「S」と一致するもの

St. Vincent - ele-king

 厚い化粧と真っ赤な口紅、丈の短いドレスから覗かせた足元にはヒール靴、そして腕にはエレクトリック・ギター。数年前、US版『GQ』でのドレスアップしたインディ・ミュージシャンのフォトシュート企画で、デヴィッド・バーンとサンティゴールドとともにそんな姿でポーズをキメるセイント・ヴィンセントことアニー・クラークが自分のなかで強く印象に残っている。いよいよ彼女もアイコンめいたところにやって来たのだなとそのとき気づかされたのだが、と同時に、どこかがアンバランスなその立ち姿こそが彼女がひとの目を引きつける理由なのだと感じたのだ。それはそのまま複雑な形を持った彼女の音楽にも通じるところがあるのだが、演奏する姿はいったいどんなものなのだろう。その佇まいをどうしても見ておきたかった僕は、東京で一公演だけの来日に足を運んだ。

 ドラム、シンセ、キーボードをバックに携えたアニーはまさに、観客が期待していた姿で現れた。高いヒール靴とタイツにはどこか不釣合いに思えるエレキ、だが彼女自身はその両方が自分にとってのステージ衣装だと言わんばかりに落ち着き払っている。1曲目はスペーシーなイントロから"サージョン"。はじめギターにシールドを挿し忘れるミスがありヒヤッとさせるが、ひとたびギターのフレーズが差し込まれるとトリッキーな構造の楽曲が目の前で鮮やかに組み立てられていく。たとえばダーティ・プロジェクターズの名前がその比較に挙げられるような、やや少ない音数の絡み合い(あるいはすれ違い)の妙で耳を楽しませるセイント・ヴィンセントの楽曲だが、何よりもギターがその中心にあることが実際に目で見ると分かりやすい。曲の後半、捻じ曲がっていくシンセ・サウンドのなかでアニーによるギターが高音へとドライヴし、息を呑むテンションと高揚がもたらされる。
 続いて披露された"チアリーダー"の「でもわたしはもうチアリーダーになりたくないの」という歌詞が示唆的だが、他者(とくに男性からの視線)の期待に応えることのできない自分への葛藤がセイント・ヴィンセントの歌には内在しているように思える。だからと言って強く反抗的な態度を取ったり何かを強く主張するわけでもなく、ありがちな「等身大」の女性像にも逃げ込むこともない。いつもどこか居心地の悪そうな、「異物」としての存在感が彼女には備わっている。橋元さんがレヴューでミランダ・ジュライの名前を挙げていてなるほどと思ったが、たしかにジュライの監督作『君とボクの虹色の世界』にアニーが映っていてもおかしくはない。風変わりな人間が風変わりなままでお互いに折り重なっていく、そんな世界の住人の音楽であるように聞こえる。そうしたアニー自身の内側にある複雑さを、技巧を凝らしたギター・ワークやサウンドの多彩さで外側に軽やかに放り投げたのが『ストレンジ・マーシー』であったが、この日のライヴはまさに彼女自身のギター・プレイによっていくらかの生々しさを伴いながらその過程が再現されていた。
 曲間になると、バックでシンセを演奏するトーコ・ヤスダがMCの通訳をして観客を笑わせる場面もあった。そんな姿のアニーは紛れもなくチャーミングなのだが、艶っぽく流麗な歌声を聞かせたかと思えば突如として激しくギターをかき鳴らすし、ザ・ポップ・グループのカヴァー"シー・イズ・ビヨンド・グッド・アンド・イーヴル"ではドスのきいた声さえ聞かせてみせる。そこではアイコン的な完成度の高いクールさよりも、アウトプットがどうしても歪な形になってしまう危うさのほうが上回っていたように感じた。この日も演奏された"マロウ"における「ヘルプ・ミー」の呟きはおそらくは彼女自身の切実な悲鳴なのだろう。が、それがキッチュでごつごつした感触のエレクトロニック・ポップになってしまう回路のややこしさこそが、彼女から目を離せない理由だ。ライヴのハイライトのひとつであった"ノーザン・ライツ"で髪を振り乱しながらテルミンを荒々しく演奏し、そして終いにはブチ倒した彼女の内側の烈しさを、僕たちは歓声を上げつつもハラハラして見つめ続けるしかないのだ。
 だが、そこにはライヴならではの感情的な交感があったこともたしかだ。アンコールではアンニュイでドリーミーな"ザ・パーティ"で厳かな空気を作り上げ、ラストの"ユア・リップス・アー・レッド"でオーディエンスにダイヴしギター・ソロを弾くアニーを、東京の観客は文字通り「受け止めた」。アーティでカッコいい女、では済ませることのできないややこしさが彼女の音楽にはつねにあって、それと向き合うのは気軽なことではないだろう。だが、隠されたものが思いがけず外に飛び出してしまう様を目撃するようなスリルを伴ったその日のライヴは、どこか官能的な味わいすら含んでいたように感じられた。

Chart by JET SET 2012.01.30 - ele-king

Shop Chart


1

KHAM LINGTSANG BAND

KHAM LINGTSANG BAND SOLAN »COMMENT GET MUSIC
ESP Instituteのレーベル1stを華々しく飾ったSombrero Galaxyに続くJonny Nashによる新ユニットKham Lingtsang Bandによる"Elevator People"からのデビュー・シングル。

2

CUT COPY

CUT COPY SUN GOD »COMMENT GET MUSIC
最新アルバム"Zonoscope"からのリミックス・12インチ。後半にあの独特の女性コーラスが入るB面のヴァージョンが相当ヤバいです。やっぱり本物は違います!!

3

WILL SESSIONS

WILL SESSIONS MIX TAKES »COMMENT GET MUSIC
今回は、B-Boyならずとも知ってる名曲の数々をミックス・テープ感覚でカヴァーしたBreakestraに通じるブツ! 今のところLPオンリーだそうなのでお早めに。

4

UNITY SEXTET

UNITY SEXTET S.T. »COMMENT GET MUSIC
UKの大人気ファンク・クリエイターLack of Afroプロデュースによるデビュー作。Madlib以降のセンスが炸裂するスピリチュアル・ジャズ・グルーヴ超傑作!!

5

ACTRESS

ACTRESS ACTRESS MEETS SHANGAAN ELECTRO 1/2 »COMMENT GET MUSIC
チリアン・ミニマル勢やジューク勢とのコラボ盤も凄いことになった同コラボ・シリーズに、脱臼エレクトロUKベース人気者Actressが降臨。異次元まで吹き飛ばされます~!!

6

NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS

NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS UNKLE REMIX EP »COMMENT GET MUSIC
Noel自身のレーベルSour Mashからの超限定プロモ盤!!ヴォーカルを活かし、どこまでも盛り上がるダイナミックな仕上がりのロッキン・ダンス・キラー。新たなフロア・アンセム化必至です!!

7

G-SIDE

G-SIDE RELAXIN' »COMMENT GET MUSIC
アラバマの超注目ヒップホップ・デュオ、G-Sideの初の7インチ!!

8

BULLION

BULLION SAY ARR EE »COMMENT GET MUSIC
なんとBullionがUKベース強力盤を連発リリース中のベルジャン老舗R&Sから初登場リリース!!

9

V.A.

V.A. BLACK JUKEBOX 02 »COMMENT GET MUSIC
Doctor Dru & Adana Twinsによる第一弾が大好評となったShir Khan主宰"Exploited"発のリエディット・シリーズVol.2も大推薦!!

10

V.A.

V.A. ANNIVERSARY SERIES: PART 2 »COMMENT GET MUSIC
Juju & Jordash、Morphosisの鬼才コンビによる前作Vol.1が大好評を頂いた"Dekmantel"の設立5周年アニヴァーサリー企画の続編第二弾。Lone、Makam、Awanto 3のダッチ・シーンを賑わす気鋭3組による本作も漏れなくお勧めです!!

Drexciya - ele-king

 ドレクシアとはデトロイトのゲットーで暮らす黒人が安物の電子機材を用いて紡いだ物語(ファンタジー)である。それは1992年からゼロ年代初頭にかけて、青年漫画の連載のように展開された。
 ときは大航海時代、暴風雨にさらされた奴隷船が大西洋のまんなかで揺れている。奴隷貿易の商人たちは病気持ちの妊婦と赤子たちを海に落とす。胎内の羊水で泳いでいた胎児たちは、海中へと押し出され、やがてドレクシアなる変異体となって生き延びた。
 彼らは深海を居住区として、海底に彼らの都市を造った。彼らはそして、彼らをドレクシアにした人類に向かって復讐を果たす機会を待っていた。1992年に〈UR〉傘下の〈ショック・ウェイヴ〉レーベルから最初の反撃がはじまった――。暗い憤怒に満ちたいち撃である。ドレクシアはそれから、彼らがどれほど人類を憎んでいるのかを、気色悪いヴォコーダーを用いながら数年間かけて話した。
 彼らは人間の強欲さの犠牲となった哀れな突然変異なのかい? 彼らがなぜこのような不気味な音楽を作っているのかわかるかい? 彼らの探索は何だと思う? これはおまえたちが知ることのない問いかけなのだ。1997年の2枚組のベスト盤『ザ・クエスト』にはそう記されている。

 音楽的な観点で言えば、ドレクシアの主成分はまずはクラフトワークに言及される。同時にサイボトロン(モデル500)やジョンズン・クルーといったオリジナル・ブラック・エレクトロの流れを汲んでいる。デトロイトにおいて、クラフトワークの退廃的なアンチヒューマニズムがファンクの好戦的な態度と結びついたことでこの神話は生まれたと言えるが、欧米のインディ系のメディアがこの機会をいいことにドレクシアに賞賛を送っているひとつの理由には、まずはこれがアフロ・フューチャリズム理論の代表例であること、そしてもうひとつにその音響――アナログ電子音の凄まじい広がりをエメラルズやOPNと繋げてみたいという抑えがたい欲望があるからだ。試しに"ウェルカム・トゥ・ドレクシア"のアルペジオをいま聴けば、なるほど、これはたしかにエメラルズ(とくにジョン・エリオット)である。

 しっかし......デトロイトは本当にしぶといなぁ。噂のノー・UFOズも早く聴いてみたいけれど、その名義があるというだけでもわくわくする。ドレクシアは、日本での人気はいまひとつだが、ヨーロッパでは絶大だ。再発やリリース量を見ればわかる。〈ワープ〉と〈リフレックス〉、そして〈トレゾア〉からも出ている。もっともドレクシアは、いわゆるDJフレンドリーな音楽ではない。DJには媚びていない......と言ったほうがドレクシアに関して言えば正確だ。昔、URが逆回転の溝のヴァイナルを出したとき、あるDJが「使いづらいじゃねーか」とケチを付けていたが、使いやすさという価値に支配されたくないからこそ彼らはわざわざそういうことをした。使いやすさはラップトップのDJスタイルへと結実したが、モーターシティのアナログ純粋主義はいまでも健在だ。
 そんなわけもあって、ドレクシアが存続していた時代に彼らが発表した唯一のベスト盤でありCDは『ザ・クエスト』のみだが、現在は廃盤であるがゆえに本作『ジャーニー・オブ・ザ・ディープ・シー・ドゥウェラー・1』は価値あるリリースとなった。1992年のデビュー・シングル「Deep Sea Dweller」、1993年の「Bubble Metropolis」、1994年の「The Unknown Aquazone」、1996年の「The Return Of Drexciya」(以上は〈UR〉からのリリース)、そして1995年に〈ワープ〉からリリースされた「The Journey Home」から選曲されている。要するに『ザ・クエスト』までのドレクシア......ふたり組時代の音源だろう。ドレクシアのふたりとは、故ジェームズ・スティンソン(最後までドレクシアを名乗った男)、そしてもうひとりはドップラーイフェクト名義やジャパニーズ・テレコム名義などで知られるジェラルド・ドナルドだ。

 彼らのベスト・トラックの"ウェイヴジャンパーズ"や"バブル・メトロポリス"をはじめ、そして「Deep Sea Dweller」に収録された大いなる"シー・クエーク"......不朽の名曲が揃っている。TR808による素晴らしいドラム・パターンの"ラードッセン・ファンク"のようなファンキーな曲を聴くと、この音楽が戦闘ばかりではなく、喜びをも表現していることを知る。
 いまここで彼らの神話性を無視する。論文向きのアフロ・フューチャリズムやブラック・アトランティックも頭から追い出す。ただ音のみに集中して、鼓膜のみを頼りにする。潜水してみる。『ピッチフォーク』は「今日ドレクシアを聴くことは、最初からやり直すことである」とまで言っているが、僕が思うのは、もしデトロイト・テクノがなんたるかを知りたければこれを聴けということ。デトロイト・テクノの本質とはナイーヴな叙情主義でも感傷主義でもなく、それはもっとハードなものだ。『1』というからには『2』もあるのだろう。ロッテルダムの〈クローン〉がどんな選曲するのか楽しみである。

おまえもドレクシアンの波跳人になるというのなら
まずはラードッセンの黒い波を浴びなければならない "Wavejumpers"

Andy Stott - ele-king

 モーリツ・フォン・オズワルドにベーシック・チャンネルの原イメージがブライアン・イーノとジョン・ハッセルのコラボレイション『ポッシブル・ミュージック』から来ていると聞いた時は、まさしくなるほどだった。イーノはアンビエント・ミュージックのネクストとして「フォース・ワールド(第4世界)」という概念を立ち上げ、どこかスピリチュアルな響きを構想の核に据えていたのだろう。まだ商業ベースとは無縁だった時期のワールド・ミュージックがその背景には大きく広がっていたものの、そのシリーズに続きはなかった。ほどなくしてイーノはアンビエント・シリーズもストップさせてしまう。

 アレックス・パタースン(ジ・オーブ)はイーノの『オン・ランド』をしてイギリスの湿地帯を想起させる音楽だと話してくれたことがある。『ポッシブル・ミュージック』にもそれはダイレクトに投影されていた感覚であり、ベーシック・チャンネルの2人はこれにデトロイト・テクノを掛け合わせることで、現在ではダブ・テクノと称されるフォームを構築したといえる。デトロイト・テクノ、とりわけアンダーグラウンド・レジスタンスによるそれは90年代初頭のジャーマン・テクノに野火のように燃え広がり、ある程度、キャリアを積んでいるプロデューサーの過去には必ずといっていいほど修作が存在する。つまり、ドイツとデトロイトを結ぶだけなら誰にでも出来ることだったのかもしれないけれど、彼らはそれにイギリスの湿地帯という要素を加えることで、他のプロデューサーたちとは一線を画す存在になっていったのである。さらにはマーク・エルネスタスによるダブへのこだわりがベーシック・チャンネルの中期から後期にかけて、もうひとつの大きな役割を果たすこととなり、邪推ながら解散の原因にもなっていったのだろう。

 ベーシック・チャンネルのフォロワーというのは、本当に数え切れないほど出てきたし、いまでもそれは続いている。厳しいことを言えば、彼らが設立した〈チェイン・リアクション〉からデビューしたポーター・リックスやウラディスラフ・ディレイ、そして、マイク・インクと、これに触発されたというハーバート以外は物まねの域を出たものはいない。ロックン・ロールやファンクのフォロワーと同じく、物まねさえしていれば楽しいというような音楽になってしまったとさえいえる。当然のことだろうけれど、オズワルド本人はそのようなフォロワーの作品はまったく聴く気にもならないと言っていた(ロッド・モーデルさえ知らない様子だった)。オズワルドは広義のファンク・ミュージックに、エルネスタスはダブを経て現在はシャンガーンに夢中のようである。

 ベーシック・チャンネルを基調にしつつ、これに初期のアクフェンを思わせるカット・アップを組み合わせたのがアンディ・ストットだった。昨年5月にリリースされて大きな話題を呼んだダブル・パック「パスト・ミー・バイ」と、その続編にそれぞれ2曲づつボーナス・トラックを加え、彼にとっては2作目の編集盤となるCDヴァージョンもつくられた。06年にリリースされたデビュー・アルバム『マーシレス』ではこのようなアプローチはまったく試みられていなかったどころか、クラロ・インテレクトのカヴァーをやるような存在(IDM系?)だったのに、いつどこでスタイルを変えていたんだろう...という感じである。ベーシック・チャンネルをファンク・ビートで刷新したような"ウイ・ステイ・トゥゲザー"を聴いても、その骨太なプロダクションはかなりな圧迫感を覚えるほどである。

 まずはなんといっても"ノース・トゥ・サウス"。ガリガリととぐろを巻くベースに断片化された効果音が様々なニュアンスで襲い掛かってくる。たったそれだけのことだけれど、その臨場感はとても地震の直後に聴けるようなものではなかった。ソウル・ヴォーカルのカット・アップを加えた"ニュー・グラウンド"や"インターミッテント"も印象深い仕上がりで、ここでもやはり破片かされたストリングスが荒廃したムードを一気に覆してしまう手前で、あっさりと姿を消していく。その刹那が本当にたまらない。音が醸し出す文化的な意味合いに異常なほどのせめぎ合いを演出させているといった風である。もしかするとジェイムズ・ブレイクの影響なのかもしれないけれど、それを同質の場面ではなく、旧態としたテクノにフィードバックさせたところがむしろアイディアだった。大きな一歩ではないけれど、それほど小さくもない成果がここにある。

 驚いたのは上記したポーター・リックスのデビュー・アルバムを〈タイプ〉がリイッシューしたことである。メタル・ケースのみで売られたということもあるかもしれないけれど、時には1万円近い値段が付けられていた『バイオキネティックス』を、しかも、アナログでは初リリース。早くも限定のクリア・ヴァイナルには同じぐらいの値段が付き始めている(CDは2月中旬発売予定)。トーマス・ケナーのアンビエント諸作を再発してきた流れで決定したものだろうし、それこそイギリスの湿地帯を追求しまくってきたレーベルなので、不思議はない。ない......けれど、仮にもテクノの領域から出てきたマスターピースをタイプが再発するのである。ダンス・ミュージックではなく、ノイズ・ドローンという価値観のなかで再生される『バイオキネティックス』は一体、新たなリスナーたちに、どのような音楽として聴かれるのだろうか。僕には想像もできない。

DJ END (B-Lines Delight / Dutty Dub Rockz) - ele-king

DUTTY DUB ROCKZがお送りする年間ベスト!DUTTY DUB ROCKZ presents REWIND 2011!!
大好評公開中です!今回もDJ、アーティスト、レコードショップスタッフ等など様々な都市の沢山の方々に参加して頂いてます。これを見て2011年のBass Musicの動向、そして2012年の傾向を是非チェックしてください!https://duttydubrockz.blogspot.com/
Next B-Lines Delight 2012/03/19(mon) @Sound A Base Nest

REWIND CHART Jan/2012


1
Sivarider - Liberation - Dubplate
https://snd.sc/yBPHrj

2
DD Black - Conflict - Dubplate
https://snd.sc/wzjlW3

3
Ten Billion Dubz - 408 - Dubplate
https://snd.sc/yIgJFE

4
Yasmin Ft. Shy Fx&Ms. Dynamite - Light Up(The World) - Ministry of Sound Recordings

5
Killawatt - Sidewinder(Ipman Remix) - Black Box

6
Pinch - Retribution - Swamp81

7
Peverelist - Meet Tshetsha Boys - Honest Jon's

8
Distal - Eel - Seclusiasis

9
Hatti Vatti - You EP - New Moon Recordings

10
Mungo's Hi Fi - Forward Ever - Scotch Bonnet

Chart by UNION 2012.01.26 - ele-king

Shop Chart


1

やけのはら

やけのはら Step On The Heartbeat NOPPARA REC / JPN »COMMENT GET MUSIC
2012年最初の注目作品!やけのはらIN THE MIX! TO THE HOUSE!!「Brilliant Empty Hours」や「Summer Gift For You」に続く、「スルメ的に聴き続けられる」ミックスCDがディスクユニオン限定で登場!!家で聴く音楽と言えば、ハウスミュージック!とばかりにセレクトした、BPM120のハートビートに染み渡るダンスミュージックたち。ジャズテイスト、サンバ、ラウンジ、サウダージ、R&B。それらの雑多なジャンルをライトに、あくまでもライトに陽の光を感じさせるフィーリングで束ねた一枚。

2

DELTA FUNKTIONEN

DELTA FUNKTIONEN Inertia // Resisting Routine ANN AIMEE / NED »COMMENT GET MUSIC
DELSIN傘下ANN AIMEEが送る、COSMIN TRG、PETER VAN HOESEN、LUCY等、現行アンダーグラウンド・テクノ・シーンの中核を担うアーティスト達が全曲エクスクルーシヴの新曲で参加する驚愕のMIXコンピレーションが到着!MIXを手掛けるのはレーベル看板・DELTA FUNKTIONEN!!一度ハマると抜け出せない中毒性を有するトラック・メイキングで知られ、またFABRIC、PANORAMA BAR等世界有数のクラブからオファーの絶えないDJでもあるDELTA FUNKTIONEN、まさにモダン・ディープ・テクノのエポック・メイキングとなりうる珠玉のミックス作品。

3

HELIUM ROBOTS

HELIUM ROBOTS Jarza EP RUNNING BACK / GER »COMMENT GET MUSIC
THEO PARRISHリミックス収録。DJ HARVEYやPRINS THOMASのプレイリストを賑わせたロンドンのレーベルDISSIDENTからのリリースの諸作がカルト的に支持されたHELIUM ROBOTSの新作がRUNNING BACKから登場!色鮮やかなシンセチューン"Jarza"を、B-サイドでTHEO PARRISHが2リミックス!荒々しくウネリをあげるベースラインにチープでスカスカのフレーズを絡めて展開されるマナー通りのスリージーなアシッド・トラック。

4

GAISER PRESENTS VOID

GAISER PRESENTS VOID No Sudden Movements MINUS / CAN »COMMENT GET MUSIC
MINUSの中核を担うプロデューサー・JON GAISERによるNEWプロジェクト・VOIDのファースト・アルバム。バウンシーなグルーヴィー・ミニマルで人気を博し、RESIDENT ADVISORの"TOP 20 LIVE ACTS OF 2011"の第6位に選出されるなど世界的にブレイクを果たした彼が取り組む次作は、なんとダウンテンポ/アンビエント/実験音響が混ざり合ったアーティスティックな作品集!ベルリンの暗く寒い時期に漂う自然の厳しさにインスパイアされ2年の月日を費やし制作、ゆったりとしたドローンとパルス音が静かに変化するM-1、ヘビーなベースとミッドテンポのキックが淡々と刻まれるM-5等、アルバム全体が深みあるトーンで統一された1枚。

5

ASC

ASC Light That Burns Twice As Bright SILENT SEASON / CAN »COMMENT GET MUSIC
QUANTEC、ATHEUS、MR.CLOUDYなどの良質な作品を限定CDやデジタルでリリースするカナダのSILENT SEASONから、なんと先鋭的なサウンドで注目を浴びるドラムンベース・プロデューサー・ASC(NONPLUS/EXIT)のアンビエント・アルバムが登場! 幾重にも重ねられたアンビエンスたっぷりのシンセが、得も言われぬ美しく壮厳な世界観を創り出す極上の1枚!! LTD 300、絶対にお見逃しなく!

6

OMAR S & OB IGNITT

OMAR S & OB IGNITT Wayne County Hills Cop's (Part.2) FXHE RECORDS / US »COMMENT GET MUSIC
突如として届いた最新シングルはOB IGNITTなるアーチストをフックアップした、OMAR Sとの合作。オリジナルとなるAサイドは"Plestsk Cosmodrome"や"Psychotic Photosynthesis"で見せた独創的なシンセリフが大胆にトラック全体を支配、80'sオールドスクールなダンスミュージックのいわゆる「BサイドDUB」のようなアレンジを披露。OMAR Sが煌びやかでドープなリミックスで仕上げたBサイドも揺るがないスタイルと個性を見せ付けています。

7

VEDOMIR

VEDOMIR Untitled DEKMANTEL / NED »COMMENT GET MUSIC
ウクライナの才人ことご存知VAKULAのニュープロジェクト!VEDOMIR名義でJUJU & JORDASHのホームレーベル、オランダのDEKMANTELより到着した2トラックス。ミステリアスな女性Voフレーズに誘われるドップリとハメられる危険なアンビエント・トラックA-1、生き物のように流動的に浮遊するフレージング、質感に富んだSEやキックの強弱、後半にはヒプノティックな展開が用意されたB-1と、多様な側面を見せる注目の別名義作品。クレジット、ジャケなしの超限定盤。

8

MUNGOLIAN JET SET

MUNGOLIAN JET SET Schlungs SMALLTOWN SUPERSOUND / NOR »COMMENT GET MUSIC
スマッシュ・ヒット作"Moon Jocks N Prog Rocks"を含む、ノルウェー・ニュー・ディスコの至宝MUNGOLIAN JET SETの待望の2ndアルバム。JAZZLANDを中心とした未来派ジャズ勢とも親交が深く、またLINDSTROMやPRINS THOMASら、彼の地ノルウェーのダンス・ミュージック・シーン中核のアーティスト達からもリスペクトされる彼ら。純粋なオリジナル・コンポジションとしては実は「初めて」となるアーティスト作品となる本作にはこの春フロアを席巻したアップリフティングなダンス・トラックB-1を筆頭に、華やかにオープニングを飾るシネマティックなスペース・ディスコのA-1、異次元へと誘われる奇天烈アシッドA-2等全8トラックを収録。

9

V.A.

V.A. Love Unlimited Vibes LOVE UNLIMITED VIBES / GER »COMMENT GET MUSIC
大スイセン!KDJワークスを感じさせる極上ビートダウン!!未だ謎めいた詳細不明のブートシリーズLOVE UNLIMITED VIBESからVol.4が例によって500枚限定プレスで登場。エモーショナルなフレーズや土着感を嫌味にならない絶妙な塩梅で絡めた柔らかで温かみのある3トラックを収録したVol.4も間違いない1枚。

10

A.MOCHI

A.MOCHI Black Phantom EP FIGURE / GER »COMMENT GET MUSIC
A.MOCHI & FIGURE、待望の新作!! このFIGUREをホーム・レーベルとしたアルバム「Primordial Soup」や一連のシングル作品、またMOTE-EVOLVER、WAVETEC等のリリースでも気を吐くご存知日本の誇る重厚テクノ・サウンドの雄A.MOCHI、2012年最初の12"が到着。猛烈な唸りをあげて鋭くタフに研ぎ澄まされたヘビー・サウンド、ダイナミックなブレイク、圧死寸前の超重量ベースがすさまじく強靭なグルーヴを形成しドライブする圧倒的キラー・トラック!

Washed Out - ele-king

 ジョージア州のペリーという小さな町の彼のベッドルームの夢想はリキッドルームをターンオンさせることができるのだろうか......。サンプリングとスクリューによるフラットしたまどろみは、モラトリウムのけだるいサウンドトラックは、本人が望んだこと以上の騒がれた方をしてしまったがゆえに矢面に立ち、そしていち部の大人たちから非難を浴びていることは読者のみなさんもご存じのはずである。
 開演直前に到着、カウンターでビールをもらって、ドアを開けると照明が落ちて、12インチ・シングル「余暇の人生」に収録された"ホールド・アウト"がはじまる。中央には黒いドレスを着たブレアがシンセの前に立っている。彼女こそ「余暇の人生」のアートワークで黄昏色の海に浮いている女性で、アーネスト・グリーンの奥さんだ。その左にはグランジ・バンドでもやっていそうなベーシストが立ち、右側にはアーネスト・グリーン、そして後方にはドラマーがいる。心配されていたことだが、アーネストの手元にはiPadがあった。それがわかった瞬間、「やばっ」と思った人は少なくなかったろうが、演奏は思ったよりもしっかりしていた。バンドとしての体をなしていたし、黒い髪を振り乱しながら歌うブレアはステージ映えしていた(ビーチ・ハウスのヴィクトリアを意識しているようにも思えた)。

 チルウェイヴに限らず、打ち込み音楽(エレクトロニック・ミュージック)においてライヴPAは20年前からのテーマである。バンドと違って地道な鍛えられ方をしていないし、それ以前の問題として作り手の多くはステージング(芸人根性)というものを知らない。プログラミングされたループを垂れ流し、ミキサーをいじるだけなら生演奏とは呼べないし、ライヴをやる意味がない。が、それでも大受けすることはままある。
 僕が昨年行った打ち込み音楽のライヴに関して言えば、ベストは迷わずANBBで、次点でハーバートURだ。ANBBに関しては、照明美術からブリクサのパフォーマンス、そして周波数の魔術師たるカールステン・ニコライの驚くべき"演奏"にいたるまで見事というほかなかった。残念だった点があるとしたら客があまりに少なかったことぐらいだ。ハーバートは彼の政治的主張のユーモラスな見せ方において、URはジャズ・ファンクの迫力ある演奏において、ライヴとしての醍醐味が十二分にあった。

 ウォッシュト・アウトは、とくにはしゃぐ様子もなく、慎重に演奏しながらそのけだるさを快楽へと変換した。ダンス・ミュージックの影響下にあるゆったりとしたグルーヴのなかには、チルウェイヴ特有の甘いメランコリーがある。ほとんどレコードに忠実に演奏されていたが、彼らの催眠ループで眠たくなることはなかった。おおよそ他の音でかき消されていたとはいえ、アーネストのヴォーカリゼーションとブレアのバック・コーラスも感じの良いものだった。ウォッシュト・アウトがオーディエンスを完璧に現実逃避させるにはもう少し時間がかかるかもしれないが、バンドには美しい調和があったし、気持ちのこもったショーだった。ヨーロッパ・ツアーやATPへの出演など、けっこう場数を踏んできた痕跡がある。
 なにせ過去2回の来日ライヴを見ている人間からは芳しい感想を聞いた試しがなかった。2回とも見ている友人によれば「いままでいちばん良かった」そうで、ウォッシュト・アウトにとって不幸だったのは、内気で密室的なこの音楽が、まだライヴ慣れしていないのに関わらず野外フェスに2回も呼ばれてしまったことかもしれない。今回が初来日だったら、もっと良い反応を得られたはずだ。ちょっと可哀想に思える。
 最後の"ユール・シー・イットで何人かのオーディエンスは両手を広げて踊っている。アンコールの2曲は"デディケーション"と"アイズ・ビー・クローズド"だった。わりとあっけなく終わったが、まあ、全13曲、ほとんどのオーディエンスを惹きつけていたように思う。風評というのは本当に恐ろしいモノで、ジェームズ・ブレイクを神々しく見えてしまう人もいれば、ウォッシュト・アウトをスルーしてしまう人もいる。おかげさまで快適な状態でこの音楽に浸ることができたわけだが。

Sao Paulo Underground - ele-king

 90年代のUSアンダーグラウンドにおいて重要なムーヴメントといえば、ポスト・ロックだ。その流れはキャレクシコにも、そしてボン・イヴェールにも繋がっている。今回紹介するサンパウロ・アンダーグラウンドのロバート・マズレクは、ポスト・ロックの第一世代であると同時にポスト・バップなるサブジャンルの開拓者でもある。なんでもかんでも"ポスト"と付けるのは我ながら芸がないと思うが、便利だ。ポスト・ロックならびにポスト・バップの起源はもちろんトータスである。

 ステレオラブのマネージャーのレーベルからリリースされたトータスの1995年の12インチ「ゲメラ」は当時、多くの場面において〈ワープ〉系のテクノのネクストとして聴かれているが、あのシングルに感謝しているのは、おかげでジェフ・パーカーの『ザ・リテラティヴス』にたどり着けたということだ。"ゲメラ"の冒頭のギターの煌めきはそれこそ『TNT』でもなじみ深いけれど、ポスト・ロックはそれをロックと呼ぶには無理があるほどジャズに寄っている。このムーヴメントにはジェフ・パーカーやチャド・テイラーのようなインプロヴェイザーをフックアップしてきた一面もあって、ロバート・マズレクは、アイソトープ217名義での諸作もさることながら、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ(ないしはシカゴ・アンダーグラウンド・アンサンブルほか)においても彼のジャズを展開している。それらはしかし、彼が敬愛するオーネット・コールマンやドン・チェリーの作品とくらべるまでもなく、90年代のIDMとの親和性の高さにおいてモダンで、そして洗練されている。アヴァンギャルドというにはこざっぱりしていたし、陶酔的だが潔癖性的で、ポスト・バップというサブジャンル名もあながち的はずれに思えない。

 『トレ・カベカス・ロークラス』はマズレクが活動の拠点をシカゴからサンパウロへ移してからブラジル人、マウリシオ・タカラと結成したグループで、本作は彼らにとって3枚目のアルバムとなる。
 このグループへの興味とは、ラテン・ジャズにおけるポスト・ロック的な展開とはどんなものなのかという点に尽きるわけだが、本作はそれこそ『TNT』のラテン・ヴァージョンとでも呼べそうな、緻密さと大胆さのバランスの取れた力作となっている。彼のフリー・ジャズ志向はこれまで以上に抑制されている。奇数拍子におけるミニマリズムも効果的だ。1曲目の"Jagoda's Dream"はポスト・ロックとトロピカリズモの鮮やかな調和で、ドリーミーなアナログ電子音、雄大なトランペット、そして突然降り注ぐ陽の光のようなサンバのあたたかさ......舌を巻く演奏が聴ける。たっぷりと情熱が込められたリズミカルな"Pigeon"、ジョアン・ドナートが宇宙でフリークアウトしたような"Carambola"、アイソトープ217の最初のアルバムにおけるなかば催眠的で上質な静けさを彷彿させる"Colibri"......それから心地よいそよ風のなか平和的なトランペットの調べが流れるような"Just Lovin'"、反復するマリンバやヴィブラフォンには微笑みが注がれている。
 このアルバムにおけるサンパウロ・アンダーグラウンドは、活気溢れる変拍子の"Six Six Eight"のように、ラテン、ジャズ、ポスト・ロック/ポスト・バップという領域の境界線など気にも止めず、魅力的なメロディとリズムを創出し、自由に飛び回っている。日の照りつけるサンパウロで彼らは自分たちの音楽をぞくぞくするようなものへと押し広げた。拍手しよう。(ちなみこれ、昨年の作品です)

いつもの駅前 いつもの通りいつものビルの隙間に特別な星
うんざりするほど変わらない景色も
本当に何時までも同じわけじゃない
煌めきは一瞬 だから美しい
しっかりと目に焼き付けろ すぐに
JUST ONE DAY いつか思い出すかな
こんな日々を 意味を 夏の抜け殻 やけのはら"I Remember Summer Days"(2010)

 あなたにとって、音楽が鳴る「現場」とは、どこだろうか。行きつけのライブ・ハウス? お目当てのあの娘が通っているクラブ? 愛聴するDJが選曲するFM? 年に一回のフェスティヴァル? それとも、フリー音源がくそみそに散乱するウェブ? 都会の喧騒をシャットアウトするために装着したi-Podの白いイヤホーン? あるいは、地方生活の退屈を埋めるためのスピーカー? 磯部涼は......そのどれをも否定しない。「音楽の"現場"について、ずっと考えてきた」、そう語り始める現在33歳の著者は、ライフ・スタイルの変化などによって「ゲンバ」から離れてしまった人たちの選んだ「現場」の一切を否定しない。「"現場"という概念は、ライブ・ハウスやクラブといった狭い枠を飛び越えて、ポップ・ミュージック・カルチャーそのものであると言うことも出来るはずだ」、それが2010年4月時点での著者の結論である。

 少しだけ、個人的な話をするのを許して欲しい。
 いまでこそ、ライターの端くれとして活動の場を与えてもらっている私だが、音楽との距離感において、長いあいだ、ある種のコンプレックスを抱えていた。私に向けられる批判はいつも均質で、顔のないウェブ上の人びとは口をそろえて言ったものだった。「お前の音楽にはゲンバが足りない、もっとゲンバを知れ、知れ、知れ、ゲンバを」......しかし私は、音楽の受容スタイルに卑賤があるとはどうしても思えなかったし、仮に音楽が、私たちのうんざりするような人生を少しでも豊かにするために存在するのだとしたら、人生に幸福を感じた瞬間に、いっそ音楽と縁を切ってもいいとさえ思っていた。それを誰が責められる? ある意味でどんなに軽薄な思いであれ、人が音楽を求めることを寛容な態度でもってほぼ全肯定する磯部涼は、そんなわけで、個人的にだが、いつからかもっとも信頼を置くライターとなっていった。

病んだ町ではないものねだりさ
昨日から 今日から 明日追われながら
時の長さよりも瞬間 幸せ宿るそんな気が
soulも音楽も自由気まま 形取らないコトに素晴らしさが
奇麗事ばかりほざく日常に 嘘ばかりの世の中の流れに
取り付かれた自分 取り付かれた町 乗りつかれたぜ
町の影と光
SEEDA"Just Another Day"(2007)

 とはいえ、著者は私の「現場」を否定こそしないだろうが、私のナイーヴな作品評に関しては評価してくれないだろう。そう、本書において、著者が各所で書き散らしてきた従来型のディスク・レヴューは、居心地が悪そうな顔で、各章の終わりに窮屈そうに並んでいるのみである。「音楽を聴くということは、言葉を失うということである」、「言葉が浮かんでくるようでは、まだまだ、音楽を聴いたとは言えない」、このあたりの痛烈な序文・序章を何度も読み返していたために、私はなかなかその先を読むことができなかった。議論好きの著者は、ときに好戦的な態度を隠さない。が、その後の380ページは、読者を道連れにした、ゼロ年代後期をスリリングに駆け抜ける親密で情熱的なレヴュー(評論)であり、エッセー(随筆)であり、ダイアリー(日記)であり、インタヴュー(面会)であり、ルポルタージュ(報告)であり、かつ、そのどれでもない。それは、従来の音楽評論が敷いてきた滑走路からは大きく踏み外れている。『音楽が終わって、人生が始まる』は、いわば著者の人生そのものである。

 著者は、ポップ・カルチャーの社会的ポテンシャルにまで食い込む大きな問題意識を根底に抱えながら、しかし、巨視的な物言いを振りかざすよりは、パンク・ロッカーや、ハスリング・ラッパーや、ストリート・シンガーと同じ(少なくとも、限りなく"近い")視点で、街を、夜を、人びとの暮らしを、意識的に見つめてきたのだと思う。そして、音楽を前にしてすっかり失ってしまった言葉を埋め合わせるために、著者はミュージシャンの自宅に遠慮なく乗り込み、熱心に話し合い、ときに議論をふっかっけ、いくつかの客観的な事実を鋭い洞察でもって持ち帰り、そこに対する忌憚のない感想、自らの問題意識との整合、あるいは齟齬とを丁寧にマッシュ・アップしながら、その先に見える風景を、並々ならぬ愛情でもって活写している(当然、それはときとして批判的な指摘を含むものだ)。それはまるで、450グラムの重みを持つ本書を手にした読者に対して、自らの生き様をさらけ出すとともに、それぞれがそれぞれに見つけた「現場」への愛情を試しているようだ。

 もちろん、物語の解体を好むポスト・モダニティ・ライフを不可避に生きざるを得なかった著者にとって、そうした小さな現場から物語を拾い上げていく地道な作業は、ある種の痛みを伴ったに違いない。例えばそう、ゼロ年代の終わりに、マイケル・ジャクソンの死を象徴的に回想してしまうくらいには。しかし、だからこそ、著者の批評的な回り道は、いまやこの場所にたくましく結実している。〈RAW LIFE〉で砂まみれになった夢や希望、アンダークラスから吐き出される痛みの作文、街を鳴らす路上のうた。著者が目撃した音楽の産声、そのどれもが生々しい。いうなれば、何十年も昔に終わっているポップ・カルチャーの共同体幻想、もっと言えば、その社会的なポテンシャルが冷却・解体されていくなかで、例えば著者と同世代である鈴木謙介(35歳、社会学者)がかつて述べたような、「なぜ私たちは夢から醒めることができないでいる、あるいは醒めようとしないでいるのか」(『カーニヴァル化する社会』、2005)と相似した疑問を、「体力の限界まで踊って、理由の分からない涙を流して」、著者はある側面において解明したのだと思う。

まっぴらだ
できればおまえを 忘れていたい けれど
あきらめたくない
傷とともに 生きてゆくしかない
しかないなんて
踊り明かす 夜通し めちゃくちゃに
坂本慎太郎"傷とともに踊る"(2011)

 そして......音楽は終わらず、夢を引き裂くように現れた3月の、寒気がするような後ろ姿を視界にとらえつつも、私たちの人生はどうやら相変わらず続いている。そう、すべては通り過ぎていく。が、著者は、3.11以降におけるミュージシャンらの反応をレジュメする終章において、その日常の慣性に対して警告を発している。私たちはいまだ、音楽を捨てられずにいるが、ちょっとした行き違いで、それは手のなかからするりと抜け落ちてしまうのだと。そう、『音楽が終わって、人生が始まる』は、終わらない音楽の話だ。終わらない夢を、それでも見続ける人間の話だ。その先に開く未来も、きっとある。とはいえ、「いつまでこんな暮らしを続けていくのだろうか」、私もときどきそう思う。が、立ち止まるにはまだ早い。いつかの身が焦げるような恋を、もうすっかり忘れてしまったように、私たちの、音楽を強く欲する衝動のような想いも、もしかしたら少しずつ失われていくのかもしれないが、それでも、いつか音楽から解き放たれた場所で、音楽に振り回され、悩まされ、それでもわけの分からない涙を流した、こんな日々を、愛と笑いの、その意味を、きっと思い出すだろう。

 No Music, but Life goes on....

Ela Orleans - ele-king

 〈ウッジスト〉や〈キャプチャード・トラックス〉はじめ、〈メキシカン・サマー〉や〈ノット・ノット・ファン〉にいたるレーベル群が2010年前後のインディ・ミュージック・シーンに提示したイメージは、「スロー・ライフ」や「スロー・フード」等の「スロー」の思想と親和性が高い。彼らが体現するローファイ、あるいは中音域を強調したプロダクションは、大量生産的でファストな音への批評もしくは違和の表明であるとも言えようし、アナログ・メディアにこだわったリリース形態や、地元志向で小ロットかつ小規模な「顔の見える」レーベル運営も、グローバルにひらかれることで損なわれてしまう利益や、画一化されてしまう音楽的キャラクターを、自力で保護せんとする取り組みであるようにもみえる。そうした意図を明言しているわけではもちろんないが、彼らが時代のムードとしてそのような趨勢を反映し象徴していると考えることにそう異論はないものと思う。「いつの頃からかつるつるとした音がいやでたまらなくなった」そしてさまざまなノイズの中に安らぎを見出すようになったというエラ・オーリンズもまた、彼女自身の方法でもって自給的な音の空間を設計するアーティストである。余談ではあるが、地産地消ならぬ自産自消的なベッドルーム・ポップが鋭く生き生きとしたリアリティを備え、それがはからずもグローバルな伝達経路にのって大きな支持と注目を集めたというのがチルウェイヴの顛末であったことを考えてみれば、なるほどチルウェイヴという俺得音楽にはスロー・ミュージックとしての役割を担い得る特性があったのだろう。先に挙げたレーベル群の志向性はもちろんのこと、エラの仕事がいまのタイミングで評価されることもまた、こうした動きともつれあうようにして生まれてきた状況である。

 エラ・オーリンズは冷戦期のポーランドに生まれ、社会主義体制下の東欧諸国が経験した貧困と悲惨を目のあたりにして育った。そうした境遇がどのくらい彼女の音楽に影響を与えたのか、わかりやすい形で確認できるわけではないが、東西に分かれるよほど前のヨーロッパの香りをとどめていることはたしかである。エラ自身が大きく影響を受けた自国のアーティストとしてはカロル・シマノフスキやクシシュトフ・ペンデレツキ、ヴォイチェフ・キラールなどが挙げられており、現代音楽や映画音楽への造詣をしのばせる。古い映画音楽からのサンプリングだろうか、いずれの曲にもはげしくディレイのかかったギターやヴァイオリンの即興(あるいはループ)に、手間ひまかけて録り編集したというサンプル音源が絡んで、いわくいいがたい、甘美なノスタルジーを生み出している。ノイズとノスタルジー。これがエラ・オーリンズのコアだ。懐古され恋われているのは、おそらくは「昨日の世界」(シュテファン・ツヴァイク)......第一次世界大戦前の、光りかがやき、栄光にみちた、失われしヨーロッパ文明ではないだろうか。
 その懐古の手つきは非常に理知的なもので、同じく知的な女性アーティストの中でもアマンダ・ブラウンやグルーパー、ラモナ・ゴンザレスらとはまた別種の、男性的とさえ言ってよい雰囲気がある。不鮮明な音像には情念が渦巻くかにみえて実際のところ冷たい計算を隠した構築性が感じられる。詞には飛翔や着地のイメージが多用されるが、これはほかならぬ彼方の栄光への飛翔と、現在という場所への着地とを暗示するのだろうと筆者の想像は広がる。それは(栄光の)終わりのつづきとしての現在への、苦い着地である。精神は過去の偉大な時間へと向かう、しかし、肉体はこの終わってしまった時間につながれている。そのことへの詮なき嘆息である。
 こうした想像・解釈には、少なくとも筆者にとって彼女の音や詞やたたずまいをリニアにつなぐような整合性がある。そして高い教養や精神性の宿ったエラの音楽へ、筆者なりに寄せたリスペクトでもある。まわるレコードはこの飛翔と着地の堂々めぐりを視覚的に描き出す。普段はアナログ・メディアを愛好しない筆者であるが、この作品ばかりはCDで聴くことが正解であるとどうしても思えない。七尾旅人とやけのはらの"ローリン・ローリン"においては、ターンテーブルの上で可視的に消費される「いま」という時間は、あくまで愛しいものとして、ロマンチックに、そして肯定的にとらえられていた。エラの音楽はその裏側を幽霊のように徘徊する。「わたしたちは夜になる/するとわたしはすばらしい/あなたはすばらしい/わたしたちはすばらしい/だが彼らはちがう」"ワンダフル・アス"
 そこは夜だ。そしてそこにいるかぎりわたしたちはすばらしい存在だ。だが「彼ら」とはだれか。パンダ・ベアを思わせる、浴場のような音響に溶かし込まれたオールディーズ風の終曲では、あかるく典雅なメロディにのせて何度も「ゼイ・アー・ノット」と歌われ、それがいつまでも耳に残る。

 最後にノートとして。エラはヴァイオリンやピアノを幼少から学んでいたが、どちらかといえば映画やファイン・アートへの憧れの方が強く、アート・スクールを出てグラスゴーに渡り、その後に音楽に出会い直したというような紆余曲折があるようだ。彼女のウェブ・サイトには「耳の映画」と銘打たれていて、彼女自身の来歴と音楽へのスタンスをはっきりと表明するものになっている。ソロになる前はハッスル・ハウンドというバンドで活動し、アルバムも制作されている。ソロとしては2009年のアルバム・リリース(本人はあまり評価していないようだが)の後、昨年のダーティ・ビーチズとのスプリットで静かな注目を集めた。だが聴くべきはやはり本作だろう。シーンのムードとしても本人のキャリアとしても、本当にいま充実の時期を迎えていると感じる。

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