Home > Reviews > Sound Patrol > [Electronic, Dubstep]- by メタル+野田努
ケン・キージーの『カッコーの巣の上で』から早50年、新年早々L.Aの〈アブサード〉から興味深い「アシッド・テスト」が届きました。〈アブサード〉はセカンド・サマー・オブ・ラヴの当時からU.Kの最前線で活躍するハウスDJのエディー・リチャーズを中心に、タイガー・スキンやデイヴ・DK等、DJの目線からシンプルにグルーヴを追及したテック・ハウスをリリースしています。そして今回新たにスタートしたシリーズがその名も〈アシッド・テスト〉です。
この〈アシッド・テスト〉はいわゆる「アシッド・ハウス」に焦点を当てたリリースをしていくラインのようです。ハウスもテクノもトランスも音楽自体はDJピエールの"アシッド・トラックス"から地続きのもので、それぞれを音楽から明確に分ける定義は存在しないのですが、TB-303を元にするベース音はこれらの音楽に共通して用いられ重用な役割を担っています。TB-303とは〈ローランド〉が作ったベース・マシンの名称でいわゆる「アシッド・ハウス」の音色を決定付ける楽器のひとつです。
なぜジャンルの細分化が進んだかと言うと、野田さんのアレックス・パターソンのインタヴューを参考にしていただくとありがたいのですが、80年代にパンクがヒッピーを批判したように、90年代の初頭にジュリアナに代表されるお立ち台のナンパ箱でかかっていたアシッド・トランスとデトロイトやシカゴからリリースされていたアンダーグランドなハウス、テクノを区別する必要があったからです。
そしてダニエル・スタインバーグ、ミュートロンのレヴューを参考にしていただけるとありがたいのですが、「アシッド」はテクノを構成する基本的な要素であるためにリヴァイヴァルを繰り返しています。そしてまさにいま「アシッド」は再び息を吹き返しつつあるのです。それはクリック、ミニマル以降のテクノ・シーンのなかで音楽性の向上とグルーヴの組み換えに重点が置かれたモダン・ミニマルへの反動によるもので、ベルリンの〈ベルクハイン〉を中心に活動するマルセル・デットマン、このシングルでもリミックスで参加しているミニマル以降のトランスの可能性を追求するドナト・ドッジー、ダブステップとハード・ミニマルを結びつけハードコアの復権を試みるトラヴァーサブル・ワームホールなど、単純でピュアな"シビレ"をフロアがふたたび求めはじめているのです。日本では沖縄在住のイオリがこの流れのなかでディープなトラックをリリースしています。
〈アブザード〉はロンドンのファブリックを中心としたテック・ハウスのシーンから「アシッド・リヴァイバル」を画策しているようです。シリーズの1番を飾るのはカリフォルニア生まれウィーン在住のアシッド狂、ティン・マンことヨハネス・アウヴィネンです。自ら主宰する〈グローバル・エー〉をはじめ、パン・ソニックの〈キー・オブ・ライフ〉、パトリック・パルシンガーの〈チープ〉、ペンシルバニアの〈ホワイト・デニム〉などから一貫して「ACID」をテーマにしたリリースを続けています。〈エフ・コミュニケーション〉の中核であるヨリ・フルコネンが指揮を執り、10台のTB-303を使用し行われたインスタレーション、アシッド・シンフォニー・オーケストラにも参加していました。昨年〈グローバル・エー〉からリリースされた3枚組みのアルバムでは、全曲ノンビートのドローンやアンビエントが集められ、TB-303のアシッド音響を用いた、従来のハウスとは異なるアシッドへのアプローチをみせていました。
今回のシングルではメランコリックなメロディーとTB-303の絶妙なヨレ具合が心地よいリラックスした空気のディープ・ハウスとクラシカルで穏やかなアンビエントを聞かせています。ハードな質感ではなく独特の音の歪みを引き出したトラックです。ドナト・ドジーのリミックスはオリジナルのダヴヴァージョンと言えるもので、深いエコーの中で原曲のメロディーが浮き沈みするディープ・ミニマルを聞かせています。
90年代には激しければ激しいほど良いとされた「アシッド・ハウス」ですが、ゼロ年代以降のミニマルで濾過されて、ほんの少しかもしれませんが変化を遂げているようです。(メタル)
その昔......とういか、いまもそうか、マシン・ドラム名義(10年前、プレフューズ73と比較されたアブストラクト系の雄)でならしたトラヴィス・スチュワートがダブステップに転向してからの2枚目のシングルで、はっきり言って素晴らしい。
ジェームス・ブレイクの"CMYK"の影響を受けながら、IDM系のドリーミーなテイストをダブステップに変換したタイトル曲は、「この手があったか!」と。ソウルフルな"ユア・ラヴ"は『パラレル・ユニヴァース』の頃の4ヒーローというか、アンビエント・テイストの浮遊感が心地よい。とにかくドラム・プログラミングの細かさは見事で、彼の長いキャリアを感じる。もっとも長い"ノー・シンク"は、マウント・キンビーの方法論を、ダブの実験台で引き延ばしている感じ。
(野田 努)
スキューバによる〈ホットフラッシュ〉レーベルが、いまダブステップとハウス/テクノの両方にまたがっていることをあらためて証明する1枚。レディオヘッドの新作を聴いたけれど、アントールド以降のダブステップからの影響を受けていることに驚いた。だって......いわゆるハウスやテクノに接近してからのダブステップである。フロアよりのテクノ系ダブステップだ。
実際、スキューバの〈ホットフラッシュ〉、アントールドの〈ヘムロック〉、ラマダンマンの〈ヘッスル・オーディオ〉、元〈ニンジャ・チューン〉のスタッフによる〈アウス(Aus)〉......このあたりはいまもっとも勢いを感じる。ジョージ・ジェラルドの"ドント・ユー"は、ジョイ・オービソン的なスムーズでソウルフルなグルーヴをさらにミニマル寄りにした感じで、B面のスキューバのリミックスは完全に4/4ビートのテクノ。きっとメタル君も気に入ってくれると思う。(野田 努)
ジェイミー・XXが隠し持っていた才能は、彼のギル・スコット・ヘロンのリミックス(シングル買ってしまったよ......)で充分に証明されたわけだが、アデーレのこのリミックスでもそれは引き続き発揮されている。ジェイミーによるトラックはスローテンポのハウスとエキゾティックなクラップのブレンドで、アデーレのソウルフルなヴォーカリゼーションとの組み合わせが実にユニーク。まさにハイブリッディである。
しかし......これも「NYイズ・キリング・ミー」と同じ片面プレス。MIAのラマダンマンのリミックスもそうだったけれど、1曲で1100円は高いぞ。(野田 努)
これもまた、グライム/ダブステップの新たなる"ネクスト"を象徴する1枚でしょうね。それをひと言で言えば、ブロークンビーツもしくはニュー・ジャズへの一歩。1曲目の"ザ・デイ・ビフォア・トゥモロウ"は4ヒーロー×1990年代初頭のカール・クレイグといった感じのジャジー・フロウを持ったスペース・ファンク。B面の"ソファ・ビート"と"2ビット・ロード"もソウルフルなフュージョン・テイストで、〈ディープ・メディ〉から発表した前作におけるティンバランドとネプチューズからの影響とはずいぶんと離れている。女トラックメイカーのミズ・ビートによる3枚目のシングルは、ある意味予見的な内容となった。(野田 努)
仮面を被ったサブトラクト――すでにベースメント・ジャックス、MIA、マーク・ロンソン、アンダーワールドといった大物から、ホセ・ジェームスやジーズ・ニュー・ピューリタンズ、タイニー・テンパーなど幅広いジャンルの重要作品のリミックスを手掛けている。いかに彼が期待されているのかを物語っていよう。
これは4曲入りのシングルで、もっとも人気のあるキャッチーな"ルック・アット・スターズ"が収録されている。"ルック・アット・スターズ"はホントに良い曲、キーボードのメロディはマイク・バンクス調で、ドライヴするベースラインは宇宙を駆け抜ける。
B面の"コロナイズ"の最初のベースライン、これもまたたまらない。フューチャー・ガラージとかなんとか言われているけど、オジサンの耳にはUKのベース・サウンドとシカゴ・ハウスの融合に聴こえる。
ちなみにこれ、アナログ盤のレーベル面の曲名がA面B面逆になっている。プリントミスでしょうね。(野田 努)
メタル+野田努