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Home >  Interviews > interview with Jaga Jazzist - ノルウェーからLAへ、幸福なプログレ・ジャズの旅

interview with Jaga Jazzist

interview with Jaga Jazzist

ノルウェーからLAへ、幸福なプログレ・ジャズの旅

──ラーシュ・ホーンヴェット、インタヴュー

野田 努    通訳:原口美穂  Photos by Anthony P. Huus   May 26,2015 UP

Jaga Jazzist
Starfire

BEAT RECORDS / NINJA TUNE

Jazz RockProgressive RockKroutrockIDM

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 加齢にしたがって人のハッピー度が下がっていくものである。シニカルになりがちなのも、新鮮味という感覚を得る機会がどんどん減っていくからである。あれほど驚きに満ちた世界も、どんどん既視感に埋められていく。ゆえに、環境の変化が必要になってくる。問題は、その変化に身体がついていけるかどうか……だ。

 ジャガ・ジャジストって良いよと僕に教えてくれたのはたしかハーバートだった。彼がジャズにアプローチしていた時代、2002〜2003年あたりの話だ。ノルウェーで出会った大所帯のバンドの何が、無闇に他を褒めないイギリスの左翼系電子音楽家のハートを捉えたのだろう。ハーバートはリミックスも手掛けているし、「マシュー・ハーバート・ザ・ビッグ・バンドのノルウェー公演へサポート・アクトとして出演したときの盛り上がりは、伝説的なステージ・パフォーマンスとして高い評価を得た」とビートインクのサイトにも記されている。

 僕は、バンドのリーダー、ラーシュ・ホーンヴェットの『Pooka』(2004年)が好きだった。このアルバムは、その年、もっともよく聴いた1枚だ。ジャガ・ジャジストが交響楽団だとしたら、こちらは室内楽団といった趣だが、同じように茶目っ気あるエレクトロニクスが散らばっている。

 ジャガ・ジャジストは、基本、ハッピーなバンドだ。エクレクティックなところはこのバンドの特徴だが、音楽のなかに何を混ぜようが彼らは最終的には桃源郷に向かっていく。イギリスのプログレッシヴ・ロックやクラウトロックへと大接近した前作『ワンアームド・バンディット』を経てリリースされる新作『スターファイヤー』も、いろんなものが混ざっているけれど、彼らの旅の出口は、最終的には明るい。トッド・テリエのリミックスもご機嫌である。
 誰にでもうまくいく話ではないのだけれど、ジャガ・ジャジストの場合は、変化を与えたことでまたひとつ若返ったようだ。人生もこうありたいものである。

LAでは免許なしではやっていけないから、免許をとったんだ。で、それをきっかけにハウス・ミュージックをたくさん聴くようになったんだよ。運転中にはちょうど良いよね。いまでは運転が大好きだ(笑)。

LAでの生活はいかがですか? またなぜオスロからLAに越されたのですか?

ラーシュ:とても気持ちいいよ。明日からまたノルウェーに帰る。で、また寒くなったらLAに戻ってくる。ノルウェーの冬は、ずっと暗くて気がめいるからね。
 LAに越したのは、アルバム制作を新たな気持ちでスタートさせるためだったんだ。これまでも曲作りのためにいろいろと場所は変えてきたけど、普通滞在するのは1、2ヶ月。でも今回は休暇で訪れたLAがすごく気に入った。人がたくさんいる場所でもあるけど、一人にもなれるし、集中できる。毎日太陽を浴びれるっていうのもすごくポジティヴになれるしね。ノルウェーの冬から逃げるっていうのが一番の理由だけど、マネージメントやブッキングエージェント、レーベルのみんながこっちをベースにしてるっていうのも理由のひとつだよ。

このアルバムにおける重要なポイントのひとつに、LAというはありますよね? LAを選んだ理由について訊きます。オスロの外で録音することが重要だったのか、それともLAという場所が重要だったのでしょうか?

ラーシュ:そうだな……自分でもわからない。環境や自然が音に大きく影響してるとは正直思わないね。でも、LAって、作業ひとつひとつにすごく時間がかかるんだ。すごく広いから移動に時間がかかるし、渋滞もすごい。だから、ゆっくりなペースのプロセスっていう意味ではLAが影響していると思うし、もしかしたらそれが音にも出ているからもしれないね。あと、こっちに越してきたばかりの時は、車の免許をもっていなかったんだけど、LAでは免許なしではやっていけないから、免許をとったんだ。で、それをきっかけにハウス・ミュージックをたくさん聴くようになったんだよ。運転中にはちょうどよいね(笑)。それで曲の尺が長い曲を聴くようになった。だから今回は、自分が運転中に楽しめるような曲を作りたいっていう気持ちもあったんだ。音の中を旅しているような気分になれる、長めの曲を意識したね。

通訳:運転するようになったことが影響しているっていうのは面白いですね。

ラーシュ:いまでは運転が大好きだ(笑)。オスローから地元までの1時間半のドライヴだったらすごく長く運転しているように感じるけど、LAでのドライヴは全くそれを感じない。こっちでは、1時間の運転なんて当たり前だからね。わざわざ友だちとコーヒーを飲みにいくのに1時間かけて行くこともあるくらいさ。それを普通にやってるっていうのは変な感じもするけど(笑)。

どんな偉大なバンドにも難しい時期というのがあると思うので訊きますが、大所帯のバンドを長続きさせるコツを教えて下さい。

ラーシュ:この人数でこれだけ長い間活動を続けるというのは、決して容易ではない。でも僕たちはスタートした時点からいろいろなアイディアに対してオープンだったから、それも長く続いている理由のひとつだと思うし、それがあるからこそワンパターンに収まらず新鮮さを保てているんだと思う。メンバー全員がアルバムを作る度に何か新しい要素をいれようと心がけているし、ライヴでも即興や自分たちが面白いと思うものを取り入れて、自分たち自身も飽きないように心がけているしね。だからこそ、1回2時間という長い公演を何度もこなして経験を積んでこれた。
 あと、メンバーそれぞれがJagaだけではなく他のプロジェクトに参加していることも鍵のひとつだと思う。ずっとJagaだけではうんざりしてしまうかもしれないけど、他のプロジェクトにも参加することで気分転換ができるんだ。他のこともやりつつ、活動が楽しいと思う気持ちを持ち続けるっていうのがいいんじゃないかな。

通訳:20年以上も活動しているわけですが、その中で危機というか、いちばん大変な時期はありましたか?

ラーシュ:2006年くらいだったかな。続けようか、それとも止めようかっていう時期はあった。重要なメンバーたちがバンドから出て行ってしまった時で、当時はどうしていいかわからなくなってしまった。『What We Must』(2005年)のあとだね。でも、『One Armed Bandit』(2009年)を作りはじめて、また新たなスタートをきることができた。その2作品のあいだ、たぶん4年くらい何もしてなかったんだじゃないかな。重要なメンバーが去ってしまうことは危機ではあるけど、同時に、これだけ長く活動してるんだからメンバーが変わっても大丈夫だとも思えた。新しいメンバーが抜けたメンバーと全く同じことができるわけではないけど、逆にそれで新しいことができるならそれはそれでいいと思ったんだ。

やり続けることの難しさということもありますよね? 

ラーシュ:たしかに難しいとは思う。とはいえ、同じメンバーで違うことをやり続けるっていうのは、やはりその分やりがいがある。僕はとくにメロディーに対して決まったテイストを持っているんだけど、過去のJagaの作品を聴いてもらうとそれがわかると思うし、同時にそのテイストを保ちながらも様々なプロダクションが試されていることもわかると思う。……元々の質問はなんだったっけ(笑)?

通訳:(笑)やり続けることの難しさについてです。

ラーシュ:そうだそうだ。20年かけて、このバンドでは本当にたくさんのことを試してきた。だからいまでは、完全に新しいことを見つけるのがすごく難しくなってきている。アルバムを作る度に、前とは違うもの、前とは違うバンドからインスピレーションを受けようと努力している。僕ら自身もそうだし、Jagaのオーディエンスも定番の音楽を聴き続けたいタイプのオーディエンスだとは思わない。みんな、常にオリジナルで新しいものを求めていると思うんだ。活動を続けていく上で大切なのはそれだね。自分たちをリピートしないことが長続きに繋がるとも思うし、それをやるからこそアルバム作りにどんどん時間がかかるようになるんだよ。

そうやってアルバムごとのに新しいことに挑戦したり、いろいろと乗り越えてきたわけですが、今回のアルバムは、完成まではスムーズに進行した作品なのでしょうか?

ラーシュ:少なくとも僕個人にとっては、今回はいつもよりスムーズだった。このアルバムでは1回もリハーサルしなかった。僕が曲のアウトラインを書いて、それをメンバーそれぞれに渡して演奏してもらった。8人、9人同時に演奏してレコーディングするより、少人数でレコーディングするほうがそれぞれからいろいろ引き出せると思って。だから時間も長くかかったんだ。それぞれのアプローチをまとめるのにも時間がかかったしね。

通訳:それはこれまでにない初めて挑戦したプロセスだったんですよね?

ラーシュ:そう。完全に新しかった。いままではレコーディングの前に4、5ヶ月リハーサルしてきたから。レコーディング前に全てが書き終わっていたし、演奏が難しい部分はとことんリハーサルした。レコーディングの時も、大人数で一斉にレコーディングすると、かならず誰かが浮いてしまったり埋もれてしまったりする。だから今回は、バラバラにレコーディングすることでそれぞれの特徴を活かしたかった。その中でも、とくにギターのマーカスとキーボードのオイスタインは他のメンバーよりも長くスタジオに入って、いろいろと試してみたよ。

質問:野田努(2015年5月26日)

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