Home > Interviews > interview with Julianna Barwick - 聞きたくない声は、怒りのラップ、怒りのメタル。“グォォォーッ”みたいなやつ
イレジスティブル・フォース『It's Tomorrow Already』(98)以来、アンビエント・ミュージックには消極的だった〈ニンジャ・チューン〉が15年のリー・バノン『Pattern Of Excel』、19年のア・ウイングド・ヴィクトリー・フォー・ザ・サレン『The Undivided Five(19)に続いてジュリアナ・バーウィックの新作を獲得した。強引にカウントするとキング・マイダス・タッチとフェネスのコラボレイション『Edition 1』(15)もアンビエントといえるので、どちらかというと〈ニンジャ・チューン〉が構想するアンビエント・ミュージックは知的なラインナップといえる。バーウィックはなかでは理論家というより感覚肌の作家に属するものの、それでもニュー・エイジには迎合しない節度を見せるタイプ。何も考えていないように思える作家なのに、どうしてテンションの低い感覚的な作品になってしまわないのか。これははなかなか不思議なことだけれど、それこそ生まれつきの感性としかいえないのかもしれない。童謡をドローン化したようなアンビエント・ポップス。ジュリアナ・バーウィックの音楽を頭でっかちに定義すると矛盾だらけの表現になってしまう。それがいい。重苦しくないブルガリアン・ヴォイス。アカデミックではないメレディス・モンク。時代に掠ってるんだか掠ってないんだかよくわからないところもいい──それだけ約束事の外に出られた気になれるから。無邪気に子ども時代を回想した『The Magic Place』(11)や宗教的なムードを抽象化した『Will』(16)など、これまではある程度まとまったテーマを設定してきた彼女が可能性の範囲を広げようといろんな方向に手を伸ばした新作が『Healing Is A Miracle』である(アニオタ訳=自然と治っちゃうなんて不・思・議)。ときにプリンスが愛したエリザベス・フレイザーの声を思わせ、シガー・ロスとも波長が重なってきたLAのジュリアナ・バーウィックに話を訊いた。
新型コロナウィルスに加えて抗議デモや暴動もあるから、延期すべきかどうすべきかというのはレーベルとも話した。でも私は、少しでも人びとが平和を感じられるようなことに、自分が何かしらの形で貢献ができるのであれば、ぜひ貢献したいと思った。
■前作に比べてヴァラエティ豊かというのか、いろんなことを試した作品になったのかなと。リラックスもしたいし、緊張感も欲しいし、次はディスコもやりかねないポテンシャルを感じます。やらないと思いますけど。
ジュリアナ・バーウィック(以下、JB):ははは、可能性は無限。たしかに、ある意味、折衷的だと思う。10年とか15年くらい前に自分がつくったものに遡ったような曲もあるし、よりエレクトロニック・サウンドで、ちょっと前作『Will』の曲を彷彿させるような曲もあるし、新たな発見もあって。あとやっぱりコラボレーションによっていつもの自分の作品より多様なサウンドが生まれたというのも当然あったと思う。
■なかでは“Flowers”がもっとも意外でした。具体的にどんな花をイメージしているのでしょう? 日本ではサクラという花が人気で、サクラというネーミングはツボミが「裂ける」に由来します(注・諸説あります)。“Flowers”が描写しているのは、そのような花の生命力なのでしょうか?
JB:そういうわけじゃなかったけど、でもすごく興味深い視点。教えてくれてありがとう。サクラの花の名前がツボミが裂ける様子に由来するなんてとても美しいと思う。私が音楽をつくる時は、いきなりレコーディングし始めることが多くて、頭に思い浮かんだことをそのまま歌い出す。この曲のときもそうで、♪ラーララーララー、フラーワーズ〜みたいな感じで(笑)。「Flowers」って言葉が聞こえたから、それをキープしておいて。大体そういう感じでつくってて、半分英語、半分はただの音みたいなのを思いつくままに歌うというね。
■桑田佳祐方式なんですね。その人にも『アベー・ロード』(https://www.youtube.com/watch?v=R0bYVE3c1oM)(https://www.youtube.com/watch?v=8aQmql5XeqA)という政治を批判したビートルズ・パロディがあるんですけど、ちょっと前にあなたが参加したフレーミング・リップスのビートルズ・トリビュート『With A Little Help From My Fwends』(14)は企画自体に賛否両論があったなか、あなたには何をもたらしましたか?
JB:あれは、私が自分でiPhoneで録ったボイスメモを彼らに送ったもの。スマホに“She’s Leaving Home”のあのパートを吹き込んで、それをウェインにメールで送って、それを彼が曲に入れたという。そんなことは自分ではそれまで一度もやったことがなかったし、以後も一度もやってない。あのアルバムに入ってる私の声は、iPhoneのボイスメモ。それってすごくない? 正真正銘のボイスメモ、テイクは1回、以上。めちゃくちゃ面白かった。
■今回のアルバムは自己回復能力をテーマにしているそうですが、それは人間の意志とは無関係に働くものですよね? 「意志(Will)」をテーマにした前作のコンセプトとは正反対になったということ?
JB:その発想、素晴らしい、思わずメモしちゃった。人間の意志とは無関係に働く自己回復能力……ってめちゃくちゃかっこいいな。しかも確かに、最初にアルバムの名前をこれにしようと思ったのも、そういうことを考えてたからで、文字通り、私たちの体が自動的にやってくれる身体的な回復って、ある意味奇跡的だと思うし、マーベル映画に出てくるような超人的な能力なんだけど、実際、私たちの体ってそういうふうに機能してて。それってすごいことじゃない? それで『Healing Is A Miracle』というタイトルを思いついて、自分でも気に入って、これに決めようとなって。でも前作への応答みたいな意図はなかったけどね。前作を『Will』というタイトルにしたのは、かなりいろんな解釈ができる言葉だったから。意志もそうだし、人の名前でもあるし。でも前作との対比をちゃんと考えたらすごく興味深いかもしれない。それ、自分で思い付きたかった(笑)。
■「意志(Will)」を神の意志と取ると、同じことかもしれませんけどね。新型コロナウイルスは免疫系を破壊することが知られています。それこそ「Healing」が不可になるので、あなたの作品に対する自然界からの挑戦ですね?
JB:かもしれない。いまは奇妙な時期だし、それに怖いよね。とくにアメリカではちょっと手に負えなくなってるし、こういう時期、公演ができる保証がどこにもないなかで、新作をリリースするというのはある意味興味深いことではあると思う。新型コロナウィルスに加えて抗議デモや暴動もあるから、延期すべきかどうすべきかというのはレーベルとも話した。でも私は、少しでも人びとが平和を感じられるようなことに、自分が何かしらの形で貢献ができるのであれば、ぜひ貢献したいと思った。アルバム発売を延期して売上の可能性を最大化するとかそういうことよりもね。いま世界に必要なものを考えたら、予定通りリリースする方がいいんじゃないかと思ったのよ。
■そうですね。いい判断だったと思います。ビルボードの調べでは音楽の消費量は伸びて、好きなミュージシャンの新曲を聴きたいという人が最も多かったそうですから。ちなみに〈ニンジャ・チューン〉に移籍したのはなぜですか? このところ〈ニンジャ・チューン〉はアンビエント作家を増やしているので、以前ほど不自然ではありませんが、やはり最初は違和感を感じました。
JB:3年半ほど前にレーベルからEメールが届いて「あなたのやっていることがすごく好きです。一緒にやりませんか?」と書いてあって。それで何度か実際に会って、あらゆる面ですごくいい感じだったから、契約することにしたという訳。
■メリー・ラティモアはあなたよりヘヴィなところがある作風だと思います。彼女と共同作業をすることで“Oh,Memory”には少し内省的なニュアンスが加わったのでしょうか、それともこういう曲だから彼女に参加を求めたのでしょうか?
JB:とにかく彼女の声が欲しかったというのがあった。メアリーのサウンドって瞬時に彼女だと認識できるものだと思ってて。それに彼女とは親友だしね。ツアーを一緒にやったりもしてるし、何度も共演してて。ちょっと前には私が彼女の曲をリミックスしたこともあったし。とにかく自分のアルバムに参加してもらいたいとずっと思ってたから、今回、ようやく夢が叶ったという。それと今回のコラボレーターはみんなLA在住の友だちで、それも少し理由としてあった。今作のコラボレーションは、私がいるLAのコミュニティを表したものでもあるの。
■シガー・ロスとの付き合いを考えると自然なのかもしれませんが、前作の“Same”や、今回、ヨンシー(Jónsi)が参加した“In Light”はあまりにシガー・ロスに引きずられてませんか? シガー・ロスもこのところアンビエント・アルバムを連発しているので、波長が合っている感じはしますけど。
JB:“Same”は別の友だちとコラボした曲だけど、でも言ってる意味はわかる(笑)。ちなみにあの曲はトムという友だちが参加してるよ(注・シンセポップのMas Ysaのこと)。ヨンシーとの曲は、間違いなく彼がつくった部分が多くて、だからすごく「ヨンシー感」があるし、当然、彼っぽいサウンドになってる。それこそ私が求めていたものだし、彼とコラボするなんて夢だったわけで。メアリーが参加した“Oh,Memory”も同じように、すごくメアリーっぽくなってるしね。単純にヨンシーと作った曲はヨンシーっぽいってことだと思う。
■ノサッジ・シングの役割だけがちょっとわかりませんでした。彼が“Nod”で果たしている役割は?
JB:まず私が彼にヴォーカルを入れたものを送って、それから彼のスタジオで作業して、ノサッジことジェイソンがベースやドラムを加えていったという感じだったんだけど、出来上がったサウンドが私にはすごくノサッジ・シングっぽいと思えた。ヨンシーやメアリーの時と同じようにね。
文・質問:三田格(2020年7月09日)
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