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interview with Hiroshi Watanabe

interview with Hiroshi Watanabe

音楽のエネルギー

──ヒロシ・ワタナベ、インタヴュー

取材:野田努    Apr 14,2016 UP

カール・クレイグやケニー・ラーキンのような不動で唯一無比なデトロイト作品はすでにあるわけだし、DJでもかけてきました。でも過去に曲を作る上でデトロイトを意識したことは一度もなかったんですよね……。


Hiroshi Watanabe
MULTIVERSE

Transmat/UMAA Inc.

TechnoHouse

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■ニューヨーク時代にハウスを追求し、カイトではアンビエント的な要素もいれつつ、より多様なエレクトロニック・ミュージックをやっていたと思うんですけど、それとは別のコンセプトが必要になってきたときに、何をどうやって考えたんですか?

HW:〈トランスマット〉で選ばれてきた音楽もしっかり一通り聴き返したんです。純粋に改めて「デトロイト・サウンドって何だろう?」という観点から作っても、ヒップホップやガラージ・ハウスを真似するのと結局同じことになってしまう。そんなことでは絶対にダメだし、そんな方向をデリックが求めていないことはハナっからわかってたんです。とはいえ、カイトのまんまやることはぼく自身が納得できなかった。それは〈コンパクト〉や他のレーベルでやればいい。やっぱり〈トランスマット〉から出すのであれば、その歴史の名に恥じないものを作らなきゃいけない。ぼくが好きなカール・クレイグやケニー・ラーキンのような不動で唯一無比なデトロイト作品はすでにあるわけだし、DJでもかけてきました。でも過去に曲を作る上でデトロイトを意識したことは一度もなかったんですよね……。
 例えばグレッグ・ゴウ(Greg Gow)やステファン・ブラウン(Stephen Brown) とか、マイクロワールド(Micro World)、特にジョン・ベルトランなんかはめちゃめちゃメロディアスで、ディープで綺麗で繊細だし。デリックのすごくホットなDJプレイのシーンだけじゃなくて、彼自身の音楽の好みや〈トランスマット〉が歩んできたルートを紐解いていけば、そもそもなんでカイトにシンパシーを感じてもらえ、DJでも使ってくれている理由とかもより明確にわかってきたんですね。

■自分の武器が何なのかがわかってきたということ?

HW:そういうことです。ぼくが何かに合わせるということよりも、自分が本来持っているものの何をデリックは見ていたのかを、自分でもう一度探し求めたといいますか。

■今回のアルバムは、いままでのヒロシ・ワタナベ作品のなかではもっとも感情に訴える音楽ですよね。それが大局的な意味で言うところのデトロイティッシュなものですよね。ブレインでもボディでもなく、エモーションに行くっていうね。

HW:タイトルや曲の情景が出来上がるにつれて、自分が導かれていく場所はタイトルが示しているものだってわかっていきました。生きている意味だったりとか、自分が生かされている場所だったり、そんなところまでさかのぼって音に気持ちを込めざるをえなかったんです。もちろんアルバムの2曲目を聴いてみると、自分がニューヨークで体験したことが現れていたりするんです。野田さんのライナーにも書いてくれていましたけど、逆に“Heliosphere”なんかはデリックが好きなカイトのテイストだと思うんです。アルバム全体には自分のいろんな部分が散りばめられているんですよね。

■そういう意味でいうと、ヒロシ・ワタナベがいままでやってきたことが集約されているんだけれども、やっぱりデリック・メイに火をつけられた部分というか……

HW:40半ばで心が少年になっちゃったんですよね。一度もレーベルから出したことのない時代にさかのぼって、気持ち的には本当にあの頃に戻っていたというか……。あの頃って、本当に血眼になって楽曲を作っていたというか……。

■デリックとヒロシくんの関係がはまったんだと思います。たとえば“The Leonids”という曲は、本当に素晴らしい曲ですね。

The Leonids (ele-king exclusive preview)
https://soundcloud.com/kaito/the-leonids-eleking-exclusive-preview/s-wpIVz

■デトロイティッシュであなりながら、ヒロシ・ワタナベらしい繊細さ、ソウルフルな展開……。

HW:人種を飛び越えたところでのソウル・ミュージックって何だろうって考えましたね。「特定の生まれもったルーツがないとソウル・ミュージックとは言えないのか?」と。言葉がないダンス・ミュージックってそういうところを越えていけるような、ものすごく特殊な音楽だと思うんです。本当の意味で魂や人種を飛び越えることが、どのように音が変換されていくのかを見てみたかったんですよ。

■それもデトロイト・テクノの重要なコンセプトでですね。例えば、ケンドリック・ラマーというヒップホップのひとがいて、ぼくはいま大好きなんですけど、彼はソウルやファンクもちゃんとわかっていて、ジャズやフライング・ロータスのような最新のエレクトロニック・ミュージックも取り入れている。なによりも弱き者たちへの力強いメッセージもある。しかし、そこで主に参照されるのは、やはり自分たちの内なる文化、アフリカン・アメリカンの文化なんですね。
 デトロイト・テクノのすごいところは、彼らは自分たちの内側だけを参照しないところなんです。ヒロシ君もよく知っての通り、自分たちの内なる文化を誇りとしながら、ヨーロッパであるとか、他の文化にどんどんアクセスする。90年代にぼくが初めてデトロイトへ行ったときに、友だちの車で最初に流れたのがエイフェックス・ツインだったんですね。ぼくにはものすごい先入観があったんですね。黒人はエイフェックス・ツインを聴かないだろうっていう。しかし、真実はそうではなかったんです。デトロイト・テクノは、アフリカン・アメリカンであるということだけでは完結できないんです、そして、それを彼らは“未来”と言ったんですよね。
 どこまでデリックが意識しているのかわからないけど、〈トランスマット〉は早くから、アラブ系とか、中国系とか、アメリカ人でも主要ヨーロッパの人たちでもない人たちの曲を出していますよね。しかも彼は、日本のことが大好きだから、もっと早くに日本人の作品を出したかったかもしれない。だから、ヒロシ・ワタナベの作品を出せたことは、彼自身も嬉しかったんじゃないのかな。あるいは彼は気まぐれな男だし、商業ベースでレーベルを運営していくタイプでもないんで、出会いのタイミングもあったとは思うけどね。ちなみにこの「マルチヴァース(Multiverse)」というタイトルですけど、これは人種を超えた何かを表しているんですか?

HW:そうです。次元を飛び越えたところで、自分たちが存在する意義とは何かと。音や自分が生きてきた証のなかで、しっかりと正々堂々と繋がってこれた関係性でもあるわけじゃないですか。そういうなかで、もっと飛び越えた次元で自分が生きていることが最終的にどんな証になるのか、この機会に自分の気持ちを盛り込まなきゃと思ったんです。

■どこで意識されたのかわからないですけど、世界情勢をみると、それはタイムリーなメッセージですね。アメリカもヨーロッパもすごく難しい時期にきていますね。もちろん日本も。

HW:本当はもっと飛び越えていかなきゃいけないんですよね。みんな本当のところはわかっているんだから。

■DJカルチャーの重要さもそこにありますよね。さっきのギリシャの話もそうだけど、ぼくたちは日本に住んでいるけど、ムーディーマンのDJを通じてデトロイトのインナー・シティのソウル・ミュージックを聴くこともできる。南ヨーロッパの辺鄙な街で生まれたハウス・ミュージックを聴くことができる。大げさに言えば、普段は出会うことがない文化にDJを通して触れることができる。DJはある意味では文化の運び屋なんだけど、同時に文化をミックスすることもできるんですよね。

HW:音楽というところで繋がっているひとたちは、DJに限らずいろんな国や人種にふれたときに、問答無用にひとつになれることを体感しているわけじゃないですか。それこそ僕たちが地球全体で抱えている問題って実はすごくシンプルで、人種なんか関係ないはずです。ところが、国が大変になってくると、政治や宗教が原因でいろいろな事件が起きる……そういう意味では、ぼくがいま感じられることは注ぎました。野田さんの素敵なライナーもありがとうごいました! ぼく自身のメッセージもあえて添えましたし、きっとトータルで音や言葉からそれらを感じてもらえると思います。

取材:野田努(2016年4月14日)

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