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Jamie Lidell

FunkSoul

Jamie Lidell

Building A Beginning

Jajulin / Traffic

Tower Amazon

小川充   Dec 23,2016 UP

 正直なところ、日本ではあまり正当な評価を得ていなかった感のあるジェイミー・リデル。今でこそ彼は素晴らしいソウル/ファンク・アーティスト&シンガーであるが、そもそもイギリス出身の白人、当初はサブヘッドやスーパー・コリダーというミニマル・テクノ系ユニットに参加、ソロ作品をリリースするのは〈ワープ〉というエレクトロニック系レーベルの総本山、ソロ活動初期はIDMやエレクトロニカに傾倒、歌ではなくヒューマン・ビートボックスが出発点などが理由で、ソウルやファンクのシーンからは色眼鏡を掛けて見られていたと思う。彼がソウル/ファンク路線へ向かうのは2005年のセカンド・アルバム『マルチプライ』からで、チリー・ゴンザレスやファイストとの共演、3枚目のアルバム『ジム』(2008年)がインディペンデント・ミュージック・アワードのベスト・ポップ/ロック・アルバム賞を獲得したことなどで、どちらかと言えばロック方面から成功を掴むきっかけを得る。2010年の『コンパス』はベックとグリズリー・ベアーのクリス・テイラーをプロデューサーに、大ベテラン・ドラマーのジェイムズ・ギャドソンやウィルコのパット・サンソンなどとのセッション・アルバムで、ロックとファンクが融合した世界を見せていた。

 一方、2013年の『ジェイミー・リデル』はプリンスやPファンクなどの系譜を受け継ぐエレクトリック・ファンクで、デイム・ファンクからダフト・パンクという近年のブギー・リバイバルにも通じるところを見せていた。彼が取り入れた1970~80年代的なスタイルは、2000年代であれば単にレトロとしか見られていなかったが、そうした点で時代がやっと彼に追いついてきたのかもしれない。そして、今までの作品の中でもソウル/ファンクに接近した作品ではあるが、同時にエレクトロな色彩も強いので、独特のクセがあるアルバムでもある(プリンスやPファンクの作品がそうであるように)。ちなみに、ジェイミー・リデルはイギリスからアメリカのテネシー州ナッシュビルへ移住しており、『ジェイミー・リデル』はそこにある自宅スタジオで、往年のジャズ/フュージョン・プレイヤーのジェフ・ローバーらを招いてレコーディングされた。ナッシュビルと言えばカントリー&ウェスタンやサザン・ソウル、サザン・ロックと、米国音楽の聖地、もしくはアメリカ音楽の心のような町である。

 そうした町の影響を受けるのは当然で、『ジェイミー・リデル』にはナッシュビルらしさはなかったものの、3年ぶりの新作『ビルディング・ア・ビギニング』はアーシーで生々しいソウル/ファンク・サウンドに彩られている。参加ミュージシャンは長年のコラボレーターのモッキー、ジェフ・ローバーやパット・サンソンなど以前からの共演者のほか、ジャック・ホワイトのバンド・メンバーであるダル・ジョーンズ、マイルス・デイヴィスのグループでも演奏経験があるデロン・ジョンソンなど。ディアンジェロの『ブラック・メサイア』にも通じるところを感じさせるのは、ベースでピノ・パラディーノが参加しているからだろう。ちなみに、長年所属してきた〈ワープ〉を離れ、自身で設立した新レーベル〈ジャジュリン〉からの第1作となる。今回、彼のキャリアの中でもっともソウルに接近したことについて、作曲とプロデュースで参加したリアン・ラ・ハヴァスの『ブラッド』がグラミー賞にノミネートされ、Aトラックとの共作“ウィー・オール・フォール・ダウン”がヒットしたことで、曲作りの大切さを再認識したことが要因だそうだ。その結果、『ビルディング・ア・ビギニング』は極力オーヴァー・プロダクションを避け、自身の作家性を前面に打ち出すことにより、彼のソウル(感情や情感)が今までになくダイレクトな形で露わになっている。その好例が“ミー・アンド・ユー”や“ナッシングス・ゴナ・チェンジ”で、前者はベン・E・キングの“スタンド・バイ・ミー”あたりを、後者は往年のボビー・ウーマックを思い起こさせる素晴らしい歌と演奏だ。

 “ハウ・ディド・アイ・リヴ・ビフォア・ユア・ラヴ”は少しレゲエ風味のリラックスした曲調で、スティーヴィー・ワンダー風の“ジュリアン”(生まれたばかりの息子のジュリアンに捧げている)とともに、アルバムにリラックスしたムードを持ち込んでいる。表題曲のレイジーで枯れた味わいも格別で、スライ・ストーンのスロー・ナンバーに通じるものがある。“ミー・アンド・ユー”も表題曲もそうだが、スロー~ミィディアム・スローの良作が多いアルバムで、“ファインド・イット・ハード・トゥ・セイ”もその1曲。マリオン・ロス3世によるチェット・ベイカー風のトランペットと相俟って、ジャジーなムードを感じさせる曲だ。このトランペットは“アイ・ステイ・インサイド”でもフィーチャーされているが、これら作品ではジャズ・シンガーとしてもジェイミー・リデルは卓越した才能を持っていることが読み取れる。“ウォーク・ライト・バック”はスロー・ブギーの佳作で、『ジェイミー・リデル』にあったエレクトリック・ファンクの要素を本作用に変換させた作品と言えるだろう。“ドント・レット・ミー・レット・ユー・ゴー”も同様のエレクトリック・ソウル。こうしたソウル・ミュージックとエレクトリック・サウンドの融合こそ、ジェイミー・リデルの核となる部分だろう。プリンスが亡くなった2016年に、こうしたアルバムをジェイミー・リデルが発表したことは、ソウル・ミュージックの長い歴史と伝統を感じさせる。

小川充