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Columns

イヴ・トゥモアにおけるグラムを読み解きながら明日を想う

イヴ・トゥモアにおけるグラムを読み解きながら明日を想う

木津毅×野田努 Apr 13,2020 UP

いまは深い意味をもって聞こえてしまう“新世紀のゴスペル”、しかし、イヴ・トゥモアの新作には、危険な時代を生きていくうえでの重要項目も表現されているのではないだろうか。脱線しながら、久しぶりの音楽談義をしてみました。

木津:イヴ・トゥモアの〈Warp〉2作めの最新作『Heaven To A Tortured Mind』、ぼくはかなり驚きました。前作『Safe In The Hands Of Love』ですでに大きく舵を切っていたとはいえ、ここまでポップに振りきれるのか、と。 サウンド的にエレクトロ、IDMもあるもののかなり後退して、ロック・アルバムと言っていいも内容です。 コンボ・スタイルのトラックも多いし。前回の対談で野田さんがすでに指摘されていましたが、グラム全開ですよね。

野田:しかしそれはちょっと前までの、人類がCOVID-19の危険に晒される前の時代のモードでもある。カニエ・ウェストとレディ・ガガとイヴ・トゥモアにも共通する感覚、グラムだったね、グラム、だからあのときあれほどグラムだって言っただろうが!

木津:はい(笑)。しかしだとしたら、なぜグラムを時代が要請したのでしょう? グラムということはパンク以前の、70年代前半のけばけばしい装飾性であるとか、いかがわしさ とか、ナルシシズムとか、ジェンダー規範を外れていく感じとか……そういったものが参照されるムードがあったということですよね。

野田:カニエ・ウェストとレディ・ガガ、あるいはグライムスなんかにも共通するのはナルシズムだけど、まあ90年代は自然志向や匿名性の時代だったし、自意識やナルシズムの類は悪しきモノと解されていたから、そうした前時代への反動もあったんだろうね。ディーン・ブラントは鋭かった。「ナルシズム」というキーワードをちゃんと出していた。クイーンだってグラムなわけだけど、イヴはボウイやマーク・ボラン的なグラムの本質に迫っているんじゃないのかな。スタイルと言うよりはコンセプトとしてのグラム。たとえば、もともとIDMファンを唸らせていたイヴが〈PAN〉から出したセカンドでいきなり我が姿をさらしたところに象徴されたよね。以前までIDMといえばテクノのコアな志向を内包していて、つまり顔よりも音だった。しかし、イヴやアルカみたいな人たちは、オウテカが死んでもやらないことをやったよね。

木津:そこはやっぱり、2010年代のアンダーグラウンドのクィア・ラップ・シーンやドラァグ・ボールが果たしたことが大きいんだと思います。アルカもイヴもその辺りとすごく密接に関わっていますからね。異物であればあるほど輝ける場所。ナルシスティックでナンボという世界。それはある意味では戦略であり、同時に本人たちにとって切実なものでもある。イヴはミッキー・ブランコ周りから出てきたひとで、いまに至るまですごくファッショナブルな打ち出しをしていますね。ただそこに、ちゃんと説得力がある。

野田:たったいま現在(4月10日)はなかなかナルシズムなんて言ってられない状況だから、これはほんの1か月前までの感覚で言うけど、クィアであれ何であれ、自分を晒す、まあ素顔は晒さないけど装飾的に自分を晒すということは、SNSの匿名文化が一般化した時代のひとつの面白いアンサーとも言える。ちなみにイヴは昔チルウェイヴのバンドに関わっていたんでしょ? 

木津:そうですね。ティームズ名義で出した『Dxys Xff』という作品は2012年に橋元優歩さんが「チルウェイヴのその後」とレヴューしていますよ。チルウェイヴ期は00年代末から10年代頭なので、まあ時代的にも合致してますよね。イヴ・トゥモア名義としては〈PAN〉からはIDM寄りの作品を出しているけど、セルフ・リリースの『Experiencing The Deposit Of Faith』はアンビエント。ほかにも名義がいろいろあって、ハウスっぽいことをしていたり、もっとエクスペリメンタル・ヒップホップっぽいものもあったり、〈Warp〉とサインする以前はとくに、とっ散らかっていてよくわからないところもあったんですけど。

野田:チルウェイヴというのは、のちに分析されているように、911ないしはリーマンショックという現実を前にした反応であり逃避主義の表れで、まさにこれがヴェイパーウェイヴにも繋がるわけで、テン年代の音楽における重要な水脈の起点、OPNもヴェイパーウェイヴもやっているけどチルウェイヴのEP出しているし、現在のインディのひとつの起点だよね。ラップがインディおたくと結びついたのもクラウド・ラップが大きかったでしょ。で、イヴがチルウェイヴにリンクしてたことはすごく重要で、それは今作の魅力にも大きく関係しているんだけど、夢見ること、ファンタジーの復権というかね。

木津:なるほど。チルウェイヴはインディ・ロックとIDMの距離を近づけたという意味合いも大きかったと思うんですけど、ヴェイパーウェイヴほどインターネットの匿名性に潜っていかない方向性を選んだ一派は、パフォーマンス性の問題にぶつかったと思うんですよ。たとえばトロ・イ・モワなんかはよりダンサブルな方向に行って、けっこうファンキーなバンドでライヴをやっていたりする。逆にウォッシュト・アウトはそれがあまりうまくいかなかったのかもしれない。とにかく、ベッドルームの夢――いまの野田さんの言葉で言うとファンタジーですよね――をどういう風に肉体性を持たせて再現するかという問題が、イヴの場合は70年代ロックを参照することで昇華されたのかな、と。

野田:グラム・ロックというのは、ロックンロールそのものをやるんじゃなくて、ロックンロールをやることとはどういうことなのかをやる、ソウルそのものをやるんじゃなくて、ソウルをやることとはどういうことなのかをやるという、メタな視点がある音楽だったんだよね。それがイヴにはあると思う。人気作の『Serpent Music』にしても。いまエレクトロニック・ミュージックをやることとはどういうことなのかという視点があるし、いま聴くと意外とチルウェイヴやインディっぽかったりもするんだよね。OPNと併走している感がありながら、OPNにグラムはないからさ。〈蛇の音楽〉という隠喩は、やっぱいろいろ想像を掻き立てるよね。たとえば、異形の者たちの音楽であるとか、ね。気味悪くて美しいとかね。そしていまエレクトロニック・ミュージックに耽溺するのは、そういう者たちであると。これは、やっぱそれ以前のエレクトロニック・ミュージックにはなかった。RDJはそれを逆手にとってたけど。

木津:ふむ。セルフ・イメージのメタ化という意味でも、RDJはたしかにそうですね。いっぽうでイヴは、グラムのサウンドや表層以上に哲学や精神性でリーチしていると。しかし、いまエレクトロニック・ミュージックに耽溺する者たちは、はみ出し者なんだという視点はおもしろいですね。その感覚は野田さんも共有するところなんですか?

野田:残念ながら、ぼくはもう年齢的にそこまでナイーヴになれないんだろう。っていうか、いや、いまはそんなこと言ってられないかも(笑)。そもそもエレクトロニック・ミュージックの世界は、人種やジェンダーから解放された世界でもあるからね。だからイヴの自分の見せ方も、アンドロジニアス的じゃない? 日本語の訳詞が女性言葉になっているのがどうも自分にはしっくりこないんだけど、まあ、敢えて「ボク」でもいいんじゃないかと思う感じかな、ぼくがイヴから感じる感覚は。

木津:日本語はジェンダーの縛りが強い言語ですから、そこは難しいですよね。「女性言葉」というのももう時代遅れなのかもしれない。でも、イヴに ある種の少年性が感じられるというのはすごくわかります。この場合ジェンダーで分けないほうが望ましいので、思春期性というほうがいいかな。それと、野田さんの言うアンドロジニアス的なところ――いまの言葉でいうとノンバイナリー的なところは、スロッビング・グリッスルの存在も大きかったんでしょうね。この間亡くなってしまったジェネシス・P・オリッジはそうした点でも先駆的な存在だったわけですけれど、イヴは音楽を始めたきっかけがそもそもTGですから。インダストリアルはイヴの音楽にかなり入っていますけど、TGからの影響もサウンドの問題に留まっていない。定型や規範を逸脱していくことに自由や美、快楽を見出すという。

野田:へー、TGがきっかけなんだぁ。ドゥリュー・ダニエルもTGだし、TGって、確実にある人たちを勇気づけてるよな。TGもメタ的な音楽だった。イタロ・ディスコそのものをやるのではなく、イタロ・ディスコとはなんなのかをやるというね。小林君とか三田さんみたいに〈PAN〉時代の作品が好きな人は〈Warp〉になってロック色が強くなったことにがっかりしているのかもね。たしかに初期のあのちょっと感傷的で、繊細なエレクトロニック・サウンドはいまでも魅力だし、正直ぼくのなかにもイヴは“Limerence”を越えられているのかという疑問はあるんだけど、そういう感覚はティラノザウルス・レックス時代が良いと言っているファンに近いのかもなとも思う。とにかく彼はいままで言ってきたように音楽へのアプローチがグラム的、つまりメタ的で、だからIDMもやるし、ロックもやるし、R&Bもやるし、ってことだと思う。

木津:なるほど、そう繋がるんですね。ただ、いまでこそメインストリームもジャンル・ミックスの時代だと言われていますけど、イヴの音楽のキメラ的なまでの雑食性や奇形性に、ぼくはもっと切実なものも感じるんですよね 。いまの野田さんのメタの話は納得なんですけど。それこそ、この間三田さんがレヴューを書いていたンナムディもポストロックっぽいことやエクスペリメンタル・ヒップホップっぽいことを同時にやっていてユニークですけど、彼も二重のマイノリティであるブラック・クィアとしての複層的なアイデンティティが音楽性と結びついているようなところがある。自分の存在を特定の音楽では定義できないという。いずれにせよ、イヴの『Heaven To A Tortured Mind』もたんに今回はロックをやりましたっていうことじゃなくて、インダストリアル、チルウェイヴ、IDMといったものを、精神性も踏まえて経由してきたからこそたどり着いた作品だということは言えると思います。あともうひとつ重要な影響元として、ニルヴァーナやクイーンズ・オブ・ストーン・エイジみたいなオルタナティヴ・ロックもあるみたいですね。前作以降とくにそうした部分も出ていますけど、それは自分のナイーヴさやイノセントな部分をさらに隠さなくなったということだと思う。

野田:グラムって、松岡正剛さん的に言うと「もどき」ってことだと思うんだけど、そのものではない永遠の近似性、つまり「にせもの」、しかし、デヴィッド・ボウイがそうだったように、「にせもの」だからこそ「本質」を語れる。ロックンロールもどきだからロックンロールの本質を突いたんだ。「自殺者」というメタファーでね。それからマーク・ボラン的にいえば「スライドする」ということ、つまり「ずらすこと」、「ずらすこと」で見えるモノ、あるいは「にせもの」であり「ずらすこと」で得ることのできる自由、「ずらすこと」で見えるファンタジー、、こうした感覚がイヴにはあって、それは彼のジェンダーにも関わっているのかもしれないけど、それが彼のいう「ロマンス主義」じゃないかと。チルウェイヴってまさにベッドルーム音楽で、逃避的だったし、ヒプナゴジックかつドリーミーであったわけだけど、イヴはそれを生き方にまでしようとしている感じがする、というかそういう迫力が1曲目から感じられる。ま、これはイントロが最高に格好良くて、イントロの勝利。“20thセンチュリー・ボーイ”を意識しているのかもだけど(笑)。

木津:“Gospel For A New Century” 、シンプルなリズムなんだけどブレイクが絶妙で、文字通りのグラマラスなロック・アンセムですよね。イヴって歌のうまさで聴かせるタイプじゃないけれど、だからこそ妖しい魅力が炸裂してる。初期のロキシー・ミュージックがよく引き合いに出されていて、たしかに連想する部分もあるかなと。とにかく新しいアルバムはこのモードで行くんだっていう気概がこの曲に表れてますね。文字通りデモニッシュなミュージック・ヴィデオもカッコいい。Youtubeで再生しようとすると「この動画は、一部のユーザーに適さない可能性があります」と警告が入りますが、危険な香りのする華やかさがあります。

野田:ぼくのなかで初期のロキシーはそれこそ超一流の「もどき」、サイモン・レイノルズは「実現不可能な理想とありえない欲望」って表現していたけど、とにかくロキシーはいわゆる知能犯であってね。アートワークやファッションも含めてコンセプチュアルだし、イヴの華やかさとは違うんじゃないのかな。言いたいことはわかるけどね。イヴはもっとエモーショナルだと思う。切ないところがあるし、ブライアン・フェリーの「決して手に入らないモノをしかし切望し続ける」という感覚はあるのかもしれないけど。ところで、グラムの原点って何かというと、オスカー・ワイルドとJ・R・R・トールキンと言われているんだよ。

木津:へえ! ワイルドはなるほどという感じですが、トールキンはちょっと意外かも。

野田:ワイルドは、わかるよね、「自然ほど退屈なモノはない」ってことだよ。モリッシーも歌っているね、「君はイェイツだけど、ぼくにはワイルドがある」。もっともいまワイルドがどれほど意味があるのかぼくにはわからないけど。で、トールキンはぼくも向こうの記事で読んで「なるほどー」って思ったんだけど、もちろんファンタジーであり、それは大人ではなく「子どもたち」にむけたってことだよね。さっき木津君がイヴには少年性があるって言ったけど、イヴの表現に重層性があるのは、こうしたいろんなことがリンクしているからだと思う。それはそうと、今作は前作以上にロック、ポップ色が強く、とはいえ曲の作りはより凝縮されているんだけど、すべて短い曲だし……サンダーキャットの新作も短い曲ばかりだったね、で、同時にそのなかで歌メロをどれだけ作れるかってことにも挑戦していると思うんだけど、木津君的に面白かった曲って何?

木津:ぼくがまず挙げたいのは“Kerosene!”ですね。甘いソウル・チューンなんですけど、途中暑苦しいギター・ソロが入ってきますよね。クレジット見たら、これ、ユーライア・ヒープの“Weep in Silence”からの引用らしくて。イギリスのハードロックですよね。少なくとも僕はほとんど聴いてこなかったものだし、パンク世代の野田さん的にも苦手としたところなんじゃないですか(笑)? 何にせよ、こういうところもパンク以前の70年代が入っていて、ハードロックの鬱陶しいエモーショナルさが妙にマッチしているというか、イヴらしいチャレンジングな接続で意外とありだなと、この曲よく聴いてしまいます。同じ意味で、“Supar Star”もいいですね。これぐらいエモーショナルに振りきれているナンバーが、このアルバムでは光っているかなと。 “Romanticist” から“Dream Palette”へと短いナンバーが間髪いれずに続く烈しさもハイライトですね。

野田:ぼくも木津君と同様、最初に聴いたときに「こりゃすごいな」と思った。グラム・IDM・ロックというか、じつは1曲1曲がよく作り込まれているし、まずは“Identity Trade”“Kerosene!”“Hasdallen Lights”の並びがいいよね。“Supar Star”もそうとうクセになるメロディがあって、ロマンティストのぼくとしてはやっぱ“ Romanticist”かな。ファンタジーってさ、要するに想像世界であって、とにかく全力で〈想う〉ことじゃない? 誰もが望まない今日の状況下で、このファンタジーがリリースされたことは、ある意味では難しいんだけど、でもこれだけキツイ状況のなかで、よき世界を想うことは超重要だしさ、文化がいかにユートピアを描けるかってこともポイントだよね。だからさ、しっかしこのタイミングでのリリースっていうのは、人びとの価値観が揺れているときだから、“Gospel For A New Century”がなにか別の意味に聴こえてしまわない? まさに、それが良きモノか悪しきモノかは見えないけれど、〈新世紀〉になってしまいそうだし。

木津:たしかに……。このアルバムには、象徴的に「ゴスペル」と「ブルース」って言葉が曲名に入っていますからね。公的なものと私的なもののせめぎ合い。あと今回は、とにかく熱烈なラヴ・ソング集ですよね。このコロナ・ショックで外出できない状況が続いていて、人恋しくなるタイプとひたすら孤独に浸るタイプに分かれているような気がするんですけど、ぼくはそれでいうと前者で(笑)、この激しいフィーリングにいますごくグッと来てしまいます。オープニングから「あなたのすべてになってあげる、ねえベイビー」ですから。ただイヴの場合、前作までにあったようなダークな感じももちろんあって、後半ノイズ・ロック的な展開になっていく“Medicine Burn”は、前作から続くディプレッションのモチーフがたぶん入っている。アルバム・タイトル通りの「A Tortured Mind」=「拷問された心」というマインドが基調にある。だから、異形の者たちのラヴ・ソングというのを徹底したアルバムで、ぼくはこのひたむきさはいますごく求められていると思います。

野田:「拷問された心」というのは、これまた暗示的な言葉。どれだけ我々の内面は痛めつけられているかってことだろうね。で、ありながら、ここまでキラキラしているっていうのがすごい。俺がいま20代だったら、ああいうグラマラスな格好していただろうな、似合っているかどうかはともかく。木津君もグラマラスでいこうぜ。もっとカラフルな服を着るんだよ!

木津:小林くんと違って、ぼくは派手な色もよく着ますよ。 柄物はちょっとハードル高いですけど……。でもたしかに、イヴはすごくファッショナブルな存在でもありますよね。今回のアルバムで大きくフィーチャーされているシンガーのヒラキッシュ(Hirakish)はモデルですし……画像検索してみてほしいんですけど、ヒラキッシュのヴィジュアルもすごく危うげでカッコいい。あと、ブランドMOWALOLAとのコレボレーションでショート・フィルム『SILENT MADNESS』を発表していましたけど、前回の対談で野田さんが言っていたようなゴスな感じがキマってる。野田さんはフランク・オーシャンやジェイムス・ブレイクを聴いているような繊細な若い子に聴いてほしいっておっしゃってたじゃないですか? ぼくもそこはほんとに同意で、イヴはそういう子たちを熱狂させるようなアイコン性もありますよね。当世風のロックスター像というか。そこも、メタ的な意味でのロックスターということですけど。ポップ/ロック・アイコンというものの功罪を踏まえた上での、あのヴィジュアルの打ち出しなのかな、と。

野田:しかもちょっとパロディぽいっていうか、面白がってるっていうか、どこか遊び心があるのっていいよね。COVID-19によって、ワクチンが普及するまでほとんどの人は危険に晒されているわけで、そうなると心の余裕もなくなってくる。毎日のニュースにうんざりしながら、メンタルも追い詰められそうになる。そんなときは、こういうイヴもそうだし、ンナムディもそうだし、シリアスさとふざけている感が混じっているのが良いよね。家にいるあいだ友だちとスカイプしながら飲んで聴くにはいいですよ。ちょっと気持ちがあがるかも。で、ここには愛と自由がある。愛をもって語る、愛をもって行動すると。自分のなかの愛の力を増幅しよう。ってことで、待ってるよ、木津君。

木津:ぼくはいつも愛と自由のことしか考えてないですよ。愛を政治利用させないこと。音楽やアートのなかで解き放たれること。だからこの苦しい時期にこそ『Heaven To A Tortured Mind』を聴いて、また街に出られるようになったら、きっとグラマラスなファッションにも挑戦して、野田さんに会いに行きますよ。

野田:おいおい、参ったなぁ。。。

(2020年4月10日)

Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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