「CE」と一致するもの

Flying Lotus - ele-king

 問答無用、この春最大のニュースの到着だ。フライング・ロータスが5年ぶりとなるニュー・アルバムをリリースする。読者の皆さんは覚えているだろうか? アンダーソン・パークとのコラボが報じられたのはすでに2年前。長かった。じつに長かった。散発的に新曲の発表はあった。フライロー自らが監督を務める映画『KUSO』の公開もあった。昨年のソニックマニアでのパフォーマンスも圧倒的だった。彼の主宰する〈Brainfeeder〉は10周年を迎えた。それを記念してわれわれele-kingは1冊丸ごと特集を組んだ。そして最近では渡辺信一郎の新作アニメ『キャロル&チューズデイ』への参加が話題を呼んだ。長かった。じつに長かったが、いよいよである。タイトルは『Flamagra』。これはもしかして「フライング・ロータスによるドグラ・マグラ」という意味だろうか? 詳細はまだわからないけれど、どうやら炎がコンセプトになっているようで、とりあえずは熱そうである。くだんのアンダーソン・パークに加え、ジョージ・クリントン、デヴィッド・リンチ、トロ・イ・モワソランジュと、参加面子もものすごい。発売日は5月22日。嬉しいことに日本先行発売だ。もう何も迷うことはない。

[4月24日追記]
 昨日、待望の新作『Flamagra』より2曲が先行公開されている。“Spontaneous”にはリトル・ドラゴンのユキミ・ナガノが、“Takashi”にはサンダーキャット、ブランドン・コールマン、オノシュンスケが参加。フライローいわく、オノシュンスケについては坂本慎太郎のリミックスを聴いて知ったのだという。なんでも Spotify でランダムにその曲が流れてきたのだとか。2曲の試聴は下記リンクより。

https://flying-lotus.ffm.to/spontaneous-takashi

FLYING LOTUS
FLAMAGRA

フライング・ロータス待望の最新作『FLAMAGRA』堂々完成
自ら監督したトレーラー映像「FIRE IS COMING」を解禁
27曲収録の超大作に、超豪華アーティストが集結!

アンダーソン・パーク|ジョージ・クリントン|リトル・ドラゴン|ティエラ・ワック|デンゼル・カリー|デヴィッド・リンチ|シャバズ・パレセズ|サンダーキャット|トロ・イ・モワ|ソランジュ

credit: Renata Raksha

グラミー賞候補にもなった前作『ユー・アー・デッド!』から5年。ケンドリック・ラマーの傑作『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』におけるコラボレーション、カマシ・ワシントンの大出世作『ジ・エピック』の監修、サンダーキャットの出世作『ドランク』では大半の楽曲をプロデュースし、ここ日本でも上映されたコミック・ホラー長編映画『KUSO』の監督・脚本を手がけ、主宰レーベル〈ブレインフィーダー〉が10周年を迎えるなど、底なしの創造力でシーンの大ボスとして君臨するフライング・ロータスが、マグマのごとく燃えたぎるイマジネーションを詰め込んだ27曲(*)の超大作、その名も『フラマグラ』を完成させた。(*国内盤CDにはさらに1曲追加収録)

発表に合わせてフライング・ロータスとデヴィッド・ファースが手がけたトレーラー映像「FIRE IS COMING」が公開された。
https://www.youtube.com/watch?v=aTrTtzTQrv0

本作は、12年に及ぶキャリアの中でロータスが世に提示してきた革新性のすべてを掻き集め、それをさらに推し進めている。ヒップホップ、ファンク、ソウル、ジャズ、ダンス・ミュージック、トライバルなポリリズム、IDM、そしてビート・ミュージックが図解不可能なほど複雑に絡み合い、まるでロータスの頭の中に迷い込んだような、もしくは宇宙に漂う灼熱の惑星の上にいるかのような、驚異的独創性が発揮された傑作だ。

いつも頭の中では一つのテーマが浮かんでいて、火にまつわるコンセプトが燻り続けていた。ある丘の上に永遠の炎が鎮座しているんだ。 ──フライング・ロータス

過去作品でも豪華な参加アーティストが話題を呼んだが、今作のラインナップは数もインパクトも過去作を上回るものとなっている。アンダーソン・パーク、ジョージ・クリントン、リトル・ドラゴンのユキミ・ナガノ、ティエラ・ワック、デンゼル・カリー、シャバズ・パレセズのイシュマエル・バトラー、トロ・イ・モワ、ソランジュ、そして盟友サンダーキャットがヴォーカリストとして参加。さらに、デヴィッド・リンチの不気味なナレーションが今作の異様とも言える世界観を炙り出している。

フライング・ロータス待望の最新作『フラマグラ』は5月22日(水)に日本先行リリース。国内盤にはボーナストラック“Quarantine”を含む計28曲が収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。初回生産盤CDは豪華パッケージ仕様。またTシャツ付セットも限定数販売決定! 2枚組となる輸入盤LPには、通常のブラック・ヴァイナルに加え、限定のホワイト・ヴァイナル仕様盤、さらに特殊ポップアップ・スリーヴを採用したスペシャル・エディションも発売。Beatink.comでは50部限定で、スペシャル・エディションのクリア・ヴァイナル仕様盤が販売となり、本日より予約が開始となる。

なお国内盤CDを購入すると、タワーレコードではオリジナル・クリアファイル、Beatink.com、HMV、diskunion、その他の対象店舗ではそれぞれオリジナル・デザインのロゴ・ステッカー、Amazonではオリジナル肖像画マグネットを先着でプレゼント。また、タワーレコード新宿店でアナログ盤を予約するとオリジナルB1ポスターが先着でプレゼントされる。

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: FLYING LOTUS
title: FLAMAGRA

日本先行リリース!
release: 2019.05.22 wed ON SALE

国内盤CD:BRC-595 ¥2,400+tax
初回盤紙ジャケット仕様
ボーナストラック追加収録 / 歌詞対訳・解説書付
(解説:吉田雅史/対談:若林恵 x 柳樂光隆)

国内盤CD+Tシャツセット:BRC-595T ¥5,500+tax
XXLサイズはBEATINK.COM限定

TRACKLISTING
01. Heroes
02. Post Requisite
03. Heroes In A Half Shell
04. More feat. Anderson .Paak
05. Capillaries
06. Burning Down The House feat. George Clinton
07. Spontaneous feat. Little Dragon
08. Takashi
09. Pilgrim Side Eye
10. All Spies
11. Yellow Belly feat. Tierra Whack
12. Black Balloons Reprise feat. Denzel Curry
13. Fire Is Coming feat. David Lynch
14. Inside Your Home
15. Actually Virtual feat. Shabazz Palaces
16. Andromeda
17. Remind U
18. Say Something
19. Debbie Is Depressed
20. Find Your Own Way Home
21. The Climb feat. Thundercat
22. Pygmy
23. 9 Carrots feat. Toro y Moi
24. FF4
25. Land Of Honey feat. Solange
26. Thank U Malcolm
27. Hot Oct.
28. Quarantine (Bonus Track for Japan)

Amgala Temple - ele-king

 ノルウェイの音楽的良心たるジャガ・ジャジストですが、その中心人物であるラーシュ・ホーンヴェットによるプロジェクト、アムガラ・テンプルが来日します。ジャガ・ジャジストはライヴも高い評価を得ているバンドだけに、初となるアルバム『Invisible Airships』をリリースしたばかりのアムガラ・テンプルがいったいどんなパフォーマンスを披露してくれるのか、気になるところです。5月18日から21日のあいだに都内3箇所をめぐるツアー、詳細は下記よりご確認を!

ジャガ・ジャジストから派生したジャズロック・プロジェクト、アムガラ・テンプル待望のジャパンツアー決定!

ジャガ・ジャジストのコア・メンバーである Lars Horntveth を中心に Amund Maarud、Gard Nilssen というノルウェーの異能プレイヤーが集結したアムガラ・テンプルは、ジャズ・ロックの系譜を受け継ぎながらもプログレからサイケ、クラウトロックまで飲み込んだまさに2020年代を迎えるに相応しい先鋭的なサウンド! ライヴの半分近くはインプロ(即興)で構成されるなど二度と同じ演奏をしないライヴ・アクトとしても熱狂的な支持を集めている彼らのパフォーマンスをお見逃しなく!

「Avenue Amgala」(ライヴセッション映像)
https://youtu.be/G-Lb29r7A24

Amgala Temple:
Amund Maarud (electric guitars)
Gard Nilssen (drums, gongs, bells, melodic drum)
Lars Horntveth (bass, keys, lap steel, guitar & vibraphone)

Amgala Temple (with member of Jaga Jazzist) JAPAN TOUR 2019

2019年5月18日(土) CROSSING CARNIVAL'19
会場:TSUTAYA O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、clubasia、WOMB LIVE、TSUTAYA O-nest
時間:Open / Start 13:00(時間予定)
チケット料金:¥4,800 (税込 / ドリンク別)

チケット ※枚数制限4枚
イープラス:https://eplus.jp/crossingcarnival19/
問い合わせ:SOGO TOKYO(03-3405-9999)

2019年5月20日(月) 六本木VARIT
Live :
・Amgala Temple (with member of Jaga Jazzist)
・東京ザヴィヌルバッハ・スペシャル
(坪口昌恭:Keys / David Negrete:Alt. Sax, Flute / 宮嶋洋輔:Guitar / 角田隆太:Bass (from ものんくる) / 守真人:Drums)
時間:Open 18:30 / Start 19:00
チケット料金:Adv. ¥2,800 / Door ¥3,300 (+1 drink order)

チケット発売/予約受付開始日:4月20日(土)
イープラス:https://eplus.jp
購入ページ:
https://eplus.jp/sf/detail/2939610001-P0030001
問い合わせ:六本木VARIT(03-6441-0825)

2019年5月21日(火) Shibuya 7th FLOOR
Live :
・Amgala Temple (with member of Jaga Jazzist)
・guru host (坂口光央+一樂誉志幸)
・角銅真実
時間:Open 18:30 / Start 19:00
チケット料金:Adv. ¥2,800 / Door ¥3,300 (+1 drink order)

チケット発売/予約受付開始日:4月20日(土)
イープラス:https://eplus.jp
7th FLOOR メール予約:4/20 (土)~5/20 (月) (nanakaiyoyaku+0521@gmail.com)
件名に公演名、本文にお名前(フリガナ)、予約人数をご記入ください。
ご予約の確認がとれましたら返信いたします。
*入場順:①イープラス(整理番号順)、②メール予約/その他のご予約の順番となります。

[アルバム情報]
タイトル:インヴィジブル・エアシップス / Invisible Airships
アーティスト:アムガラ・テンプル / AMGALA TEMPLE
レーベル:P-VINE
品番:PCD-24818
定価:¥2,400+税
発売日:2019年3月6日(水)
日本語解説:山﨑智之

-収録曲-
1. Bosphorus
2. Avenue Amgala
3. Fleet Ballistic Missile Submarine
4. The Eccentric
5. Moon Palace

https://p-vine.jp/music/pcd-24818

 シークレット・プロジェクト・ロボット(SPR)は、20年前にはじまった。当初はマイティ・ロボットという名前だった。マイティ・ロボット場所であり、ヴィジュアル・グループであり、DJ、プロジェクトの名前だった。コンタクト・レコーズから彼らのショーやヴィジュアル作品などを収録したDVDをリリースした後、その精神を引き継ぐ次の冒険としてシークレット・プロジェクト・ロボットがはじまった。
 NYに引っ越して来たばかりだった私は、マイティロボットを発見してからというもの毎日のように通った。彼らはブルックリン(ウィリアムスバーグ)のDIYバンド(ヤーヤーヤーズ、ライアーズ、アニマル・コレクティブ、!!!、オネイダなど)を積極的にブックした。フェスやパーティ、アートショーを開き、毎日のように人を集まる場を作った。
 彼らがシークレット・プロジェクト・ロボットとなってからは、最初はウィリアムスバーグ、次にブッシュウィックと場所を移した。こうして彼らは20年間DIY精神を保持したまま、生き延びてきている。新しい場所に引っ越して1年、彼らはあらたな決断を持った。それは2019年4月末、いまの場所を別のビジネスに譲ることだった。

 アートスペースからはじまった彼らは、ブッシュウィックに移ったときからアートスペースだけでやっていくのは厳しいと感じていた。しかしアートは売れなくてもアルコールは売れることに気付くと、彼らはバー、カフェを続けてオープンした。シークレットを維持することができたのはそのおかげだ。なので、新しいシークレットもアートギャラリー兼バーとしてオープンした。アンダーグラウンドなDIYギャラリーから合法的なバーとなったわけである。が、バーによって金はまわせるが、彼らは自分たちのやりたいことはこれではないと気づいた。で、今回の決断へと至ったのである。

 現シークレット・プロジェクト・ロボットは閉店するが、同所はデス・バイ・オーディオ・アーケードというゲーム制作会社が、ワンダーヴィルと改名して引き継ぐことになった。キックスターターで資金を募り、目標金額を達成した(https://www.kickstarter.com/projects/markkleeb/wonderville-arcade)。ゲームやピンボールがあるヴェニューになる予定で、いままでジプシーのようにいろんなDIY会場を転々としていた彼らだが、ようやく自分の場所を見つけたというわけ。。
 ライトニング・ボルトのブライアンGもゲームを作っているし、ブルックリンのDIYシーンはゲームへと向かっているって? 

Carpainter - ele-king

 いま日本の音楽シーンにおいて何がオルタナティヴなのかということを考えたときに、僕が最初に思い浮かべたのは〈TREKKIE TRAX〉だった。彼らは昨年、レーベルとしてのベスト・アルバム第2弾『TREKKIE TRAX THE BEST 2016-2017』をリリースしたり、Maru & ONJUICY による「That's My S**t」のような強力なシングルを送り出したり(ONJUICY はその後スウィンドルともステージで共演)、813Jaymie Silk といった海外勢も果敢にフックアップするなど、どんどんその勢いを加速させていっている感がある。フィジカルでのリリースも着実に重ね、少なくとも当初の「ネット・レーベルのひとつ」というイメージはすでに大きく超え出ていると言っていいだろう。そんな〈TREKKIE TRAX〉から届けられた最新作2枚がこれまたどちらも魅力的だから困ってしまう。

 2年前に三浦大知のヒット曲(『仮面ライダーエグゼイド』主題歌)をプロデュースしたことでより広汎な層へもその名を轟かせることとなった Carpainter は、〈TREKKIE TRAX〉の創設者のひとりであり、同レーベルの核たる TREKKIE TRAX CREW のメンバーでもある(ボカロ・リスナーにとっては八王子Pやアナマナグチのリミックスも記憶に新しいだろう)。そんな彼による「勝利宣言」と題されたニュー・アルバムは、まさにいまの〈TREKKIE TRAX〉の勢いを象徴するような1作だ。
 終盤の“Wut U Tryin”や“Noctiluca”のようにブレイクスに光を当てた曲たちもチャーミングなのだけど、まずはやはり表題曲“Declare Victory”や先行公開された“Mission Accepted”のレイヴィなサウンドに耳を持っていかれる。じっさいには体験していない世代による独自のレイヴ解釈といえばゾンビーを筆頭にあげることができるが、Carpainter はよりスマートというか、継承の仕方がもっと素朴で、それはこのアルバムのもうひとつの顔であるデトロイト由来の美しい上モノたちについても言える。タイトルからして最高な“Future Folklore”はそのロマンティシズムを堪能するのにうってつけの1曲だし、ポーター・ロビンソンがセットに取り入れたことで話題となった“Sylenth Warrior”のミニマリズムも、ある時期のジェフ・ミルズやカール・クレイグ、リッチー・ホウティンあたりを彷彿させる仕上がりだ。もちろん、レイヴとデトロイト・テクノというのはこれまでも Carpainter の音楽を特徴づける大きな要素だったわけだけど、本作ではそれが成熟の域にまで達している。30年近く前の音楽に触発されているにもかかわらず、レトロ感が稀薄なのもポイントで、それはおそらく彼が10年代以降のベース・ミュージックの感覚をナチュラルに体得していることに起因するのだろう。双方のエッセンスを巧みに両立させたのが冒頭の“Transonic Flight”である。

 Native Rapper のファースト・アルバムも負けていない。これまで〈TREKKIE TRAX〉から2枚のEPをリリースしている彼は、プロデューサーであると同時にみずから歌唱をこなすシンガーソングライターでもある。ゆえに、種々の押韻や“Passion Fruit”、“Like a Swimming Pool”などの言葉遊びに体現されているように、彼の最大の魅力はその歌詞にこそ宿っている。“Swag Girl”の「ハイレゾの街、しばしおさらば/機内モードで全部チャラにしよう」という表現にも唸らされるが、より印象的なのは一昨年シングルとして発表された“Keep It Real”だ。「誰だって多少の変わりたい願望でちょっとおしゃれしてみたり/ずっと変わんねえなって褒め言葉受けて、らしくありたいと思ったり」という心理描写のあとに、「アップデイトした携帯電話/使いづらくてもすぐ慣れてしまう/SNSの次に来るのはなんだ」と今日のインフラにたいする感慨を接続してみせるところには、彼がどのように現代のリアリティを切りとろうとしているかがよく表れている。
 もちろんトラックのほうも忘れちゃいけない。きめ細やかなサウンドがめまぐるしい展開を見せる“Rainy Dance”や、先を急ぐように切り刻まれる電子音と ゆnovation によるピアニカが見事なコントラストを織り成す“Grand Melodica”といった曲には、トラックメイカーとしての Native Rapper の才が凝縮されている。シンプルにテクノとしてアガるのは表題曲の“TRIP”だが、歌詞も含めてキラーなのはやはり、上述の〈TREKKIE TRAX〉のベスト盤にも収録された、彼の代表曲たる“Water Bunker”だろう。ここには、朝四時頃にひとりでフロアに佇んでいるときの感傷がすべて詰め込まれている。

 レーベル主宰者のひとりである Seimei は昨年、取材したときだったか UNIT で会ったときだったかは忘れてしまったけれど、〈Warp〉や〈Brainfeeder〉のような存在になることを目標にしていると熱く語っていた。その夢ははっきり言ってもう、ほとんど実現してしまっているのではないだろうか──〈TREKKIE TRAX〉から立て続けにリリースされたこの2枚の新作は、そう思わせるに足るだけのクオリティと、そして何よりパッションに満ちあふれている。

Kelsey Lu - ele-king

 歓喜雀躍とはこのことです。先日、待望のファースト・アルバムのリリースがアナウンスされたばかりのケルシー・ルー、なんと来日公演が実現しちゃいます。こんなにもはやくそのステージを体験することができるなんて……5月29日は渋谷WWW Xに集合決定ですね。いったいどんなパフォーマンスを披露してくれるのか、楽しみに待っていましょう。

Solange、Blood Orange から OPN まで、数々のアーティストからラヴ・コールを受ける才媛が放つ甘美なオブスキュア・ソウル。
LA拠点のアヴァン・チェリストでありヴォーカリスト/プロデューサーの Kelsey Lu (ケルシー・ルー)が、待望のデビュー・アルバムを来週 4/19 にリリースし、日本初となる単独公演を 5/29 WWW X にて開催。

Kelsey Lu は現在LAを拠点に活動。間も無く4月19日にリリースされる彼女のデビュー・アルバム『Blood』は、2016年に発表されたEP 「Chruch」(ブルックリンの教会でライヴ録音された作品)に続く待望のリリースとなる。共同制作者に The xx や Sampha、David Byrne などのプロダクションで知られるイギリス人プロデューサー Rodaidh McDonald を迎え、Jamie xx、Skrillex や Adrian Younge らも参加。「Church」以降に公開されたシングル“Due West”や 10cc の名曲カヴァー“I'm Not In Love”も収録される。

これまで Solange や Florence + the Machine、Blood Orange、さらには OPN のライヴ・プロジェクト M.Y.R.I.A.D. など数々のアーティストからラヴ・コールを送られ、彼らのライヴや作品でミュージシャンとしての才気を発揮してきた Lu による注目のソロ・プロジェクトは、彼女のトレードマークとも言えるチェロの旋律に導かれながらもマルチ・インストゥルメンタリストとしてそのイメージを更新していくサウンド、力強くもデリケートでしなやかな歌声、ミストのように空間を覆うジェントルでダイナミックなプロダクションが生み出す、甘美なオブスキュア・ソウル。

今まさに世界から注目を浴びはじめた Kelsey Lu の、リリース後絶好のタイミングとなる来日公演をお見逃しなく。
チケットは明日 4/13(土)10:00より発売。

Lu の嫋やかなダンスに彩られた奇妙な短編映画のような仕上がりのミュージック・ビデオの数々もぜひチェックを。

C.E presents - ele-king

 たまに電車のなかでもC.E(シーイー)の服着ている子を見かけるんだけど、やっぱ格好いいよなーと思ってしまいます、とくにクラブ好きから人気があるC.E。Skate Thing(スケートシング)がデザイナー、Toby Feltwell(トビー・フェルトウェル)がディレクターを務める洋服ブランドですが、コンスタントにDJイベントもやっていますね。2019年度初となるパーティを2019年5月18日土曜日に青山のVENTにて開催します。
 今回は、The Trilogy Tapes主宰のWill Bankhead(ウィル・バンクヘッド)をはじめ、本邦初DJとなるBeatrice Dillon(ビアトリス・ディロン)、初来日のLukid(ルーキッド)、そしてニュー・ダブ・シーンを開拓中のMars89の4人が出演。良いメンツですね。行きましょう!

The Future Eve featuring Robert Wyatt - ele-king

 ザ・フューチャー・イヴとロバート・ワイアットによるアルバム『KiTsuNe / Brian The Fox』を聴いて最初に思い浮かべたのは、ブライアン・イーノが70年代中末期から80年代初頭にかけて主宰していたレーベル〈Obscure〉からリリースされた諸作品である。特にワイアットが歌ったジョン・ケージの曲を収録したジャン・スティール/ジョン・ケージのアルバム『Voices And Instruments』(1976)を想起した。真夜中の透明な時のようなあのムード。むろんそれも一瞬のことだ。聴き進めていくにつれ次第に「音楽の記憶」は融解し、消失していった。
 やがて『KiTsuNe / Brian The Fox』は、ほかに類例のない音楽と音響であることに気がつく。直線的に進化するというような西洋的ではない時間感覚があり、反リニア的ともいえる時の積み重なりがあった。空間に満たされていくような時間=音楽・音響が生成していた。

 では、ザ・フューチャー・イヴとは誰か。それは近年80年代にリリースされたトモ・アキカワバヤ名義の諸作品・音源が、海外のシンセ音楽愛好家たちによって「発見」され、2015年にシンセウェイヴの名門レーベル〈Minimal Wave〉から『The Invitation Of The Dead』としてリイシュー/リリースされた日本人音楽家 Th である。「ザ・フューチャー・イヴ」は彼の新名義だ。
 Th は70年代に渡英した際にポストパンク・バンドのデスパレート・バイシクルズ(The Desperate Bicycles)にギターとして加入し、活動する。帰国後、Th は「トモ・アキカワバヤ」名義でほかに類例をみない独自の電子音楽を制作しはじめた。12インチ・シングル「Mars」(1983)、「Anju」(1985)、「1985」(1985)、「Kojiki To Onna」(1986)、アルバム『The Castle』(1984)を相次いで発表。1986年にはそれらをまとめたボックスセット『Rivage De La Convulsion』をリリースし、トモ・アキカワバヤ名義での活動を封印してしまう。これらの作品のリリース点数は少なく、極めて希少であったが、インターネットの恩恵もあって、次第にその作品が海外の電子音楽・シンセ・ミュージック・フリークたちに伝播し、アルバムは、希代のレア盤として知れ渡ることになった。
 それゆえ2015年に〈Minimal Wave〉がリリースした『The Invitation Of The Dead』はまさに福音ともいえるリリースだった。このアルバムを初めて聴いた電子音楽マニアは驚いたはずだ。その「存在」も未知だが、その「音」もまた、聴いたことがない未知の音楽だったのである。トモ・アキカワバヤのサウンドは、機材の変化や時代の変容などはあるものの、ほかの何にも似ていない独自の技法によって鳴らされる個の電子音楽であり、時間を超えた驚きを与えてくれる音楽なのだ。モデルのアンジュを被写体としたアートワークも印象的であり、Th の美意識が普遍的な、時間を超えるようなものを希求していることを示してもいた。じじつ、Th は文学から美術までに造詣が深いようで、そのヒントは作品に多く散りばめられていた(彼の人生については、このインタヴュー記事に詳しく、とても興味深い内容であった)。

 90年代は盟友であるシンセサイザー奏者の半谷高明とベアタ・ベアトリクス(Beata Beatrix) を結成し(19世紀のイギリスの画家・詩人のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの代表作からとられた名前だろう)、制作をはじめる。そして彼らが、97年、プロモCD(『87-96』だろうか?)を、ロバート・ワイアットに送ったことで Th たちとワイアットの交流・コラボレーションが始まった(ワイアットについてはもはや説明するまでもないだろう)。1998年に、ワイアットから1本のDATテープが送られてきたというのだ。
 その共作の成果は、やがてワイアットのアルバム『Cuckooland』(2003)に“Tom Hay's Fox”として収録された。“Tom Hay's Fox”が本作『KiTsuNe / Brian The Fox』のオリジナル・ヴァージョンの原曲である。彼らのコラボレーションはその後も継続し、『KiTsuNe / Brian The Fox』が、20年にわたる共作の最初のアルバムとなった(アルバムとしては2年の月日をかけて制作している)。

 『KiTsuNe / Brian The Fox』は「オリジナル・ヴァージョン」と「リング・ヴァージョン」の二部構成となっている。「オリジナル・ヴァージョン」はCD全4曲、LP全5曲、「リング・ヴァージョン」は全8曲がそれぞれ別ディスクに収録されている。
 ちなみに「オリジナル・ヴァージョン」は、〈12k〉のレーベル主宰者にして現代有数のアンビエント作家テイラー・デュプリーがマスタリングを担当し、アルバムのアートワークは Th による写真作品が用いられ、デザインを先端的音楽レーベルの象徴ともいえる〈Modern Love〉のアートワークで知られる Radu Prepeleac が手掛けた。音響から視覚に至るまで Th の「美意識」が隅々まで行き渡っている作品といえよう。リリースは日本のエレクトロニカ・電子音楽レーベルとして著名の〈flau〉である。歴史に残る偉大なリリースだ。

 実際に聴いて頂けると即座に理解できると思うのだが、本作に横溢する音(ドローン、ノイズなど)は、まったく「記号化」されていない。「ドローンならこういう音」、「アンビエントならこういう構造」というありきたりな形式や構造で成立していないのである。ここで音楽家たちは、それぞれに個/音を模索し、生成し、磨き上げ、創り上げているように思えた。ワイアットの詩と歌/声が電子音空間のなかで融解し、拡張し、聴き手の聴覚の記憶を融解するようなサウンドが生まれている。
 むろん音楽の種類でいえばアンビエントやドローンに当てはめることは可能だし、ときにラ・モンテ・ヤング的なラーガ・ドローン的な響きを聴き取ることも不可能ではない。しかしその音はすぐに別の響きへと姿を変えてしまい、安直な言葉の枠組みに収まることを周到に回避していくように展開する。ワイアットの声やヴォーカルも、音響の只中に空気のように揺らめき、やがてドローンの中に液状化するように同化し消失してしまう。「解釈」を拒むように、「解釈」に抗うように。
 そう、『KiTsuNe / Brian The Fox』は、音楽をとりまく無数の「言葉」たちから、するりと、しなやかに、まるで「狐」のように身をかわす。リニアな「時」の呪縛から自由になるために、とでもいうべきか。その結果、音と時間が溶け合っていくような時間が生成する。音楽が時間というノイズの只中に消失していくような感覚は、ザ・ケアテイカーの傑作連作『Everywhere at the End of Time』に近い喪失感を有しているように思えた。

 同時に、ここで生まれている音響は、単なる破壊でも否定の結果でもない点も重要である。音色や構造に未知の感覚があるのだ。聴き手は聴いた瞬間には形式が理解できても、その構造は即座に理解できない。電子音が、声が、ギターの音が、ヴァイオリンの音が、ミニマムなノイズが、まるで夢のように、砂のように、水のように生成し、変化する。われわれはその「音のさま」に茫然となり、聴き惚れてしまうだけだ。「オリジナル・ヴァージョン」1曲め“01.01”と「リング・ヴァージョン」のラスト“04.08”においてワイアットの声が幽玄なドローンの中に消えゆく、音響、質感、感覚……。時間の感覚が変容する。
 つまり、直線的に流れゆく時=音楽から、堆積していく時=音楽の感覚への変容である。『KiTsuNe / Brian The Fox』には、どこか「東洋的」ともいえる時間感覚が横溢している。それはノシタルジアが未来化するような感覚を聴き手に抱かせることになる。未知の音が、未来のサウンドが、濃厚なノスタルジアと共に、堆積する時=音楽が、「幽霊」たちの再臨のように鳴り響く。

 「オリジナル・ヴァージョン」の“02.01”以降、「声」は音響のなかに融解し、電子音やノイズも拡張され、音響化し、まるで空気と時間の層が、液状化するように展開する。音は持続し、変化するが、静謐であり、ノイジーでもある。
 “02.03”は、コード進行や和声など音楽の痕跡が微かに表面化する。消え去る直前の音楽と声。喪失感と再生を象徴するかのような楽曲である。そして「オリジナル・ヴァージョン」の最終曲“03.01”においてワイアットの声/ヴォーカルが再蘇生するように鳴り響く。僅か50秒ほどの短いトラックだが、サウンドが有している時の感覚は実に濃厚だ。「オリジナル・ヴァージョン」は20数分ほどの作品であり(CDとヴァイナルでは収録曲数が違い、ヴァイナルではCD未収録の“02.02”を聴くことができる)、「リング・ヴァージョン」は40分ほどの作品だが、そこに実時間の長さとは無縁ともいえる濃厚な「時」が流れているように感じられた。その名のとおり「リング・ヴァージョン」は、「オリジナル・ヴァージョン」にある「円環する時」の感覚を引き出し、拡張させ、さらなる輪廻的な世界感へと生成変化させているのではないか。
 レーベル・インフォメーションにおいて「ワイアットの声と詩、テープのMIDI変換によってプリミティヴな音階を獲得し、まるでアクションペインティングのように特異な動きへと変貌を遂げ、生命の輪廻が表現された」と記されていたが、 「リング・ヴァージョン」はまるで時が溶け出し、別の時間層へと再生成するようなシルキーな質感の“04.01”で幕を開ける。
 39秒ほどの2曲め“04.02”では再びワイアットのヴォーカル/ヴォイスよって詩が提示され、続く8分20秒ほどの“04.03”では、さまざまなサウンド・エレメントがまるで真夜中の森の微かなざわめきのようにミックスされる。まるで静謐さのむこうにある蠢きを感じさせてくる不穏なトラックだ。
 4曲め“04.04”では再びワイアットのヴォーカルによって詩世界が提示され、音響世界を別のフェーズへと導く。7分ほどの“04.05”も“04.03”と同様に不穏なムードを展開するが、この曲では地上世界から離れ、宇宙的ともいえる深遠なムードが物質と非物質の差異を無効化するように漂っている。
 多層的な声のレイヤーによるドローン化した宗教曲のような“04.06”、ダークな音響空間が静謐な粒子の音響へと展開する“04.07”を経て、ふたたびワイアットの声が響く“04.08”でアルバムは幕を閉じる。この最終曲においてモノフォニーから明確なポリフォニーへと音楽が変化したのち、ふたたびすべてが溶け合う。堆積する時間の層と融解する時間の感覚が、真夜中の森が発する「幽霊」の気配のような本作のアンビエンスは、記憶=ノスタルジアを未知の音響空間として生成する。この2枚のディスクは通常の時間軸を崩すように、融解するように、聴き手の意識を変えてしまうような魅惑がある。

 見事なアルバム構成であり、終焉だが、これで終わりではないようである。現在 Th たちは、ワイアットの希望を汲んで、「ゴースト・ヴァージョン」も制作中という。引退をしたワイアットの最後のリリース作品となる可能性も高いので、いまからリリースに期待が高まる。
 また、本作のために制作されたサイト(https://ki-tsu-ne.com/)も開設された。モノクロームを基調としたヴィジュアルにも Th の美意識と普遍性を感じ取ることができるはずだ。音と共に鑑賞・体験することで、音響と視覚による総合的なアートとして生成するように思えた。

dialogue: Shinichiro Watanabe × Mocky - ele-king

 鍵盤の纏うノイズに、ギターの軋む音──第1話を視聴してもっとも驚いたのはそこだった。いやもちろん、ボンズによる映像も素晴らしいのだけど、それ以上に全篇をとおして繰り広げられる細やかな音の乱舞に、どうしようもなく惹きつけられてしまうのである。かつてこんなにも“生き生きした”具体音をTVアニメで耳にしたことがあっただろうか。そして続く第2話。モッキーによる劇判がこれまた冒険心に満ちあふれている。間違いない。渡辺信一郎、本気である。
 モッキーといえば、もともとはピーチズやゴンザレス(昨年ドキュメンタリー『黙ってピアノを弾いてくれ』が公開)、ファイストらとともに、カナダはトロントのアンダーグラウンドから浮上してきたアーティストだ。ジェイミー・リデルとの度重なる共作や、近年ではケレラ作品への参加でも知られる彼は、実験的な試みとユーモアを軽々と両立させてしまう才の持ち主で、その絶妙なバランス感覚は3月の来日公演でもしっかりと確認することができた。そんな彼が渡辺信一郎による新作アニメのサウンドトラックを手がけることになったのは、いったいどういう経緯からだったのだろう?
 本日深夜よりフジテレビ「+Ultra」ほかにて放送開始となるオリジナルTVアニメ、『キャロル&チューズデイ』。その記念すべき船出を祝して、総監督=渡辺信一郎と音楽担当=モッキーによる貴重な対談をお届けしよう。


みんなAIに興味を持つべきだと思う。その時代がもう来ているから。音楽もそう。僕はいまそれと闘っているんだ。そのなかでバランスを見つけるためにね。だから『キャロル&チューズデイ』のテーマは自分にとってすごく身近なものだった。 (モッキー)

今回、渡辺総監督が『キャロル&チューズデイ』の劇伴にモッキーさんを起用したのはなぜですか?

渡辺:元々、モッキーさんの音楽は好きでよく聴いてたんだけど、今回オファーしたのは、来日公演を観たのがきっかけかな。前回の来日のときのライヴで、どの曲も映像が浮かんでくるような感じがして、すごくサウンドトラックに向いてる音楽だなと。あとは、メンバー全員がすごく音楽を楽しんでる感じが伝わってきて、それがとても心地よくて。丁度そのころ『キャロル&チューズデイ』の企画を考えてたころで、音楽をやっていくうえで幸せって何だろう、と考えてたころで。たとえば何百万枚も売れてヒット出しててもすごく不幸なヴァイヴスを出してる人もいるなか、この多幸感はなんなんだと。そういうことを考えるきっかけにもなったライヴでしたね。

モッキーさんは、渡辺総監督から依頼を受けてどう思いました?

モッキー:ビッグで才能のある方からオファーを受けるというのはとても良いことだよ。

渡辺:ハハハハ(笑)。

モッキー:渡辺さんの作品も音楽と繋がりが深いものだと思う。渡辺さんの映像もすごく音楽を思い起こさせる。だから依頼があったときは嬉しくて飛びついたね。そのオファーを真剣に受け止めて、渡辺さんの作品にふさわしい雰囲気を持った音楽を作ろうと強く思ったよ。

これまでモッキーさんは、渡辺さんの作品には触れていたんでしょうか?

モッキー:そうだね、たくさんというほどではないけど、渡辺さんの特徴を知るくらいにはじゅうぶんに観ていたよ。僕はアニメのエキスパートじゃないけれど、それでも渡辺さんの作品は素晴らしいと感じたね。

本人に実際に会ってみてどうでした?

モッキー:すぐに繋がりを感じることができるアーティストだと思ったよ。話す言語はもちろん違うんだけど、まるで同じ言語で会話をして繋がっているような感じがしたんだ。言葉を交わさなくても通じ合えるというか。

渡辺:打ち合わせがすごく短かったんだよね。

モッキー:信頼があるからね。相手を信頼できるかどうかっていうのはとても重要なことで、それはコンサートでも同じだけど、「何か問題が起こってもこの人と協力すれば乗り切ることができる」というのを打ち合わせの段階で感じることができたから、安心して進めることができたんだ。

渡辺:あっというまに仕事の話は終えて、あとはほとんどくだらない雑談(笑)。だから周りのスタッフが、もっと詳しく説明したほうがいいんじゃないの?みたいな(笑)。いや経験上、こういうのは国籍とか関係なく伝わる人には伝わるものなんで大丈夫かなと。

渡辺さんはモッキーさんと実際に会ってみてどう思いました?

渡辺:とても気さくで陽気な人だったから、逆に「この人のどこからあんな切なく寂しい曲が出てくるんだろう」って思ったかな(笑)。

モッキー:それは僕自身にもわからないなあ。渡辺さんの作品も同じだと思うけど、すべての作品にはバランスがあって、悲しい曲が生まれる背景には何かハッピーなことがあるのかもしれない。悲しい曲でも歌詞がハッピーだったり、逆にハッピーな曲だけど歌詞が悲しいものもあったりするし。今回渡辺さんはAIというテーマを扱っているけど、それだけじゃなくて、他にもいろんなものがあるからこそ、そういうアイディアが生まれてくるんだと思う。あと、渡辺さんの場合はユーモアというのもすごく大きな要素だと思うね。それで繋がりを感じられたんじゃないかなと。

渡辺:そういえばAIに興味があるって言ってたよね。AIに支配された世界のPVまで作ったことがあるって、その場で見せてくれて。

モッキー:みんなAIに興味を持つべきだと思う。その時代がもう来ているから。音楽もそう。コンピュータとかロボットとか。80年代や90年代と違って、いまはドラマーがいらない時代だし、オートチューンが歌ってくれる時代でもあるし、音楽もロボットに支配されつつある。僕はいまそれと闘っているんだ。そのなかでバランスを見つけるためにね。だから『キャロル&チューズデイ』のテーマは自分にとってすごく身近なものだった。

渡辺:それを聞いたときは意外で。そんなことにも興味があるんだって。

じつは、いいサウンドトラックを作る秘訣というのがあるんですよ。それは、一度もサウンドトラックをやったことのない人に頼むということ。ビギナーズ・ラックというか、はじめての人特有のマジックみたいなものが必ずあるんですよね。 (渡辺)

『キャロル&チューズデイ』の世界では99%の音楽がAIによって作られていますが、もし同じ状況だったらモッキーさんはどういうスタンスで音楽を作っていきますか?

モッキー:もう現在すでにそんな感じだと思っているんだよ。人間は完璧ではないから、たとえばコンサートではミスを犯す。でもそれこそがアートを作っているんだと僕は思う。映画も同じで、これから何が起きるかとか、完璧なものができるってあらかじめわかっていたらおもしろくない。最高のテクノ・ミュージックも何かミスが起こったときのものだと思っていて、僕はそのときにこそ生まれるおもしろいものを捉えたいんだ。

AIが99%の音楽を作っているということは、『キャロル&チューズデイ』の世界ではそれだけ多くの人びとがAIの音楽に満足しているということだと推察しますが、AIが作ったものと生身の人間が作ったものとの違いってどこにあると思いますか? リスナーはその違いに気づくことができるでしょうか?

モッキー:若い人たちにはわからないと思う。経験がないから。(と言った直後に突然、力強く机を叩く。その場にいた一同が凍りつく)──驚かせてごめん。こんなふうに机を叩くとみんな「ウッ!」ってなるよね。それは机を叩くとヴァイブレイションが伝わって、何かを感じるからだと思うんだ。でもケータイのスピーカーから出てくる音じゃそのヴァイブレイションが作れない。それは人間だけが出せる音。ただ、だからといってコンピュータのようなテクノロジーで作られた音楽がダメだという話ではないよ。音楽はテクノロジーによってどんどん進化して、良いものになっていったと思うし、実際に自分もエレクトロニック・ミュージックを作っているわけだけど、そこでどうにかバランスをとって人間味を持ち続けていくことが大事だと思う。

先の質問をしたのには理由があって、モッキーさんは以前人間ではないリスナー、ずばり猿を相手に演奏をしたことがありますよね。

モッキー:若い頃にやったね。コンサートでいろんな都市をまわったんだけど、コンサートをする前に動物園へ行って、猿のまわりでセットアップして、そこで演奏をしたんだ。僕が演奏すると猿がジャンプしたりしてすごく昂奮しているんだよね。で、喜んでいるって思ったんだけど、動物園の係りの人に「喜んでるんじゃなくて、嫌がってるんですよ」って言われてしまった(笑)。だからそこでは悲しい曲、静かな曲を演奏したんだ。センシティヴになる必要があったんだよね。そういうふうに猿に対して演奏をすることによって自分のスタイルを築き上げていって、そのあと夜になったら人間に向かって演奏をしていたってわけ。そうやって自分のサウンドを見つけたんだ。

人と違うことをやれ、っていうのがパンク、ニューウェイヴの教えですよ(笑)。ってことで、普通より音楽を立てるというか、映像と音楽がフィフティ・フィフティぐらいのつもりでやってます。 (渡辺)

今回劇伴の制作はどのように進めていったのでしょう?

渡辺:モッキーさんにはサウンドトラックとして40曲くらいを作ってもらったんだけど、そのうち20曲はわりと普通の劇伴のスタイル、音楽メニューを書いてどういう音楽がほしいか説明してオーダーするって形でした。それで、残りの曲のうち12曲は、本人の希望により制約なしに感じたまま自由に作ってもらう、あと残りの8曲だけ、どうしても作品に必要な曲というものがあるんで、そこだけ自分がリファレンスを出してこういう曲を作ってくれとオーダーして。

モッキー:すごく厳しいボスなんだ。「これだけ作れ!」みたいな感じでいつも言われていたよ(笑)。

渡辺:いやいや(笑)。モッキーさんは、自由に作るほうも、オーダーに合わせて作るほうも両方できるのが凄いなと。

できあがった曲を聴いてみていかかでした?

渡辺:ちゃんとサントラでもありつつ、モッキーの曲にもなってるのがよかった。サントラになると急によそ行きというか、お仕事になっちゃうミュージシャンもいるんで(笑)。じつは、いいサウンドトラックを作る秘訣というのがあるんですよ。それは、一度もサウンドトラックをやったことのない人に頼むということ。ビギナーズ・ラックというか、はじめての人特有のマジックみたいなものが必ずあるんですよね。それは、アーティストのファースト・アルバム特有のマジックと同じようなものだと思うんだけど、手探りで新しいものを作っていくときにだけ生まれるものだと思いますね。

音と映像が組み合わさった第1話を観て、どう思いましたか?

渡辺:サウンドトラックってあくまで裏方としてドラマを盛り上げていくものという考えがあって、それはそれで正しいかもだけど、そんな他の人がやってるのと同じことやってもしょうがないじゃない。人と違うことをやれ、っていうのがパンク、ニューウェイヴの教えですよ(笑)。ってことで、普通より音楽を立てるというか、映像と音楽がフィフティ・フィフティぐらいのつもりでやってます。モッキーさんの曲は普通のサントラより音楽として強度があるから、それをなるべく活かしたいなと。

モッキー:音楽に関するアニメだし、それで大丈夫だよね。

渡辺:例えばハリウッドの映画を観ていても、見終わって音楽の印象が残るものってあんまりないじゃない?

モッキー:いまはそうだね。

渡辺:昔の映画にはもっと印象的な作品があったしね。ただし、こういうやり方はリスクもあって、失敗すると音も映像もつぶし合っちゃうから、ギリギリのバランスで成立するように考えてますね。

モッキー:やっぱり渡辺さんは天才だと思うよ。

モッキーさんは第1話を観て、いかがでした?

モッキー:ものすごく気に入ったよ。ジギー(作中に登場するフクロウの目覚まし時計兼ペット)が好きなんだ。欲しいんだよね。僕のために作ってもらえないかな(笑)。ジギーをコンセプトにしたアルバムを作りたいんだ(笑)。まあそれはともかく、『キャロル&チューズデイ』ではAIだけじゃなくて、友情だったり、人生における音楽の役割、なぜ人類が音楽を必要とするのかというのも大きなテーマのひとつになっていると思う。やっぱり音楽って、昔もいまも変わらず僕たちの人生の一部であり、欠かせないものだと思うんだ。たとえば仮に人間が火星で生活をすることになったとしても、みんな音楽を持っていくだろうとか、そういうことをよく考えるんだよね。なんで音楽なんだろうって。それってやっぱり、僕たちが生まれながらにして持っている感情だと思うんだ。子どもが泣けばお母さんは自然に歌を歌うしね。最近のメインストリームのアメリカ映画ではそういうことがぜんぜん語られなくて、人間の作る音楽というものが脇に置かれてしまって、注目されていない。『キャロル&チューズデイ』はそういうことを重要なテーマだと語ることができる作品だから、自分がそれに関わることができたのはすごく光栄に思っている。

モッキーさんが今回劇伴を作るにあたり、とくに意識したことはなんでしょう?

モッキー:とにかく渡辺さんを信用するのみで、僕はとくに何も意識しなかったね。ただもう信頼だけ。自分にとって渡辺さんはミュージシャンのような存在なんだ。初めて会ったときも他のミュージシャンに会っているような感じがしてね。ほんとうに安心することができるし、彼が作った作品の音楽を作っているというだけで、人間と人間が関わっているということを感じることができた。だから、とくに意識したことはないんだ。渡辺さんは音楽の知識が素晴らしいからね。音楽について少し会話をしただけで、すぐに音楽のことをすごく知っている人だってわかったよ。

渡辺:じつは、モッキーさんに音楽を頼んでもうひとつ良かったことがあって。今回、サウンドトラックとはべつにヴォーカル楽曲を国内外のいろんなミュージシャンにオファーしてるんだけど、普通はなかなかハードルが高いミュージシャンたちが「モッキーがやってるなら」ということで興味を持ってくれる場合が多かった。やっぱり彼はミュージシャンズ・ミュージシャンで、ミュージシャンのあいだで人気があるんですよ。「そのおかげで、多くのミュージシャンが参加してくれたとこもあるんじゃないかな。

いまおっしゃられたように、『キャロル&チューズデイ』にはモッキーさん以外にも多くのミュージシャンが参加していますけれど、彼らを選ぶときに何か基準はあったのでしょうか?

渡辺:もちろん自分が好きなアーティストっていう大前提はあるけど、今回はやっぱり作品内容に合ってる人、テイストが合っている人が中心。とくに『キャロル&チューズデイ』ではメロディを重視してるんで、メロディメイカーとしていいかどうかにウェイトを置いてたかな。

モッキー:それは僕も同じで、メロディを作るときって自分の意識とか注意が必要なんだよね。それは(AIではなく)人間だからこそできることなんだ。ほんとうに人間味のある人間だからこそメロディを気にかけるんだと思う。

渡辺:あと、オファーをしていくなかで話を聞きつけたアニメ好きのミュージシャンがオレにもやらせろと言ってきたり、そういうパターンもありますね(笑)。ちなみに今後、モッキーさんにはサントラのオファーがいろいろ来るんじゃないかな。売れっ子作曲家になったりして。

モッキー:日本だけかもしれないけどね(笑)。でも日本が大好きでお気に入りだから。日本は尊敬の念とか感謝の念が素晴らしい。

『キャロル&チューズデイ』では人生における音楽の役割、なぜ人類が音楽を必要とするのかというのも大きなテーマのひとつになっていると思う。最近のメインストリームのアメリカ映画ではそういうことがぜんぜん語られない。 (モッキー)

最後に、これから『キャロル&チューズデイ』を観る方に一言ずつお願いします。

渡辺:音楽が好きな人で、これまでアニメはあまり観てこなかったような人でも楽しめる作品になってると思うんで、ぜひ観てほしいです。音楽ファン必見です。

モッキー:僕もそう思うよ。みんなが楽しめる作品、大人も子どもも世代を問わず楽しめるアニメだと思う。

渡辺:あと、フクロウが好きな人もぜひ観てください!

モッキー:そのとおり! やっぱりジギーだけの作品も作ったほうがいいと思う(笑)。

ではスピンオフ決定ということで(笑)。

モッキー:ジギーが主役のコメディをやろうよ!

渡辺:プロデューサーに言っておきますか(笑)。でもジギーのおもちゃは作ってほしいですね。

モッキー:目覚まし時計もいいんじゃない? ジギーにステージ上で演奏してもらうのもいいね。もし実現したら最初に僕にくださいね!

主戦場 - ele-king

 及び腰でこれを書き始める。韓国の慰安婦問題に関するドキュメンタリーで、日韓の言い争いには巻き込まれたくないから。僕がこのドキュメンタリーを観ようと思ったのは韓国映画をもっと気持ちよく楽しみたいという思いからで、最近でいえばナ・ホンジン『コクソン』は2010年代後半のベスト3に入れたいほど僕は気に入っているし、イ・チャンドン『バーニング』やヨン・サンホ『新感染』といったエンターテインメントは公開されても、慰安婦問題を扱った『Herstory』や『I Can Speak』は日本では特別上映会というものでしか観られない(ので僕は観ていない)からその代わりという意味もある。ミン・ギュドン『Herstory』はとくにアメリカでの評価が高く、それはボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でどれだけの女性たちが性的な被害に遭っていたかを描いたラリーサ・コンドラキ『トゥルース 闇の告発』やアンジェリーナ・ジョリー『最愛の大地』から続く#MeTooの流れに沿ったものであり、この後には多分、ノルマンディー上陸作戦で同様なレイプ行為が多発していたことを描く作品に続いたりするのではないかと予想される。「主戦場」というのはアメリカのことを指していて、それは慰安婦問題がアメリカでどのように受け取られるかを危惧した日本のナショナリストの発言から拾われたものだという。慰安婦問題についてアメリカで「20万人の女性たちが強制的に性奴隷にさせられていた」と報道されているのは誤りであり、彼らの認識を覆すための戦いという意味である。

 監督は日系アメリカ人のミキ・デザキというユーチューバー。最近はネットフリックスやフールーから大作映画が飛び出しているように、これもユーチューブから派生してスクリーンにステージを移した長編作品ということになるのだろう。冒頭から多種多様なニュース映像をマイケル・ムーアばりの早いテンポでつなぎ合わせていくので、ひとつの話題が飲み込めないうちに次の話題に進んでしまい、あたふたしかける。オープニングは彼がこの問題に興味を持ったきっかけからスタート。デザキはフロリダで生まれ、医大で学位を習得した後、沖縄や山梨県で英語教員を勤めていたことがあるという。その時の体験からなのだろう、「日本にも人種差別はある」という内容の動画をユーチューブにアップしたところ、日本ではテキサス親父として知られるユーチューバー、トニー・マラーノがこれに噛み付いてきたという。移民排斥を訴えるアメリカのオルタ右翼にとって、移民を受け入れないと表明してきた日本はいわば聖地であり、単一民族で国家を築き上げてきたことは彼らにとって大いなる理想といえる。そのテキサス親父はその頃、サンフランシスコに慰安婦像が建造されることに大反対していた。慰安婦像の何がそんなに問題なのか。自分に文句を言ってきたテキサス親父がそんなにも夢中になっている問題に興味が湧き、デザキは慰安婦について調べ始める……と、ドキュメンタリーを観ているだけではそのように受け取れるものの、パンフレットを読むと元朝日新聞の記者、植村隆がネトウヨに中傷されていると知ったことがきっかけで、この問題を知ることとなったと彼は答えている。はて、どっちなんだろう? アメリカでは日韓がこの問題で対立していることもほとんど知られていないため、なぜそんなことになったのかを理解したくなったと彼は続けている。

 取材は韓国と日本、そしてサンフランシスコ議会を行ったり来たりする。慰安婦問題にディープな興味を持っていなかった僕は、まずは韓国内で行われていた議論が興味深かった。慰安婦問題が表面化したのは90年代に入ってからだったけれど、家父長制が根強い韓国では、終戦後もいわゆる「汚れた存在」となった慰安婦は社会にすんなりと戻ることはできなかった。慰安婦たちがなかなかカミングアウトできない社会にも大きな問題があったという部分。それから慰安婦問題でたびたび俎上に上がってきたのが強制連行の有無で、プロの売春婦だったら問題はないとする見解もよく耳にするけれど、日本軍による強制ではなかったものの、ほかに選択肢がなくて慰安婦になった女性たちや韓国の業者に騙されて慰安婦になった女性たちは「反日」という文脈では声が上げづらい立場にあるというもの。具体的には、すべては日本軍が悪いとする「挺身隊問題対策協議会」と、日本には構造的責任はあるけれど、個別には韓国内の責任も問うべきだとするパク・ユハが対立し、ドキュメンタリーを観た後で調べてみたところ、パク・ユハは裁判で訴えられるほど韓国内では劣勢であり、日本では彼女の著作を右派も左派もそれぞれの文脈で評価しているということ。慰安婦といってもひとりひとりはみな異なる運命を辿り、まとめて論じることにそもそも無理があるんだなということがここまでではわかる。実際には人種的にも多岐にわたっていたそうだし。

 最も多くの時間が費やされているのは日本の右派と左派の議論である。どうやら同じ人数で同じ時間になるように配分されているらしい。論点は大きく「強制連行か否か」「慰安婦の数」「性奴隷の定義」などに整理され、細切れにされたインタビューがテーマに沿って再編されている。あたかも対論が行われているかのような例のスタイルである。もともと右寄りの人は右派の話をうんうんと聞き、左寄りの人はその反対となるのだとすれば、僕は明らかに左派であった。全体の90%近くが左派に説得力があり、とくに杉田水脈は喋れば喋るほどボコボコにされていくという感じに見えた。彼女の言葉尻を捉えるようなインサート映像もあったりして、そこは公平ではない気もしたけれど、彼女の理屈が一貫していないことは確かで、伝わってくるのは彼女の負けん気だけ、みたいな。右派の重鎮といえる櫻井よしこはほとんど発言はなく、ほかに藤岡信勝やケント・ギルバートらが右派として名を連ねている(歴史まで整形してしまう高須克哉は出てこない)。対して左派は吉見義明や林博史など。左派の話には納得するところが多かったけれど、人物的に印象に残った人はいなかった。まあ、冷静に喋っていたということなんでしょう。声が大きな人には負けるというか、僕は人類は良い方向に進むか悪い方向に進むかではなく、意志の強い人に引きずられるだけだと思っているので、これだけを見ても日本が右寄りになっていくのは当然だなあと思うばかり。

 右派の決まり文句としてたびたび出てくるセリフに「文書が残っていない」というのがあった。しかし、映画『日本のいちばん長い日』でも描かれていたように軍部は敗戦が決定的となるや記録文書を次から次へと焼却してしまったので、残っていないのは当たり前である。なので、右派も左派も当時の韓国の新聞記事だったり、細かいものをどんどん探し出してくる。そこからわかることはいろいろあるけれど、とくに印象に残ったのは慰安婦には未成年が少なからずいたということと、やはりそれは日本も批准していた国際法ではアウトだったということ。あるいは右派が主張するように慰安婦になることでいい思いをしていた人ももしかするといたのかもしれないけれど、どっちにしろ終戦と共に日本兵が渡していた軍票は紙屑同然になってしまったのだから、最終的には金を稼いだことにはならない。また「いい思いをしていたはずだ」という趣旨のことを繰り返す右派の主張はかなりしつこくて、外国人に生活保護を受けさせるなという在特会の主張を思い出すなあと思っていたら、実際に映像が在特会へと飛んでいったのは驚いた。バンクシーでもハロウィーンでもピエール瀧でも日本のニュースはすぐに金の話になるし、それはここでも同じだという印象。

 ドキュメンタリーのピークは慰安婦像を建てるかどうかで議論を交わすサンフランシスコ議会に移っていく。これが『バットキッド・ビギンズ』で描かれたサンフランシスコと同じ市なのかと思うほど、議論の応酬は凄まじい。結果は広く知られている通り、サンフランシスコ市は慰安婦像を建て、大阪市は姉妹都市を解消することとなった。後半はそのようにして世界にも積極的に働きかけていくネトウヨの背景に焦点が当てられる。安倍政権、そして日本会議である。スクリーンではこれまでに登場してきた右派の人脈図が示され、それらをすべて結びつけていた人物が浮かび上がる。日本会議代表委員などを務める加瀬英明にデザキはマイクを向ける。そこで語られることは(以下、ネタバレなので自粛。加瀬の従姉はちなみにオノ・ヨーコ)。話のスケールはさらに大きくなる。慰安婦に限らず戦後の賠償問題が俎上に上ると、必ずでてくるのが1965年に結ばれた日韓基本条約で、これによってすべては解決済みだという話になりがちだけれど、それはアメリカの都合で結ばせた条約であり、そもそも日韓をこのような関係に追い込んだのはアメリカの外交政策だと、オリヴァー・ストーンばりの歴史批判にデザキの論調も切り替わっていく。「主戦場」というのはアメリカを指していると先に書いたけれど、そもそも日韓で慰安婦論争が起きる種を蒔いたのがアメリカだという回帰性が示され、日韓基本条約が結ばれた時とは情勢が変わって、いまは日韓が争ってくれた方がアメリカには都合がいいのだなということも想像がついてくる。実際、現在の日本と韓国はともにアメリカから兵器を爆買いし(トランプになってからアメリカの軍事産業は30%の伸び率)、日本に関しては小松製作所などが軍需産業から撤退しなくてはならないほど日本政府に兵器や部品を買ってもらえなくなったというし。

 僕は学生時代に小さな本屋でアルバイトをしていて、お客さんに「韓国関係の本はどこですか?」と聞かれ、とくにコーナーもなかったので「うちには置いていません」と答えたら、いきなりものすごい剣幕で怒鳴りつけられ、それ以来、朝鮮人も韓国人もみんな嫌いになってしまったこともあるんだけれど、友だちができたり、水木しげるさんに3日連続で戦争の話を聞く機会があったりして、いつしかあの時のお客さんが怒鳴りつけるのも仕方がないことなんだなと思うようになった。一番いいのはやはり学校で現代史を教えてくれることだとは思うけれど、この作品で日本会議が政治の中枢にどれだけ食い込んでいるかを観てしまうと、学校教育に期待するのも無理がありそうだし、あー、めんどくさいなーと思うばかり。これだから政治は嫌いだ。

映画『主戦場』劇場予告編

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 カナダ・トロント出身のK・カットとサー・スクラッチによって結成され、その後、ニューヨーク出身のプロデューサー/ラッパーのラージ・プロフェッサーが加入するという形でグループができ上がったヒップホップ・グループ、メイン・ソースによる1stアルバム『Breaking Atoms』と、ラージ・プロフェッサー脱退後にリリースされた2ndアルバム『Fuck What You Think』が、日本国内盤として再リリースされた。
 ピート・ロックやDJプレミアと並び称される、90年代のヒップホップ・ゴールデンエイジ(=黄金時代)のサウンドを作ったプロデューサーのひとりであるラージ・プロフェッサーだが、彼にとってもデビュー作となった1991年リリースの『Breaking Atoms』はプロデューサーとしての彼の名前を知らしめただけではなく、それ以降のヒップホップの流れを決定づけた一枚と言っても過言ではない。ジェームス・ブラウンなどに代表されるファンクのサンプリングを主体としていたヒップホップのサウンドプロダクションは、90年前後のデ・ラ・ソウルやア・トライブ・コールド・クウェストらの登場によって、サンプリングソースの多様化が進み、音楽的な表現がより豊かなものとなっていく。80年代後半に数々のヒップホップ・クラシックに携わりながら、89年に銃で撃たれ亡くなった伝説的なエンジニア/プロデューサーであるポール・Cの手ほどきを受け、十代からサウンドプロダクションのテクニックを一から学んだというラージ・プロフェッサーは、バラエティ豊かなサンプリングネタを、さらに複雑に組み合わせることで、もうひとランク上の音作りを実現する。『Breaking Atoms』からの先行シングルでもある“Looking At the Front Door”や“Just Hangin' Out”はこのアルバムを代表する曲でもあり、彼のプロダクション・スキルが特に際立った作品とも言えるが、当時感じた新鮮な輝きは、いま聴いても全く色褪せることはない。さらに“Just Hangin' Out”のカップリング曲でもあるポッセカットの“Live At The Barbeque”は、あのナズが世の中に出た最初の曲としても知られ、この曲がきっかけとなって、あの『Illmatic』が生まれたわけだが、この曲も含め、全体に充満したあの時代のニューヨークの熱気もまた、このアルバムの大きな魅力である。
 前述のようにメイン・ソースのメイン・メンバーであったはずのラージ・プロフェッサーの脱退後、80年代半ばからニューヨークのヒップホップ・シーンで活躍していたラッパーのマイキー・Dが新たに加入し、制作された『Fuck What You Think』。実はこの作品は当初はシングルのみリリースされただけで、アルバムとしてはお蔵入りとなったという、曰く付きの作品だ(1994年リリース予定がお蔵入りになり、その4年後に晴れて正規リリース)。その先行シングルである“What You Need”やおそらく日本限定でのシングル・リリースであった“Diary Of A Hitman”などを当時耳にしたとき、1stアルバムとの音楽的な違いに驚かされたことを記憶しているが、今回改めてアルバムを通して聴いてみると、意外なほど実に耳にフィットする。1994年といえば、ウータン・クランなどの登場によってヒップホップがよりハードコアな方向に進んでいた時期でもあり、彼らのこの方向性はある意味、時代にマッチしていたわけで、さらに20年以上越しに聴いてみると、当時、メイン・ソースの作品という先入観を持って接していたときのあの違和感はあまり感じない。ドラムとサンプリングネタがタイトに突き刺してくる先行シングル曲の“What You Need”や“Diary Of A Hitman”はもちろんのこと、ラージ・プロフェッサーの影響も多少感じさせるタイトル・チューンや、“Looking At the Front Door”と同じイントロで始まるポッセカット“Set It Off”など聞きどころも実に多く、「ラージ・プロフェッサー不在」という理由だけでスルーするには実に惜しい作品だ。今回の再リリースを機会に、短い期間の中での激しい時代の移り変わりも感じながら、1st、2ndともに聴いていただきたい。

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