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Home >  Interviews > interview with Nate Chinen - アリス・コルトレーンは20年前とはまったく違う意味を備えた存在になっている

interview with Nate Chinen

アリス・コルトレーンは20年前とはまったく違う意味を備えた存在になっている

──『変わりゆくものを奏でる』著者ネイト・チネン、インタヴュー(後編)

interview with Nate Chinen

元NYタイムズ紙のジャズ批評家、後編では女性ミュージシャンの躍進、UKジャズの重要性、本人が「ソフト・ラディカルズ」と名づけた潮流、フリー・ジャズなどなど、著書『変わりゆくものを奏でる』が刊行された2018年以降に台頭してきた潮流やアーティストについて語る。

質問・構成・序文:細田成嗣 Narushi Hosoda    取材・通訳:坂本麻里子 Mariko Sakamoto May 02,2025 UP

「ムーヴメント」と呼んでいいのかわかりませんが、昨年、自分が思いついたタームに「ソフト・ラディカルズ」というのがあります。たとえばカルロス・ニーニョやアンドレ3000の音楽のことで、アリス・コルトレーンと強く繫がっています。

昨年はナラ・シネフロのアルバム『Endlessness』も話題になりました。

NC:じつに美しいアルバムです。大好きですし、スペシャルな作品だと思います。かつ、とても興味深いドキュメントにもなっていますね。というのも――「これは『ジャズ』・アルバムなのか? たぶんそうではないのでは?」と思わされたので。あれはジャズを理解し、ジャズを大事にしている、そんな人にしか作れない作品だ、というフィーリングはあります。ですが、あの作品は属していると思うんですよね、この……まあ、この傾向を「ムーヴメント」と呼んでいいのかわかりませんが、昨年、自分が思いついたタームに「ソフト・ラディカルズ」というのがあります。たとえばカルロス・ニーニョアンドレ3000の音楽のことで、アリス・コルトレーンと強く繫がっています。非常に瞑想的で、エレクトロニクスの要素も取り入れているとはいえ、派手さやスピード感を求めてではなく、非常に抑制された用い方でやっている。というわけで、ナラ・シネフロの作品はとても良かったです。

アメリカではイマニュエル・ウィルキンスやドミ&JD・ベックなど、新しい世代が台頭してきました。アメリカの動きで、新世代の台頭という点で、ここ7年の間で特に注目してきたものはなんでしょうか?

NC:ドミ&JD・ベックの名前が挙がりましたが、〈NPRミュージック〉向けに書いた文章の中で、彼らを「ヴァイラル・ジャズ」の例として分析したことがあるんですよ(笑)。もちろんそれはややふざけたタームですが、インターネットの活発なメタボリズム上で活動している音楽、という概念でしょうかね(笑)? ですから、ドミ&JD・ベックもそうですし、サンダーキャットもその部類に入ると思います。つまりこの、非常に……ハイパーに熟練していて、反応も極めて敏速な、刻々と変容していく類いの音楽というか。すごく興味をそそられます。しかもそれは、若い世代に対して独特なアピールを放っている。ですので、それがひとつの流れとしてあります。そして、イマニュエル・ウィルキンス。彼は私にとって、久々に出会った、最もエキサイティングなアーティストのひとりです。イマニュエルとジョエル・ロス、そして彼らの周辺の一群のミュージシャンは、私がこよなく愛するものの実に多くを体現してくれていると思います。先ほども話に出ましたが、伝統や先達の世代と本当に深く関与し、しかしそれと同時にじつに今日的な視野をちゃんと備えている、そんな成長中の若いミュージシャンに出会うと……しかも彼らは、スウィング・ジャズの伝統とフリーな即興ジャズ〜前衛との間でかつて起きた分断、いわば内部/外部の隔たりにもこだわりがない。イマニュエルはそのすべてを愛し享受していますし、コンセプチュアルに物事を考えている。思うに彼は、私の大好きなミュージシャンのひとり、アンブローズ・アキンムシーレの中に見出したのと同じアイデア、その延長線上にいるのではないかと。つまりこの……これは芸術的な音楽だが、と同時にアクセスしやすい音楽でもある、という感覚ですね。でも、やはりアートなんです。とんでもなく野心的だし、さまざまな関連を生んでいて、コンセプチュアルでもある、と。ですから彼らは、私にとってとてもスリリングなことをやっている連中です。同じことはもちろん、セシル・マクロリン・サルヴァントについても言えます。ですからいま挙げたアーティストたちは、絶対に中途半端では終わらせない、というか。彼らのやることはつねに、色々な思いを喚起しますし……テクニックという面でも興奮させられる。純粋に、音楽的なコンテンツとしてワクワクしますね。ですが、それと同時に、いくつものアイデアを喚起してくれる。そこは、とても興奮させられます。

フリー・ジャズは永遠に、これまでも/これからも今日性があると思います。

アイデアが豊富といえば、ジャズ・ドラムからラップ、プロダクションまで自ら手がけるカッサ・オーヴァーオールの活躍にも目を見張るものがあります。

NC:彼はとにかく――抜群ですね。彼も、一連のミュージシャンの素晴らしい例のひとつだと思います。つまり、つねに新しいことをやっているものの、伝統はきちんと学んでいる、という。彼はジェリ・アレンのバンドで長く叩いてきましたし、音楽院でも学びました。ですから彼は正統的なジャズ・ミュージシャンですが、インディペンデントなヒップホップ・プロデューサーの頭脳を備えているし、優れたラッパーでもある。アイデアに満ちあふれた人ですし、しかも楽しい「ショウ」のやり方を心得てもいる。そこは、大事だと思います。

コロナ禍とBLM運動の高まりもこの7年の間に起きた大きなトピックでした。1960年代には公民権運動と連動してフリー・ジャズが盛んになりましたが、現在、たとえばイレヴァーシブル・エンタングルメンツのように、BLM運動の高まりと連動するようにフリー・ジャズにあらためて注目するミュージシャンも出てきました。この点について、つまりフリー・ジャズのアクチュアリティについてどのように考えていますか? 必ずしも、「聴きやすい」音楽ではありませんよね?

NC:フリー・ジャズは永遠に、これまでも/これからも今日性があると思います。あの音楽に備わったまじりけなしの確信、そこに惹き付けられる聴き手の一軍は、きっとつねにいるでしょう。いやだから、ノイズ・ロックやハードコア・パンク、実験的なエレクトロニック・ミュージックが大好きな人たちはいますし、そういった面々はマシュー・シップやサン・ラー・アーケストラなども好きですし。ああいう、極端な……そうですね、ああいう音楽をやる確信、そして規制に対する抵抗とでもいうか(苦笑)。それは、一種のオルタナティヴです。ですが、あなたは質問の中で、プロテストの次元にも触れています。これはリベレーション・ミュージックということですし、あの発想は……前衛だけに留まりませんが、しかし、前衛音楽においてとりわけパワフルな表現を発見した、という。そうなった理由は部分的に、実験音楽家たちの世界の見方もある意味関わっていると思います。今日、こうして取材を受けている当日(2025年3月21日)に、ワダダ・レオ・スミスとヴィジェイ・アイヤーの新作アルバムが出たところです。『Defiant Life』(〈ECM〉)という作品で、昨日、ふたりに話を聞くことができました。で、それは単にひとつの音楽作品にそういうタイトルを付ける、というだけの話ではないんですよね。そこには本当にディープで力強い、革命的思想および抵抗への打ち込みぶりがある。それと共に、この音楽には愛に対するコミットメントもある。つまり、愛はそれそのものが一種のレジスタンスになり得る、というアイデアです。昨今の風潮においては、とりわけそうです。ですからプロテスト、あるいは解放を求める闘争について考えるとき、即興奏者はしばしば、方向性を示してくれると思います。彼らは寛大で思いやりのある、ポジティヴな社会的関与の仕方とはどんなものになり得るか、そのモデルを音楽で示してくれるからです。それは、とてもパワフルだと思います。

新しい世代には、サックス奏者のゾー・アンバのような人物もいますね。彼女を語る際、しばしばアルバート・アイラーが引き合いに出されてきました。

NC:ゾー・アンバはフリー・ジャズのサクソフォン奏法の伝統にアクセスしていますが、すさまじくワイルドで、まったく手に負えません(笑)。で……彼女は、あのサウンドと共に出現した、という。とても若い、発展中のアーティストですが、あっという間に前衛という難題を課せられた。にもかかわらず、彼女は自分の居場所を自ら切り開きました。ですから彼女は、その音を聴いた途端に注視せざるを得なくなる、そういう人の一例だと思います。そして私にとって最もエキサイティングな点と言えば、彼女はまだキャリア曲線の端緒にいるところです。ですから彼女は、何でも吸収するスポンジのように、つねに発展・成長していることは傍目にもわかる。しかし現時点ですでに、本当に新たな、こちらの関心を引き寄せずにいられない即興奏者でもある。近いうちにぜひ、彼女をまた観たいですね。

ゾー・アンバは、その音を聴いた途端に注視せざるを得なくなる、そういう人の一例だと思います。

先ほど「昨今の風潮」とおっしゃいましたが、偶然とはいえ『Playing Changes』の原著はトランプ政権第1期が始まったあたりまでを描いていますが、日本翻訳版はバイデン政権を経て再びトランプが政権を握った頃に出版されることになりました。

NC:私の落ち度じゃないですよ(笑)!

(笑)はい。で、2016年のトランプの大統領就任は、ジャズの世界にも少なからぬ影響をもたらしました。故ジェイミー・ブランチの “Prayer For Amerikkka” のような明示的な曲から、あからさまではないものの陰鬱な雰囲気を放つ曲まで、さまざまなリアクションがあったと思います。いま、トランプが2期目に入り、これまでになく分断と排除が進むことが予想されます。実際、ついこの間、ワシントンDCのBLMのペイントが消されるという信じ難い出来事が現実になりました。

NC:ええ。

ジャズの世界にも、9年前よりさらに過酷な影響がもたらされることが予想されますが、この時代に、アメリカのジャズにはどんな未来が待ち構えていると思いますか? ジャズのコミュニティにいる者たち、ジャズを愛する人々が留意すべきこと、音楽を聴く際に考えるべきことなどについて、チネンさんが考えていらっしゃることについてお聞きしたいです。

NC:私の思いは、ふたつの異なる軌道を進んでいます。第一に、それは私自身、そして私の家族もよく考えてきたことです。これは我々にとって、まず何よりもお互いを大切にし合う時期だと思います。ニュースや物事の展開に、つい打ちのめされてしまいがちですよね。とりわけいまのように、じつに憂慮すべき事態が、しかもとんでもないスピードで起きている場合は。ですから第一に、お互いをしっかりいたわり合うことだと思います。そして音楽は、その面で我々を助けてくれる。音楽の中には、じつにたくさんの滋養分が含まれていますから。そしてコミュニティという意味でも、我々はお互いを支え合える。ですからその質問に対する最初の答えはそれですね。とりわけ、我々が大事にしている価値観が危機にさらされ、権威側によって積極的に解体されている、そんなふうに感じる時期において、お互いをいたわるのはなおのこと重要です。そしてもうひとつ、私に浮かぶ考えといえば、いま、この時期がどれだけダークであっても――(それまでになく真顔で)本当に、とても陰鬱です――我々にはこの音楽を作り出したミュージシャンたちという具体例があるわけです。それは耐久力の、抵抗の、そして美しい何かを生み出してみせた苦闘の具体例です。再びルイ・アームストロングを例に出しますが、彼の子ども時代の境遇を知れば知るほど……まず何より、あの環境・状況から彼が抜け出してみせたこと自体が奇跡です。そして、彼のその後の生き様や身の処し方を考えると、あれだけの輝き、精神面での寛大さ、そして喜びをもって振る舞えたのは、輪をかけて奇跡的です。一体どうして、彼にはあんなことができたんだ? と驚嘆します(笑)。ですから本当に、彼は我々にとっての最も偉大なアメリカ人だったと思います(笑)。いや、心底、そう思うんです。というのも、彼がどんな人生を送ってきたかを知れば知るほど、とにかくもう信じられない、嘘でしょう?……という思いに陥りますから。けれども、彼の世代のミュージシャンのじつに多くが――1920年代を生きた人々、そしてそれに続いた世代である30年代、40年代、50年代、60年代にかけて、本当に多くの苦闘がありましたし、対象を絞った抑圧が非常に多かったわけで――生き残れなかった人間もたくさんいた。ですが、音楽は生き残った、それはわかるはずです。ですから彼らアーティストは、どうやったら絶対に諦めずにいられるか、その例を示してくれたと言えます。私はそこからインスピレーションを引いています。本当に、いまは怖い時代だなと思います――ここ、この国(アメリカ)は戦々恐々な雰囲気だ、そう言いましょう。それでも、希望を失うわけにはいきませんから(笑)! その意味で、音楽はとても助けになります。

質問・構成・序文:細田成嗣 Narushi Hosoda(2025年5月02日)

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Profile

細田成嗣/Narushi Hosoda細田成嗣/Narushi Hosoda
1989年生まれ。ライター/音楽批評。編著に『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(カンパニー社、2021年)、主な論考に「即興音楽の新しい波 ──触れてみるための、あるいは考えはじめるためのディスク・ガイド」(ele-king ウェブ版、2017年)、「来たるべき「非在の音」に向けて──特殊音楽考、アジアン・ミーティング・フェスティバルでの体験から」(ASIAN MUSIC NETWORK、2018年)など。2018年5月より国分寺M’sにて「ポスト・インプロヴィゼーションの地平を探る」と題したイベント・シリーズを企画/開催。

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