「Low」と一致するもの

読者へ - ele-king

 前略。
 被災地の方々のことを思うと言葉が出ませんが、地震の被害がこれ以上広がらないことを祈念するのみです。まだまだ予断を許さない状況が続いています。この先を思えば不安を拭いさることができないのが正直なところです。それでも僕たちはいま生きているのですから、前を向きましょう。あくまでも慎重に。そして、ひとり暮らしの音楽好きも多いと思いますが、助け合いましょう。とにかく......、くれぐれも気をつけて。希望を忘れずに!
 
 本日の月曜日、いつものようにreviewをupします。今週upするすべてのreviewは3月11日よりも前に書かれたものです。

 良い曲を見つけました。
 これはたぶん日曜日にupされた曲です。
 But This is Way / S.l.a.c.k. TAMU PUNPEE 仙人掌

 
 さらにこんな曲もありました。
 PRAY FOR JAPAN / HAIIRO DE ROSSI Track by EeMu ~ ONE / Aporia


D.O - ele-king

 昨年で日本のインディ・ラップのモードは"ハスリング"から"スワッグ"へと、完全に切り替わったように思える。それは、敵対する法律が麻薬取締法から著作権法へ、舞台がストリートからネットへ、目的が金儲けから――レイチェル・ボッツマンとルー・ロジャースが提唱するところの――評判資本へと移行したとも言えるだろう。もちろん、ラッパーたちは常に評判資本(=プロップス)を求めて来たし、相変わらず、それをいつか金儲け(=ハスリング)に繋げたいと考えているのだろうが、YouTubeの再生回数やフリー・ダウンロードの数を競い合うそのゲームは、例えば、USではWiz Khalifaが上ったメジャーなステージが期待出来ないこの国では、閉塞的にも、逆に、オールド・スクールを連想させるピュアなシーンのようにも感じられる。

 他方、ハスラー・ラップの次を模索する動きは、傑作『花と雨』(06年)でブームを起こした先駆者が、自身の名を冠した『SEEDA』(09年)で、より、アーバン・ミュージックを意識したトラックに乗って、政治的なメッセージを歌い出したことにも見られた。『Just Hustlin' Now』という、そのものズバリなタイトルのデビュー・アルバム(06年)に続いて、Avex EntertainmentからリリースされるはずだったD.Oの『Just Ballin' Now』(09年)も、また、同様である。メジャー・レーベルでは必須課題となっている有名曲のサンプリングに、ザ・ブルー・ハーツの"爆弾が落っこちる時"をチョイスしたり、TV番組で共演して話題を呼んだ中川家剛に、彼のゲトーな生い立ちをラップさせたり、それまでの、シーンでのハードコアなイメージと、メディアでのユーモラスなイメージを両立させ、さらにポップに展開したバランス感覚は実に見事だった。とくに、教師に世間一般の常識を、彼に忌み嫌われる自分自身にアウトローを象徴させ、同じような境遇の子供たちに向けて歌った"Lil Rampage'"は、まさに現代のザ・ブルー・ハーツに成り得るポテンシャルを持った名曲だったろう。しかし、ご存知の通り、同作は発売直前、作者の麻薬取締法違反での逮捕により、日の目を見ることはなかった。

 それに比べると、D.O、2年振りのサード・アルバム『ネリル&JO』は、リード・シングルのタイトル"I'm Back"を、そのまま"復活"と取るか、あるいは"後退"と取るか、意見の分かれそうな内容になっている。つまり、本作のテーマは、言わば"ハスラー・ラップの逆襲"である。全体的には、裁判シーンを描いた"Shall We Blunt?"からはじまり、シャバで待つ恋人の健気さをシンガーに歌わせた"Lettr To Jail"や、釈放を祝う仲間の声をイントロに置いた"あとはカンに任せよう"を挟んで、事件を振り返る"He Said"で本編を閉じるというドキュメンタルな構成。事件で得た教訓は、クライマックスの「今までの一連の流れは物語の始まりに過ぎないが/イイ日に思えるあの日にすら後悔なんてねえぜ今更」というラインでポジティヴに昇華されているが、その実、"Shall We Blunt?"で「アイツ(筆者注:検察)を引っぱたいちまえよD!!」と悪魔に囁かせたり、スキット"A Bli"で緩和化しつつある世界の大麻事情を紹介したりと、影で舌を出し、"I'm Back"に至っては「拝啓警視庁始め全道府県警の皆様へ/僕はあなたたちが大嫌いでこう思ってます/くそ喰らえ」と、はっきり、中指を立てている。

 また、アルバムの随所には、やはり"He Said"の「街中を走りビル風に乗り各土地をレイプした噂話/笑っちまう程デタラメばかりアイツは言ってたんだ確かに」というラインを逆手に取るように、「アイツサイキンナニヤッテルトオモウ?」と、ヘイターが陰口をたたくのに続いて、Craig Brewerの同名映画をリメイクしたようなピンプもの"Hustle & Flow"や、サディスティックな拷問描写が延々と続く"Gangsta Drive"が差し込まれる。ボーナス・トラックの"Bitch In Bed"等はブロウ・ジョブをねちっこく実況するだけのトラックで、その辺りを聴くと、D.Oの根っからのギャングスタ・ラップ好きが伝わって来るというか、ギャングスタ・ラップとは、そもそも、NWAがそうなように、現実をディフォルメした表現であって、彼がそのことに極めて自覚的なことがわかる。要するに、それらの楽曲は"デタラメ"で"笑っちまう"、"噂話"に過ぎないのだと。そんな風にフェイクとリアルを――"ネリル&JO"を?――混在させることで、D.Oは我々に突き付けているのだ。"果たして、真実とは何だ?"

 とはいえ、その露悪的な振る舞いは、世間一般のみならず、日本のヒップホップの経済的成功を願う人にとっても、眉をひそめたくなる内容なのかもしれない。しかし、思い出して欲しい。本来、ヒップホップとはアウトロー、つまり、法の外に弾き出されてしまった人たち(out-law)のためのコミュニティではなかったかと。この国は、近年、ますます、法に抵触したものを徹底して叩き、追放し、謝罪させては憂さをはらすような、村八分的性格を強めている。なかでも、ドラッグは踏み絵として使われている節がある。ちなみに、そこで言う"法"とは、法律に準ずる世間の"法"だが、法律と世間の"法"は真っ向からぶつかることだってあって良いはずなのだ。それにも関わらず、市民が警察化しているこの狂った時代は一体、何なのか。D.Oは前作収録曲"Rhyme Answer"で言っていた。「逆に聞きたい事があるんだが 世の中か? 俺か? 狂ってるのは」。そこで、"狂っている"とレッテルを貼付けれた彼は、"I'm Back"で再び問う。「皆俺に大丈夫か?って訊くが/皆は逆に大丈夫か?」

 一旦、法の外に弾かれた若者がカムバックし、しかも、わざわざ、反省していないと、法律と俺の"法"は違うんだと宣言する。こんな、痛快なことがあるだろうか。それだけではない。D.Oは、本作で同じような境遇の人びとにも手を差し伸べている。アルバム・ヴァージョンの"I'm Back"は、ともに逮捕され、各界腐敗の槍玉に上げられた元・若麒麟こと鈴川真一をフィーチャー。前述の「皆俺に大丈夫か?って訊くが/皆は逆に大丈夫か?」というラインを彼に歌わせることで勇気付けるのみならず、同曲に普遍性を与えている。そう、本作は言わば、不良讃歌だ。願わくは、日本のヒップホップ・シーンがアウトローの受け皿として機能していかんことを。「金バッチ もしくはM.I.C 選択を迫られた」D.Oが後者に救われたように。彼が名前を連ねる雷が、逮捕後、引退をほのめかしているYou The Rockに"帰って来い"と訴えかける新曲"2U"も感動的だった。人間は躓いても、何度だってやり直せる。そして、友だちが躓いたら手を差し伸べてやれ。友だちがいないならパーティに来い。それは、何となく繋がった気にさせてくれるサプリメントとしてのポップ・ミュージックではなく、実際に人と人を繋げるソーシャル・ネットワーキング・ミュージックだ。

 NYのファッション・ウィークと言えば、コーポレートで華やかな世界なイメージだが、こちらのファッション・ウィークは、それに対抗するため(?)インディペンデントで活躍するデザイナーのために立ち上げられた。主宰者のアーサー・アービット自身もデザイナーであり、彼の周りのデザイナーをもっとたくさんの人に紹介したいと4年前にスタートし、今回で8シーズン目を迎える。
 彼がピックアップするアーティストはひと癖のあるデザイナーばかりで、普通のファッション・ショーのように、モデルがランウェイを歩いて洋服を見せて終わりでなく、ショーケースのやり方も、デザイナー様々である。


主宰者のアーサー・アービット

 生バンドをバックにしたり、モデルがバンドとして演奏したり、オペラ歌手のバックでモデルがランウェイを歩いたり、ストリップショー、ジャズ・ダンス、演劇などなどファッション・ショーとして予測できないことが起こる。その見せ方のアイディアは,デザイナーがどんな風に着てもよいと言う闇の提案なのかもしれない。
 定番、新しいデザイナーとのバランスもよく、回を重ねるごとにパワーアップしている。ランウェイの目の前列は,ファッション・カメラマンでいっぱいとなる。今回はどんなファッション・ショーが起こるのか、と期待がつのり、裏切らないので,また次回も,と足を運んでしまう、そんなイヴェントなのだ。気になる......。

 まずは今回のデザイナーを簡単に紹介。

King Gurvy
 King Gurvy は主宰者アーサーのブランド。6人の男子モデルが彼のスペシャルな、ラグ系のガウン(ちょっとペンデルトン風)を身にまとい、ランウェイに現れ、Walmart, Nike, bp など、それぞれコーポレートな会社のキュープをステージに積んでいく。すべてを積み上げた後、ステージ下から、モデルが叫びながら飛び出し、すべてを壊していく。そして、先ほどのモデルたちが彼を抑え、助け(?)にいく。最後彼は力づき、その場に倒れ込む。彼の洋服のラインストーリー。


主宰者アーサーのブランド、King Gurvy



Dani Read www.daniread.com
 Dani Deadは、すべて下着のボンテージ・コレクション。ハードでギリギリだが、いやらしさがなく,かっこ良い。手錠されたモデルがでて来ては、後ろの壁に並んでいく。


No Name Collective

 No Name Collectiveは、パンク的な衣装のライン。登場しては,手に持った球を投げつける。アーティスティックであり、 ちょっとゴシックなロンドンのブランド、オールセインツを思わせる現代的なファッション・コレクション。ステージの脇では、女の子が効果音的に歌っている。最後には、バラや風船(全て黒)なども登場。




SDN
 www.sarahdixonsnova.com/
 SDNは,このイベントに最多出場している。今回は、アカペラ歌手のうたをバックに、モデルが登場。モノトーン、パッチワーク系のファブリックを生かした素材を使い、スカート、シャツ、ジャケットなどをプレゼン。


2日目:


Nathalie Kraynina 
www.nathaliekraynina.com
"password is love" by Nathalie kraynino
 このウィリアムスバーグ・ファッションショーには珍しく、モデルがプロ。間の取り方、メーク、ポージング、どれをとっても完璧で、本物のファッションウイークかと錯覚。洋服は、スカートの下にチュチュをいれたバレリーナ(色は基本的に黒かゴールド)のように、ドレッシーでオーガンジー。いままで見たなかでいちばんファッション・ショー的だった。


Hayden Dunham
 www.haydendunham.com
 白と黒を基調としたデザイン。モデルも隣の友だちのように、インディな感じが好感度。黒ふたり。他人が白基調。ほとんどが、下着に近いパンスト的衣装。総体的に、幾何学的な衣装だった。


インディな感じが好感度のHayden Dunham


Total Crap Uninc. 
www.totalcrapuninc.com/
 完璧にがらくた! と言う名前のライン。3回目の出場となり、すべてのショーを見てきているが、彼女の努力とアイディア、潔さ、パンク精神は、一定の度を超えている。過去2回は、ボンテージ演劇、ミュージカル、半ストリップ・ショーであったが、今回は生バンドを取り入れた。ベース、ギター、ドラムの3人編成で、曲はヘビー&ロックンロール。シューゲーザー系で、ショーの邪魔にならないバック音楽になっている。
 モデル主役は、本業ストリッパーの彼女のルームメイト。彼女のエンターティメント性は、天性の物を感じる。ステージにいるあいだは、獣の目をしていて、いまにもとって食われそう。登場するモデルは、メイド喫茶ウエトレス(メガネで、萌え系の彼女が、パンツを見せながら激しくステージを転がる)、モード系黒人モデル、ハードな革ジャンライダー系。洋服は、パンクスタイルで、どことなくエスニック。オレンジ色がテーマ。デザイナー自身は青のスパンコールのボディコン衣装&ライダーズ・ジャケット。彼女は普段からコレ。


そのパンク精神は、一定の度を超えている。Total Crap Uninc.


 中間休憩は、バンド演奏。food stamp
 というかこれが最後のショーだと思ったのは私だけではないはず。
 ふたつの白い布をかけた小さなテーブル(ドラムとセットに布をかけただけ)がステージの上にセットされ、コムデギャルソン系の真っ黒な衣裳(黒のポンチョ)、目の周りの真っ黒なメイク、金髪、(フードはしっかりかぶ)と言ういかにも、モデル風女のコがシンガーとドラマー。タンバリンも黒で揃える。そこに、ゴールドの埴輪衣裳(下はゴールドのパンツ(オムツ?)一丁、ゴールドのマント、縦と鉾を持ち、トサカの付いたヘルメット、コールドブーツ)を身にまとったおじいさんが登場し、ステージ上を練り歩く。意味がわからなかったが,オーディエンスの興味を引いたのはたしか。


Alex Campaz
 www.alexandercampaz.com
 今回の最後は、alex compaz。いままでのショーでは、モデルがひとりずつ登場し、ステージに残っていき(あるいはひとりずつ引っ込んでいき)、最後にみんな一緒になって盛り上がる,と言うスタイルが多かったが、このショーでは,最初にすべてのモデルがステージに登場し,みんなでいっせいにダンスをはじめる。かなりの圧倒感で,いっきにステージに目が釘付け。モデルたちのメイクがちょっと昔臭くって、古典的でかわいらしい。50年代のファッションショーの本から登場したような。でも、洋服(レオタード)の色のコントラスがとても現代的。私は、この見せ方もあるが、一気にこのブランドが好きになった。


圧倒感なステージングのAlex Campaz


 2日間どちらも参加したが,ファッション・ショーと言う枠を超え,エンターテイメントになっている。基本は洋服をショーケースする事が目的なので、洋服自体も大切なのだが,単純にショーは目にも耳にも楽しく、デザイナーの個性を上手く伝えるために、それを着るモデルを選択して,ショーのストーリーを考え、それを実際に形にしていくデザイナーたちの発想、アイディアにつくづく感心させられた2日間。そして,そのショーをひとつにまとめあげた主催者の懐の深さに感心。次も絶対行こう。

[Urban] feat. SIMI LAB - ele-king

 噂のシミラボがついにDOMMUNEに生出演します!! 3月15日(火曜日)です。
 ちなみに7時からは、急遽、XL レコーディングスの社長、リチャード・ラッセルさんとジェイミーXX(ザ・XX)の公開インタヴューをやることになりました! ギル・スコット・ヘロンの『アイアム・ヒア』、そしてそのリミックス盤『ウィ・アー・ニュー・ヒア』について訊きます。どうぞお見逃しのないよう!
 また、当日はシミラボのライヴのほか、女性ラップ・グループのデレラのライヴも決定しました。トークショーではムードマンも参加、都合が合えば、DJ CONOMARKもかけつけてくれることになりました!

 そこで今回は格好いいPVを2本、紹介しましょう。
 まずは、2009年にYouTubeにPVがアップされ、SIMI LABの名を世間に知らしめることになったヒット曲"WALKMAN"、もう1本は、Earth No Mad From SIMI LAB名義による3月25日に発売予定のアルバム『Mud Day』から"Don't Touch Me feat. QN"。
 また、QNによるアルバムのインスト集『Mud Day Instrumentals』も同時発売しますよ!(アナログ盤も発売予定とのことです!)
 ......それにしてもこのENMの写真、良いですね。古い日本家屋の四畳半とヒップホップとのハイブリッディな感覚がたまらないです......。
 とりあえず、3月15日のDOMMUNE、乞うご期待!ですよ

WALK MAN feat. SIMI LAB

Don't Touch Me feat. QN

[Electronic, Dubstep] - ele-king

1. Tin Man / Nonneo | Absurd Recordings


 ケン・キージーの『カッコーの巣の上で』から早50年、新年早々L.Aの〈アブサード〉から興味深い「アシッド・テスト」が届きました。〈アブサード〉はセカンド・サマー・オブ・ラヴの当時からU.Kの最前線で活躍するハウスDJのエディー・リチャーズを中心に、タイガー・スキンやデイヴ・DK等、DJの目線からシンプルにグルーヴを追及したテック・ハウスをリリースしています。そして今回新たにスタートしたシリーズがその名も〈アシッド・テスト〉です。
 この〈アシッド・テスト〉はいわゆる「アシッド・ハウス」に焦点を当てたリリースをしていくラインのようです。ハウスもテクノもトランスも音楽自体はDJピエールの"アシッド・トラックス"から地続きのもので、それぞれを音楽から明確に分ける定義は存在しないのですが、TB-303を元にするベース音はこれらの音楽に共通して用いられ重用な役割を担っています。TB-303とは〈ローランド〉が作ったベース・マシンの名称でいわゆる「アシッド・ハウス」の音色を決定付ける楽器のひとつです。
 なぜジャンルの細分化が進んだかと言うと、野田さんのアレックス・パターソンのインタヴューを参考にしていただくとありがたいのですが、80年代にパンクがヒッピーを批判したように、90年代の初頭にジュリアナに代表されるお立ち台のナンパ箱でかかっていたアシッド・トランスとデトロイトやシカゴからリリースされていたアンダーグランドなハウス、テクノを区別する必要があったからです。
 そしてダニエル・スタインバーグ、ミュートロンのレヴューを参考にしていただけるとありがたいのですが、「アシッド」はテクノを構成する基本的な要素であるためにリヴァイヴァルを繰り返しています。そしてまさにいま「アシッド」は再び息を吹き返しつつあるのです。それはクリック、ミニマル以降のテクノ・シーンのなかで音楽性の向上とグルーヴの組み換えに重点が置かれたモダン・ミニマルへの反動によるもので、ベルリンの〈ベルクハイン〉を中心に活動するマルセル・デットマン、このシングルでもリミックスで参加しているミニマル以降のトランスの可能性を追求するドナト・ドッジー、ダブステップとハード・ミニマルを結びつけハードコアの復権を試みるトラヴァーサブル・ワームホールなど、単純でピュアな"シビレ"をフロアがふたたび求めはじめているのです。日本では沖縄在住のイオリがこの流れのなかでディープなトラックをリリースしています。
 〈アブザード〉はロンドンのファブリックを中心としたテック・ハウスのシーンから「アシッド・リヴァイバル」を画策しているようです。シリーズの1番を飾るのはカリフォルニア生まれウィーン在住のアシッド狂、ティン・マンことヨハネス・アウヴィネンです。自ら主宰する〈グローバル・エー〉をはじめ、パン・ソニックの〈キー・オブ・ライフ〉、パトリック・パルシンガーの〈チープ〉、ペンシルバニアの〈ホワイト・デニム〉などから一貫して「ACID」をテーマにしたリリースを続けています。〈エフ・コミュニケーション〉の中核であるヨリ・フルコネンが指揮を執り、10台のTB-303を使用し行われたインスタレーション、アシッド・シンフォニー・オーケストラにも参加していました。昨年〈グローバル・エー〉からリリースされた3枚組みのアルバムでは、全曲ノンビートのドローンやアンビエントが集められ、TB-303のアシッド音響を用いた、従来のハウスとは異なるアシッドへのアプローチをみせていました。
 今回のシングルではメランコリックなメロディーとTB-303の絶妙なヨレ具合が心地よいリラックスした空気のディープ・ハウスとクラシカルで穏やかなアンビエントを聞かせています。ハードな質感ではなく独特の音の歪みを引き出したトラックです。ドナト・ドジーのリミックスはオリジナルのダヴヴァージョンと言えるもので、深いエコーの中で原曲のメロディーが浮き沈みするディープ・ミニマルを聞かせています。
 90年代には激しければ激しいほど良いとされた「アシッド・ハウス」ですが、ゼロ年代以降のミニマルで濾過されて、ほんの少しかもしれませんが変化を遂げているようです。(メタル)

2. Sepalcure / Fleur | Hotflush Recordings


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E王 その昔......とういか、いまもそうか、マシン・ドラム名義(10年前、プレフューズ73と比較されたアブストラクト系の雄)でならしたトラヴィス・スチュワートがダブステップに転向してからの2枚目のシングルで、はっきり言って素晴らしい。
 ジェームス・ブレイクの"CMYK"の影響を受けながら、IDM系のドリーミーなテイストをダブステップに変換したタイトル曲は、「この手があったか!」と。ソウルフルな"ユア・ラヴ"は『パラレル・ユニヴァース』の頃の4ヒーローというか、アンビエント・テイストの浮遊感が心地よい。とにかくドラム・プログラミングの細かさは見事で、彼の長いキャリアを感じる。もっとも長い"ノー・シンク"は、マウント・キンビーの方法論を、ダブの実験台で引き延ばしている感じ。 (野田 努)

3. George Fitzgerald / Don't You | Hotflush Recordings


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 スキューバによる〈ホットフラッシュ〉レーベルが、いまダブステップとハウス/テクノの両方にまたがっていることをあらためて証明する1枚。レディオヘッドの新作を聴いたけれど、アントールド以降のダブステップからの影響を受けていることに驚いた。だって......いわゆるハウスやテクノに接近してからのダブステップである。フロアよりのテクノ系ダブステップだ。
 実際、スキューバの〈ホットフラッシュ〉、アントールドの〈ヘムロック〉、ラマダンマンの〈ヘッスル・オーディオ〉、元〈ニンジャ・チューン〉のスタッフによる〈アウス(Aus)〉......このあたりはいまもっとも勢いを感じる。ジョージ・ジェラルドの"ドント・ユー"は、ジョイ・オービソン的なスムーズでソウルフルなグルーヴをさらにミニマル寄りにした感じで、B面のスキューバのリミックスは完全に4/4ビートのテクノ。きっとメタル君も気に入ってくれると思う。(野田 努)

4. Adele / Rolling In The Deep (Jamie XX Shuffle) | XL Recordings


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 ジェイミー・XXが隠し持っていた才能は、彼のギル・スコット・ヘロンのリミックス(シングル買ってしまったよ......)で充分に証明されたわけだが、アデーレのこのリミックスでもそれは引き続き発揮されている。ジェイミーによるトラックはスローテンポのハウスとエキゾティックなクラップのブレンドで、アデーレのソウルフルなヴォーカリゼーションとの組み合わせが実にユニーク。まさにハイブリッディである。
 しかし......これも「NYイズ・キリング・ミー」と同じ片面プレス。MIAのラマダンマンのリミックスもそうだったけれど、1曲で1100円は高いぞ。(野田 努)

5. Mizz Beats / Are We The Dictators? | Eglo Records- Minimal, Techno -


 これもまた、グライム/ダブステップの新たなる"ネクスト"を象徴する1枚でしょうね。それをひと言で言えば、ブロークンビーツもしくはニュー・ジャズへの一歩。1曲目の"ザ・デイ・ビフォア・トゥモロウ"は4ヒーロー×1990年代初頭のカール・クレイグといった感じのジャジー・フロウを持ったスペース・ファンク。B面の"ソファ・ビート"と"2ビット・ロード"もソウルフルなフュージョン・テイストで、〈ディープ・メディ〉から発表した前作におけるティンバランドとネプチューズからの影響とはずいぶんと離れている。女トラックメイカーのミズ・ビートによる3枚目のシングルは、ある意味予見的な内容となった。(野田 努)

6. SBTRKT / Step In Shadows EP | Young Turks- Drum n Bass -


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 仮面を被ったサブトラクト――すでにベースメント・ジャックス、MIA、マーク・ロンソン、アンダーワールドといった大物から、ホセ・ジェームスやジーズ・ニュー・ピューリタンズ、タイニー・テンパーなど幅広いジャンルの重要作品のリミックスを手掛けている。いかに彼が期待されているのかを物語っていよう。
 これは4曲入りのシングルで、もっとも人気のあるキャッチーな"ルック・アット・スターズ"が収録されている。"ルック・アット・スターズ"はホントに良い曲、キーボードのメロディはマイク・バンクス調で、ドライヴするベースラインは宇宙を駆け抜ける。
 B面の"コロナイズ"の最初のベースライン、これもまたたまらない。フューチャー・ガラージとかなんとか言われているけど、オジサンの耳にはUKのベース・サウンドとシカゴ・ハウスの融合に聴こえる。
 ちなみにこれ、アナログ盤のレーベル面の曲名がA面B面逆になっている。プリントミスでしょうね。(野田 努)

[Electronic] - ele-king

 ゴールド・パンダのニュー・ヴィデオが完成しました。『ラッキー・シャイナー』収録曲「マリッジ」です。ロマンティックな映像です。
 デビュー・アルバム『ラッキー・シャイナー』ですが、先頃『ガーディアン』の、2010年デビューのアーティストへ送られる新人賞、"Guardian First Album award(ガーディアン・ファースト・アルバム・アウォード)"を獲得しました! 
 そして実は、〈TempleATS〉よりデビュー・アルバム『12シーズナル・ミュージック』を発表したばかりの日本人のアーティスト、Yamaanのリミックスも手掛けました。これがまた良いんです。近いうちに発表しますね!

Chart by JET SET 2011.02.14 - ele-king

Shop Chart


1

RYO KAWAHARA

RYO KAWAHARA GOTTA GIVE IT ALL FEAT. GEORG LEVIN »COMMENT GET MUSIC
2011年に満を持してファースト・フル・アルバムをリリースする、Flower Recordsイチオシの新人クリエイター、Ryo Kawaharaの先行12"シングルが登場!Sonar Kollektivなどで活躍するブルーアイド・ソウル・シンガー、Georg Levinをフィーチャーした"Original Mix"に加え、AtjazzをはじめMasanori Ikeda、Slowlyがリミキサーとして参加。非凡な才能と一流のアーティストの巧みなセンスが融合した、珠玉のアナログ第3弾です!

2

HARVEY PRESENTS LOCUSSOLUS

HARVEY PRESENTS LOCUSSOLUS I WANT IT / NEXT TO YOU »COMMENT GET MUSIC
Harvey新プロジェクト"Locussolus"シングル第3章!!アルバム・リリース前のラスト・シングル・リリースとなる本作は前2作以上にファンキーでフロア志向の強い2トラックス。特にウォブリーなベースが印象的な"I Want It"はHavey云うところのフューチャー・プリミティヴ感の出たキラーで、多くのDJによるプレイが期待されるところです!!

3

MADLIB

MADLIB MEDICINE SHOW VOL.11 LOW BUDGET HIGH FI MUSIC / »COMMENT GET MUSIC
先日のデラックス盤が即完だったシリーズ第11弾の通常2LP盤が登場。Stones Throw作品でお馴染みのMC陣との楽曲をはじめ、実弟Oh NoとのProfessionalsとしての音源や、Jaylibの未発表曲(!)も含んだ強烈な一枚!

4

JAMES BLAKE

JAMES BLAKE JAMES BLAKE »COMMENT GET MUSIC
大ヒットを記録した先行カット"Limit to Your Love"に続き、パウダーシュガー・ポップUKG天才James Blakeの1st.アルバムが遂に登場しました!!

5

JACKIE MITTOO

JACKIE MITTOO DISCO JACK »COMMENT GET MUSIC
天才鍵盤奏者Jackie Mittooの名曲"Disco Jack"がリマスターされ再発!!以前同じPressure Soundsから再発され即完売したキラー・オルガン・インスト"Disco Jack"がへヴィ・ヴァイナル仕様で再登場!!

6

TIAGO

TIAGO THE SOURCE »COMMENT GET MUSIC
リリース・ラッシュが止まらないポルトガルの気鋭TiagoがLengに参戦!!Chida氏主宰ene, DFA, Hands Of Timeからのリリースや、Sea Power & Change, TNT Subheadなど別名義での活躍も目覚しいポルトガル/リスボンの気鋭Tiagoによる新作が、Claremont 56のサブ・レーベル"Leng"よりリリース。

7

HAMMON DECKS

HAMMON DECKS FOR DJ BOOKINGS CALL +47 4829 6349 »COMMENT GET MUSIC
Running BackからノルウェーSex Tags Maniaレア音源の鬼ヤバい再発!!姉妹レーベルSex Tags Amfibiaからの近作10"EPも最高だった、ノルウェー随一のカルト・レーベルSex Tags Maniaの前身Sex Tagsより'02年にリリースされていた謎ユニットHammon Decksのアルバムからの抜粋12"再発。Son Of Sam再発といい、Running Backがヤバい動きしてます!!

8

LEWIS PARKER

LEWIS PARKER THE PUZZLE EPISODE ONE : THE BIG GAME »COMMENT GET MUSIC
UKのベテラン、Lewis Parkerのナンバリング入り全世界300枚限定LPが登場!自身も愛用する名機SP1200をNYはクイーンズで掲げるジャケットも印象的なジャジーで土臭くヴィンテージ感溢れるサウンドが堪らない全12曲。レーベル・ステッカー封入。

9

V.A.

V.A. LITTLE LEAF 2 »COMMENT GET MUSIC
クォリティ・リエディット・レーベル"Little Leaf"第2弾も最高でした!!『カラスの飼育』ネタ第1弾も速攻完売、ex. Glossyレーベル主宰Matt Moroderによる新レーベルLittle Leaf第2弾は、彼とMirau発"Endorphinmachine"が大ヒットしたErobiqueによるスプリット。

10

UNER

UNER BASSBOOT »COMMENT GET MUSIC
相方Coyuとのタッグ・リリースでもお馴染みのスパニッシュ・プロデューサーUnerによるDiynamic第3弾リリース。これはジャンルを問わずブレイクしそうなポテンシャルです。

[soul & dubstep]
Jessie Ware and Sampha / Valentine
- ele-king

 これまでヴァレンタインとはほとんど無縁な人生を送ってきた、そしてこれからもそのように過ごすつもりだ......が、この「ヴァレンタイン」は気になるね。2011年の注目株のひとり、SBTRKTのヒット・シングルにフィーチャーされたふたりのシンガーによる「ヴァレンタイン」である。すでにシングル発売され話題になっていた曲で、知っている人も少なくないはず。ele-kingからヴァレンタインに無縁なみなさんへのプレゼントということで......。

interview with Haiiro De Rossi - ele-king


Haiiro De Rossi
Same Same But Different

Slye Records

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 ハイイロ・デ・ロッシとタクマ・ザ・グレイトという若き勇敢なふたりのラッパーによる「WE'RE THE SAME ASIAN」はいわばヒップホップ・アゲインスト・レイシズムである。ラップ・ミュージックによる人種差別や排外主義への強烈かつ的確なカウンター・パンチであり、今日の日本において非常に重要な問題を提起している。

 彼らが昨年の11月28日にYouTubeにアップした「WE'RE THE SAME ASIAN」はすぐさまYAHOO! ニュースへ飛び火し、YouTubeには彼らにたいするアンサー・ソングがアップされる。「日本のラッパーが中国、韓国との差別解消を訴える」と題されたYAHOO!の記事には200件あまりのコメントがポストされ、炎上する。"活発な議論"というよりも誹謗中傷の嵐と言ったほうが正しいだろう。コメント欄は差別意識や悪意をむき出しにした罵詈雑言で溢れた。

 私たちはこのあいだ、領土問題や在日参政権をめぐる問題などで同じような光景に何度も直面している。アジア・カップの日韓戦の奇誠庸(キ・ソンヨン)の猿まねが日本人に対する侮辱だということで日韓のメディア、ネットで賛否両論の議論が展開されている。

 問題なのは、ここぞとばかりに便乗して差別意識や狂信的なナショナリズムを煽ろうとする人びとである。こういうときにこそ私たちは冷静になるべきだ。憎悪や不信や偏見を煽り、争いの火を焚きつけようとする同じ国の人びとよりも、平和と相互理解を求める隣国の人びとのほうが自分たちに近いのではないかと疑ってみることも必要ではないだろうか。ごくごく当たり前の話である。

 そう、ふたりは"当たり前のこと"を静かにラップしている。彼らはがなり立てない。メランコリックなジャジー・ヒップホップの上で叙情と情緒をコントロールしながら、静かな声明を差し出している。
 明確な政治的主張はないが、開かれた社会性があり、多文化主義と平和主義のコンセプトがある。表現が素直過ぎると感じる人がいるかもしれないが、それゆえの力強さがある。
 ヒップホップのアーティストがリスクを背負って、政治的に際どいテーマ(人種差別、排外主義)についての議論の場を作ろうとしたことにたいして私たちは応えるべきだろう。ハイイロ・デ・ロッシとタクマ・ザ・グレイトの勇気ある行動を僕はいまどこまでも肯定しよう。ハイイロ・デ・ロッシに話を訊いた。

オレらは右でも左でもないし、そういう思想は持ってない。ただ、普通に普通のことを言っただけなんですよ。普通にヒップホップだと思うことをやった。そしたら、普通じゃない反応が返ってきたから、ここ(日本)は普通じゃないんだって認知できた。

「WE'RE THE SAME ASIAN」の問題提起はいまの日本でもっともラディカルなもののひとつだと思いました。

ハイイロ・デ・ロッシ:勇気があったのはタクマだけじゃないですか。あいつはハーフで横浜の黄金町っていう町に住んでいる。昔、赤線があった場所です。家族もそうだし、いわゆる日本人以外のエイジアンのコミュニティが近くにある状態で生活している。だから、渋谷であった反中国のデモや朝鮮学校に石が投げられた事件もダイレクトに入ってくる。もし、彼がやってくれるって言わなかったらあの曲は実現しなかった。ハーフだから、リスクもあるじゃないですか。偏見の目で見られるかもしれないし。

YouTubeのコメントや反応は見てますか? 

ハイイロ・デ・ロッシ:あれこそオレらが狙ってたことなんです。あれを起こそうと思ってた。YouTubeのコメント欄だけじゃなくて、『bmr』のウェブ版のニュースに「WE'RE THE SAME ASIAN」のことが掲載されて、YAHOO!にも飛び火しました。そこに中傷コメントが200件ぐらい来て炎上したんです。あの曲を録っている過程もUSTREAMで配信していたんですけど、2時間ぐらいのあいだに300人ぐらいが見ていた。ツイッターでもRTされまくった。そして、次の日にYouTubeにアップしたんです。最初は、USTREAMを見ている人たちとオレたちの曲だった。でも、オレらがYouTubeにアップした時点で、曲が議論の場所に変わる。それがオレらの理想だったんです。最初は悪いコメントが集中したけど、「これがいまの日本なんだよ」っていうのがオレらが言いたかったことなんです。

なるほど。確信犯としてやったんですね。

ハイイロ・デ・ロッシ:でも、最近のコメントでちょっとずつ擁護のコメントが増えているんです。擁護が増えて来ていて、反対派と賛成派のやり取りがはじまっている。これでコミュニケーションが活字でもできるじゃないですか。

いわゆる"ネット・ウヨク"の冷静さを欠いたコメントは酷かったね。

ハイイロ・デ・ロッシ:あれが彼らのベスト・パフォーマンスなんですよ。オレらは音楽でベスト・パフォーマンスをしている。彼らも彼らで、あれがベスト・パフォーマンスだから、オレらもそれを受け入れるべきだと思う。一生懸命考えて、彼らはアレですからね。

相手を傷つけたい一心で書いている感じがするよね。

ハイイロ・デ・ロッシ:そうです。でも、あれで傷つくんだったら、オレはああいうことは表現していない。それなら表現するのを止めたほうがいい。

素晴らしいね。

ハイイロ・デ・ロッシ:日本人のコンプレックスがすごく問題だと思うんですよ。アジアでいちばんになりたいというのがあからさまに見えるじゃないですか。でも、正直言って、サッカーも韓国のほうが強いし、パク・チソンがなんでスターにならないの? って思う。日本を除外したすべての国から彼はトップ・プレーヤーとして認められていますよ。でも、日本だったら、いいところ中村俊輔と並べられて報道されるぐらいでしょ。それでも日本からすれば妥協じゃないですか。あれほどの選手がアジアから出たことに誇りを持てない。

show-kというラッパーのアンサー・ソングにもちゃんと返していましたね。

ハイイロ・デ・ロッシ:あそこで逃げたら文系ラッパーって舐められたまんまじゃないですか。右翼だろうが、ギャングスタだろうが、オレはラップだったらやりますよ。

僕が、中国人や韓国人にたいする排外主義が嫌なのは単純な話で、その考え方が憎悪や不信や偏見を煽っているからなんですよ。

ハイイロ・デ・ロッシ:話していることが国だったり、自分の手のなかにないものですからね。オレらは普通に人に言っている。オレらは右でも左でもないし、そういう思想は持ってない。ただ、普通に普通のことを言っただけなんですよ。普通にヒップホップだと思うことをやった。そしたら、普通じゃない反応が返ってきたから、ここ(日本)は普通じゃないんだって認知できた。それをずっとshow-kさんへのアンサー・ソングでも言っていたんです。けっきょくは人びとじゃないですか。目の前の人が中国人や韓国人だから態度が変わるわけではない。それを変えようとしてきたのが日本じゃないですか。それがオレらにも染み付いているのはわかるから、ぶっちゃけ自衛でやったのもある。「WE'RE THE SAME ASIAN」はオレらがやらなきゃいけないことでもあった。タクマもいて、いまはLAのヤツらもどんどん絡んできているんです。プロジェクト・ブロウド(LAを拠点とするヒップホップ・コレクティヴ)のヤツらにも日系のアメリカ人やいろんなヤツらがいるんですよ。

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テレビやYouTubeを観て危険だって感じることもあるけど、オレたちの場合は横浜が近いし、中華街があるじゃないですか。タクマの家はモロその辺りなんですよ。オレはヤツのお母さんとも普通に仲良いし。やっぱり危険は感じていましたよ。だから、オレらに何かできることはねーかって考えた。


Haiiro De Rossi
Same Same But Different

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これまで僕は、ハイイロくんのラップはどちらかと言えば文学性に重きがあると思っていたから、「WE'RE THE SAME ASIAN」のような曲をああいう形で出したことに驚いたんです。タクマくんたちとの出会いが大きかったんですか?

ハイイロ・デ・ロッシ:もともとそういう考えはありましたね。うちの母親が養護学校の先生なんですよ。そういうことを小学校の先生とかは知っているじゃないですか。だから、特別学級の子が運動会で走る横でいっしょに走る役をお願いされたりとかしていた。オレは良いことをしている気も、悪いことしている気もなかった。だから、友だちの親とかに「すごいね」って言われることに違和感があった。その時点で差別的じゃないですか。家庭内で「差別はまじで止めろ」って言われていた。最初は人種とかじゃなくて、障害に関して親から言われたことが大きかったのかもしれない。

右翼のデモの熱量も凄いじゃないですか。そういう時代の風向きも肌で感じていました?

ハイイロ・デ・ロッシ:やっぱり危険っすもんね。

テレビを観ると、戦争を煽るような報道が平気であるわけじゃないですか。

ハイイロ・デ・ロッシ:テレビやYouTubeを観て危険だって感じることもあるけど、オレたちの場合は横浜が近いし、中華街があるじゃないですか。タクマの家はモロその辺りなんですよ。オレはヤツのお母さんとも普通に仲良いし。やっぱり危険は感じていましたよ。だから、オレらに何かできることはねーかって考えた。なんだかんだ批判のコメントが目立つけど、評価も注目もされているし、議論もされているから、狙い通りじゃないですか。モス・デフがブラックスターの歌詞で、「なんでオレがハスリングもしてないし、ストリート・ファイトもできないのにストリートからプロップスを得ているかわかるか? それはお前らよりラップができるからだよ」というようなことをラップしているんです。オレが音楽やヒップホップに求めているのはそういうことです。たとえば、右翼が絡んできたとしても、オレはラップが上手いからラップで返す。show-kさんとのビーフに関しても、あれはタクマが出るべきじゃない。ふたりで返すのが筋だけど、あれ以上はあいつ以外も傷つける可能性があるじゃないですか。だから、オレがひとりで出たんです。あそこでダサいラップをしたらおじゃんだったし、リスクがあったぶん、返って来たものも大きかった。

あそこでタクマくんを出さなかったことを考えると、今回の曲についてかなり慎重に考えていたってことだよね。

ハイイロ・デ・ロッシ:そうですね。そこを考えないで行ったら、ただの喧嘩ですからね。

なるほど。ハイイロくんのこれまでのキャリアについて少し教えてもらえますか。

ハイイロ・デ・ロッシ:17歳のときにラップをはじめたんですけど、最初は芽が出る雰囲気がゼロでしたね。20歳のときに活動の場所を地元の湘南から都内に移したんです。ノルマを払うしかない状況を一回作ってみた。そこでエクシーと知り合って、エクシー周りのイヴェントに出はじめました。で、1年ぐらいして〈スライ・レコーズ〉に入った。そこからはとんとんと進みました。去年、セカンドを出して、メンタル的にも身体的にも一度湘南に戻っていますね。湘南でやっていた人も上がってきているし、わりとオレの状態も湘南にフィットしています。

最初に影響を受けた音楽は?

ハイイロ・デ・ロッシ:いちばん最初はコーンやリンプ・ビズキットを聴いていて、そこからエミネムに行きました。で、コモンの『レザレクション』を聴いて、「これもエミネムと同じジャンルの音楽なんだ!」ってことに驚いた。それからいわゆるネイティヴ・タンやソウルクエリアンズ周りを聴くようになった。いわゆる向こうでナードって捉えられているラッパーもアルバムのなかに一曲はバトル・ライムが入っているじゃないですか。そういうところには忠実でいたいですね。

ハイイロくんのアルバムを聴き直して、〈ロウカス〉にもかなり影響を受けているのかなって感じました。どうですか?

ハイイロ・デ・ロッシ:そこはほんとにありますね。僕自身がモス・デフにむちゃくちゃ影響されている。モス・デフとQ・ティップが大きいですね。モス・デフはブルックリンだけど、ボヘミアニズムがあるじゃないですか。ああいう風にありたいと思います。Q・ティップのJ・ディラを発掘したりする、人を見つける力、プロデューサーの力をすごく尊敬してますね。タクマはタリブ・クウェリの超信者なんですよ。

ブラックスターじゃん!(笑)

ハイイロ・デ・ロッシ:そうそう(笑)。あいつと出会って、曲を作るミーティングをしようってなったときに、けっきょく車のなかでタリブのアルバムについて10時間ぐらい話したんです。オレらはタリブのラップに関して超研究していますね。とくにラップの拍の取り方ですね。

タクマ・ザ・グレイトと知り合ったのは去年?

ハイイロ・デ・ロッシ:17歳ぐらいからお互いクラブで見たりして知っていたけど、その頃はみんな尖っているから、タメとは絡みたくないという気持ちがあるじゃないですか。負けたくないというのもあるし。

湘南はどんな町ですか?

ハイイロ・デ・ロッシ:アレステッド・ディベロップメントとか合いますね(笑)。

ゆったりとしている?

ハイイロ・デ・ロッシ:そうですね。良いことかはわからないけど、夢を見て育てる場所ですね。

以前、インタヴューしたときに話していたけど、ギャングスタ系のラップをしようとしていた時期もあったんだよね?

ハイイロ・デ・ロッシ:それがちょうどエミネムを聴いている時期ですね。スリップノットとかも聴いていたから。破壊したかったんですよね。でも、やっぱり違うということに気づいた。

破壊というのはどういうこと?

ハイイロ・デ・ロッシ:すべてをぶっ壊す音楽をやりたかったんです。そういう時期だったんでしょうね。でも、コモンや〈ロウカス〉を聴くようになって変わりました。バイオレンスやイリーガルさを出しても、けっきょくラップが下手だったら、意味がないと思った。クラックだらけのジャケットにしても、そいつからその匂いがしなかったらおかしいじゃないですか。匂いがいちばん大事だと思います。その時期にジャズもスゲェ聴くようになった。オレにとってジャズは匂いがすごく強かった。

どんなジャズを聴いていたの?

ハイイロ・デ・ロッシ:マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』をいちばん聴きました。あと、『サムシング・エルス』ですね。いわゆる有名盤を聴いていました。マイルスは白人のビル・エヴァンスをバンド・メンバーに入れたことで叩かれたじゃないですか。マイルスの自伝も読みましたけど、「いいプレイをする奴なら、肌の色が緑色の奴でも雇うぜ」って言っている。その気持ちはオレらも持っていますね。ファーストを作っている頃は、ジャズのネタでラップをすれば、オレが思うジャズ・ラップになると思っていたけど、それは違うんじゃないかなって。トラックがどういうトラックでもオレがジャズなラップをしとけばいいと思った。だから、いまはジャズにそこまで固執しなくなりましたね。

たとえば、ジェイ・Zのラップを音符にすればジャズに置き換えられるという説もあるけど、そういうのも意識している?

ハイイロ・デ・ロッシ:そうですね。レコーディングのとき、歌詞を読みながらラップするじゃないですか。いくつものヴァージョンを録ってみて、どれがいちばんいいのか、その瞬間生まれるものがある。エンジニアとちゃんと話したほうがいいのか、ひとりで高めてブースに入りっぱなしがいいのか。そのモチヴェーションの作り方はいま現在も研究しています。

ジャズ・バンドを従えてライヴしたいという気持ちなんかもある?

ハイイロ・デ・ロッシ:いずれはやりたいですね。オレが最終的に目指しているのは、日本人がワンマンで〈ブルーノート〉や〈ビルボード〉でやることなんです。武道館とかじゃないんですよ。

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 ハイイロ・デ・ロッシはこれまでに『TRUE BLUES』『SAME SAME BUT DIFFERENT』という2枚のアルバムを出している。音楽的に言えば、流麗なジャジー・ヒップホップを基調としている。タクマ・ザ・グレイトは先日、デビュー・アルバム『TAKUMA THE GREAT』をハイイロ・デ・ロッシ主宰のインディペンデント・レーベル〈forte〉から発表したばかりだ。彼は台湾系ジャパニーズとして横浜の黄金町で育ち、LAで活動していた時期もある。日本語、北京語、英語を巧みに織り交ぜながらスムースにフロウするスタイルには特筆すべきオリジナリティがある。タクマ・ザ・グレイトが黄金町についてラップする"Sumeba Miyako"は、私たちを"もうひとつの日本"へと案内してくれる。町の匂いが伝わってくる素晴らしい曲だ。これを聴けば、彼らが「WE'RE THE SAME ASIAN」へと至った背景もわかるだろう。

メッセージ云々を言っているヤツらがなんでやらないのって思いますよ。オレはあの曲を聴いて欲しかったから、何人かのアーティストにオレのフォロワーにも見えるようにツイッターでリプライを飛ばしているんです。でも、なんの返信もない。オレらがこういうことをやっているのを評価して欲しいんじゃなくて、知って欲しいだけなんですよ。


Haiiro De Rossi
Same Same But Different

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ハイイロくんのような音楽主義の人が危機感を持って、ああいう曲を作ったことがまた興味深いね。

ハイイロ・デ・ロッシ:逆に言えば、メッセージ云々を言っているヤツらがなんでやらないのって思いますよ。オレはあの曲を聴いて欲しかったから、何人かのアーティストにオレのフォロワーにも見えるようにツイッターでリプライを飛ばしているんです。でも、なんの返信もない。オレらがこういうことをやっているのを評価して欲しいんじゃなくて、知って欲しいだけなんですよ。

でも、それだけ中国や韓国をはじめとしたアジアの人種問題は多くの人が積極的に触れたくないことだと思う。ある意味タブー視されていることでもあるから。

ハイイロ・デ・ロッシ:でも、それが臭い物に蓋をしていることじゃないですか。反対意見でもいいから反応が欲しかったですね。シカトはないでしょって。

それだけハイイロくんとタクマくんが勇敢だったということですよね。

ハイイロ・デ・ロッシ:でも、みんなそういうことを言っていませんか? アメリカでもジャマイカでもアーティストは危険と言われるメッセージを伝えようとしているじゃないですか。だから、レベル・ミュージックじゃないですか。一般の人からしたらリスクがあることをやるから、ウォーリアーと言われたり、アーティストと言われるんでしょ。それをやらないでポップス批判していても何にもならないと思うんですよ。

ほんとにハイイロくんの言うとおりだと思いますよ。たとえば、ハイイロくんが日本のアーティストやラッパーでメッセージの部分で共感できる人はいますか?

ハイイロ・デ・ロッシ:(長い沈黙)......みんな自分のことを言いたいことを言っているとは思いますけど、主張という意味ではオレよりちょい若いぐらいのビートメイカーが主張していますね。ラッパーだったら、気になるのはL-VOKALですね。

それはどうして?

ハイイロ・デ・ロッシ:PVを観ると、けっこう際どいですよ。狙いでやっているのかは知らないけど。ほんとに面白いです。

シミラボは知っていますか?

ハイイロ・デ・ロッシ:音源は聴いています。

日本であれだけ多様な人種的背景のある人たちが登場してきたことに僕は希望を感じますね。平気で人種差別的なことを言う人たちがいるけど、彼らのような人たちが出てくる複雑な現実がある世のなかで、オレはそんな短絡的に物事を考えられない。

ハイイロ・デ・ロッシ:中国批判しているラッパーがいてもいいと思うし、いなくなれとは思わない。ただ、ラフ・ライダーズのジンっていうチャイニーズ・アメリカンのラッパーがいたじゃないですか。あいつとかラップが超上手いんですよ。あのラップを聴いて、あまりの格の違いを感じないのかなと思う。さっきのマイルスの話じゃないですけど、いっしょに音楽をやる仲間は言葉が通じなくても、ラップが上手ければ上手いほうがいいし、トラックがヤバければヤバイほうがいいじゃないですか。音楽において優れているヤツを探すのは、日本のなかだけより、世界で探したほうがいいと思う。日本人だけでいちばんを決めたところで、海外にはそいつよりヤバいヤツらがゴロゴロいるから。シンゴ02が"400"のなかで、「同じ文化の違う世代よりも違う文化の同じ世代、そういう時代」って言っていたけど、まさにそうだと思う。ずいぶん前にそう言っていたけど、いまはそういう時代だと思う。

いずれにせよ、ここまで議論になったんだから成功ですよね。

ハイイロ・デ・ロッシ:これで危ないことがなければいちばんいですね。

それはほんとにそうだね。

ハイイロ・デ・ロッシ:成功したってスゲェ言える出来事があったんです。この前、横浜のクラブに遊びに行ったら話しかけて来てくれた子がいて、彼は中国人のハーフで、お母さんが中国人学校で働いているらしいんです。お母さんにあの曲を聴かせたら、「こういうことを日本人の若い子が言ってくれるのはありがたい」ってことでお礼を伝えに来ましたって言われて。ああ、これだなって。

いい話だね。

ハイイロ・デ・ロッシ:ビーフ云々はほんとにオプションですね。

一方で、show-kのような考え方の人もたくさんいるよね。

ハイイロ・デ・ロッシ:多いと思いますよ。しかも、それをスゲェ支持する人もいるわけじゃないですか。

もちろんそうだね。

ハイイロ・デ・ロッシ:オレは最後のアンサー・ソングで「クリックはプロップスじゃねーからな」ってラップしていますけど、難しいところですよね。彼らみたいなラップが評価される場所もあって、オレらがボロクソになる場所もある。

そうだね。

ハイイロ・デ・ロッシ:でも、オレは音楽からすべてが出ると思う。匂いとか活動とか発言とかタイミングとか、全部含めて音楽でしか良い悪いは決めさせられない。

うん。それはハイイロくんがアーティストとして地に足をつけているからですよね。

ハイイロ・デ・ロッシ:そいつらがオレよりラップが上手かったら完全否定はできないですね。そいつらよりヤバいトラックを作って、上手いラップをする自信がいま現在もありますね。でも、クリーンなほうだと思いますよ。右に寄っていたとしても、バイオレンスを持ち込んでいない時点でショーマンシップに則っていると思う。

愛国心や排外主義を歌うようなラッパーも世のなかに危機を感じて本人たちはレベル・ミュージックをやっているつもりだと思うんですよ。そこが難しいところだと思う。たとえば、政治的な集会なんかでもライヴしているAreiRaise (英霊来世)っていうヒップホップ・グループがいるんだけど、彼らの「8 30」という曲のYouTubeのコメントを見ると、彼らとパブリック・エネミーやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンを比較しているようなコメントがあって、実際そう考えている人たちは多いと思う。でも、AreiRaiseがやっているつもりの"反抗"は圧倒的にマジョリティの論理なんですよ。彼らの音楽は、イメージとしては"反抗的"だけど、主張は生粋の保守の政治家が言う内容をデフォルメしている。それは、少数派の、これまで抑圧されてきた意見でもなんでもない。だから、少なくともカウンター・カルチャーではない。僕はshow-kのラップにも同じものを感じた。過激に見えるけど、よく歌詞を聴くとすごく凡庸な意見なんだよね。

ハイイロ・デ・ロッシ:でも、オレらがやっているのは反抗じゃないですよ。

反抗じゃない?

ハイイロ・デ・ロッシ:ただ振り回しているだけじゃないから。狙ってカウンターを撃っているから。そうじゃないと当たらないし。

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「アシッド、MDMA、コケイン、オプションがなきゃ語れないペイン」って言ってるんです。やるのはいいけど、オプションのためにドラッグをやるんだったら、意味ないですね。オレは精神安定剤で内臓ボロボロになって、いま病院に行っている状態なんです。そこにイリーガルもリーガルも関係ない。ドラッグは武器でもなんでもないし、マイナスにしかならないから、オレは思いっきり切り離したいです。


Haiiro De Rossi
Same Same But Different

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「WE'RE THE SAME ASIAN」は歌詞の内容をめぐって議論できるリアリズムがあるのが素晴らしいと思いましたね。

ハイイロ・デ・ロッシ:抉り方は注意しましたね。わかりやすくするためにラップ的には下手に書いたと思いますよ。音楽的な拍のところなんかを詰めずに当たり前のことを当たり前に言うことだけを考えてやりました。そのぶん、歌詞がシンプルになった。だから、show-kさんから誤解を招いた。「渋谷のデモがテロ」なんて言っていないのに、そういう誤解を招いた。それはオレらの表現の仕方が悪かった。オレらがあの曲を発売しない理由もわかって欲しいですね。あれを500円で売ったら多少の金にはなるじゃないですか。でも、オレはあれを発売する気はない。

それはなぜ?

ハイイロ・デ・ロッシ:あれは曲じゃないから。あれは議論する場ですから。図書館や会議場を作って、そこで金を取るわけにはいかないじゃないですか。

でも、自分たちの曲という意識はあるでしょ?

ハイイロ・デ・ロッシ:オレらが蒔いた種ではあるけど、そこから育てるも枯らすも人びと次第ですね。唯一国が潰しに来ない場所ができたんだから。

主張というより問題提起という気持ちが強い?

ハイイロ・デ・ロッシ:主張できるほどオレらは頭良くないですから。オレらより政治的に理解があるヤツらはいっぱいいるから。

オレはあの曲には十分主張があると思うけどね。

ハイイロ・デ・ロッシ:オレは人としてラップしたし、タクマはそれにたいして勇気を持って協力してくれた。エンジニアやトラックを作ってくれたヤツもそうだし。

政治的な曲をお金にするのはうしろめたいという気持ちがある?

ハイイロ・デ・ロッシ:いや、そういうことではないです。形が変わってしまったからです。曲ではなくなってしまったからです。音楽を売るなら売るけど、音楽ではなくなってしまった。

なるほど。ところで、今年は3枚目のアルバムを出すんですよね?

ハイイロ・デ・ロッシ:12インチを先行で切ります。「グッバイ・キッズ・ヒップホップ」という曲です。いわゆる暴力やドラッグにたいして決別する曲です。

ドラッグを否定するのはどうして?

ハイイロ・デ・ロッシ:オレは歌詞で、「アシッド、MDMA、コケイン、オプションがなきゃ語れないペイン」って言ってるんです。ドラッグを好きにやるのはいいけど、オプションのためにドラッグをやるんだったら、意味ないですね。オレは精神安定剤で内臓ボロボロになって、いま病院に行っている状態なんです。そこまで行っても「ドラッグやってるぜ」なんて言わない。そこにイリーガルもリーガルも関係ない。ドラッグは武器でもなんでもないし、マイナスにしかならないから、オレは思いっきり切り離したいです。「グッバイ・キッズ・ヒップホップ」といっしょに収録するのが、「ドラッグ・バラード」って曲なんです。それがそのチェーンを切ってくれって曲です。

これまでとはまた違う、切迫感のあるアルバムになりそうだね。

ハイイロ・デ・ロッシ:3枚目は自分のレーベルですべてやります。追い込まれて、擦り切れそうな状態で作ったから、聴きづらいかもしれません。でも、満員電車に耐えられないとか、そういうヤツらって意外といっぱいいると思うんですよ。電車を降りないとヤバイ状態だけど、終電だよ、どうしようって。次のアルバムはそういうヤツらがあと10分乗って頑張れるようなアルバムにしたい。エミネムの『リカヴァリー』の6曲目から7曲目の流れがあるじゃないですか。いち度ぐちゃぐちゃになってからもオレはやるんだって。オレ、あそこで超泣いたんですよ。オレがどうやって乗り越えたのかっていうことを見せたいですね、次のアルバムでは。


James Ferraro - ele-king

 2010年のインディはだいたいチルウェイヴの年だったかどうか、ウォッシュト・アウトトロ・イ・モアスモール・ブラックも結局聴き逃したが、レインジャーズの『サバーバン・ツアーズ』をよく聴いた私にはなんともわからない。
 あげくのはてに、昨年末『サバーバン~』をリリースした〈Olde English Spelling Bee〉の出したジェイムズ・フェラーロの新作を今年に入って買った。これまでもフェラーロの作品を出してきた〈OESB〉は2008年のテープ・アルバム『ラスト・アメリカン・ヒーロー』を去年LP化している。そこで聴ける塊になった糸がほどけるようなギターのアルペジオとシンセサイザーの音の膜は『E2-E4』の後裔というよりライヒばりのフェイズ・ミュージックをサイケデリックに移すにあたりわざわざボタンを掛けちがえた節がある。私がいま傍点をふった、この「わざわざ」がクセモノであり、フェラーロの芯の部分にあるのは、このアルバムでも明らかである。シリアス・ミュージックとデフォルメあるいはパロディとの線引きを曖昧にしたまま全部を引き連れて行くフェラーロのコラージュ・センスはここでは1曲1曲に向けてはおらず、アルバムのコンセプトを作動させるコンセプト、物理の分野でいう「場」の概念にちかいやり方になっている。

 大袈裟に書いてしまったが、ジャケットをよくよくご覧いただければおわりかりの通り、ようはこれ、MTVがモチーフなんです。砂嵐を前にオカッパ頭の男が映ったテレビ画面の左下にはMTVを思わせる「HTV(Hは"Hell"のH)」のロゴがあり、画面の前にはサーモン・ピンクのストラトキャスターが漂い、手前にはリモコンを手に髪にカーラーを巻きペディキュアを乾かす女のうしろ姿をコラージュしている。ご丁寧に一周まわってオシャレといえなくもないスタッズ(鋲打ち)・ベルト風の縁取りまであるそれらの視覚記号はこのアルバムのテーマは「MTVとその時代」だと示しているが、『ナイトドールズ・ウィズ・ヘアスプレイ』の書き割りは80年代消費文化の戯画としての『アメリカン・サイコ』のスノビズムではなく、それを頂点としたヒエラルキーの下部に位置した、オーウェルが『1984年』で予見したディストピアの全体主義をレーガン時代の反共/保守に置き換えた社会風俗としてのポップ・カルチャーであり、作中では81年にバグルスの"ラジオ・スターの悲劇"とともに開局したMTVが好んだニューウェイヴ、エレ・ポップ、ニューロマ、ヘア・メタルをシミュレートした曲を、テレビをザッピングするように執着なく並べていく。「アリエル・ピンク的な」ポップさはたしかにウリだが、それ以上に、90210の同僚であり、マトリックス・メタルズ名義でLAヴァンパイアにジョイントし、アウター・リミッツ・レコーディングス名義では"アイ・ニード・マイ・T.V."と題したシングルを出したサム・メーランことサム・メレンゲの偏愛に感化されたとみるべきかもしれない。「マイTV」を「ユーチューブ」といい換えられる世界にあって、私たちはその気になれば世界の終わりまでPVを見つづけることさえできる。最新のものだけでなく過去のものも。しかし本作はアーカイヴ消費に与してはいない。〈OESB〉の諸作に特徴的なテープ・マスター風の劣化した音色は、このアルバムではアーカイヴ自体の経年変化を印象づける。『サバーバン~』ではそれが、チルアウトと一体になっていた。『ナイトドールズ~』の場合、それはたぶん、動画共有サイトにアップした倍速録画したVHSテープの映像とリンクしている。このふたつにはレトロな音楽への既聴感と、何かがリヴァイヴァルすること対する既視感が二重写しになっている。低予算のスタジオ・セット、DCブランドの逆三角形のシルエット、スプレイでオッ立ったヘアスタイル、マイケルの"スリラー"、シンディ・ローパーの"グーニーズ"、『悪魔のいけにえ』の撮影監督ダニエル・パールが撮ったビーフハートの"アイス・クリーム・フォー・クロウ"、それらのイメージが退色したネオンカラーの洪水のように押し寄せてくる。

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