「E E」と一致するもの

Everything Everything - ele-king

 UKからなにか目新しい音は聴こえてこないだろうか。ここ数年来、インディ・ロックと言えばUS。新鮮な驚きはつねに北米シーンに寄り添うようにしてあった。なるほどUKもグライムやダブステップにおいては活発な細胞分裂が進んでいるのかもしれないが、いわゆるロック・シーンの状況は低迷の感を否めない。クラクソンズのデビュー作が2007年だ。目立った更新がないまま、3、4年が過ぎようとしている。

 エヴリシング・エヴリシングが新しい時代を作り得るかどうかはともかく、彼らのような音に名前がついていないことを不思議に思ってきた。もちろん、ネーミングなどプレス・サイドの一方的な押しつけだとも言えるし、あくまで便宜的なものだ。だが、名の知れたところではホット・クラブ・ド・パリス、最近ではチャップやチューブ・ロード、ハイ・レッド・センター(US)等々のバンドは、なにか気の利いた呼称で括ってもよさそうなものである。マス・ロック的なアプローチとプログレッシヴ・ロックの影響濃いアーキテクチュアルな曲展開、奇妙なコーラス。躁鬱的なビートにはポスト・パンク・リヴァイヴァル勢の残り香もある。いまのところ、この種の音はUKバンドに多い。そしておそらく、水面下にはもっと多く存在していると思われる。彼らには"アート・ロック"あるいは"マス・ロック"という言葉では広すぎるほど特定的な色合いがあるし、UKロック・シーンの一潮流としてもっと認識されていいのではないだろうか。エヴリシング・エヴリシングはファースト・フルを今月末に控え、〈サマー・ソニック〉への出演が決まっている。彼らへの注目が、こうした一連のバンドを浮上させる契機となればよいと思う。

 さて本作は、そのデビュー・アルバムに先駆けたミニ・アルバムで、来日記念盤となる。UKバンドならではの売り出し方だ。「BBCサウンド・オブ・2010」として、ザ・ドラムスやデルフィック、ゴールド・パンダらとともに選出されている他、〈NMEレーダー・ツアー・2010〉でもヘッドライナーとして抜擢されるなど、メディアの期待とプッシュが大きい。また、前掲のハイ・レッド・センターやチャップ等と比較して格段にポップでもある。曲単位でもバンド自体の佇まいでも、メジャーな存在感という点では頭ひとつ抜きん出た印象だ。

 "スクーリン"はいかにもシングル曲といったキャッチーなナンバーだが、神経質なシンコペーションと不自然に固さの残った――ぎこちない、というのではない――ファンクネスに、このバンドのキャラクターがよく映し出されている。彼らのリズムには肉体に一種の緊張を強いるようなところがある。ファルセット・ヴォーカルやリズムのパターン自体がソウルフルな印象を与えるとはいえ、それは例えばTV・オン・ザ・レディオやブラック・ジャックスのように、どこか身体性からはみ出てしまう覚醒感を伴っていて、乱暴に言えば非常に西欧的なものだ。ややウェル・プロデュース気味なストリングスのイントロに続いて、しつこく耳に残るフレーズがせわしないビートとともに次々とつなげられる。展開自体はかなり急転直下型というか、フレーズとフレーズの連続性を寸断するような進行には方法論としてはポスト・パンク的なものを感じる。ソリッドなギター、よく動くベース、ぴたりと決まる和音。ポップだがかなりねじくれた音だ。そして忘れ難い。

 "メイキング・サム・ニュー・センス"はクイーンとレディオヘッドを繋ぐミッシング・リンクとも言えそうな、じつにブリティッシュな旋律を持ったナンバー。ヴォーカルのやや過剰なエネルギーも両者によく似ている。壮大にして繊細なアレンジ。打ち込み主体の曲で、生音へのこだわりはとくにないバンドなんだなと確信する。ラストはやはりグリー・クラブばりの同声四部を聴かせてくれる。

 "DNA・ダンプ"も変拍子風のリズムが暴れるグルーヴィーなポスト・パンク・チューンだ。クリーン・トーンのアルペジオがポスト・ロック的というか、彼らの出自のひとつを証すように鳴っている。この曲がもっとも同系統のバンドとの共通項が多い。"ラッダイト・アンド・ラムズ"は粘りつくような3連符が昂揚を生むハイエナジーなギター・ロック。タイトルからして、社会風刺的な意味が強そうだ。ポップ・ミュージックにおいてこうした要素が果たす役割は小さくない。美術の世界における「マイクロ・ポップ」なる概念と相似形を成すように、現USの一大潮流であるシット・ゲイズ~新世代のローファイ・シーンは、社会や国家といった抽象性を切り捨て、ささやかな日常の世界に退却することで2000年代末のオルタナティヴなマナーのひとつを提示してきた。そんなムードのなかで大上段に振りかぶったテクノロジー批判には、しばらく忘れていたポップ・ミュージックの王道を感じさせる。

 そして興味深いのが"ライオット・オン・ザ・ワード"。完全なア・カペラ作品となる。ベンジャミン・ブリテンやジョン・ラターなど20世紀のイギリス人作曲家による合唱作品を思わせるのだが、非常に新鮮に聴いた。世俗化した宗教曲といった雰囲気で、夜露とふくろう、聖堂の回廊などのイメージが立ち上がってくる。ラターの曲のように、シンプルな和音と旋律。カウンター・テナーが誘い込む、霧深い英国の森......それは時計ウサギがおかしな時間を指し示し、チェシャ猫が歯を見せて笑う、ルイス・キャロルやマザー・グースの英国である。こんな曲が1曲忍んでいるのもおもしろい。

 天気雨のように不可思議なバランスでポップと過剰が入れ替わる、ブリティッシュの伝統と新しさを備えた好バンドである。USのローファイ・コロニー〈キャプチャード・トラックス〉からもUKバンドが出てくる昨今だが、あくまでUKはUKらしさのなかから次の音を生んでほしいと思う。

Rangers - ele-king

 やっと手に入れたー(4月のリリースです。すいません。しかし、夏に聴かなければコレは意味がない~)。元々はディスコグスのマーケットプレイスでぐんぐん値段が上がって行くのが気になって調べてみたところがどこも売り切れ。まったく知名度がない新人なのに、どうしたことかと思ったのがきっかけ。最初は実験音楽やアンビエントのサイトとして知られる『アート・イントゥー・ライフ』でサンプルを聴くことができ、紹介文は以下のような感じだった。
「コラージュ/シンセサイザーを断片的にファズギターと絡めたどサイケ・アヴァンポップの名演!! マスト!! 大判コラージュアートワークが付属!!」。
同サイトが主に扱っているのはかなりハードな実験音楽なので、ユルめのサンプル音源と煽り文句がうまく噛みあわず、まったくイメージが湧かず、そのまま1ヵ月が過ぎていった。そうこうしているうちに巷ではチルウェイヴということが言われはじめる。よくわからないのでさりげなく野田編集長に訊いてみる。「チルウェイヴって何?」。答えは「(いろいろ解説があった挙句に)要するにシューゲイザー+ディスコだよ!」。そうか、ディスコか......。さらに1ヵ月。ふと、ジェット・セット・トーキョーで見覚えのあるジャケットが目に入る。煽り文句は「Washed Out"Life of Leisure"に密かに匹敵のチルウェイヴ裏傑作2010!! 絶対オススメです」。アート・イントゥー・ライフの煽りとはどうしても結びつかない。でも、ジャケットはたしかにレインジャーズである。しかし、なぜか試聴盤はない。ジェット・セットの煽り文句は続く「USインディ・シンセ最新隠れマスト・アルバム、ようやく再入荷です。Washed OutSampsJulian Lynchをつなぎそうで微妙に外れるサイコ感覚が死にそうに素晴らしい!!」。もっと続くけど、やめておこう。「再入荷」というひと言に確信を得て、思い切って買ってしまった。ちなみにワルシャワのサイトでは次のように煽られている。「2009年に、Not Not Funからカセット・リリースをしている、Joe Knight の Rangers のヴァイナル・リリース! ブログ上では、"エレベーター・サイケ"とか、"ミラーボール・ファンクナゴジック・ポップ"とか言われていますが、OESEレーベルの得意とするところの、エレクトロ+ギターなローファイ感満点で、ズルズルなひとりサイケ・ポップ。もちろん、Ducktails周辺ファンはドツボでしょう!」

 こうなったら「どサイケ・アヴァンポップ」なのか「チルウェイヴ裏傑作」なのか「ミラーボール・ファンクナゴジック・ポップ」なのか、自分の耳で確かめてみるしかない......と思って、とにかくターンテイブルへ。
 おー。これは......。
 煽り文句はすべて合っているのかもしれない。これはいい......。ダックテイルズのファンではないけれど「ドツボ」だった。単なるユルめのインストゥルメンタル・ロックで、小細工は何も弄されていないし、いちばんいいなと思った"ベアー・クリーク"はアンダーグラウンド系のヒップホップにも聴こえるし、曲によってはもうちょっとでフュージョンになりかねないという加減がたまらない。僕が煽り文句を書くとしたら「細野晴臣と山下達郎が70年代に出会ってはっぴいえんどとは違うバンドを結成していたらこんな感じだったかもしれません(ウソ)」とか「タレンテルやオン・フィルモアをひたすら軽くした感じです! マスト! チェースト! バプティスト!」とか書くだろうか。あー、それにしても暑い。PCの調子が悪くなってきたので、終わりにします。

Chart by BEAMS - ele-king

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1

Waves

Waves Encounter BEAMS BRAIN »COMMENT GET MUSIC
BEAMS RECORDSでもこれまで大プッシュしてきたアーティストKuniyuki Takahashiと、Nobuhiko'Ebizo'Tanumaが新たに始動させたバンド・プロジェクト"waves"のデビュー・アルバム!ダンスミュージックをインプロビゼーションで再構築するというコンセプトの元、ギター/シンセサイザーにイアン・オブライエン、ドラムにみどりん(Soil &"Pimp"Sessions)という豪華ゲストを迎え、それぞれが長いキャリアの中で培ってきたアイデンティティが折り重なった、叙情性豊かなサウンドを披露!透明感溢れる絶品のグルーヴは、多くのリスナーを陶酔へと誘うに違いない!

2

Quantic presenta Flowering Inferno

Quantic presenta Flowering Inferno Dog With A Rope Tru Thoughts »COMMENT GET MUSIC
ラテンを飛び越えレゲエ、カリビアンをも飲み込んだ新作!「Tradition In Transition」がロングセラーになっているクアンティックの最新作は、21世紀版オーセンティック・グルーヴの連発!前作同様中南米の音楽を中心としながらも、そこにレゲエ、ダブの要素が加わり、一層のゆるさと独特なグルーヴが生まれた新たなるトロピカル・ミュージック!スティール・パルスの名ドラマー、コンラッド・ケリー、サルサ界の重鎮ピアニスト、アルフレディト・リナレスといった一流ミュージシャンの参加も利きドコロ! ラテンを飛び越えレゲエ、カリビアンをも飲み込んだ新作!「Tradition In Transition」がロングセラーになっているクアンティックの最新作は、21世紀版オーセンティック・グルーヴの連発!前作同様中南米の音楽を中心としながらも、そこにレゲエ、ダブの要素が加わり、一層のゆるさと独特なグルーヴが生まれた新たなるトロピカル・ミュージック!スティール・パルスの名ドラマー、コンラッド・ケリー、サルサ界の重鎮ピアニスト、アルフレディト・リナレスといった一流ミュージシャンの参加も利きドコロ!

3

Wareika

Wareika Harmonie Park Perlon / Octave-Lab »COMMENT GET MUSIC
ミニマル・テクノ~ハウス・シーンの新鋭ユニット、Wareikaによる絶世のジャム・セッション!デビュー・アルバム「Formation+3」が耳の肥えたリスナー達に絶大に支持されているWareika。今作は63分にも及ぶロング・セッションを収録したもので、驚くべきはその即興的に流動していくサウンド!所々でビートが見え隠れしながら、ジャズ、ハウス、ダブへとジワジワと変容していく様は圧巻!これは間違いなく今年度ベスト・ディスク入りの1枚でしょう!ミニマル・テクノ~ハウス・シーンの新鋭ユニット、Wareikaによる絶世のジャム・セッション!デビュー・アルバム「Formation+3」が耳の肥えたリスナー達に絶大に支持されているWareika。今作は63分にも及ぶロング・セッションを収録したもので、驚くべきはその即興的に流動していくサウンド!所々でビートが見え隠れしながら、ジャズ、ハウス、ダブへとジワジワと変容していく様は圧巻!これは間違いなく今年度ベスト・ディスク入りの1枚でしょう!

4

Vinicius Cantuaria

Vinicius Cantuaria Samba Carioca P‐Vine »COMMENT GET MUSIC
才人、ヴィニシウス・カントゥアリア3年ぶりの新作は、オーセンティックなサンバ、ボサノヴァながらも他とは格の違いを見せ付ける素晴らしい仕上がり!プロデュースに盟友アート・リンゼイ、そしてゲストにジョアン・ドナート、マルコス・ヴァーリ、ビル・フリーゼルといった超大物を迎えた本作は、そんなゲストの影も感じさせぬほどのヴィニシウスの確立した存在感と、どこまでも上品なプロダクションに感涙!この歌声がたまりません!才人、ヴィニシウス・カントゥアリア3年ぶりの新作は、オーセンティックなサンバ、ボサノヴァながらも他とは格の違いを見せ付ける素晴らしい仕上がり!プロデュースに盟友アート・リンゼイ、そしてゲストにジョアン・ドナート、マルコス・ヴァーリ、ビル・フリーゼルといった超大物を迎えた本作は、そんなゲストの影も感じさせぬほどのヴィニシウスの確立した存在感と、どこまでも上品なプロダクションに感涙!この歌声がたまりません!

5

V.A.

V.A. Next Stop Soweto Vol.3 Strut »COMMENT GET MUSIC
洗練されたアフリカン・ジャズの数々に驚愕!多くの優良な再発を手掛けてきたレーベルStrutから、アフリカン・ミュージックをフックアップしたコンピレーション・シリーズの最新作がリリース!今回はサックスやピアノがクールな調べを奏でるモダン・ジャズから、へヴィなベースとホーン・セクションでグイグイ引っ張るジャズ・ファンクまで、欧米のジャズに接近したアフリカ産オールドジャズを多数収録!アフリカにも存在していた高クオリティーのジャズにスポットを当てた素晴らしい内容!

6

Mark E

Mark E Works 2005-2009 Vol.2 Merc »COMMENT GET MUSIC
コアなソウル~ディスコ~ハウス系クラブ・ミュージック・リスナーから、今最も注目を集めるといっても過言ではない、UKはバーミンガムのクリエイター、マークEの作品集の第2弾!絶妙なソウル、ジャズ、ディスコ・エディットを軸に生み出されたビート・ダウントラックは、いずれもダンスホールに漆黒のムードを運んでくれそうな絶品のプロダクション!セオ・パリッシュ、ムーディーマン好きはお見逃し無く!コアなソウル~ディスコ~ハウス系クラブ・ミュージック・リスナーから、今最も注目を集めるといっても過言ではない、UKはバーミンガムのクリエイター、マークEの作品集の第2弾!絶妙なソウル、ジャズ、ディスコ・エディットを軸に生み出されたビート・ダウントラックは、いずれもダンスホールに漆黒のムードを運んでくれそうな絶品のプロダクション!セオ・パリッシュ、ムーディーマン好きはお見逃し無く!

7

Uncle Funkenstein

Uncle Funkenstein Together Again P-Vine »COMMENT GET MUSIC
ここ最近再び精力的かつ良質なリリースを重ねている名門レーベル、JAZZMANによる驚きのリイシュー!世界のコレクターが探し求めたジャズ・ファンク界の秘宝中の秘宝な激レアアルバムがこちら。サックス奏者、ラッセル・ウェブスターがStrata Eastらにも作品を残すインディアナポリスのミュージシャン達を従えて披露した、圧巻のジャズ・ファンク・チューンがズラリ!コレはスゴイ!ここ最近再び精力的かつ良質なリリースを重ねている名門レーベル、JAZZMANによる驚きのリイシュー!世界のコレクターが探し求めたジャズ・ファンク界の秘宝中の秘宝な激レアアルバムがこちら。サックス奏者、ラッセル・ウェブスターがStrata Eastらにも作品を残すインディアナポリスのミュージシャン達を従えて披露した、圧巻のジャズ・ファンク・チューンがズラリ!コレはスゴイ! "

8

Gabor Szabo

Gabor Szabo Jazz Raga Light In The Attic »COMMENT GET MUSIC
モンドなサイケデリック・ジャズの名盤が再発!ボビー・ウーマックやチック・コリアといった名うてのミュージシャン達との共演経験も持つハンガリー出身のジャズ・ギタリスト、ガザール・ザボ。名門ジャズ・レーベルIMPULSE !の初期にリリースされた今作は、彼がフラワー~サイケデリック・カルチャーに影響を受けて吹き込んだという異色の1枚。エキゾチックなシタールとギター、そして独特なロー・ヴォイスが織り成す音世界は唯一無二の桃源郷的サウンド!Caravan、Summertimeといったカヴァーも秀逸!

9

Vitor Assis Brasil

Vitor Assis Brasil Desenhos Celeste »COMMENT GET MUSIC
ブラジル・ジャズの至宝と言われるアルト・サックス奏者、ヴィトル・アシス・ブラジルによる66年作が遂にCD化!当時若干21歳であったヴィトルの1stアルバムにあたる本作は、ピアノにテノーリオ・ジュニオール、ドラムにトリオ・カマラのエヂソン・ロボという夢のような布陣。サンバのリズムが軽やかな楽曲から優雅なワルツまで、モードからの影響も取り入れた演奏も聴きドコロ。どれも溜息が出る程の美しさです!

10

Djan Djan

Djan Djan Djan Djan P-Vine »COMMENT GET MUSIC
ワールドミュージックの美しきユートピア!グラミー賞の受賞で一層注目が高まるコラ奏者、ママドゥ・ジャバテが、タブラ奏者ボビー・シン、ギタリストのジェフ・ラングと共に完全即興で作り出した本作は、それぞれの国籍のルーツミュージックを見事にミクスチャーした唯一無二のサウンド!アフリカの楽器コラとインドのタブラ、そしてスライド・ギター、それぞれが奏でるエキゾチックな音色が奇跡的な融合を果たした、美しきオリエンタル・ミュージック!

Twin Sister - ele-king

 これはもう......チルウェイヴというよりもステレオラブである。クラウス・ディンガーのドラミングをさらにライトにして、コクトー・ツインズめいたギターが煌めいているなか、女は息を吹きかけるように歌っている。1曲目の"ジ・アザー・サイド・オブ・ユア・フェイス"はクラウトロックのドリーム・ポップ・ヴァージョンだ。お洒落だが、イージーではない。そして2曲目の"レディ・デイドリーム"を聴きながら、昼の1時になると缶ビールを手にしてしまう自分がいる、というわけだ。この猛暑を楽しむには、このぐらいのことをしなければ......。まるでこんな気持ちを先回りするように、"レディ・デイドリーム"は涼しい水の音で終わっていく。ロング・アイランド出身のブルックリンの4人組はなかなかツボをわかっている。
 "ミルク&ハニー"はどう聴いてもビョークからの影響だ......が、曲の展開にはステレオラブ的な軽快さがあり、音は窓の外の眩しい光に溶け込んで、聴き惚れているうちに思わず冷蔵庫に手が伸びてしまう。いかんいかん。大人のソーダ水だからといってもほどほどにしないとな......。
 問題は"オール・アラウンド・アンド・アウェイ・ウィ・ゴー"だ。これをチルウェイヴと呼ばず何と言おうか。この曲はディスコビートに乗ったフレンチ・ポップであり、キラキラとしたキッチュな夢想である。続く"ギャラクシー・プラトー"は、バンドの音楽的野心を示すドローン/アンビエントの曲で、1970年代初頭のクラスターに接近する。最後の曲"フェノメノンズ"もまたチルウェイヴィな曲だが、洗練されていて、このバンドの底力を感じる......そしてその前に、大人のサイダーをもう1本手にしている自分がいる、というわけだ。無理もない。この素晴らしい天気になんともドリーミーな音楽、そして夏のあいだ自分はひとりだ。
 ツイン・シスターに限らず、おおよそUSインディ・シーンは夢から醒めようとしない。キャンディ・クロウズのアルバムには早くもポスト・アニマル・コレクティヴの予兆を感じる。まどろみのなかで新しい場面が着々と用意されているようである。
 
 ツイン・シスターのこれはまだミニ・アルバムだ。ウォッシュト・アウトと同様に、というか、その他多くのUSインディと同様に、ヴァイナルが先行発売されて、デジタルはパスワードでダウンロードするという仕組みだ。この形態は、この1~2年でゆっくりだがUSインディ・シーンで拡大している(日本では誰が、どこがそれを先にやるのだろう)。
 アルバムのなかにはインサートが1枚あるが、そこには家のなかのカラフルな部屋の写真がいくつかデザインされている。そのあたりの感覚は、僕にとって今年のベストな1枚、ビーチ・ハウスの3枚目とも近いと言えば近いのかもしれない、が、ツイン・シスターのほうがポップでファッショナブルである。より多くの人間がアプローチできるのはこちらのほうかもしれない。ヴァンパイア・ウィークエンドは数年後に中古屋に出回るだろうけれど、ツイン・シスターは......、まあ、微妙なラインだろう。逆に言えばそれだけポップということで、そしてこの手のベッドルーム・ポップは今後もっとたくさん出てくるのだろう。

[Techno] #5 by Metal - ele-king

1. El Rakkas / Extreamely Cheap & Effective Ep | Dub Square (UK)


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 エル・ラッカスは、オーストリアの第二の都市ガーツよりエレクトロニカ、ダブステップをもとにリリースを重ねているアーティストです。先ごろではUS西海岸の〈ロー・ダブス〉からリリースした「Sence Of Disease」でも、レゲエやハウスとミックス可能なダブステップを展開していました。音もきれいで使いやすい曲です。
 〈ダブ・スクエア〉はオーストリアのヴィエンナを拠点にネット・ラジオを母体に活動するレーベルで、DJ IZCと女性アーティストであるCA.TTER等が中心になり、デトロイト・テクノから影響された一捻りあるエレクトロやダブステップをリリースしています。今回届いたシングルはエレクトロニカ、もしくはテクノ側からのアプローチのトラックで、極限までそぎ落とされたミニマル・ハウスを下敷きに、キックを裏打ちにし、リズムに変化をつけたトラックです。ポスト・ミニマルと同時にポスト・ダブステップのひとつの方向を提示したシャックルトンの「3EPS」、あるいは2562のアルバムで知られる〈マルチヴァース〉からミニマル・テクノをリリースするオクトーバーの作品にも通じるアイデアがあり、本当に最小限の音でリズムの揺らぎを追求した曲です。リミックスはカールステン・ニコライ率いる〈ラスター・ノートン〉や、ノルウェーから変態的なディスコのリリースで知られる〈セックス・タグ・マニア〉等、エレクトロニカのフィールドからエクスペリメンタルなトラックを発表しているF・ポマッスルが手がけ、低音が強調され力強い倍音が広がる音響的なダブ・ヴァージョンはどくどくと波打つような独特の響きを持っています。サイン波で作られた冷たいハットもアクセントになり、とても緊張感があるトラックに仕上がっています。ミニマルで言えば、インクセックやジェイ・ヘイズの〈コンテクステラー〉からのシングルに近い雰囲気です。DJをしていると前後の曲のバランス感が気になります。テクノに比べダブステップには音圧が高く、低音が強い曲が多いので選盤には注意が必要です。このシングルは線は細く音楽的な深みには欠けているものの、ミニマル・ハウスの側から音圧やバランスを変えずにリズムに変化をつけることができます。ミニマルのDJでダブステップに興味がある人はこの辺のレコードをセットの中に組み込んでみてはいかがでしょうか。ミニマルとダブステップのあいだを「キープ」しながら繋ぐことができる貴重なDJツールです。

2. Oriol / Coconut Coast | Planet Mu (UK)


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 これはいままでになかった新しい組み合わせの音楽です。ダヴステップやエレクトロを通過した新しい感覚のディスコです。スペインのバルセロナ出身のオリオールはロンドンのブロークン・ビーツのシーンより頭角を現し、いまでは売れっ子プロデューサーとして活躍するフローティング・ポインツに見初められた逸材で、ミュー・ジックを筆頭にUKエレクトロニカの礎を築いた〈プラネット・ミュー〉が期待をこめて送り出した新人でもあります。ガラージとエレクトロニカ、ダブステップをベースに、70'sのソウルやディスコ、フュージョンからのメロディーを取り入れ、わかりやすく現在の音に消化しています。コズミックで美しく広がるシンセはブリストル産のダブステップのような寂しげで内向的なメランコリーではなく、UKのものには珍しくポップで明るい和やかなメロディを奏でています。例えるならイアン・オブライエン+フェイズ・アクション+フォーテットと言ったところでしょうか。ヴォーカル・プロダクションも90'SのUSディープ・ハウスを彷彿させるハイレヴェルな出来です。リミキサーには〈ランプ・レコーディング〉や〈ラッシュ・アワー〉からグライムやダブステップをリリースするファルシィ・DL、〈プラネット・ミュー〉のオーナーでもあるミュー・ジックことマイク・パラディナスの変名プロジェクトであるジェイク・スラセンジャー、〈パンチ・ドランク〉からのリリースでも知られ相棒のブラックレスと共に〈ブランテッド・ロボッツ〉を運営するショート・スタッフが起用され、幅広いリスナーに向けられたシングルです。
 なかでもジェイク・スラセンジャーのリミックスは秀逸で、原曲の良さを素直に拡大しバレアリックで壮大なシンセが軽やかなビートとともに宙を舞うとても美しい曲に仕上がっています。ミュー・ジックを含めた彼のキャリアのなかでも屈指の名曲と言えるのではないでしょうか。ダブステップを契機としたUKアンダーグランドの掘り起こし作業のなかから面白い動きが起こりつつあります。いまのフロアの状況だから言えるのかもしれませんが、テクノは4つ打ちのキックとハウスフィーリングの快楽性に甘えすぎていたようです。ジ・オーブやブラック・ドックなど90'sのテクノは様々なアイデアにあふれていました。イーブンキックから失われた開放感的をとりもどすためには、異なるリズムの組み合わせとタメが必要なのです。ミニマルのバランス感覚を捨て去れば新しいものが見えてくるかもしれません。

3. D Bridge / Zx81 Remixies | Fat City (UK)


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 アンダーグランドのヒップホップを中心に独自のセレクトで知られるマンチェスターのレコードショップ兼ディストリビューターである〈ファット・シティ〉からリリースされたコンピレーション「Produsers No.2」からカットされた限定のリミックス盤です。原曲はポスト・ダブステップ/ドラムンベースをリードするロンドンのD・ブリッジによるもので、エフェクトがかかったアコーディオンが中毒的に響く、ファットで味わい深い低速のブロークン・ビーツで7インチのシングルでカットされていたものです。
 D・ブリッジはUKソウル/R&Bのプロデューサーであるスティーブ・スペイセックの実弟で自ら〈イグジット・レコーディング〉を主宰し、ヒップ・ホップからダブステップまで幅広くUKアンダーグラウンドの音楽を紹介しています。先日リリースされた〈ファブリック〉からのミックスCDでもダブステップとドラムンベースを見事にミックスしロンドンのいまをしっかりと伝えていました。今回のリミックス盤ではモーリッツとともに〈ハード・ワックス〉のマスタリング・エンジニアとしてベルリンから素晴らしいダブ・プレートを送り出すシェドと、〈ヘッスル・オーディオ〉を主宰し〈AUS〉や〈アップル・パイプス〉などからUKガラージ、ダブステップ、さらにはミニマル・ハウスまでリリースするラマダンマンが起用され、それぞれ趣の違ったリミックスを聞かせています。シェドのリミックスは、原曲とほぼ同じ音を加工し、もっさりしたキックに地を這うように力強いサブベースとシャリっとしたハットのシンプルなテクノを主体に、中域で継続して響くのアナログノイズとデトロイティッシュなシンセの和音が絡み合う、ダブと言うよりもドローンに近い壮大な音饗世界を創りあげています。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインをカール・クレイグがリミックスしたらこんな感じになるのかもしれません。とにかく一服せずとも地底に引きずり込まれるような、ベルリンのミニマルの魅力を充分に伝えるずば抜けた音響のトラックに仕上がっています。
 いっぽうラマダンマンのリミックスは、原曲を倍速にし、UKファンキーをベースにジャスティン・マーチンやスウィッチのようなフィジェット・ハウスをかけ合わせた面白いグルーヴのトラックです。リズムはファンキーな曲ですがロスカのような軽さではなく、使っている音色のせいかクールな面持ちです。DJのミックスに上手くはまればいいアクセントになりそうな曲ですが、冒頭のグルーヴが取りづらいのでDJとしては腕が試されるレコードかもしれません。それにしても両面ともに素晴らしいマスタリングが施された12インチです。限定盤なのでお早めに。

Chart by JETSET - ele-king

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1

CRUE-L GRAND ORCHESTRA

CRUE-L GRAND ORCHESTRA (YOU ARE) MORE THAN PARADISE INCLUDES THEO PARRISH REMIX »COMMENT GET MUSIC
瀧見憲司率いる"Crue-L"より話題のあのトラックが遂に解禁です!!巷に出回ったあの一枚でチェック済みの方も多いかもしれないTheo Parrishによる名曲"(You Are) More Than Paradise"のスモーキー・ビートダウン・リミックスを収録!!

2

KINKA

KINKA KAZAMATSURI KENTA - MARGINAL COLLECTIVE »COMMENT GET MUSIC
KinkaとKazamatsuri Kentaによるスプリット12"が登場!中近東からバルカン半島、中南米、カリブ諸国...。国や人種を超え、クリエイターの想像力によって辺境にあるものたちの意識を繋いだ「Marginal Collective E.P」

3

RONNY & RENZO

RONNY & RENZO BROKEN FINGERS »COMMENT GET MUSIC
またしても一年振りの登場です。ベルジャン・サイキック・バレアリカRonny & Renzo!!今、この手のスローで超ディープなダンス・トラックを演らせたらピカイチな存在感のコンビによる待望の新曲、今回も間違いなしです。加えて1st.EPが当店定番化のSombrero Galaxyによるこれまた素晴らしいリミックスを収録!!

4

MAGNETIC MAN

MAGNETIC MAN I NEED AIR (REDLIGHT REMIX) »COMMENT GET MUSIC
☆特大推薦☆ご存知特大アンセムをUKダーティ・ハウス/ベース・リミックス!!SkreamとBengaの親友コンビにArtworkを加えたダブステップ最強トリオ・プロジェクトのウルトラ・アンセムを、当店激推しRedlightがリミックスっ!!

5

AFRA

AFRA HEART BEAT SELECTED »COMMENT GET MUSIC
お茶の間まで席巻する元祖和製ヒューマン・ビートボクサーAFRA!AI、COMA-CHI、BOSEなど超豪華客演陣を迎えたアナログ盤が遂に登場です!口ばっかりでスミマセン!というわけで、全て肉声だけで作られた傑作ヒップホップ・アルバム『Heart Beat』の美味しいところをバッチリ凝縮。AIを迎えたMichael Jackson「Beat It」の必殺カヴァーを筆頭に、ハナレグミ/サイプレス上野/Mummy-Dなど最上級のコラボが満載です!

6

EXILE

EXILE AM/FM »COMMENT GET MUSIC
あのインスト・アルバム"Radio"の豪華ゲストを迎えたリミックス/リワーク作!J.MitchellやAlchemist、Evidence等を招いて、更にTakeやSamiyam、Clutchy Hopkins、DJ Day等が華麗にリミックス!

7

SKREAM

SKREAM OUTSIDE THE BOX »COMMENT GET MUSIC
■'10年ベスト・アルバム候補■特大アンセム"I Need Air"にも匹敵するボム満載!!盟友Benga、ArtworkとのユニットMagnetic Manとしても人気爆発中の皇帝Skreamが、MCやシンガーを迎えて作り上げたダブステップ史上最高の"ポップ"大傑作!!

8

SOLAR BEARS

SOLAR BEARS INNER SUNSHINE »COMMENT GET MUSIC
☆大推薦☆ウォンキー以降の超新星Loneによる夕焼けディスコ・リミックスB3を収録!!Oriolのトロピカル・ダブステップ傑作"Night & Day"が当店爆裂ヒット中のPlanet Muから、USデンヴァーのレフトフィールド・ポップ・ユニットSolar Bearsがデビュー!!

9

JUZU A.K.A. MOOCHY

JUZU A.K.A. MOOCHY JUZU A.K.A. MOOCHY PRESENTS RE:MOMENTS "MOVEMENTS" »COMMENT GET MUSIC
2004年に始まった"Momentos"シリーズの最終章!Shing02、Rino Latina等をフィーチャーした先行シングルが大ヒットを記録し、期待が絶頂に達したタイミングでついにアルバムが完成!

10

KLAXONS

KLAXONS ECHOES »COMMENT GET MUSIC
遂に出ました★われらがKlaxonsの爆裂待望ニュー・シングル!!超限定カラー・ヴァイナル!!絶対マスト!!00年代後半からのUKインディ・ダンス・サウンドを産みだした最重要バンド、Klaxons。遂に完成した2nd.アルバム"Surfing The Void"からの先行シングル・カット!!

Chart by TRASMUNDO - ele-king

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1

やけのはら『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』

やけのはら 『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』 »COMMENT GET MUSIC

2

UG KAWANAMI『SK8 ROCK』

UG KAWANAMI 『SK8 ROCK』 »COMMENT GET MUSIC

3

S.L.A.C.K.『Swes Swes Cheap』

S.L.A.C.K. 『Swes Swes Cheap』 »COMMENT GET MUSIC

4

UG KAWANAMI『SK8 ROCK』

PIT GOb×DJ MUNARI 『REBORN』 »COMMENT GET MUSIC

5

LUVRAW&BTB『ヨコハマ・シティ・ブリーズ』

LUVRAW&BTB 『ヨコハマ・シティ・ブリーズ』 »COMMENT GET MUSIC

6

『ZOOTED CENTRAL PARK』

TONOSAPIENS(CIAZOO) 『ZOOTED CENTRAL PARK』 »COMMENT GET MUSIC

7

KRBT『gumblar shock vol.1』

dj cop(CIAZOO) 『gumblar shock vol.1』 »COMMENT GET MUSIC

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COMPUMA『-SLOWDOWN IN YOUR SIDE-DISCONSOLATE SUMMER』

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『7TRAX』

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WATTER(SBB)

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Candy Claws - ele-king

 喜多郎も住んでいる米コロラド州から若き8人組による2作目(かな?)。アルバム・スリーヴからも推測できるように最初から最後までロジャー&ハマースタインを思わせる50年代風シネマ・ミュージックで貫徹され、どこをとっても甘ったるいことこの上ない。エールのようなそこはかとない厭世観もなく、エレクトロニクスを控えめにしたジェントル・ピープルの生演奏ヴァージョンとでも(マイ・スペースのリストにはアイザック・アシモフにカール・セーガン、ボブ・トンプスンにブライアン・ウイルスンの名前も散見)。

 とにかく100%夢見心地。そうとしかいえない。リチャード・M・ケッチャムの絵本か何かをイメージしたものだそうで、「知られざる暮らし」を表現しようとしたものだという。おそらくはこんな場所や生活があればいいなあとか......そういうことで、アメリカの現状からすれば逃避以外のものでもない。ただし、完成度は高いので音楽的には逃げ切っているといえる。別名義ではパンクなどもやっているらしいので(ケイヴ・ウーマン、ファイアー・ブリーサー、グレート・ルーム・ヴィクトリアン、サワー・ボーイ・ビターガールなど)、これだけを聴いて呆れた若者たちだということも適わないというか。

 考えてみれば、ゼロ年代は、対テロ戦争に監視社会、移民の暴動に大恐慌や大量失業と続いた最悪の10年だったので、反対にこれだけ桃源郷に対する思いが強く出てくることは自然だし、最悪を描写することだけがポップ・ミュージックではないともいえる(そのような気持ち=向上心があることを「動物化」に対する「人間」といい、それを食い物にしているのが江原とか勝間とか)。それこそ「シャングリ-ラ」というのもそうやって1933年にジェイムズ・ヒルトンが創作した概念で、世界大戦から逃れたくて生み出されたものだったわけだし。いまとなっては、♪夢でキス、キス、キス~とかになってますけれどー。

 ヴァン・ダイク・パークスやウォール・オブ・サウンドなど細野晴臣が参照し続けたサウンドをベース3割り増しで再現しつつ、ノスタリジック一辺倒にならない手際も実にお見事。甘ったるい音の処理はケヴィン・シールズがア・クワイエット・リボルーションのプロデュースを手掛けたパターンを思い出す。『裏』ではなく、『アンビエント・ミュージック 1969-2009』に2010年の項を追加するとしたら、間違いなくこのアルバムがエントリーです。

 ぼくがロマンの語り手になり切れない部分は、つまりロマンがしばしば語り手の自己肯定を前提にして、ナルシズムに陥りやすいからで、対立物を内包するとくずれてしまう性格をもっているからだ、という気がする
寺山修司(唐十郎との対談『劇的空間を語る』76年3月)

 これは丑三つ時に見た奇天烈な夢の話
 夢の中で夢が夢であると自覚したばかりに
 私は私と分裂した悲しき性に
 汝の半身を探し闇の中
志人"ジレンマの角~Horns of a Dilemma~"


 現在の志人の凄みとは、00年代初頭にヒップホップ・グループ降神のラッパーとして日本語ラップ・シーンに鮮烈に登場してから約10年間、悩み、懊悩し、思想や価値観やラップのスタイルを劇的に変化させながらも決して歩みを止めなかったからこそ獲得できた代物だと思う。


志人 / ジレンマの角 EP ―Horns of a Dilemma EP―
Temple Ats

 今回、志人のシングルはアナログでリリースされている。もしかしたら、「お、久々のリリースじゃん」と思う人もいるかもしれないが、実は昨年も、家族を主題にした「円都家族~¥en Town Family~」というシングルをポストカード・レコードという特殊なレコードでリリースしている。さらに、今回のアナログにも収録された、志人が志虫という名でいくつもの虫に成り代わり物語を紡ぐ(宮沢賢治の『よだかの星』を彷彿とさせる)"今此処 ~Here Now~"とDJ DOLBEEのインストを加えた増補盤を懐かしの8cmCDという形態で発表してもいる。
 それらは、失われていくメディアに焦点を当てるという企画の一環で、ダウンロード配信など、急激に変化する昨今のメディア環境に対する彼らなりのレスポンスなのだろう。志人らが主宰するインディペンデント・レーベル〈Temple ATS〉のアートワークの要である画家の戸田真樹の絵も含め、手作りの「モノ」を残すことへの強いこだわりが感じられる。
 "今此処"のクレイアニメーションのMVなどが収められた『明晰夢シリーズvol.1』やポエトリー・リーディングのイヴェントに飛び込みで参加する志人の姿を撮影した『森の心』といったDVDもひっそりと世に出回っている。また、「ジレンマの角 EP」に収められた"夢境"のクレイアニメのMVは秋に、NHKで放映される予定だという。ヒップホップ・シーンから遠く離れた場所で、彼らは変わらず自分たちの活動を続けてきたのだ。
 そして、"ジレンマの角"をリード曲とするアナログも〈Temple ATS〉のHPで購入すると、特典としてCDとポストカードが付いてくるという仕組みになっている。ラップ入りの曲が3曲、インストが2曲収められているが、すべてのトラックを担当したのはDJ DOLBEEで、音楽的に言えば、エレクトロニカ、アンビエント、ヒップホップとなるだろうか。とはいえ、何をおいてもやはり特筆すべきは志人のラップの圧倒的なオリジナリティである。

 "ジレンマの角"は、志人が、無実の思想犯、警察官、裁判官、医者、看守、死刑執行人、囚人、ガーゴイルなどに扮し、国家権力に囚われ死刑を宣告された主人公と思しき、野蛮思想に侵されたとされる無実の思想犯を中心に展開するストーリーテリング・ラップで、まるでATG映画のような重苦しいムードに満ちている。意図的に劣化させたノイジーな音質はまさにATG映画のざらついた映像のようで、その世界観は大島渚が死刑制度をテーマに撮った映画『絞死刑』を連想させる。危険な香りを漂わせながら、鬼気迫るラップを披露する、一聴して率直に「ヤバイ!」と思わせる志人は久々だ。
 このアナーキーな感覚は、2005年にリリースされたアナログでしか聴くことのできない"アヤワスカ"以来だろう。ちなみに僕は、三島由紀夫、チェ・ゲバラ、ジミヘン、ジャニス・ジョプリン、サン・ラ、バスキアといった過去の文学者や革命家やミュージシャンらの名前をリリックに盛り込み、路上の怒りが渦を巻きながら天空に舞い昇り優しさに変わっていく、麻薬的な快楽の潜むこの曲が、志人の作品のなかでも1位、2位を争うぐらいに好きだ。

 リーマン フリーター ディーラー 
 ブリーダー Dremaer ハスラー やくざ 
 Jasrac シャーマン ターザン 
 ターバン巻くサーバント 
 We are Music Mafia have No Fear 
 FREEDOMを作り出し 救い出すビーナス 
 Winner Loser Who is the Luler(ママ) in this earth?
 I ask You やさしく言う まさしく 君だ
"アヤワスカ"

 ◆無実の思想犯
 そうだ あのとき私は確かにアナーキーな連中とばかりつるみ
 社会からは脱藩人よばわり 盛り場の話題はいつも中身無き冗談か
 国家権力から逃れる方を夜長に語りあかした
 空が白むまで 朝もやが稲妻で 引き裂かれて行くのをただ睨むだけ
 気が付けばそこにはもう誰もいなくなって
 周りには口を尖らした どたま来たお巡りが

 ◆警察官A......「野蛮思想に冒された犯罪人よ じたんだ踏もうが時間だ
 お前にもう夢を見る権利は無い」

 逃げなきゃ 後ろ手に回される 絞め縄
 二メーターはある権力者達に上から押さえつけられ
 あっという間に 前後塞がり 暗がりに砂を噛み
 不渡りつまはじきものの姿に
"ジレンマの角"

 "アヤワスカ"にも近い部分はあるが、"ジレンマの角"は明確に戯曲という形式が採られている。が、しかし、この曲は紛れもなくラップ・ミュージックとして成立している。この2曲に関して言うと、苛烈さという点において、ソウル・ウィリアムズやマイク・ラッドなんかと同じ匂いを嗅ぎ取ることができる。
 いずれにせよ、日本でこんな芸当をやってのけるラッパーを志人以外に僕は知らない。詩人が朗読しているかと思えば、役者のセリフ回しのような語りに切り替え、一瞬ラガ調の声音でかましてみせたりもする。志人のとどまることを知らない自己内対話のエナジー放出するために必然的に発明されたスタイルなのだろう。

 「私」への深い疑念からくるラップへの苛烈な欲求、言い換えれば、近代的自我の解体への欲望と言えるかもしれない。近代的自我に亀裂を入れて、その危うさや不確定さを炙り出そうとするのは、志人の表現の底流にあるもので、我を忘れるほどの限界状態から真実を手繰り寄せるために志人はラップの技術を鍛え、進化させ、ときに驚異的な速度に身を任せているように思える。
 まるで千手観音の手が、五感に物凄い勢いで襲いかかってくるような変幻自在のラップには、聴く者の視覚や聴覚などの感覚を統一させる力を感じる。それはいわば明確なトリップ体験であり、個々の枝分かれした感覚のその奥にある根源的な感覚に触れてしまうような、共感覚の稲妻に打たれる経験である。志人のラップのスピードは共感覚へ到達するための、未来を生み出す生命力に溢れた速度である。
 ことばは生きものである、ということを志人は全身を楽器にすることで体現し、また彼のラップを聴く者はそのことを全身で痛いほど感じることになる。志人は日本語のラップ表現を意味と音声と物語の構成といったいくつかの点において、明らかに次元が違うところまで持って行ってしまった。韻を踏むことでイメージを膨らませ、物語を予期せぬ方向へ転がし、ことばとことばの連なりがまた新たなイメージを喚起させる。

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 「とりたて何の理由も無いですが、鳥だって色んな色を持っているはずなのに
 どうして僕はこんなに真っ黒で小汚ねー色をしているんでしょう?」と問いかける
 「お日様の様にどうしたら成れるの あの真っ赤っかな色に成りたかったんだ
 時たま邪な気持ちを残したお星様に聞いてもさっぱり分からなんだ
 名前も知らないカラスが一匹飛んで来たとき
 浜辺の白波 黒く汚れたこの身を洗い
 何万年後も流れ星追い 嫌がってもやがて年老いる僕らは
 今までのままこれからのカラーを探して どんくらい根比べ重ねてどんぶら大海原
 日溜まりの中で暗闇を焼き払い給え 名前の無い僕は
 猛スピードでモスグリーンに曇った街を行くモスキート
 もう救い様の無い都市はホスピタル 夜の持つ魅了に取り憑かれたヒーローは
 次の朝、ポルノスターになりました
 アスリートの吹かすウィード
 唐墨色に染まる空のオリオン座に恋をした少女は
 君の心なら全てお見通しさ ってな具合にカラカラとただ笑うんだ
"私小説家と黒カラス"(『Heaven's恋文』)

 「ことばの偶発的な干渉=共鳴の自由を許す」(今福龍太)とでも言えようか。ことばとことばの隙間に壮大な冒険への扉を無数に用意し、そして、どの扉を開けるかは、そのラップを聴く人間次第なのである。志人は日本語ラップ界のダダイストであり、モダン・ビートニクの詩人である。そんな形容さえ、僕はまったく大袈裟に思わない。
 2002年に降神がCDRによるデビュー・アルバム『降神』を発表した後、志人のフォロワーが大量に現れたが、「THA BLUE HERB以降」や「SHING02以降」という日本語ラップの歴史認識が仮に成立するのであれば、間違いなく「志人(降神)以降」というのも成立することになる。まあ、誤解されないように一応書いておくが、それは商業的成功という意味ではなく、あくまでも芸術的観点から考えた場合である。


photo by 新井雅敏

 ところで、『降神』の2曲目を飾る、ファンのあいだではクラシックの呼び声も高い"時計の針"の最後で、「血染めの鉢巻き絞めて印税もらって勝ち負け気にして死んでろ 特に お前と彼等」と、商業主義に走るBボーイたちを唾を吐きながらディスしていたことを思えば、ある時期から志人は随分優しくなった。いまは口が裂けても「死んでろ」と言い切ることはないだろうし、「hate=憎しみ」の感情をあからさまに表に出すこともなくなった。
 何が原因でそうなったかは知らない。年齢のせいもあるだろう。デビュー当時の降神には感じられなかった友愛をいつからか率直に表現するようになった。初期の攻撃性や狂気を愛したリスナーは戸惑ったに違いない。だから、もちろん降神や志人をずっと追い続けているファンはいるだろうが、一方で、彼らのリスナー層は変わっていっているように思える。
 実際のところ、僕もある時期、志人のラップとことばを素直に受け入れることができなかった。何年か前、湘南の江ノ島の海の家だったと思うが、志人のライヴをオレンジ色の夕陽が深い闇に沈まんとする美しいロケーションのなかで観たことがある。具体的には思い出せないが、志人が放った自然回帰やエコロジーや友愛のことばは、僕にはあまりに無垢なことばに聴こえ、愕然としたことがある。正直、最後まで観ていられなかった。

 「それは、お前が偏屈で心が汚れているんだよ」、ということであればむしろ話は早いが、しかし、似たような感想を持つ人間は少なくないということだ。いや、これは本当にきわどく、危うい現代的な問題なのである。
 僕は志人というラッパーが、宇宙の真理や自然の偉大さを考えもなしに漠然とペラペラと喋るスピリチュアリズムかぶれの軽薄な人間などではないことをよく知っている。豊かな知性と感情と表現力を持つラッパーであることを知っている。裏を返せば、そんな志人であっても、いまの時代に自然回帰やエコロジーという切り口から平和を訴えることは、共感と同じぐらいの拒絶を引き出してしまう困難さがあるのだ。それぐらい自然回帰やエコロジーというのは、一筋縄ではいかないものだ。
 その意味で、「野は枯れ 山枯れ 海は涸れ すきま風が吹き 国は荒れ果てた 放火魔に 連続殺人 原子力発電所 核戦争 終わらせよう 今日からでも 君は地球さ 地球は君なのだとしたら」というリリックから穏やかに滑り出すアンビエント的な"夢境~Mukyo~"の平和主義は、果たしてリスナーにどう受け止められるだろうか。
 ともあれ、"ジレンマの角"、"今此処"、"夢境"といったまったく異なる表情の曲を1枚のアナログに収めたことには意味があるだろう。それが志人の懐の深さでもある。これは取って付けたフォローではなく、真実だ。

 そしてまた、志人の豊穣さの底を支えるものにはノスタルジアがある。それは単に幼年時代や少年時代や過去を懐かしみ感傷に浸るということではなく、人間の奥深くにある記憶を呼び覚まさせるようなノスタルジアのことだ。それはどこか稲垣足穂の「宇宙的郷愁」と相通じるし、あるいは、志人が思想的にも、芸術的にも大きくインスパイアされたであろう寺山修司の土俗的な、ある種屈折したノスタルジアを思い起こさせもする。
 "今此処"や"夢境"にももちろん滲み出ているが、2005年に発表したファースト・アルバム『Heaven's恋文』に収録された"LIFE"はとくに、ノスタルジアを結晶させた、豊かな色彩感覚に彩られた名曲である。KOR-ONEによるファンクとソウルの感性が映えるトラックも本当に素晴らしい。

嫌というほどに見た現実に疲れては/まぼろしの公園でいつもひなたぼっこLIFE

忘れかけたユーモアというものや/君にとってとっても重要な日々の匂いや色は、
街で見かけたチンドン屋/なびかせた黄色いハンカチーフ
やさしくなった自分をふと思い出すのさ/
どこもかしこも/立ち止まる足場も無く/暇も無く/芝も無い/
僕の居場所を探し出そう/この 都会に お帰り
LIFE

 しかし、こればっかりは歌詞の引用だけでは伝えられないものがあるので、聴いて感じてもらうしかない。他にも、日本の庶民的な家庭を描いているようだが、よく聴くと、現実と虚構が入り組んでいて、どこかズレが生じている"円都家族"の奇妙なノスタルジアも面白い。
 詳述は避けるが、『Heaven's恋文』のあるスキットでは、実際に寺山の映画のワンシーンが引用されている。それは、インテリ批判とも読める志人らしい軽妙なやり口で、その映画を観た人間から言わせると、「ああ、そこなのか!」と膝を打ちたくなるような風刺の効いた場面を拾っている。
 ただ、志人に寺山修司や稲垣足穂や宮沢賢治といった過去の芸術家や詩人の影を感じたとしても、志人がやっていることは、当然過去の意匠の焼き回しではないし、ましてや懐古趣味や権威主義、または衒学趣味とは程遠いものだ。
 「いまの時代がいちばん面白いと言わせたい」というのは、かつて志人が放ったことばだが、その情熱の炎がいまだ燃え盛っているということは、この新しいアナログを聴いても実感できる。さきほど、異なる表情の3曲を1枚のアナログに収めたのが懐の深さだと書いたのは、対立物を内包しながらもロマンを語ることはできる、ということに志人が挑戦しているように思える故である。

 さて、最後に、志人の刺激的な今後について書いておこう。まず、そのうち志人と渋さ知らズとの共演(競演)があるかもしれないという噂が耳に入ってきている。また、MSCのTABOO1のファースト・ソロ・アルバムにゲスト・ラッパーとして参加する予定だが、"禁断の惑星"と名付けられたSF風の曲のバックトラックを制作したのは、なんとDJ KENSEIである。さらに、〈アンチコン〉とも縁の深いカナダのラッパー、BLEUBIRDと録音した数曲は、おそらく日本のヒップホップ・シーンに小さくない衝撃を与えることになるだろう。そして願わくば、ごく少数しか流通しない(させない)「ジレンマの角 EP」の楽曲が、なんらかの形でより多くの人に届くようになればと思う。まあ、ということで、志人の今後の展開を楽しみに待とう。

Essential Logic - ele-king

 ザ・スリッツザ・レインコーツのオリジナル・メンバーだったパロマ・ロメロは真摯なキリスト教徒になり、そしてエックス・レイ・スペックスとエッセンシャル・ロジックのオリジナル・メンバーだったローラ・ロジックの名前で知られるスーザン・ウィットピーはハレ・クリシュナに入信した。ともに80年代に生まれ変わっている。こうした事実からなにかを導き出したい......というわけではない。アリ・アップはジャマイカに移住し、テッサ・ポリットはヘロイン中毒者になり克服した。『ザ・フラワーズ・オブ・ロマンス』のジャケに写ったジャネット・リーはおよそ10年後にザ・ストロークスを見出した。当たり前の話だが、彼女たちにもいろいろあったのだ。

 ジョン・ライドンがザ・レインコーツと並んでパンクを別次元に押し上げた功績者として評価したのが、エックス・レイ・スペックスである。ソマリア系移民の娘であるポリー・スタイリーンが率いたそのパワフルなパンク・バンドのサックス奏者となったローラ・ロジックは、しかし早々とバンドを抜けると、ザ・ストラングラーズの『ブラック・アンド・ホワイト』に参加して得た金を持って、1978年、自分のバンド、エッセンシャル・ロジックのデビュー・シングル「アエロソル・バーンズ」を録音する。バンドはその翌年には〈ラフ・トレード〉からデビュー・アルバム『ビート・リズム・ニュース』をリリースしているが、同じ時期にロジックはザ・レインコーツのデビュー・アルバム、あるいはレッド・クレイオラでもサックスを吹いている。

 エッセンシャル・ロジックは典型的な――という形容はその理念からして矛盾しているが――ポスト・パンク・バンドで、そのことは高名な批評家グリール・マーカスをして「これ以上ないほど完璧」と言われたローラ・ロジックという名前からもうかがえる。パンクの「理屈じゃないんだ」という姿勢に対して彼女ははっきりと自らの名前で「理屈(ロジック)だ」と主張したのだから。そういう意味ではジョン・ラインドンが示唆したように、パンクをパンクという"型"にはめなかった彼女たちのほうがパンクだったと言える。そして"型"にはまらなかったからこそ、彼女たちは短命に終わったのだ。エッセンシャル・ロジックも1枚のアルバムと数枚のシングル、そしてローラ・ロジック名義での1枚のアルバムと1枚のシングルのみを残して終わっている。アイデアの底が付いたら終わりというのが、当時の流儀でもあった。ちなみにいまでも僕が当時のレコードとして持っているのは『ビート・リズム・ニュース』(1979年)と12インチ・シングルの「ウェイク・アップ」(1979年)、それからローラ・ロジック名義の『ペジグリー・チャーム』(1982年)の3枚で、それらはローラ・ロジックの音楽を象徴するように文字が踊っているっているようなタイポグラフィーが描かれている。これらのデザインはいましげしげと眺めても格好いい。

 『ファンファーレ・イン・ザ・ガーデン』は〈キル・ロック・スター〉からの編集盤で、このレーベルは最近、ザ・レインコーツやデルタ5、クリネックスといったポスト・パンク時代の女性が中心にいたバンドの編集盤を相次いで出している。『ファンファーレ・イン・ザ・ガーデン』はCDで2枚組で、1枚目はエッセンシャル・ロジックの軌跡、もう1枚のほうではローラ・ロジック名義での音源が聴ける。1枚目のエッセンシャル・ロジック時代の音源のほうが、いま聴いても新鮮なのは言うまでもない。

 「私たちには愛し合っている暇が与えられていないのよ」と両義的な不満を歌うロジックは、曲のなかを自由にステップを踏んで動き回り、力強くサックスを吹いている。彼女の厚みのある声、そして(ジャズではなく)大道芸のようなサックスがゆっくりと3拍子を刻みながら展開して、後半にはハチャメチャなパーティのように錯乱していく"アルバート"という曲が僕はとくに好きだったが、いちばん最初に覚えたのは〈ラフ・トレード〉の最初のコンピレーションに収録されていた"アエロソル・バーンズ"だった。それはもっとも激しい曲で、誰にも捕まえられない素早さで彼女は動いている。『ファンファーレ・イン・ザ・ガーデン』にも1曲目に収録されている。

 グリール・マーカスの記した素晴らしいライナーによれば、「ごく少数の人間にしか聞かれなくても、自分には聞こえる自分自身の声があるということを、たくさんの人が発見した時期」のなかのこれはひとつの歴史だという。マーカスの言葉もまた、ポスト・パンクとは何だったのかを的確に捉えていると言えよう。
 

 蛇足というか補足:サイモン・レイノルズの『ポストパンク・ジェネレーション』についての原稿ザ・レインコーツの記事のなかで、〈ラフ・トレード〉の理想主義について触れたが、ことの顛末について書き忘れている。〈ラフ・トレード〉の「50:50」契約は、プライマル・スクリームと〈クリエイション〉の90年代前半まで存在し、イギリスのインディ・ロックにおける良心的な契約としてアーティスト側からは望まれていたが、結局のところ続かなかった。〈ミュート〉におけるデペッシュ・モード、〈ファクトリー〉におけるニュー・オーダーのように、売れて多額の報酬を得たバンドは活動のペースが落ちていく。アーティスト側にとってはそれでいいが、レーベル側は4年のうちの数ヶ月だけ運営していればいいというものではない「50:50」契約ではレーベルの長期的運営が困難だったという話である。要するに、パーセンテージの問題ではなく、気持ちの問題だった!

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