「UR」と一致するもの

Run The Jewels - ele-king

 以下に掲げるのは、8月26日発売『別冊ele-king ブラック・パワーに捧ぐ』に収録されたジェイムズ・ハッドフィールドの原稿です。今回、同号の予告編として特別に先行公開いたします。なお彼は同誌にてビヨンセやギル・スコット・ヘロンについても書いています。(編集部)

 ラン・ザ・ジュエルズの4作目にしてこれまででもっとも重要なアルバム『RTJ4』を、5月29日のアトランタでおこなわれ、SNS上で広くシェアされたキラー・マイクのスピーチと切りはなして考えるのは難しい。数日前からはじまっていたジョージ・フロイドを殺害した警官にたいする抗議が、破壊的な展開を見せていくなかで、マイクは民衆の怒りを認めつつ、同時にまた、その怒りを自分たちのコミュニティへ向けてはならないのだと説いていた。
 「俺たちは百貨店が燃えあがるのを見たいわけじゃない」と彼は述べている。「俺たちは、体系的な人種主義を作りだしているシステムが燃えあがるのが見たいんだ」
 『RTJ4』はこのスピーチの翌週に発売されたが、これほどタイミングのいいリリースはそうそうないことである。そこには怒りがあり、ユーモアがあり、敵意を削ぐような率直さがあって、目下の状況が先取りされていると同時に、目下の状況との共鳴が見られる。ラッパー兼プロデューサーであるエルPのキャリアのなかでもっともパンチがあり、もっとも派手な作品だといえるこのアルバムは、時代の終わりのためのパーティ・ミュージックである。リード・シングル “オー・ラ・ラ” のMVのなかで予見されているのは、まさにそうしたイメージだ。そのなかで彼らは、資本主義の終わりを祝うブロック・パーティを主催し、価値のなくなった大量のドル札が燃えるそのパーティーのなかでは、浮かれ騒ぐ群衆のポップダンスが繰りひろげられている。 

 4枚のアルバムをとおしてラン・ザ・ジュエルズは、ある曲で警察の残虐さを話題にしたと思えば、次の曲ではプードルを撃ち殺すのだと冗談を言うといった調子で、まっとうな怒りと馬鹿げたユーモアを両立しつづけてきた。したがって『RTJ4』の多くの歌詞が、まるで2020年と言う年のために特注されているように見えるとしても、ことさらに予言がおこなわれていたわけではないのだ。この二人はつねにそういったことについて語ってきたのである。
 じっさい、2014年の『ラン・ザ・ジュエルズ2』収録の “アーリー” は、新しいアルバムに収録された “ウォーキング・イン・ザ・スノー” とまったく同じように、聴く者の胸をえぐるような警察の残虐さを描いたものだった──後者の曲のなかでマイクは、「その悲鳴が『息ができない』と言うかすかな声に変わるまで/俺と同じような男が」首を絞められる様子を思い描いている。このときに彼が考えていたのはエリック・ガーナーの最後の言葉だったが、死の直前のジョージ・フロイドは、同じ言葉を20回以上繰りかえしていたのだった。
 だがエルPは、インタヴューのたびに繰りかえし、現在の出来事に足並みを合わせていたいわけではないのだと語っている。自分たちの正しさが証明されるよりも、黙示録的な変人でいたいと言うわけである。こうした考えは、“プリング・ザ・ピン” に感情のこもったヴォーカル・フックを提供しているヴェテラン・ソウル歌手メイヴィス・ステイプルズ[Mavis Staples]による、次のような歌詞に表現されている。「俺が勘違いしているだけならいいんだ/だけど最悪の場合、俺ははじめから正しかったことになる」
 荒涼とした現状が描かれ、辛辣なコメディが繰りひろげられたあとで、このアルバムは、予想外にも胸を刺すような感動的なトーンで幕を閉じている。ラン・ザ・ジュエルズが仮面を取ったのは、この “ア・フュー・ワーズ・フォー・ザ・ファイアリング・スクワッド(レディエーション)” がはじめと言うわけではないが、先立つ曲の激しさのあとでは、そこで彼らが表現する感情の直接性は、いっそう印象的なものに感じられる。

 アトランタでのマイクのスピーチは、この先の彼に政治的なキャリアがありえることを示唆するものだったかもしれないが、しかしその曲のなかにおける彼の歌詞は、社会正義のヒーローというマントをまとうことを拒否している。自分の妻との会話を思いだしながら、彼は次のようにラップしている。「友人たちは彼女に、あいつなら新たなマルコムになれると言う/あいつなら新しいマーティンになれると/だけど彼女はそのパートナーに/世界は新しい殉教者を必要としているけど、そんなものより自分には夫が必要なんだと言い返した」
 たとえ世界中の注目が集まっていたとしても、頭の切れる彼には、どこで話を切りあげればいいかちゃんとわかっているのである。

It’s hard to separate “RJ4,” the fourth and most vital album by Run The Jewels, from the widely shared speech that Killer Mike delivered in Atlanta on May 29. As protests over the police killing of George Floyd a few days earlier took a destructive turn, the rapper both acknowledged people’s anger and urged them not to direct it at their own communities.

“We don’t wanna see Targets burning,” he said. “We wanna see the system that sets up for systemic racism, burned to the ground.”

“RJ4” dropped the following week, and few albums could have been better timed. At times angry, funny and disarmingly honest, it both anticipates and resonates with the current moment. Boasting some of the punchiest, most garish productions of rapper/producer El-P’s career, it’s party music for the end of times. That’s pretty much what the duo envisioned for the video for lead single “Ooh La La,” in which they preside over a block party celebrating the end of capitalism, revellers popping dance moves while burning bucket-loads of devalued dollars.

Throughout their four albums, Run The Jewels have balanced righteous anger with absurdist humour, discussing police brutality in one track then joking about shooting poodles in the next. That many of the lyrics on “RTJ4” seem tailor-made for 2020, that’s not because of soothsaying: the duo has always been talking about these things.

“Early,” from 2014’s “Run The Jewels 2,” was a depiction of police brutality ever bit as harrowing as the new album’s “Walking in the Snow”—the track on which Mike imagines cops choking “a man like me / Until my voice goes from a shriek to whisper ‘I can’t breathe’.” He was thinking of Eric Garner’s final words, but Floyd repeated the same phrase more than 20 times before he died.

In interviews, El-P has repeatedly said the duo would rather not find themselves so in step with current events: better to be dismissed as apocalyptic nut-jobs than proved right. It’s the same sentiment expressed by soul veteran Mavis Staples, who supplies the emotive vocal hook to “Pulling The Pin”: “And at best I'm just getting it wrong / And at worst I’ve been right from the start.”

After the bleakness and acerbic comedy of what’s come before, the album closes on an unexpectedly poignant note. “A Few Words for the Firing Squad (Radiation)” isn’t the first time Run The Jewels have taken their masks off, but the directness of the sentiments they express feels all the more striking after the onslaught of the preceding tracks.

Mike’s speech in Atlanta may have suggested he had a political career ahead of him, but his lyrics reject the mantle of social justice hero. Recalling a conversation with his wife, he raps: “Friends tell her he could be another Malcom / He could be another Martin / She told her partner I need a husband more than / The world need another martyr.”

Even when he has the world’s attention, he’s smart enough to know when to drop the mic.

ISSUGI - ele-king

 残念ながら8月9日に予定されていたライヴが中止になってしまった ISSUGI だけれど(コロナめ……)、最新作『GEMZ』から新たに “再生” のMVが公開されている。1枚1枚、紙に印刷して制作されたというこの映像、独特の雰囲気を醸し出していてカッコいいです(KOJOE も登場)。これを観ながら、いつかライヴを体験できるようになる日を心待ちにしていよう。

ISSUGI のバンド・サウンドを取り入れたアルバム『GEMZ』から BUDAMUNK のプロデュースによる “再生” のMVが公開! Damngood Production の Toru Kosemura、Tomohito Morita が手掛けており KOJOE も出演!

BUDAMUNK (PADS)、WONK の HIKARU ARATA (DRUM)、KAN INOUE (BASS)、CRO-MAGNON の TAKUMI KANEKO (KEYS)、MELRAW (SAX, FLUTE, TRUMPET, GUITAR)、DJ K-FLASH (TURNTABLE)がバンド・メンバーとして集結し、Red
Bull のサポートのもと制作された ISSUGI のニュー・アルバム『GEMZ』から BUDAMUNK のプロデュースによる “再生” のミュージック・ビデオが公開! 1枚1枚、紙に印刷して作られた映像作品はディレクションを Toru Kosemura (Damngood Production)、アニメーションを Tomohito Morita (Damngood Production) が担当しており、コーラスで参加している KOJOE もフィーチャーしております。

*ISSUGI - 再生 Prod by Budamunk (Official Video)
https://youtu.be/lV3JweMI8G8

[アルバム情報]
アーティスト: ISSUGI (イスギ)
タイトル: GEMZ (ジェムズ)
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
品番: PCD-25284
発売日: 2019年12月11日(水)
税抜販売価格: 2,500円
https://smarturl.it/issugi.gemz

Members are...
RAP:ISSUGI / DRUMS:HIKARU ARATA (WONK) / BASS:KAN INOUE (WONK)/ PADS:BUDAMUNK / TURNTABLE:DJ K-FLASH / KEYS:TAKUMI KANEKO (CRO-MAGNON) / SAX, FLUTE, TRUMPET, GUITAR:MELRAW

「パックマン」は2面クリア時のコーヒーブレイクがすごく印象に残ってるな
特別インタヴュー:ピエール瀧

まだまだあった!
大好評の『ゲーム音楽ディスクガイド』、待望の第2弾が登場!!

ゲーム音楽40年の歴史が生み落とした950枚もの名盤たち、それは氷山の一角に過ぎなかった──

第1弾には収まりきらなかったゲーム音楽レコードの名盤をどどんと掲載、さらに今回は、あまりにも多岐にわたるため前回は掲載を断念した非公式音源の数々、そして、そもそもレコード化されていない音源も徹底的に追求、執筆メンバーも増強し、新たにおよそ800タイトルを紹介。

日本が生んだもっともオリジナルで、もっとも世界的影響力のある音楽──その蓊々たる密林の奥深くに眠る秘宝を求め、いざ前人未到の魔境に深く分け入らん!!

監修・文:田中 “hally” 治久
文:DJフクタケ/糸田屯/井上尚昭/市村圭/魚屋スイソ

ブックデザイン:真壁昂士

[執筆者紹介]

田中 “hally” 治久
ゲーム史/ゲーム音楽史研究家。チップ音楽研究の第一人者で、主著に『チップチューンのすべて』ほか。さまざまなゲーム・サントラ制作に携わる傍ら、ミュージシャンとしても精力的に活動しており、ゲームソフトや音楽アルバムへの楽曲提供を行うほか、国内外でライブ活動も展開している。

DJフクタケ
世界初のゲーム音楽DJクラブイベント『FARDRAUT』開催に関わるなど90年代より活動。2014年に和モノ・歌謡曲公式 MIX CD『ヤバ歌謡』、2017年に玩具・ゲーム関連楽曲コンピレーションCD『トイキャラポップ・コレクション』等のシリーズ企画を手掛け過去音源の発掘やリイシューにも精力的に取り組む。ライターとして『レコード・コレクターズ』『CONTINUE』『昭和40年男』に連載中。

糸田 屯 (いとだ・とん)
ライター/ゲーム音楽ディガー。執筆参加『ゲーム音楽ディスクガイド Diggin' In The Discs』(ele-king books)、『新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019』『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』(DU BOOKS)。「ミステリマガジン」(早川書房)にてコラム「ミステリ・ディスク道を往く」連載中。

井上尚昭 (rps7575)
2001年、“レコード会社別で捉える、ゲーム音楽カタログレビュー” をコンセプトにしたウェブサイト「電子遊戯音盤堂」を開設。ゲームに限らず、洋邦アニメ実写問わずサウンドトラック全般守備範囲。本業はサウンドデザイナーで、映画/TV/広告/音楽フェスなど多岐に渡る。ゲーム関連では e-Sports の音まわりや、デベロッパーのサウンドロゴ制作など。

市村 圭‬
音楽ゲームとギターポップを専門とするライター。活動テーマは、各時代の音楽文化と相互作用しつつ進化する文化圏としての音楽ゲームの再解釈。音楽メディア「ポプシクリップ。」編集部に所属、文章屋や内部スタッフとして従事。2020年現在、音楽誌『ポプシクリップ。マガジン』で音楽ゲームに関するコラムを連載中。‬

魚屋スイソ
専ら遊ぶウェイト高めのゲーム周辺境界人。たまに作詞やコピーライティング。第4世代生まれ。好きなジャンルはテキストADV、ローグライク、ゾンビ、負けヒロイン、アシッドジャズなど。


[目次]

序文
凡例

人生の無駄づかいこそ最高の贅沢──ピエール瀧、特別インタヴュー

S1 続・歴史的名盤──音源チップ全盛期からサブスク時代の新潮流まで

・サウンドチップの音楽
任天堂 | ナムコ | コナミ | セガ | アーケードその他 | 家庭用その他 | パソコン系その他 | リバイバル | 海外パソコン

・ミニマムサンプリングの音楽
スクウェア・エニックス | 任天堂 | コナミ | タイトー | 家庭用その他(SFC) | 家庭用その他(PS) | その他

・ハード的制約から解放された音楽
シンフォニック | 民族音楽 | アコースティック~ニューエイジ | ジャジー~フュージョン | ラウンジ~トイミュージック | シンセサイザー | ロック | エレクトロニカ | クラブ | 音楽ゲーム(コナミ) | 音楽ゲーム(その他) | 音楽ゲーム(アイドル) | ボーカル | パチスロ/パチンコ | ジャンルミックス | CD-ROMで聴ける音楽

・ダウンロード配信世代のゲーム音楽
エレクトロニカ | クラブ~エレクトロニックダンス | レトロモダン~80sリバイバル | ロック | シンフォニック | アコースティック | ラウンジ~渋谷系 | ジャンルミックス | ボーカル

・アレンジバージョン
黎明期 | ロック | ジャズ~フュージョン | アコースティック | シンフォニック | ラウンジ | シンセサイザー | ダンス&クラブ | ジャンルミックス | ボーカル

・アーティストアルバム
プログレ | テクノポップ | クラブ | ヒーリング~イージーリスニング | ポスト渋谷系 | ボーカル | その他

S2 非公認音源──同人アレンジ~アンダーグラウンド系サンプリング&リミックス

黎明期 | ヒップホップ | バトルブレイクス | ハウス・テクノ | UKガラージ以降 | カバー/アレンジ | ヴェイパーウエイヴ | 同人

[コラム] ゲーム音楽DJの起源 ―そしてゲーム音楽は死んだのか?― (DJフクタケ)
[コラム] 欧米ゲーム音楽と「音源エミュレータ」#1 (田中 “hally” 治久)

S3 音盤化されていないゲーム音楽──20世紀の埋もれた名曲たちを中心に

アーケード | 国産パソコン | ファミコン | セガマークIII | メガドライブ | PCエンジン | スーパーファミコン | ニンテンドー64 | プレイステーション | セガサターン | ドリームキャスト | ゲームボーイ | ゲームボーイアドバンス | ワンダースワン | 海外製パソコン(ZXスペクトラム) | 海外製パソコン(コモドール64) | 海外製パソコン(アミーガ) | 海外製パソコン(IBM PC互換機)

[コラム] 欧米ゲーム音楽と「音源エミュレータ」#2 (田中 “hally” 治久)

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[関連情報]

・前巻『ゲーム音楽ディスクガイド』も好評発売中!

・『ゲーム音楽ディスクガイド』掲載作品よりリイシュー・シリーズが始動。
 第1弾は和製RPGの先駆け『ガデュリン全曲集』
  ⇒ https://p-vine.jp/music/pcd-25309
 第2弾は2021年最新リマスタリングの『銀河伝承』
  ⇒ https://p-vine.jp/music/pcd-27052

・田中 “hally” 治久(監修)『インディ・ゲーム名作選』も好評発売中!

別冊ele-king ブラック・パワーに捧ぐ - ele-king

世界はなぜ黒い物語を必要とするのか

インタヴュー:
ムーア・マザー
アンダーグラウンド・レジスタンス
ジェフ・ミルズ
グレッグ・テイト

Black Lives Matter とは何か
2010年代ブラック・ミュージックの50枚
2010年代デトロイトの50枚
コンシャス・ラップの30枚
ほか、映画、文学、歴史、黒人文化の大カタログ!


CONTENTS

■Interview
Greg Tate グレッグ・テイト──ブラック・カルチャーを読み解く (野田努)
Moor Mother ムーア・マザー──言葉と音、詩とタイムトラベル (ジェイムズ・ハッドフィールド/James Hadfield、五井健太郎訳)
Underground Resistance アンダーグラウンド・レジスタンス──受け継がれる抵抗のスピリッツ (野田努)
Jeff Mills ジェフ・ミルズ──記憶、そして未来へのオマージュ (三田格)

■Disc Guide
2010年代の黒人音楽の50枚 (選・文=三田格)
デトロイトこの10年の50枚 (選・文=M87)
BLMとリンクするヒップホップ30枚 (選・文=大前至)

■Columns
[Music]
Beyoncé ビヨンセ──そのラディカリズムを解説する (ジェイムズ・ハッドフィールド/James Hadfield、五井健太郎訳)
Nina Simone ニーナ・シモン──ただひたすら、革命を夢見た音楽家 (野田努)
John Coltrane ジョン・コルトレーンを追いかけて (平井玄)
James Brown ジェイムズ・ブラウン──はじめにリズムありき、そして黒いということ (野田努)
Archie Shepp アーチー・シェップ──自由と闘争の黒人音楽としてのジャズ (松村正人)
George Clinton ジョージ・クリントン──政治を好まないPファンクの政治表現について (河地依子)
Prince プリンス──彼はいつから「政治的な黒人」になったのだろうか (三田格)
Gil Scott-Heron ギル・スコット・ヘロン──黒いアメリカの本質をあらわすブルース学者 (ジェイムズ・ハッドフィールド/James Hadfield、五井健太郎訳)
Public Enemy パブリック・エナミー──政治とエンターテイメント (三田格)
Wu-Tang Clan ウータン・クラン──殺されないように自分を守りな (二木信)
Run The Jewels ラン・ザ・ジュエルズ──社会正義のヒーローなんぞにならない (ジェイムズ・ハッドフィールド/James Hadfield、五井健太郎訳)
Deforrest Brown Jr. ディフォレスト・ブラウン・ジュニア──なぜいまアミリ・バラカであり、フリー・ジャズであり、デトロイト・テクノなのか (野田努)
[Thought]
Amiri Baraka アミリ・バラカ──いつも新しい隣人 (平井玄)
Angela Davis アンジェラ・デイヴィス──すべての人にとっての先生、いまも闘い続ける哲学者 (水越真紀)
Kodwo Eshun コジュウォ・エシュン──アフロ・フューチャリズムの理論家 (髙橋勇人)
[Litetature]
James Baldwin ジェイムズ・ボールドウィン──黒人文学の可能性を広げた小説家 (松村正人)
Alice Walker アリス・ウォーカー──フェミニズムではなくウーマニズム (水越真紀)
Samuel Ray Delany, Jr. サミュエル・R・ディレイニー──ブラック・トゥ・ザ・フューチャー (髙橋勇人)
[Sports]
Muhammd Ali ムハメド・アリ──スーパースターにしてトリックスター (松村正人)
[Films]
ライアン・クーグラー『フルートベール駅で』 (三田格)
リー・ダニエルズ『大統領の執事の涙』 (野田努)
リー・ダニエルズ『プレシャス』 (三田格)
スパイク・リー『ドゥ・ザ・ライト・シング』ほか (大前至)
スパイク・リー『ゲット・オン・ザ・バス』 (三田格)
バリー・ジェンキンス『ビール・ストリートの恋人たち』 (木津毅)

■Essay
BLMの版図、あるいは警察予算の撤回をめぐって (新田啓子)
真に驚くべきこと (平井玄)
暗喩としてのアングリー・ブラック・ウーマン (押野素子)
100年後のパンデミックとポリス・ブルータリティ (日暮泰文)

■Chronicle
黒い年代記 (小林拓音)


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Chari Chari - ele-king

 冒頭から私ごとで恐縮だが、自粛期間でジャズをたくさん掘る機会に恵まれた。見つけたアルバムのひとつにアルバート・アイラー『Music Is the Healing Force of the Universe』という作品がある。1969年リリース、遡ること約50年前のフリー・ジャズ。内容もさることながら、アルバムのタイトルにとくに強く惹かれるものがあった。『音楽は万物の癒しの力』音楽と同時に言葉の持つチカラは本当に偉大だ。そしていまから紹介するChari Chari『We hear the last decades dreaming』も音楽、そして言葉の持っている「癒しの力」を携えた1枚になっている。

 20年以上のキャリアを誇るDJ/プロデューサー、井上薫がChari Chari名義で放った新作。この名義では実に18年ぶりとなるアルバムで、2016年に12インチレコードでリリースされた「Fading Away / Luna De Lobos」などを含む全12曲が収録。「作曲、ミックス、マスタリング、という行程をある時期から完全に独りの作業として行っていった」と自身のブログでも語るように(是非このブログもレヴューと併せて読んでいただきたい)細部まで非常に拘り抜かれたアルバムになっている。

 イントロやアウトロなどを除けばほぼ全てが6分〜10分を超える非常に濃い内容の楽曲が揃っており、電車窓の情景を思い起こさせるような1曲目“Tokyo 4.51”が現実からアルバムが秘める異世界への橋渡しになっている。アルバムを何度か聴いていくと大きく分けて3つの構成に分かれているように感じており(是非機会があればご本人に確認したいところ)、それぞれのトラック・タイトルに“Dream = 夢”“Agua = 水”“Haze = 霧”と一寸先の見えないような幻想的な世界観が広がる1〜4曲。幻想を飛び出し、山奥や草原といった大自然の力を感じるような5〜8曲。そしてエレクトロニックでダンス・ミュージックのグルーヴも併せ持った9〜12曲。どれも井上薫自身のバックグラウンドでもある民族音楽やアンビエント、ミニマルなサウンドがこのアルバムの随所にも散りばめられており、それらが絶妙なレイヤーで増えたり減ったりを繰り返す。

 サウンドと並行してアートワークやタイトルにも強烈なメッセージが印字されており、ジャケットに記された「Music for Requiem Ritual」= 「安息の儀式のための音楽」がこのアルバムの最大のコンセプトになっている。奇しくも2020年、コロナ禍という人類の価値観や経済活動を覆す節目でリリースされたこのアルバムは18年という時を超えて本当に奇跡のような絶妙のタイミングでリリースされたとしか言いようがない。引き続き先行きの見えない世の中に不安を抱えながらも、このアルバムが持つ「癒しの力」にどっぷりと浸かりながら、過去そして未来の10年、20年(decades)に想いを馳せるのがリスナーとしてのアルバムのアンサーになるのかもしれない。

 往年の井上薫 / Chari Chariファンはもちろん、今回初めてChari Chariの存在を知った人にとっても、この挑戦的でコンセプチュアルなアルバムを是非一度聴いて欲しいと思うし、このレビューが少しでもそれを後押しできれば幸いだ。

STONE ISLAND - ele-king

 〈STONE ISLAND〉といえば、サッカー・ファンにはもうカルト的人気のファッション・ブランドです。日本でもプレミア・リーグが好きだったりすると、このブランドに憧れてしまうものなんですよ、理由は省きますが。まあ、〈フレッド・ペリー〉のようにライフスタイルにまでおよぶブランドのひとつですね。
 で、その〈STONE ISLAND〉が地元イタリアで評判のオルタナティヴやエレクトロニック・ミュージックに特化したフェス〈C2C〉と手を組んで、「STONE ISLAND SOUND」なる音楽プロジェクトをはじめた。プレイリスト作成やレコードのリリースなど、いろいろやっていくようです。ショップでもいろいろ音楽関係が売られるそうんで、楽しみです。
 なお、プレイリストはBandcampやBuy Music Club、Spotify、Tidalといった様々なプラットフォーム上で展開されるとのこと。たとえばこんな感じです。いいじゃないですか、ele-kingとも親和性が高いリストですよ。


https://buymusic.club/list/stoneisland-stone-island-sound-curated-by-c2c-festival-selection-1

the perfect me - ele-king

 90年代の日本のオルタナティヴを代表する〈トラットリア〉レーベルの系譜にあり、現在は七尾旅人や羊文学のリリースで知られる〈felicity〉がまたしても面白い新人をデビューさせた。福岡のインディ・シーンから西村匠のソロ・ユニット、the perfect me。名前はDEERHOOFの曲名から取られたというが、ひとことで言えば、トクマルシューゴやコーネリアスないしは石橋英子をも彷彿させるアヴァン・ポップの旗手です。
 アルバムには、白根賢一(GREAT 3,manmancers)、高桑圭(Curly Giraffe)といった実力者も参加。こんな時代でも瑞々しい音楽は生まれている。そのアルバム『Thus spoke gentle machine』は今週水曜日に発売されています。チェックしましょう。
 ※なお、〈felicity〉はこの後、みぃなとルーチなる謎の新人のデビュー作も控えているそうで、これも楽しみな作品になりそうです。


the perfect me
Thus spoke gentle machine

felicity
https://tpm-music.com/


Julianna Barwick - ele-king

 昔から……、といってもたかだか数十年の話だが、ある言い伝えに、ポップ・ミュージックの20周期説がある。ポップのモードは20年で一週するので20年ぐらい前が新しく、10年ぐらい前がいちばん古く感じるというわけだ。この説を鵜呑みするわけではないけれど、ここ最近のシーンの動きで面白くなりそうだなと思っているひとつはインプロヴィゼーションで、これは『The Wire』の寄稿者ジェイムズ・ハットフィールドからグラスゴーのStill House Plantsを教えてもらって、やや確信に近づいている。70年代のカンタベリー・シーンの系譜におけるもっとも先鋭的だったアート・ベアーズをUKにおける即興の先駆AMMと交差させながら、ポストパンクのフラスコのなかで蒸留させたかのようなサウンドは、20年前のフリー・フォークを思い出させる。(そしてSHPのほかにも興味深いアクトがいくつかいる)

 そうなると、およそ10年前に登場したジュリアナ・バーウィックは現時点においては古い音楽になるわけだが、どうだろう。うん、たしかに懐かしいかもしれないし、自分の時間感覚もだいぶ狂っているので、もうよくわからないというのが正直なところだ。
 『The Magic Place』はよく聴いたし、ノー・ニューヨーク一派のひとり、イクエ・モリとの共作も忘れがたいアルバムだ。この当時は、おお、こんなユニークで美しい、しかも喜びに満ちたエレクトロニック・ミュージックを作る人がブルックリンから出て来たとずいぶん感動したと記憶している。
 そしてバーウィックが喜びであるなら、まるで同じカードの表裏のようにポートランドには憂鬱なグルーパーがいた。このふたりは、まず自分の声にリヴァーブをかけ、それを抽象的なレヴェルで使うという点で似ている。ロングトーンを多用したメロディもじつは似ている。が、そよ風に揺れる新緑のバーウィックと廃墟でひとり佇むグルーパーとでは、その音楽の色味や性格は正反対のように見えがちである。ノートパソコンのバーウィックとギターのグルーパー。ぼくがその後熱心に聴き続けたのは、言うまでもなく後者のほうだった。
 
 これは半分笑い話というか、日本人の適当さにも依拠する話だが、初来日が品川の教会だったバーウィックと上野方面の禅寺だったグルーパーというのも、まあ、象徴的ではある。グルーパーの禅寺というのは、これはしかしたまたまというか、いや、あまり深く考えずに、ホントにたまたまそうなっただけなのだろうが、バーウィックの教会というのはバーウィックだからそうなったのだろう。
 わからなくはない。彼女の音楽には神聖さがある。それは宗教的ということではない。ある種の清らかさということである。だいたい本人は、先日掲載したインタヴューにあるように、けっこう気さくな方だったりするし。

 昨年のDAZEDに掲載された彼女のインタヴューの最後の発言に、こんな言葉がある──「できる限り、地球の現状と悪に対抗する方法を考える必要がある。そして人生を楽しむこと。人生はいまでもほんとうに素晴らしく、ほんとうにそうなんだから」
 まるで大島弓子の『バナナブレッドのプティング』の主人公が物語の最後につぶやく言葉のようじゃないか。そうかぁ、なるほどなぁ、わかってきたぞ。バーウィックとはつまり、たとえどんな苦難があろうとも最終的には「人生は素晴らしい」と言えるのであって、だから彼女の音楽からは喜びが聴こえるのだろう。それは逞しさと言えるものかもしれない。

 新作『ヒーリング・イズ・ア・ミラクル』は、彼女がブルックリンからLAに引っ越して作った作品で、通算4枚目のアルバムとなる。階層化されたループを基調とする彼女のコンポジションは、ベルリンのベーシック・チャンネルのミニマル・ダブと同様にひとつの発明だ。グルーパーもそうだが、最初から彼女は自分の“サウンド”、自分の“型”を持っていた。3人のゲスト(ハーブ奏者のメアリー・ラティモア、シガー・ロスのヨンシ―、LAビートメイカーのノサッジ・シング)が参加しているものの、基本的には『The Magic Place』の頃と大きな変化はない。音数は最小限で、声が電子的に加工され、そよ風のような音響が展開されている。ただ、その音響の階層にある隙間はより広く、空間的で、より心地良く、清々しくもある。しかもその音響は、ぼくが思うに『The Magic Place』の頃よりもグルーパーに近づいている。そう思えてならない。
 4年前にThe Quietusで、彼女のオールタイム・フェイヴァリット・アルバムを紹介する記事があった。そのなかで彼女は、アニマル・コレクティヴからの影響を語り、ビュークやホイットニー・ヒューストンやニュー・オーダーのファンであることを明かし、また、アーサー・ラッセルやスフィアン・スティーヴンについて話し、そしてグルーパーへの惜しみない讃辞を述べている。「私はこれまで彼女が出した作品すべてを持っている」、バーウィックは話をこうはじめると「素晴らしい、まったく素晴らしい」と手放しに誉めつつ、「彼女には部屋を静かに破壊する術がある。(略)彼女のパンクの美的表現が好きだし、それはとてもクール」だと言う。

 そのときようやくわかった。彼女がイクエ・モリと共演したのも、たまたまではなかったと。ぼくはジュリアナ・バーウィックを聴き直さなければならない。それは古くはなく、いや、それどころかこれから必要とされるであろう、パンクの美的表現の一種として。

Yunzero - ele-king

 コロナがもしもゾンビだったら。そんなことあるわけないと早々に逃げ遅れて死ぬのが安倍やトランプ。いち早く危機を察知して助かるのがアーダーンやメルケル。そんなもの叩き潰してやるといって向かっていくのがボルソナロやルカシェンコ。僕の母親の家族は5000人以上の死者や行方不明者を出した伊勢湾台風の時に「こっちに逃げろ」と行政が指導した方向とは逆の方向に逃げたら助かったそうで、行政の指示に従った人たちは全滅だったという。そう、リーダーの指導力がソンビ映画の脇役と同程度だと判明してしまった国の人々はマジでどんよりとするしかない。コロナ禍を受けたイギリス人のジョークに「ニュージーランドに宣戦布告をしてすぐに降伏し、アーダーンに英連邦を支配・統治してもらいたい」というのがあったけれど、日本も……いや。イタリアですらスペランツァ保健相がこの25日に危機的状況は脱したという認識を示したというのに……だらだらと……いつまでも……

 長引くステイホームがもたらしたものは、そして、IDMの充実だったかもしれない。ベッドルームが活気づけばIDMが勢いを増すか、子どもが生まれるか。それはつまり「新たな非日常」をどう構築するかということで、それはそれで異様なテンションに包まれていたのかもしれない。

 モスクワのinFXがまずは秀逸だった。オウテカをカジュアルにしてフレッシュにしたようなデビュー作『Consume Your Own Identity』〈Klammklang Tapes〉は思い切りよく叩きつけるビートが気持ちよく、ヒステリックな音使いが閉塞感とは対極にあった。マイナー・サイエンス『Second Language』〈Whities〉のデビュー・アルバムも期待通り。ベルリンのアンガス・フィンレイソンがボーズ・オブ・カナダをダンスフロアに引きずり出そうとして、そのアイディアをカール・クレイグに横取りされたようなサウンドはいまさら〈ワープ〉の「アーテフィシアル・インテリジェンス」シリーズに加えてもおかしくはない1枚と言える。アルカもポップになり、ローレル・ヘイローの弟子たち(?)が集まったらしき『Fossilized Air Bubbles Popped Themusicfire』〈CAMP Editions〉も聴き応えがあった。そして誰よりもメルボルンのジム・セラーズによる『Blurry Ant』である。ユーチューブやインターネットから集めてきた音で、つまり、本人いわく「家に居ながらにしてフィールド・レコーディングが可能だった素材」を元にグルーヴィーな現代音楽が窒息しそうな勢いで並べられている。冒頭からエレクトロアコースティックをスラップスティックにねじ上げ、つかみはOK。

 バックグラウドがどうにも見えづらい音楽だけれど、まあ、その方が当分、楽しめるともいえる。リズム・パートとドローンを自在に行き来し、既成のフォームよりも混沌とした世界観を優先し、「僕はそう簡単には汚れない(I Didn’t Smudge So Easily )」などというタイトルをつけてきやがる。で、確かにどこかピュアな感覚は保たれていて、何度聴いても嫌なところがない。デビュー作『Ode to Mud』〈.jpeg Artefacts〉よりも全体にかなり複雑で、ここ数年、ちらちらと見かけるようになったイルビエント・リヴァイヴァルにも分類される音響。イルビエントいうのは開放感のないダブというのか、DJスプーキーが『Songs Of A Dead Dreamer』(96)で編み出した都会の袋小路を表現したサウンドで、ケヴィン・マーティンやハイプ・ウイリアムズもその系譜に位置している。彼らに共通しているのは最初はわかりにくいけれど、キャリア的には長持ちしているということ。『Blurry Ant』にもそのようなポテンシャルはびしびし感じられる。

 リリース元はこれまでにスパークリング・ワイド・プレッシャーやエンジェル-1、最近ではテキサスのモア・イーズや日本のイナー・サイエンスをリリースしてきたレーベルで、収益のすべてを警察の暴力に抗議するシカゴの「Assata's Daughters」に寄付されるそうです。例の「こぶし」マークの団体で、アサタというのはブラック・パンサーのアサタ・シャクール。2パックの叔母さんです。

Freddie Gibbs & The Alchemist - ele-king

 ギャングスタ・ラップというフィールドにて活躍しながら、Madlibとのコラボレーション(=MadGibbs)によってリリースした2枚のアルバム『Piñata』(2014年)、『Bandana』(2019年)により、アンダーグランド・ヒップホップのファン層からも高い支持を得ているFreddie Gibbs(フレディー・ギブズ)。かたや、Mobb DeepやDilated Peoplesなど様々なアーティストの作品でプロデュースを手がける一方で、エミネムのオフィシャルDJを務めるなどメジャーなフィールドでも活躍し、さらにMadlibの実弟であるOh NoとのGangreneやEvidence(Dilated Peoples)とのStep Brothersなどコラボレーション・プロジェクトも多数展開してきたベテラン・プロデューサーのThe Alchemist(ジ・アルケミスト)。2018年にはラッパーのCurren$yを加えた3人でアルバム『Fetti』をリリースしている彼らであるが、今回、ついに2人でのタッグによるコラボレーション・アルバム『Alfredo』を発表した。

 この『Alfredo』というタイトルは、当然、2人の名前("Al"chemist+"Fred"die)からきているわけだが、英語の固有名詞「Alfred」ではなく、あえてイタリア語のスペルにしていることが、本作のコンセプトにも繋がっている。90年代頃から様々なヒップホップ・アーティストが映画『ゴッドファーザー』などに代表される、いわゆるマフィア映画から強い影響を受け、その世界観を反映した曲が多数作られるなど、マフィア映画はヒップホップ・カルチャーを形作るひとつの要素にもなってきた。ギャングスタ・ラッパーとしてのバックグラウンドを持つFreddie Gibbsにとってもマフィアの世界観は当然相性が良く、実際、Madlibのコラボレーション作品などでもドラッグ・ディーリング(取引)をテーマに高度なストーリーテラーっぷりを披露してきた。

 LAを拠点にアンダーグランドからメジャーまで様々なアーティストの作品を手がけ、多くの共通項を持つMadlibとThe Alchemistという2人の偉大なプロデューサーであるが、ヒリヒリするような緊張感を持ちながら、2人のアーティストの究極の掛け算による格好良さを追求していたMadGibbsによる2作と比べて、The Alchemistは今回のアルバムをまるで一本の映画を撮るかのように組み立てている。クライム(犯罪)ストーリーがベースにありながらも、非常にドラマティックで優雅な雰囲気が強く出ており、それはまさにマフィア映画の空気感そのもので、エレキギターが悲しく鳴り響くトラックが非常に印象的なオープニング曲“1985”から、2人の描く世界は高いレベルで完成している。

 本作の目玉のひとつが、Rick Rossをフィーチャした“Scottie Beam”であるが、同曲のPVにあるような、この2人ならではのギャングスタ・ラップ的なイメージを描きながらも「Black Lives Matter」ムーヴメントとも繋がるようなリリックもあったりと、実に巧みかつ複雑に絡み合っている。かと思えば、“Something to Rap About”では、Freddie Gibbsとはまったく異なるスタイルの流れにあるタイラー・ザ・クリエイターがゲスト参加し、本作にまた別の風を送り込んでおり、この辺りはプロデューサーとしてのThe Alchemistの采配の巧妙さも感じさせる。

 Madlibとはまた別のやり方でFreddie Gibbsの魅力をさらに引き出したThe Alchemistとの今回のコラボレーション。MadGibbsと同様に、今後もこの2人の作品がリリースされることを強く望みたい。

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