ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 忌野清志郎さん
  2. Columns 高橋康浩著『忌野清志郎さん』発刊に寄せて
  3. Tanz Tanz Berlin #3:FESTIVAL WITH AN ATTITUDE ―― 'FUSION 2011'体験記
  4. R.I.P. Brian Wilson 追悼:ブライアン・ウィルソン
  5. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  6. Columns 対抗文化の本
  7. R.I.P.:Sly Stone 追悼:スライ・ストーン
  8. dazegxd ──ハイパーポップとクラブ・ミュージックを接続するNYのプロデューサーが来日
  9. Columns The TIMERS『35周年祝賀記念品』に寄せて
  10. These New Puritans - Crooked Wing | ジーズ・ニュー・ピューリタンズ
  11. Ches Smith - Clone Row | チェス・スミス
  12. world’s end girlfriend ──無料でダウンロード可能の新曲をリリース、ただしあるルールを守らないと……
  13. Columns The Beach Boys いまあらたにビーチ・ボーイズを聴くこと
  14. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  15. RC Succession / Kiyoshiro Imawano ——レア音源収録も嬉しい、RCサクセション / 忌野清志郎の「ロックン・ロール」ベスト盤のリリースが発表
  16. 忌野清志郎 - Memphis
  17. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり
  18. interview with Mark Pritchard トム・ヨークとの共作を完成させたマーク・プリチャードに話を聞く
  19. Swans - Birthing | スワンズ
  20. Sun Ra ——生涯をかけて作り上げた寓話を生きたジャズ・アーティスト、サン・ラー。その評伝『宇宙こそ帰る場所』刊行に寄せて

Home >  Reviews >  Album Reviews > Ital- Hive Mind

Ital

Ital

Hive Mind

Planet Mu

Amazon iTunes

野田 努   Feb 28,2012 UP
E王

 「この街にストリッパーはもういない~」と三上寛も歌っているように、高校生のときに初めて行った清水のストリップ劇場はもうとっくにない。16か17のときだったから、30年以上も前の話だが、ぼんやりとした淫靡な風景はいまでも思い出せる。あの時代のセックス・ワーカーには独特の温かさがあった......。

 セックス・ワーカー名義でロサンジェルスの〈ノット・ノット・ファン〉から2枚の冷たいアルバムを発表したダニエル・マーティン・マコーミックは、レーベル傘下のダンス専門〈100%シルク〉からはアイタル名義のシングルをリリースすると、それが瞬く間に評判となった。『ハイヴ・マインド』はロンドンの〈プラネット・ミュー〉からの、アイタル名義としてはファースト・アルバムとなる。
 〈ノット・ノット・ファン〉周辺のシーンについては、次号の紙エレキングで倉本諒が楽しいレポートを書いてくれているので、ぜひ読んでいただきたい。彼の原稿おかげでサン・アロウやポカホーンティドのドープさと〈ロー・エンド・セオリー〉の享楽性とを(それは別物だと隔てるのではなく)一本の連続性のなかで、ある意味同じ穴のムジナとして聴くことができるようになった。ちなみにロサンジェルスのアンダーグラウンドにおける怠惰な広がりは、この1年でさらにまたもうひとつの表情を見せている。天使の街にはいま......ノイズ、ドローン、ダークウェイヴ、そしてスクリューを通過したハウス・ミュージックがあるのだ。

 『ハイヴ・マインド』はレディ・ガガの"ボーン・ディス・ウェイ"の最初の言葉のサンプリング・ループからはじまる。「ダズン・マター、ダズン・マター、ダダダダダ、ダズン・マター......(たいしたことないわ、たいしたことないわ、たたたたた、たいしたことないわ......」、そしてハウスの太いベースラインが入って、今度はホイットニー・ヒューストンの声がブレンドされる。ガガの声は途切れることなく続く。「ダズン・マター、イフ・ユー・ラヴ・ヒム、ダダダダダ、ダズン・マター、イフ・ユー・ラヴ・ヒム......(たいしたことないわ、彼を愛しているなら、たたたたた、たいしたことないわ、彼を愛しているなら」、コズミックな電子音とパーカッション。これはコズミック・ディスコのパンク・ヴァージョンである。ダダダダ、ダズン・マター、ダダダダダ、ダズン・マター......。ダダダダダッダダ......ビービビー......、ガガの声は壊れた機械のなかで消える(その壊れ方は、まさにジューク/フットワーク)。
 "Floridian Void"のような曲は、いわばスーサイドの冷たいエレクトロニクスとシカゴ・ハウスとの美しい出会い、そう、ラリー・ハードがマーティン・レヴと一緒にスタジオに入ったような曲だ。美しく、そして狂ったトラック、素晴らしいハウス・ミュージックだ。"Israel"はスモーキーなダブ・ハウスだが、これとてひと筋縄にはいかない。ケニー・ディクソン・ジュニアとセオ・パリッシュの急進的なミキシングを拝借して(たとえばムーディーマンの"アイ・キャント・キック・ディス・フィーリン"の幻覚的なミキシングをさらに過剰に展開しつつ)、サン・アロウの前後不覚のダブともに似た危うい感覚がブレンドされている。クローザーの"First Wave"にはアルバムでは唯一初心者にも優しい4/4キックドラムが入っているが、空間ではスクリューが不気味な気配をもたらし、同時に彼方ではコズミックなアンビエントが展開されている。

 サイケデリックと呼ぶにはクラブのスタイルを借りているが、『ハイヴ・マインド』はダブステップでもミニマルでもエレクトロでもない。ロサンジェルスのインディ・シーンにおいて更新されたハウス・ミュージックである。

野田 努