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Jaga Jazzist

ExperimentalFuture Jazz

Jaga Jazzist

Live with Britten Sinfonia

Ninja Tune/ビート

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木津 毅   Jun 13,2013 UP
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 ジャガ・ジャジストのダイナミックな演奏を聴いていると、僕はいつもアルペン・スキーのミスター・メダリスト、チェーティル・アンドレ・オーモットの惚れ惚れする滑りを思い出す。というのはたんにノルウェー繋がりなだけの短絡的な発想なのだが、両者に共通する豪快さと華麗さを目の当たりにすると、ノルウェーという土壌に何かあるのではないかと錯覚してくる(なんなら、そこにコズミック・ディスコを加えてもいい)。社会保障が充実したその国の民は、心が宇宙に近いのかもしれない......少なくとも日本よりは。いや、そうだ、滑降から回転までこなすオーモットにはジャガ・ジャジストとの大きな共通項がある。オールラウンダー、である。ジャガ・ジャジスト、ノルウェー語でヤカ・ヤシストの音楽は、もちろんジャズに主軸に置きつつも近接するジャンルから遠方までを大胆に横断し、IDMやポスト・ロック、あるいはテクノとも親和性が強い。そうした大らかな折衷主義は一貫して〈ニンジャ・チューン〉の顔であり続けてきた。
 とはいえ、ジャガ・ジャジストは個人競技者ではなく演奏集団であり、彼らの良さはその、「集団」であることにすべて起因しているように思える。僕は初来日、京都の芸術大学の文化祭(たしかチケットは2000円!)でライヴを観たが、そのアンサンブルは、多様な人間たちが集まって同じ目的=調和を目指すことの喜びを全身で表現しているようだった。もちろん全員が、だ。ユニゾンでぴったりと揃うメロディがあれば、それに応えるカウンター・メロディがある。低音と打楽器は同じリズムを刻み、ふとそこに鍵盤打楽器が加わったり、また離れたりする。かと思えば、全員が同じフレーズをフォルテッシモで叩き出す快感......。そのあまりの身体的な体験は僕のなかのライヴという概念を確実に刷新したが、彼ら自身にとってもライヴという場がある理想の実現の場であることは間違いないだろう。したがって、意外にも初のライヴ盤である本作が、さらに人数を加えたものとなるのは非常にロジカルな展開だと言えるだろう。タイトルは『ライヴ・ウィズ・ブリテン・シンフォニア』、その名の通り、オーケストラとの共演盤だ。スティーヴ・ライヒやマイルス、フィリップ・グラスの引用を自分たちの楽曲へと取り込み、宇宙はさらに拡大している。

 企画としてはあまりにも素晴らしいと反射的に思ったものの、ただ、結局その場にいないと真髄は味わえないんじゃないかとはじめは思った。要は、これはライヴの一回性を模倣するための代替物なのではないか、と。彼らのライヴにおけるスケールの大きさや、はじめてのインパクトの強烈さは一度経験していれば嫌というほどわかるからだ。が、何度も聴いていると、リピートされることによって理解できる歓びがここにはあると気づく......すなわち、リスナーたるわたしたちも、この「集団」に参加することができるのである。楽器は持っていなくても、その耳で。
 オープニングが顕著だ。オーケストラが神妙かつ優雅なイントロを奏でること約4分、バンドの管楽器がそこに加わるとまずは歓声が上がる。しかし演奏はホーンのソロであくまでじわじわと熱を上げていく......じつにスリリングだ。鍵盤打楽器やフルートなどの高音もそこに加わり......これで7分50秒。と、そこでようやく前作の代表曲"ワン・アームド・バンディット"のフレーズがバーンと演奏され、そこでまた歓声が上がる。その鮮烈さゆえだ。が、そこに至るまでの道程を5回経験しているとどうだろう。はじめて聴いたときのインパクトはなくとも、演奏者たち全員が持っているはずの「せーの」の呼吸をいっしょに感じることができるのだ。そこでフレーズが決まる気持ちよさ。どんなライヴ盤にだって少なからず同じようなことはあるだろう、が、ジャガ・ジャジストとオーケストラによるそれは、明らかに規模が違う。音符や休符のひとつひとつ、譜面に書かれているのであろう音楽記号ひとつひとつまでもが愛おしい。
 そうなってくると、もうこれはひたすらエクスタティックな一枚である。"バナンフラー・オーバラオト"で、同じ旋律を各セクションが順に演奏して継いでいく構成はまるでアドベンチャー映画のようで、"トッカータ"ではマティアス・アイクによる情熱的なトランペットのソロだけにではなく、それを支えるバンドとオーケストラの掛け合いにも左右の耳が反応する。いや、それを言うならラストの"オスロ・スカイライン"での、あらゆる楽器が呼応し合いながらうねり、高みと上っていくカタルシスといったら......。改めて、オーケストラとはひとつの思想なのだと感じる。それぞれの役割を果たすことと、それぞれの個性を解放することの狭間で、それでも「集団」としての美を奏でること。それは共同体の美しさだ。
 "ミュージック! ダンス! ドラマ!"と、ステージ上でその美が再現されることを感嘆符で強調するジャガ・ジャジストはだから、その理想を心ゆくまで謳歌している。音楽的には高度で洗練されていながら、その歓びは限りなく純度の高いものである。このご時世だから映像でももちろん楽しめるのだが、ぜひ、耳で繰り返し味わってほしい作品だ。

木津 毅