.tumblr.com/

「新譜『Stiff Kittens』発売記念ライヴ+特典引換会」についての詳細はこちらから

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