「Low」と一致するもの

K-HAND - ele-king

 1990年代初頭から活躍するデトロイトのDJ/プロデューサー、K-Handことケリー・ハンドの来日が東京、大阪で決定しました。この女性DJは、昨年は、Nina Kravizのレーベル〈трип〉から作品を発表しており、近年はまさに再評価を高めている。いまでこそ女性のDJ/プロデューサーは珍しくないが、ケリー・ハンドが自身のレーベル〈アカシア〉をデトロイトではじめた時代は、右も左もブースでレコードを回すのは野郎ばかりだった。まさに先駆者であり、偉人ではないだろうか。


K-HAND Japan Tour
5/26(土)大阪 @ALZAR
5/28(月)東京 @Contact K-HAND

≪Boiler Room DJ set 2015≫

≪Nina Kravizが選曲したK-HANDの15曲≫
https://www.youtube.com/playlist?list=PLnZOad80R4noDs94C1e6CsMgydiS_UWuE

あの時代が残したもの - ele-king


Simian Mobile Disco
Murmurations

Wichita / ホステス

TechnoElectronic

Amazon Tower HMV iTunes

 レヴューには書きそびれてしまったのだけれど、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』でジャスティスの“Genesis”がかかったとき、何とも言えない気持ちになってしまった。それは主人公のクリスティアンが低所得者が暮らす住宅に脅迫めいたビラを配るのに向かう車のなかで流されるのだが、暴力的な気分を上げるためのものとしてドラッグのように「使用」されている。ジャスティスのファースト・アルバム『†』が2007年。当時、ニュー・エレクトロと呼ばれたエレクトロニック・ミュージックのイメージがまったく更新されないままそこで援用されている。まあジャスティスの場合はロマン・ガヴラス監督による“Stress”の超暴力的なヴィデオの印象を引きずっているところも大きいだろうが、いまから振り返って当時のインディ・ロックとエレクトロのクロスオーヴァーの思い出は大体そんなところではないだろうか。粗暴で子どもっぽく、刹那的。それ自体はけっして悪いことではない。ニュー・レイヴと呼ばれたシーンにまで拡大すれば、事実としてインディ・ロックを聴いていたキッズたちを大勢踊らせたし、自分もけっこう楽しんだほうだ。オルター・イーゴの“Rocker”で何度も踊ったし、ヴィタリックのファーストも買った。デジタリズム(ああ!)のライヴも観たし、クラクソンズの登場も面白がった。が、2010年に入るとかつてのニュー・エレクトロのリスナーの少なくない一部がEDMに回収されていくなかで、00年代なかばのクロスオーヴァーが何を遺したかと問われれば答に詰まるところがある。いや、はっきり言える……何も残らなかった、と。ジャスティスやクラクソンズのデビュー作が発売された2007年、まったく別の場所からべリアルの『アントゥルー』が届けられているが、どちらに史学的な意義があるかははっきりしていることだ。

 ジェームズ・フォードとジャス・ショウによるデュオ、シミアン・モバイル・ディスコ(以下SMD)もまたニュー・エレクトロ、ニュー・レイヴの渦中から現れた存在である。フォードは実際クラクソンズのプロデュースを務めていたし、彼が所属していたバンドであるシミアンの曲をジャスティスがリミックスしたシングル“We Are Your Friends”はニュー・レイヴのアンセムだった(覚えていますか?)。が、そのなかにあってSMDはどこか違っていた。粗暴でもないし刹那的でもない。チャイルディッシュな人懐こさはあったものの、フォードがプロデューサーということもあり何やら職人的な佇まいは隠されていなかった。何しろデビュー作のタイトル(これも2007年)は『アタック・ディケイ・サステイン・リリース』だ。音のパラメータを触ることによって生まれるエレクトロニック・ミュージックの愉しさ。同作はニュー・エレクトロの勢のなかでもじつはもっとも純粋にエレクトロ色が強い作品(つまり、オールドスクール・ヒップホップ色が濃い)で、じつにポップな一枚だが、同時に音色の細やかな変化自体で聴かせるようなシブい魅力もあった。
 その後ニュー・レイヴの狂乱が忘れ去られていくなかで、しかしSMDはアルバムを約2年に1枚のペースで淡々とリリースし続けた。その傍らフォードはアークティック・モンキーズやフローレンス・アンド・ザ・マシーンのような人気バンドのプロデュースを続け、職人としての腕も磨いていく。セカンド『テンポラリー・プレジャー』(09)の頃はゲスト・ミュージシャンを招いたポップ・ソングの形式――「ニュー・レイヴ」――をやや引きずっていたが、作を重ねるごとにエレクトロを後退させ、よりアシッド・ハウスやテクノに近づいていく。モジュラー・シンセとシーケンサー、ミキサーのみというミニマルな形態にこだわりながらクラウトロックの反復をテーマとした4作目『ウァール』を経て、 とりわけ、自主レーベル〈Delicacies〉からのリリースとなった『ウェルカム・トゥ・サイドウェイズ』(16)は非常にストイックなテクノ・アルバムとなった。ヴォーカルはなく、固めのビートが等間隔で鳴らされるフロアライクなトラックが並ぶ。とくに2枚目は50分以上に渡るノンストップのミックス・アルバムになっており、これはほとんどミニマル・テクノのDJセットである。そこにニュー・レイヴの陰はまったくない。

 そしてやはり2年間隔でのリリースとなった新作『マーマレーションズ』は、そうしたクラブ・ミュージックとしてのテクノの機能美を引き継ぎつつ、いま一度ヴォーカル・トラックに向き合った一枚である。ロンドンの女性ヴォーカル・コレクティヴであるディープ・スロート・クワイアをフィーチャーし、リッチなコーラス・ワークを聴かせてくれる。それはいわゆるカットアップ・ヴォイスのように断片的にではなく、比較的メロディを伴った形で導入されているのだが、やはりテクノのDJプレイのようにフェード・イン/フェード・アウト、カット・イン/カット・アウトするものとしてパラメータを絶妙に変化させながら現れては消え、また現れる。クワイア単体では演劇的な仰々しさがあるのだが、それが硬質なエレクトロニック・ミュージックと合わさることで異化され、抽象化される。モダン・ダンスを思わせるヴィデオとともに先行して発表された“Caught In A Wave”や“Hey Sister”などは比較的まとまったポップ・ソングとしての体裁があると言えなくもないのだが、アルバムでは長尺となる“A Perfect Swarm”や“Defender”辺りは一曲のなかで組曲のような壮大な展開を見せる。

 パーカッションなど生音が多く使用され、声が音響化されているため耳への響きは柔らかく、前2作の硬さとは対照的だ。あるいはビートレスのまま音の揺らぎが重ねられる“Gliders”などを聴くと、10年代のアンビエント/ドローンをうまく吸収していることがわかる。初期のローレル・ヘイローを思わせる部分もあるし、あるいはそのスケール感とエレガンスからジョン・ホプキンスと並べてもいいだろう。要はモダンなのだ。それは、彼らがデビューから静かに音の「アタック・ティケイ・サステイン・リリース」を細やかに練磨し続けてきた成果であり、『マーマレーションズ』ははっきりとキャリアでもっとも完成度の高いアルバムだと言える。
 フォードはアークティック・モンキーズの最新作のプロデュースに携わっており、プロダクションの面で大いに貢献している。裏方としての役割をいまも粛々とこなす彼には、ひょっとしたらSMDを過去の遺物として葬る選択肢もあったかもしれない。名義を変えてエレクトロニック・ミュージックをやるとか。だがフォードとショウのふたりはそんなことはせず、地道な変化と前進でこそニュー・レイヴではないテクノ・ミュージックをしっかりと作り上げていった。あの時代が残したものがそれでももしあるのだとすれば、それはシミアン・モバイル・ディスコという存在自体なのではないか……『マーマレーションズ』を聴いていると、そんな気分になってくる。


Chevel - ele-king

 マムダンスとロゴスが主宰するレーベル〈Different Circles〉は、ベース・ミュージック、ダブステップから派生しつつも、真に新しいビートとサウンドを追及している貴重なレーベルである。
 〈Different Circles〉は、彼らのトラックに加え、ラビット、ストリクト・フェイスなどのトラックを収録したコンピレーション『Weightless Volume 1』(2014)、シェイプドノイズやFISなどのトラックを収録した『Weightless Volume 2』(2017)、ラビットやストリクト・フェイスのスプリットやエアヘッドの12インチなどをリリースしている。

 〈Different Circles〉がリリースしたトラックは数はまだそれほど多くはないが、どれも刺激的なものばかりだ。中でもマムダンスとロゴスによる「FFS/BMT」(2017)は、インダスリアル/テクノやグライムを経由した「非反復性的」なサウンド/リズムを実現したひときわ、重要な曲である。
 この2トラックはマテリアルでありながら重力から逃れるような新しい浮遊感を実現し、最新型のエレクトロニック・ミュージックの重要なテーゼ「Weightlessness=ウェイトレスネス」を体現している。今、「新しい音楽とは何か?」と問われたら、即座に「FFS/BMT」と〈Different Circles〉の作品を挙げることになる。


 彼らは2015年にUKの〈Tectonic〉からアルバム『Proto』をリリースしており、先端的音楽マニアには知られた存在だったわけだが、この「FFS/BMT」で明らかにネクスト・ステップに突入したといえよう。
 ちなみに〈Different Circles〉のレーベル・コンピレーションアルバム『PRESENT DIFFERENT CIRCLES』(2016)にも、“FFS”がミックスされ収録されているので、こちらも聴いて頂きたい。

 と前置きが長くなったが、その〈Different Circles〉における初のアーティスト・アルバムとなったのが、本作、シェヴェル(Chevel)『Always Yours』である。
 シェヴェルことダリオ・トロンシャンはイタリア出身のプロデューサーで、2008年に〈Meerestief Records〉から12インチ「Before Leaving E.P」、2010年にはイタリアのエクスペリメンタル・テクノ・アーティストのルーシー主宰〈Stroboscopic Artefacts〉からEP「Monad I」などを発表し、2012年以降は、シェヴェル自身が運営するレーベル〈Enklav.〉から多くのトラックを継続的にリリースし続けた。
 そして2013年にはスペインの〈Non Series〉からアルバム『Air Is Freedom』を、2015年には〈Stroboscopic Artefacts〉からアルバム『Blurse』などをリリースする。特に『Blurse』は〈Stroboscopic Artefacts〉らしい硬質なサウンドを全面的に展開し、いわば「2010年代のインダスリアル/テクノの総括・結晶」のようなアルバムに仕上がっていた。メタリックなサウンドが、とにかくクールである。

 本作『Always Yours』は『Blurse』から約3年ぶりのアルバムだが、やはり時代のモードを反映し、〈Different Circles〉=「Weightlessness=ウェイトレスネス」的な音響の質感へと変化を遂げているように聴こえた。テクノ的な反復を超克しつつ、ミュジーク・コンクレート的な音響が重力から逃れるように接続されているのだ。これはモノレイクことロバート・ヘンケのレーベル〈Imbalance Computer Music〉からリリースされたエレクトリック・インディゴ『5 1 1 5 9 3』などにも共通するサウンドの構造と質感である。「非反復的構造の中で浮遊感と物質性」が同居するサウンドは2018年のモードといえる。

 性急なリズムがいくつも接続され、サウンドのランドスケープを次第に変えていく“The Call”、四つ打ちのキックを基調にしながらも重力から浮遊するようなサウンドを聴かせる“Arp 2600”、細やかなリズムと霞んだアンビエンスが交錯し、やがてヘヴィなリズムが複雑に接続されていく“Data Recovery”、変形したリズムが世界の状況をスキャンするように非反復的/点描的に配置され、「コンクレート・テクノ」とでも形容したいほどに独自のサウンドを展開する“Dem Drums”など、どのトラックも優雅さと実験性を秘めたテクノのニューモードを体現している。

 シェヴェルの『Always Yours』を聴くと、ブリアルが『Untrue』(2007)で提示した00年代後半以降の世界観の、その先の表象を感じてしまう。
 2010年代末期の現在は、末期資本主義の爛熟期である。それは金融、モノ、情報が加速度的に巨大化・流動化している時代でもある。そしてそれらが一気にヒトの存在=許容量を超えた時代でもある。「世界」が人間以外の何かの巨大な集合体として存在するのだ。
 私見だが、本作の物質が流動するモノ感覚には、そのような同時代的かつ現代的な感覚を強く感じる。モノが浮遊する感覚。非反復的構造の中で浮遊感と物質性。それらは極めて現代的なサウンド・コンクレート感覚だが、ゆえにいまの世界の同時代的な表象でもある。そのような時代にあって、シェヴェルが「Always Yours」と記すことの意味とは何か。本作の非反復的/反重力的なコンクレート・テクノに、今の時代を貫通する無意識と潮流を探るように知覚に浸透させるように聴き込んでいきたい。

 暗闇に浮かび上がる清涼飲料水の自動販売機を捉えた印象的なアートワークは日本人フォトグラファー山谷佑介の作品である。どこか「人間以降」の世界のムード(兆候)さえ漂わしている素晴らしいアートワークだが、この無人の商業マシンが放つ人工的な光=アンビエンスは、本作のトラックのアトモスフィアと共通するものを発しているようにも思えてならない。


Interpol - ele-king

 00年代前半、ポストパンク・リヴァイヴァルの波に乗って登場し、いまやNYを代表するバンドにまで成長したインターポール。昨年は、彼らの出発点となるファースト・アルバム『Turn On The Bright Lights』(Other Musicで売れたアルバム100枚のなかでは17位にランクイン)から15周年ということもあり、ロンドンにて同盤を丸ごと再現したライヴがおこなわれたが、去る5月11日にそのライヴを題材にしたドキュメンタリー映像が公開されている。

 バンドは先週、デヴィッド・ボウイの画像をあしらった謎めいた写真をInstagramに投稿してもおり、これを受け『NME』は、2014年の『El Pintor』に続く6枚目のフル・アルバムの発表が近づいているのではないかと報じている。

Interpolさん(@interpol)がシェアした投稿 -


 ちなみに『El Pintor』のリミックス盤にはファクトリー・フロアやティム・ヘッカーといった興味深い面子が起用されていたけれど、そういったアーティストからのフィードバックがあるのかも気になるところ。続報を待とう。

 2016年リリースの初となるオフィシャル・ソロ・アルバム『VOICE』でシーン内外に大きなインパクトを残した仙人掌(センニンショウ)。その完結編であり次作への始まりを感じさせてくれた限定EP『Word From ...』を挟み、待望のセカンド・アルバム『BOY MEETS WORLD』のリリースが決定! NY在住のビートメイカー、DJ SCRATCH NICEが全面サポートをする純度の高い仙人掌のHIPHOPを提示する作品となり、その確かな内容を確信させるティーザーがまずは公開!
 そして!そのリリースのアナウンスに合わせ、田我流、OYG、BES、jjjらをゲストに迎えてMONJUとしての新録音源も収録し、3月に完全限定プレスでリリースされたEP『Word From ...』も5/11(金)よりデジタル解禁!

仙人掌『BOY MEETS WORLD』 Teaser

仙人掌
BOY MEETS WORLD

WDsounds / Dogear Records / P-VINE
2018年6月27日(水)

PROFILE :
MONJU/DOWN NORTH CAMPのメンバー。東京最高峰のMC。
吐き出すバースの危険さは数々の楽曲で証明済み。今までにストリート・アルバム、メンバーズオンリー・アルバム、オフィシャル・ファースト・アルバム『VOICE』をリリース。2018年春に『Word
From ...』EPをリリースし、夏の始まりに2ndアルバムをリリース予定。

Gwenno - ele-king

 世界は滅びる。あまりにもたやすく、それは消失する。核戦争なんか起こらなくたっていい。地球外生命体からの侵略を待つ必要もない。あなたがいつもどおり毎日の暮らしを送ってさえいれば、ただそれだけで世界は滅び去っていくのである。
 たとえば「This is a pen」という定型文がある。この言い回しから想像される風景は、「これはペンです」という言い回しから想像される風景と大きく異なっている。言語はそのおのおのに固有の認識の帝国を築き上げる。ようするに、言語こそが世界を作り上げているのである――なんて書くと構築主義っぽくなっちゃうけれど、言語にそういう側面があることは否定しがたい事実だろう。だから、あるひとつの言語が失われるということは、それによって認識されていた世界がひとつ滅亡するということなのだ。
 現在地球上に生存する言語の数は3000とも5000とも8000とも言われている。その正確な数をはじき出すことは不可能だが、2年前の『ワイアード』の記事によると、それらは4ヶ月にひとつのペースで失われていっているのだという。あるいは2週間にひとつ、という説もある。いずれにせよ、あなたが歯を磨いたり満員電車に揺られたりクラブで踊ったりして過ごしている数週間ないし数ヶ月のあいだに、少しずつ、だが確実に、世界は消滅していっているのである。

 そんなふうにいまにも消えてしまいそうな世界を崖っぷちのぎりぎりで支えている言語のひとつに、コーンウォール語(ケルノウ語)がある。ケルト語派に分類されるその言語はユネスコの評価によれば「極めて深刻」な消滅の危機にあり、日本でいうとアイヌ語がこれに相当する。
 コンセプチュアルなインディ・ポップ・バンド、ザ・ピペッツのシンガーだったグウェノー・ソーンダーズ、彼女にとって2枚目となるソロ・アルバム『Le Kov』は、そんな絶滅の危機に瀕したコーンウォール語で歌われている。タイトルの「Le Kov」が「the place of memory」すなわち「記憶の場所」を意味していることを知ると、なるほどこのアルバムは彼女の母語をとおしてその私的な思い出を回顧する類の作品なのかと思ってしまうけれど、しかしグウェノーはコーンウォール人ではなく、ウェールズはカーディフの出身である。じっさい、SFからの影響とフェミニズムなど政治的な題材を掛け合わせた前作『Y Dydd Olaf』(2014年)は、おもにウェールズ語で歌われていたのだった(収録曲“Chwyldro”はのちにウェザオールがリミックス)。とはいえ、コーンウォール語の詩人を父に持ち、幼い頃にその言語を教わった彼女にとってコーンウォール語は、ウェールズ語と同じように「ホーム」を感じることができる言語なのだという。

 エレクトロニック・ミュージックのリスナーにとってコーンウォールと言えば、何よりもまずエイフェックスである。彼は当地の出身というだけでなく、『Drukqs』でじっさいにコーンウォール語を曲名に使用してもいる。その14曲目、ピリペアド・ピアノが美しい旋律を奏でる小品“Hy A Scullyas Lyf A Dhagrow”から着想を得たのが、グウェノーのこのアルバムのオープナーたる“Hi A Skoellyas Liv A Dhagrow”だ。といってもエイフェックスから借りてきたのはどうやらタイトルだけのようで、レトロなストリングスと囁くようなヴォーカルの合間に挿入されるトリッシュ・キーナンのごときコーラスは、むしろブロードキャストを強く想起させる。いまはなきかのバーミンガムのバンドの影はこのアルバム全体を覆い尽くしており、シングルカットされた2曲目“Tir Ha Mor”や、8曲目“Aremorika”あるいは9曲目“Hunros”など、随所にその影響が滲み出ている。

 全篇がコーンウォール語で歌われているからといってグウェノーを、絶滅危惧言語の保護を声高に叫ぶアクティヴィストに仕立て上げてしまうのは得策ではない。4曲目“Eus Keus?”は英語に訳すと“Is there cheese?”となるそうで、古くからあるコーンウォール語の言い回しをそのまま使ったものらしいのだけれど、ようするにただ「チーズある? ない? あるの?」と歌っているだけの冗談のような曲である。つまり彼女はここで、マイナー言語による表現だからこそ尊い、というような反映論的な見方に対しても果敢に闘いを挑んでいるわけだ。

 プロデューサーであるリース・エドワーズの仕事だろうか、ブレグジット後の孤立感が歌われているという3曲目“Herdhya”など、エレクトロニクスの使い方もまずまずで、かねてよりウェールズ語を己のアイデンティティとしてきたスーパー・ファーリー・アニマルズのグリフ・リースが気だるげな歌声を聴かせる“Daromres Y'n Howl”なんかは、アヴァン・ポップのお手本のような作りである。ドラムを担当しているのは同じくウェールズ人脈のピーター・リチャードソン(元ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキ)で、全体的に催眠的だったり浮遊的だったりする上モノをきゅっと引き締めるその手さばきもまた、本作に良い効果を与えている。
 このようにグウェノーの『Le Kov』は、歌われている内容がまったく理解できなかったとしても、鳴っている音に耳を傾けるだけでじゅうぶんに楽しむことのできるアルバムとなっている。コーンウォール語という言語のマイナー性に頼らずに遊び心に溢れたサウンドを聴かせること――まさにそこにこそ本作の大きな魅力があるといえるだろう。

 たとえ世界が滅亡してしまったとしても、すなわちたとえコーンウォール語が完全に消失してしまったとしても、いまエイフェックスの『Drukqs』が若い世代に参照されそれまでとは異なる意味を帯びはじめているように、グウェノーのこのアルバムもまた文字どおりレコード=記録として永遠に……とまではいかなくともそれなりに長期にわたって振り返られることになるだろう。すでに滅び去った世界を指し示す、新たな想像=創造の契機として。

Huerco S. - ele-king


Pendant
Make Me Know You Sweet

West Mineral

Ambient Musique ConcrèteExperimental

Bandcamp

 かつてOPNの〈Software〉からファースト・アルバムを発表し、以降その独特のロウファイなサウンドで10年代のエレクトロニック・ミュージックに一石を投じてきたフエアコ・エスことブライアン・リーズ。今年の頭には新たにレーベル〈West Mineral〉を起ち上げ、ペンダント名義の新作も発表したばかりの彼がこの5月、なんとも絶妙なタイミングで来日を果たし、東京・大阪・富山をめぐる全4公演のツアーを開催する(5/11と5/12の公演では、フエアコ・エスと共演者のアンソニー・ネイプルズによるカセットテープも販売されるとのこと)。そんな来日直前の彼が急遽われわれの取材に応じてくれた。以下その言葉をお届けしよう。


Central park 2017, credit: Mathilde Chambon

まずHuerco S.という名義についてなのですが、発音が難しく、日本語で表記するとしたら「ホアコ・エス」でしょうか?

Huerco S.(以下、HS):いろんな発音で名前が呼ばれるのを僕自身とても楽しんでいるよ。イタリアのナポリ語が由来で、正確には「フー・エア・コ・エス」さ。

カンザスシティご出身とのことですが、どのような街なのでしょう? その街はあなたの音楽に影響を与えていると思いますか?

HS:生まれ育ったのはカンザスシティではなく、そこから車で1時間ほど離れたユーポリアという郊外なんだ。19か20のときに街のほうに移ってから、いわゆる「シティライフ」と呼ばれるものを体験するようになって、週末は友だちと一緒に、倉庫で開かれるとあるレイヴ・パーティに遊びに行ったね。あそこで初めて、テクノやクラブ・ミュージックとか、そういった類の音楽に触れたんだ。

音楽を作り始めることになったきっかけはなんでしたか?

HS:10代の頃にバンドをやっていたんだけれど、17歳のときに他のメンバーたちとうまくいかなくなって、それぞれが自分のやりたいことにシフトしていったんだ。ちょうどそのとき、叔母を訪ねてフランス旅行に出た前のバンドのドラマーが戻ってきて、向こうで覚えたドラムンベースとエクスタシーを僕に教えてくれてね。それからすぐに、FL Studioの初期のソフトをネットからタダで拾ってきて、母親のパソコンでいじるようになったのさ。そこから始まってもう10年以上、自分がいわゆる「エレクトロニック」な音楽を作り続けているなんて信じられないね。

現在の活動の拠点はニューヨークですか? 他のニューヨークの実験的なエレクトロニック・ミュージックの作り手たちとは交流があるのでしょうか?

HS:ああ、いまはクイーンズのリッジウッドに住んでいるよ。人が集まるという意味ではニューヨークはたしかに途方もなく大きな都市に見えるけれど、「シーン」自体はそこまで大きくはないんだ。僕がプレイするのはおもにヨーロッパで、じつはそれほどニューヨークですることはないんだけれど、たくさんの友だちのミュージシャンが地元に関わっているし、街にいるときは彼らと一緒にプレイしているよ。全体的に見てアメリカは、複数のシーンがまとまるよりも、個々の部族意識みたいなものが強いと思うけれど、それもいま変わりつつある。ノイズやパンク、メタルといった音楽と、テクノの境界がニューヨークではもはや消えつつあるというひとつの例のようにね。

あなたの音楽にはロウファイさ、あるいはくぐもった感じ、こもったような感じがあります。そのような音色を追求するのはなぜですか?

HS:僕自身もわからないよ。はじめはいくつかのプロセスを経て、そういった誰かが作った「既存」の音を模索していたけれど、いまはもう自身の一部だから。音と自分が一体になっているというか。音がそのままの僕を表しているのさ。


Kansas city 2017, credit: Mathilde Chambon

1月にはPendant名義で新作『Make Me Know You Sweet』がリリースされましたが、そこではミュジーク・コンクレートの手法も導入されており、鳴っている音がこれまでとは異なっているように感じました。本作のリリースにあたって新たにレーベル〈West Mineral〉も立ち上げていますが、音楽家として何か大きな変化を迎えたのでしょうか?

HS:それほど大きな変化はなくて、より純粋に音の探求を拡げていった結果さ。ミュジーク・コンクレートにはたしかに影響を受けている。この2年半多くの時間をパリで過ごして、僕の彼女のおかげで、音楽を超えた音の世界に興味を持つようになったんだ。
このPendantでの作品は、しばらく時間をかけて僕がこれから向かおうとしているものだ。前作の『For Those Of You Who Have Never』(2016年)をリリースしてから、僕を気に入ってサポートしてくれた人たちには感謝しているけれど、これからは「アンビエント」的と言われるような安らぎのあるものではなく、メロディから離れて、より深い音を掘り下げていきたい。ダークなものを作りたいね。

そのアルバムの曲名はすべて記号になっていますが、これには何か意味があるのでしょうか?

HS:架空の空港コードなんだけれど、取り立てて意味はないよ。

音楽には聴き手を楽しませたりリラックスさせたりする側面と、聴き手に何かを考えさせる側面があると思うのですが、ふだんあなたはどのように音楽を聴いていますか? たとえば「自分ならこの音はこうする」のように職業的な耳で聴くのでしょうか?

HS:どちらの側面からもだね。それは聴いている音楽にもよるし、聴いている時に頭の中で考えていることにもよると思うよ。ここ8ヶ月はほとんどハウスやテクノには触らず、トラップやメンフィス・ラップ、デスメタルをよく聴いていて、それぞれから思いつくことがいろいろあった。現行のヒップホップも純粋に好きだし、新しいアイデアを発見できるという理由もあってよく聴くね。そうしたものをポップ・ミュージックだと一言で片付けて無視する人もいるけれど、頭でっかちな電子音楽よりもはるかに未来的だし、真実味があると思う。

あなたはHuerco S.やPendantの他にもRoyal Crown Of Swedenという名義ではハウスを作っていますが、それぞれの名義にはコンセプトやテーマがあるのでしょうか?

HS:プロジェクトの名前はすべてオリジナルがあって、それぞれに異なった意味があるのさ。たとえばMio Mioのレコードはリカルド・ヴィラボロスのスタイルのようなものを作りたくてあの名前を思いついたし、The Royal Crown Of Swedenは祖母のスウェーデンの家系と、フランスのハウスのレ・ナイト・クラブとクリムダールに敬意を評してつけた名前。Loidisはリーズという街のもともとの名前に由来しているよ。

ファースト・アルバムの『Colonial Patterns』(2013年)はOPNの〈Software〉から発表されましたが、そのときは彼からオファーがあったのでしょうか?

HS:うん、あのレコードは、あのときの他の作品と同じように、SoundCloudがきっかけだった。ダニエル(・ロパティン)のアカウントからダイレクト・メッセージを送ってくれて、リリースすることになった。そのときすでに僕は彼のファンで、カンザスに住むひとりの男子がOPNと一緒にレコードを作れるなんて、ほんとうに光栄だったよ。

その後のOPNの音楽は聴いていますか? 彼の音楽についてどう思いますか?

HS:KGB ManChuck Person名義の初期作品、それにローランドのJunoを使った作品はすべて大好きだよ。『R Plus Seven』を出して以降は、個人的にはあまり興味のない方向に行ってしまったけれど、彼のことは尊敬してる。

音楽家としてのいまのあなたを形作る契機となった、重要なアーティストを教えてください。

HS:エリアーネ・ラディーグ、アクトレス、ヴラディスラフ・ディレイ、ミカ・ヴァイニオ、ジャマール・モス、エレクトロ・ミュージック・デパートメント、スリー・シックス・マフィア、ロバート・アシュリー、トーマス・ブリンクマン、ジョン・ハッセル、横田進、マーカス・ポップ、キャバレー・ヴォルテール、リュック・フェラーリ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、DJスクリュー、ウォルド。

あなたの音楽をひとつのジャンル名で括るのは難しいですが、アンビエントからは大きな影響を受けているように思います。ブライアン・イーノが創始した「アンビエント」というスタイルまたはコンセプトについてはどうお考えですか?

HS:多くのアーティストは既存のカテゴリに分類されるのを嫌うけれど、聴き手の観点から見て、その気持ちはとても理解できるよ。ただ僕はブライアン・イーノのような、クラシックで、BGM的な発想のアンビエントを作りたくて始めたわけではないし、むしろそうした既存の概念を拒むようなものを作りたいと思っている。
Pendant名義のアルバムをBoomkatが「中間の音楽(Mid-ground Music)」と称してくれたけど、それこそがまさに自分の追求したいものなんだ。音楽のヒーリング力は無視できないし、自分も恩恵を受けているけれど、いわゆる「無害」や「和やか」、「静けさ」みたいな言葉で形容できるような、アンビエントのクリシェには陥りたくないのさ。


Tokyo,liquid room 2015,credit: anthony naples

今度の5月23日、ブルックリンで高田みどりと共演されますね。昨年は彼女の作品がリイシューされ話題となりましたが、彼女の音楽はどのようなところがおもしろいと思いますか?

HS:彼女の音楽はとてもクリエイティヴで、パフォーマンスにも強いエネルギーを感じる。一緒に演奏できることが嬉しいし、何より人びとが彼女の作品にふたたび注目を集めていることを光栄に思う。ときを経ていろんなアーティストやスタイルが繋がっていくということにはすごく興味があるんだ。

昨年は他にも吉村弘がリイシューされたり、あるいはヴィジブル・クロークスのアルバムが人気を博したりと、アンビエントやニューエイジが盛り上がりましたが、ご自身の音楽もそういった潮流とリンクしていると思いますか?

HS:僕の音楽が吉村弘や、当時の日本のアンビエント・ミュージックに大きな影響を受けていることはたしかだ。前作の『For Those Of You Who Have Never』を聴けばメロディに軸を置いていることからもわかるようにね。でもそれがすべてではなくて、あらゆるところからインスピレイションを受けているよ。

(質問:小林拓音 翻訳:◎栂木一徳)(「◎」は木へんに父)

Huerco S.(フエルコ・エス)来日情報

■5/11(金) UNIT
C.E presents

ANTHONY NAPLES & HUERCO S. (B2B)
LOW JACK
NGLY (Live)
KEITA SANO (Live)
DJ HEALTHY
CHANGSIE
JR

※Anthony NaplesとHuerco S.のカセットテープ販売もあり。

Friday 11 May 2018(2018年5月11日金曜日)
Open / Start: 11:30 PM
Venue: UNIT www.unit-tokyo.com
Advance ¥2,800 / Door ¥3,500
Tickets available from Resident Advisor / Clubberia / e+
※20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため顔写真付きの公的身分証明書をご持参願います (Over 20's Only. Photo I.D. Required.)

■5/12(土) CIRCUS Osaka
C.E presents

ANTHONY NAPLES & HUERCO S.
LOW JACK

※Anthony NaplesとHuerco S.のカセットテープ販売もあり。

Saturday 12 May 2018(2018年5月12日土曜日)
Open / Start: 11:00 PM
Venue: CIRCUS Osaka circus-osaka.com

Advance ¥2,500 / Door ¥3,000
Tickets available from Resident Advisor / Clubberia / Peatix
※20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため顔写真付きの公的身分証明書をご持参願います (Over 20's Only. Photo I.D. Required.)

■5/13(日) The local
The Local presents Anthony Naples B2B Huerco S.

[Guest DJ]
Anthony Naples & Huerco S.
[LOCAL DJ]
DJtaiki/CJ/□△○

Open / Start: 18:00 PM
Venue: The local
Entrance: ¥2,500

■5/17(木) SuperDeluxe
Huerco S. Live with Yoshio Ojima & Satsuki Shibano and Ultrafog

[Live]
Huerco S.
尾島由郎 & 柴野さつき
Ultrafog
[DJ]
荒井優作
Refund
DJ Healthy

開場 / 開演: 19:00
会場: SuperDeluxe www.super-deluxe.com
料金: 予約¥2,500 / 当日¥3,000(ドリンク別)
チケット予約: スーパーデラックス / RA

 忘れてた。昨年暮れ、ele-king booksの『超プロテスト・ミュージック・ガイド』に原稿を書くことになって、10代の時に耳に入ったポリティカル・ソングをあれこれと思い出すことができて、我ながら大した記憶力じゃないかと思っていたのに、すっかり忘れていた曲があった。白竜の“光州シティ”である。正確にいうと「10代の時に聞いた」のではなく、1981年に“光州シティ”という曲が入っていたがために「白竜のデビュー・アルバムは発売禁止になった」ということを知っただけで、曲そのものにショックを受けたわけではなかった。実際に曲を聴いたのはもっと後のことで、調べてみると、それは自主製作盤としてライヴ会場では売られていたらしい。そこまでは知らなかった。ニカラグアの政変をタイトルにしたクラッシュの『サンディニスタ!』は聴いていたのに、その翌年に韓国で起きた「光州事件」にはそこまでの興味はもっていなかったということだろう。そして、例によってどんな作品かもよく調べずに観始めたチャン・フン監督『タクシー運転手』が「光州事件」を扱った作品だということがわかった瞬間、発売禁止のことまで一気に思い出すことになった。ああ、これか。ということは、あっという間に曲にして、さっさと葬り去られたということだったのか。素直に発売されていた方がむしろ僕の記憶には残らなかったかもしれない。「光州事件」というキーワードはそれ以来、いつも頭のどこかにあり、それがいま、目の前のスクリーンで再現されている。“光州シティ”でキーボードを弾いているのは、ちなみに小室哲哉である。

『映画は映画だ』(08)というウィットの効いた作風でデビューしたチャン・フン監督は前作の『高地戦』(11)でもすでに大きく社会派に舵を切っていた。南北朝鮮を分ける38度線がどのようにして決まったのかを扱った『高地戦』は目を疑うような内容で、それこそ何日か前にキム=ジョンウンとムン=ジェインが交代で跨いだあのラインは僕には死体の山にしか見えなかった。『高地戦』ほど無力感を覚えた映画も珍しく、さらには同じ民族に対してここまでやるかというテーマが『タクシー運転手』には引き継がれている。ストーリーは実に単純で、日本のプレスセンターにいたドイツ人ジャーナリスト、ピーターことユルゲン・ヒンツペーター(トーマス・クレッチマン)は光州で何かあったらしいという情報を耳にし、単身、韓国に乗り込む。家賃が払えなくて困っていたタクシー運転手、キム・マンソプ(ソン・ガンホ)はソウルから光州まで往復してくれれば大金を払うというピーターを他の運転手から横取りし、軍の検問を突破して光州に辿り着く。政治にまったくといっていいほど関心を持っていないマンソプは金さえ貰えればいいと思っていたものの、チョン=ドハン(全斗煥)政権が光州で行なっていた虐殺を目の当たりにして動揺し、自分の目の前で起きていることをピーターが世界に報道しなければならないと思うようになっていく。僕にとっては馴染みがなかったけれど、映画はニュースなどで報道された場面がそっくりに再現され、さながらドキュメンタリーのようなつくりなのだという。エンドロールの前には役者ではなく、ユルゲン・ヒンツペーター本人が出てきて、回想を語るシーンもある。

 光州で軍事独裁に抗う様々な人々。キム・マンソプが光州で出会う学生や同業者たちはかなり念入りに造形されている。ソウルで軍事独裁に反抗していたのは一部の学生だけで、それらは理解しがたいものだと思っていたマンソプも光州市民と行動を共にしているうちにだんだんどっちが正しいのかわからなくなってくる。一気に考え方が変わってしまうわけではないところがこの映画は上手い。「おにぎり」の使い方も巧みだった。韓国映画を何本か観たことがある人なら、韓国にはチョルラド(全羅道)差別があることにはすでにお気づきのことでしょう。『サニー 永遠の仲間たち』(12)のような楽しい映画でも発音が少し違う友だちがそのことを隠そうとしていたり、最近でも『荊棘の秘密』(16)で「奥さんは全羅道出身だからなー」というわざとらしいセリフがあったりと、気になり始めるとあちこちに爪痕は残されている。チョン=ドハンがなぜ光州で歴史的な国民の大虐殺を始めたかは、民主化を求めるデモが特に激しかったからということもあるのだろうけれど、おそらくこの差別も影響しているだろうとは言われている。そのことは特には『タクシー運転手』では描かれていない。さらには軍事独裁を容認していたアメリカについても言及はない。実在したタクシー運転手の目を通して「光州事件」が淡々と描かれ、韓国国内でさえ民主化運動ではなく長らく「北朝鮮に扇動された暴動」だと見なされていたという「光州事件」を79年から始まった「ソウルの春」と同じものだったと位置付けていく。そして、後半は取材テープをどうやって外に持ち出すかというアクション・モードに切り替わり、『アルゴ』や『コロニア』といった政治サスペンスと同じ楽しみに変えてくれる。「光州事件」がどれだけのものであったかは韓国の猟奇映画に出てくるシリアル・キラーの多くが「光州事件」の年に生まれたという設定になっていることからも窺い知れるものがある。良いか悪いかはともかく、それだけで説明されてしまうことがあるということなのだろう。


THE NOUP - ele-king

 岡山からとんでもないブツが飛んできました。クラブ・ミュージックを通過したオルタナティヴなロック・サウンドを打ち鳴らす新世代バンド、THE NOUP。『バンドやめようぜ!』でもおなじみ、イアン・F・マーティンの主宰する〈Call And Response Records〉が編んだコンピ『THROW AWAY YOUR CDS GO OUT TO A SHOW』にも楽曲を提供していた彼らが、この5月に満を持してファースト・アルバム『Flaming Psychic Heads』を発表します。アートワークを手がけているのはなんと、宇川直宏!
 リリースにあたってメンバーからコメントも届いております。
「THE NOUPとしてこれまで作ってきた曲群をアルバムとしてまとめる際、音の中で常に探り続けてきた、根底に眠る意識を“開く”イメージを視覚的にも表現したいと思い、DOMMUNEの宇川直宏さんに依頼し、素晴らしいジャケットカバーを作成して頂きました。是非、音とアートワークを同時に体感して頂きたいと思います」。
 発売日は5月16日。要チェックです!

バンド名: THE NOUP
タイトル: Flaming Psychic Heads
NOUP3/CD/¥2,200(+tax)
リリース日: 2018/5/16 (水)

曲目:
1. Noup Parade!
2. Utopia
3. Flowmotion
4. Monochrome Dead
5. Impotents Anaaki

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Tower
HMV


■THE NOUP
2013年より現メンバー岡田高史(vo, dr, syn)、矢野駿典(gt, per)、清原基之(ba, syn)で活動開始。
楽曲は主にパルス調のギター、反復する硬質なドラムビートとベースから構成され、そこに囁きかけるかの如きボーカルが加わることで、独特のドライブ感を持ったグルーヴを作りあげる。
最近ではアナログシンセサイザーを導入し、ダンス・ミュージックというカテゴリーではない、よりポリリズミックでミニマルな楽曲も演奏している。
自身のイベント《NOUP PARADE!》を岡山でコンスタントに企画しながら、これまでに3つのカセットテープ、2015年に7インチEP「PARADE!」を自主リリース。2017年には〈Call And Response records〉主宰のコンピレーションCDに参加。
2018年5月16日には1st album『Flaming Psychic Heads』をリリース予定であり、アートワークはDOMMUNE宇川直宏が担当。

https://thenoup.com/

Alva Noto - ele-king

 本作『UNIEQAV』は、カールステン・ニコライの新レーベル〈ノートン〉におけるカールステン・ニコライ=アルヴァ・ノトによる初のソロ・アルバムであり、同時に08年の『UNITXT』、11年の『UNIVRS』から続いてきた「UNI」シリーズの完結編でもある。

 ここで「UNI」シリーズについて簡単に説明しておこう。まず、00年代中盤以降のアルヴァ・ノトが〈ラスター・ノートン〉で展開した連作シリーズはふたつあった。ひとつは「UNI」シリーズ。もうひとつは「ゼロックス」シリーズである。「ゼロックス」シリーズは07年に「Vol.1」、09年に「Vol.2」、15年に「Vol.3」が発表され、このシリーズも三作目で一区切りをつけたようだ。ゼロックスの名前のとおり「コピー」をテーマとしたアンビエント・ドローン連作である。
 対して「UNI」シリーズはリズミックなトラックを中心に収録するシリーズだ。発端は「アルヴァ・ノトが数十年前に東京のクラブ“UNIT”にブッキングされた際、その環境に応じたサウンドを作り出そうとしたのがきっかけ」という。つまり最初から「クラブユース」のトラックであることを目指していたようである。
 同時に『UNITXT』の後半部分で聴かれるように、音素からノイズ領域に還元された音響もサウンドの特徴を形成していたことも大きな特徴であった。いわばリズム/ノイズという音楽・音響の構成要素を素材の状態から再蘇生するように突き詰め、サウンド/トラックの生成・構成・構築を行っているのだ。
 その意味で「UNI」シリーズは00年代初期までの初期のサイン派のリズミックなコンポジションによるウルトラ・ミニマルな電子音響の流れにあるシリーズともいえる。コピー/生成という「ゼロックス」シリーズに近いテーマ性を読み込むことも可能だろう。

 新作『UNIEQAV』においては、そんなカールステン・ニコライのリズム/ノイズの生成・構築が洗練の極を迎えていた。かつての過激なまでのウルトラ・ミニマリズムは影を潜め、実にエレガントで端正なテクノ・トラックである。細やかなリズム、高密度な低音、ミニマムな電子ノイズなどが、ときにダイナミックに、ときにしなやかにコンポジションされ、聴き手を音響の渦の中に巻き込んでいく。グリッチ・サウンドを経由した10年代後半的な「モダン・テクノ」といっても過言ではない見事なトラックだ。

 この『UNIEQAV』では、そんなモダン・テクノ的なマシン・グルーヴに加えて、「ゼロックス」シリーズ(特に「Vol.3」)や、坂本龍一との共作である映画『レヴェナント』のサウンドトラックなどにあった音楽的な和声感覚もそこかしこに埋め込められてもいる。たとえば「ゼロックス」『レヴェナント』的な持続音で幕を開ける“Uni Mia”、その途中から鳴り始める「二つ目のコード」のように。
 加えて「声」の導入も「UNI」シリーズの重要な要素である。カールステン・ニコライが「声」をトラック内に本格的に用いたのは、おそらくは「UNI」シリーズからのはず。そして「UNI」シリーズの「声」といえば、フランスの音響詩人アン=ジェイムス・シャトンである。
 彼は〈ラスター・ノートン〉から11年に『Événements 09』、2012年にアルヴァ・ノトと、長年のコラボレーターであるアンディ・ムーアらとの共作で『Décade』をリリースしている。二作とも途轍もなくクールなヴォイス+電子音響だ。
 そのふたりの最初の共作トラックが収録されたアルバムが、08年にリリースされた『UNITXT』であった。カールステンの電子音響トラックに、アン=ジェイムス・シャトンの無機的な質感の声がこれほどの見事なマッチングを聴かせるとは思いもよらなかった。それは電子音響ヒップホップとでも形容したいほどの「クールさ」だが、何より世界の満ちている資本主義社会的な記号=言葉を反復するヴォイスは、「UNI」シリーズが内包していた世界認識論を体現していた。じじつ、11年の『UNIVRS』にもアン=ジェイムス・シャトンは参加し、三文字の企業・団体名/ロゴの英字を繰り返し発声し、アルバムのメッセージを強く体現していた。
 それは『UNIEQAV』の“Uni Dna”でも同様だが、前作までとは反対に、まずはトラックが先行制作され、そこにアン=ジェイムス・シャトンのヴォイスが重ねられたらしい(曲名どおりDNA情報に関するワードだ)。結果、アン=ジェイムス・シャトンによる「声」のリズムとアルヴァ・ノトのトラックのリズムの関係性が、ふたりのこれまでのコラボレーションから反転しているのだ。

 ではカールステン・ニコライは、この『UNIEQAV』ではトラック優先で、ビートの可能性を追及したかったのだろうか。しかしそれはビートというより、ある法則で区切られた音の線=リズムというべきかもしれない。「声」もまた法則で区切られた音の分割=リズムである。じじつ『UNIEQAV』におけるリズムは、“Uni Clip”などで聴かれるようにキーボードをタイプする音にも聴こえるし、“Uni Sub”のベースの3連などは、アン=ジェイムス・シャトンの声のようにも聴こえる。横溢する分断されるリズム=音の線。

 リズム。ノイズ。分断される音。これらが交錯する本作を聴いていると、不意にカールステン・ニコライが育った「東ドイツ」のことを考えてしまった。たとえば、彼が少年期などに耳にしていた東ドイツにおけるラジオ放送などを。
 私見だが、この最先端の電子音響の本質には、どこかカールステン・ニコライの記憶の層が織り込まれているように聴こえてならない。もしかすると「東」に住むカールステン少年・青年は、(おそらくは検閲によって)消えかけて(分断された)ラジオ放送を耳にしていたのではないか、と。思えば「ゼロックス・シリーズ」の「Vol.3」もまたどこか記憶の旅のようなアルバムあったが、本作『UNIEQAV』も音楽のフォームは違えども、やはり、同様のものを感じてしまった。
 サイン・ウェイヴ、グリッチ。ノイズ。マシン・リズム。90年代以降、ヒトから離れたマシン/エラーな音響作品を作り続けてきたカールステン・ニコライだが、00年代後期から10年代以降のシリーズ/アルバムには、彼の幼年期の記憶/人生も結晶しているようにも思えるのだ。20世紀後半、東ドイツの記憶。モダニズム建築。放送。ノイズ。音響。リズム。
 そう、知覚を圧倒するテクノロジーの交錯による最先端電子音響/モダン・テクノ『UNIEQAV』が放つマシニック・リズムのむこうには、ヒトの記憶が、まるで光のように交錯し、反射しているのだ。


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