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昨年に続き、今年も〈ソフトウェア〉は充実したリリースをコンスタントに続けている。オート・ヌ・ヴにはじまり、スラヴァ、ピート・スワンソン、コ・ラ、そして現在22歳のブライアン・リーズによるソロ・プロジェクト、ホアコ・エスである。
ブライアン・リーズはアメリカ合衆国のど真ん中、一般的には田舎扱いされるカンザス州カンザス・シティの出身で、だから彼はホアコ・エスの音楽を「中西部のテクノ/ハウス」と言ったりもする。「デイズド・デジタル」のインタヴューによれば、リーズにとっての「中西部のテクノ/ハウス」というのは同時にシカゴとデトロイトの古典的なダンス・ミュージックのことでもあるらしい。北アメリカ大陸全体を俯瞰したとき、イリノイもミシガンもカンザスも真ん中に近い、ということなのだろうか。
ともあれホアコ・エスの音楽は、そういったクラシカルなハウスやテクノを彷彿とさせるスタイルを取っている。アクトレスがそうであったように。だがホアコ・エスの『コロニアル・パターンズ』はもっとローファイなノイズ混じりのグズグズとした音質であり、どことなく平坦でダウナーで、よりディストピックである。たとえば“ラグタイム・U.S.A.(ウォーニング)”や“スカグ・コミューン”、“エンジェル”はハウスっぽいスタイルだが、始終さまざまな種類のノイズがチリチリと鳴りつづけ、キックやヴォーカル・サンプルもビリビリと音割れしていたりする。『コロニアル・パターンズ』は、どの曲もカセット・テープやレコードを何度かくぐらせたような奇妙にローファイでひしゃげた音で録音されている。
ホアコ・エスはベーシック・チャンネルのサウンドも強く想起させる。くぐもったイーヴン・キック、浮遊するノイズにも似た電子音、信号音、いつ終わるとも知れぬ反復……。“プラックト・フロム・ザ・グラウンド、トゥワーズ・ザ・サン”や“クィヴィラ”などはとくにそうだ。だがFACTでリーズが語っているとおり、「ベーシック・チャンネルが生み出したサウンドはこの世ならざるもの」だが、ホアコ・エスのサウンドはもっとドロドロとしていて土臭い。“クィヴィラ”や“フォーティフィケイション・III”に漲るインダストリアルな感覚は土臭いというよりも油臭いと言ってもいいかもしれない。
『コロニアル・パターンズ(植民地の様式)』は先コロンブス期のアメリカにインスパイアされているそうだ。不穏で示唆的なアルバム・タイトルと印象的なアートワークはそういったことに関係している。ピッチフォークのレヴューによれば、“モンクス・マウンド”はイリノイの遺跡のことだし、“クィヴィラ”は16世紀にスペイン人に「発見」された神話的な場所のことである。
上記のFACTのインタヴューによれば、リーズはカンザスの隣州ミズーリで暮らしたことがあり、ミシシッピ川流域のネイティヴ・アメリカンたちによる遺跡や文化に感銘を受けたのだという。遺跡の細かく微妙な意匠はほとんど無駄なものにも関わらず、奴隷労働者たちはその意匠のために繰り返し繰り返し作業する。「それをサウンドに応用したんだ。何かを繰り返しすること、そして同じものを繰り返し聴くこと。スコップで土を掘るみたいにね。物事の覆いをはずし、一方では物事に覆いを被せている」。
ホアコ・エスの音楽は、あるパターンを執拗に反復すればするほど何かしらの真実に近づいていくようでもあり、そこから遠のいていくようでもある。クリアーでない音質が掴みどころのなさを加速させている。『コロニアル・パターンズ』はダンサブルなレコードではないが、手による作業と音の異様な物質感とが刻み込まれている。その一方で非常にアブストラクトでもある。物事を宙吊りにするような不思議な魅力を放っているレコードだ。もしかしたらブライアン・リーズは中西部のモーリッツ・フォン・オズワルドになれる、かもしれない。
天野龍太郎