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LA Vampires

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三田 格   Dec 17,2010 UP

 ジェイムズ・フェラーロとの90210やテスト・アイシクル(ドミノ)のメンバーでもあるサム・マーリングことサム・E・デインジャーことサム・マーランことサム・メランがイクスプローラーズの名義で昨09年にリリースした『バーミューダ・トライアングル』はドローンに神秘性を持たようとしたサウンドとしてなかば成功し、あとの半分はどうでもいい仕上がりだった。フラッシュバック・リポジトリーや最近ではアウター・リミッツ・リコーディングスなど、どうやら同じ名義では二度とリリースを重ねないというポリシーを持っているらしき彼がその次に目立ったのはマトリックス・メタルズの名義でリリースした『フラミンゴ・ブリーズ』で、ここではドローンには必ずしもこだわらないさまざまな趣向のサウンドが凝らされ、ときに眩暈を誘うループや70年代のウエスト・コースト・サウンドが素材として奇妙な変形を被っていた。これもなかばは成功し、残りはどうでもよかった。悪くいえばアイディアの垂れ流しのような人である。それもけっこうなグッド・アイディアを。

 5人の女性たちによるサイケデリック・ロック・バンドとしてスタートし、これまでにローブドアとの『ハンテッド・ギャザリング』やゴングを真面目にしたような『アイランド・ダイモンズ』など、凄絶なトリップ・ミュージックを量産してきたポカホーンテッドが早い時期にベサニー・コセンティーノとアマンダ・ブラウンのふたりだけとなり、トライバル・リズムを強調した『メイク・イット・リアル』を最後に解散すると、ウェイヴスのネイサン・ウイリアムズとラヴラヴだという前者は一転してサーフ・ロックのベスト・コーストに、そして、後者はLAヴァンパイアーズとしてポカホーンテッドのサウンドを大筋で引き継いでいく(ホーンテッド→ヴァンパイアだしね)。そして、後者にはリズム要員としてマトリックス・メタルズの名前が大きくクレジットされていた。これは気になる組み合わせである。ジャケット・デザインは完全に失敗だと思ったけれど、ある種の脈絡の上に乗ってしまった者としては手に取らないわけにはいかない。手に取ったものはそのままレジに運ばれていく。そして、チャッキーンと音がする(ベスト・コーストも悪くはない。最初はブロンディのように聴こえ、5回以上聴くと、それがゴーゴーズと見分けがつかなくなってくる。「ベスト・コーストはどうやって世界を支配するの?」と訊かれたベサニー・コセンティーノは「みんなにネコをあげる」と答えていた。う~ん、ゴーゴーズだ......。ネコの名前はちなみにランナウェイ)。

『メイク・イット・リアル』に対する皮肉なのか(?)『とても現実的ではない』と題されたデビュー・アルバムはのっけからヘヴィなリズムで、これまでとは少し違う顔を覗かせる。あるいは『メイク・イット・リアル』にゲストで参加していたサン・アロウの影響が強く感じられ、ひとりになったことでファンクに集中しようとするブラウンが確認できる。ポカホーンテッドについて、かつてブラウンは、シャーディとファンカデリックが出会った新しいトーキング・ヘッズだと語っていたことがあり、サン・フランシスコではもっとも早くP・ファンクをサンプリングしていたディジタル・アンダーグラウンドから"キッス・ユー・バック"の歌詞を引用して歌っているように聴こえる曲も散見できる(ハウ・ウッド・ユー・ノウ)。ファンクのリズムにのせて奏でられるメロディや断片的なSEはとても幻想的で、なるほどどこを取っても「現実的ではない」。これまで外に向かって強く押し出されていたサイケデリックは内側に向きを変え、イメージの豊かさはかつてのそれを軽く凌駕する。サン・アロウのセンスがもっとも強く出た"ベルリン・ベイビー"は重心を低く取ったリズムがそれこそ助走を思わせ、どこか空に舞い上がっていくようなエンディング=タイトル曲までファンタジーは途切れない。ふわふわふわふわと、それはどこまでも続いていく。

 カリフォルニアはいまや、セカンド・ウエスト・コースト・リヴォルーションを迎えている。レイヴ・カルチャーのときはそれほど反応がよかったとは思えないカリフォルニアがいまはサイケデリック全盛である。どのジャンルを見てもそうだし、デッド・ケネディーズが復活する予兆はない。チルウェイヴのレーベルかと思っていた〈ライフズ・ブラッド〉からリリースされたプリグナント=妊娠ことダニエル・トゥルードーのデビュー・アルバムも大人しかったのは最初の2曲だけで、途中からトロピカルを気取ったオウテカをエレクトロなハーバートがリミックスしたような展開になり、どんどん手が付けられなくなっていく(つーか、最初だけ大人しくする意味がわからない。しかもAサイドだけアナログ盤の中心から針が外側に移動するリヴァース式になっているというのも単に入り口がわかりにくいだけ)。

 サイケデリック・ミュージックにフォーマットはない。マニュエル・ゲッチングのように陶酔的なサウンドもあればノイ!のようにナンセンスで責め倒すものも需要はある。プリグナントのそれは怖ろしく後者を彷彿とさせはするものの、ゼロ年代に起きたことを玉手箱のように圧縮し、また、大胆なカット・アップでそれらをシームレスに貼り合わせることで、時代の変化は歴然と明らかになっている。あるいは、それをあまりにも躁状態のなかで実践しているために、ゆっくりと考える時間さえ与えてもらえない。そう、もしもピンク・フロイド初期の"シー・エミリー・プレイ"や"アーノルド・レイン"をマウス・オン・マースがカヴァーしたら......とかなんとか。

三田 格