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interview with Panda Bear

interview with Panda Bear

こんにちは、死神。

──パンダ・ベア、インタヴュー

橋元優歩    電話取材:原口美穂   Jan 09,2015 UP

 2000年代のUSインディを代表するバンド、いやむしろ2000年代をUSの時代にしてきたアーティストたちを象徴する存在ともいえるアニマル・コレクティヴ。その双輪として彼らの音楽を駆動してきたのは、現在はそれぞれソロとしても活動しているエイヴィ・テアとパンダ・ベアという対照的な才能である。  といった説明はもうとくに不要かもしれない。いまではパンダ・ベアの新作、というだけでじゅうぶんに盤を手にする理由になる。そうなるだけの作品を彼は残した。『パーソン・ピッチ』(2007年)──かの逸盤はさきの10年のシーンに広がるサイケデリックの大きな水脈の上流にあって、それいちまいでチルウェイヴの胎盤にもなったのだ。

 その彼ことノア・レノックスの5枚めとなるソロ・アルバムはその名も『パンダ・ベア、死神に会う(パンダ・ベア・ミーツ・ザ・グリム・リーパー)』。「死神」にはリテラルな「死」ではなく、「その存在がなくなってしまう前に新しい何かに変化する」イメージが重ねられていると彼は話してくれた。かたちを変えて続いていく命というモチーフは、そもそもアニマル・コレクティヴと名乗る彼らの中に共通する感覚なのかもしれないが、とくにレノックスには色濃いように思う。

 もしあなたにとっての「アニマル・コレクティヴ」が、たとえば『フィールズ』の“グラス”や“パープル・ボトル”のエクスペリメンタリズムだったとしたら、あなたが聴いているのはおそらくエイヴィ・テアだろう。『センティピード・ヘルツ』(2012年)なども筆者からすればエイヴィ色の強いアルバムという印象だ。対して『キャンプファイア・ソングス』(2003年)や『サング・トングス』(2004年)などはパンダ・ベアの息づかいを強く感じる。というか、実際に息が……ノア・レノックスの声がたっぷりと注ぎ込まれたアルバムになっている。
 テアが吹き込むのが瞬間的な生命感の横溢だとすれば、レノックスが吹き込むのはまさに彼のロングトーンそのものともいえる、連続的な息=生き。いま子どもを育てる時間の中で、生活がふたつあるように感じるという彼は、今作において、そのいくつもの命の重なりをヴォーカルの層となして水平に広げていく。彼のいう死=変化はあくまでそのなかでゆっくりと生起していくのだと感じる。大鎌を手にするおどろおどろしいはずの死神は、いまはまるでそれを櫂のようにあやつり、なめらかに時を運んでゆく水先案内人のよう。“トロピック・オブ・キャンサー”などに感じるのは、そうした水平方向への流れをもったサイケデリアだ。かつてはループのなかに夢と無限を見出していた、ミニマルな彼の音楽性は、もしかするとここでひとつの方向をめざしてリニアに延びていくという無限を得たのかもしれない。年齢をかさねてパンダ・ベアが出会ったのは、むしろ生きることをみちびく死神……「思ってねーよ」って言われるとしても、そこはそう、空想したい。

■Panda Bear / パンダ・ベア
米NYを拠点に活動するバンド、アニマル・コレクティヴの中心的メンバーのひとり、パンダ・ベアことノア・レノックス。アニマル・コレクティヴとして現在までに9枚のスタジオ・アルバムを、パンダ・ベアとしては4枚のソロ・アルバムを発表。ソロの3作めとなる『パーソン・ピッチ』(2007年)は米音楽批評サイト「Pitchfork」の年間チャートにおいて第1位を獲得するなど、個人のキャリアにおいても高い評価を得ている。

僕にとって、プロデューサーという面でいちばん強く影響されているのは確実にダブ・ミュージックだからね。


Panda Bear
Panda Bear Meets The Grim Reaper

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今作は『キング・タビー・ミーツ・ロッカーズ・アップタウン』や『オーガスタス・パブロ・ミーツ・リー・ペリー・アンド・ザ・ウェイラーズ』からインスピレーションを得たアルバムだとのことですね。ダブに接続する要素は『パーソン・ピッチ(Person Pitch)』の頃から強かったと思いますけれども。

ノア・レノックス:『パーソン・ピッチ』にかぎらず、ダブとの接続は毎回あると思うよ。僕にとって、プロデューサーという面でいちばん強く影響されているのは確実にダブ・ミュージックだからね。ああいうタイプのサウンドを聴いて以来、自分が唯一プロデュースしたと思えるサウンドが、ダブのようなサウンドだったんだ。

意識的にダブに接近するのは今回がはじめてではないと。

レノックス:はじめてではないね。でも、今回が他の作品よりも影響が濃く出ているっていうのはあるかもしれない。前からやってはいたけど、もっとわかりにくかったんじゃないかな。リヴァーブやディレイは普段から使っているし、そういった部分は自分にとってジャマイカのプロデューサーとのリンクなんだ。

そうしたプロデューサーたちの作品とはどのように出会って、どのようなところに惹かれたのでしょう?

レノックス:はじめて出会ってから馴染むまでには、じつは時間がかかっていて。18歳のとき、当時いっしょに住んでたルームメイトがダブの大ファンで、彼が聴いてたのを耳にしていたときは、僕はあまり理解できなかったんだ。で、彼があるときキング・タビーの『ルーツ・オブ・ダブ』っていうレコードをくれて、それをヘッドフォンで聴きながら歩くようになってからすぐにファンになった。ダブの深いベース音やザラついたハイハットとスネアのコンボ、リズムやサウンドが大好きになって、すごく特徴のあるサウンドだなと気づいたんだ。ちょっと湿ったような、雨っぽいフィーリングがあるところが魅力的だったんだよ。

今作はリズムが強調されたアルバムでもあると思います。わたしは“シャドウ・オブ・ザ・コロッサス(Shadow of the Colossus)”や“ロンリー・ワンダラー(Lonely Wanderer)”など、過去作もふくめあなたの3拍子や8分の6拍子の曲が大好きなのですが、こうした曲はメロディからできるのでしょうか?

レノックス:今回のアルバムに収録された曲に関しては、最初にできたのはリズム。あとはインストやアレンジを経て、いちばん最後にメロディができるっていうプロセスだった。
 僕がよくやったのは、最初にドラム、そしてシンセのようなインストのサウンドを作ったりサンプルを作って、そこからそれをレゴのブロックのように組み立てていくっていうやり方。その組み合わせ方に変化を加えていくんだよ。基本的には、音を何度も聴いて、そこに小さな捻りや変化を加えていった。で、そうしていくうち、何ヶ月も後になってやっとメロディが頭に思い浮かびはじめるんだ。望遠鏡で何か遠いものを見ていて、焦点が合わないとボヤけてはっきりと見えないでしょう? 最初はそんな感じ。でも、要素や色がわかってくるとはっきりはっきりとイメージが見えてくる。そうやってメロディができていくんだよ。ゆっくりとしたプロセスの中で、メロディやリズムや歌詞がナチュラルに浮かんできて、自然と形を成していく。僕は、あまり計画をたててメロディを作ることができないんだ。曲ができ上がるまで待たないといけないんだよね。

ゆっくりとしたプロセスの中で、メロディやリズムや歌詞がナチュラルに浮かんできて、自然と形を成していく。

テクノなどはあまり聴かれませんか?

レノックス:よく聴くよ。ダブと同じくらいインスピレーションを受けてる。ハウスのような、他のフォームのダンス・ミュージック、クラブ・ミュージックよりもテクノを聴いてる。ヒップホップもそうだね。そういった音楽にはつねに影響を受けてるんだ。

ダフト・パンクとのコラボレーション曲(“ドゥーイン・イット・ライト(Doin' it Right)”)は16ビートでしたが、リズムにおいて意識したことや、新しく気づいたことはありましたか?

レノックス:作っていくうちに、ブレイクを使うことにフォーカスを置こうという方向性がだんだん見えてきた。リズム的に、もっと揺れるような、力のこもりすぎていないものを作りたいっていうのもあったね。リズムに関して意識したのはそこ。あとは、僕は普段から、典型的ではないちょっと変わったリズムを作るのが好きなんだ。

今回の録音はさまざまに場所を変えて行ったそうですね。『パーソン・ピッチ』などには「ベッドルームの中で世界を体験する」というような感覚があるのですが、今作は「いろいろな場所でただひとつのノア・レノックスを体験する」というアルバムのように感じました。複数の場所で録音したのはなぜでしょうか?

レノックス:レコーディングではなくて、いろいろな場所で曲を作ったんだよ。ほとんどは家で作って、その他はツアー中。何度か家を引っ越したりもしたから、それで点々とした感じになる。引越しのたびにスタジオをセットアップしてね。あるときはビーチの近くに住んでいて、そこのガレージにスタジオを作って作業していたし、街に住んでいたときは、そのアパートの地下室にスタジオを作って作業をした。あとは、ツアー中のホテルだね。たくさん移動していたからそうなったんだ。
 最終的なレコーディングはちゃんとした場所でやりたかったから、自分の場所ではなくて、ヴィンテージの機材や何百ドルもするギアがある場所を借りたよ。そういう環境はいままであまりなかったけど、ずっとやってみたいと思っていて、今回やっと着手したんだ。

普通のピアノには聴こえないからもしれないけど、あれが僕がアルバムのなかでいちばん気に入っている楽器の音色だね。(“クロスワーズ”)

前作にひきつづいて、プロデューサーにソニック・ブームを迎えていますが、彼と試した音作りやアイディアでとくに印象深いことはどんなことですか?

レノックス:ピートは、サウンドを普通では思いつかないような場所に持っていってくれるんだ。彼は普通とはちがう何かを感じとれる。人の耳をくすぐるというか、そういうサウンドを作ることができるのが彼。ピートにはいろいろな才能があるけど、その部分は僕なんかよりかなり優れていると思う。彼の才能の中でも、目立ったクオリティだね。

今回もサンプラーを中心とした曲作りでしょうか。生音の素材がもちいられることが減ったようにも思いますが、いまの録音スタイルについて教えてください。

レノックス:サンプラーを中心としたっていうのは、もちろんこのレコードと『パーソン・ピッチ』をつなぐ要素ではある。でも、『パーソン・ピッチ』のほうがもっとそれに徹していたね。マイクを使ったのはヴォーカルを録るときだけで、あとはすべてハードウェアやコンピュータの中で作業したから、ライヴ・サウンドは本当にわずかだったんだ。『トムボーイ(Tomboy)』はその逆で、ライヴ・パフォーマンスが多かった。全部にマイクを使ったわけじゃないけど、より多くギターの生演奏が使われているからね。
 今回のレコードに関しては、マイクが少ないという点では『パーソン・ピッチ』に帰還している。でも、今回はパーカッションは自分でやったりしてるから、そこはちがうんだ。

一方で、くるみ割り人形のサンプリングなど、ブラスやハープ、ピアノなども中盤では印象的に登場します。楽器の音色としてもっとも好きなものは何ですか?

レノックス:“クロスワーズ(Crosswords)”っていう曲があるんだけど、あれを作っていたときはスタジオにグランドピアノがあって、あのピアノ・パートが“クロスワーズ”の曲の印象を変えたんだ。それまではなかった「個性」を曲に吹き込んでくれた。普通のピアノには聴こえないからもしれないけど、あれが僕がアルバムのなかでいちばん気に入っている楽器の音色だね。

質問作成:橋元優歩(2015年1月09日)

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