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Lee Bannon

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Lee Bannon

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橋元優歩   Jul 23,2015 UP
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 名義にどのような使い分けがあるのかはわからないが、今作を聴くかぎりそれはリー・バノンというよりもファースト・パーソン・シューター(FPS)の夢のつづきを追う作品であるように感じられる。2012年に1枚だけアルバムを残している彼のもうひとつのソロ・プロジェクト、FPSの音には、チルウェイヴ最良の時の記憶が刻まれていた。「ピュア・ベイビー・メイキング・ミュージック」……ああ、彼はFPS名義の作品をそう呼んだのだ。そして封じた。この名義はディスコグスにも登録がない。彼にとっては、それはあまりにピュアな、そしてパーソナルなものだったのだろう。そこで一人称視点や主観性のつよい世界が意識されていることはFPSという名にもあきらかだ。しかしクラムス・カジノやスクリューやウィッチ・ハウスとも共有するところの多い彼の音は、そうした主観性とディープに結びつきながら、鈍重に、ずぶずぶと、そしてドリーミーに、現実や外の世界をふやかしていく、まさに時代の音でもあったのだ。

 リー・バノンの新作がリリースされた。本名はフレッド・ワームズリー。サクラメントに生まれ、ドクター・ドレーやウータン・クランを聴いて育ったという彼は、2012年のデビュー・アルバム『ファンタスティック・プラスティック』以来、ヒップホップに軸足を置きつつもしなやかに音楽性を変容させてきた。翌年の『オルタネイト/エンディングス』ではジャングルを、そしてこの『パターン・オブ・エクセル』ではアンビエント・ポップを展開する。今年2015年は彼をニューヨークへと引っぱり出すきっかけとなったジョーイ・バッドアスのプロデュースで、話題盤『B4.DA.$$』にも参加している。時代にしっかりと沿いながら、好奇心旺盛な活動スタイルがたのもしい。

 さて、アンビエントな作品への意志は以前から語られており、先述のFPSもアンビエント・ポップといって差し支えないプロジェクトだったけれども、今作は思いきってビートを排したトラックも多く、FPSの先にあったはずの世界を朦朧と立ち上げている。サンプリングや旋律を結ばないさまざまな音の断片が、ゆるいコード感のなかに漂うさまは、ノサッジ・シングの新譜にも通じるようであり、プールをモチーフにしたジャケットのイメージとよく響きあう。

 冒頭の“グッド/スイマー”で水音が挿入されたり、水中空間へと意識が遷移するかのように突然くぐもったプロダクションに切り替わったりするのは、ワームズリーらしいゲームのオン・オフ装置の趣向だろう。はじまるぞ──と、わたしたちはその世界の入り口に立たされる。時の感覚と光の感覚を狂わされる、水中世界。たゆたうような感覚とともに、3分に満たない、短冊のような音とストーリーを潜り抜け、突如としてはじまるブレイクビーツに足をすくわれたり(“インフラッタブル”)、ホワイトノイズにつつまれ、オーヴァーコンプ気味に壊れたピアノが奏でるロマン派ふうのワルツに身をゆだねたり(“ダウ・イン・ザ・スカイ・フォー・ピッグス(DAW in the Sky for Pigs)”)、マーク・マッガイアがオールディーズを弾いたらかくやというトリッピングなギター独奏(“ディズニー・ガールズ(Disneµ Girls)”)でしばし思考をとめたりしながら、水族館さながらのヴァリエーションに彩られた旅を終える。

 コンセプトがとがっているわけでも、アンビエント・ポップのブームがひと段落したいま目新しいなにかを提示しているわけでもないけれども、よくもこんなに見よう見まねのアンビエントで遊びたおしたなという爽やかさがある。イーノもケージも関係ないというふうの無邪気さが、作品全体にポップ・ミュージックとしての風通しをあたえている。ニューエイジふうのいかがわしさや、ドローン寄りにサウンドスケープをひろげていく瞬間も、まったくうるさくなく、むしろそうしてミニチュア化されたアンビエントの引き出しの数々がたのしい。

 このひどい暑さを避けて、心地よい没入へと導いてくれるアルバムだ。自身が広げたこの固有結界さながらの異空間で、願わくはワームズリーにはピュアな夢をみつづけてほしい。

橋元優歩