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San Gabriel

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野田 努   May 28,2012 UP

 我々がダンス・アルバムに求めるものは、いろいろある。うきうきした気分、セクシャルな夜のサウンドトラック、あるいはフットワークのサディスティックな殺気、あるいはミニマルの催眠状態、あるいは運動、あるいは精神、あるいは......。僕はいまでもダンスのアルバムを好んでいる。ダンスのアルバムは、身体や心をほぐしてくれるだけではなく、ときにそれは文化的記号のパズルとなる。電流が流れるシールドは、さながら国境を越えた高速道路のように運ぶ、そう、ビートという暗号化された文化を。

 シカゴの〈スリル・ジョッキー〉から何枚も作品を出しているピット・アー・パットの中心メンバー、ブッチー・フエゴは、その活動と平行して、ボアダムスの『77ボア・ドラムス』への参加、なんと今年出たナイト・ジュウェルの『ワン・セカンド・オブ・ラヴ』、そしてもうしばらくしたらレヴューを掲載する予定のサン・アロウとコンゴスとのコラボレーション・アルバム『インヴォケーション』でも活躍している。それどころか、ジュリア・ホルターの『エクスタシス』でもミキシングを手がけている。シカゴの実験派からボアダムス、そしてトレンディーなLAのインディ・ダンスを横断している。こうしたキャリアを言うだけでも彼がくせ者であり、マルチな音楽家であり、並々ならぬ才人であることは想像がつく。そのブッチー・フエゴが、この度、DJアルツの主宰する〈アルツムジカ〉からサン・ガブリエル名義でアルバムをリリースした。

 『Volfe』を特徴づけるのは、とにかくビートの多様性である。ダンス・アルバムであれば多かれ少なかれビートに凝るのは当たり前だが、凝れば良いというものでもなく、結局はある種の反射神経にも似た才能とセンスがモノを言う。アフロ、そしてグライム、そしてダブステップ、そしてデジタル・クンビア、そしてレゲエ、そしてレイヴ......などなど、『Volfe』には今日のビートのコレクションが揃っているが、そのどれもがユニークなミキシングによって色気づいている。実際のところ、このCDを編集部でかけていると、いろいろな人が興味を示す。国境を越えた電子の高速道路の上をめまぐるしく変化するビットが創出するグルーヴは、多彩な文化の暗号としていろんな人の気を引くのである。テクノでもなければグライムでもない、クンビアでもないし、ダブでもない。そのすべてでもある。ヤマタカ・アイとアルツによるリミックスも収録されている。
 エキゾティズムというほど食卓向きでもないが、しかし、ちょっとしたパーティ向きではある。叫んでみたり、踊ってみたり、音のディテールにユーモアがある。電子のジャングルのなかをはしゃいでる感じがとても良い。

野田 努