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コーネリアス(=小山田圭吾)の音楽は、いつ聴いても、何を聴いても、まるでアイコンを認識するように一瞬にしてわかる。あの星の輝きのような音……!
その傾向は97年の“スターフルーツ・サーフライダー”から随所になり、01年の『ポイント』から06年の『センシュアス』の間にかけて確立されていったように思える。彼は楽曲をまるでサウンド・ロゴのようにデザインしていくのだ。
本作は、2010年代前半におけるコーネリアスが手がけたリミックスや参加曲などを集めたアルバムである。坂本慎太郎やサリュ×サリュ、ゴティエやペンギン・カフェ、さらにはサカナクションのリミックスからザ・バード・アンド・ザ・ビーやコーラルレイヴンとのコラボレーション曲まで多彩な楽曲をアルバム一枚に収録している。
声だけの参加曲やコーネリアス自身が手がけていない曲(大野由美子氏による1曲め!)も収められているのだが、にも関わらず「いまのコーネリアスのモード」をアルバム一枚通して聴いたという満足感がある。〈トラットリア〉がリリースしたレーベル・コンピレーション盤を思い出しもした。
よくオリジナル・アルバムのリリースについて質問されているコーネリアスだが、これだけの楽曲を2010年代前半に残しており、そのうえYMO関連への参加、CM音楽、サリュ×サリュのアルバム・プロデュース、『デザインあ』や『攻殻機動隊ARISE』『攻殻機動隊 新劇場版』の音楽など多岐にわたる仕事を展開していたのだから、むしろ「オリジナル・アルバム」という概念こそが、2010年代も後半に突入する現在においては、「幻想」ではないかとも思えてしまうほどだ(当然ファンとしては期待大ですが!)。
00年代から10年代にかけて、いわば音楽を取り巻く状況が大きく変化していく時代のなかでコーネリアスは、さまざまな仕事の領域で自身のサウンド・アイコンを刻印するように音楽を作り続け、オリジナル・アルバム・リリース「だけ」にこだわらない新しい音楽家像を実現してきたのだ。むろんサウンドロゴのような明確な強さが楽曲にあったから可能だったこと。
当然、本作の収録曲にも「視認性の高い音」が横溢している。時間が逆行するような坂本慎太郎のリミックス、声の力を存分に生かしたサリュ×サリュ、ゴティエのミニマムなリミックス、両者の無駄なく個性が融合しているザ・バード・アンド・ザ・ビーとの共作、小山田圭吾の声の魅力を再確認できるコーラルレイヴンとのコラボレーション、ニューウェイヴとコーネリアス・サウンドの合体といえるプラスティック・セックス、原曲のフォーキーな魅力を引き出したサカナクションのリミックスなど、どの曲も、どの音も、曲順も、綺麗に整理され、配置され、再デザインされており、同時に、水のような自然さで耳に浸透していくのである。
とくに注目したい曲は、アンビエント・ポップなペンギン・カフェのリミックス“ソラリス”と、小山田圭吾のヴォーカルを堪能できるリトル・クリチャーズの“ナイト・ピープル”のカヴァー、アレンジの妙を聴かせるサカナクションの“ミュージック”のリミックス、夜の月を思わせるアンビエントな新曲“トーキョー・トワイライト”だ。これらのトラックは、アンビエントとファンタジーとギター・ポップ/ネオアコへのコーネリアスなりの回答のようにも聴こえてしまう。私などは、そこに「コーネリアスの新しいモード」の萌芽を感じてしまうのだが……。
それにしても、本作を何度も繰り返し聴くにつけ、コーネリアスの音楽は環境=社会の中で鳴るときサウンド・アイコンとしての効果を強く発揮するようにも思えてならない。たとえば電車やバス、エレベーターの音などをコーネリアスが作ったら? と考えると楽しい。ポップであることは機能的であり、それゆえ環境的に作用する。その意味でコーネリアスはブライアン・イーノにもっとも近いポップ・アーティストかもしれない。
デンシノオト