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interview with Bicep

interview with Bicep

UKダンス・ミュージックの新たな大器、ここに登場

──バイセップ、インタヴュー

質問・文:Midori Aoyama+編集部    通訳:中村明子 photo: Dan Medhurst   Jan 22,2021 UP

Bicep
Isles

Ninja Tune / ビート

HouseTechno

Amazon Tower HMV iTunes

 前作から約3年半程のインターバルをおいて「上腕二頭筋の2人組」が2枚目のフル・アルバムを発表した。またも〈Ninja Tune〉からのリリースである。〈Ninja Tune〉とバイセップの相性はとても良さそうで、特定のジャンルに囚われないスタイルや、どこかギークっぽい部分も見せながら洗練されたサウンドやデザインが光る部分など共通項はとても多い。彼らの代名詞とも言えるブログ「FeelMyBicep」もペースが早まることもなければ遅くなることもなく、黒い無機質なバックグラウンドのブログページに毎月淡々と自分たちが気に入ったアーティストのミックスや音源を紹介していくスタイルは2008年にスタートさせた当初から何も変わっていない。イギリス国内で1万人規模の公演チケットを即完売させるまでの人気に上り詰めても地に足をつけた活動があるからこそ、彼らのアイデンティティーはブレることなくより先へ先へと進化していくのだろう。
 そんな彼らが2枚目のアルバムにつけたタイトルは『Isles』。出身地である島国の北アイルランドはベルファストから飛び出して、世界を飛び回り続けた2人が自身のキャリアやアイデンティティーを振り返って作ったとされる今作にはどんなメッセージが込められているのだろうか? アルバムの制作秘話だけでなく、近年の活動やコロナ禍で変化したライフスタイルやマインドなどに迫ってみた。(Midori Aoyama)

必ずしもクラブで盛り上がるものに縛られる必要はないという考え方だったんだよ。曲には長生きしてもらいたいから、まずは曲としてのしっかりとした土台を作って、それを発展させていこうと。(アンディ)

前アルバムから約3年での新しいリリースです。アルバムのプロモーションやリリース・ツアーなど多忙ななか、どのようなキッカケやモチベーションで今作に挑んだのでしょうか?

マット・マクブライアー(以下マット):2019年の1月にツアーが終わって2週間休んで、そのあとすぐにスタジオに入ったんだ。そのあと4ヶ月くらいはツアーの予定がなかったから、毎日スタジオに通って、特に曲を書こうということもなく、4ヶ月ひたすら楽しんでジャムっていろいろアイデアを試したり、毎日違うことをやって、デモの分量もすごいことになって。ただし20秒くらいの短いアイデア程度のものばかりだったけどね。

具体的にアルバムの制作にかかった期間はどれくらいですか?

マット:そんな感じで4ヶ月くらいいろいろ試して、2019年の夏あたりにアルバム制作に向けてアイデアがまとまりはじめて、とはいえそのあとも結局8、9ヶ月ほどかけて、完成したのは2020年の2月くらい。だから1年と1、2ヶ月だね。

いままでのプロダクションで見せたいわゆるストレートなハウスやディスコというよりも、UKガラージやブロークンビーツ、レイヴ・サウンドがさらに色濃く表現されているように感じました。アルバム全体のサウンドやコンセプトで特に気をつけた部分はありますか?

アンディ・ファーガソン(以下アンディ):たしかに制作過程の早いうちに、あまり四つ打ちやハウスは入れないようにするっていうのを決めたんだ。というのもそういうのをやりたければライヴでいつでもできるから。だからアルバムにはもっといろんなビート・パターンやサウンド・デザインに時間をかけて作って、必ずしもクラブで盛り上がるものに縛られる必要はないという考え方だったんだよ。それでかなり自分たちを解放できた部分はあったと思うし、自由にやれたと思う。アルバムのコンセプトとしては、アルバムとして家で聴くヴァージョンがありつつ、ライヴで曲を発展させていこうっていう。というのも前作も2年ツアーしてるうちに最終的にはかなり違うものになってて、それがすごく面白かったからさ。曲には長生きしてもらいたいから、まずは自由に曲としてのしっかりとした土台を作って、それを発展させていこうということだね。

冒頭の “Atlas” ではイスラエルの歌手オフラ・ハザがサンプリングされています。この曲で彼女を使おうと思ったのはなぜでしょう?

マット:彼女はイタロ・ディスコのレコードを作ったことがあって、それを聴いたのがきっかけ。ちなみに bicepmusic.com って僕らのサイトに特設サイトを作って、今回使ったサンプルをどこで見つけたかとか全部書いてあるよ。かなり詳しく書いてあって便利だからぜひチェックしてみて。

(訳注:以下ウェブサイトより抜粋→彼女のアルバム『Shaday』に収録された “Love Song” というアカペラ曲を聴いて、カタルシスを生むそのエネルギーに圧倒され、その声をサンプラーに取り込み、それが “Atlas” の出発点となった)

いろんな音楽をディグるのは本当に面白い。でもそこに自分たちの印を刻みたいとも思ってるんだ。あまりその影響を濃くしすぎないようにはしてる。ひとつのルーツだけではなくいろんなものがせめぎ合ってる感じを出そうと。(アンディ)

シングル曲 “Apricots” には Gebede-Gebede “Ulendo Wasabwera Video 1” と The Bulgarian state radio & television choir “Svatba (The Wedding)” がサンプリングで用いられていますね。両者の声がうまい具合に同居して独特のグルーヴを生んでいますが、かたやアフリカの音楽、かたやベルギーの合唱です。対照的な素材ですが、これらの民族音楽をこの曲で同時に使おうと思ったのはなぜでしょう? また、それらの音源にはどのように出会ったのですか?

マット:“Apricots” は元々インストゥルメンタル曲で、ストリングスとコードだけだったんだ。多くの場合僕らはピアノで曲を作りはじめて、実際の音楽を先に考えて、あとからそれを速くしたり遅くしたりといった提示方法を考えるんだよ。というわけでコード進行がまずあって、そこからいろいろアイデアを試したんだけど、どれもうまくいかなくて、たしかブルガリアのサンプルが先だったと思うけど……まあここ10年くらい、ダンス・ミュージックを作るようになってからというもの、スポンジみたいにいろんなものを吸収してきて、レコード・ショップに行くたびに、クラブでかけたいレコードだけじゃなくてサンプルに使えそうとか、つねに獲物を追いかけてる感じなんだよ。しかもロンドンに住んでるから世界中のあらゆるカルチャーに触れることができるし、あらゆる音楽を聴くことができる。店で耳にした曲が気になったら Shazam して、つねに探しててさ。というわけで僕らのパソコンに入ってるライブラリーは膨大なものになってて、曲を作ってて煮詰まったりするとライブラリーをチェックして、これはいいかもと思ったらサンプラーに取り込んでピッチをいじって。ただ問題は、それをやっても95%は失敗すること(笑)。“Apricots” はおそらくサンプルを組み合わせてうまくいった最良の例じゃないかな。ふたつ掛け合わせてうまくいくことなんてほとんどないからさ。世界の全然違う場所の、全然違うヴォーカル・スタイルがうまい具合に対照をなしているんだよ。

似たような合体の試みをしていたアーティストに、アフロ・ケルト・サウンドシステムがいます。彼らの音楽は聴いたことがありますか?

アンディ:知らなかったけど、ケルトとアフリカ音楽ってそれ最高だな! 聴いてみる!

“Atlas” のサンプルも “Apricots” のサンプルも、いわゆる西洋のポップ・ミュージックではないものです。“Rever” や “Sundial” などのヴォーカルもエキゾチックさを感じさせます。そこは意識的にそういう素材選びをしたのでしょうか? たまたまですか?

アンディ:さっきマットも言ってたけど、ロンドンに住んでるからあらゆる音楽を吸収するんだよね。そうやっていろいろ聴いたものが自分が作る音楽にも反映されるんだと思うし、ただあくまで自分たち独自のハイブリッドにしたいというのはある。ふたりともノースイースト・ロンドンに住んでて、文化的にとんでもなく多様な街だし、通り過ぎる車からも通りがかった店からも世界中の音楽が聴こえてきて、フェスティヴァルがあってカーニヴァルがあって、そういう環境でいろんなカルチャーのいろんな音楽をディグるのは本当に面白い。でもそこに自分たちの印を刻みたいとも思ってるんだ。あまりその影響を濃くしすぎないようにはしてるんだ。それは自分たちの曲を作ってるときもそうで、あまりにトランスっぽすぎるなとかディスコっぽすぎると感じたら、ちょっと違う方向に持ってったりして、ひとつのルーツだけではなくいろんなものがせめぎ合ってる感じを出そうとしてる。たとえばヴォーカルがインドだったら他の要素はインド感ゼロにして対比させるとかね。他の文化の音楽を複製しようとしてるわけじゃないからさ。

UKガラージ風の “Saku” には Clara La San が参加しています。彼女は〈Hyperdub〉の DVA の作品やイヴ・トゥモア作品への参加で知られるシンガーですが、この曲で彼女を起用しようと思ったのはなぜ?

アンディ:たしか Spotify で彼女を見つけたんだよ。自分たちが探してた声の特徴がいくつかあって、それで彼女の声を聴いたときに、何と言うか、間違いなく僕とマットが「これぞ90年代のR&Bだ!」って共感できるようなものだった。それで連絡取りたいとなって。僕らのように音楽を作ってて歌えないとなると(笑)、つねに頭のなかで歌を想像してるんだけど、彼女の声は瞬間的に僕の頭のなかの空白を埋めてくれたんだよ。

マット:それにコントラストが大事だから、彼女の声って僕らの音楽とすぐに結びつくようなものではなくて、それが面白いと思ったんだよね。昔のR&Bというか、甘くていい感じで、“Saku” のあの岩のごとく堅牢なドラムと彼女の声が、まさに僕らが求めるコントラストだったんだ。

質問・文:Midori Aoyama+編集部(2021年1月22日)

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Profile

MIDORI AOYAMAMIDORI AOYAMA
東京生まれのDJ、プロデューサー。12年に自身がフロントマンを務めるパーティー「Eureka!」が始動。Detroit Swindle、Atjazz、Lay-Far、Mad Mats、Ge-Ology、Session Victimなど気鋭のアーティストの来日を手がけ東京のハウス・ミュージック・シーンにおいて確かな評価を得る。Fuji RockやElectric Daisy Carnival (EDC)などの大型フェスティヴァルでの出演経験もあり、活躍は日本だけに留まらず、ロンドン、ストックホルム、ソウルそしてパリなどの都市やアムステルダムのClaire、スペインはマジョルカのGarito Cafeなどのハウスシーンの名門クラブ、香港で開催されるShi Fu Miz Festivalでもプレイ。15年には〈Eureka!〉もレーベルとしてスタート。現在は新しいインターネット・ラジオ局TSUBAKI FMをローンチし、彼の携わる全ての音楽活動にさらなる発信と深みをもたらしている。
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