Home > Interviews > interview with Telex - なぜユーモア、笑い、ギャグにこだわるのでしょう?
細野さんとの思い出
■細野晴臣さんとコシミハルさんがスタジオを訪れたときのことは憶えていますよね?
ダン:ああ、もちろん!
■彼らの“L'Amour Toujours”もとても洒落ていましたが、当時どんな風にセッションがはじまったのか教えて下さい。細野さんがあなたたちにアプローチをかけたんでしょうか?
ダン:ああ、そうだよ。
ミッシェル:この話は、ダンに任せる。あのとき、わたしはヴァカンスに出かけていてスタジオにいなかったから(苦笑)
ダン:うん、彼(細野さん)が連絡をとってきて、ごく普通に、スタジオをブッキングしたんだ。わたしとしては「なんと!」と驚いたけれどもね、イエロー・マジック・オーケストラのメンバーが自分のスタジオに来るなんて、と思ったし、3日間のブッキングだったな。とてもシンプルなセッションだったよ。彼らがスタジオにやって来て、彼は英語を喋らなかったし、残念なことにわたしは日本語を喋らなかった。それで、とてもナイスなフランス人の通訳氏、たしか東京在住の人だったはずだが、彼が現場での通訳として付き添ってくれてね。ところが、彼にはほとんどやることがなかったんだ、というのも、音楽を通じてであれば、言葉を使って会話する必要はないから。それに、彼(細野さん)と自分のやっていることが非常に似ているのにも気づいた。わたしは非常に初期のシーケンサーのひとつ、とても複雑な、ローランドのMC-4という名前の機材を持っていてね。で、あれはMIDIやコンピュータ以前の時代のシーケンサーだったから、何もかも自分でプログラムを打ち込まなくてはならなかったんだ。あれでシークエンスを作るのは面倒で悪夢のようだったけれども、彼の打ち込みのスピードはあっという間、本当に早くてね! で、彼は「モーグ・モジュラーで曲をやろう」と言ってきて、我々は主にモーグのモジュラーを使い、一方で彼がシークエンスをプログラムしていき、それをレコーディングした、と。あれはファンタスティックな3日間だった。
それに、さっきも言ったように、我々は言葉が通じなくても大丈夫だったんだ。それはグレイトだったし、思い出すよ、通訳氏が「僕は不要みたいなので、外に出かけるとします。あなたたちだけで放っておいて大丈夫でしょう」と言ったのは。そんなわけで我々はレコーディングを進め、ヴォーカルを録り、以上、と。そして彼はテープを……あの曲のミックスは、わたしがやったんだったかな? ミックスも、もしかしたらやったかもしれない。ともかく……ああ、たしか彼は、当時世界ツアーをしていたんだったと思う。で、レコーディングをやった何週間か後に、レコード会社から完成したアルバムが届いた、と。とてもシンプルで、とても素敵な、とてもいいお土産をもらったね。あれは素晴らしかった。
■あの頃、もうイエロー・マジック・オーケストラのことはご存知だったんですね。
ダン&ミッシェル:うんうん、もちろん。
■テレックスは、ときに「ベルギー版クラフトワーク」、あるいは「ベルギー版YMO」とも称されますよね。
ミッシェル:(苦笑)
■もちろんそれぞれ異なる個性のグループとはいえ、そういった意味でYMOにはどこかしら親近感も抱いていましたか?
ミッシェル:ああ。
ダン:自分と彼(細野さん)の仕事の仕方がどれだけ近いかに気づいたときは、とても驚かされたんだ。それもあったし、彼がモーグを好きというのにも驚いたね。日本には自国産の素晴らしいシンセサイザーがたくさんあるのに、彼はポリ・モーグのサウンドが好きで、あれは珍しかった。実際、可笑しかったんだが──あの何年か後、90年代に、わたしの新しいスタジオで日本人プロデューサーと仕事する機会があったんだ。残念ながら、彼の名前は忘れてしまったけれども。で、彼は細野氏の友人だそうで、わたしのスタジオに来てびっくりしていた。「細野さんのスタジオと同じですよ!」と。
ミッシェル:(笑)
ダン:で、ふと思い出したのが、そう言えば細野氏は、スタジオにいたときやたら写真を撮っていたっけな、と。
■(笑)
ダン:(笑)だから、もしかしたら彼は自分のスタジオを、わたしのスタジオに少し似せて編成したのかもね? それはまあ、笑える逸話、ということだけども。
■ちなみに、ダンさんのSynsound Studioはレコーディング・スタジオとしていまでも続いているんですね。
ダン:ああ。
■しかもシンセサイザー(アナログ&デジタル)やサンプラー、ドラムマシンなど、70年代~80年代の貴重な機材が揃っています。やはりこういった機材がそうとうお好きなんですね?
ダン:そう。いま、君がスタジオにいないのが残念だね、こっちにいたらあれこれと見せてあげられるんだけれども。でも、うん、モジュラー・シンセはいつでも使えるよう整備してあるし、しかもミニ・モーグも新たに買った。わたしがもっとも好きなシンセサイザーは、もちろんアナログだ。ちなみに、アナログ・シンセはまた人気が再燃しているんだよ。
■ですよね。
ダン:どうしてそうなったかと言えば、音響制作機材の進化はあったものの、その基本であるアナログ・シンセサイザーに再び立ち返ったということじゃないかと思う。だから、自分自身のサウンドを作る必要があるんだよ。どれだけプリセット他のサウンドがあったとしても、サウンドを考え、それを自分で作り出さなくてはならない。ただ他から音を盗んできて、それを何かに作り替えることのできるサンプラーとはわけが違う。だから、アナログ・シンセにやれることは少ないかもしれないけれども、そのぶん逆にクリエイティヴになれると思うんだ。
というのも、本当に自分で一からはじめなくてはならないし、電気からサウンドを作ることになるから。本当に興味深いのはそこだ。というわけで、うん、わたしはまだいろいろやっているし、この取材の後にスタジオに入り、新たに曲を作るつもりなんだ。ベーシックなアイディアが浮かんでいるし、それをマシンにフィードして新しい曲を作ろうかな、と。スタジオ・エンジニアとして働くのも好きだけれども、できれば自分がやりたいのは、サウンドをクリエイトし、そこから曲を作ることだから。電気からね。
■80年代以降、エレクトロニック・ミュージックを更新したもっとも重要なアーティスト、あるいはあなたたちよりも下の世代の電子音楽家で好きな人/共感できる人は誰ですか?
ミッシェル:……ビョークかな。
ダン:ああ、彼女だね。
ミッシェル:彼女は常に探索を続けているし、わたしが音楽に関して好きな点もそこなんだ。そうは言っても、わたしもポップな音楽は好きだよ。ただ、何かをサーチしている人が好きだね、音楽として、必ずしも聴きやすくはないかもしれないけれども。
ダン:ビョークに……
ミッシェル:たとえばビョーク、それからFKAツィッグス等。そういう人たちだな。
ダン:そう。ビョークは、もちろんだ。彼女は常にイノヴェイティヴで新たなことをやろうとしているし、それに──まあ、この名前はちょっと一般的過ぎるかもしれないけれども、わたしはビリー・アイリッシュも好きだ。
ミッシェル:(先を越されてやや悔しそうにつぶやく)彼女の名前は、わたしも言おうとしていたところだよ。
■(笑)そうなんですね!
ダン:(笑)ああ、彼女は大好きだ。
ミッシェル:まあ、音楽面は、彼女の兄がほとんどやっているらしいけれども。
ダン:ああ、そうだよ。だが、あのふたりは、どちらも非常に才能がある。
ミッシェル:彼女の音楽は悲しい感じだけれども──
ダン:うん。
ミッシェル:──(苦笑)でも、音楽はグレイトだ。
テレックスにはグルーヴがある
■マルク・モーランがいまここにいないことは残念ですが、彼はどんな人だったのか教えていただけますか?
ミッシェル:彼はどうだったか……。彼は考える人だったと思う。かつ、ユーモアと才能にあふれていた。よき友だった。
ダン:そうだね。それに、彼は本当に優れたミュージシャンでもあった。そう思うのは、何年か前にテレックスの音源をデジタル化した際にマルチ・トラックを聴く機会があって、そこで彼がどれだけグルーヴにノって演奏していたかを発見したからでね。あの当時はテクノロジーも単純、ごく初歩的だったし、シークエンスに関してはあまりテクノロジーの活躍する可能性がなかった。だから、ドラムと非常に基本的なシークエンスを除き、ほとんどのトラックは手で、マニュアルに演奏されていたんだ。ベース・ラインの多くは手で演奏されていたし、それが実にグルーヴに富んでいてね。完璧ではなかったし、でも、それこそがグルーヴというものの概念であって。
だからだろうな、自分たちがこう思ってきたのは……人びとは「エレクトロニック・ミュージックは冷たい音楽だ」と考えるけれども、そんなことはないんだよ。我々はそんな風に感じなかったし、スタジオにいた間、本当にグルーヴをエンジョイしていた。リズム・トラックがあり、ベーシックなドラムがあり、ベース・ラインがあり、そこに最初のキーボードが入ってくる云々、彼はそこに常にいた。それにもちろん、彼はアイディアが豊富だった。わたしは機材の背後でボタンetcを操る役まわりだったけれども、マルクとミッシェルが曲について話し合っている様は聞こえた。
いまでもよく思い出すのは、3人一緒にサウンドを見つけようとしていた場面だね。わたしは機材のボタンを調整していて、そのうちに自分でも「これはいいな」と感じて、すると同時にミッシェルとマルクも「いいぞ!」と言ってくれて。「その位置のままで、いじらないで」と言われて、わたしも「わかった」と。そういった様々が組合わさった経験なんだ。
ミッシェル:それもあったし、たぶん……さっき、君は我々を「ベルギー版クラフトワーク」と呼んだけれども──いや、そう形容した人は君が最初ではないから、気にしなくてもいいんだよ(笑)
ダン:(苦笑)
ミッシェル:ただ、クラフトワークと我々の主なひとつの違いと言えば、それはおそらくグルーヴだろうね。
ダン:そう!
ミッシェル:というのも、マルクは黒人音楽に心酔していたし、彼はジャズ・マンでもあった。だから、思うにクラフトワークとの主要な違いは、テレックスにあったグルーヴではないか?と。さっきダンも話していたように、サウンドの多くは手で演奏したものだったからね。
ダン:そうだ。それにわたし自身、デジタルに変換していたとき、それに気づいて驚いたんだ。レコーディングの現場で、マルクがどれだけ楽々とあれらの演奏をしていたかは憶えているし、その場ではわたしも深く考えていなかった。ただサウンドを出し、プレイしていただけだし、そのテイクでオーケイ、それで決まりという感じで、実に楽だった。ところが、あれは一見楽そうに見えて、そうではなかったんだね。彼のプレイは本当に大したものだったな。タイミング感が、本当に、実によかった。そういえば、最後のアルバムを作る際に、マルクがキーボードを習い直しているんだ、と言っていたのは憶えているかい、ミッシェル? 彼は毎日数時間、もっと上手くなるためにキーボードを練習したんだ。そもそも非常に腕のいいキーボード奏者だったにも関わらず、それでもなおがんばった、という。
ミッシェル:間違いない、彼なしには、テレックスはあり得なかった。
ダン:それはもちろんだ。あり得ないよ、まったくそう。
ミッシェル:彼が決め手だった。
■アルバムの最初と最後が未発表曲でしたね。2曲(“The Beat Goes On/Off”、“Dear Prudence”)ともカヴァー曲で、2曲ともとても面白いと思いましたが、どうしてこれがお蔵入りになっていたんでしょう?
ミッシェル:(苦笑)
■秘密としてキープしてあった曲、とか?
ミッシェル:いやいや。あれは……我々が音楽作りをストップした後も、たまに顔を合わせて、何か一緒にやれることはないか?と探っていたんだよ。
ダン:アイディアをね。
ミッシェル:あれら2曲は、取り組みはじめてはみたものの、やった当時は興味深いとは思えなくてね。将来性を感じられなくて……。
ダン:アルバム1枚を作るに足るだけのアイディアが浮かばなかったんだよ。そこで、あの2曲はとっておくことにしたはずだ。で、やっと最後のアルバムができたとき、あれはマルクのアイディアをもとにしたんじゃなかったっけ、ミッシェル? この話は何日か前に思い出したんだけれども、そのアイディアは自分たち自身をサンプリングする、というものでね。だから、歌のパーツからはじめて、そこから新たなサウンドを作り出す、という。あのアイディアを、我々は実に──
ミッシェル:リサイクルする、ということだよね。
ダン:そう。興味深く、エキサイティングなアイディアだと思ったし、とても上手くいった。あのおかげで、最後のアルバムを完成させることができたんだ。
ミッシェル:とても上手くいったとはいえ、それほど成功には結びつかなかったな(苦笑)
■(笑)
ダン:(苦笑)いや、それはなかった。
ミッシェル:でも、今回リミックスして、気がついたよ。あれは実にいいアルバムだ、うん。シンプルでいい作品。わたしも気に入っている。
ダン:わたしも同感。
■日本には長きにわたってテレックスの熱狂的なファンがいますが、彼らに対してひと言お願いします。また、これからテレックスを聴くであろうリスナーにもひと言。
ミッシェル:んー……こう言おうかな。「我々を眺めるのではなく、音楽を聴いてください」
ダン:(笑)。そうだね、わたしも同じだ。「音楽を聴いてください」だ。
■質問は以上です。今日はお時間いただき、ありがとうございました。
ダン&ミッシェル:ありがとう。
■この再発を期に若いリスナーがテレックスを発見してくれると思うとワクワクしますし、今後の展開を楽しみにしています。もしかしたらあなたたちの新しい音楽を聴ける日が来るかも?と、期待していますので。
ミッシェル:……たぶん、それはない。
ダン:フフフフフッ!
ミッシェル:(苦笑)
■そうですか。残念です……
ミッシェル:あ、ひとつだけいいかい? 君は通訳だよね? 音楽関係の仕事を主にやっているの? たとえば、いま君の言った最後のセンテンス、あれは質問者の言葉なのか、それとも君自身の言葉?
■いちばん最後はアドリブです。でも、質問作成者も同じ思いを抱いているはずですので。今日は通訳として話させていただきましたが、わたし自身音楽ライターもやっていますので、音楽は少し知っています(苦笑)。
ミッシェル:ああ、そこはわたしも感じたよ。とてもいいインタヴューだった。どうもありがとう。
■ありがとうございます。くれぐれも、お大事に。さようなら。
ダン&ミッシェル:ありがとう、君もね。
質問・序文:野田努(2021年4月23日)