ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. valknee - Ordinary | バルニー
  2. Columns Kamasi Washington 愛から広がる壮大なるジャズ絵巻 | ──カマシ・ワシントンの発言から紐解く、新作『Fearless Movement』の魅力
  3. Cornelius ──コーネリアスがアンビエント・アルバムをリリース、活動30周年記念ライヴも
  4. Columns ♯6:ファッション・リーダーとしてのパティ・スミスとマイルス・デイヴィス
  5. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ
  6. Li Yilei - NONAGE / 垂髫 | リー・イーレイ
  7. 酒井隆史(責任編集) - グレーバー+ウェングロウ『万物の黎明』を読む──人類史と文明の新たなヴィジョン
  8. interview with Lias Saoudi(Fat White Family) ロックンロールにもはや文化的な生命力はない。中流階級のガキが繰り広げる仮装大会だ。 | リアス・サウディ(ファット・ホワイト・ファミリー)、インタヴュー
  9. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  10. Columns 4月のジャズ Jazz in April 2024
  11. Tomeka Reid Quartet Japan Tour ──シカゴとNYの前衛ジャズ・シーンで活動してきたトミーカ・リードが、メアリー・ハルヴォーソンらと来日
  12. Jlin - Akoma | ジェイリン
  13. 『成功したオタク』 -
  14. Ryuichi Sakamoto | Opus -
  15. みんなのきもち ――アンビエントに特化したデイタイム・レイヴ〈Sommer Edition Vol.3〉が年始に開催
  16. ソルトバーン -
  17. interview with Joy Orbison ダンス・ミュージックは反エリート、万人のためにある  | ジョイ・オービソン、インタヴュー
  18. interview with Shabaka シャバカ・ハッチングス、フルートと尺八に活路を開く
  19. Overmono ——UKダンス・シーンの真打ち、オーヴァーモノがついにデビュー・アルバムをリリース
  20. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース

Home >  Reviews >  Album Reviews > Sao Paulo Underground- Tres Cabecas Loucuras

Sao Paulo Underground

Sao Paulo Underground

Tres Cabecas Loucuras

Cuneiform

Amazon iTunes

野田 努   Jan 26,2012 UP
E王

 90年代のUSアンダーグラウンドにおいて重要なムーヴメントといえば、ポスト・ロックだ。その流れはキャレクシコにも、そしてボン・イヴェールにも繋がっている。今回紹介するサンパウロ・アンダーグラウンドのロバート・マズレクは、ポスト・ロックの第一世代であると同時にポスト・バップなるサブジャンルの開拓者でもある。なんでもかんでも"ポスト"と付けるのは我ながら芸がないと思うが、便利だ。ポスト・ロックならびにポスト・バップの起源はもちろんトータスである。

 ステレオラブのマネージャーのレーベルからリリースされたトータスの1995年の12インチ「ゲメラ」は当時、多くの場面において〈ワープ〉系のテクノのネクストとして聴かれているが、あのシングルに感謝しているのは、おかげでジェフ・パーカーの『ザ・リテラティヴス』にたどり着けたということだ。"ゲメラ"の冒頭のギターの煌めきはそれこそ『TNT』でもなじみ深いけれど、ポスト・ロックはそれをロックと呼ぶには無理があるほどジャズに寄っている。このムーヴメントにはジェフ・パーカーやチャド・テイラーのようなインプロヴェイザーをフックアップしてきた一面もあって、ロバート・マズレクは、アイソトープ217名義での諸作もさることながら、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ(ないしはシカゴ・アンダーグラウンド・アンサンブルほか)においても彼のジャズを展開している。それらはしかし、彼が敬愛するオーネット・コールマンやドン・チェリーの作品とくらべるまでもなく、90年代のIDMとの親和性の高さにおいてモダンで、そして洗練されている。アヴァンギャルドというにはこざっぱりしていたし、陶酔的だが潔癖性的で、ポスト・バップというサブジャンル名もあながち的はずれに思えない。

 『トレ・カベカス・ロークラス』はマズレクが活動の拠点をシカゴからサンパウロへ移してからブラジル人、マウリシオ・タカラと結成したグループで、本作は彼らにとって3枚目のアルバムとなる。
 このグループへの興味とは、ラテン・ジャズにおけるポスト・ロック的な展開とはどんなものなのかという点に尽きるわけだが、本作はそれこそ『TNT』のラテン・ヴァージョンとでも呼べそうな、緻密さと大胆さのバランスの取れた力作となっている。彼のフリー・ジャズ志向はこれまで以上に抑制されている。奇数拍子におけるミニマリズムも効果的だ。1曲目の"Jagoda's Dream"はポスト・ロックとトロピカリズモの鮮やかな調和で、ドリーミーなアナログ電子音、雄大なトランペット、そして突然降り注ぐ陽の光のようなサンバのあたたかさ......舌を巻く演奏が聴ける。たっぷりと情熱が込められたリズミカルな"Pigeon"、ジョアン・ドナートが宇宙でフリークアウトしたような"Carambola"、アイソトープ217の最初のアルバムにおけるなかば催眠的で上質な静けさを彷彿させる"Colibri"......それから心地よいそよ風のなか平和的なトランペットの調べが流れるような"Just Lovin'"、反復するマリンバやヴィブラフォンには微笑みが注がれている。
 このアルバムにおけるサンパウロ・アンダーグラウンドは、活気溢れる変拍子の"Six Six Eight"のように、ラテン、ジャズ、ポスト・ロック/ポスト・バップという領域の境界線など気にも止めず、魅力的なメロディとリズムを創出し、自由に飛び回っている。日の照りつけるサンパウロで彼らは自分たちの音楽をぞくぞくするようなものへと押し広げた。拍手しよう。(ちなみこれ、昨年の作品です)

野田 努